暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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孤立地帯にあるグラオ=タールの街。
ライゼンベルグを目前にフィリスが訪ね助けを求めた錬金術師は
やる気を無くした、酔眼の男で
フィリスとも縁がある、訳ありの存在でした。


首都への険道
序、最後の橋


峡谷地帯の南東。

 

最初に、橋を架けた辺りから見て南にかなり進んだ辺りだろうか。峡谷がなければ、或いはまっすぐ此方に来られたのかも知れない。流石に峡谷を丸ごと埋めるのは厳しい事もあって、最短でも、此処まで来るには何度も迂回をせざるをえず。結局、予定通り四つ目の橋を掛ける事になった。

 

途中匪賊の集団と何度か交戦したが。

 

匪賊はいずれも、人間を食糧としか見なしていないのが丸わかりで。

 

その場で情報を引き出しつつ殺処分。

 

頭の中を覗けば、如何に面白がって人を殺して食ったか、しか出てこない。

 

最低限まで転落すると。

 

人間は獣。

 

いや、森を傷つける事から言っても、獣以下になる。

 

それがよく分かった。

 

やはり匪賊は皆殺しにしなければならない。

 

それについては良く理解出来た。

 

どうやら匪賊は子供を育てるという概念も喪失してしまうらしく。女の匪賊を殺したときに。仲間の情報を得るために記憶を覗いたのだが。

 

産んだばかりの子供を食べてしまうと言うおぞましい映像を見てしまい。

 

わたしも流石に、その日は何も食べられなかった。

 

心に傷がたくさんついた。

 

人間の形をした獣以下は。

 

本当にこの世界にとっての害悪でしか無い。

 

もし、世界がこんなではなかったら。

 

別の形で、こんな風になる人間が出るのだろうか。

 

世界の仕組みが違うのなら、どうなるかは分からないけれど。

 

いずれにしても、人間は。

 

他の人間を自分のためだけに容易に殺す。

 

それがよく分かった。

 

橋をかけ終わると。

 

キルシェさんが推薦状をわたしとイルメリアちゃん、パイモンさんに書いてくれた。

 

「流石にこれ以上はフロッケから離れ過ぎるから協力できない。 でも、周辺の匪賊は全て駆除できたと思うから、グラオ・タールが支援をしてくれる筈」

 

「いえ、充分です。 有難うございました」

 

「此方こそ、この飛行キット助かる。 今後、訓練して何人か使えるようにしたら、雪山簡単に上り下りできる」

 

キルシェさんは、小屋くらいもある飛行キットを作って持ってきていたので。

 

それにフロッケの戦士達全員を乗せて。

 

村に戻っていった。

 

辺りの獣の中でも、大物は全て駆除済み。

 

一旦キャンプに戻ると。

 

今後の方針を話す。

 

今、東に見えているのは、巨大な山岳地帯。

 

この山岳地帯の先に。

 

ライゼンベルグがあるという。

 

いよいよここまで来た。

 

だが、物見櫓から見ても分かるくらいに、ライゼンベルグ周辺は非常に厳しい状態だ。

 

まず街道が機能していない。

 

この橋を修復しに来なかったのも道理だろう。

 

街道だったらしい場所はあるが。

 

其処には平然と大型の獣が多数居座っている。

 

上位種のキメラビーストや、ネームドの姿も散見されるし。

 

当然のように魔術も使う大型のアードラもいる。

 

無策に突っ込むのは文字通りの自殺行為だ。

 

更に、物資そのものの補給ももう少ししておかなければならないだろう。結局、一旦グラオ・タールに寄る必要がある。

 

橋の周囲までは緑化が完了していて。

 

更にアングリフさんが事前に徹底的に痕跡などを調べて、既に周辺の匪賊が全て駆除されたことは確認済みである。

 

街道に沿って緑化も順調に進んでいて。

 

後はオスカーさんに任せて大丈夫だろう。グラオ・タールの入り口周辺も既に低木が生い茂っており、獣は凶暴性を失いつつある。

 

この辺りは。

 

人間が比較的安全に通れる場所になったのだ。

 

匪賊の聖地とまで呼ばれた地点にも、既に匪賊の影は無い。

 

これは、大きなインフラの改善だ。

 

キャンプで軽く話し合う。

 

やはり全員の意見が一致した。

 

「一度グラオ・タールにいって情報を集めたいんですけれど」

 

「そうさな。 それがいいだろう」

 

「時にパイモンさん、推薦状は」

 

「おお、大丈夫だとも。 実はキルシェどのに貰ったもので五枚目だ」

 

そうか、流石だ。

 

わたしは四枚。イルメリアちゃんは五枚。

 

いずれにしても、此処にいる錬金術師は、全員既に試験を受ける資格を得ている事になる。

 

ただ、推薦状は多い方が良いとも聞く。

 

各地で、相応の実績を上げているから、推薦状を貰えるわけで。

 

試験を受ける時に、加点材料になるのだろう。

 

勿論、悪質な公認錬金術師になると、適当に推薦状を出したりする人もいるのかも知れないが。

 

今まであった中に、そういう人は幸いいなかった。

 

「今度は門前払いはされない筈だ。 いずれにしても、物資も補給したい」

 

「物資とは少し違うが、パイモンさんの馬、大丈夫ですか?」

 

「ああ、まだもつだろう」

 

言葉と裏腹にパイモンさんの表情は暗い。パイモンさんも馬車でアトリエを引いているのだが。

 

使っている農耕馬が、かなりの老馬なのだ。

 

恐らく、ライゼンベルグまでの往復くらいまでは現役でいられるだろう、という判断をパイモンさんはしていたのだろうが。

 

しかしながら、途中での予期せぬトラブルの続発により。

 

既に数ヶ月の遅延をしていると聞いている。

 

そうなれば、どうなるかは分かる。

 

馬も旅をすれば消耗するわけで。老馬ならなおさらだ。

 

お薬に関しても、情報が無い。見聞院本部で調べれば分かったのかも知れないが、いずれにしても後の祭りだ。

 

ましてや、馬は人間に対して友好的な数少ない生物の一つ。知能も高く、良く訓練するとある程度言う事も聞く。軍馬だろうが農耕馬だろうがそれは同じ。勿論人間とは違う生物だから、考え方も違うだろうが。

 

それでもこの老いた農耕馬に、パイモンさんが憐憫を抱いているのは確実だった。

 

「こやつには無理をさせてきた。 ライゼンベルグまで一気に駆け抜けることは厳しいだろうし、どうにかしたいものだ」

 

「どうにかしましょう」

 

「うむ……」

 

一旦キャンプを三つ目の橋の入り口まで戻す。

 

フルスハイム東から、既に人員が派遣されてきており。

 

橋の側にあったキャンプ跡地に、それぞれ常駐の監視要員が着き始めていた。流石に本来なら危険すぎるのだが、既に道の緑化が成功している事もあり、街道(笑)が街道へときちんと変わっている。

 

現在の状況ならば。

 

常駐要員を置けば、特に問題は無いだろう。

 

匪賊も駆除が大体完了している現在。

 

新しく姿を見せる匪賊を狩るくらいの戦力さえあれば。

 

それで充分だ。

 

彼らとも軽く話をした後。

 

一度グラオ・タールと話し合いをすると説明。

 

そうすると、彼らを指揮するべく前線に出てきていたオリヴィエさんが呼ばれて来た。

 

オリヴィエさんも、グラオ・タールの状況と、其処にいる公認錬金術師が相当な変わり者だという事は知っているらしく。

 

話を聞き終えると、難色を示した。

 

「フィリスどの、イルメリアどのの力については間近で見せてもらっています。 パイモンどのについても、話には聞いております。 しかし、それでも相当に交渉は難航すると思われますので、気を付けられた方が良いでしょう」

 

「はい。 でも、匪賊を駆除し、インフラを復旧した今です。 そう無茶な事を向こうも言わないとは思います」

 

「だといいのですが」

 

ともかく、インフラの保持はオリヴィエさんがしっかりやってくれるという。

 

アングリフさんがしばらく黙っていたが。

 

オリヴィエさんが行った後、わたし達と、お姉ちゃんを手招きして、声を落とした。出来れば消音の結界を張れとも、ハンドサインで指示してくる。

 

パイモンさんが結界を張るが。

 

何だろう。

 

「実はな。 キルシェが戻る前に最後の調査をして来たんだが、例のこの地域最大の匪賊の拠点跡を見てきた」

 

「何かあったんですか」

 

「何かも何も。 80人前後の匪賊がいたのが、一瞬で皆殺しにされている。 他にも、20人から30人の規模があった匪賊のグループが消されている跡が幾つもあった。 この辺りに集まっていた匪賊の内、俺たちに仕掛けて来たのは二割もいない。 残りは誰かが消したんだ」

 

「例の鏖殺でしょうか」

 

無言でアングリフさんが、何処か遠くを見る。

 

とはいっても、呆けている訳では無く。

 

何かを睨んでいるようだった。

 

「俺はどうも最近おかしいと思っていてな。 俺も各地を廻って来たから、鏖殺の話は聞いているんだが。 その手口が、数年前を境に一変しているんだよ」

 

「一変、ですか」

 

「そうだ。 それまでは、鏖殺は非常に荒っぽくて、確かに凄まじい殺し方をするが、名前を聞いただけで終了何て災害みたいな存在では無いという話だった。 今では、名前を聞いただけで匪賊は即座に逃げ出すほどになっている。 やり口も荒っぽいどころか、文字通りの災害だ。 逃げる暇もなく皆殺しにされているな」

 

そうか。

 

匪賊に対してはただしい対応だとは思う。

 

だが其処までとなると、本当に一体どんな存在がやっているのだろう。

 

「そしてここからが重要なんだがな。 例の最大規模の匪賊の拠点。 他と違って、どうも血の跡が異様に多かった」

 

「? どういうことですか」

 

「他では殺した跡、死体を即座に処理している様子なんだがな。 恐らく首を刎ねてから長時間放置している。 血の跡から考えて、相当に綺麗に首を刎ねているな。 死体そのものは見ていないが、殆どの奴は殺された事にさえ気づけなかったのではないか、と俺は考えている」

 

「……凄まじい、ですね」

 

アングリフさんは気を付けろ、といった。

 

結界を解除。

 

さっきの様子からして。

 

恐らくそれをやった奴が、まだ近くにいる、と言う事だろうか。

 

そしてどうしてお姉ちゃんを呼んでわざわざ聞かせた。

 

意味があるのだろうか。

 

ともかくだ。

 

グラオ・タールに出向く。

 

今度は、見張りをしていたナベリウスさんは、比較的態度が柔らかかった。

 

「錬金術師殿方か。 まさか本当に匪賊をあらかた駆除してくれた上に、フルスハイムにまで通じる街道を緑化までしてくれるとは」

 

「ノルベルトさん、でしたね。 此処の公認錬金術師の方に会いたいのですが、今度こそ許してくれますか?」

 

「おう、流石にうるさがたの長老達も、この偉業の前にはもう文句を言うまい。 緑化作業とネームドを駆除してくれたおかげで、畑を作る余地まで出来ている。 生活がかつかつの状況からも抜けられるだろう」

 

現金なものだが。

 

とにかく、通してくれた。

 

ただ、いずれ例の異常気象を起こしているドラゴンはどうにかしなければならない。まだわたしはドラゴンに手が届かないが。

 

いずれは、だ。

 

ついたてのような下り坂を下り。

 

そして上り坂を上がる。

 

馬車は流石にきついので、外のキャンプに残す。物資だけなら、わたしが受け取って、アトリエの中のコンテナに入れ、外に出た時点でイルメリアちゃんとパイモンさんに分配すれば良い。

 

キャンプでの見張りを考慮して。

 

イルメリアちゃんとパイモンさん以外には、アングリフさんとお姉ちゃん、それにレヴィさんだけについてきて貰った。後はみんなキャンプに残った。

 

フルスハイムから来た戦士も数人いるし、何より緑化されたキャンプだ。

 

オスカーさんも近くで作業をしているし、問題は無い。

 

森が出来れば、獣に襲われなくなる、と言う事はないが。

 

荒野の時とは比較にならないほど獣が大人しくなるのも事実だ。

 

実際、この人数で歩いていて。

 

おそわれる事は一切なかった。

 

荷車からは飛行キットを外してはいるが。

 

荷車そのものは空を飛ぶ工夫を施すときに調整を色々し。更にキルシェさんにも言われて改良しているので、とにかく軽い。

 

坂を引いていても、まるで苦にならなかった。

 

グラオ・タールに入る。

 

中は何というか、箱庭のようだ。

 

峡谷の真ん中に出来た、三角州のような地形。

 

いや、川があった頃は、三角州だったのかも知れない。

 

周囲が天険の堀になっていて。

 

空を飛ぶ獣以外は警戒しなくても大丈夫な、文字通りの要塞。

 

エルトナを心の中で比較対象に出してしまう。

 

どうしても、被るところがある。

 

お姉ちゃんの機嫌が悪い。

 

どうしてか、ここに来てから、ずっとお姉ちゃんは不機嫌そうだった。理由を聞いても、首を横に振るばかり。

 

街の周囲には、四ヶ所に見張り櫓。

 

更に城壁まで作っており。

 

この閉じた街の鉄壁ぶりがよく分かる。

 

戦士の数も、街の人間に比べて、かなり多いようだ。相当に自衛のために力を入れているのだろう。

 

これについては、最近まで周囲が匪賊の聖地とまで言われていたのだ。

 

無理もない。

 

そうしなければ、匪賊に攻めこまれて。

 

街丸ごと皆殺しにされていたのだろうから。

 

街の造りも堅牢で。

 

都市計画が根本的に違う。

 

迷路のように石造りの家が入り組んでいて。

 

彼方此方に坂などがあった。

 

敵が入ってきたとき、四方八方から迎撃できる造りだと、アングリフさんが教えてくれる。

 

なるほど。確かに振り返って見ると、入り口から来た敵を、全方位から不意打ちできるようになっている。

 

憶病なほどに、強固な要塞だ。

 

イルメリアちゃんが、袖を引く。

 

足を止めて確認。

 

どうやら今は停止しているようだが。

 

錬金術で増幅された、魔術のトラップだ。

 

発動した場合、強烈な炎が、周囲を焼き尽くす仕組みになっている。

 

「これは、要塞のような造りではないわ。 本当に要塞よ。 要塞の中に住んでいるんだわ」

 

「凄いね……」

 

「神経質過ぎるほどね」

 

迷路のような地帯を抜けると、今度は森と、畑が見えてくる。

 

森と言うには少し規模が小さいか。

 

その中に、畑が拡がっているが。

 

確かに規模がかなり心許ない。

 

更に、水もくみ上げる仕組みがある様子だ。

 

錬金術によって、地下深くから水をくみ上げている様子だと、イルメリアちゃんが教えてくれるが。

 

なるほど。

 

水も食糧も自給可能。

 

外に出る必要もない、と言うわけだ。

 

だけれど、エルトナで暮らしていたからわたしには分かる。

 

あまりにも閉じた環境でずっと暮らしていると、近親交配が進んで、どうしても血がよどんでしまう。

 

体がおかしな子供がどんどん増えていくし。

 

生まれながら同じ病気を持った人間も増えていく。

 

解消するには外からの血を入れるしか無いわけで。

 

この要塞のような街も。

 

本来ならば、外からの人間を積極的に受け入れられる仕組みを作るべきなのだ。

 

ナベリウスさんが足を止めたのは、あばら屋だった。

 

あからさまに管理されていない。

 

だが、アトリエの看板は出ていた。

 

「長老達は、あんた達には好きなようにさせるように、とのことだ。 ただ、戦力も出せないと言っていた。 ノルベルトどのについては、本人の判断に任せる、そうだ」

 

「……分かりました」

 

ナベリウスさんが、また呼んでくれと言って、距離を取る。

 

彼としては、この状況。

 

良いとは想っていないのだろう。

 

まあ誰でも少し考えれば分かる事だ。この要塞に立てこもって暮らしていける仕組みを作ったって。

 

いずれどうにもならなくなるのは目に見えているのだから。

 

ぼろなアトリエの戸をノックする。

 

眠そうな声と共に姿を見せたのは。

 

無精髭だらけの。酒瓶を持った、やる気の無さそうな男性だった。ノルベルトさんだろう。

 

目には酒の酔いが浮かんでいて。

 

強烈な酒の臭いがする。

 

「なんだ……錬金術師……四人、いや三人か」

 

「? ええと、ノルベルトさんですか」

 

「ああ。 お前さん達が、この辺りの匪賊を皆殺しにしたのか?」

 

「いえ、殆どは噂の「鏖殺」という人が。 わたし達は、街に害を為そうとした匪賊だけを斃しました」

 

しばらく口をつぐんでいたノルベルトさん。

 

わたし達は名乗ると。

 

物資の補給と、それとライゼンベルグまでの道についてのアドバイス。

 

後は、可能な限りの協力を求めた。

現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。

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