暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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2、空を舞う箱

見聞院のある街から降りる。

 

既にフルスハイムへの街道が通じていると聞いて、此処に逃げ込んでいたらしい旅人や錬金術師などが数人、山を下りたようだった。まあ既に安全が確保されているのは事実なのだ。

 

降りてからオスカーさんに話を聞くと。

 

確かにフルスハイムへと去って行った人が数人いたという。

 

山の途中でトラブルに見舞われた様子もなかったようだ。

 

それならば良かった。

 

まず、パイモンさんにも説明。

 

荷車を飛べるようにする、と説明すると。

 

流石にパイモンさんも愕然としたようだった。

 

「若いというのは羨ましい。 良くもそのような事を思いつくものだ」

 

「資料を参考にしただけです」

 

「そうだな。 その通りかも知れんな」

 

ともかく。

 

周囲の岩を徹底的に砕き、コンテナに運び込む。かなりの頻度でグラビ石を入手することが出来たので、コンテナで気密処置をしてしまっておく。方法についても、図書館で調べてある。

 

いずれにしても、このコンテナでは、劣化が殆ど起こらない。

 

そういう処置が空間そのものにされているので。

 

あくまで「予備処置」とでもいうべきものだが。

 

実際肉の類が傷んだりもしないのだ。

 

グラビ石が痛む事もないだろう。

 

同時に、荷車についてもチェック。

 

現状で飛ぶための機構をつけるためには。現在使用している荷車だと、少しばかり小さすぎるかも知れない。

 

かといって、これ以上大型化するとアトリエに入らなくなる。

 

その場合はどうするのか。

 

しばし考えた末に。

 

取り外しを出来るようにするべきだと、考えに至った。

 

どの道メンテナンスが必要になるのだ

 

分解はいつでも出来るようにしておいた方が良い。

 

まず最初に、グラビ結晶を作る。

 

それから、どれくらいの浮遊能力を作り出せるか検証する。

 

魔族の中には、魔術で飛べる人もいる。

 

人間の魔術師にもいる。

 

だがそれは適正が無ければ出来ない。魔族は適正をほぼ全員が持っているようなのだけれど、人間で持っている者はごくわずか。

 

グラビ石も鉱物だ。

 

声を聞かせてくれるし。

 

持ってきた資料を基に。

 

まずは潰し。

 

中和剤を使って変質させ。

 

強化して混ぜ合わせ。

 

更に純度を高める。

 

コレを繰り返して、浮遊する能力を高めた後。

 

少しずつアトリエ内で実験する。

 

何故アトリエ内でやるかというと、外でやると飛んで行ってしまう可能性があるからだ。

 

案の定、最初は上手く行かない。

 

純度を上げすぎると、凄まじい勢いで上に飛んでいく。

 

多分空の彼方まで飛んで行ってしまうだろう。

 

天井に張り付いてしまうグラビ結晶を取り外すのに、えらい苦労した。何しろ、天井に食い込みかねない勢いだったのだ。

 

石材にくくりつけても。

 

なんと石材が綿のように感じてしまう。

 

つまりそれだけ、強烈な浮遊力を持っている、と言う事だ。

 

要するにそれは。

 

これこそ、古い時代の錬金術師が作ったという。

 

空を飛ぶ城やら要塞やらの正体なのではあるまいか。

 

可能性は決して低くないはずだ。

 

声を聞く限り、グラビ結晶はかなり融通が利く。

 

硬度もそれほどない。

 

つまるところ、グラビ結晶は潰したり伸ばしたり出来るし。金属でコーティングしないと、装備品に応用するのは難しい、と言う事も意味している。そのまま使った場合は、どうなるかあまり自信が持てない。

 

かといって、グラビ石のままだと、品質が安定しない。

 

グラビ石の中から、浮く成分を抽出して。

 

そして安定して浮くようにする。

 

此処までの作業が、数日かかった。

 

その後、少しずつ安定した浮遊力をコントロールするための仕組みを作っていく。

 

急に重くなる道具、何てものは存在しない。

 

かといって、空中にグラビ結晶を捨てるのはあまりにももったいない。

 

グラビ結晶の浮遊力は、魔力に依存していない事が分かる。

 

そうなると、どうやっていにしえの錬金術師達は、これの浮遊力をコントロールしていたのか。

 

資料を確認しつつ。

 

色々と、グラビ結晶を加工して、試してみる。

 

例えば、小さな結晶を靴の横側に入れて見る。

 

そうすると、歩くのが格段に楽になる。

 

ただしそれぞれの体重にあわせて調整しないと、逆に歩きづらくなる。

 

これについては実験のついでに調整。

 

全員分の靴に、グラビ結晶の欠片を取り付けた。

 

兎に角簡単に歩けると言う事で、皆喜んでくれたが。

 

かといって、靴を脱ぐと飛んで行ってしまうようでも困る。

 

調整は慎重に行わなければならない。

 

グラビ結晶の欠片は、靴を脱ぐときに外せるようにし。

 

外した後は重しがついたホルダーに格納するようにもする。これを義務づけると言うと、流石にちょっと面倒くさいと皆顔に書いた。

 

ただし、実際このグラビ結晶つきの靴で外を歩いてみると、今までの数倍の速度で歩ける上。

 

歩くための労力も減る。

 

更に、荷車にも同じように、グラビ結晶をつけるためのホルダーを作る。

 

この場合、荷車の底。それも底と車軸の間に、薄く長い板状のものを差し込めるようにする。

 

今まで、重めの荷物を積んでいたとき、荷車はかなりギシギシ言っていたし、何より重くて運ぶのが大変だったが。

 

ためしに石材を積んでみたところ。

 

驚くほど軽くなる。

 

ただし、先にグラビ結晶を突っ込むと、あまり良い結果になる未来が予想できない。

 

グラビ結晶の板は、人間が浮かない程度のものを複数突っ込めるように調整はしたけれど。

 

これも先に荷物を詰め込むことと書いた注意書きを荷車に書く事になった。

 

だが、いわゆるヒューマンエラー。ケアレスミスは誰でもやるものだ。

 

其処で、カルドさんと相談して。

 

魔法陣を書く。

 

音声を発する魔法陣で。

 

グラビ結晶をセットする場所に、警告を発するように仕込んだ。

 

靴の場合は、脱ぐ前にグラビ結晶を外してホルダーに入れてください、と声が出る。

 

荷車の場合は、まず荷物を積んでくださいと声が出る。

 

更に、荷車の場合は、重さをある程度検知して、グラビ結晶をこれ以上入れないでくださいと警告が出るようにもした。

 

しかしながら、だ。

 

これらをやっていくと、システムがどんどん大型化肥大化していくのも分かった。

 

そろそろ、全面的な更改が必要だろう。

 

あまりにも大型化したシステムは。

 

専門家にしか動かせない。

 

作る過程は専門知識が必要でかまわない。

 

だけれど、扱うのは。

 

誰でも出来るようにするのが好ましい。

 

これについてはカルドさんに、作業中に言われた。

 

遺跡などを発掘しているときにも、完全に誰か特定の人物しか扱えないような複雑な機構のものが出てきてしまい。

 

解析に非常に手間取ることがあったという。

 

そういったものは、特定の人物がいなくなると、どれだけ便利でも優れていても、使えなくなってしまう。

 

それでは意味がないのだと。

 

わたしも頷かされる。

 

だから、少しずつ。

 

根本的な更改を考えて行った。

 

資料を精査しながら、少しずつグラビ結晶を調査していく。

 

その過程で外を確認。

 

緑化作業が上手く行っていることや。

 

どうやらオスカーさんが、装甲船を使って他の街の緑化作業に出向いた事を知らされる。

 

街道の周囲にグリフォンは彷徨いているが。

 

緑化された森に入ることはあっても、寝そべっていて、人間を襲う気配はないし。

 

何より森を傷つける事は絶対にあり得ない。

 

人間の側から、グリフォンに近づきすぎないようにすればいいのであって。

 

ここから先は人間の問題だ。

 

わたしも無用な戦闘は望まないし。

 

ましてや森を傷つけるなんて言語道断だ。

 

あれだけ苦労して作り上げた森だ。

 

獣でさえ傷つけないのである。

 

人間が傷つけるのがどういう意味か位は分かる。

 

食糧はたくさんあるし。

 

畑も数倍に拡がったことで、どうも上手く行っていないフルスハイム東の湖沿岸の集落から、人間がかなり流れ込んでいるらしく。

 

畑には多数の人が見られる。

 

此処で稼いで。

 

少しでも生活を楽にしておこう、というのだろう。

 

街の長老は前はいるかいないのか分からなかったが。

 

街の方に出向くと、いつの間にか長老らしい人物がいて。

 

わたしの顔を見ると、露骨なごますりをしてくるので辟易した。

 

また、グリフォン戦で殆ど役に立たなかった自警団の人達が、やたら偉そうにしているのを見て。

 

またげんなりさせられた。

 

ともかく、作業だ。

 

時々街に戻って補給をしながら。

 

グラビ結晶の研究を続ける。

 

ほどなく、特定の魔術でグラビ石の浮遊力を押さえ込めることが分かる。魔法陣は極めて複雑だが、今なら手が届くと思う。

 

イルメリアちゃんとパイモンさんに手伝って貰い。

 

グラビ結晶の検証実験をする。

 

これが上手く行けばグラビ結晶を使ったシステムの肥大化を押さえ込めるはずだ。

 

すぐに一週間が過ぎる。

 

四苦八苦が続く。

 

グラビ結晶は簡単に浮遊力を無くしてくれない。魔法陣があまりにも複雑すぎるのだ。メンテナンスも骨が折れるだろう。

 

意外にも最初にアイデアを出してくれたのは、パイモンさんだった。

 

流石に年の功と言うべきか。

 

老齢の錬金術師らしく、色々な経験を積んでいる。

 

魔術に関しては、多分この中で一番詳しい。

 

理論はカルドさんに聞くと早いのだけれど(魔術を使えるかどうかは別として、魔術で動いている遺跡を山ほど見てきたから、らしい)。魔術を動かすとなると、この人は頼りになる。

 

「処理を順番にやっていくと良いだろう。 この魔法陣は分割出来るはずだ」

 

「なるほど。 それならば……」

 

「まずこの魔法陣がいる」

 

パイモンさんが書いた魔法陣はとても簡単なものだった。

 

三個の魔法陣を書いたが。

 

それぞれがとても簡単である。

 

だが、これらを組み合わせると、最初の極めて複雑な魔法陣になる。

 

そして、これらの魔法陣が順番に発動するように。

 

また極めて簡単な魔法陣を作る。

 

これで完成だ。

 

三つの主要処理と、二つの処理接続用魔法陣。

 

合計五つ。

 

これでメンテナンスが極めて簡単になった。

 

さっそく試すが。

 

グラビ結晶の浮遊力を、魔力を注ぎ込むことで、比較的容易にコントロールできるようになった。

 

これで、道筋は立った。

 

呼吸を整える。

 

後は、飛ぶための道具をキット化し。

 

それで雪山を越えるだけだ。

 

炉については、イルメリアちゃんが作ってくれている。既に、出力は小さいものの、荷車を推進させる程度のものはほぼ完成しているようだった。

 

わたしはイルメリアちゃん用と、パイモンさん用に、自分も使っている荷車を作って増やしておく。

 

何、今のノウハウ蓄積の結果、それほど難しい話じゃ無い。

 

金属加工については、もう本職の鍛冶師にだって負ける気はしない。

 

そして、炉が完成する頃には。

 

実験を重ねながら。

 

浮いて進める荷車に必要な。

 

取り付けるためのキットが完成していた。霊よけのランタンも、パイモンさんにレシピを教わって作った。

 

全ての準備は整った。

 

 

 

それは、なんというか。鳥と言うよりは、お魚に近い形状だったかも知れない。

 

金属で出来ているそれは、流線型でありながら。

 

荷車にセットすると、お魚の様に見える。

 

現状で荷車にはわたしを含めて、数人が乗り込めるが。

 

このキットを搭載する事で、更にもう一人が乗れる。

 

わたしが動かして。

 

お姉ちゃんが周囲を警戒。

 

近づいてくる相手をカルドさんが狙撃。

 

そしてレヴィさんがシールドを張って攻撃を防ぐ。

 

この流れで良いだろう。

 

まずは、わたしだけが乗って、浮くかどうか確認。

 

キット化した浮遊セットは、荷車に対して、挟み込むようにして取り付け。ねじを巻くだけで、固定化出来る。

 

今回、このキットを取り付けるために。

 

荷車の装甲に加工を施し。

 

ねじ穴用のパーツを溶接した。

 

アトリエに入るように調節したが。

 

それはそれとして、浮遊セットは別に取り外さなければならない。

 

幸い、グラビ結晶を組み込んだ浮遊セットは、それぞれが綿毛のように軽いし。ぶつかっても怪我しないように、衝突回避の魔術も組み込んである。金属製なので極めて頑強でもある。

 

重さを無視出来るというのは。

 

これほどまでに強みになるのか。

 

最初はアトリエ内で浮遊実験を実施。

 

やっぱりいきなりは上手く行かず。

 

わたしだけが乗って動かしたりしても。

 

天井に頭をごっつんこしたり。

 

ひっくり返ってお姉ちゃんがあわてて受け止めたりして。

 

何度も工夫を余儀なくされた。

 

たんこぶを作ったりたんこぶを作ったりたんこぶを作ったりしながら。

 

最終的に、姿勢が安定するまで四日。

 

そして、炉を組み込んだ実験を開始し。

 

前進後退、左右移動を出来るようになるまで、更に七日。

 

時間はどんどん過ぎていくが。

 

そもそも、空を飛ぶ魔術を魔族が習得するのでさえ、年単位でかかると言う話をパイモンさんに聞かされる。

 

魔術も素質が重要な学問だが。

 

適正がある魔族でさえ。

 

誰でも使っているように見えて。

 

空を飛ぶには、そんなに苦労している、という事である。

 

人間が鳥のように空を飛ぶには、それだけ大変だ、と言う事で。

 

わたしとしても、慎重にやらざるを得なかった。

 

浮遊キットの調整を行い。

 

システムが複雑化しすぎないようにしながら。

 

荷車も靴も調製する。

 

その内、靴も荷車も、グラビ結晶を自動で調整出来るように魔法陣を仕込み、取り外しの必要はなくなった。

 

これが進歩だと思うのと同時に。

 

メモを残して、仕組みを書き出すと。

 

その複雑さに、時々閉口する。

 

「誰でも使える便利」の影には。

 

此処まで複雑で難解なシステムが潜んでいる。

 

それを思い知らされた。

 

やがて、アトリエの外で、実験を開始する。

 

お姉ちゃんにもいつでも問題が起きたときに対応出来るように待機して貰い。

 

浮遊実験開始。

 

最初は風にさえぐらついたが。

 

ほどなく、風くらいならどうにでもなるくらいに安定してきた。

 

ただし、速度を出しすぎると危険だと、アドバイスをパイモンさんから受ける。

 

魔族に聞いた話らしいのだが。

 

あまり速度を出しすぎると、小鳥と正面衝突しただけで、相当なダメージを受けるという。速度と場所によっては成年の魔族が即死だそうである。

 

バードストライクというらしいが。

 

確かにそれは、気を付けなければならないだろう。

 

更に一週間。

 

まずレヴィさんに乗って貰う。

 

二人乗せただけでまた安定性に不安が出たが、それは徹底的に調整する。最低でも四人を乗せることが前提なのだ。二人乗せる程度でぐらついたら、それこそお話にもならない。

 

毎回少しずつキットを調整し、全ての結果をメモに残し。ハンマーで叩いて少しずつ直す。

 

設計図にも、徹底的に書き込みを続ける。

 

昔話の魔女のように。

 

箒に乗って空を飛べたらどれだけ楽だろう。

 

でも、わたしには自衛力が無い。

 

空にも強力な獣がいる。

 

それを考えると、箒に乗って空をぴゅーんと飛んでいくのは現実的では無いし。

 

何よりパイモンさんに聞かされたように、鳥とかにぶつかったりしたら、その時点で命が危ない。

 

この道具は、完成させれば応用も利くし。

 

何より非常に利便性が高い。

 

完成させる意味も価値もある。

 

やがて、三人を乗せられるようになり。

 

四人を乗せられるようになり。

 

グリフォンが見上げている上を、自由自在に移動出来るようになった頃に。

 

丁度オスカーさんが戻ってきた。

 

オスカーさんは、やはり湖沿岸の街を見て回っていたらしく。特に酷い場所で、フルスハイムから派遣されてきた精鋭と一緒に緑化作業を開始。少なくとも街の安全は確保する、ところまでやっていたそうだ。

 

ただし、沿岸部には匪賊の脅威にさらされている場所も多く。

 

森を作っただけでは安全とは言えない。

 

今後も装甲船を動かし。

 

自警団と連携した戦力が、いつでも敵を撃退出来るようにする必要があると、オスカーさんは言っていた。

 

オスカーさんは、空を自由に飛べるようになって来た荷車を見て感心したが。

 

それで気付く。

 

この人、多分これ以上のものを見た事がある。

 

だが、それについては黙って置くことにする。

 

何だかおかしいとは思っていたのだ。

 

こんなスペシャリストが、あまりにもタイミング良く現れた。

 

竜巻で立ち往生していたのも妙だし。

 

何かあると思う。

 

だけれど、手伝ってくれたのは事実だ。

 

だから、この人に感謝しているのは本当だ。

 

ともあれ。

 

フルスハイム東の安全は確保できた。雪山を強引に突破する準備も整った。吹雪いていないタイミングで、一気に山を越えてしまう。

 

荷車に浮遊セットを取り付ける。

 

事前に話したとおり、お姉ちゃんが周囲警戒。

 

接近して来るものはカルドさんが撃ちおとす。

 

わたしが操縦。

 

シールドを常時レヴィさんが展開。

 

後の人はアトリエに避難して貰う。

 

イルメリアちゃんとパイモンさんの馬車とアトリエは、フルスハイム東で預かって貰う。ちょっと不安だったが、オスカーさんが責任を持って見張ってくれるそうだ。この誠実そうな(だが多分裏もある)人が、そういうのなら大丈夫だろう。

 

一日休んで。

 

そして、翌日。

 

綺麗に雪山が晴れているのを確認し。

 

わたしは、荷車を空に舞わせた。

 

 

 

事前にアングリフさんが話をつけていたこともある。

 

何か巨大なオブジェクトの周囲に集まっていたリッチ達は、飛んでいく荷車を見て、驚くことはあっても、仕掛けてくる事はなかった。

 

此方としては思うところもあるが。

 

リッチ達が仕掛けてこないなら、それでいい。

 

相手が匪賊だったら爆弾を撒いてやる所だけれど。

 

彼らはただ彼処に集まって、何か得体が知れない信仰に己を費やしているだけ。

 

周囲の集落を襲っているという話も聞かない。

 

そもそも旅人もあのリッチ達には近づかないし。

 

リッチが森を傷つけるようなことも出来ない。何しろこの異常気象だ。

 

だから無視。

 

関わらない。

 

それでわたしとしては解決で良いと思う。

 

明確に弱い人に害を為す存在だったら、退治しなければならないけれど。

 

そうではない以上、放置してかまわないだろう。

 

ドラゴンが見える。

 

言われた通りの座標だ。

 

数頭がまとまっていて。

 

退屈そうに体を丸めている。

 

近づいたら攻撃してくるだろうが、かなり距離がある。それでも、レヴィさんは、全力で防御を展開していたが。

 

「フィリスよ、高度は可能な限り下げろ。 最悪の場合、俺の漆黒の風の守りでもブレス一発しのげるかわからんぞ」

 

「分かっています」

 

ドラゴンは人間に敵意を持っている。

 

それこそ気まぐれで、ブレスを叩き込んでくるかも知れない。

 

射線に入らない。

 

それが大事だ。

 

山の天気はころころ変わる。

 

速度そのものもいわゆるバードストライクが致命的にならない、更に自動回避システムが機能する段階を維持する。

 

これについては徹底的に検証し。

 

アングリフさんに石まで投げて貰って。

 

具体的なダメージがどれくらいになるか、検証をした。

 

徹底的な検証があるから。

 

今スムーズに飛んでいけているのだ。

 

行く途中の経路も徹底的に調べた。今も、お姉ちゃんが時々地図と見比べながら、右左と指示を出してくる。

 

わたしは必死に運転を続け。

 

ほどなく見えてくる。

 

その村の周辺だけは、雪が溶けていて。

 

畑が拡がっている。

 

そればかりか、ところどころ黙々と煙が出ていて。

 

明らかに世界が違っていた。

 

向こう側が、此方に気付く。

 

速度を落としながら、手を振る。少なくとも、こんな道具を操る匪賊はいない筈だ。相手も、少し警戒していたようだが。まだ少し雪が残っている辺りに降りる。幸い、途中で獣に襲われることは無かった。

 

だが、もう少し高度を下げていたら。

 

もう少し速度が遅かったら。

 

食肉目の大型獣が飛びついてきたかも知れないし。

 

アードラが上空から強襲を仕掛けて来たかも知れない。

 

実際、フルメンバーで戦っても手こずりそうな獣を、途中で何体も見かけたのだ。雪山を歩いて超える事になったら、あまり良い結果にはならなかっただろう。

 

着陸した後。

 

浮遊キットを外し、此方に来た自警団員らしい魔族の青年に挨拶する。まだ若々しい魔族である。

 

こんな孤立集落で、真っ先に出てくるのだから、相当な使い手なのだろう。

 

「錬金術師フィリス=ミストルートです。 用事があって来ました」

 

「用事とは」

 

「麓に街道が出来ている事は既に知っているかと思います。 ですが、麓の街道の先の橋が落ちてしまっていて。 此処の公認錬金術師の方と相談したいんです」

 

「……分かった。 その道具を見る限り、錬金術師である事は間違いないだろう。 ついてくるがいい」

 

お姉ちゃんが耳元で言う。

 

展開が早い。

 

かなりの使い手だ、と。

 

一旦、途中でアトリエを展開。

 

中にいた皆に出てきて貰う。

 

流石に驚いた様子の魔族の青年だが。驚きが小さいように思える。此処にも、凄い錬金術師がいる、と言う事か。

 

「此処、暖かいですね。 畑も元気だし、その外には雪が積もっていない森もある……発展する条件は全て整っていますね」

 

「先代の公認錬金術師が天寿でいなくなってから、数年間留守が続いたんだがな。 その後凄い人が来てくれたんだよ」

 

「それは……良かったですね」

 

「多分見たら驚くぞ。 俺たちも驚いたからな。 何しろ公認錬金術師の歴代最年少合格者だ」

 

グラシャラボラスさんと名乗った魔族の青年は、イルメリアちゃんとパイモンさんにも挨拶した後。

 

案内してくれる。

 

さて、此処からだ。

 

わたしは頬を叩くと。

 

気合いを入れ直していた。

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