暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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4、スタートライン

フルスハイムの城壁に逃げ込むと。力を使い果たして、へたり込んでしまった。お姉ちゃんも、流石に今回ばかりは無口だ。獣にいつ追撃を受けてもおかしくなかったし。更に言えばそれがネームドであってもおかしくなかったのだ。

 

幸い二体のネームドと総力戦をする事態だけは避けられたが。

 

それも、いずれ機会を見て退治しに行かなければならないだろう。あのヤギにしても、十人以上を殺している、と言う話だったのだから。

 

ともかく、作戦の目標は達成出来た。

 

其処で一旦解散とする。

 

次は人手を集めて、鉱石を整理し。

 

インゴットに鋳造していかなければならない。

 

一度アトリエを開き。

 

体を洗って、ゆっくり休む事にする。一日だけ休養したら、ここからが本番だ。竜巻を突破する船を作れなければ。

 

何もかもが無駄なのだから。

 

ひどい疲労もあって。

 

すぐに寝付いてしまったが。

 

一方で翌日は体も重く。

 

お姉ちゃんが作ってくれた食事も、味がしなかった。

 

わたしはずっと岩を砕くのに集中していたが。

 

その間、カルドさんもレヴィさんも、ドロッセルさんも。

 

ずっと戦い続けていた訳で。

 

わたしが休んでいるわけにもいかない。

 

手さえ重いと感じる中(勿論回復を常時行う錬金術装備を身につけているのに)。わたしは書状をしたため。カルドさんに渡す。

 

「カルドさん、お姉ちゃんと一緒にレンさんに届けてください。 今日はちょっと、わたしは回収してきた在庫の整理をします」

 

「分かった。 行ってこよう。 しかし、僕一人だけで大丈夫なのだが」

 

「いえ、レンさんと話できますか?」

 

「……それもそうだね。 すまない、気を遣わせた」

 

手紙を受け取ると。

 

お姉ちゃんと微妙に距離を取りながら、カルドさんがアトリエを出る。

 

お使いを頼んでしまって申し訳がないのだけれど。

 

コンテナは急いで積み込んだこともあって、中身がぐしゃぐしゃだ。ちょっと整理しなければならないし。

 

更に言えば、蒸留水も補給がいる。

 

レヴィさんとドロッセルさんと一緒に入るが、ふいに小さな力を感じて振り向く。

 

ツヴァイちゃんだ。

 

寝間着のままだけれど、少し眠そうに、わたしを見上げている。

 

「私が連れて行こうか?」

 

「ちょっとまってドロッセルさん。 ツヴァイちゃん、どうしたの? 何か、怖い事でもあった?」

 

「……数字」

 

「!」

 

ずっと喋れずにいたのに。

 

ツヴァイちゃんが、わたしを見上げながら、少しずつ。

 

一生懸命。

 

喋ろうとしている。

 

「数字……あつか……えます。 私、役に……立ちたい、です」

 

声は途切れるように小さく。

 

か細かったけれど。

 

必死に喋ろうとしているのが分かった。

 

そして、アングリフさんに言われた事を思い出す。

 

役に立てないことが、一番悲しいと。

 

わたしは、涙が流れるのを止められなかった。

 

ツヴァイちゃんを抱きしめる。

 

小さくて弱々しい。わたしから見ても、小さくて、折れそうな細い体だ。

 

こんな子を。

 

匪賊は食用にするために、とっておいて。

 

目の前で、両親を生きたまま切り刻んで食べたのか。

 

涙が止まらない。

 

「ありがとう! 少しずつで良いから、手伝ってくれれば、それでいいから……」

 

「役に……立ちますから……捨てないでください……」

 

「絶対捨てない!」

 

「ありがとう……ございます……」

 

仕事を始めなきゃ。

 

分かっているのに。

 

わたしはその場で、ずっと泣いていた。

 

 

 

レンのアトリエに出向くと。

 

話しあっている声が聞こえた。

 

リアーネはしっとカルドに言うと。

 

耳をすませる。

 

身を隠したのは。あの怪物。錬金術師、ソフィー=ノイエンミュラーの声だったからだ。

 

フィリスちゃんは気付いていないが、あの怪物は、ネームドなんてそれこそ問題にもしない気配と、匪賊なんて問題にもならない血の臭いを全身から放っている。

 

邪神が見ても、恐怖に退くのではあるまいか。

 

本当に人間なのか疑わしい。

 

生唾を飲み込むが。

 

次の瞬間、反射的に飛び退いていた。

 

カルドもあわてて銃に手を伸ばす。

 

その場に。

 

絶対にいなかった筈の彼奴が。ティアナが、満面の笑みで立っていたからである。

 

「立ち聞き-? でもばれてるよ」

 

「前にソフィーとの関係をほのめかしていたわね。 やはり貴方、彼奴とつながっているのね」

 

「恩知らず」

 

「な……」

 

やはり、移動したのをまったく察知できなかった。

 

いつのまにか至近にいたティアナは、笑みを浮かべたまま、言う。

 

「今も現在進行形でエルトナが良くなっているのは、誰が手を回したおかげだと思っているの? もうみんなお日様の光を浴びて生活出来て、外の獣の脅威からも守られているんだよ?」

 

「それは……」

 

「後、ソフィーさん悪く言うと、殺すよ? フィリスちゃんは可愛いから殺さないけど、あの小さなホムには死んで貰うからね?」

 

笑顔のままだったのに。

 

体の芯が凍り付くかと思った。

 

そしていつの間にか。

 

ティアナは消えていた。

 

「面妖な……物の怪ですかあの娘は」

 

「そんな可愛いものだったらどれだけ良かったか」

 

「……」

 

カルドも震えていた。

 

分かったのだろう。

 

どんな超絶的な実力差があったのか。

 

はっきりいって、この間の鉱物回収班。全員がかりでも、ティアナ一人に勝てるとはとても思わない。アングリフがいても関係無いだろう。

 

リアーネは唇を噛む。

 

どうやら此処にいても仕方が無い。

 

レンのアトリエに行く。

 

アトリエでは、どうやら動力炉の設計について話をしているようだった。

 

カルドが書状を手渡すのは難しそうなので、リアーネが書状そのものを手渡す。カルドはレンからも距離を取りながら一応話は出来ていたが。言われた事については、しっかり把握できているようだった。

 

用事は済んだし、アトリエを後にする。

 

ふと、気付いて、ぞくりとした。

 

ソフィーはもうレンとの話に戻っているのに。此方を見ている。

 

いや、意識だけ向けられている、と言うべきか。

 

それだけで、まるで蛇に睨まれたカエル同然の寒気が全身を襲った。

 

それも一瞬だけだったが。

 

一体自分はどんな化け物を相手にしているのか。

 

本当にフィリスちゃんを守りきれるのか。

 

リアーネは己の無力に怒りを感じつつ。

 

カルドを促して、フィリスちゃんの所に戻る事にした。

 

 

 

(続)




出来る事が増えた事。
それはフィリスに自由よりもむしろ厳しい責任を与えました。
戦えることは血を浴びる機会を増やし。
インフラを拡充できることは人々の生活をそのまま良くする可能性を増やします。
しかしそれらの責任は、フィリスを確実に追いたてていくことになります。

現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。

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