暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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2、襲来豪爪

朝早くから、翌日は動く。

 

戦士達が集まったのを見て、眉をひそめた。何人かいなくなっている。

 

話を聞くと、体調不良を訴えているそうだ。

 

それなら仕方が無いけれど。

 

怖じ気づいたのではないのだろうか。

 

口をつぐむ。

 

今までわたしが、如何に楽な場所を通ってきたのか、思い知らされてくる。頼りなかったディオンさんだって、しっかり錬金術師をしていたし。メッヘンの戦士達は、みんな責任感もあって強かった。

 

それがこの街はどうだ。

 

大きな街の衛星都市で。東に行く必要が一切なく。街に籠もっていればある程度は平気だった、というのはあるだろう。

 

だが今は、竜巻のせいで、もしも獣に襲われたら、船に乗って逃げるというわけにはいかない。

 

装甲船がたまたま来ていれば話は別だが、そう都合が良いものではない。

 

身を守るためにあらゆる努力をしなければならないのに。

 

何だか、やるせなくなってくる。

 

ともかく、残った戦士達に錬金術で作った装備品を配り。

 

まずは緑化予定地点の外側に杭を打ち込む。そして、櫓を建てる。

 

櫓については、構造をアングリフさんが詳しく知っていて。

 

オスカーさんが提供してくれた木材を利用して、ぱっぱと立ててくれた。後は櫓自体に強力な防御魔術を発動できるように、イルメリアちゃんが手を加える。柵を配置し、櫓を建てるだけで、ほぼ半日掛かってしまった。

 

後は杭に獣よけの処置をする。

 

これについては、レンさんからレシピを教わっている。そして、杭の内側の獣を処理してから、緑化作業開始だ。

 

流石にグリフォンは戦闘力が高い分、個体数はそれほど多く無い様子で。

 

アングリフさんが見込んだとおり、削った後街の側にまで縄張りを拡大している者はいなかった。

 

それと、観察していて分かったのだが。

 

グリフォンは空を飛ぶことも出来るが。

 

やはり巨体で飛ぶ事は相応の負担になるらしく。

 

何も無いときは、地面をのしのしと歩いていることが多い様子だった。

 

もう一つ、確認できた事がある。

 

彼らに仲間意識の類は無い。

 

既に彼らも見ている範囲で二十体近くのグリフォンを仕留めているのに。

 

此方に対する敵対行動を積極的に見せる様子は無い。

 

そもそもなんでグリフォンなんて大物があんなにたくさん密集しているのか。

 

繁殖のためなのか。

 

どうもそうでもないとアングリフさんから聞いた話によると思う。

 

グリフォンは営巣地を作って其処で増えるタイプの獣らしく。

 

しかも営巣地は、アダレットの首都付近にあるという。

 

要するにそれだけの長距離を移動してきて。

 

わざわざこの辺りに住み着いている、という事である。

 

ますます理由が分からない。

 

別に美味しい餌がたくさんいる訳でも無いだろうに。

 

戦士達の腰が引けている様子を見る。

 

狩り易い、という点では確かかも知れないが。

 

しかし、かといって街の人間が、グリフォンに大量に狩られていた、という話もない。

 

更に言えば、である。

 

此処から南の峡谷地帯は、匪賊が出る事で前から有名だったらしいのだが。

 

この辺りに大量のグリフォンが住み着き始めたのは、最近だという話も聞いている。

 

ますます分からない。

 

一体何が起きたというのか。

 

アングリフさんが、戦士達をオスカーさんに預ける。

 

オスカーさんは手慣れた様子で農機具を振るいながら、戦士達にレクチャーを開始。わたしの方でも保有している栄養剤を提供。オスカーさんは、受け取ってくれた。作業に関しては、オスカーさんの方でも栄養剤は保有しているらしいのだけれど。

 

作戦行動を取るからには、わたしの方からも自腹を切りたい。

 

最低限の責任として。

 

それをやっておかないと、自分が怠けてしまうかも知れない、からだ。

 

アングリフさんが手を叩く。

 

わたし達は、歴戦の傭兵の元に集合すると。

 

話を聞くことにした。

 

「あの柵の内側は絶対防衛ラインだ。 つまるところ、あの柵にそもそも獣を近づけてはいけない」

 

「分かりました。 もっと外側で敵を仕留めなければならない、と言う事ですね」

 

「そうだ。 どうせ街の安全確保の後は、橋を再構築するか雪山に向かうんだろう? だったら獣は少しでも狩っておいた方が良い」

 

「……」

 

あの逃げてしまった二人も。

 

或いはライゼンベルグに辿りついて、勉強をすれば。

 

ディオンさんのように試験に受かって。

 

いずれ公認錬金術師になっていたかも知れない。

 

この辺りが、いきなり環境激変したのだとすれば。

 

本来はライゼンベルグの仕事だったとしても。

 

此方で手をかせるのなら。

 

手を貸して、環境を回復させたい。

 

全員で移動しながら、まずはまだ近くにいるグリフォンを一体ずつ釣り出して、狩っていく。

 

その過程で、邪魔な獣も全部処理しておく。

 

イルメリアちゃんは自分で捌きたいというので。

 

アリスさんに任せて。

 

わたしは他の皆と一緒に、その間に周囲を確認。

 

徹底的に、片っ端から。近づく獣を狩っていった。

 

その間、注意していたのは。

 

巨大なアードラのネームドである。

 

あれは絶対に、戦うと骨が折れる。

 

まともにやり合ったら危険すぎる。

 

今の時点では、此方に目もくれていないのだけが幸いだが。それも、いつまで続くかどうか。

 

柵に近づいてくる獣とグリフォンを、合計で十体ほど始末。

 

後方では、湖から水路を引き。

 

土を耕し。

 

栄養剤を既に入れる作業が終わっていた。

 

前は此処から雑草を一旦入れるのだが。

 

オスカーさんは、まだどういう判断からか。

 

それは早いと考えたようで。

 

土をしきりに触って確認している。

 

植物とも話しているので。

 

街の戦士達は気味悪がっていた。

 

そうか、ギフテッド持ちに対する知識がないのか。

 

作業がやりづらくなるかと思ったので、引き上げてきたタイミングで、わたしが鉱物の声を聞こえる事。

 

そして、聞こえると出来る事を見せておく。

 

つるはし1丁で邪魔な大岩を砕いてみせると。

 

流石に戦士達も青ざめる。

 

オスカーさんも同じで。

 

植物の声が聞こえて。

 

緑化作業を円滑に進められるのだと話をすると。

 

彼らはバツが悪そうに視線を背け。

 

以降は指示に従う事を約束した。

 

夕方になって戦士達が引き揚げて行く。シフトでこの防衛ラインを守ろうという考えはないらしい。

 

オスカーさんが来る。

 

進捗を聞くが。

 

オスカーさんは、厳しいと一言だけ言った。

 

「この辺りの土なんだけれどな。 魔力が少し前まで吸い上げられていたんだよ。 原因はよく分からないけれどな」

 

「魔力を、土から吸い上げる?」

 

「ああ。 恐らくは邪神の仕業だろう。 だが、邪神がそんな事をするなんて、聞いたことも無いんだがな……」

 

オスカーさんが小首をかしげている。

 

イルメリアちゃんが咳払い。

 

詳しく話を聞きたい様子だ。

 

「緑化のプロフェッショナルと自称していますが、手際については本当に大丈夫なのでしょうね」

 

「おっと、手厳しいな。 今はまだ栄養剤から漏出する魔力で、空気を入れた土を活性化させている段階だ。 その後成長が早い草を入れて水を撒く。 草の苗については、既に用意してある」

 

オスカーさんが見せてくれたのは。

 

前にオレリーさんが使っていたのとは少し違うけれど。

 

青々と茂った植物だ。

 

なるほど、コレを植えるのか。

 

「ある程度育った後は、種を回収して、燃やす。 これは可哀想だけれど、緑化のためには仕方が無い事なんだ」

 

「その後は」

 

「まずまた地面を掘って、根を切る。 そして今度は低木の苗を植え、少しずつ森にする準備を整えていく。 一部の土は耕さずそのままにしておいて、道にする準備を整えておく」

 

「それならば、硬化剤があります。 作るのは難しくないので、使ってください」

 

ありがとうよと、気さくにオスカーさんはいう。

 

少なくとも悪い人では無いなと、わたしは判断した。

 

ともかく、今までの手順についても、オレリーさんがやっていたのと何ら違いがない事から考えて。

 

嘘っぱちでもないのだろう。

 

事実土に触ってみると。

 

じんわりと温かくなっていた。

 

魔力を充填している、というのはこういうことなのだろう。

 

「確かに耕す前とは違うみたいだね」

 

「フィリス、鉱物の声とやらは聞こえないの?」

 

「土の声なら聞こえるけれど、魔力が充填されて気持ちいい、くらいしか分からないよ」

 

「そう」

 

イルメリアちゃんはどうしてかぶっきらぼうに話を切る。

 

その後は、アトリエに戻り。

 

交代で見張りを立てながら、休憩に入る。

 

今日からは、私も見張りに立つことを提案。

 

お姉ちゃんが難色を示したが。

 

アングリフさんが言う。

 

「いつまでも過保護だと育たねえぞ。 ずっとモヤシのままでいいのか?」

 

「フィリスちゃんはモヤシじゃありません!」

 

「いーやモヤシだね。 少なくとも、見て侮られる程度には細い。 実力の方もまだまだ伸びるんだから、今のうちにいろんな事を経験させておけ。 それが姉の責務ってもんじゃねえのか」

 

お姉ちゃんはまだ反発しようとしたが。

 

わたしがやりたいと言うのを聞くと。

 

しばし逡巡した後。

 

折れてくれた。

 

アングリフさんは意外に面倒見が良く。

 

交代で見張りをするときに眠くならないようにするコツや。

 

どうすれば奇襲を防げるかなどを、細かく教えてくれた。

 

わたしの場合、鉱物の声が聞こえるので。

 

それによって、危ない場合は事前に危機察知が出来るのだけれども。だけれども、それ以外の探知手段もあるなら知っておきたい。

 

アングリフさんが一緒に見張りに立ってくれたので。

 

色々と話を聞いておく。

 

「金は大事だ。 ちいとばかりフィリスよ。 金に無頓着すぎるんじゃねえのか?」

 

「はい、でも必要なお買い物はしておかないと……」

 

「そんな考えじゃ駄目だな。 買い物をするために金をしっかり稼いでおくくらいの感覚でいないと、いつか痛い目にあうぞ」

 

「買い物のためにお金を稼ぐ……」

 

あまり考えた事はなかった。

 

そもそも大規模な戦略事業でたくさんのお金を貰っていたし。

 

そのおかげで、資金に困ったこともなかった。

 

エルトナを出たときも。

 

しばらくはお姉ちゃんがお金を出してくれていたし。

 

お金に執着することはなかった。

 

お金がないとどう困るかは。

 

アングリフさんが丁寧に説明してくれたけれど。

 

どうにもお金には執着が湧かない。

 

それを聞くと、嘆息するのだった。

 

「まあいい。 金の大事さは、いずれ嫌でも思い知る。 そろそろ交代の時間だ。 交代の後は出来るだけ急いで寝ろよ」

 

「はい。 もう眠いので、多分すぐ眠れます……」

 

「その後短時間で起きる事になるから、体調を壊さないようにな」

 

頷くと。

 

交代で出てきたレヴィさんとカルドさんと代わる。

 

少し眠っていると。

 

もう朝。

 

かなり体力の消耗も大きい。

 

なるほど、確かにアングリフさんが警告するわけだ。街の中などでは見張りも必要ないが。

 

今後は他の街との間隔も離れているだろうし。

 

そんな楽な事はまずない、と判断して良いだろう。

 

翌朝も、早くから出て、獣を片っ端から狩る。

 

案の定、獣よけの柵にかなり近づいている獣がいたので。

 

徹底的に処理する。

 

大型の牛も。

 

大型の蜘蛛もいたが。

 

いずれも、カルドさんが銃撃して釣り。

 

近づいて来た所に、地面に埋めておいた爆弾で爆破。

 

生きていたとしても、引きつけて、集中的に袋だたきにして仕留めてしまう。

 

小物は数匹同時に呼んで、まとめて片付けて処理に掛かる時間を減らしてしまう。

 

そしてキャンプに死体を引きずり込むと。

 

次への作業を短縮するため。

 

可能な限り急いで解体してしまう。

 

後ろでは、土の様子を見ながら、少しずつオスカーさんが草を入れているようだった。同一種類の草らしく。苗で入れられた草は、もうその日のうちに伸び始めていた。

 

そういえばオレリーさんは種からやっていたが。

 

苗からの方が、短縮できるのかも知れない。

 

ともあれ、数日はどの道身動きできないのだ。

 

この近辺の獣を少しでも減らして。

 

行動範囲を拡げておかなければならない。

 

余った肉は食べて、少しでも力にしておく。

 

昔は兎肉ばかり食べていたが。

 

牛や鳥、蛇や甲殻類、大型の虫、山羊なども食べるようになって来た今は。

 

特に肉であれば余程酷いもの以外は平気になって来たし。

 

獣を見て怖いとも思わなくなった。

 

見張りの順番を決める。

 

イルメリアちゃんが挙手。

 

今度から、イルメリアちゃんとアリスさんも見張りに加わるという。

 

ツヴァイちゃんもそれを見て自分も、と自己主張したいようだったが。

 

アングリフさんが先に手を打っていた。

 

「お前はまだだ。 自衛するだけの武力が身についてからな。 戦い方については別にホムでも子供でもやりようはある。 俺が教えてやるから心配するな」

 

「お願い……しますのです。 捨てられるのは……いや……です」

 

「ああ、心配するな。 俺がそんな事はさせねえよ」

 

まずは大丈夫だろう。

 

次の日も、少しずつ安全圏を拡大しつつ、順調に進める事が出来た。

 

問題は。

 

その次の日に起きた。

 

 

 

早朝。

 

叩き起こされる。

 

何かあったのは明白すぎる程だ。すぐに着替えると、わたしはアトリエの外を確認。外では、凄惨な光景が広がっていた。

 

グリフォンのまだ若い個体を鷲づかみにしたあの巨大アードラが。

 

がつがつと、死体を貪り喰っている。

 

よりによってキャンプのすぐ側で、である。

 

これはまずいなと、アングリフさんは言う。

 

お姉ちゃんの言葉を思い出す。

 

ネームドは例外なく、人間に対する強い殺意を持っている。ネームドは獣同士の争いよりも、人間を殺すことを優先する。

 

そうか。

 

恐らくあのアードラは。

 

今まで、グリフォンとの戦闘で、此方が消耗するか。

 

もしくはグリフォンが減ったと判断して、此方が強行突破を狙うのを待っていた、のだろう。

 

しかし此方は堅実に獣を狩り続け。

 

そればかりか、緑化作業を明確に始めた。

 

どんな獣も森には手を出さない。

 

森に住む場合はあるが。

 

最初に戦ったネームドでさえ、森を傷つけようというそぶりは、一切見せなかった。

 

それほど、この世界では植物が貴重なのだ。

 

どうやって植物を食む生物が生きているのか、よく分からない程に。

 

つまるところあのアードラは。

 

当てが外れたことを察し。

 

此方を仕留めるため、圧力を掛けに来た、と言う事なのだろう。

 

厄介だ。

 

だが、やらなければならない。

 

「やるつもりなら覚悟しろ。 此処にいる戦力だと、恐らくは死人が出るぞ」

 

「出させません」

 

「……覚悟は決めておけ」

 

アングリフさんは、敵が地面にいるうちに仕掛ける、という。

 

まず上空に爆発物を投げ。

 

敵が飛ぶのを阻止しろ、とも。

 

敵が飛んでしまうと。

 

後は上空から、一方的に叩き伏せられるだけだとも言う。

 

なるほど。

 

確かに獣からして見れば、圧倒的優位である上空という地の利を捨てるわけがない。それならば、その有利な戦略的条件を取らせなければ良い。

 

そして今、敵は。

 

わざと隙を見せて、攻撃を誘っている。

 

それならば。

 

大まかな攻撃の順番を説明する。

 

幾つか、アングリフさんが修正案を出してきたので、それを取り入れる。自分が一番危険なポジションを引き受けるのは、流石アングリフさんがプロであるが故だろう。あの巨大なアードラのネームドを仕留めてしまえば。この辺りの獣は、もうグリフォンと雑魚しかいなくなる。

 

少しはインフラの回復速度も上げられるはずだ。

 

だったらやらない手はない。

 

まず、わたしがアトリエから出る。

 

アードラの巨体が、嫌でも見える。

 

プレッシャーが凄まじい。

 

鳥は此処まで大きくなるのか。

 

神の力を得た獣。

 

ネームド。

 

あまりにも生物の範疇を超えすぎている存在と言う事はわかる。だが、グリフォンを掴んでおやつにするような鳥なんて、存在していて良いわけがない。

 

此処で、この生物として存在してはいけない者は。

 

倒す。

 

わたしが地面に手をついた時も。アードラは平然としていて。食事を堪能し続けていた。

 

だから、わたしは、容赦なく。

 

フルパワーで。

 

アードラの腹を、下から岩を隆起させ、突き上げ。

 

更に他数カ所で隆起させた岩を上空へ吹き飛ばし、布石にする。

 

流石に強烈に腹を殴られて、アードラは鋭い声を上げた。

 

この声だけで、人間が手を出してはいけない相手なのだと、悟らされるが。

 

それでも引くわけにはいかない。

 

間髪入れずに、イルメリアちゃんが飛び出し。

 

大型のフラムを投擲する。

 

十個以上を束ねたもので。

 

オリフラムというらしい。

 

爆裂するオリフラムが、飛び立とうとする超巨大アードラを地面に押しつけ、羽がミシミシとなるのが聞こえる。

 

同時に、さっき打ち上げた岩の塊が。

 

アードラの翼を全て直撃。

 

特に左翼に大きなダメージを与える音が、此処まで聞こえた。

 

流石に激怒したアードラが。

 

奇妙な鳴き声を上げる。

 

それが魔術の詠唱だと言う事は分かっている。

 

魔術を使うネームドなんか、何体も見た。

 

わたしは大技を使ったばかりでうごけない。

 

だから他の皆が動く。

 

飛び出したお姉ちゃんが弓を引き絞り。

 

カルドさんが狙撃。

 

眼球を直撃。

 

だが、眼球を貫通するにいたらない。

 

相手も詠唱を止めない。

 

だが、その時には。

 

眼球に、お姉ちゃんがピンホールショットを叩き込んでいた。

 

流石に大口径の長身銃による一撃と。それに間髪入れずの、大火力による矢の直撃である。

 

目に矢が突き刺さり。

 

詠唱が一瞬停まる。

 

その間に、ドロッセルさんとアングリフさんが至近に。

 

懐に潜り込んだ二人が、翼に左右から一撃を叩き込んでいた。

 

痛々しい音と共に。

 

アードラの翼がへし折れる。

 

だが、アードラが反撃開始。

 

体を揺するだけで、二人を吹き飛ばす。

 

更に、残っている翼を高々と掲げ、降り下ろすだけで。

 

烈風が此方に吹き付けてきた。

 

文字通り、目も開けていられないもの凄い風だ。アトリエは小揺るぎもしていないが、キャンプはギシギシ揺れ、櫓も倒壊寸前。ただ翼を降り下ろしただけでこれか。

 

それだけじゃない。

 

中断していた詠唱を完成させ。

 

ぶっ放してくる。

 

それは、青白い魔力の束で。

 

収束し、地面を溶かしながら迫ってくる。

 

飛び出したレヴィさんが、剣を盾にし、更に魔術に寄る防壁を何重にも重ねる。更にパイモンさんが秘蔵らしい道具で防壁を強化するが。なおもネームドの火力が上回る。

 

一気に防壁が喰い破られ。

 

レヴィさんが吹っ飛ばされる。

 

パイモンさんは必死に自身で魔術を展開して耐えたが、それで魔力を使い切ったようだ。

 

まずい。

 

本当に強い。

 

立て続けに、次の魔術詠唱に取りかかりつつ。

 

巨大アードラは、足を振るって、アングリフさんを襲う。

 

アングリフさんが、一番瞬間火力があると判断したのか。

 

速すぎて、避けられない。

 

アングリフさんが大剣で一撃を受け止めるが、あからさまに押し込まれる。横からドロッセルさんが大斧を叩き込むが。なんと足にはじき返された。金属塊でさえブチ割るドロッセルさんの一撃なのに。

 

お姉ちゃんとカルドさんは、残ったアードラのもう一つの目を集中的に狙っているけれど。

 

アードラは平然と、それらをかわしながら、詠唱を進めていく。

 

アリスさんが仕掛ける。

 

残像を作って、数度跳躍。

 

矢をかわしたアードラの動きを先読みして。

 

置き石的に先回り。

 

双剣で、渾身の一撃を残った目に叩き込むが。

 

アードラは首を柔軟にしならせ。

 

アリスさんを吹き飛ばした。

 

強い。

 

イルメリアちゃんも戦力を出し惜しみしていない。

 

空飛ぶ剣は既に展開済みだが。

 

首の辺りに突き刺さって回転しつつ抉っているにも関わらず、超巨大アードラは意にも介していない。

 

これが、強力なネームド。

 

強い者はドラゴン並だと聞いていた。

 

だが。まさかそれを間近で見せつけられるとは。

 

でも、負けてはいられない。

 

大技の反動から立ち直ったわたしも、爆弾を投擲する。イルメリアちゃんも、次々に爆弾を投げつける。パイモンさんも、雷の道具を展開。

 

連続して炸裂する爆弾と雷に、鬱陶しそうにわずかに詠唱を中断するアードラ。

 

好機だが、まだ相手にそもそも飛べなくなる、片目を塞ぐ、という以上のダメージを与えていないのである。

 

アングリフさんが相手の足からかろうじて逃れるが。

 

剣撃も斧も、相手の分厚い装甲を貫通できていない。

 

爆弾も片っ端から色々なものを試しているが。

 

分かる。

 

あれは身に纏っている魔力の出力が高すぎる。だから、どれもこれもが弾かれてしまっているのだ。

 

言われた事を思い出す。どうして人間はドラゴンや邪神に勝てないか。

 

魔力の出力が違いすぎるからだ。

 

ネームドも同じ事。

 

アダレットの騎士団が、ネームド討伐で大きな被害を毎回出すという話は何処かで聞いたけれど。

 

それも頷ける。

 

アードラが鬱陶しそうにアングリフさんを蹴りで追い払い。ドロッセルさんを無事な方の翼ではじき飛ばす。アリスさんに向けてくちばしを降り下ろす。アリスさんはかろうじてかわすが、地面が激しく抉られ、クレーターが出来た。

 

わたしはその瞬間、地面に手をつき。

 

詠唱を開始。

 

何処でそれを察知したか。

 

アードラはさっと顔を上げるが。

 

其処へ、狙い澄ましたお姉ちゃんの矢が吸い込まれ。

 

口の中に滑り込み、喉を直撃した。

 

つづけてカルドさんも速射。

 

まだ無事な目に当てることに成功する。

 

苛立ちが頂点に達したらしいアードラが、此方に向けて、さっきレヴィさんを一撃で吹き飛ばした魔術の発動に掛かるが。

 

その喉に。

 

回転しながら、何かが突き刺さる。

 

予想外の一撃。

 

気配を隠して接近していた、オスカーさんが投擲した農具だった。

 

魔術が放たれる寸前の一撃である。

 

愕然とするアードラ。

 

タイミングを見計らい。

 

アングリフさんが跳躍。

 

更に上空から、フルパワーで先に飛んでいたらしいドロッセルさんが、飛び降りてくる。

 

ドロッセルさんは大岩を抱えていた。

 

「オラあっ!」

 

アングリフさんが、くちばしを蹴り挙げる。

 

ドロッセルさんが、大岩をくちばしに上から叩き付ける。

 

アードラが全身から魔力を放ち、二人を吹き飛ばすが。

 

次の瞬間。

 

イルメリアちゃんの剣が、同時にくちばしに殺到し、上下左右から突き刺さって無理矢理縫い止め。

 

更にアリスさんが、残っているアードラの目に、双剣をねじりこんだ。

 

アリスさんが跳び離れるのと。

 

アードラの魔術が暴発するのは同時だった。

 

爆裂した魔術は、アードラのくちばしを内側から吹き飛ばす。

 

悲鳴を上げて転がり回るアードラ。

 

わたしは詠唱を時間を掛けて行い。

 

そして、意識を集中。

 

アードラが、少し岩壁に近い状態になっている地点まで転がった瞬間。

 

その岩壁のバランスを崩した。

 

岩が崩れるときのパワーがどれほど凄まじいかは。

 

わたしが身を以て。

 

その声を聞いて。

 

全て知っている。

 

アードラの全身を、巨大な岩石が情け容赦なく乱れ打ち、叩き潰していく。流石の巨大な体も、これではひとたまりもない。

 

だが、それでもなお、アードラは喚きながら、立ち上がる。

 

不死身か。

 

くちばしを失いながらも、大きく息を吸い込むアードラ。

 

もう一発、アレを受けてしまうともう防ぐ術がない。

 

だが、その時には。

 

既にお姉ちゃんが動いていた。

 

さっきの崖跡を蹴って跳躍すると。

 

アードラのぐしゃぐしゃになった顔面。その露出した脳に。

 

渾身の矢を、しかも至近から叩き込む。

 

文字通り、空気を蹴散らしながら飛んだ矢が。

 

脳にめり込むと。

 

鮮血と文字通りの脳漿をぶちまけながら、超巨大アードラの頭を完全破壊する。

 

装甲がどれだけ分厚くとも。

 

内側から打ち抜かれれば、どうにもならない。

 

お姉ちゃんが着地。

 

アングリフさんが叫ぶ。

 

「まだだっ!」

 

アングリフさんが剣を投げつける。

 

超巨大アードラが転がり回って暴れている時に、剣が離れていたようなのだが。それを拾って投げつけたのだ。

 

同時にドロッセルさんも大岩を投擲。

 

渾身の一矢と、更に高所からの着地で動けないお姉ちゃんに、鋭い爪を降り下ろそうとしていたアードラは。

 

横殴りの岩で態勢を崩し。

 

更に大きく露出した喉の傷口をアングリフさんの大剣に串刺しにされた。

 

お姉ちゃんを、アリスさんが抱えて飛び退く。

 

更に、だめ押しに、カルドさんが長身銃で狙撃。脳みその残骸を、更に容赦なく、欠片も残さず、吹き飛ばした。

 

それが、流石にとどめになった。

 

ゆっくり、横倒しになったアードラが。

 

地面に接触すると同時に。

 

辺りが揺れる。

 

わたしが岩壁を崩したときと同じか。

 

それ以上の凄まじい音が。

 

辺りに響いていた。

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