暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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既に人という概念を外れているソフィー=ノイエンミュラー。
彼女は彼女で世界の詰みを打開するために最善手を常に探し続けています。
その過程で見つけた、自分とは違う観点から世界を改革できるかも知れない才能。
それこそが。
不幸なことに、フィリス=ミストルートでした。


どん詰まりの世界の星
序、深淵より星を掴む


あたし、ソフィー=ノイエンミュラーは。世界を回りながら、希望を探していた。今では同盟関係にある深淵の者と連携した結果、アダレットとラスティンとは、ある程度話もつくようになっている。

 

話を付けるためのコネを作るために。

 

正確には、深淵の者が元々持っていたコネを公然化し、強化するために。

 

邪神七体。

 

ドラゴン八十九体。

 

ネームドおよそ五百体を。

 

この旅の間に滅ぼした。

 

いずれもどちらの国も手を出せなかった相手で。それによって、あたしは街の領主以上の発言権と、情報の閲覧権。更にラスティン連邦国首都ライゼンベルグでの「顧問」としての地位を得た。一応形式的に公認錬金術師試験は受けたが、簡単すぎてへそが沸くレベルだった。アダレットでも、たまに「専門家」として声が掛かるほどになった。騎士団でも手に負えない相手を処理する時に、呼ばれるのだ。

 

だが、あたしは旅をし。

 

世界を見ながら、気づきもした。

 

やはりあのパルミラという創造神の言葉は事実だ。

 

この世界には未来がない。

 

それどころか現在さえない。

 

昔、プラフタとルアードが。

 

比翼の仲だった二人が、喧嘩別れした原因。

 

この世界の荒廃は。

 

想像以上だった。

 

緑がある地域もある。

 

だがそれはあくまで限定的で、殆どは荒野だけが拡がっている。あたしが暮らしていたキルヘン=ベルの周囲だけではなかった。もっと酷い地域がある事は分かっていたが、その想像さえ遙かに超えていた。

 

そして街で暮らしていけなくなった匪賊は何処にでもいた。

 

深淵の者と連携して、更にラスティンとアダレットの尻も叩いて。

 

あたしは行動を始めた。

 

匪賊とドラゴン、邪神の駆除。ドラゴンは殺しても同数が常に保たれる事もあって、特に暴れているもの限定の駆除だが。

 

集落の安定化。

 

更に、小さな集落は場合によっては他の集落と合流させたり。後は集落を統合して、よどんだ血を混ぜ合わせたり。

 

防衛体制を造り。

 

更に人材の育成を行ったり。

 

それらに関わりつつ。

 

世界を回っていった。

 

勿論一人でできる事ではない。

 

深淵の者が、今まで作り上げてきたネットワークを利用して、多数の人材を集めてくれたし。

 

今まで漠然と世界を良くしようとしていた彼らが。

 

明確な戦略を持ったことで、むしろ生き生きとさえしていて。

 

手助けにはむしろ積極的なほどだった。

 

そうしてあたしは世界を回り。

 

人材を探した。

 

この世界はいずれ破綻する。

 

その破綻を回避しなければならない。

 

9兆回の試行回数。

 

2700京年の労働時間。

 

あの創造神に告げられた言葉だ。

 

この世界を安定させ、人間が自立できるようにするために、創造神は何度駄目になっても諦めず。

 

この世界の仕組みそのものを弄くりながら。

 

誰もが平穏に暮らせる安定した世界を作ろうと腐心した。

 

この世界に連れてこられた住民は。元の世界で、どうしようもない滅びの中で助けを求めた者達の子孫だ。

 

救いの願いを創造神が聞いたから。

 

助けたからには。

 

責任を持って世話をしなければならないのだから。

 

創造神は、そんな風に、純粋な善意で動き。

 

しかし人間は、そんな善意に答えられる生物では無かった。

 

だからどうにもならない。

 

どうにか世界そのものを変えなければならない。

 

人間を変えるのか。

 

世界を変えるのか。

 

いずれにしても、まだあたし一人ではどうにもならない。プラフタとも時々話すが、良い案は出てこない。

 

キルヘン=ベルに時々戻っては。

 

カフェに顔を出す。

 

もう酒を飲める年になっているから。かなり強いのを出して貰う。あたしが黙々と酒を飲んでいると。

 

既にキルヘン=ベルの自警団長になっているモニカが殆ど必ず顔を出して。

 

あたしに近況を聞いてくるのだった。

 

モニカはあたしの目が深淵そのものになってから、一度だけ本気で怒ったが。

 

それ以降はむしろ静かに、あたしと話をする。

 

あたしが完全に壊れていること。

 

何より世界が本当にどうしようもないこと。

 

このままでは全てが終わる事。

 

それを悟ったからかも知れない。

 

或いは、彼女なりに現実と向き合うために。

 

あたしと最後の喧嘩をする必要があったのだろうか。

 

いずれにしてもモニカの考えは分からないが。

 

今では、あたしに無闇に突っかかって来る事もなかった。比翼の友として、静かに助けてくれる。その道を選んだようだ。

 

ただ、彼女も良い案があるかというと、そうでもなく。

 

時々、何か良い案がないか、あたしから聞いたりもするが。

 

モニカは首を横に振るばかりだった。

 

創造神とアクセスしたときに、モニカも一緒にいた。

 

だからこの世界が、どれだけどん詰まりかは、モニカも知っている。

 

恐らく、世界中の人間が団結して、どうにかしなければならない問題なのだろうに。

 

そんな事を出来る人間なんて。

 

この世界にはほとんどいない。

 

だからあたしが奔走しなければならないし。

 

あたしと同レベルの錬金術師を探し出すか、もしくは育つのに力を貸さなければならない。

 

そうしてあたしは彷徨い。

 

様々な街を救い。

 

情報を集めながら。

 

錬金術師を探した。

 

ルアードの情報網を持ってしても、今の時点では世界を救えるレベルの錬金術師は見つからなかったし。

 

プラフタが人間に戻り、錬金術を使えるようになったとしても、とてもではないが手は足りないだろう。

 

最低でも後三人。出来れば四人。

 

あたしと同レベルの錬金術師がいる。

 

それについては、意見が今でも変わっていない。

 

そして、この世界を変えるには、その力を結集しなければならない事も。

 

愚痴は言わない。

 

言っても仕方が無いからだ。

 

そして、無数の情報の中から、エルトナという街に、どうもものの声が聞こえる人間がいるらしいこと。

 

しかもまだ子供らしい事を知って。

 

あたしはプラフタと一緒に調査を開始。

 

エルトナという、本当に辺境も辺境。自衛能力も備えていない鉱山そのものに閉じこもっている街を発見し。

 

そして今此処にいる。

 

あたしは一旦自分の異世界アトリエに籠もると。

 

資料を整理しつつ、現在は別行動しているルアードに情報を回すように、深淵の者へ手配。

 

更に、複数の根回しを進めていた。

 

エルトナの長老を籠絡するのは簡単だった。

 

錬金術の御技を少し見せてやり。

 

一つしか無い特産品である水晶を高く買う(実際には買いたたかれていたのを適性値段で買い取るようにしただけだが)ようにし。

 

深淵の者の経済を担っているホム、アルファの作っている経済網の一端がエルトナにつながり、安定した食糧や物資の流入が出来るように取りはからい。

 

更に周囲の他の集落との交流を持てるように、あたしのアトリエにつながる扉への限定的な使用も許可した。

 

今やあたしのもう一つのアトリエは、ルアードとプラフタのアトリエと一体化しており。

 

ライゼンベルグや他ラスティン、或いはアダレットの大都市と同レベルの規模にまで巨大化している。

 

その中の回廊を幾つか使う許可を与えるだけで。

 

安全に孤立した集落どうしが、距離を無視して行き来できる。

 

最初は緊急時の撤退のために作り上げた旅人の道しるべが。

 

現在では孤立集落を救うための手段となっている。

 

そして案の定血が濃くなり過ぎて滅亡に突き進んでいたエルトナは。

 

文字通り、あたしにひれ伏すようにして屈した。

 

当たり前だろう。

 

エルトナの人間も、近親交配による弱体と、資源がいずれ枯渇することは知っていたのである。

 

かといって、エルトナの外に出て、凶悪なネームドや猛獣に食い散らかされながら、悲惨な難民として別の都市を目指すには、戦力が足りなさすぎる。

 

少しでも現実的に考えれば。

 

あたしの言うことを聞く以外に道がない事くらいは、幼児でさえわかる。

 

そして長老にあたしの出した条件は。

 

声が聞こえる人間。

 

フィリス=ミストルートの提供。正確には彼女を錬金術師にする事。

 

それだけである。

 

彼女に錬金術を教えて、この世界に旅立たせ。

 

現実を見せる事によって能力を鍛え上げる。

 

そうすることによって、あたしと同レベルの錬金術師に育て上げる。

 

それだけだ。

 

ちなみにあたしは彼女の師匠になるつもりではあるが。

 

プラフタのように身近について錬金術を教えるつもりはない。

 

エルトナに来て、フィリス自身を確認したが。

 

典型的なギフテッドで。

 

あたしがつきっきりで教えるよりも、自分で学ぶ方が出来る事が多いタイプだ。

 

これは時間を停止し。

 

完全に全身をスキャンし。

 

更に細胞まで採取し、それを解析しての結果。

 

フィリスをあたしの拠点用持ち運び式小型アトリエに案内し。

 

其処に入った瞬間時間を停止させ。

 

データを採取させて貰った。

 

既に因果を操作して、壊れたものをその場で直せるほどに錬金術を極めたあたしにとっては。

 

それくらいは容易かった。

 

フィリスには。

 

エルトナが完全に詰んでいること。

 

自分にしかその状況を打開できないこと。

 

この二つを、既に心にねじ込んである。

 

後は錬金術の基礎を教えておき。

 

そして信頼出来る護衛をつけて放流すれば、勝手に成長してくれるだろう。

 

あたしと違う方向性で成長すればそれはそれでまたよし。

 

同じ方向性で成長してもかまわない。

 

今必要なのは。

 

あたしが複数、ではない。

 

あたしと同レベルの錬金術師が後最低四人、である。

 

考え方は皆違っていて構わない。

 

あるいは、あたしと対立しても良いだろう。むしろ、それくらい活きが良いくらいが丁度良い。

 

この世界を改革するには。

 

どんな人材でも必要だ。

 

勿論半野獣化した匪賊は必要ないが。

 

あれらはもはや人間では無い。

 

駆除が必要な害獣だ。

 

書類をまとめ終えると。

 

部屋に入ってきた、これからフィリスの護衛として同行させる人材。ティアナの顔を見る。

 

ティアナは以前雇い入れた傭兵で。

 

まだ年若く、十代半ばにして、既に相当な剣腕の持ち主である。

 

天才とか鬼才とかいうのではなく。

 

修羅場をくぐった数が違うだけだ。

 

更にあたしが渡した錬金術の装備で武装もしている。

 

彼女は、物心つく頃に両親を匪賊に殺されたらしく。

 

それ以降、傭兵団を点々としながら食いつなぎ。

 

独自に剣の技を覚えて。

 

そしていつの間にか、その実力を開花させた天然ものの実力者だ。

 

あたしのことを崇拝していて。

 

言う事は基本的に何でも聞く。

 

近年は主に匪賊の駆除をやってもらっていたが。

 

ここ一年だけで、匪賊300人以上を一人で斬っている。

 

殺した後に首を切りおとし、串刺しにして並べる趣味があるのだが。

 

これは両親を骨も残さず食い殺した匪賊への、彼女なりの復讐らしい。

 

どうしてそういう復讐になるのかはよく分からないが。

 

それはそれで別に構わない。

 

腕さえたてばいい。

 

剣は良く斬れればそれで良いのだ。

 

「ソフィー様、フィリスちゃんはどんな感じですか?」

 

「鉱石限定で声が聞こえるとは言え、才覚は相応かな。 後は環境で揉んでやれば、育つと思うよ」

 

「友達になれると良いなあ」

 

「でも、お姉ちゃんには嫌われちゃったんでしょう?」

 

ティアナはてへへと舌を出す。

 

どうやら、悪気はなかったのだが。

 

怖がらせてしまったらしい。

 

今ではすっかり、フィリスの姉のリアーネは、ティアナを警戒している様子だ。

 

ただ、実はあたしはリアーネも調べたのだが。

 

声さえ聞こえていないものの。

 

どうもリアーネにも錬金術師としての才覚がある様子なのだ。

 

そして、調べた結果。

 

フィリスの両親とリアーネは、血がつながっていない。勿論フィリスとも血統上の姉妹では無いという事が分かっている。つまりフィリスは彼女の両親の実娘であるのに対して、リアーネは養子か何か、ということだ。

 

異常なフィリスへの溺愛ぶりがエルトナでも知られているリアーネだが。

 

それも何か関係しているのかも知れない。

 

そしてフィリスの両親の、錬金術への拒否反応。

 

まあ、これからどうすれば良いかなど、決まり切っている。

 

部屋にプラフタが入ってくる。

 

彼女は無邪気に笑顔を浮かべているティアナを見ると眉をひそめた。

 

どうも彼女は、十代半ばでシリアルキラー同然になっているティアナを、快く思っていないらしい。

 

如何に匪賊が凶悪な存在で、野獣化した人間だとは言っても。

 

あまりにも殺戮の度が過ぎる、と思っているのだろう。

 

ティアナに、仕事に戻るよう指示。

 

エルトナ周辺の、フィリスの手に余るネームドの駆除が、その仕事だ。

 

はいっと良い返事を返すと、ティアナはうきうきした様子で出ていく。

 

一応ツーマンセルで深淵の者の戦士も組ませているが。

 

まず不覚を取ることは無いだろう。それだけ強力な武装を渡しているからだ。

 

なお組ませているのは極めて寡黙な女戦士で。同じように匪賊を徹底的に憎んでいるからか、ティアナとも話が合うようだった。ただどうも集団の中で暮らすのが苦手らしく、いつも威圧的な兜を被っている。なおアダレットの騎士団から提供された人材でもある。元々深淵の者から騎士団に手配され潜り込んでいた人材だったのだが。今は柄にあわない間諜もどきよりも、境遇が性に合うようだった。

 

「ソフィー。 これからどうするつもりです」

 

「この間深淵の者が見つけてきたもう一人の子、イルメリアちゃんだっけ。 あの子と会うように仕向けて、自然なライバル関係にさせる。 そうした方が恐らく成長が早くなるだろうからね」

 

「人の運命をもてあそぶような真似は……」

 

「プラフタ。 まだそういう事をいうつもり? この世界はね、もう手段を選んでいられる状態じゃないんだよ」

 

閉口したプラフタは。

 

悲しげにあたしを見る。

 

元々あたしは壊れていた。

 

それをプラフタは知っている筈だ。

 

今更あたしに何を期待する。あたしが願うのは、最初はこの世界への復讐だったけれども。

 

今ではこの世界をどん詰まりにしている、この状況への復讐だ。

 

この世界は詰んでいる。

 

それを打開するためなら。

 

あたしは手段なんて選ばない。

 

手元にある膨大な人間のデータを現在解析しているが。

 

これを元に、人間を作っても良いかもしれない。

 

錬金術師としての才覚を極限まで高めた人間を人工的に作り出す事で。

 

世界の状況を打開する。

 

今のあたしと、周辺設備なら出来る。

 

「まずはフィリスちゃんだね。 旅立ちを反対している両親を黙らせるには、一ついい手がある」

 

「あまり非道な真似は」

 

「大丈夫。 ごねている子供を黙らせるのと同じだよ」

 

ひらひらと手を振ると。

 

あたしはエルトナに戻る。

 

携帯用のアトリエに入ると、フィリスが言ったとおりに本を読んでいた。リアーネが側に控えて、何があっても大丈夫なように備えているのが滑稽である。

 

基礎的な概念をまず覚えて貰う。

 

幸い彼女は座学も相応に出来るようなので。

 

これでいい。

 

あたしは座学が苦手だったから。

 

プラフタがいなければ、大成できなかっただろう。

 

「あ、ソフィー先生!」

 

「フィリスちゃん、基本的な事は分かった?」

 

「はい、その、本当に基本の基本、だけですけれど」

 

「そう。 じゃあ、やってみようか」

 

簡単な調合から、最初はやって貰う。

 

そして、後でフィリスが家に戻ったタイミングでリアーネに告げるつもりだ。

 

リアーネにも錬金術師としての才能があると。

 

フィリスを旅立たせるのがいやなら、リアーネが旅立てば良い。

 

幸い、リアーネは良く出来ているように見えてもまだ十代。伸びしろは充分すぎる程にある。

 

基礎を覚えれば、すぐに錬金術師としての力も伸びるだろう。

 

だが、リアーネはそれを良しとしないはず。いや、出来ないのだ。結果、彼女は両親を説得するだろう。自分が守るから、フィリスと一緒に旅立たせて欲しいと。

 

外から崩すのが無理なら内側から崩せばいい。

 

あたしは、この数年で。

 

人間の扱い方を。いやというほど、習熟した。

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