暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ 作:dwwyakata@2024
同時にフィリスは、ついに今までには起きなかった匪賊との直接接触を経験します。
それはフィリスの怒りを爆発させるのには充分な出来事でした。
序、潰す
アトリエを展開し。
キャンプを作ってから、作業を開始する。オスカーさんは緑化作業が一段落したら、手伝いに来てくれる、という話をしてくれた。どの道、道にする場所は緑化しなければならないのである。
下見は当然だろう。
わたしはまず、空飛ぶ荷車を使って一旦峡谷の下を見に行く。
とはいっても、底までは行かない。
拡大視を使って、途中で状態を確認する。
案の定というか。
この峡谷を作り上げた川は既に干上がっていて、底にあたる部分には、既に生物もロクにいなかった。
途中の崖などに獣はいるが。
それはそれこそどうでもいい。
荒野には獣がいる。
獣はどうしてか幾らでも湧いてくる。
それならば、駆除がてらに埋めてしまっても何ら問題ない。
この世界はそういう仕組みだ。
例えば、獣が荒野から勝手に湧いてこない世界だったら、それは許されない事なのかも知れない。
だがこの世界は違う。
この世界は荒野が基本で。
荒野は人間を拒む。
そればかりか全てを狂わせる。
だから荒野を少しずつでも無くしていかなければならないのだ。
まず、順番に岩山を崩す。
近場には大きめの岩場や崖地があったので。発破を仕掛けたり、わたしがつるはしを振るって、どんどん崩していく。
鉱物は教えてくれる。
何処をどうすれば崩れるか。
わたしのギフテッドを利用して。
徹底的に岩を崩していく。
崩しながら、使えそうな鉱石はより分けてコンテナに放り込み。
それ以外の岩は更に砕き、砕いた端から峡谷に投入していく。体格が優れている魔族の戦士が二人もいるので、作業はとてもはかどった。
働いている魔族の戦士に、大きな岩をそのまま放り込まないのかと聞かれたので、答える。
「大きな岩を考え無しに放り込むと、隙間が出来てしまいます。 そうするとふとした切っ掛けで崩れる可能性があります」
「なるほどな。 出来るだけ細かくするのはそのためか」
「はい。 それに、細かくした方が、運ぶ時に楽です」
「その通りだ」
荷車は現在四台。
イルメリアちゃんとパイモンさんが、フルスハイム東から馬車を此方に移し。わたしが荷車を作って、二人にあげたのだ。
更に手伝ってくれているキルシェさんにも同じものを作って渡す。
彼女はあり合わせの材料で、ぱぱっとそれを改良し。改良点を教えてくれる。流石はこの辺り、レジェンド。
最年少での公認錬金術師試験合格者だ。
メモを取って、取り入れられそうなら取り入れる。
ただ流石に高度すぎて、一度に全ては取り入れられそうに無かった。
二つ目の岩山を崩した頃だろうか。
既に峡谷を埋め始めてから四日目。
獣が、大挙して押し寄せるようになりはじめた。
大きな音を立てる上に。
森からも出ているのだから。襲ってくるのは当然だろう。
連れてきた戦士達には、其方の対処にあたって貰う。勿論大物の場合は、わたし達も手伝う。
キルシェさんは、護身用に、拡張肉体を持ってきていた。
名前だけは聞いていたが。
実物を見るのは初めてだ。
キルシェさんが使っているのは、それこそボールのようなものなのだが。
空中で6つが同時旋回し、それぞれが高出力の魔術による熱線を放つ。その他にも、魔法陣を展開して出力を増幅、威力を何十倍にもして放つ事が出来る。つまるところ非常に強烈だ。攻撃だけでは無くシールドも展開出来るようだ。
その一方で本人は十歳相応の肉体能力しか無い様子なので。
常に一人、戦士が護衛についていた。
手当たり次第に襲いかかってくる獣が、そのまま死体になっていく。
勿論楽な戦いではないが。それでも、来る獣は悉く返り討ちにしていった。
仕留めた獣はその都度捌いてはコンテナに詰め込み。
戦闘で負傷した者の怪我を治しながら。
岩山を豪快に崩して峡谷を埋め。
一週間ほどそれを続けた結果。
峡谷は、埋まった。
後は、魔族の戦士に手伝って貰って、地ならしをする。
やはり衝撃を与えて踏むと、かなり崩れる。
其処で、更に土砂を投入。
充分にしっかり足場が固まった所で、硬化剤を投入する。そうすることで、峡谷は、峡谷だった場所へと変わるのだ。とはいっても、無数に大地の罅として走っている峡谷全てを埋めるわけでは無い。
交通の邪魔になっている箇所を埋める。
それだけでいい。
ある程度土砂を注ぎ込んで埋めた後は、硬化剤で固めた所の上に、掘り返して空気を入れた土をかぶせていく。
緑化して、そのまま道にしてしまう為だ。
丸ごと岩山が複数消え。
周囲の景観もさっぱりした。
その分見晴らしが良くなってしまった、という事もあるが。
オスカーさんが手際よく緑化を進めていて。無くなった岩山の辺りにも、どんどん緑地を拡げていく。
獣が襲ってくる方向も限定されるし。
街道だけでは無く、畑も拡大できる。
一つ目の峡谷を潰したところで、一旦キャンプを畳み、フルスハイム東にまで戻る。
其処で余った肉や毛皮を来ていたアルファ商会に売却。
かなりまとまったお金になったので、来てくれている戦士達に一時金として渡した。
フルスハイムはかなり活気づいているが。
その一方で、かなり出自が怪しげな人々も増えている。
匪賊では無いか、と思える人間もいるので。
油断は一切出来なかった。
錬金術師はいないかなと思って探してもみるが。
今やっている作業の手伝いを申し出てくる人は、少なくとも一人もおらず。
状況は知っているだろうに、少し意気地が無いなと、わたしは残念に思うのだった。
アトリエにアングリフさんが戻ってくる。
他の錬金術師は、それぞれ自分のアトリエや宿で、何か調べ物。
翌日には現場に戻る予定だが。
この休日を、わたしは薬や爆弾の補充に費やすつもりでいた。
爆弾も、新しいものを思いついたので、今実験しながら作っている。
アングリフさんはぷんぷん怒りながらアトリエに入ってきて。
舌打ちされたので。それだけで何が起きたのかは、大体分かってしまった。
「どうしたんですか?」
「フルスハイムの方でも、この大工事の話は伝わっているようでな。 レンも声を掛けているようだが……さっぱり協力しようって錬金術師は現れないようだな。 それどころか、インフラが復旧してから自分達は後追いで、と考えている奴らばかりのようだ。 宿にはそんな錬金術師が五人もいやがった」
「手伝ってくれれば随分助かるのに……」
「ドラゴンが出るって言うだけで腰砕けだ。 そんな事じゃ、公認錬金術師試験だかに受かる筈も無いのにな」
まったくだ。
わたしだって、ドラゴンとの戦闘のリスクは理解している。
今まで戦ったネームドは、いずれも自然に存在してはいけない次元の実力を誇る獣ばかりだったが。
それでも、ドラゴンには及ばないという。
雪山のドラゴンを見た時、アングリフさんは戦いにさえならないとまで言い切った。
どうにかして今後経験を積み、力を伸ばして。
戦えるようにしていかなければならない。
意気地が無い、とアングリフさんは憤慨していたが。
ただ、この人はそもそも、「不死身」という二つ名で呼ばれるほどの傭兵だと、最近知った。
確かにとても強いが。
不死身である筈が無い。
怪我はするし。
戦闘では、勝てる勝てないを見極めて判断している。
ずっと生き残ってきたから不死身、と言われているのだろうが。
それにしても、本人はそれをどう思っているのだろう。
「それと、匪賊が入り込んでいやがる。 気を付けろよ」
「あ、やっぱり……。 おかしいなとは思ったんです。 おかしな雰囲気の人がいたので」
「なんだ、気付くようにはなったか。 リアーネは?」
「お姉ちゃんは買い物です。 ツヴァイちゃんは彼方でお昼寝中」
他の人はみんな自衛力があるし、大丈夫か。
一番心配なのはキルシェさんだけれど。
あの子は多分、一人には慣れている。
匪賊程度に遅れを取る事は無いだろう。
「なんで匪賊が入り込んでいると思う」
「……そういえばおかしいですね。 人の行き来も殆ど出来る状態ではなかったし、フルスハイム側のは駆除されたはずなのに」
「作ったばかりの橋からだよ。 それも、逃げ込んできたらしい。 既にフルスハイム側でも警戒をしているようで、イェーガーが近々来るそうだ」
「!」
それは。
何があったのか。
峡谷はそもそも、匪賊の聖地と呼ばれるほどの危険地帯と聞いている。匪賊達が跳梁跋扈し、やりたい放題している場所の筈。
勢力争いにでも敗れたのだろうか。
だが、アングリフさんは、先を読んでいるかのように言う。
「鏖殺って知ってるか」
「たしか、みなごろし、って意味ですよね」
「そうじゃねえ。 鏖殺って呼ばれる匪賊殺しがいるんだよ。 正体はよく分からないらしいが、とにかくここ数年で数百人の匪賊を殺しているらしい。 しかも匪賊が蓄えた財宝を奪うわけでもなく、匪賊を淡々と事務的に殺して行くそうだ」
「……何が目的なんでしょう」
さあなと、アングリフさんは奥の椅子に腰掛ける。
体が大きいアングリフさんだから、椅子からはみ出しそうだ。
爆弾の調合が一段落したので、お茶を淹れる。
適当に茶菓子も出してきて食べると、お姉ちゃんが戻ってきた。
機嫌は良くない。
「リア姉、どうしたの」
「匪賊が子供をさらおうとしている所に出くわしたから、足を射貫いてやったわ。 自警団の動きが鈍くてね、とにかく頭に来たわ」
「まああの唐変木どもじゃあ仕方がねえな。 仕方が無い。 俺が行ってくる」
「アングリフさんが直接?」
頷くと、アングリフさんはまたアトリエを出ていった。
まああの人が出るとなると、匪賊なんてひとたまりも無いだろう。
それに匪賊は見敵必殺が決まっている。
お姉ちゃんが足を射貫いた奴も、縛り首か斬首か。
いずれにしてもさらうのは金に換えるか喰うため。
そんな奴を生かしておく理由も意味もない。
レヴィさんとカルドさんが戻ってきたので、事情を話す。此処の守りはお姉ちゃんだけで充分だ。
二人は頷くと、すぐに外に。
ちょっと遅れてドロッセルさんが戻ってきたので、同じように事情を話すと。
どうやら、もう捕り物は始まっているようだった。
「アングリフさんが捕まえた匪賊に吐かせたらしくて、芋づる。 今アングリフさんがアジトに乗り込んで、捕り物しているよ。 明日の朝には処刑じゃない」
「うわ、動きが早い」
「というよりも、匪賊になったばかりの奴が、大慌てで逃げ込んできたみたいだね。 手際も何も雑そのもの。 よっぽど慌てていたみたい。 例の鏖殺の話を聞いて、もうなりふり構わず、なんでしょ」
「それなのに犯罪に手を染めて目立つなんて」
肩をすくめるドロッセルさん。
続いて、アトリエに来たのは、パイモンさんだった。
何でも、匪賊の尋問に力を借りたいと、自警団に頭を下げられたそうである。パイモンさんは魔術の専門家だ。心を読む魔術も使えるらしい。
錬金術師としては公認錬金術師試験を受かっていなくても。
この人は歴戦の魔術師なのだ。
「もしも興味があるのなら、見に来るかね」
「お願いします」
「フィリスちゃん」
「心を読む魔術には使い路がたくさんあるし、覚えておいて損はないから。 お姉ちゃん、ドロッセルさん、ツヴァイちゃんをよろしく」
席を立つ。
ちょっと過保護なお姉ちゃんからは、たまには離れたい。
どうやらイルメリアちゃんも同じ事を考えていたらしくて、アトリエの外でアリスさんと一緒に待機していた。
苦笑いする。
だけれど、イルメリアちゃんは、むしろ静かだった。
そのまま、匪賊が捕らえられた場所へ行く。
十人ほどのヒト族と獣人族が、いわゆる本縄を掛けられて、座らされていた。
アングリフさんは大剣を手に、いつでも首を刎ねるという雰囲気を出していて。目隠しをされた匪賊共は、冷や汗を掻いて悲鳴に近い吐息を漏らしていた。勿論、匪賊ではない可能性もある。
だから心を読むのだ。
アングリフさんに言われるが、知っている。
殆どの場合、匪賊にはヒト族と獣人族がなる。ごくごく希に、魔族がなる場合もあるらしい。
はっきりしているのは。
匪賊になったらもう取り返しはつかない、ということだ。
荒野で一番簡単に捕食できるのは人間である。
これについては、わたしが身を以て良く理解出来た。荒野で、一番簡単に殺せる獣は人間だという事は、わたしも異論が無い。
匪賊はだから人間を積極的に襲い。
殺し喰らう。
ホムは肉が美味しいとかで、此奴らにとっては完全にごちそうだ。
捕まったらまず助からない。
そういう事情を知っているからか。実際に今殺されそうになっている匪賊を見ても、少なくとも、憐憫は一切感じなかった。むしろこんな連中に、と怒りを覚える。
パイモンさんが、魔術について説明してくれた。
「魔術に対する抵抗が強いとはねのけられる場合もあるが、それは素で魔術を使った場合だ。 錬金術の道具で増幅してやれば、人間ではまず逆らえない。 薬を使う場合もあるが、薬の場合は思った情報を引き出せない事もある。 だから、読心の魔術を用いるのが手早いな」
「なるほど」
「具体的な仕組みは……」
魔法陣を書いて説明してくれるので、メモを取る。
イルメリアちゃんもメモを取っていたが、明らかにわたしのメモよりも綺麗に取っている。
頷きながら、説明を聞き終える。
「では、始めるか」
「-! ーーー!」
必死にもがいて逃げようとしている頭目らしい男を、アングリフさんが抑える。
不衛生な頭に手を置くと、パイモンさんが魔術を発動。
しばしして。
抵抗を止めた匪賊の頭目らしい男が、大人しくなった。
「質問に答えよ」
「はい」
「お前は匪賊か」
「はい」
なるほど、此処から聞くのか。
続けて、順番に話を聞いていく。
仲間は何人か。
名前は何なのか。
それを全てメモしていく。
普通の魔術師だったら、抵抗されて、魔術が失敗するケースもあるらしいのだが。パイモンさんは、自前のと、それにわたしが渡している魔術の強化のための道具一式を身につけている。
魔術の出力が魔族以上であり。
ヒト族の精神が抵抗できる代物では無い。
アングリフさんが促して、自警団の者達が冷や汗を流しながらメモを取り。捕縛している連中の特徴を全て確認し、いう。
一人足りない、と。
その時だった。
真後ろから、音も無く忍び寄ってくる影。
イルメリアちゃんについてきていたアリスさんが即応。
ナイフを振りかざして、わたしを捕らえようとしたそいつを、アリスさんが斬る。
派手に鮮血をぶちまけるそのヒト族の特徴は。
今、頭目が吐いた最後の一人のものと、一致していた。
アリスさんに斬られたそいつは、悲鳴を上げながらのたうち廻る。
アングリフさんが前に出るが、わたしが制止。
わたしが、やる。
「おい、いいのか」
「いずれ匪賊は殺さなければならなかったんです。 少しずつ、慣らしていかないと」
魔術で、岩を使って押し潰すことも考えたが。
やっぱり止める。
自分の手で。
やらなければならないだろう。
念のため、アングリフさんが押さえつけた後。パイモンさんが魔術を掛けて。匪賊である事は吐かせた。
頷くと、わたしは。
杖を振り上げ。
見苦しい命乞いをしている匪賊に降り下ろした。
一回目は降り下ろし損ねて、肩を潰した。
身体能力が上がっているから、それでも一撃で肩の辺りがグシャグシャになった。
跳び上がった匪賊が、情けない命乞いを叫んだが、知るか。
今度は冷静に。
振り上げた杖を、降り下ろす。
匪賊の頭が、果実のように砕けた。
脳みそが飛び散り、脳漿が辺りにばらまかれて。痙攣している匪賊は、やがて動かなくなった。
冷たい目で見ているのだろうなと、わたしは思う。
ツヴァイちゃんの両親を生きたまま切り刻んで食い殺した此奴らを。
わたしは絶対に許さない。
現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。
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このままでいい
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一日で一章がいい
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更に分割して欲しい