暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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4、紅の橋

気配を消し、手をかざして様子を確認。

 

地面に横たわっているのは、巨大な熊の死骸だ。通常の熊の十倍近くある。

 

だが、それでも錬金術師四人、特に近隣でも最強の俊英として知られるキルシェも混じった攻撃には屈せざるを得ず。

 

今は、バラバラに解体され。

 

死体はキャンプに運び込まれていた。

 

様子を見ているのは、全身を威圧的な鎧で武装した姿。

 

この鎧は。アダレットの騎士団。

 

それも、将来を嘱望されている精鋭にのみ配られるものだ。

 

そして、この鎧を着ている娘は。

 

アダレット騎士団が公認で抱え込んでいる、深淵の者のスパイでもあった。

 

シャノンと言う。

 

素性についてはあまり知られていない。

 

アダレット騎士団には入団試験があるが。それをあっさりクリアして騎士になり。以降も寡黙に、寡黙すぎるほどにネームド討伐で功績を挙げ続け。

 

やがて騎士団でも一定の評価を得て。

 

現在では副騎士団長であるジュリオに認められている。

 

ジュリオは次代の騎士団長確実と言われる凄腕で。

 

つまり次代の副騎士団長とも言える立場なのだが。

 

しかしながら、深淵の者の公認スパイ。

 

もしも饒舌だったり。

 

周囲に姿を良く見せていたら。

 

あまり良く思われはしなかっただろう。今でさえ不気味がられているのだ。これ以上立場を悪くはできなかった。

 

シャノンは監視している。

 

フィリスの様子を。

 

不意に後ろに降り立った殺意の塊にも動じず。無言で振り返った。

 

「フィリスちゃん、どんなようす?」

 

「……」

 

シャノンは喋るのがいやなので。

 

空中に魔術で文字を浮き上がらせる。

 

成長は順調。

 

人数がいるとはいえ、ネームドの撃破も前ほど苦労していない。今も平均的な魔族の五十倍は体重がある熊のネームドを、死者無しで仕留めた。

 

そう書いたシャノンに。

 

不満そうにしているバディ。

 

ティアナはふんと鼻を鳴らした。

 

「私が監視したいのになー」

 

ソフィー様のご命令のままに。

 

そう書くと、匪賊を殺し、首を狩る事を趣味にしているバディ。ある意味最悪のシリアルキラーであるティアナは、もう一度不満そうに口を尖らせた。

 

「シャノンさ、匪賊狩りの方はやらないの? 私は趣味と実益を兼ねてるから楽しいけれど、それはそれとしてフィリスちゃんを見張りたいんだよね」

 

それも先と同じ。

 

ソフィー様のご命令のままにと答えると。

 

ティアナは目に苛立ちを宿らせた。

 

ティアナは分かり易い。周囲に自分を解放することで、どうにか精神の崩壊を免れている。既に壊れているが、それをどうにか「形にしている」というべきか。

 

シャノンは逆に、鎧に自分を閉じ込めることでようやく自我を保っている。

 

それはそうだ。

 

そもそもシャノンは、まともな人生を送ってきていない。その点では、ティアナと同じだろう。

 

ティアナについては興味も無いしあまり詳しい過去を聞いていないが、やはり匪賊に家族を殺されたか、何かあったらしい。それが故か、凄まじいまでに匪賊を殺す事にこだわるし。それを最大限にやらせてくれるソフィー様に対して絶対的な忠誠を誓っている。いや、あれは忠誠と言うより、神に対する崇拝が近い。

 

シャノンは流浪の人生を送ってきた。

 

生まれ育った村は小さく。

 

錬金術師もいなかった。

 

ネームドに襲われて村を焼かれ。

 

家族も失った。

 

幼い頃の事だから、もう家族の顔も思い出せない。両親が死んだ。それだけしか、よく分からない。残酷な話で、幼い頃の記憶というのは、残らないのだ。

 

難民と一緒に必死に道なき道を歩き、ボロ一つで街に辿りついたが。

 

其処で待っていたのは、奴隷同然の扱いだった。

 

あらゆる虐待を受けた。死ぬ寸前にまで行った。事実、そのままだったら死んでいただろう。

 

そこで、深淵の者に拾われた。

 

初めて食べる美味しいもの。それだけで、この世界にはこんな美味しいものがあるのかと、驚愕し。涙さえ流れた。

 

もう、此処以外に居場所は無い。そうも思った。

 

体が回復してから、深淵の者の訓練施設で適性をはかられ。戦闘に才能があると判断された。訓練は楽しかった。今まで何もできなかったのが、どんどん出来るようになっていくのが分かったからだ。槍に最初は振り回されていたが、すぐに槍を振り回せるようになった。

 

戦士として頭角をあらわしはしたが。

 

その頃から、気味悪がられもした。

 

彼奴はまったく分からない、と。

 

何を考えているのか表情にも出ないし。故に動きも分からない。戦いづらくて仕方が無いし、教えづらい。

 

何人か師匠と呼べる戦士についたが、皆シャノンに教える事は嫌がった。

 

臑に傷持つ者ばかりの深淵の者だったが。

 

ティアナやシャノンのように、特に酷く壊れている者は。そういった場所でさえ持て余されるらしい。

 

それは何となく分かったが。

 

もはや他に居場所は無かった。

 

最近になって、ソフィー様の直属になり。

 

言われるままにアダレットの騎士団に入って、公認スパイになった。

 

深淵の者でもその猟奇性で怖れられているティアナとバディを組む事になったが。

 

お互い嫌いあっているのは分かっていたし。

 

相手に介入しようとも思わなかった。

 

あくまでソフィー様の御為に。

 

シャノンが考えるのはそれだけだ。

 

この鎧も、出来るだけ威圧的に仕上げて貰った。鎧を脱ぐのは、自分の部屋でだけだ。

 

「おー?」

 

楽しそうにティアナが声を上げている。

 

どうやら三つ目の橋を、フィリスが造り始めたらしい。とはいっても、崩した岩山を豪快に放り込んで、そもそも埋めてしまうと言うやり方だが。

 

最後の橋は、実はそれほど距離も無いし。あの橋を突破出来れば後はすぐだろうとソフィー様は仰っていた。

 

フィリスは次々と新しい道具や装備を開発し。

 

鍛冶の類も自力でこなしている。

 

まだ拡張肉体を作るほどの技術は無いようだが。

 

既にギリギリで公認錬金術師試験を突破したような錬金術師より実力は上だろう。そうソフィー様は仰られていた。

 

「これで、インフラは大体回復したのかな」

 

「……そうだね」

 

「!」

 

「もう少し距離を取らないと、そろそろ勘付かれるよ」

 

どうした。

 

シャノンが喋ったことがそんなに驚きか。

 

ティアナはしばらく無言でいたが。

 

やがて頷くと、ついてきた。

 

岩陰には、さっきティアナが殺した匪賊の残骸が転がっている。橋が出来るタイミングを見計らって、手薄になったキャンプを突破しようと目論んでいた連中だ。

 

もう一グループいたのだが。

 

それはフィリス達が全滅させた。

 

此奴らは峡谷に隠れるようにして上手に潜んでいて。

 

それ故に今まで見つからなかったのだ。

 

もっとも、此方としては居場所を知っていたし。

 

タイミングを見て駆除する予定だったので、これは全て予定通りの行動だったが。

 

近隣にいた匪賊は、「鏖殺」の噂に追い立てられ、この峡谷に集まり。

 

そしてこうして、殆ど全滅した。

 

そも、ドラゴンが橋を落とした理由も。

 

或いは人間が集まっているのを察知し。

 

逃がさないようにするため、だったのかも知れない。

 

それとも共食いでもさせて、効率よく殺すのが目的だったのだろうか。

 

いずれにしても、ドラゴンが思っているより早く匪賊共が消えたことで、奴らが人間を襲う理由は無くなった。

 

奴らは増えすぎた人間を殺しに来る。

 

ここ一月で、この近辺だけで400を超える匪賊が死んだ。

 

殆どはティアナがソフィー様の命令で殺したのだが。

 

いずれにしても人間が減ったのは事実で。

 

それも、この過酷な世界では、かなり大きめの街が丸ごと消えたに等しい。

 

事実、橋を監視していたドラゴンも、姿を見せなくなった。

 

充分に人間が減ったことを察知したから、なのだろう。

 

グラオ・タール周辺への緑化を済ませたフィリスが、最後の橋を造るべく動き出す。

 

最後の橋までの距離は短いし、何より物資も余っている。勢いに乗って、一気に、というのだろう。

 

近隣のネームドの中でも、フィリスの手に負えそうに無いのはシャノンが既に処理している。

 

この様子なら、ソフィー様の予定通りに事は進むだろう。

 

何ら問題は無い。

 

「何かトラブルでも起きれば面白いんだけどなあ」

 

匪賊の死骸を、文字通り消滅させる特殊なフラムで処理しながら、ティアナがぼやく。

 

此奴は、天性のシリアルキラーだ。

 

シャノンは無駄な殺しは好まない。

 

必要なだけ死に。

 

必要なだけ生きれば良い。

 

ただ、ティアナが匪賊を処理することは良いことだとも思っているし。

 

ティアナの実力も認めている。

 

ティアナも、シャノンの実力は認めてくれているようだ。

 

気は決定的にあわないが。

 

奇しくも、このバディは上手く噛み合っているのかも知れない。

 

不意に気配。

 

ソフィー様だ。

 

接近にまったく気づけなかった。

 

敬礼すると、最近の出来事を順番に話す。

 

頷くと、ソフィー様は言う。

 

「それでは、ちょっと二人に揃って動いて貰おうかな」

 

「はいっ!」

 

「なんなりと」

 

「うん、良い返事だね。 ライゼンベルグの近くにちょっとタチが悪いドラゴンがいるのを確認してきたから、駆除する。 あたしとプラフタも参加するから、前衛を務めてね」

 

敬礼する。

 

まああの様子では、フィリスはしばらく見張らなくても大丈夫だろう。

 

後は、言われるままに一緒に戦う。

 

ドラゴンといえど、邪神を素手で殴り殺す今のソフィー様の前には敵ではない。相手は上級のようだったが、それでも同じだ。

 

殴り殺したドラゴンを解体し、深淵の者の本部に運び込む作業を手伝いながら、シャノンは思う。

 

後どれくらいで、この世界は変わるのだろう。

 

ライゼンベルグのような自己完結し、ドラゴンからも身を守れる大都市にいる人間だけが安全を保証され。

 

小さな集落には錬金術師が来ない限り明日をも知れない運命だけがある。

 

アダレットの騎士団に入ってみて分かったが、ネームドをどれだけ狩ってもきりが無い。

 

この世界そのものが、人間を殺すために作られているようなものなのだ。

 

ソフィー様は、そんな世界を変えるという。

 

それならば、ついていくだけだ。

 

ソフィー様は圧倒的。

 

この世界の特異点とも言える存在。

 

手段を選びもしないが。

 

その代わり必ず成果も出す。

 

ティアナはソフィー様を神のように慕っているが。

 

シャノンにとってソフィー様は希望の光だ。

 

それが如何に。

 

どす黒く、血に塗れた、深淵から這い出てきたものであったとしても。

 

少なくとも、シャノンは忘れない。

 

ロクに食物も与えられず、周囲でばたばた人が死んで行く中、鞭を振るわれて無理矢理労働させられたことを。

 

ネームドに家族を蹂躙され、為す術さえ無かったことを。

 

この世界そのものを変えられるのなら。

 

シャノンは、命など惜しくは無かった。

 

 

 

(続)




人間を止めた残虐な獣である匪賊に対し、フィリスは思うままの怒りをぶつける事になりました。
その結果新しい家族であるツヴァイの言葉は取り戻す事ができましたが。
フィリスの人間性は更に失われていくことになります。

糸を引く者が望む、そのままに。

現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。

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