暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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雪の街フロッケに向かうフィリス。
そこにいるのは、最年少で公認錬金術師試験を突破した天才児。
しかしフィリスも始めたばかりのルーキー。
その才能は確実に飛躍し始めています。


雪山の華
序、白泥


かろうじて緑化が成功し。

 

フルスハイム東から、雪山へと。それに、落ちてしまっている峡谷の橋までは、森に守られた道を作る算段がついた。

 

加えてフルスハイム東の周囲の畑も森で守るように緑化を進め。

 

畑の規模も一気に拡大した。

 

確かに手際は凄まじい。

 

オスカーさんという人、専門家を自認するだけあって、緑化の技術に関しては多分オレリーさん以上だ。

 

この人と組んでいたという錬金術師が誰なのかは気になるが。

 

いずれ会ってみたいものである。

 

ともあれ、緑化は一段落したものの、まだ目を離すわけにはいかないということなので、オスカーさんはフルスハイム東に残る。

 

わたしは緑化した街道の一番東。

 

雪山の麓にキャンプを移動させると。

 

どうやって此処から、拡大視の魔術で確認できる山中の街へ進むかの話をする。

 

この間から同行しているパイモンさんは、錬金術師としてはベテランで。少なくともしばらくは一緒に行動して欲しい。

 

公認錬金術師試験を受ける、と言う意味では利害も一致しているし。

 

この人は故郷に公認錬金術師として戻り。

 

貧しい街をどうにか豊かにしたいと考えてもいる様子だ。

 

確かに公認錬金術師の免許があれば、アルファ商会などの支援を受けられるかも知れない。

 

人員を貸して貰えれば、街道などを整備して、人間を行き来させられるかも知れない。

 

それらの切実な話は、まったく他人事ではない。

 

イルメリアちゃんはそういう話を聞くと、眉をひそめるというか、険しい顔をする。

 

そういえばイルメリアちゃんは、どうして公認錬金術師になりたいのだろう。

 

それについては、まだ詳しく聞いていない。

 

フルスハイムで色々あったからか。

 

イルメリアちゃんとはまだしっかり腹を割って話す事が出来ていないように思える。

 

その内話をしたい。

 

でも、今は時間もなかった。

 

アングリフさんは言う。

 

昨日から、お姉ちゃんとレヴィさんを連れて、雪山を見に行っていたのだ。

 

「まず雪山の様子だがな、こりゃあ骨が折れるぞ」

 

地図を拡げる。

 

ざっくりした地図で。それほど詳しいものではないが。

 

はっきりわかるのは、もはや道など無いという事だ。

 

完全に山中の街は孤立している。

 

ただ、山中の街からは盛んに煙が上がっていて。

 

その周辺の雪は溶けているようだ。

 

街は雪から守られている、と見て良いだろう。

 

「まず第一に、この辺りが関門になる」

 

元々街道だったらしい場所の一角を、アングリフさんが指さす。

 

巨大な構造物がある。

 

それがなんなのかはよく分からないが。

 

この周囲に霊が多数。

 

更にリッチの姿も確認できたという。

 

リッチについても聞いておく。

 

魔術師の完全上位互換である錬金術師に対し。何とか差を埋めようとした魔術師は今まで数多くいたという。

 

その中で、人生を捨ててまで出力を上げようとし。そして人間を止めてしまったのが、リッチと呼ばれる者達だ。

 

理性を残している者もいて。

 

人間でありながら死体になり。

 

かといって、魔術の出力が上がった所でこの過酷な世界で覇を唱えられるわけでも無く。錬金術師にも及ばず。

 

文字通り腐ったまま存在しているという。

 

禁術を使っても差を埋められない。

 

人生を捨てまでしたのに。

 

それは錬金術師を恨むのも分かる気がする。

 

ましてや錬金術師は、才能がないとまずどうにもならないのだ。

 

魔術師は何処にでもいるが。

 

錬金術師はそうではない。

 

そしてドラゴンも邪神も。

 

錬金術師がいないとどうにもならない。

 

リッチになった所で同じ事。

 

リッチの中には、桁外れに強くなる者もいるそうだが。それでも、どうあがいてもネームドと同等止まり。

 

逆に言うと。

 

集まっているリッチ達は、ネームドと同等の脅威とも言える。

 

「まずこのリッチ共を追い払う」

 

「元人間と言う事で、話はできませんか?」

 

「色々難しいんじゃないのか。 ましてやフィリス、イルメリア、じいさん。 あんたらは錬金術師だ。 それに山にある街にいるのも錬金術師だろ?」

 

「……そう、ですね」

 

わたしはたまたまギフテッドに恵まれた。

 

イルメリアちゃんだってパイモンさんだって、才能を持っている。

 

だがリッチになった人達は。

 

そうではなかった。

 

努力ではどうにもならない壁が、生まれた時からあったのだ。

 

同情は失礼に当たるし。

 

かといって下手に出ても解決する話だとは思えない。

 

でも、戦いは出来るだけ避けたい。

 

そう話すと、アングリフさんは、しばらく考え込んだ後に頷いた。

 

「分かった、ネゴはしてやる。 ただし、向こうは問答無用という可能性も高いから、気を付けろよ」

 

「分かりました」

 

「次は此処だ」

 

山の中腹に、アングリフさんは地図上で指を動かす。

 

よく見ると、全身傷だらけのアングリフさん。指も皮を丸ごと持って行かれたとしか思えない傷が多数残されていた。

 

「この辺りに数体のドラゴンがいる。 住んでいるのは最下位のドラゴネアだが、それでもこの間のアードラなんぞよりずっと強いぞ」

 

「戦いになったら勝ち目は無い、と言う事ですね」

 

「違う。 戦いにさえならない」

 

「……分かりました」

 

そうか、そうだろう。

 

ともあれ、その地点は避けなければならない事は良く分かった。それだけで、現時点では充分だ。

 

そして、最後に、言われなくても分かる事がある。

 

少し雪山に入ってみた。

 

それで分かった。

 

とてもではないが、進めたものではない。

 

最初、雪は面白かった。

 

だが、一瞬でそれは苦行へと変わった。

 

歩くだけでつらい。

 

雪は非常に重く。

 

足を強烈に絡み取ってくる。

 

見た目は綺麗だけれど。

 

積もっている雪は泥沼と何ら変わりが無い存在だ。

 

この上で走るなんてまず無理。

 

出来るかもしれないけれど、転べば足を折る。

 

少しずつ雪を溶かして進むとなると。

 

一体どれだけ掛かるか分からない。

 

更にだ。

 

爆弾や魔術の使用は厳禁、と先にアングリフさんに釘を刺されている。

 

雪崩が起きる可能性がある、というのだ。

 

そして実際に、雪崩が起きるのは見た。

 

此処とは違う方面の斜面だけれども。凄まじい勢いで雪が滑り落ちていった。あれは土砂崩れと何ら変わらない災害そのものだ。

 

そういえば、雪の上を歩いている獣たちも。

 

あまり激しい音は立てないようにしている。

 

それはそうだろう。

 

雪崩は大きな振動や音でも発生するという話だ。

 

自分達の行動が、雪崩を引き起こすなんて。

 

経験上知っているからこそ。

 

避けたいのだろう。

 

ならば、ゆっくり雪を溶かしながら進むか。

 

それもいい手だとは思えない。

 

雪山の進み方についてはレクチャーを受けたが。

 

そんな事をしていたら、そもそも山の中腹にたどり着けないし。

 

何よりも、人員を借りて来る、という最大の課題を達成することが出来ないのだ。

 

手をかざして見ると。

 

麓から、村そのものは見える。

 

だが、山の天気はころころ代わり。

 

雪が降り出すことは、ここ数日で六回起きている。

 

仮に雪を溶かしながら進んだとしても。

 

すぐに雪はまたつもり。

 

全ての行程は台無しになるだろう。

 

何か、手がいる。

 

アングリフさんが、パイモンさんと一緒に、リッチ達とネゴに行く。駄目な場合は支援しろと、お姉ちゃんとカルドさんには指示が出ている。パイモンさんを連れていくのは、魔術師であるからだそうだ。

 

というか、パイモンさんが申し出た。

 

相手が老人の方が、態度も険しくならない。

 

わたしとイルメリアちゃんは所詮コドモだ。

 

錬金術師そのものを嫌っているリッチ達にとって、それこそコドモで才覚があるなんていう相手は、それこそ不倶戴天の相手だろう。人生まで捨てたのに、錬金術師に及ばないのだから。

 

無用に刺激しないためにも。

 

わたし達は出向くわけには行かない。

 

わたしは遠くから様子を見守りながら。

 

雪山を突破する手を考えていた。

 

「イルメリアちゃん。 あの村まで移動して、人員を連れてくる手……何かないかなあ」

 

「この近くに、ラスティン最大の図書館がある事を知ってるかしら?」

 

「えっ、そうなの?」

 

「昔の遺跡をまるごと利用したものらしくてね。 山のど真ん中にあるのよ」

 

イルメリアちゃんが顎をしゃくる。

 

今、向かおうとしている山とは違う山。

 

その山には雪など降っていない。

 

つまるところ、今向かおうとしている山だけが異常気象に包まれていることが、よくよく理解出来る。

 

「其処には見聞院の本部もあると聞いているわ。 というか、其処の図書館が見聞院本部だそうよ」

 

「何か良い道具の手がかりがあるかも知れない、と言う事だね」

 

「そうよ。 でも、人員の移動だけなら……」

 

イルメリアちゃんが見たのは、わたしのアトリエだ。

 

確かにこのアトリエを使えば。

 

数十人くらいは輸送できる。

 

物資も同時に。

 

だが、その代わり、少数で獣だらけの雪山を突破しなければならないことも意味している。

 

ドラゴンまでいるのだ。

 

こんな所に住んでいる獣は、どれだけの実力があるのか。

 

此処まで街道を延ばすのでさえ一苦労だったのである。

 

無駄に体力を消耗すれば。

 

村に辿りつく前に、死人が出るだろう。

 

一度、アングリフさんが戻ってきた。

 

反吐を吐きそうな顔をしていた。

 

「交渉決裂だ」

 

「戦うしかないですか」

 

「いや、そうでもない。 彼奴らは、あの柱に近づくものを容赦しないで攻撃すると言っている」

 

顎をしゃくるアングリフさん。

 

此処からも見えるのだが。

 

リッチは何か、巨大な氷柱のようなものの周囲に集まって、何やら儀式のようなものをしている。

 

何となく理解出来てきたが。

 

要するに此処は文字通りのリッチの聖地、というわけか。

 

「あの柱は、リッチの技術を開発した最初の魔術師の屍が埋まっているもの、だそうでな」

 

「逆に言うと、近づきさえしなければ攻撃もしてこない、ということですか」

 

「そのようだな。 ただし奴らは霊も従えていて、霊達は周囲を彷徨いながら無差別攻撃をしている。 それについては俺が行く途中で実際に確認した。 パイモンの爺さんが道具で追い払ってくれたがな」

 

パイモンさんが見せてくれた道具は、ランタンにしか見えなかったが。

 

どうやら霊にとってとても嫌な光らしい。

 

幾つか、思いついた事がある。

 

この間。

 

巨大なアードラを仕留めたとき。

 

岩場を崩した。

 

その際に、鉱石を入手したが。

 

浮かぶ鉱石を幾らか手に入れたのだ。

 

いわゆるグラビ石、というものらしい。

 

これだけでは、人体を浮かせることも出来ないし、制御も難しい。空気に触れているとその内機能も失ってしまう。

 

ソフィー先生にもらった図鑑に記載があった。

 

だが、このグラビ石を上手に加工できれば。

 

或いは。

 

「雪が邪魔だったら、飛んでいけば良いんです」

 

「ほう。 飛ぶだって?」

 

「パイモンさんの獣よけのランタン。 これを併用して、獣たちが縄張りにしていない空域を通って、あの街にまで移動出来れば……」

 

「それだったら、崩れた橋を飛び越えていけないか」

 

わたしは首を横に振る。

 

それは駄目だ。

 

あの橋はそもそも存在していなければならないインフラ。あれがあるからこそ、ラスティンの首都であるライゼンベルグに錬金術師達がかろうじてたどり着けていたのだ。

 

ライゼンベルグが何をしているかはさっぱり分からない。

 

単に人手が足りないのかも知れないし。

 

或いは認識さえしていないのかも知れない。

 

だが、ライゼンベルグで交付される公認錬金術師免許に価値があり。

 

実際公認錬金術師が優れた実績を上げているのを、わたしは何度も見ている。

 

そしてはっきり分かったが。

 

公認錬金術師はあまりにも足りなさすぎる。

 

少なくとも、ライゼンベルグは錬金術師の都とさえ言われていると聞く。

 

それならば、そもライゼンベルグに辿りつけば、勉強の機会もあるはずで。ライゼンベルグで勉強して成長し、公認錬金術師に相応しい人間になる事だって可能なはずだ。

 

その可能性の芽を摘む事は。

 

あってはならないのだ。

 

「なるほど。 自分さえ良ければいい、とは考えないわけだな」

 

「当たり前です。 そんな風に考えるのは匪賊だけで充分です」

 

「……そうかも知れないな。 まあ良いだろう。 それでどうする」

 

振り向く。

 

今、オスカーさんが緑化作業を順調に進めている。

 

既にフルスハイム東を守るように森がしっかり出来。畑の面積は数倍に膨れあがっている。

 

近場の小集落から、それを見て人員が流れ込んでいるようで。

 

フルスハイムからも、それを見て資金援助が行われ。街の規模拡大と、整備が行われ始めている様子だ。

 

だが、それも中途。

 

まだまだ緑化作業が完成し。

 

フルスハイム東周辺が安全になるまでは時間が掛かる。

 

実はドラゴンが何回か飛来したのだが。

 

森が着実に拡がっている様子を見て。

 

襲撃はせず、引き揚げて行った。

 

この世界では、ドラゴンでさえ。

 

森は傷つけない。

 

実例を、わたしは見る事になった。

 

「フルスハイム東からは、まだ少しの間離れられないと思います。 その間に、ちょっと調べ物をしてみたいです」

 

「何かすげえ道具でも作るのか?」

 

「はい」

 

頷く。

 

わたしが作ろうと思っているのは。

 

空を飛ぶための道具だ。

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