暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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4、血を吸う剣

あたしが手をかざして見ている先で、作業を始めるフィリスちゃん。向こうからは認識出来ない距離からの観察だが。

 

前とはまた違う方法で突破を試みている。

 

それはそうか。

 

前はドラゴンが橋を落とさなかった。

 

橋は経年劣化で落ちた。

 

だからフィリスちゃんは、橋を単純に修復した。フィリスちゃんがキルシェちゃんと会ったのは、試験が終わってからだった。

 

今回は違う。

 

峡谷を丸ごと崩して、道にしてしまう。

 

そういうダイナミックな作業をしている。

 

面白い。

 

鉱物の声が「聞こえる」ギフテッドをフルに利用しての行動だ。力を出し惜しみしない破壊っぷり。

 

これこそ錬金術師のあるべき姿だ。

 

ティアナちゃんが来る。

 

見張りについているシャノンちゃんの方を、面白くも無さそうにティアナちゃんは一瞥した。

 

バディを組ませてはいるが。

 

どうも仲が良くない。

 

躁の傾向があるティアナちゃんは、世界に対する憎悪を手を血に染めることで解決しているが。

 

逆に陰の傾向があるシャノンちゃんは、世界から自分を隠すことで解決している。

 

こういう真逆の性格だと、親友になりやすいのだが。

 

それもあくまで「なりやすい」であって。

 

絶対では無い。

 

「いいなー。 フィリスちゃんを見張れて。 私、フィリスちゃんさらって、私の部屋に監禁したいなー。 コレクション見せたいし、私が書いた絵を楽しんでもらいたいなー」

 

「駄目だよ、そんな事したら」

 

「分かってます。 でも、最近匪賊を斬れなくてつまらないもん。 せっかく峡谷の方に匪賊が山ほどいるのに……つまんなーい」

 

「そういうと思って、仕事を用意しておいたよ」

 

むくれていたティアナちゃんが。

 

ぱっと明るくなる。

 

分かり易い。

 

「これからフィリスちゃんは匪賊と間違いなくぶつかるけれど、少しばかり慣れる必要があるからね。 ティアナちゃんには間引いてきて貰おうかなって思っていてね」

 

「すぐ行ってきます! 何匹くらい殺せば良いですか!」

 

「ええとね……この辺り」

 

地図を空中に展開。

 

この峡谷だらけの荒野は、入り組んだ地形故、犯罪者などが逃げ込みやすい場所になっている。

 

匪賊が大量にいるのもそれ故。

 

ライゼンベルグやフルスハイムで犯罪を犯して逃げ出したり。

 

各地から集まって来た匪賊が。

 

ライゼンベルグに向かう人間を狙って、手ぐすねを引いている場所。

 

それが此処なのだ。

 

故に昔は、この辺りには大量の傭兵が集まっていて。

 

ライゼンベルグに向かう錬金術師や商人を護衛していた。

 

だが、例の竜巻の発生以降。

 

そうもいかなくなった。

 

実際問題、他にもライゼンベルグに到達する路はあるのだが。非常に大回りになってしまう上。

 

結局最終的には、ライゼンベルグ周辺の危険地帯を通らなければならなくなる。

 

フルスハイムのインフラが回復した今は。

 

また傭兵が集まり始めているが。

 

ドラゴンによる峡谷のインフラ破壊が発生した今。

 

それも混乱している。

 

故に匪賊がまた活発に動いているのだ。

 

「此処に少し大きな匪賊の集団がいる砦があってね。 どうも側にあるグラオ・タールって街を襲撃する事を目論んでいるみたいなんだよね。 規模は80前後。 すぐに片付けてきてくれる? あ、今回は首から上は持っていって良いけれど、体は残しておくようにね。 使うから」

 

「分かりましたあっ!」

 

満面の笑みで、ティアナちゃんがかき消える。

 

まあ80匹程度の匪賊なら、即座に皆殺しに出来るだろう。

 

念のために、何人か。深淵の者で匪賊狩りを専門にしていた者達を、先に派遣してある。ティアナちゃんが不覚を取った場合は、彼らにサポートさせる。この辺りの匪賊は傭兵崩れや自警団として戦闘訓練を受けていた連中もいるので、多少質が高い。念には念だ。

 

この群れを処理すれば、周辺の匪賊は逃げ腰になる。

 

「鏖殺」が来た。

 

その情報が出るだけで、最近は匪賊も逃げるようになっているからだ。

 

一応あたしも確認するが。

 

生き生きとティアナちゃんは匪賊を片っ端から狩っている。勿論正面から乗り込むようなことはせず。周囲で哨戒している連中や見張りを消し、相手の目や耳を潰してから、本丸に乗り込む手慣れたやり口だ。

 

この方法だと相手を逃がさず。

 

一匹残さず狩れる。

 

それを良く知っているのである。

 

ほどなく、心配していた事も無く。

 

返り血をたんまり浴びたティアナちゃんは、満面の笑みで戻ってきた。大量収穫を心の底から喜んでいる。

 

「やりました!」

 

「よくやったね。 じゃあ、コレクションの処置をしておいで」

 

「はいっ!」

 

ティアナちゃんがかき消える。

 

さて、後は。

 

残った死体を串刺しにして、他の匪賊の住処の前にでも並べておく。時間を止めて作業をするので、匪賊共はいきなり現れた死体におののくだろう。そして悟る。「迫る確実な死」が噂では無い真実である事を。

 

後はもうグラオ・タールが襲撃される恐れは無くなる。

 

獣と化した人間である匪賊にとって一番大事なのは自分の命。

 

他の誰が死のうが知った事では無い。

 

だから逃げ出す。

 

ましてや、周辺で最大勢力を持つ匪賊が一瞬で全滅したとなればなおさらだ。

 

残りカスとフィリスちゃんがぶつかるだろうが、それこそが狙い。

 

そろそろ、フィリスちゃんにも。

 

人間を殺して貰わないとならない。

 

修羅場をある程度くぐらないと、錬金術師としての実力はつかないのだから。

 

錬金術師は深淵を覗かなければ一線を越える力を得られない。

 

プラフタもルアードも善良すぎた。

 

だからあたしに越えられた。

 

そして未来を知るあたしは、フィリスちゃんもまた同じである事を知っている。

 

深淵を覗くには血の味を知る必要がある。そして深淵を覗かなければ錬金術師は人間の領域を逸脱できないのだ。

 

後、ドラゴンが横やりを入れないように、あたしが見張っておく必要があるが。それくらいだろう。

 

さて、そろそろ第一段階は大詰めだ。

 

前のように、イルメリアちゃんが潰れないように監視しながら。

 

フィリスちゃんが成長するのを後押ししてやれば良い。

 

今度こそ、この詰んだ世界を変える。

 

その準備を、整えるために。

 

強迫観念などでは無い。

 

この世界は9兆回滅びた。

 

その後あたしが干渉するようになっても、人間がそのままである限り、滅びの定めは絶対に回避できなかった。

 

その実績がある限り。あたしは世界を変えるべく、干渉しなければならないのだ。

 

 

 

(続)




ついに「飛行」の技術を手に入れるフィリス。
しかしながら、錬金術師の高みに近付くのは深淵に近付くのと同義です。

フィリスの間近にも迫っています。
手が血塗られる、その時が。

現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。

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