暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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フルスハイムを襲う竜巻を、今消す事は出来ない。
ならば水運を復活させるには、竜巻に負けない船を作るしかない。

フィリスの発想で、大規模プロジェクトが動きます。
それには多くの人の助けが必要でした。


突貫突破
序、絶望の湖


まず手分けして、作業を行う事にする。

 

わたしは鉱物の声を聞いて、加工できそうな岩を全部より分け。

 

石材にしかなりそうにないものは、それはそれで別の棚に置く。

 

コンテナは文字通り底なしの容量で。

 

どれだけ詰め込んでも、まだまだ余裕がいくらでもあった。ドラゴンを解体して、丸ごと入れても、余裕がたっぷりありそうな程だ。

 

鉱石がとれそうな岩は外に一度出して。

 

積み上げて、細かく選別をする準備。

 

鉱物を取れそうな石だけでも、一山出来ていた。

 

街の人々が見に来ているが。

 

危ないので、距離を取ってもらう。

 

おおざっぱな選別だけで丸一日かかった。

 

そして、その後は、鉱物の声を聞きながら、わたしが石を砕いて、適当なサイズに分けていく。

 

それをロジーさんに鑑定して貰う。

 

ロジーさんは、腕組みしながら、比較的厳しめの鑑定をする。

 

「ゴルトアイゼンとシルヴァリアの原石が中心だな。 合金にするしか、充分な強度を保てないと思うぞ」

 

「合金にする場合、船を覆うのに足りますか」

 

「……錬金術で強化するしかないだろう」

 

「分かりました」

 

一通り、鉱石を分別するのに更に三日。

 

その間、借りていた蒸留水作成装置はフル稼働させ。ずっと蒸留水を補給し続けておいた。

 

レンさんが様子を見に来る。

 

岩山を文字通り崩し尽くしたと聞いて、驚いたのだろう。

 

そして、文字通り山と積まれている鉱石を見て。

 

その凄まじさに、絶句していた。

 

「レンさん、動力炉ですが、どうなりましたか」

 

「ええ、レシピは出来ました。 ただこれはちょっと……」

 

言葉を濁される。

 

そして、気になったので見せてもらったのだが。

 

なるほど、確かに言葉を濁したくなるのも分かった。

 

もの凄く難しいのだ。

 

部品も多い。

 

何よりも、拡張性を考慮してなのか、動力炉自体は頑強かつ巨大。極めて強力な金属を用いる必要があると記載されている。

 

「これは……」

 

「今のフィリスさんには厳しいでしょう。 鉱物加工については相応の腕があるようですが、これは「相応の腕」程度ではどうにか出来るものではありません。 ラスティン全土を探しても、コレを作れる錬金術師は見つかるかどうか……」

 

「どうにかできるけど? そうだなあ、あたしがやってもなんだし、レンさんならどうにか出来るようにレシピを簡略化してあげるよ。 素材はこっちで準備してあげる」

 

不意に。

 

ソフィー先生が、その場にいた。

 

本当に、いつからいたのか分からなかった。

 

ソフィー先生は、笑顔を保ったまま、凍り付いているレンさんの手から設計図を受け取り。わたしに手渡す。

 

「これについては作り方を覚えておいて。 それとフィリスちゃんは、この合金を可能な限り大量に量産してね」

 

「これは……」

 

「街で少し買い付けしておいた鉱石とこの比率で混ぜると、プラティーンほどではないけれど、それに近い強度の合金が作れるの。 ただ少し加工が難しくてね。 インゴットにして、ロジーさんに渡してくれる?」

 

「はい、それはかまいません。 でも、動力炉は」

 

しっと、口を指に当てるソフィーさん。

 

それについては、これからということだろうか。

 

いずれにしても、とにかく、言われた事をやるしかない。

 

魔族の大柄な戦士が、荷車を引いてくる。

 

その荷車には、大量の鉱石が入っていた。

 

かなり強力な力を感じる。

 

「失敗する分も考えて、少し多めに用意しておいたよ。 じゃあ、後はインゴットの量産を頑張ってね」

 

「……」

 

渡されたレシピを見るが。

 

確かにこれなら量産できる。

 

そして、プラティーンに近い強度を持つとなると。

 

確かに装甲には充分なはずだ。

 

問題はまだある。

 

動力炉。

 

それに、動力だ。

 

実は街に戻ってきた後、レンさんと話したのだが。

 

外輪船では、装甲が如何に強固であっても、多分あの竜巻を無理矢理突破するのは不可能、と言う事だった。

 

あの竜巻の風の中では。

 

構造物は出来るだけ少ない方が良い。

 

何しろ、一度だけ突破すれば終わり、ではないのだ。

 

今後、大量の物資人員を連れて、あの竜巻を何度となく突破しなければいけないのである。

 

それには、頑強。

 

簡単に扱える。

 

壊れても直せる。

 

これらの要素が揃わなければならない。

 

いずれにしても、一つずつ順番にこなしていかなければならないだろう。

 

ソフィー先生はいつのまにか、またいなくなっていた。

 

レンさんは我に返ると。

 

咳払いする。

 

「フィリスさん、本当にやるつもりですか」

 

「はい。 あの竜巻が、いつフルスハイムを襲うかも分からないし、インフラも壊滅している状態です。 どうにかしないと……」

 

「実はあのロジーという鍛冶師ですが、本人に話を聞いたところ、以前ソフィーさんと仕事をしていたようなのです」

 

「え……」

 

何だそれ。

 

腕が良い鍛冶師のようだし、冷静で木訥とした青年だけれど。

 

それはいくら何でも、出来すぎた話だとしか思えない。

 

そういえばソフィー先生も、ロジーさんと呼んでいた。

 

知り合いだったのか。

 

「何かおかしいと思いませんか。 ソフィーさんは、正直な話、ラスティンどころか、アダレットも含め、間違いなく世界でもトップクラスの錬金術師です。 公認錬金術師の免許も持っているようですが、むしろ錬金術師の総本山ライゼンベルグで教鞭を執る次元の錬金術師です。 それも、現在一線級として活躍している錬金術師達に教えるレベルでしょう」

 

「そんなに凄いんですか」

 

「正直異次元です。 何十年に一人現れるかどうか、という存在としか……」

 

レンさんは、十代で公認錬金術師になった俊英だと聞いている。

 

この人が其処まで言うのだ。

 

ソフィーさんの力量は、本当に凄まじいのだろう。

 

しかし、今は。

 

その疑念よりも、優先するべき事があるはずだ。

 

「あの、わたしはこれからインゴットの量産に入ります。 これでも鉱物の声が聞こえるので、合金を作るのは……大丈夫だと思います」

 

「そうですか。 それならば、此方は一旦設計図に取りかかりましょう。 現在フルスハイムの旗艦になっている船はこの間のネームド襲撃でかなり痛んでいます。 竜骨などの主要部分だけを残し、大幅改装します。 動力炉を使ってどうやって動かすかも、此方で案を出しておきましょう。 それと、フィリスさん、その合金の作成を、推薦状の案件とします。 頑張ってくださいね」

 

「お願いします」

 

後はイルメリアちゃんが動いてくれれば、少しは助かるのだが。

 

だが、親しい人があんな事になった直後だ。

 

すぐに動けと言うのは酷に過ぎる。

 

ふと、騒ぎが起きる。

 

アルファ商会の、大きめの隊列が来ている。

 

長老が直接出て迎えているようだった。

 

「どうやって此処に……」

 

「ドナを経由したのでは」

 

「いえ、ドナを経由する場合、他の同規模都市とはむしろ迂回路になります。 あの規模のキャラバンが、何事も無くたどり着けるとは思えません」

 

「そういえば……」

 

エルトナにソフィー先生が来た時。

 

変な道具を使っていた事を思い出した。

 

まさかアレだろうか。

 

しかもソフィー先生は、アルファ商会ともつながりがある様子だった。

 

物資のやりとりをしている。

 

しかも物価にも詳しいようで。

 

物資を買い占め値段をつり上げもしていたフルスハイムの悪徳商人は、手下のゴロツキを仕掛けようとしていたが。

 

アングリフさんに睨まれて、ゴロツキどもは逃げ散ってしまった。

 

大量の物資が支援され。

 

しかも適正価格で販売される。

 

流石に物資が減ってきているという話だったけれど。

 

それも、これで回復しただろう。

 

大量の商売を済ませると、アルファ商会は引き揚げて行く。一応、前にわたしが通したドナとフルスハイムの直通路を使っていたが。

 

本当にそれを使って最後まで行くのか。

 

はっきり言って良く分からない。

 

「やはり作為的すぎる……」

 

レンさんがぼやく。

 

でも、わたしは。

 

正直、もはや作為的でも何でも良いと思えてきていた。

 

「やりましょう、レンさん」

 

「そうね。 幾らおかしい事があるといっても、あの竜巻の脅威があるのは事実だし、対応しなければならないわ」

 

頷くと、別れる。

 

わたしは、分別した石を砕いて。

 

まずインゴットにする作業から開始する。

 

鉱物は教えてくれる。

 

まだ不純物があるよとか。

 

こっちは純度が高いよ、とか。

 

鉱物をインゴットにする過程で。

 

中和剤を使って変質させ。

 

そして強力に仕上げていく。

 

一旦純粋なゴルトアイゼンとシルヴァリアを造り。更に、此処にソフィー先生が提供してくれた稀少鉱石から抽出したインゴットを作る。

 

いずれも非常に難易度が高く。

 

特に稀少鉱石は、炉に入れただけでは分別が出来る状態ではなく。

 

とてもではないが、一瞬も気が抜けなかった。

 

大量の岩を処理していき。

 

そして、ある程度インゴットが出来てきた時点で、レシピを見ながら合金に仕上げる。

 

合金は非常に難しい。

 

金属だけを掛け合わせるのでは無く。

 

その過程で、色々な中間生成物を混ぜ込まなければならない。

 

強靱に。

 

ただひたすらに強靱に。

 

仕上げていく。

 

一度ではやはり上手く行かない。

 

少量だけ使って、それで妙なものに仕上がってしまうのをみると。どうしても力量不足を思い知らされる。

 

分かっている。

 

まだわたしは一人前の錬金術師では無い。

 

だから数をこなして。

 

失敗も前提に。

 

覚えていかなければならないのだ。

 

シルヴァリアもゴルトアイゼンも純度を上げる。

 

可能な限り。

 

鉱物の声を可能な限り丁寧に聞く。

 

聞けば聞くほど、良く聞こえるようになって来ている。

 

それならば、もっと鍛えれば。

 

もっと出来るようになっていくはずだ。

 

額の汗を拭いながら。

 

ひたすら金属と格闘を続ける。

 

そして、三回目で。

 

ようやく水準値の、合金を作る事が出来た。水準値というのも、レシピに書かれている合格ラインを、ギリギリとは言え全て突破したからである。

 

そして出来たからには。

 

覚えた。

 

後は、量産していくだけだ。順番に、丁寧に、成功した手順をなぞっていく。レンさんも今頃船をどう改装するかで頭を使っているはず。わたしだけ、もたついているわけにはいかない。

 

ツヴァイちゃんが来て、現状の在庫について教えてくれる。

 

それぞれの鉱石の量。

 

インゴットの量。

 

全てが分かり易くまとまっている。

 

この辺りは流石にホムだ。

 

数字に対する強さは、人間種族の中で随一である。

 

「ありがとう。 明日以降もお願いね」

 

こくりと頷くと。

 

ツヴァイちゃんはお姉ちゃんに手を引かれて、奥の部屋に。

 

まだあまり激しい運動や、頭を酷使するのは避けろ。

 

そうお医者さんに言われている。

 

文字通り死ぬ寸前にまで体を滅茶苦茶にされたのだ。

 

幾ら回復が早い小さい子だとは言え、限度もある。

 

後遺症が残る可能性もあると言われていたし。

 

それを考えると、ツヴァイちゃんに無理をさせるのは厳禁だ。

 

後遺症、か。

 

匪賊に捕まったホムはほぼ助からないと聞いている。

 

それから考えると、ツヴァイちゃんはあれでも運が良かった方なのだ。客観的な事実として、である。

 

一生トラウマに苦しめられ。

 

一生後遺症が残るとしても。

 

呼吸を整える。

 

あまり考えないようにしよう。

 

作業の精度に問題が出る。

 

二回目からは、少しずつ出来るものがマシになりはじめる。

 

というか、はっきり分かってきたが。

 

この錬金釜。

 

ソフィー先生が用意してくれただけあって、凄まじい。

 

前も凄まじいと思っていたのだが。

 

今になって、そのすごさが更に際立って分かってくる。

 

きちんと手入れさえしていれば。完璧という以外の言葉が出てこないくらい、きちんと仕事をしてくれる。

 

わたしの技量が、この錬金釜に追いついていなかった。

 

それだけだ。

 

合金のインゴットが出来はじめる。

 

重さはゴルトアイゼンより軽く。

 

強度はゴルトアイゼンなどとは比較にもならない。

 

錆びることも無く。

 

強い魔力を帯びているので、魔術に対しても抵抗がある。生半可な魔術による攻撃なんて、それこそ簡単にはじき返すだろう。

 

だけれど、量産には骨が折れる。

 

これを増やすだけ増やして、更に船の装甲に加工するとなると、なおさらだろう。

 

一月は、余裕で見なければならないかもしれない。

 

一月。

 

ドラゴンが大人しくしてくれているだろうか。

 

勿論暴れ始めた場合は、レンさんが対応してくれるはずだが。

 

ソフィー先生でも、上級のドラゴンはどうにもならないのだろうか。

 

相手は湖底。

 

流石に手は届かないのか。

 

いや、駄目だ。

 

幾らソフィー先生でも、頼ることばかり考えてはいけない。そもそも、あのアルファ商会の人達が来て、随分フルスハイムは楽になったのだ。あれはソフィー先生が手配してくれた可能性が高い。

 

これ以上の事は自分達でするんだ。

 

そう言い聞かせ、作業を続ける。

 

お姉ちゃんに言われて、気付く。

 

一日半ほど、殆ど休憩せずに、作業に没頭していた。おかげで、もう少しで作り置きしておいたゴルトアイゼンが尽き、シルヴァリアもそろそろ造り足さなければならない状態になっていたが。

 

ツヴァイちゃんに聞くと、頷いて残りの鉱石などを計算してくれる。

 

流石に岩山を崩したこともある。

 

まだまだ、充分な鉱石がある。合金はまだ幾らでも作れると考えて良いだろう。

 

胸をなで下ろすと、一気に疲れが来た。

 

お姉ちゃんとレヴィさんが作ってくれた料理を食べて、それからゆっくり眠る事にする。

 

しっかり休憩を取らないと、却って効率が落ちる。

 

それは知っているから、休めるときに休まなければならない。

 

休む前に、カルドさんに、ロジーさんの所にインゴットを届けるようにと頼んだ。まあ、男性同士なら問題は無いだろう。

 

ドロッセルさんは、数日前からアトリエにいない。

 

自警団の方から手伝いを頼まれているらしく。

 

其方で作業をしているようだった。

 

最終的に合流できれば良いし、しばらくは荒事もない。力仕事に関しても、今は気にしなくても良いだろう。

 

とにかく今は。

 

ひたすら冶金に注力する。

 

可能な限り雑念は排除だ。

 

そして、鉱物の声を聞き。

 

この事態を打開するための、わたしに出来る最善手を打ち続けなければならない。

現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。

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