暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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1、闇宵から

深淵の者の本部となっている魔界に。

 

久々に幹部達が招集される。

 

深淵の者の切り札、対邪神生体兵器魔王の膝元に、アトミナとメクレットが座る。そして、現在は顧問となっているあたしソフィーとプラフタが揃うと。会議が開始された。

 

基本的に会議は淡々としている。

 

この深淵の者では、権力を巡っての争いがほぼ存在しない。

 

というよりも、馬鹿馬鹿しいので誰もやらないのだ。

 

此処にいる幹部達は、数年前に深淵を直接見た。

 

アルファ商会を率いているアルファも。

 

以前ほど世界に対する憎しみを強く持っておらず。

 

義手と義眼を敢えて残して憎しみを保つ工夫までしていたのに。

 

そろそろ生体部品に変えたいと、あたしに依頼してきたほどだ。

 

作るのは難しくも無いので。

 

その内余裕を見て作ってしまうつもりだが。

 

「それでは、現状の報告を」

 

アトミナが呼びかけると。

 

順番に話が為されていく。

 

聖獣王ティオグレンが、最初に発言をした。

 

「通称世界樹の麓に住まう獣人族の一派ですが、現時点でラスティンから主導権をほぼ奪い取ることに成功しました。 今後は我々に傭兵として組み込めるかと思います」

 

「あの者達は蛮族同然と聞いているのです。 大丈夫なのです?」

 

「アルファ商会との衝突があった事は確認しています。 現在、対応を検討中です」

 

「同胞を何人も殺されているのです。 気を付けて対応をするのですよ」

 

アルファが指摘するが。

 

元々あの獣人族達は、眠っている創造神(の端末)を崇めている一種のカルト団体であり。

 

思想は妄信的かつ狂信的だ。

 

というわけで、あたしがちょっと細工をし。

 

創造神の端末を動かした。

 

いつも退屈そうに眠っている創造神が動いた、というだけで彼らは驚きひれ伏し。

 

そして、深淵の者に協力せよ。

 

更にはアルファ商会と連携を密にせよ、という発言にひれ伏した。

 

とはいっても、カルトは所詮カルト。

 

カルトの基本構造は、邪悪なトップと馬鹿な端末、という点では一貫している。

 

このトップをラスティンが上手く懐柔し、有事の戦力として活用していたわけだが。今後は深淵の者がこの獣人族達を操作する事になる。

 

当たり前の話だが、あくまで予備戦力として確保するだけだ。

 

この世界樹付近にはドラゴンが非常に多く。

 

そもそも常に予備戦力として期待出来る訳では無い。

 

保険、である。

 

保険としては相応に優秀だが。

 

続けて、立ち上がったのは。

 

アダレットに太いパイプを持っている魔術師だ。

 

最近アダレットの中枢を「引退」し、深淵の者の幹部として復帰した。

 

60年間スパイを続けて来たのだが。深淵の者に復帰してからはアンチエイジング処置を受け、十代の姿にまで若返っている。

 

なお清楚そうな女性だが。

 

実態はアダレットの影を全て見てきたとまで噂されており。

 

実子二人、孫六人は、全員深淵の者の配下として、アダレットの中枢に食い込んでいる。

 

ちなみに引退前の肩書きは「宰相」。要するに事実上の国家のナンバーツーである。

 

現在の王女が非常に優秀であるため、老いた者がいつまでも権力に関わるのも良くないと言う事で引退したという体裁を取っているが。実際にはこれ以上同じ場所にいると怪しまれるので引退しただけである。別に彼女がいなくても、アダレットは充分に操れる。宰相クラスの人間が、深淵の者の幹部「だった」、というだけの事。既にアダレットの心臓部は随分前から深淵の者で握っている。今後彼女は、裏方になり、アダレットに潜り込んでいる人員をバックアップしていく事になる。

 

ちなみに彼女は、深淵の者では「毒薔薇」とだけ呼ばれている。

 

なお言動は穏やかだが。

 

笑顔のまま、なんのためらいも無く相手を殺すため、アダレットの現役時代でも怖れられていたようだ。

 

「アダレットの状況です。 まず第一に、王が実質上軟禁されました」

 

「ほう。 王女がついに堪忍袋の緒を切ったか」

 

「はい。 度重なる庭園趣味による浪費、周辺のネームドの駆除を怠り、前線に姿も見せず美食三昧。 害悪でしかありませんし、実権を全て奪われたのも妥当かと思われます」

 

「これで少しは経済が動くように金を使うとかの知恵があったら良かったのだがな。 無駄な庭園趣味に金を浪費し、あげくその浪費した金は悪徳商人や汚職官吏共の懐に直行という有様だったし、妥当だろう。 で、駆除は」

 

「おおかた済んでいます」

 

アトミナが頷く。

 

勿論駆除というのは、無能王の走狗となって、金を蓄えていた悪徳商人や汚職官吏だ。こういう連中は定期的に駆除していかないと国が腐る。

 

国が腐ると、立て直すのは本当に大変なのだ。

 

「それと騎士団にも動きがありました。 其方の鏖殺様の盟友であり、現在アダレットと深淵の者の「表向きの」パイプ役であるジュリオ様が副団長に昇進しました」

 

「ああ、内定していたのが実際になったんだね」

 

「はい、そうなります」

 

「団長も時間の問題かな」

 

薄く微笑む毒薔薇。

 

他にも幾つかの話をした後。

 

現在の女王の話に移る。

 

アダレットは大陸を二分する国家であり。古くに武王と呼ばれる人物が領土を拡大した「武門の」国家である。

 

しかしながら近年は王族の文弱化が進み、「先代」に至っては庭園趣味のあげく、切れ者と噂される王女にとうとう軟禁され。

 

現時点では、あまり武術に優れているとは噂がない王女が実権を握っている。

 

恐らく王女が女王になるのも時間の問題だろう。

 

ただ、武門に関しては、やはり厳しいものがある。

 

そうなると、あたしと一緒に数多の強敵と戦い抜いたジュリオさんが騎士団長になり、引き締めを行うのが必至だ。

 

現在の騎士団長もレア種族の巨人族で、武勇には優れているのだが。

 

ジュリオさんはまだ若いのに対し。

 

現騎士団長は年齢的に限界が近い。

 

世代交代をし、更に腐敗官吏も一掃しなければ、アダレットの軍事力は戻る事がないだろう。

 

そして軍事力は、この世界では人間に対してでは無く。

 

ドラゴンや邪神、それにネームドに備えるものだ。

 

アダレットの人口はラスティンとほぼ同じ。

 

辺境の街には、大した戦力がいない事も共通している。

 

錬金術師がいなければ、どうにもならないのだ。

 

そんな状態を、少しでも緩和するためにも。

 

アダレットには錬金術師と連携して動ける強靱な戦力と。

 

無能では無い為政者が必要になる。

 

現時点での王女は、深淵の者との同盟を申し込んでくるだけ比較的マシだが。

 

ただし、有能な君主はいつまでも有能、とはいかないのが厳しい所だ。

 

有能な為政者が、圧制者に変貌する例は珍しくないという。

 

必要になれば、いつでも駆除する覚悟がいるだろう。

 

続けて、あたしが発言する。

 

「フルスハイムの湖に竜巻を発生させているドラゴンですが、現時点では当面動けないように痛めつけ、封印も施しました。 フルスハイムが蹂躙されることは、しばらくはないでしょう」

 

「流石だ。 相手は上級だと聞いているが……」

 

「何、中位以上の邪神に比べればどうということもありませんよ」

 

感心するイフリータさんに軽く返す。

 

深淵の者の初期からのメンバーである歴戦の魔族は。当然のことながら、ドラゴンの恐ろしさを知り尽くしている。

 

上級のドラゴンを一人で倒せる錬金術師に、そもそも遭遇した事がないのだろう。

 

あたしは、深淵を覗いた。

 

誰よりも深く。

 

そして繰り返している。

 

人間とはもう違う。

 

だから此処まで力がついた。

 

プラフタも、モニカも。

 

あたしをみると、悲しそうにする。

 

だが、他にこの詰んだ世界をどうにかする方法があるか。四種族がそれぞれを尊重し、自立してこの世界を旅立てるまで文明を発展させる。それを成し遂げるためには、手を血で洗おうが。邪神に外道と罵られようが、知った事か。

 

思うに、創造神パルミラは、あまりにも純朴すぎた。

 

救った生物が阿呆すぎた。

 

あたしもその阿呆から生まれた特異点ではあるが。

 

何回か繰り返している内に、パルミラがやる気を無くして寝こけ始めた気持ちが分かるようになってきた。

 

それでも諦めていない辺り、パルミラは間違いなく創造神なのだが。

 

それでも度し難いということで。

 

人間は四種族とも、どうしようもない、と言う事には代わりは無い。

 

結論は出ている。

 

精神論で人間は変わらない。

 

システムでも人間は変わらない。

 

どの種族でも同じ。

 

ヒト族が一番酷いが、一番マシなホムでもこの辺りは同じだ。

 

ならば人間を進化させるしかない。

 

問題はあたし一人では世界を丸ごと変えることは出来ない、と言う事で。

 

あたしと同レベルで深淵を覗き込む者を後四人用意しなければならない。それも、残り時間は余り多くない。アンチエイジング処置を用いても、世界そのものを変えるのは、そう簡単では無い。出来るだけ早く、あたしと同格の錬金術師を備えなければならないのだ。

 

前回は、後一人が上手く行かなかった。

 

途中でフィリスちゃんとの才能差に気付いて、潰れてしまった。だが、フィリスちゃんは元々ギフテッド。努力型のイルメリアちゃんは、其方を伸ばせば大成する可能性はあったのだ。

 

今回こそ、上手く生かす。

 

あと少しで、手が届きそうなのだから。

 

事実、前回はもう少しで手が届かなかった。

 

しかしながら、前回の失敗したデータについては持ち帰っている。

 

今回は例えイルメリアちゃんが失敗したとしても、同じ結果にはさせない。

 

より完全を期するために。

 

イルメリアちゃんを仕上げたい。

 

それだけだ。

 

それと、今後控えている双子は。

 

イルメリアちゃんを師匠につけた方が良いと個人的に考えている。

 

あたしが鍛えた場合と、フィリスちゃんが鍛えた場合をそれぞれ経験しているのだけれども。

 

どちらも、大成するまでに時間が掛かっている。

 

イルメリアちゃんは才覚こそフィリスちゃんに劣るが。

 

教師としては恐らくフィリスちゃんより優れている。

 

いずれにしても、人材は必要だ。

 

この世界を、根本的に変えるためにも。

 

咳払いしたのはシャドウロードだ。

 

「フルスハイムを失うと、人類はまた一段と大きく混乱する。 賢者ソフィーよ、その辺りは抜かりは無いのか」

 

「ええ、ご心配なく」

 

「そうか。 先代の公認錬金術師を葬る判断が遅くなってしまったから、此処まで混乱が酷くなったとも言える。 その点は反省点として生かさなければならないな……」

 

皆が頷く。

 

だが、もう遅い。

 

パルミラが時の特異点と定めた。あたしが賢者の石でパルミラと接触したあのタイミングよりも、前の出来事なのだから。

 

今も昼寝しているパルミラ曰く。

 

比較的マシに進んでいる世界だという事だし。

 

前回以前の世界は、更に酷かったのだろう。

 

文字通り、どうしようも無い程に。

 

更に、立ち上がったのは、錬金術師ヒュペリオン。

 

この世界に怒りを覚えている錬金術師の一人だ。

 

「また大きな問題が発生しました」

 

「ふむ、聞かせて頂戴」

 

「はっ。 フルスハイム南東、いわゆる大峡谷近くに掛かっていた「大橋」が崩落いたしました。 原因はドラゴンによるものです」

 

「また橋落としか……」

 

嘆息するイフリータ。

 

最近、人間がインフラとして重要視している橋を、次々に落としているドラゴンがいるのだ。

 

その都度駆除はしているのだが。

 

別のドラゴンがまた同じように橋を壊す。

 

アダレットでも同様の報告が上がって来ており。

 

ドラゴンが何かしら、世界そのものを動かしている戦略によって、活動しているのでは無いかと言う説もある。

 

かといって、これは自動的に実行されているものなので。

 

何かしらのバランスが崩れた結果。

 

ドラゴンが動いている、と見るのが自然だろう。

 

人間の増える速度に問題があるのか。

 

いや、そうではない。彼方此方でネームドやドラゴンに小集落が潰されたり、匪賊をあたし達で消したりしているので、目立った増加はしていないはず。

 

ならば理由は何だ。

 

前には、このような事は無かった。

 

この世界は、あたしが巻き戻しを見る度に、状況が変わる。

 

それだけあたしが大きな力で干渉している、と言う事が原因なのだろうが。

 

この程度の事をクリア出来なければ。

 

どの道世界のどん詰まりを突破することなど出来まい。

 

「討伐隊を編成する。 主、俺が出るがかまわないだろうか」

 

「そうね。 問題は壊された橋の修復だけれど」

 

「それについては、フィリスちゃんにやらせるからご心配なく」

 

「……分かった、ソフィー。 貴方に任せよう」

 

メクレットが言うと、他の幹部達も納得する。

 

実はフィリスちゃんは、前に比べてかなり前倒しでフルスハイムに到着している。このペースなら、もう少し障害があっても大丈夫だろう、と判断していたのである。ドラゴンが橋を落とさなければ、あたしが何かしら用意していたところだった。

 

イフリータを中心に、ドラゴンを潰せるだけの戦力が編成され、すぐに出陣していく。

 

残った幹部が、幾つかの事を話し合い。

 

それで会議は解散となった。

 

会議中ずっと黙っていたプラフタが。

 

魔界の闇に満ちた空間で、あたしに言う。

 

「ソフィー。 貴方に事情は聞いていますが、それでもいくら何でもやりすぎなのではありませんか」

 

「橋に関してはあたしじゃないよ」

 

「橋に関してはそうでしょう。 イルメリアの心を折ったのは、貴方がけしかけたネームドが……」

 

「あの子のおつきはあたしが作ったんだし、それくらいは良いんじゃないのかな」

 

そう。

 

イルメリアが時々混乱しているのも当然だ。

 

アリスを一とする、ラインウェバー家の執事とメイドは。

 

あたしが作った。

 

彼らが最初からいたという偽の記憶はラインウェバー家全員にねじ込んだ。

 

イルメリアは能力が高い。

 

だから記憶の違和感に苦しんでいるようだが。

 

それでかまわない。

 

いずれ全てを思い出したとき。

 

全てをもてあそばれた怒りで、あたしに対する憎悪を爆発させる。その結果、能力が全て開花する。

 

逆に言うと、それくらいの起爆剤がないと、あの子はフィリスちゃんや双子に到底及ばない程度で頭打ちになってしまう。

 

何度も見てきた。

 

だから改良を加えたのだ。

 

アリスを無感情無表情に作ったのも全て計算尽く。

 

イルメリアが生理的に恐怖するように、いわゆる不気味の谷を利用してそう作り上げたのだ。

 

結果イルメリアは、自分に献身的に尽くしてくれるアリスと。

 

自分の生物的な嫌悪感の板挟みになり。

 

苦しみ続けている。

 

文字通り人生をもてあそぶ行為だと言う事くらいは分かっている。

 

だが、これくらいしないと。

 

この世界のどん詰まりは解決できないのだ。

 

思うに、この世界は文字通りの混沌なのだろう。

 

未熟すぎる知的生命体四種が同時に存在し。

 

それらを共存させ、共に進化させて行くには。

 

これくらいのムチャクチャをしないとならなかったのだ。

 

プラフタは悲しそうにするが。

 

彼女にも、今まで辿った破滅の結末は告げている。

 

それを聞いてからは。

 

苦言を呈する事はあっても。

 

あたしを力尽くで止めようとすることは無くなった。

 

どの道、プラフタにも名案などないのだ。

 

対案がないのなら、黙っていろ。

 

それがあたしの結論だったし。

 

深淵の者の幹部達も、それを知っている。

 

勿論ルアードも。

 

今はまた子供二人の姿に戻っているが。それは単に手数を増やすため。

 

現状では手数が足りないと判断し。

 

最近はたまに、それぞれ別れて行動し、別方面で作戦指揮をしてもいるようだった。

 

魔界を出る。

 

エルトナへの扉を通って、様子を確認。

 

現在、街を守る城壁の完成率が85%。

 

周囲の緑化も概ね順調に進んでいる。

 

鉱山の中で暮らさなければならなかった者達は、太陽の光を浴びることが出来るようになり、目に見えて健康になった。

 

緑化はまだまだだが。

 

彼方此方に配置された物見櫓のおかげで、商人は行き来が容易になり。

 

少なくともメッヘンから此処までの安全は、今までとは比較にならない次元で確保されている。

 

周辺のネームドはまだ数匹残っているが。

 

それはフィリスちゃんが試験を終えて此処に戻ってきたとき。

 

エルトナの緑化を完成させるために必要だと判断し、わざと残している。

 

どちらにしても、ブッ殺すのはいつでも出来る。

 

今は、必要ない。

 

不意に、長距離通信用の装置が鳴る。

 

ボタンを操作して受けると。

 

相手はオスカーだった。

 

あたしの幼なじみとして、昔はモニカと一緒に三人で行動していたオスカーも現在は深淵の者に協力し。

 

主にラスティンの東部で活動している。

 

傭兵というのとは少し違うが。

 

緑化作業のスペシャリストとして、各地でその腕を振るっており。

 

この間も短時間で小さな街の安全を確保。

 

止めてくれと言っているのに、無理矢理銅像を造られて、辟易したそうだ。

 

「おうソフィー。 何してる?」

 

「お仕事だけれど、どうしたの?」

 

「ああ、今噂のフルスハイムの東に来ているんだがな、予想以上に酷いぜ。 おいらが前に来たときとは、状況が一変してる」

 

「詳しく」

 

フルスハイム東の湖周辺の都市は、あたしが回って、物資が足りなくならないように調整している。

 

都市機能を維持できなくなると。

 

都市を構成していた人間が丸ごと匪賊化するケースがある。

 

それだけは絶対に避けなければならない。

 

周辺のバランスを著しく崩すからだ。

 

今の時点で、あたしがフルスハイムに常駐していないのは、インフラが寸断されたフルスハイムの衛星都市の面倒を見ているからなのだが。

 

「荒野が拡大しているんだよ。 緑地が枯れるような事は起きていないが、水と植物さえあれば緑化できたような所まで、どんどん枯れ果てて行ってる。 土が死んでるんだ」

 

「ふむ……分かった。 すぐに行くね」

 

「ああ、頼むぜ」

 

「どういうことでしょうね」

 

プラフタが考え込む。

 

あたしも少し気になる。

 

この世界は荒野が基本だ。

 

緑は人為的に作り出さないと発生しない。

 

ただ、あの辺りは、以前中途半端な緑化計画が動いたことがあり。主導していた都市が混乱した結果、頓挫した歴史がある。

 

かといって、栄養剤などはしっかり使っていたので。

 

条件さえ整えば、緑が繁茂する筈だったのだが。

 

何が起きた。

 

予定を前倒しにして、現地に行く。

 

昔は太っていたオスカーだが。

 

最近は色々な理由からすっかり痩せている。

 

オスカーは短時間で体重が激しく上下するため。

 

単に食べていないだけだろうとは思われるが。

 

ともかく、痩せると印象が違う。

 

ただオスカーは、ヒト族の女にはあまり興味が無いらしく、そもそもどう見られようが知った事では無いという態度を崩していないので。痩せていようが太っていようが、気にしていないのだろう。

 

手を振って此方を呼んでいるオスカーの所に出向くと。

 

プラフタと一緒に、周辺を調べる。

 

確かにおかしい。

 

「土地の魔力が失われていますね。 あまり私もこういう現象は見た事がありません」

 

「周辺に新規で出現したネームドは?」

 

「いや、そんな話は聞いていないな」

 

オスカーの周囲には、深淵の者がつけた腕利きが数人いる。

 

いずれも強力な錬金術の装備を身につけていて。

 

それぞれがネームドの一匹や二匹、充分に相手に出来る実力者だ。

 

オスカー自身も今はまず一流と言って良い腕前だし。

 

見逃す筈がない。

 

「そうなると邪神? でもこの辺りにいた邪神は、前に処分したんだけれどなあ」

 

「いえ、ソフィー。 それが正解かも知れないですよ」

 

「!」

 

気付く。

 

地面から魔力が漏れ出ている。

 

森を傷つける事は、基本的に人間以外のどの生物もしない。ドラゴンでさえだ。邪神も、敢えて存在している森を傷つけるような真似はしない。

 

だが、地面に蓄えられている魔力を吸い出すとしたら。

 

以前、リッチが似たような事をしているのを見たが。

 

この辺りはリッチ程度が生存できるような生半可な環境では無い。

 

いたとしても瞬く間にネームドに食い荒らされるだけだ。

 

そうなると、誰かしらが、森では無いからと言う理由で、魔力を吸い上げていると見て良いだろう。

 

そして魔力は。

 

空へと登っている。

 

腕組みする。

 

空か。

 

実は、空だとすると、心当たりがある。

 

フルスハイムの北東に、いわゆる世界樹があるのだが。

 

その近くに、浮遊島と呼ばれる特殊な地形が存在している。

 

古くに錬金術師が島一つを浮かばせようとした名残、という説もあるが。

 

前にあたしが調べた限りでは、恐らく邪神が何かしらの意図で、島を一つ浮かばせたもののようだ。

 

事実、以前島に上陸した事があるが。

 

嫌みな程豊富な緑に満たされていた。

 

あそこにいる邪神は既に撃破したのだが。

 

或いは復活しようとしているのか。

 

あれは中位に位置する邪神の中でも、強い方だった。

 

もしも既に復活し。力を取り戻そうとしているのなら。

 

此処で余計な事をすると、襲いかかってくる可能性がある。あたしは別に返り討ちにできるが。他は違う。余計な被害をだしかねない。

 

更に言えば、あそこにいたのはなんといっても中位の邪神だ。下位ではない。

 

もしも下手に復活を阻むと。

 

大量の、それもかなり強いネームドが発生する可能性がある。どう動くか分からないし、予想外の事態を招きかねない。

 

何度も経験している。

 

何気ない一手が。

 

想像を絶する結果を招いたことは。

 

あたしだって完璧でも全能神でもない。

 

だが、失敗に学ぶことは出来る。

 

丁寧な調査を行えば。

 

被害が起きたとしても、それを抑える事は可能だ。

 

「オスカー。 悔しいと思うけれど、調査するからしばらくは待ってくれる?」

 

「出来るだけ早く頼むぜ。 それと、おいらはいつソフィーが前に言っていたフィリスって子と合流すれば良いんだ?」

 

「とりあえずこの土地の魔力流出を抑えてから、かな。 どちらにしても、この辺りを多少緑化しないと、今のフィリスちゃんがライゼンベルグに行くのは無理だし」

 

「分かった。 おいらとしてはかまわないけれど、ただモニカが心配してるぜ」

 

頷く。

 

モニカが心配しているのはよくよく分かっている。

 

だが、此方としても。

 

もはや手段は選んでいられないのだ。

 

一旦此処の緑化作業は中止するように指示を出して。

 

あたしは浮遊島に出向く。

 

さて。ここからが。

 

正念場だ。

現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。

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