暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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1、修羅に入る

グリフォンが吠える。

 

鳥の頭をしていても、体は獅子。しかも、巨体とは思えない程に動きが速く、当たり前のように魔術まで使う。

 

わたしが投擲したレヘルンの冷気を強引に突破し。

 

お姉ちゃんが放った矢でも、突き刺さるに留まる。

 

小さな獣なら、文字通り風穴があく火力なのに。カルドさんの長身銃でも致命傷には至らず。

 

逃げ腰になる戦士達を無視するようにして、レヴィさんが出る。

 

そして、印を切って、グリフォンの突進の前に、魔術で障壁を展開。

 

ずり下がりながらも、その勢いをわずかに削る。

 

老錬金術師パイモンさんが掲げた石から雷が空に向け立ち上り。

 

数倍に膨れあがってグリフォンに突き刺さる。

 

流石に竿立ちになって悲鳴を上げるグリフォンの頭上に。

 

躍り上がったアングリフさん。

 

下に、斧で地面を擦りながら走るドロッセルさん。

 

二人が丁度叫びをあわせて。

 

斬り下げ。

 

切り上げる。

 

グリフォンの分厚い表皮が抉り取られ。

 

二人が跳び離れ、地面に激突するグリフォン。

 

やったか。

 

若い錬金術師バローズさんが叫ぶ。

 

だが、それに呼応したようにグリフォンが立ち上がり、凄まじい勢いで突貫してくる。

 

影のように動いたアリスさんが、その脇腹を派手に切り裂くが。

 

それでも突撃は停まらない。

 

わたしは地面に手を突くと。

 

魔力を注ぎ込んだ。

 

この間作った獣のアロマで、更に増幅された魔力が。

 

私の魔術を更に強化している。

 

地面から噴き出すように岩が突きだし、グリフォンの前に立ちふさがる。それさえも無理矢理突破するグリフォンだが。

 

その至近距離。

 

頭の真横に、お姉ちゃんが弓を構えていた。

 

今のは視界を塞ぐためのもの。

 

お姉ちゃんが矢を放つ。

 

この至近距離だ。

 

流石にグリフォンもひとたまりもない。

 

側頭部を打ち抜かれたグリフォンが、ぐらりと揺らぎ。

 

地響きを立てて倒れる。

 

へたり込んだカレルさん。

 

一番冷静そうだったのに。

 

必死にそう装っていただけだったのか。

 

ぶるぶる震えている。

 

或いは、フルスハイムまで、傭兵だよりで来たのかも知れない。

 

「やれやれ。 これでまだ三匹か。 先が思いやられるな」

 

戻ってきたアングリフさん。

 

もう面倒なので、正式にわたしが雇うことにした。イルメリアちゃんには半額を返した。

 

お金には余裕があるし。どうせ今後戦略級の作業が必要になってくる。

 

今の味方戦力ではどうしても足りない。

 

それだったら、戦闘のプロが近くにいた方が良い。

 

まあ、かなり高かったけれど。

 

この人くらいの実力者がいれば安心だ。

 

今の最後の一撃だって。

 

アングリフさんが大きな傷をつけてくれていたから。

 

お姉ちゃんの一矢が通ったのだから。

 

グリフォンを解体する。

 

素材は錬金術師全員で分けるが。

 

解体する様子を見て、バローズさんは吐き戻していた。なんだ、線が細い。わたしも最初は怖かったけれど。もう何百匹も獣なんて捌いてきたし、今更血がどばどば出ようが、内臓が腹からこぼれ落ちようが、何とも思わない。カレルさんも、青ざめたまま立ち尽くしている。

 

まあ、頭脳活動を期待しよう。

 

今後は連携しないとどうせ先にはいけないのだ。

 

喧嘩していても仕方が無い。

 

フルスハイム東(正式にそういう名前の街らしい)から借りてきた戦士達は、青ざめて立ち尽くしている。

 

今まで爆弾を滅多矢鱈に投げて追い払うだけだったグリフォンが、こうして次々倒されている。

 

それだけでも彼らには驚きらしかった。

 

アングリフさんが、グリフォンを片付け終わると、鼻を鳴らす。

 

「おいフィリス。 あいつらはちょっと鍛え直しがいるな。 お前以上のモヤシじゃねーか」

 

「わたしモヤシですか?」

 

「おう。 もっと肉喰え」

 

「むー!」

 

アングリフさんは腕が立つが。

 

どうしてもこう、一言多い。

 

お姉ちゃんもあまりその辺は良く想っていない様だけれど。知り合いであるドロッセルさんが、その度にまあまあと取りなしてくれるのだった。

 

ともかく、グリフォンを退治しながら、街の周辺の安全圏を拡げていくのだが。

 

グリフォンの数が多すぎる。

 

街に近い縄張りを持っているだけで十頭近い。

 

一日での目標は五頭、と思っていたが。

 

バローズさんとカレルさんが思っていた以上に頼りない事もあって。これは目標を下方修正するしかないかも知れない。

 

だが、もたついていたら。

 

それこそ何が起きるか分からない。

 

ともあれ、選択肢だけでも増やさないと話にならないのだ。

 

雪山を突破するか。

 

橋を修復して南側からライゼンベルグへ向かうか。

 

どちらにしても、多大な危険を伴う。

 

それにしても、どうしてライゼンベルグはこんなインフラ破綻を放置しておくのか。手練れの錬金術師を派遣する案件だろうに。

 

「そろそろいいか」

 

「はい、此方は何時でも」

 

「よし、カルド。 次はアレだ。 釣れるか?」

 

「任せてください」

 

カルドさんが地面に腹ばいになると。

 

長身銃で、何か獣を食べているグリフォンを狙う。

 

そして、見事に目に命中させた。

 

跳び上がったグリフォンは、まっすぐ此方に突進してくる。

 

今度は温存していたイルメリアちゃんが動く。

 

前に出ると、空を飛ぶ剣を飛ばし。

 

それらは回転しながらグリフォンに襲いかかった。

 

だが、グリフォンは残像を作って上空に躍り出る。信じられない動きだ。

 

更に、其処から、一気に突撃してくる。

 

回転しながら突撃してくるその速度は、尋常では無かった。

 

だが、アングリフさんが即応。

 

完璧なタイミングで、身の丈ほどもある剣を投げつける。

 

わずかにそれるが、翼をざっくり抉る。

 

速く飛んできていると言う事は。

 

剣がより速く突き刺さる、と言う事だ。

 

翼をやられたグリフォンが、わずかに着弾点をずらす。

 

真上に、斧をフルスイングしたドロッセルさん。

 

至近で、弓を構えたお姉ちゃん。

 

腰を低くして、何だかかっこいい(?)ポーズで剣を構えるレヴィさん。

 

更に、腰だめして、双剣を翼のように構えるアリスさん。

 

四人が一斉に、総力での攻撃を叩き込んだ瞬間。

 

わたしは両手を拡げ。

 

そして、目の前で叩いた。

 

新しく実用化した魔術だ。

 

地面から噴き上がった岩が。

 

跳び離れた四人が「いた」地点に、大量に降り注ぐ。

 

まさかの隕石群に手負いのグリフォンは、硬直し。

 

そして岩の直撃に押し潰された。

 

剣を拾って戻ってきたアングリフさんが。

 

潰されて、虫の息になっているグリフォンの首を容赦なく叩き落とし、とどめを刺す。これで四匹目。

 

岩をわたしが崩して死体を引きずり出すと。

 

吊して捌く。

 

グリフォンは死体を触ってみて分かったが、爪もくちばしの中にある牙も硬度が凄いし。翼にはとても強い魔力が籠もっている。

 

翼の羽は、皆に分けるが。

 

カレルさんは完全に青ざめていて。

 

最初は触るのさえ拒否した。

 

「おいおい、そんなんでこの先に行くつもりか? 北の雪山にはドラゴン、南の峡谷は匪賊の本拠地って言われる程の場所だぞ。 当然獣もうようよいやがる。 俺たちには良い稼ぎ場でもあるんだがな」

 

アングリフさんは言うが。

 

笑ってはいない。

 

バローズさんとカレルさんは、或いは錬金術師としての才覚は持っているのかも知れないが。

 

あまりにも戦闘力が不足しすぎている。

 

戦闘に耐えられるほどの精神力もない。

 

わたしだって、殺し合いは怖い。

 

前は多分今の二人よりずっと怖がっていたと思う。

 

だけれど今は。

 

数をこなしたから平気だ。

 

きっと二人も。

 

すぐに平気になるだろう。

 

そうわたしは思っていた。

 

その日のうちに、結局七匹のグリフォンを撃破。

 

多少のけが人は出たが、わたしとイルメリアちゃんが薬を支給して、傷は即座に治してしまう。

 

グリフォンの素材は平等に分け。

 

お肉は余った分を街に寄付する。勿論生では無く燻製にしてある。

 

燻製はどれだけあっても足りない。

 

非常食として有用だし、この間インフラが破綻したばかりなのだ。

 

街の長は喜んでくれたが。

 

だが不安そうにもしていた。

 

グリフォンだけならいいが。

 

この街の近くには、巨大な鳥のネームドもいるのである。

 

ともかく、そいつとの戦闘も視野に入れなければならない。

 

なに、今は錬金術師が五人もいるのだ。

 

ドラゴンならともかく。

 

ネームド単品なら大丈夫だろう。

 

そう思って、夕刻に一旦解散。

 

アングリフさんは正式に雇ったので、アトリエに案内する。アトリエに入って貰った事はあったが、しばらくは此処で暮らせると知ると。アングリフさんは、設備が揃っていて悪くないと喜ぶのだった。

 

「宿でいちいち金を使わなくて良いのはいいな。 しばらくは厄介になるぜ」

 

「お願いします」

 

「おう。 ああ、そうだ。 あの二人な。 多分明日にはもういないぞ」

 

「えっ……」

 

アングリフさんは鼻を鳴らす。

 

まさか、と思ったのだが。

 

その発言はあたった。

 

翌朝。

 

グリフォン退治をしようとミーティングをするべく宿に行ったのだが。

 

バローズさんとカレルさんは既にチェックアウト。

 

昨晩来た装甲船に乗って、フルスハイムに去ったという事だった。

 

思わず口をつぐんでしまう。

 

なんでこんな事で諦めてしまうのか。

 

わたしでさえ。

 

鉱山に閉じ込められて、何も知らなかったわたしでさえ。

 

戦おうと思っているのに。

 

悔しいと言うよりも、ちょっと悲しかった。

 

溜息が漏れる。

 

イルメリアちゃんが、少し低い声で言った。

 

「もういいわ。 あの二人、戦闘では何も役に立っていなかったし、作る薬だってアルファ商会の標準品以下だったわ。 仮にライゼンベルグまで到達できても、試験には受からなかったわよ」

 

「でも、勉強すれば……」

 

「もしその気があれば、次の試験を目指して戻ってくるでしょう。 もう気にしている暇は無いわよ」

 

冷酷なものいいだが。

 

フルスハイムまで戻られてしまうと、流石にもう追っている余裕が無い。

 

一方、パイモンさんは結構平然としていて。

 

流石に年期が違うと言うか。

 

戦い慣れた老錬金術師の貫禄のようなものがあった。

 

早朝から、昨日も一緒に戦って貰った(あまり役には立たなかったが)街の戦士達にも集合を掛け。

 

昨日七体倒したのだから。

 

今日は十二体と、アングリフさんが目標数を告げる。

 

確かにそれだけ倒せば、街の周辺に緑化作業をする余裕ができるはずだ。まだオスカーさんは畑の周辺を耕して土を豊かにしている状態のようだけれども。此処から緑化作業に移れるだろう。

 

オスカーさんの話では、出来れば街の中も空き地を緑化したい、という。

 

そうすることで、街が攻撃を受けたときの被害を減らせるし。

 

何より街の土壌も豊かになるそうだ。

 

ともかく。

 

グリフォンの処理が先となる。

 

今まで悠々と過ごしていたところを、いきなり攻勢に出られたからか。

 

グリフォン達は朝から殺気立っていて。

 

アングリフさんは釣りに慎重だった。

 

離れた個体を、それぞれ激昂するように目などの急所を狙ってカルドさんに狙撃して貰い。

 

こっちに来たところを集中攻撃で仕留める。

 

戦士達にも戦わせる。

 

アングリフさんが言う通り、戦士達は最初は、弱った相手にとどめを刺すところから始めて。

 

徐々に戦闘での危険な場面に投入していく。当然怪我も増えるが。わたしが薬を支給する。

 

指が飛んだくらいなら、すぐに薬でくっつく。

 

また、余っている型落ちの錬金術装備も一旦貸し与えておく。

 

回復力が上がればそれだけで動きも良くなるし。

 

身体能力が上がれば、反応できる場面も増える。

 

改良の段階で、型落ちの品がかなり出ているのだ。

 

こうやって支給すれば。

 

どれだけ戦闘経験が足りない人達でも、相応に戦えるようになる。

 

順番に、一匹ずつ仕留めていくが。

 

やはり手強い。

 

グリフォンは個体によって戦闘力に差が大きく。

 

残像を作って動くような奴から。

 

魔術で遠距離から雷やら炎を飛ばしてきたり。

 

或いはいきなり加速して、至近にまで詰めてくる奴までいた。

 

一瞬でも気を抜くと、死ぬ。

 

アングリフさんが常に最前線に立ち続けて、グリフォンの攻撃を受け止め、いなし。

 

それを更にレヴィさんが補助する形で敵の致命的な攻撃は防ぐ事がどうにか出来ていたが。

 

それでもこのままだと、時間の問題だろう。

 

予定通り十二体倒したところで、かなりグリフォンがいない地点が増えた。

 

時間が少し余ったので、グリフォンの縄張りに入り込んで来ていた小型の獣も処理しておく。

 

イルメリアちゃんとパイモンさんのコンテナにはちょっと量が多い戦利品は、わたしが預かる。

 

その代わり、等価になりそうな稀少鉱石を二人に譲った。

 

此方はそもそも、最初からソフィー先生にこんないいコンテナを貰っているのだ。

 

譲り合いの精神は当たり前の事で。

 

手伝ってくれるだけ、二人には感謝しなければならない。

 

夕方になって、一度街まで下がる。

 

そうすると、オスカーさんが。

 

例の不思議な森から、だろう。

 

幾らかの植物の苗と。

 

それに栄養剤を持ち込んできていた。

 

「おうフィリス、イルメリア。 それにパイモンさん。 グリフォンの駆除は予定通り行っているみたいだな」

 

「はい。 おかげさまで」

 

「明日からは防衛戦になる。 ネームドには作業中ちょっかいを出されると面倒だし、何とか出来ないか」

 

「……」

 

それは、困る。

 

遠くから確認しているが、アードラのネームドらしいあの巨大な鳥は。

 

それこそ片足でグリフォンを掴んで、ムシャムシャ食べるほどの大きさだ。

 

今の此方の戦力で、どうにかなる相手なのかどうか。

 

あまり勢力を無為に伸張すると、間違いなく仕掛けてくるだろう。

 

とにかく、ギリギリのラインを見極めていくしかない。

 

「やはり、倒してしまうしかないのではあるまいか」

 

「しかしパイモンさん、あれを相手にするのは……ちょっと自信がありません」

 

「同感。 死人が出るわ。 勝てれば御の字、下手をすれば全滅よ」

 

「だが、あんな強力なネームドを放置もできまい。 そもそもこの街の衆はグリフォンにさえ怯えていたのだぞ」

 

パイモンさんは、何処か悔しそうだった。

 

何かあったのだろうか。

 

だが、あまり詮索するのも良くない。

 

今回戦闘に参加した戦士達から、錬金術の装備を返して貰うと。

 

一度アトリエに引き上げる。

 

ツヴァイちゃんが在庫を整理していて。

 

それを先に戻っていたドロッセルさんが手伝っていた。

 

だいぶツヴァイちゃんは歩いて動き回れる時間が増えたようで。

 

突然発作に襲われることも減っていた。

 

心が少しずつ正常になっている、と言う事で。

 

非常に喜ばしい。

 

それで分かってきたのだが。

 

ツヴァイちゃんは元々口数が非常に少なかった様子だ。

 

そもそも、ホムは子供を作るときにはたくさんつくるが、作らないときにはまったく作らない、という種族。

 

一人っ子というのは珍しく。

 

或いはこれからたくさん子供を、という時期に。商売が失敗した、という事情だったのかも知れない。

 

そうなると、苦しい生活ばかり見てきたのだろうし。

 

きっと口数が少なくなるようなものばかり見てきたのだろう。

 

捨てないで、と言われた。

 

きっとだけれども。

 

親がそんな風に言われているのを、見て育ったのではあるまいか。

 

確実に貧しくなっていく様子を、肌で味わっていたのではないだろうか。

 

いずれツヴァイちゃんが元気になったら、聞かせて貰いたい。その時は、ツヴァイちゃんを支えてあげたい。

 

在庫について話を聞いたので、今日はもう大丈夫と、休んで貰う。

 

お姉ちゃんが色々と勉強を教えているようで。

 

それで丁度良いくらいだろう。

 

本当だったら仕事なんかしないで遊んでいれば良いと思うのだけれど。

 

そうもいかないか。

 

子供が遊んで勉強だけしていられる世界。

 

そんなものがあったのなら良いのだけれど。

 

ただ、匪賊共の所行を知れば知るほど。

 

そういった世界でも、人間がまともでいられるかどうかはかなり疑わしいと、わたしは思うようになって来た。

 

しばしぼんやりとベッドで休む。

 

眠れない。

 

戦う事はもう怖くない。

 

だけれど。

 

わたしは恐らくだが、今後どんどん知っていくことになる。そして錬金術師は知らなければならない。ありとあらゆるものを。ありとあらゆることを。

 

人間を少し知っただけで。

 

わたしは此処までダメージを受けている。

 

もしも、もっと恐ろしいものが世界にたくさんあって。それらを知っていったら、わたしはどうなるのだろう。

 

少し、怖い。

 

知る義務がある。

 

だけれども、わたしは。

 

その義務を果たせるのだろうか。

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