暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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3、水を飛ぶ船

イルメリアちゃんの哀しみを見たからだろうか。

 

わたしは、その日から、口数が少なくなり。その分集中力が上がった。徹底的に作業に撃ち込み。そして合金を造り続けた。

 

合金の質は上がり続けたが。

 

最初からどうしてこれで作れなかったのかと、口惜しくも思う。

 

ロジーさんの所に納品して貰い。

 

そして、ふと気付くと。

 

予定の生産量をクリアしていた。

 

コンテナに覗きに行くと。

 

岩山まるごと崩して入手した鉱石が。

 

目に見えてごっそりと減っていた。

 

そうか、これほどの量の鉱石を、消費しきったのか。

 

嘆息する。

 

そして、皆を呼ぶと、告げる。

 

船の外は出来た。

 

今度は、心臓部を作るのだと。

 

心臓部の外郭はレンさんが。

 

内部構造は、わたしとイルメリアちゃんが共同で作る。

 

それを搭載し。

 

船が完成すると。

 

最終的な形状は、帆船とはまったく違うもので。

 

どちらかというと、台形を中心としている。

 

船が進む仕組みについても、漕ぐわけでもなく。外輪船でもなく。スクリューという仕組みを使う。

 

それらを告げると。

 

困惑して、お姉ちゃんは聞き返してくる。

 

「それ、本当に進むの?」

 

「信頼出来る資料に、これで動くと記載があったみたい」

 

「ふむ、僕の方でも動くところは見てみたいのですが」

 

「いずれ」

 

ともあれ、少し疲れが溜まっていると言う事で、翌日は丸一日眠った。

 

そして、それから、動力炉のパーツの構築に掛かる。

 

まず合金を作る。

 

大量に造り続けたから、だろう。

 

当然の話だが、非常に強度が高くなっている。

 

これを、設計図の通り、曲げる。

 

どうすれば曲がるか。

 

鉱物が丁寧に教えてくれる。

 

その通り熱し。

 

ハンマーで叩き。

 

そして魔法陣をそのまま書き込む。魔法陣の動作検証は徹底的に行う。わたしも魔術はかなり実戦で磨いた。

 

どれくらい魔法陣が機能するかは、触って動かしてみれば分かる。

 

上手く行かない場合。

 

最悪、溶かし直して、また最初から作り直す。

 

また魔法陣が上手く仕上がっても。

 

パーツの精度に問題があると、鉱物が教えてくれる事もあって。

 

その場合は提供されている測定装置や定規などで徹底的に調べ。

 

そして、確かにその通りだと思い知らされるのだった。

 

パーツを一つずつ。

 

時間を掛けながら作っていく。

 

一つ作るだけで大変な労力が必要で。

 

今までに作った道具など、比較にならないほど難しい。

 

失敗する事も多く。

 

大きなパーツの場合は、みなに手伝って貰って、支えて貰いながら魔法陣を刻み込んだりもした。

 

小さなパーツはある程度数が揃ってから。

 

大きなパーツは出来た時点で。

 

レンさんのアトリエに送って貰う。

 

途中、何度か気分転換に外に出る。

 

相変わらず竜巻が囂々と凄い音を立て続けていて。

 

更には雨も降り続けている。

 

アルファ商会のキャラバンが来ていて、物資の補給と取引をしているのが見えた。アルファ商会は、とにかく価格については徹底的に決めたとおりに動いているらしく。値切りの類が一切出来ないらしい。

 

エスカちゃんが、気が弱そうなヒト族の男性と一緒に、数字の話をしているのが見えた。

 

そういえば、エスカちゃんの側に、メアちゃんもいる。

 

メアちゃんはこっちに気付いて、手を振って来た。

 

どうやら、二人は友達らしい。

 

人口万を超える都市とは言え、所詮は狭い世界。

 

不思議な話では無いだろう。

 

取引が終わったらしく、メアちゃんとエスカちゃんが来る。

 

やはり二人は友達らしい。

 

「まったく、エスカのお父さん、本当に気が弱いね。 相手が超大手商人とは言え、ホムだから不正はまずないってわかってるだろうに」

 

「えへへー。 でもお父さん優しいんだよ」

 

「まあそうだよね。 ロジーさんとどっちが好き?」

 

「やだあ、恥ずかしい」

 

何だかこっぱずかしい会話をしているので、こっちが和む。

 

軽く話す。

 

気分転換になって良い。

 

だが、メアちゃんにも指摘される。

 

「フィリスさん、凄く疲れてる?」

 

「あははー。 うん。 ちょっと難しい調合が続いてて」

 

「あの港にある凄そうな船でしょ。 あんなの、今まで見たことも無いし、無理もないよ」

 

「この間、ロジーさんがね、船の下にもぐって何か取り付けてたよ。 カイさんが、こんなの見た事ねえ、って言ってた」

 

専門家でさえそういうのか。

 

ただ、現時点で船は浮かぶことを確認するべく、何度か湖に入れているらしい。

 

その結果、浮かぶことは確認できているので。

 

水に入れたらそのまま沈んでしまう、と言う事は無さそうだ。

 

何もかも一瞬でパア、という事態はないと分かって。

 

個人的にはほっとした。

 

他愛ない話をして。お菓子を分けてあげたりした後。

 

仕事に戻る。

 

笑顔を保つのが大変だった。

 

竜巻があるせいで。

 

あの子達の笑顔が、いつなくなってもおかしくないのだ。

 

早く船を完成させないと。

 

獣のアロマのおかげで、更に無理が利くようになった事もある。疲れはしているが。それでも今は、無理をしてでもやらなければならない。

 

次のパーツの作成に取りかかる。

 

まだまだパーツは幾らでも作らなければならない。

 

合金を曲げる。

 

今度は小さなパーツだけれども。

 

非常に複雑で。

 

形状が異次元な上に。

 

此処に魔法陣を六つ書き込まなければならない。

 

まずこの複雑な形状を何とか再現し、縮尺がぴったりである事を確認するまで一日掛かってしまった。

 

更に、ルーペを使い、ピンセットでお姉ちゃんにパーツを支えて貰い。

 

熱した針を使って、丁寧に、丁寧に魔法陣を書いていく。

 

これだけで、どれだけ緊張するか分からない。

 

失敗したらやり直しなのだ。

 

丁寧に、丁寧に。

 

自分に言い聞かせながら、作業を続け。

 

そして、やっと仕上がったときには。

 

もう一日が過ぎていた。

 

フルスハイムに来てから。

 

既に一月以上が経過。

 

想定通りとも言えるが。

 

問題は此処からだ。

 

まだパーツは残っているし。船が想定通りに動いてくれるか分からない。竜巻を突破出来るかも、分からない。

 

何もかもが無駄になる可能性もあるし。

 

最悪の場合、竜巻を蹂躙して進んだら、ドラゴンに襲われるかも知れない。

 

食事をして、すぐ休む。

 

鏡を見て、メアちゃんに言われるのも道理だと思った。

 

顔が、今まで見たことが無いほど。

 

険しくなっていた。

 

 

 

最後のパーツを仕上げて、それをドロッセルさんに配達して貰う。

 

その後は、ゆっくり眠った。

 

どうにか、終わった。

 

後は組み上がるのを待ち、船を試験しなければならない。

 

動くかどうかを確かめ、少しずつ竜巻の側を通って慣らしていき。

 

最終的には竜巻を正面突破する。

 

獣に襲われた場合は大丈夫だろうか。

 

いや、それについては大丈夫か。

 

木造船ではないのだ。

 

何より、獣を追い払うための自動防御装置も仕込まれている、と言う話も聞いている。それならば大丈夫だと信じたい。

 

情けない話だけれど。

 

今のわたしの力量では。

 

この船の真の実力を、理解する段階にまで到達していない。というか、まだわたしは、所詮は見習いなのだと思い知らされる。

 

ツヴァイちゃんは少しずつ仕事をしてくれるようになったけれど。それでもまだ時々恐怖がフラッシュバックしているようで。部屋の隅っこで泣いている事がある。

 

そんなとき、わたしはどうにも出来ない。わたしの錬金術師としての力が足りないからだ。

 

もっと凄い力があったら心の傷だって治せるはず。

 

わたしは半人前。所詮まだ公認錬金術師にさえなっていない身に過ぎない。程度が知れた力しかないし。勿論今からエルトナに引き返したところで、開拓事業の足を引っ張るだけだろう。

 

悔しい。悲しい。

 

だけれど、今はとにかく、ゆっくり自分のペースで歩いて行き。そして今まで出来なかった事を、出来るようにしなければならないのだ。

 

起きだすと。

 

ぐっしょり汗を掻いていた。

 

呼吸を整えると、港に出向く。

 

船は現在陸に揚げられて。

 

動力部が組み込まれているようだ。

 

船の下には、大きな土台が入れられているが、それは船の左右や後ろにある構造物が、曲がってしまうのを避ける為だろう。

 

巨大な船だ。

 

前に見た、外輪船よりも二回り大きくなっている。

 

それこそ、根こそぎ改造するレベルで直したのだと、ド素人であるわたしにさえ理解出来た。

 

カイさんがいたので、話を聞きに行く。

 

すぐ側に竜巻がいて。

 

獣が現れることもあるというからか。

 

周囲には、見張りが常時いて。

 

働いている人夫も、逞しい人ばかりだった。

 

「おう、お疲れさん。 部品の調達、全てやってくれたんだってな。 後はくみ上げるだけだぜ」

 

「上手く行きそうですか」

 

「なんともこればかりはな。 此処にいる船大工も、こんな船は見た事がないからな」

 

苦笑するカイさん。

 

まあ、仕方が無い事だろう。

 

動力炉の部品は、小分けにして運び込んでいるようなのだけれど。

 

中ではレンさんが作業をしていて。

 

本人が地道に組み立てをしているらしい。

 

そういえば、ソフィー先生を見なかったかと聞いてみるが。

 

カイさんからは、意外な答えが返ってきた。

 

「あの人ならさっきまでいたぜ。 船を見て、何処が緩んでるって一発で当ててよ、本当に緩んでたから、慌てて総出で直したんだ」

 

「そう、さっきまで」

 

「それがどうかしたのか」

 

「いえ、なんでもありません」

 

一目で当てたか。

 

わたしよりも遙かに良くものの声が聞こえているのだろう。その辺りは、実力差故であって、当たり前の話だ。

 

ソフィー先生は、どれくらいの錬磨の末に、其処まで到達したのだろう。

 

まだ年齢も二十代に見える。

 

もっと若いかも知れない。

 

いまのわたしが、その年齢になった時。

 

同じ事が出来るとは、とても思えない。わたしには鉱物が味方してくれる。これはまごう事なきギフテッドだけれど。

 

それでも、あくまでわたし自身はそこまで強いわけじゃない。

 

この竜巻だって。

 

どうにもできないのだから。

 

船に入る。入る事自体は、タラップがあって、簡単だった。甲板まで装甲で覆われていて、歩く度にかつんかつんと音がする。

 

内部では、レンさんが作業をしている。

 

錬金術で作った道具で、パーツを溶接しているようだった。

 

レンさんは厳しい表情で。

 

話しかけられる雰囲気では無い。

 

様子を見に来ただけだし、帰ろうとしたが。

 

レンさんは気付いていた。

 

「フィリスさん、此方へ」

 

「はい」

 

丁度炉の中に入って作業をしていたレンさんが、寝そべるようにして溶接作業をしていたのだが。

 

呼ばれて覗き込んでみると。

 

どうやら、作業中に、歪みが生じて。

 

それで魔法陣の一部が破損したらしい。頷くと、破損が修理できるか確認。何とかなる。

 

レンさんは、熱を帯びたペンのような道具を出してきたので。

 

それを借りて、少しずつ鉱物の声を聞きながら、魔法陣を修復する。

 

ちょっと歪んで文字が潰れていただけなので、それを開いてやれば良い。だけれど、作ったときには、確かにこれが動いているのは確認した。そうなると、組み立ての過程で文字が潰れたのか。

 

そうか、可能性としては考えられる。

 

今後、同じような大規模調合をするときには。

 

考えなければならない、かもしれない。

 

文字の修復は完了。

 

魔法陣に触り、個別に動かして機能するかは自分で確認する。勿論全部まとめて動いてしまったら、炉が稼働してしまうので、丸焼きになってしまう。気を付けなければならないが。そこはわたしも魔術使いだ。コントロールは難しくない。

 

レンさんに代わる。

 

レンさんもチェックし、頷いた。

 

「完成度が高いパーツが多くて驚くわ。 まだ若いのに、金属関係の作業に関しては熟練の錬金術師並ね」

 

「ありがとうございます。 でも、教えて貰っているだけなので……」

 

「そう、ギフテッドなのね」

 

「はい」

 

レンさんは、もう大丈夫と言ったので、引き上げる。

 

後は、最終試験に備えて、不安要素を全て取り除いておく必要があるだろう。

 

船を下りると。

 

イルメリアちゃんがいた。

 

アリスさんも側に控えている。

 

相変わらず無機質な表情で。

 

本当にヒト族なのかちょっと疑いたくなったが。

 

でもこの人は、イルメリアちゃんを、文字通り命を賭けて救ったのだ。侮辱することは許されないだろう。

 

「最後のパーツの納品が終わったんですって?」

 

「うん。 イルメリアちゃんも……」

 

「此方は別にかまわないわ。 ちょっと相談があるんだけれど良い?」

 

「はい?」

 

イルメリアちゃんが言うには。

 

周辺の荒野の獣を、少しでも減らしたいという。

 

船が出航するときに、変な横やりを入れられるとたまったものではないから、というのが理由だそうだ。

 

確かにこの街の自警団戦士達の力量はそれほど高くない。

 

アングリフさんがいても、それでも防戦がやっと、という状況だ。

 

ソフィー先生が来てから、以前イルメリアちゃんを守って負傷した戦士達は前線に復帰出来たようだが。

 

それでも戦力が足りない事に代わりは無いだろう。

 

それならば。

 

周辺の安全確保を、少しでも行っておきたい。

 

そういう事だった。

 

「イェーガーさんには許可を取ってあるわ。 オリヴィエさんを中心に、十名ほどが参加してくれる予定よ」

 

「うん、分かった。 準備してくるよ」

 

「では、フルスハイム西門で」

 

頷くと、アトリエに戻る。

 

船の組み立てで、出来る事はもうない。

 

後は確かに。

 

街の周囲の大掃除、くらいしか。

 

わたしに出来る事はない。

 

一旦アトリエに戻り。

 

皆に声を掛けて、西門に。

 

西門では、既に完全武装の戦士達が、イルメリアちゃんと、アリスさんと。一緒に集合していた。

 

オリヴィエさんもいる。

 

イェーガーさんとアングリフさんはいないけれど。

 

これは多分、竜巻の近くで、現れる獣に備えているのだろう。

 

「それでフィリスどの、イルメリアどの、どうする」

 

「戦闘経験はフィリスの方が上よ。 フィリス、判断してくれる」

 

「えっ? あ、はい。 現時点で、ネームドは街の近くに来ていますか?」

 

「いや、街の近くには姿を見せていません。 死んだネームドの縄張りを奪い合って、にらみ合っている様子で……」

 

なるほど、そういった偵察はしてくれているのか。

 

いずれにしても、あのわたしが修復した橋辺りまでは。

 

獣の数を減らして、ある程度は安定させておきたい。

 

アトリエを展開。

 

前に借り受けたキャンプセットを周囲に拡げる。

 

此処を拠点に、船が出来るまで、徹底的に荒野にいる獣を狩ることとする。そう説明すると、戦士達は武器を振り上げて、おおと叫んだ。

 

お姉ちゃんとカルドさんは、新しい武器の試験運用だ。

 

ドロッセルさんは、凄い業物を使っているので、当面武器の更改は必要ないだろう。

 

レヴィさんは剣もやっぱり黒くしているし。

 

戦闘スタイルが防御主体なので、まだ武器の更改は必要ないと思う。

 

とにかく、戦闘開始だ。

 

カルドさんが長身銃を使って、獣を一匹ずつ狙撃。

 

釣り出した後、徹底的に皆で袋だたきにする。

 

前にツヴァイちゃんの面倒を見てくれた老魔術師が、拡大視の術を展開。

 

誰もが分かるように、狙撃をやりやすくしてくれた。

 

これは空間上に、遠くのものを拡大して表示するもので。

 

確かにカルドさんも、狙撃をしやすいと喜んでいた。

 

わたしはアトリエに籠もって、手が空いている人と一緒にコンテナの整理。

 

鉱石類の整理が終わった後。

 

獣の肉や皮なども整理し直す。

 

今後、コンテナに入っている素材類は生命線になる。

 

どうせ緑化作業はエルトナに戻ってからも行わなければならないのだし。

 

深核は幾らでもいる。

 

チェックをしていると。

 

一緒にアトリエに入ってきていたイルメリアちゃんが、てきぱきと作業をしながら、声を掛けてくる。

 

「これ、凄い力量の錬金術師が作った物ね。 恐らく高次元に干渉して作っているものだと思うけれど」

 

「ソフィー先生が作ったんだよ。 旅立ちのお祝いにくれたの」

 

「……っ」

 

イルメリアちゃんが青ざめる。

 

そして、しばらく黙り込んだ後、また手を動かし始めた。

 

「フィリス。 あなた、鉱物の声が聞こえるのよね」

 

「うん。 だから実力以上に働ける、かな」

 

「ギフテッド持ちの錬金術師はレア中のレアよ。 この国でもトップクラスの錬金術師でも、殆どいないときいているわ」

 

「ソフィー先生も、あらゆるものの声が聞こえるみたいだよ」

 

また、イルメリアちゃんは黙り込む。

 

そして、以降は何も言わなかった。

 

コンテナの整理が終わったので、外の戦況を確認。

 

順調に荒野の獣は減らせている。

 

倒した獣は回収し。

 

手際よく捌いて、肉は燻製にしていく。皮はなめしていく。

 

思うに、以前の岩山を崩す戦いの時、周辺の獣は殆どが集まって来ていて、大打撃を受けたのだろう。

 

明らかに、最初に獣の掃討作戦を行った時よりも、数が少ない。

 

ただ、ネームドが近辺にはいる。

 

油断だけはしてはならないが。

 

「わたしはお薬と爆弾を作っているね。 イルメリアちゃん、何かあったら知らせてくれる?」

 

「分かったわ。 私も戦闘経験積みたかったし。 アリス、いくわよ」

 

「はい、お嬢様」

 

アリスさんは双剣使いか。

 

そのまま二人で外に出て行く。

 

後は、無心のまま、お薬を造り続ける。

 

多少体調が良くなったらしいツヴァイちゃんが起きて来て、コンテナに入っていった。そして、メモを取っていた。

 

配置などが変わったことを確認し。

 

在庫の確認をしてくれているのだろう。

 

数字を扱うことは、幼くてももうホムの特権として使いこなしている。

 

立派だと思う。

 

だけれども、作業が終わって熱を測ってみたら、少し平熱より高かったので。

 

お薬を飲ませて、休ませる。

 

悲しそうに、ツヴァイちゃんは言う。

 

「ごめん……なさい。 足手まとい……で……」

 

大丈夫。

 

足手まといじゃないと言い聞かせながら、眠るまで側にいる。

 

この子の心を此処まで壊したのは匪賊だ。

 

それまでは、貧しくとも、両親と一緒に身を寄せ合って、必死に暮らす事が出来ていたのに。苦しい生活でも、笑顔だって浮かべていただろうに。

 

それなのに。

 

お薬の調合は一段落したので、外に。

 

かなり大きなヤギを仕留めたらしく、吊して捌いていた。

 

イルメリアちゃんが皮を剥ぐ作業をやっていて。

 

それを周囲の戦士達がサポートしていた。

 

戦いそのものはやったことがあっても。

 

動物の解体は初めてであったらしい。

 

この辺りは、お嬢様なのだなあと思って、少し微笑ましい。少し前の私も、たいして変わらなかった辺りも、色々と思うところがある。

 

「次、来たぞ!」

 

「叩き落とせ!」

 

わたしも爆弾を取り出して、万一に備える。

 

今度来たのはアードラだったが。

 

お姉ちゃんが矢を番え、放つと。

 

その一撃は、文字通りうなりを上げて空気を蹴散らし。

 

火花さえ散らしながら、相手の片翼を、空中にて吹き飛ばした。

 

人間大の獣なら貫通するくらいの火力が前にもあったのだけれど。

 

獣のアロマを身につけた事による更なる増幅。

 

そして新しい強力な弓によって。

 

威力があからさまに上がっている。

 

勿論翼を半分失って、飛んでいられる鳥などいない。

 

真っ逆さまに落ちてきたアードラを、戦士達が袋だたきにして息の根を止め、引きずって来た。

 

大量の肉と皮が積まれているので。

 

一旦全てアトリエのコンテナに移す。

 

そして、夜を待って。

 

一度狩りを終えた。

 

戦士達数人に、手分けして肉を街へ輸送して貰う。

 

今日の狩りで、合計257体の獣を仕留めた。

 

大型の獣になると、数十人から百人分の腹を一度に満たす事が出来る。

 

わたしのアトリエにはそんなにたくさんの肉は必要ないので。

 

どんどん運んで、フルスハイムの蓄えにしてもらう。

 

夜になって、一度相談。

 

自警団のメインメンバーにもアトリエに入って貰って、話をする。

 

その後、爆弾をある程度配る。

 

明日以降、ネームドが姿を見せた場合の対策だ。

 

流石にネームドは、今日殺した雑魚のようにはいかない。

 

前は手練れがいたが、今回はそうではない。

 

もしネームドに襲われたら、総力戦になるだろう。だが、ネームドを駆除できたら、周辺の安全確保という点では言う事がない。

 

それらを確認した後。

 

交代で休む。

 

翌朝も、船が出来たと言う知らせは来ない。

 

キャンプの位置は動かさず。

 

今度はわたし達が出て、徹底的に獣を駆除して回った。

 

荷車が一杯になるたびに戻り。

 

また再出撃する。

 

今度はイルメリアちゃんとアリスさんも一緒に出る。

 

イルメリアちゃんはまだそれほど戦い慣れていないようだけれど、強力な錬金術の武器を持ってきていた。自動で動く剣や、わたしのより強力そうな爆弾である。何でも馬車に積んでいるアトリエで作っているそうだ。

 

アリスさんは単純に強い。

 

多分ドロッセルさんと良い勝負が出来るのではないのだろうか。

 

兎に角速いし。

 

敵の急所への一撃も鋭い。

 

こんな人が、大けがをさせられたのだ。

 

イルメリアちゃん達を襲った獣の恐ろしさが、今更ながらに思い知らされる。

 

周囲をお姉ちゃんが確認。

 

ネームドの気配も姿もない、と言われて、頷く。

 

出来れば、まだこの辺りにいるネームドの一体も処理しておきたかったのだけれど。

 

そうもいかないだろう。

 

此方からネームドの巣に出かけて、狩るには。情報も、戦力も、不足しているように思える。

 

丁度荷車も一杯になった。

 

キャンプに戻る。

 

そして肉を後送。

 

魔術師に拡大視の魔術を使って貰って。

 

周辺を徹底的に確認。

 

まだ獣がいる辺りに再出撃し。徹底的に狩りつくした。

 

獣は荒野から勝手に湧いてくる。

 

その言葉を裏付けるように。

 

狩っても狩っても、数はある程度減るものの、獣自体は確かにいなくならない。

 

だがここ数日の戦いで、人間を積極的に襲いに来る大型のは、あらかた。少なくともフルスハイム西のここ周辺からは排除できたと思う。

 

もし、ネームドを狩り。

 

そして此処から、メッヘンまでの街道を緑化するとしたら。

 

多分わたしが公認錬金術師になってからだ。

 

橋の辺りまで遠征すると。

 

まだ少し大きめのが残っている。

 

それらも容赦なく皆殺しにする。

 

いつの間にか、わたしは。

 

獣を怖いとも思わなくなっていたし。

 

殺す事を、何も躊躇わなくなっていた。

 

山盛りに死骸を荷車に積み、キャンプに戻る。これだけの肉があれば、少しはマシになるだろう。

 

そして、そのタイミングで。

 

使者が来ていた。

 

船が完成した、と言う事だった。

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