暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ 作:dwwyakata@2024
アトリエを畳んで、すぐに港に行く。
浮かべられていた船は重厚で。確かに、ちょっとやそっとの事では揺らぎもしそうになかった。
カイさんが船長として乗り込む。
わたしがそれに続いて。
イルメリアちゃんも乗る。
公認錬金術師試験を受けるのだ。
当たり前だろう。
その後、ずしんと揺れが来て。少しずつ、船が沈んで行っているのが分かった。
「あれ、船沈んでいませんか?」
「これは水を入れているんだよ」
「ええっ」
「バラストって言ってな。 大型船だと、船に水を入れて、重心を安定させることが多いんだ」
自慢げに解説してくれるカイさん。
そのまま、船の内部に案内される。
まず、船の上部構造は極めて単純な台形が一つ。其処が艦橋になっている。
台形を上下に組み合わせたような、異質な見かけの船だ。
艦橋の内部からは、魔術によって外が全周で見渡せる。
魔術師が必要な訳ではなく。
単純に自動発動型の魔術に寄るものらしい。
艦橋の方は、既にカイさんが把握しているらしく。操作については、完璧に覚えているそうだ。
そのまま甲板下へ。
船内はがらんとした空間で。
強度を補強するための構造体が多数あるが、それだけだった。
これが本質的には輸送船だと言う事を、此処を見るだけで理解出来る。
ただし、何カ所かによく分からない配管のようなものがある。
後方には強力な防爆壁が作られていて。
その中に動力炉が格納されていた。
なるほど。
完成すると、こういう形になったのか。
中に入って、起動の方法などを教えて貰う。レンさんが既に来ていて、実際に炉に火を入れる所を見せてくれた。
「後は、竜巻を突破するだけね」
「試運転は危険を伴うわ。 最初は最小限の人数だけで行いましょう」
「……それでは、わたしは乗ります」
「フィリスちゃんが乗るならば私も」
まあお姉ちゃんはそう言うだろう。
イルメリアちゃんも残ると言ったのだが、レンさんが手を引いて、一緒に船を下りた。既に炉に火は入っているのだ。
今、ソフィー先生は神出鬼没で何処にいるか分からないが。少なくとも此処にいる錬金術師が全滅するわけにはいかない。
アトリエも、ドロッセルさんに預かって貰う。
もしわたしが死ぬとしても。
ツヴァイちゃんを巻き込むわけにはいかないし。
それにこのアトリエは、貴重な貴重な品だ。
試運転でわたしが死んだとしても。
アトリエまで湖の底に、というわけにはいかないのだ。
結局船に乗ったのは、わたしとお姉ちゃん。それにカイさんの三人だけだった。
逆に言えば。
それで操れると言う事だ。
「しっかしすげえ船だなあ。 こんなんを操作できるなんて、船乗り冥利に尽きるってもんだ」
「向こう岸までお願いします」
「分かってる。 ちょっと……緊張するな」
出発進行。
そうカイさんが声を掛けると。
船の操作盤が作動。
外へ警告音を発した。
「船が発進します。 進路上にある障害物を取り除いてください。 進路上から退避してください」
パラメーターが、全周表示の一部に記載されている。
スクリューが動き始めたらしい。
それだけではない。
スラスターというのも、動き始めたようだ。
がくんと船が揺れ。
進み始めるのが分かった。
「スラスターというのは何ですか?」
「ああ、レンの話によると、姿勢を制御するため、炉から魔力で熱した蒸気を放出しているそうだ。 水は熱すると何十倍にも膨れるらしくてな。 凄いパワーがでるらしいぜ」
「へえ……すごい」
昔の船を参考にしたと言うが。やはり、昔にも凄い錬金術師はいた、と言う事だ。
そのまま船は竜巻に進み始める。
お姉ちゃんが、肩に手を置いた。
わたしが緊張しているのを察したのだろう。
頷く。
この船は、竜巻なんて蹴散らせるくらいじゃないと意味がない。
何しろ、寸断されたインフラを回復させるための切り札なのだから。
風が強く。
凄く強くなってきた。
だが、船は小揺るぎもしない。
カイさんが、よしっと叫ぶ。実際に、船が揺れることもないし。そればかりか、横に流されている様子も無い。
速度を上げる。
完全に竜巻の中に入った。
竜巻の中は、文字通り真っ黒。
だが、計器類が、何処にいるのかを表示してくれる。カイさんが操作をして、船を前進後退、自由自在に動かして見せた。船は、風も。風によって飛んでくるものも。ものともしていなかった。
「船体へのダメージは!」
0と表示される。
それは凄い。
ほどなく、竜巻の中心点に入る。
一際凄まじい風が吹き荒れた後。
一瞬だけ、静かになった。
どうやら、此処が中心点らしい。
しかも渦潮のど真ん中。
普通だったら、船はグシャグシャだろうけれど。
この船は小揺るぎもしていなかった。
「よし、ぶち抜いてやる!」
カイさんが、気力を張り上げて、残りを突破に掛かる。
風は徐々に弱まっていき。
やがて、対岸が見え始めた。
船がフルスハイムに戻ってきたとき。
港には、多数の人が集まり。
喚声を挙げていた。
完全に無事な船体。
そして、最初に降りたカイさんが、向こう側の街に行けることを確認したことを告げると。
更に喚声は高くなった。
さっそく、横のハッチが開放され、物資が運び込まれる。
イルメリアちゃんも乗り込み。
ドロッセルさん達も乗り込んでくる。
アルファ商会の馬車も、四台ほどが、吸い込まれるようにして船に入り。
代わりに船は、バラストという水を排出したようだった。
一旦降りるようにレンさんに手招きされたので、そのまま降りる。
そして船を下りたわたしとイルメリアちゃんは。
蜜蝋で閉じられたスクロールを貰った。
「推薦状です。 二人とも、良くやってくれましたね。 とても助かりました」
「ありがとうございます!」
「……ありがとうございます」
わたしは嬉しかったけれど。
イルメリアちゃんはとてもそうとは思えなかった。
この街での出来事は、あまりにもショックが大きすぎたのだろう。彼女の人生観まで変わってしまった、と言う事だ。
酷い話ではあったと思う。
だけれども、わたしが踏み込んで良い事でもない。
船に乗り直すと。
また竜巻を突破。
最初はこわごわだった乗客達も。
やがて、風に船がびくともしないことを知ると。
わっと喚声を挙げた。
ただ、カイさんが教えてくれる。
「月一度、手入れをしないと流石に危ないってレンに言われていてな。 ただレンの方でそれは出来るらしいから、心配するな」
「後は竜巻ですね……」
「それについては、あのソフィーって錬金術師の先生が、ドラゴンの力を押さえ込んでくれているらしいから大丈夫だってよ。 少なくとも、竜巻を好き勝手に動かして、周辺の街を荒らされることは無いそうだ」
そうか。流石だとしかいえない。
だけれど、どうしてだろう。
ソフィー先生の名前が出ると、お姉ちゃんの顔が曇る。
イルメリアちゃんも、決して嬉しそうでは無い。
程なく、竜巻を突破。
決して豊かとは言えそうに無い街に到着。
船が接舷し。
アルファ商会の馬車が降りると、長老らしい人が出迎えてきた。
わたしが出来るのは此処までだ。
フルスハイム及び周辺都市のインフラは回復した。後は、何とかフルスハイムでやってもらうしかない。
わたしも此処で降りる。
今度は此処から東に進む方法を模索しなければならない。案の場だが、東は荒野。それも、今までに見たことが無いほど酷い状態だ。
この集落周辺には多少の森があり、畑も作られている。
畑の規模はそれなりだが。獣よけがきちんと機能しているのだろうか。
手をかざして見ていると。
イルメリアちゃんが声を掛けてきた。
「どうするつもり?」
「ええと……推薦状は三枚揃ったし、まずは東に行く方法を考えないと」
「そうね」
荒野を無理矢理突破するのは自殺行為だ。
まずは情報収集し、近くの街へ。そして徐々にライゼンベルグに近づく方法を模索しなければならない。
まだわたしは。
試験を受けられる前提条件を整えただけ。
試験会場への道は。
果てしなく遠いのだ。
(続)
ついにフルスハイムを襲う竜巻を突破する事に成功したフィリス。
しかし竜巻の先には荒野が拡がっており、すぐに突破する事は不可能です。
一つずつ路を塞ぐ石を除くように。
フィリスは錬金術で問題に対応していく事になります。
現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。
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このままでいい
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一日で一章がいい
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更に分割して欲しい