暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ 作:dwwyakata@2024
どれくらいの数、鉱石を砕いただろう。
敢えて数えたくは無い。
不純物を取り除き。
そして炉に入れ。
熱によって分離させ、純度を上げ。
中和剤で強化し。
徹底的にその作業を繰り返す。
目に見えてインゴットの質が上がってきている。ひたすら頑強に。それだけではなくしなやかに。
そして、インゴットを組み合わせて、合金に仕上げ。
出来上がった合金は、ロジーさんの所に持っていって貰う。
一段落したところで、一眠り。
そして、起きたときには。
次の調合の準備として、山盛りの鉱石がコンテナから出されている。
コンテナの整理だけでも時間が掛かったが。
こうやって鉱物を加工していくと。
腕がおかしくなりそうだ。
回復の手袋の効果が足りていないかも知れない。
或いは、もっと強力な自動回復の道具を身につけるべきかも知れない。
鉱石を砕く。
熱する。
空いている時間でお薬も作る。
錬金術は地味な作業も多い。
華やかな作業ばかりでは無い。
そして地味な作業の積み重ねの先にこそ。
神の領域に届く力がある。
それはわたしにも、何となく分かってきていた。
時々ツヴァイちゃんが鉱石がどれくらいまだあるか、後どれくらいの作業が必要か教えてくれる。
ツヴァイちゃんは牛乳が好きなようなので。
お姉ちゃんには、食事の時必ず出すように頼んでおく。
ただでさえまだ精神が再構成途上なのだ。
心に受けた傷は、一生治らないかも知れない。
でも、けなげにツヴァイちゃんは自分に出来る事をしてくれている。
わたしはそれに答えなければならなかった。
「これ、持っていけば良い?」
「お願いします」
顔を上げると、ドロッセルさんが戻ってきていた。
彼女は自慢の腕力を生かして、完成品の合金を大量に運んでいく。
かなり手際が上がったからか、合金作成を失敗する事はなくなったし。合金そのものの質も上がっている。
額の汗を拭うと。
蒸留水を作る合間に。
少し試してみる。
前にメッヘンでディオンさんに貰ったレシピの中に、未完成品と書かれていたものがあった。
動物を追い払う臭い、というものだが。
この理屈が、己の力を高く見せる、という理屈だったのだ。
確かに獣が、力量が離れた相手を避けるケースがあることは、この間岩山を丸ごと崩すとき。100回以上戦闘する中で確認した。
だったら、或いは。
むしろ、本当に高めることも可能かも知れない。
強力な獣の残骸からは、強い魔力が感じられるものもある。
それらを組み合わせれば、或いは。
己の力を引き出すことが可能になるかも知れない。
炉で鉱物を熱している間に。
研究を進める。
やがて、様々な動物の残骸を調べている内に。
その動物の力の源になっている内臓らしきものを発見した。
それらの仕組みも調べていく。
一週間以上、金属を造り、合金にし続けていたのだ。
少しばかり、別の研究もしなければ体に良くない。頭にも色々と悪影響が出るだろう。何より手を動かしっぱなしだと、回復が追いつかない。
ほどなく、理屈そのものは解析。
驚くべき事だが。
獣の中には、体内に一種の魔法陣を有していて。
それで回復力を上げたり。
己の装甲を強化しているものがいたのだ。
その魔法陣を自己流にアレンジして。
カルドさんに相談して、組み合わせる。
使うのはキメラビーストの毛皮だ。
これに、特殊なインキで魔法陣を書き込む。かなり緊張したが、魔術に関してはわたしも使えるのだ。
なめしたキメラビーストの毛皮をベルトに加工し。
魔法陣が発動していることを確認。
更に、中和剤で性能を上げ。
そして完成だ。
獣のアロマ、とでも言うべき道具である。
ベルトとして、穴を開けない部分に魔法陣を全体的に「練り込む」ように仕込み。
更にベルトそのものの強度も、毛皮を更に上から金属片で防護。鱗状にして重ねる、いわゆるスケイルメイルのようにして固め、その金属片も中和剤でガチガチに固める。流石に船用の合金は使えないが、それでも今まで作った中で、そこそこ良く出来たインゴットで作っているから、簡単に貫通はできない。
何よりベルトという実用品にする事で。
邪魔にもならないし。
おなかという急所を守る事も出来る。
さっそく身につけてみるが。
獣が自分の能力を其処上げしている力が、丸ごと体を包む感触だ。
回復力も更に上がる。
魔力の回復も早くなっているようだ。
だが、コレを使って無理をして、倒れてしまっては本末転倒。
眠るときには眠らないといけないだろう。
炉の作業が終わったので。
合金の作成に戻る。
まだまだ全然合金は足りない。
ドロッセルさんが戻ってきたので、話を聞くと。
現在造船所で、ロジーさんが主導して作っている船の装甲を。船に取り付ける作業が行われているそうだ。
順調だが、まだまだやはり合金が足りていないという事で。
更に作る必要があるという。
分かっている。
わたしは頷くと、合金作成の作業に戻る。
ツヴァイちゃんに袖を引かれる。
食事の時間の合図だ。
頷くと、切りが良いところまで作業を進めて。
食事にする。
驚いたことに、丁度タイミングを見計らって、レヴィさんが食事を作り終えてくれていた。
「ふはははは、フィリスよ。 大地の恵みを堪能するといい」
「はい、いただきます」
お肉を豪快に焼いたものだが。このお肉、コンテナに放り込んであった干し肉だ。
この間の作戦で、有り余るほどの肉が手に入った。
傷まないコンテナに肉が格納されていることで。
最悪、アトリエに当面籠城することだって出来るだろう。
更に、よく分からない野草をソテーしたものや。
温かいホットミルクもある。
結構しっかりした食事で。
わたしは感謝しながら、食事を楽しませて貰う。
そして時間を確認。
一日と少し、連続で活動していた。
少し眠るタイミングだ。
切りが良いところまで作業は進めてある。
眠る事にする。
ホットミルクをおなかに入れたおかげか。
比較的よく眠ることが出来た。
この辺りも、或いはレヴィさんが気を利かせてくれたのかも知れない。
錬金術師は戦略級の仕事をする職業だ。
戦術級の作業をするのは、周囲の人達。
恐らくレヴィさんは、それを理解してくれているのだろう。
一眠りして、頭もクリアになった。
また、合金を作る作業に戻る。
炉を使っている間に。
先ほどの、獣のアロマを人数分作っておく。
一番出来が悪いのを自分で。
一番出来が良いのは取っておく。
炉を動かしている間に、お姉ちゃんに頼んで、色々試してみる。
やはり更に動きが良くなるそうだ。
お姉ちゃんも満足してくれる。
だが、お姉ちゃんは、苦笑いした。
「そろそろ弓の方が耐えられないわね」
「あ、やっぱり」
「気付いていたのね。 今の力だと、残念だけれどこの弓だと全力で引けないわ」
「ロジーさんに相談してきます」
炉の方は、熱するのが完了すると、自動で停止するようにしておく。
ちょっとひとっ走りロジーさんの所に。
丁度合金を加工していたが。
よく分からない形にハンマーで成形していた。
合金は、文字通り赤熱していて。
ロジーさんはゴーグルを掛けて、ハンマーを振るっている。
「どうした、何か用か」
「代金は払いますので、強力な弓を作って欲しいんですが」
「……弓か。 作るまでもない。 そこにあるのはどうだ」
「これ、ですか」
ロジーさんが言う。別に場所を指定もしなかったけれど。言われるまま見回すと、すぐ其処に幾つかの弓が立てかけてあった。
一番強い弓をと頼むと。
青い弓を指定される。
「それは強力な木材を、錬金術師が作った接着剤で貼り合わせた剛弓だ。 使うのはお前の姉さんだろう。 だったら、それを使うと良いだろう」
「分かりました、ありがとうございます。 代金は」
思わずうっと声が出る価格が出てきたが。
しかしながら、今後の投資にも良い。
何よりも、そもそもお姉ちゃんの矢は百発百中。
火力そのものが上がっている今。
力の底上げが出来れば、更に力がつくだろう。
更に、大きめの鉄砲も貰う。
カルドさんが、鉄砲が軽いと言っていたので、更に銃身が長く、強力な弾丸を撃ち出せるものを貰う。
これも相応の値段がしたが。
言い値で支払う。
お金にはまだまだ余裕があるし。
確かに高いけれど、此処は惜しむ局面では無い。
「装甲については、まだ合金が足りない。 頼むぞ」
「はい、頑張ります」
「ああ、その意気だ」
料金を、桃色の髪の女の子が受け取る。
エスカというらしい。
ロジーさんの所に押しかけて、お手伝いをしているそうだ。
笑顔が可愛い子で。
まだ幼いという年代だが。
どうみてもロジーさんに気がある。
まあロジーさんは真面目そうだし、流石にこんな小さな子には分別を持って接するだろう。
何でもずぼらなロジーさんの代わりに会計をしてくれるとかで。
きちんと数字を管理して会計をしてくれたので感心した。
ホム並みに数字に強い。
話によると、この街に昔から住んでいる商人の子供らしくて。
そうかと、納得する。
ただ、あの悪徳商人を思い浮かべてしまった。
ヒト族の商人は、どうしてもホムに対して誠実では無い行動が目立つ印象がある。
この子の親は、大丈夫だろうか。
ともあれ、戻る。
お姉ちゃんは弓に満足してくれた。
吸い付くように手になじむ、と大絶賛である。
カルドさんにも銃を渡す。
こんな良いものをいいのかいと驚いていたが。
此方としても、護衛の戦力が充実するのは大歓迎だ。
後は、黙々と。
合金を作る作業に戻る。
時々ツヴァイちゃんに在庫を聞きながら。
ひたすら合金を造り続ける。
その合間に、蒸留水を造り。薬を造り。爆弾を増やす。
今までに作った手袋やマフラー、グナーデリングについても研究する。
やはり所詮はひよっこ。
多少経験がついてくると、やはり改善点が幾らでも見えてくる。
今までに作ったものがゴミ、とまでは言わないが。
しかしながら、更に強力な完成品に出来るものが幾つもあることが分かり。
空いている時間を見て、せっせと改良する。
知識に対しては、貪欲なくらいがいい。
そうわたしも思いはじめていた。
少し休むと。
起きて、可能な限り徹底的に作業を進める。
合金の材料であるシルヴァリアとゴルトアイゼンが不足してきたので、此方の製造に移行。
ひたすらに、ルーチンワークのように。
作業を続けた。
あまり自覚は無いが。
いつの間にか、かなりの時間が経過していた。
レンさんに呼ばれて、アトリエに出向く。
目の下に隈を作ったイルメリアちゃんが、出迎えてくれた。アリスさんの姿はない。まさか亡くなったのか。
ひやりとしたが。
イルメリアちゃんは、薄く笑った。
笑みには、間違いなく前にはなかった影があった。
「大丈夫、アリスは回復したわ。 私の薬ではどうにもならなかったのにね」
「イルメリアちゃん……」
「こっちよ。 ついてきて」
レンさんのアトリエの地下に案内される。
地下では、巨大な図面が書き出されていた。
どうやら、例の動力炉。
そして、これはなんだろう。
なんだか、大きな箱みたいだ。
「レンさん、これは?」
「今回の船は、ちょっと特殊な造りにしようと思っていてね。 見聞院から情報を集めて、組んでみました」
「……」
なんといって良いのだろう。船全体がまず台形で、見知っている船と根本的に違う。
船の後方に、回転する仕組みがある。スクリューというそうだ。此処に魔力で動力を送り込み、高速度で回転させて、船を進ませる。
更に、である。
動力炉からは、魔力そのものも抽出。
船の何カ所かにある、噴出口のような場所へと送り込む。
船の舵そのものも。
動力炉からの魔力供給で、操作するようだった。
「不思議な船ですね……」
「竜巻を突破するにはこれくらいは必要です。 今までに作られた船の資料から、最終的にこの構造に行き着いたわ」
レンさんが言う。
そして、船の構造も、原型から大幅に変えているという。元のあの外輪船は、殆ど影も形も無くなるという事だ。コレを今、わたしの合金から組み立てていると言う事か。
まず、甲板の上には、構造物が殆ど無い。
台形の艦橋が存在するが。
それだけである。しかも、艦橋はかなり背が低い。これは頑強さを増すためだろう。
艦橋には甲板から直接入る事が出来。
また、船の側面を開く事が出来。船の内部に、大量の物資を運び詰め込むことが出来る。
というか、船の内部は殆どコンテナ状態で。
船そのものの構造は単純そのもの。
故に極めて頑強、という仕組みのようだった。
「少し吃水が深いから、川には入れません。 基本的にフルスハイム東の湖で使う事を想定した船と考えてください」
「分かりました。 それで、わたしは合金を造り続ければ良い、ですか?」
「そうね。 まずはそれで。 イルメリアちゃんと私で船の細かい構造物は作る予定です」
「そうなると、後は動力炉ですね」
頷くと、レンさんは図面を出してきた。
動力炉だ。
わたしは思わずうっと呻いていた。
正直な話、これは作れる気がしない。
膨大な魔法陣を組み込んだ、超ド級の炉だ。
作るのにも、多分ハルモニウムがいるだろう。
わたしの手に負える代物じゃない。
これでも、ソフィー先生がレンさんが作れるくらいに簡単に改良してくれたという訳か。レンさんの実力が分かる。流石は公認錬金術師。まだまだわたしでは手が届かない。
「炉の主要構造体は、ハルモニウムの提供をソフィーさんから受けているので、後は私が作ります。 動力炉のパーツを、二人に手分けして作ってもらう予定です」
「パーツ、ですか」
「そう。 パーツならば、今フィリスさんが作っている合金で強度も充分。 後の組み立ては、私がやります」
「分かりました、それならば……」
何とかなる。
ただ、その設計図を渡されて、真顔になる。
これでも充分すぎる程難しい。
ただ、今の時点で合金を造り。
そして最終的にこの設計図の部品を作れば。
船は完成する。
イルメリアちゃんが薄く笑った。
「役立たずだわ、私」
「大丈夫、貴方は充分に有能よ。 現時点で納入されているパーツには、何の不備もないわ」
「……私にもっと力があれば、アリスをあんな目にあわせなくても済んだのに」
「……」
レンさんが悲しげにイルメリアちゃんを見る。
やはり、相当にショックだったのだろう。
イルメリアちゃんは壊れたテープのように内心を吐き出す。
アリスさんを、内心で嫌っていたこと。
恐らくそれを知っているのに、アリスさんはずっと尽くしてくれたこと。
そればかりか、命まで賭けて守ってくれたこと。
それなのに、アリスさんを助ける薬さえ作れなかった事。
力が足りないと。
「フィリスさん、お願いね」
「はい」
苦しいほど分かる。
無力な自分に対する憤り。
親しい人が傷つく悲しさ。
だけれど、それはわたしにはどうしようも出来ない。イルメリアちゃんがどうにかしなければならない問題だ。悲しいけれど、それはわたしにも、嫌と言うほど分かっていた。
現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。
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このままでいい
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