暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

67 / 150
1、閉ざされた図書館

同じ山でも違いすぎる。かたや大雪に見舞われ、年中真っ白。もう片方は、普通に歩くことも出来るし、寒くも無い。

 

一体何が起きている。

 

邪神か何かの仕業なのか。

 

それとも、そういう自然現象か何かなのか。

 

最初は、雪といえばわくわくしたのに。

 

現物を見てしまうと。

 

寒いし足を取られるし。

 

動けないし重いし。

 

それが致命的なもので。

 

綺麗で楽しいものでもなければ。

 

溶ければ汚れた水になるだけなのだと、思い知らされてしまった。

 

雪山の入り口近辺を少し調べ。

 

岩などを割って鉱石を入手した結果。想像以上に品質が良い鉱石や、珍しいものが手に入る事も分かったが。

 

その一方で獣も強く。

 

何しろ身動きが取りづらいという事で、とてもではないがまともに進めたものではない事もはっきりした。

 

オスカーさんに一旦調査に出向くことを告げると。

 

イルメリアちゃんが言っていた山の図書館に来た。

 

そして山を少し歩いて行くと。

 

枯れ果てた山の中に。

 

ぽつんと、小さな街が存在していた。

 

街の入り口には強力な結界が張られていて、どうやら公認錬金術師もいるようだが。公認錬金術師は推薦状発行を受け付けていないらしく。アトリエに出向いても、「推薦状は発行しません」と門前払いに等しい通知が出されていた。

 

街そのものはそれほど暮らしづらそうでは無い。

 

山の中だというのに水はある。

 

獣よけの結界。

 

更には恐らく対ドラゴン用の対空投石機。大型の爆弾。ブレスを防ぐためらしい、強力な防御の魔術を展開する道具。そういったものが一式揃っている。実際ドラゴンと戦った跡らしきものも残っている。

 

水もしっかり出ていて。

 

井戸では無く、非常に澄んだ湧き水が水路に流れており。

 

一方で下水も整備されていて。

 

小さくまとまってはいるが。

 

とても暮らしやすそうな街だ。

 

ただし此処を出たら、とても生きていけそうに無いなとも思う。街の人間もあまり多くはない。

 

街には宿があるが。

 

宿の側にイルメリアちゃんのものとパイモンさんの馬車を停めると。

 

宿の人が驚いて出てきた。

 

しばらくぶりの客だという。

 

それはそうだろう。

 

麓があんな事になっているのだから。

 

そして、意外な事もあった。

 

街を見ていると。

 

髭を生やした、いかにも歴戦という初老の男性が声を掛けてきたのだ。腰には双剣を帯びている。

 

「ドロッセル! アングリフ!」

 

「お父さん!」

 

「おう、フリッツじゃねえか!」

 

お姉ちゃんは目を細めて警戒するが。

 

どうやらドロッセルさんが笑顔を浮かべて駆け寄っている所からして、どうやら本人で間違いないらしい。

 

ガハハハと笑いながら、アングリフさんが肩を叩いている。

 

「どうした、こんな山に」

 

「孤立したこの集落から救援依頼があって、しばらく滞在していたのだよ。 麓はグリフォンだらけだろう?」

 

「それなら片付けたぜ」

 

「知っている。 だから此方でも、そろそろ此処を離れようと思っていてな」

 

ドロッセルさんが紹介してくれる。

 

フリッツさん。

 

アングリフさんと近辺では肩を並べる実力を持つ傭兵で。歴戦の猛者だという。

 

主にネームド退治や匪賊の撃退などで各地にて活動してきた傭兵で。近年ではアングリフさん同様、戦略級の仕事で活躍する、いわゆる上位の傭兵だそうだ。

 

その実力は確かで。

 

数年前にはドラゴンどころか、邪神の撃破にも成功しているという。

 

ただし、超がつくほどの腕利き錬金術師と一緒に戦った成果らしいが。

 

「何だお前、邪神と戦ったってのは本当だったのか」

 

「文字通り紙一重の勝負だったよ。 まあ積もる話もある。 後で軽く飲むとしよう」

 

「お父さん、お母さんの所には帰らないの?」

 

「此処での仕事が終わったら戻るつもりだ。 アダレットもきな臭くなってきているし、仕事に困る事はないだろう」

 

そうか。

 

何だか複雑な家庭の話が聞こえてしまった気がするが。

 

それはそれで別に良い。

 

流石にわたしの所で、戦略級の仕事をして貰う上位の傭兵を二人も雇う余裕は無い。というよりも、本来は二線級でも良いので、これからという若手の戦士をもう何人か雇いたい所だが。

 

一度、宿で解散にする。

 

カルドさんは子供のように目を輝かせて、見えている図書館にすっ飛んでいった。

 

やはり遺跡を調べていると言うだけあって。

 

ああいう、現役で使われている遺跡には心躍らされるのだろう。

 

標の民、だったか。

 

イルメリアちゃんとパイモンさんとも、一度別れ。

 

わたしはお姉ちゃんと二人だけになる。

 

アトリエに残してきたツヴァイちゃんがちょっと心配だが。それについては、レヴィさんが面倒を見てくれるそうだ。

 

レヴィさんは何でも、さっき様子を見て買ってきた甘味類をお菓子に試してみたいらしく。

 

ツヴァイちゃんの面倒を見つつ。

 

アトリエで料理に没頭したいらしい。

 

レヴィさんは、ああみえて子供の世話は慣れている。ツヴァイちゃんも、甘いお菓子を作ってくれるレヴィさんの事が好きなようだし、面倒を見てもらっても大丈夫だろう。

 

わたしはその間に。

 

さっきスキップまじりでカルドさんが飛んでいった図書館の方へと出向く。

 

図書館の中には見聞院があり。

 

麓の情報などを知らせる。

 

ある程度情報が集まったという理由で、少しお小遣いを貰った。見聞院というのは、相当にお金がある組織らしい。或いは、情報を生かすことが出来る組織なのかも知れなかった。

 

それから、見聞院の長であるという、おっとりした女性に案内して貰う。

 

フルスハイムの図書館から見ても、桁外れの蔵書だ。

 

此処なら、あらゆる本が揃うかも知れない。

 

しかも、この遺跡は山に半分埋もれていて。

 

広さは文字通り桁外れだ。

 

その上頑強極まりなく。

 

昔、ドラゴンのブレスが直撃しても、耐え抜いたことさえあるという。それで何となく察する。

 

此処は、ある意味。

 

ドラゴンに襲われた際には、最後の砦になる場所なのだと。

 

地上部分だけでは無く、地下もかなり深くまであるらしく。

 

蔵書は古今東西のあらゆる本。

 

愚につかないものから。

 

錬金術師が生涯を掛けて書き残した究極の書物。

 

更には、古代の生活の様子を記した貴重な日記。

 

遙か昔に大暴れした邪神の記録などもあるという。

 

わたしは、空を飛ぶ道具に関する資料を求めると。アンネリースさんという女性は。少し考え込んでから、地下二階の書庫へと案内してくれた。

 

地下二階も、地下一階と同規模であり。

 

そして、薄暗い中。何カ所かランタンが灯された場所がある。

 

其処に、非常に険しい顔をした女性が座って、資料を確認していた。

 

良くは見えないが。

 

顔は若いようにも思える。

 

ただし、雰囲気は、どうしてか見かけと一致していないように思えた。

 

「あの人は」

 

「前に此処の主と呼ばれる人がいたんですよ。 此処の本を読み尽くしているのでは無いかって噂がある程のね。 その人が見えなくなってから、現れた人で、その人のお孫さんではないかと」

 

「……」

 

孫。

 

にしてはおかしい。

 

空気がひりひりすると言うか。

 

あの人から感じるのは、歴戦というのも生ぬるい、老練という気配だ。

 

ともかく、錬金術の書籍棚に案内して貰う。

 

空を飛ぶ錬金術については、昔から相応の資料があり。

 

有名な本はまとめてあるという。

 

十冊ほどを受け取ると、早速読ませて貰う。

 

なお、借りて持ち出す場合は有料だが。

 

此処で読むだけなら、ただだという。

 

ただし魔術による高度なセキュリティが掛かっていて。本を盗もうとした場合は、厳しい処罰が科せられるそうだ。

 

ともあれ、さっそく目を通す。

 

グラビ石については、すぐに見つかった。どうやら古い時代から、空を飛ぶためには必須のものとして重宝されていたらしい。

 

それだけではない。

 

例えば、靴を軽くするために用いたり。

 

上手く加工すれば、道具を軽くしたり。

 

荷車の負担も減らせるという。

 

なるほど。

 

メモを取り出すと、情報を写していく。こういう錬金術についての貴重な情報を、もっと広めれば。或いは、人々の生活は今よりずっとマシになるのでは無いかと、わたしは思ってしまうのだが。

 

それは贅沢なのだろうか。

 

できれば、子供達は笑って遊んで、勉強だけしていればいい。

 

そんな世の中が来れば良い。

 

そして才能がある子はみんな発掘されて。

 

錬金術師になれれば。

 

でも、錬金術師は戦略級の存在だ。

 

それに人間であることに代わりも無い。

 

もし、錬金術師が悪い事をするようになったら。誰が止めるのか。

 

そういえば、レンさんの前のフルスハイムの公認錬金術師は、嫌に良いタイミングで「不審死」を遂げたと聞いている。

 

考え込んでしまう。

 

とにかく、情報を収集。

 

調べていくと、グラビ石の能力を更に圧縮した、グラビ結晶と言うものも作れるようだ。圧縮率と質によっては、巨大なものも浮かせることが可能だという。

 

これは。

 

使えるかも知れない。

 

すぐにグラビ結晶の研究に切り替える。

 

荷車にしても、今の段階だと。時々部品を切り替えるのが大変なのだ。これもグラビ石を取り入れれば、軽く、なおかつ痛むのを遅らせることが出来るかもしれない。

 

装備品にしても、靴は前から改善が出来るかもしれないと思っていた。

 

上手くグラビ石を取り入れれば。

 

それこそ、天を駆ける速度で走れるかも知れない。

 

グラビ石は調べて見ると、それそのものが強い魔力を持っているという話で。

 

他にも様々な道具へと応用が利きそうだ。

 

なるほど。

 

集中して調べていく。

 

二日ほど図書館に通う。

 

その間、レヴィさんと話をするが。

 

今の時点で、ツヴァイちゃんは相当に落ち着いて来ている様子で。コンテナでせっせと確認作業にいそしんでいる反面。

 

剣術を教えて欲しいと、時々言われるそうだ。

 

だが、ツヴァイちゃんの小さな体では、剣術は向いていないと話をして。

 

諦めさせてもいると言う。

 

ツヴァイちゃんは力を求め始めている。

 

それが危うい。

 

レヴィさんは、よく分からないしゃべり方ではなく。真面目に、ツヴァイちゃんが眠った後に、皆で夕食をとりながら言うのだった。

 

「匪賊に家族を目の前で生きたまま喰われたんだ。 恨みが溜まるのも無理はねえ」

 

そうアングリフさんは言う。

 

あまり多くは食べないが。それはフリッツさんと飲んでいたからだろう。

 

ちなみにドロッセルさんを見て安心したのか。

 

フリッツさんは、もう昨日のうちにこの街を出たそうだ。

 

これからアダレットに行くとなると大変かもしれないが。

 

アングリフさんと同格の傭兵となれば、難しくはないのかも知れない。

 

「フィリス、ツヴァイの戦闘技術については俺が仕込んでやる。 ホムは身体能力が低いが、数字には強い。 接近戦で瞬間の判断を求められるような前衛には向いていないが、そこの学者先生みたいに狙撃をしたり、或いはここぞという所で一発のデカイ攻撃を叩き込む一撃離脱には向いてる。 或いはリソースを管理して、戦闘をコントロールする参謀も良いかもな」

 

「アングリフさん、あんな小さな子を」

 

「あれはもう大人になろうとしている虎だ。 子供といって侮っていると、牙も爪も揃えてきて驚くのはお前さんだぜ、リアーネ。 ドロッセルもそこのモヤシくらいの頃には、もう匪賊の群れに切り込んで、首をスパスパやってたからな」

 

「え、私がアングリフさんと一緒に戦ったのって、15年も前だけど」

 

ドロッセルさんが不満そうに口を尖らせる。

 

ちょっとまった。

 

ドロッセルさんは確か二十代半ばと聞いている。

 

と言う事は。

 

この人、十歳の頃にはもう前線に出て、匪賊を殺していたのか。

 

というかもう一つ待った。

 

わたし、アングリフさんに十歳くらいに見られていたのか。いくら何でもそんなに幼くない。

 

むっと膨れるわたしに気付いていないのか、カルドさんが続ける。

 

「それにしても此処の遺跡は興味深い。 後から図書館として利用するようになったのでしょうが、此処を作った錬金術師は凄腕ですね」

 

「それについては意見が一致するわね。 というよりも、此処は要塞として作られたと思うのだけれど」

 

イルメリアちゃんが応じる。

 

彼女はわたしより野菜が好きなようで、料理も積極的に野菜のものを食べている。

 

なおアリスさんは一切会話に参加せず。

 

黙々と、必要な栄養だけを取っているように見える。

 

「そういえば爺さんは」

 

「図書館から持ってきた本を一心不乱に読みあさっているわ。 声を掛けるまでは宿から出てこないかも知れないわね」

 

「そうか、元気な爺さんだ。 年を取ると新しい情報を頭に入れるのはどんどん難しくなるからな。 貪欲に知識を増やそうとする老人ってのは珍しいんだぜ」

 

「……」

 

それで思い出す。

 

図書館に二日通ったが。

 

二日とも、あの不思議な雰囲気の人はいた。

 

一度目はあった。

 

だが、相手は此方を気にもしていないようだった。

 

あの人は、見た目と気配が完全に一致していなかった。

 

何者なのだろうか。

 

「時にフィリス、どうにかなりそうか」

 

「山を下りた後、少し雪山の岩を崩して回ります。 グラビ石が大量にいると思いますので。 護衛をお願いします」

 

「何をするつもりだ」

 

「荷車の両脇にグラビ結晶を取り付けた棒をセットして、浮かぶようにして。 後方に炉をつけて推進力を作ります。 後は炉からの余剰の力を利用したスラスターを何カ所かにつけて。 獣に手を出せない高度を移動出来る荷車に改造するつもりです。 オプションとして霊よけのランタンもつけます。 一連の道具はキット化して、取り外しが出来るようにする予定です」

 

イルメリアちゃんが愕然とする。

 

スラスターの構造については、この間の炉で確認した。

 

推進力の出し方も分かった。

 

最初は空飛ぶ箒にするつもりだったのだけれど。

 

それだと、わたし一人で、奇襲してくる可能性も高い敵から身を守りつつ、雪山を低高度で行かなければならなくなる。もしも途中で事故を起こしたりしたら、それこそ即死案件だ。

 

これに対して、今まで荷車を作る過程で培った技術を応用し。

 

自動回避装置などを組み込んだ荷車を飛べるようにすれば。

 

周囲を確認する要員、防御を担当する要員、操縦要員などを含め、数人が乗り込んだ状態で、空を飛んで移動する荷車を作る事が出来る。

 

そして、残りの人員はアトリエに入って貰えば良い。

 

イルメリアちゃんが俯いて震えている。

 

どうしたのだろう。

 

「これが完成すれば、わたしは状況を見ながら、上空から敵を爆撃する形でみなを援護できると思います。 お姉ちゃんとカルドさんも、相手の上を取りながら敵を狙撃できると思います。 何より、荷車に重量制限が必要なくなります」

 

「ハッハッハ! 流石は錬金術師だなオイ! あの船を作ったときは流石に俺も驚いたが、やっぱり錬金術師は格が違うぜ」

 

「でも、多分公認錬金術師はもっと凄いと思います」

 

「……そうだな。 前にちらっと見たあのソフィーって錬金術師なんかは特にそうだろうな」

 

不意に。

 

アングリフさんの声が影を帯びた。

 

そして、夕食が解散になると。

 

イルメリアちゃんは、無言でアトリエを出て行った。

 

何だろう。

 

とても嫌な予感がした。

 

 

 

宿の部屋に戻ると。

 

イルメリアはベッドに腰掛け。大きなため息をついた。

 

分かっていた。

 

アレは化け物だ。

 

フィリスが装甲船のアイデアを出した時。

 

あり得ないと、最初にイルメリアは思ってしまった。

 

確かにその時点ではあり得なかった。

 

だがフィリスは恐らくだが、分かっていたのだ。

 

その場にいる公認錬金術師レンの力と。

 

そしてここぞと支援に来たソフィーの力があれば、実現可能な事だと。更に言えば、それを無意識で理解していた可能性が高い。

 

錬金術師の中でも。

 

ギフテッド持ちは殆どいない。

 

当然イルメリアだってそうではないし。実物を見るのはフィリスで初めてだ。

 

ギフテッドにしても、基本的に一種類というのが普通で。故にあらゆるものの声が聞こえるというソフィーの話を聞いたときは。化け物としか感想が出てこなかった。

 

それこそ歴史を変えうる存在だと、一目で分かったが。

 

フィリスは無意識で理解出来ていても。

 

それを意識的に。

 

いや論理的に理解出来ていない。

 

理由は簡単。

 

必要ないからだ。

 

あの子はギフテッド。文字通りの異端の才覚の持ち主。いわゆる天才だ。普段の言動からはとてもそうとは思えないかも知れない。だが、幼い頃から錬金術しかやってこなかったイルメリアにはよく分かる。

 

あれは本当に数ヶ月前に錬金術を始めた存在か。

 

作為的なものも感じるが。

 

だが、ギフテッドをフルに活用して、才覚を凄まじい速度で伸ばしている。既にイルメリアよりも、明らかに数段上の道具を思いつくようになっている。

 

錬金術の技術に関しては、イルメリアの方がまだずっと上だ。

 

多分、論理的な理解についても遙かに上だろう。

 

だがフィリスは、論理を感覚でねじ伏せる力を持っている。それは、もはや人間と呼んで良いものかよく分からない。

 

頭を抱えて、もう一度嘆息すると。

 

不意に戸をノックされた。

 

アリスが腰を上げて、外の確認。

 

どうやら、以前少しだけであった、子供達らしかった。

 

「やあ、腐っているようだね」

 

「どうやって子供がここに来たのよ。 フルスハイム東の緑化作業も、まだ満足に終わっていないのよ」

 

「子供は貴方も同じでしょう?」

 

せせら笑うアトミナ。

 

何故かアリスは、子供達が存在しないかのように振る舞っている。

 

それもまた、イルメリアの恐怖を強く刺激した。

 

「腰が引けてしまっているね」

 

「才能の違いを感じてしまったかしら?」

 

「よ、余計な……」

 

「分かり易い。 その辺りが子供なんだよ」

 

憤怒に顔が真っ赤になるのを感じたが。

 

だが言われた通りだ。

 

確かにイルメリアはフィリスに恐怖を感じ始めている。考えられる限り最高のエリート教育を受けたはずのイルメリアが。

 

自分で絶対にやっていけると信じていたのに。

 

まったく勝てる気がしない。

 

今はまだ勝っている技術だって。

 

それも今のペースでフィリスが成長していったら。

 

いつ追い越されるか、知れたものではないのだ。

 

「ヒントをあげよう。 フィリスは天才だ。 君が知っている通りね」

 

「……っ」

 

「だが君は、地道に実力を積み上げる力を持っている。 それをうまく生かせば、対抗する手段もある」

 

「……ふふ、メクレット。 そこまでよ。 今日は引き上げましょう」

 

子供達は。

 

現れたとき同様。

 

まったく前触れも無く消えた。

 

そしてアリスは、戸を閉める。何も無かったかのように。

 

「お嬢様、どうなさいましたか」

 

「アリス、貴方は今の子達をどう思う?」

 

「特に何も。 正論を言っているとは思います」

 

「そうね、正論かもね」

 

ベッドに転がり込むと。

 

またしばらく腐る。

 

あれが正論だと言う事は分かっている。

 

だが、それをしっかり受け止めるには。

 

まだ時間が必要だった。

現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。

  • このままでいい
  • 一日で一章がいい
  • 更に分割して欲しい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。