暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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3、道はまだ半ば

イルメリアちゃんは戦いの後倒れてしまった。前線で戦ったアングリフさん以下前線組も著しく状況が悪い。

 

薬を使って治療を進めながら。

 

ため息をつく。

 

ノルベルトさんも、包帯だらけになって、横たえられながら。

 

皮肉混じりに言った。

 

「言っただろう。 峡谷のネームドより上だって」

 

「……」

 

「ついでに言うと、ドラゴネアの実力はあれ以上だ。 鱗はさっきの攻撃全部ぶち込んでも抜けるか分からないし、ブレスはあのシールドで防げるか分からないな。 最後の渾身の一撃を超える可能性が高い。 それでも「下級」なんだよ」

 

諦めろ。

 

そうノルベルトさんは言う。

 

何となく、この人の鬱屈の理由が、今分かった。

 

この人は、故郷をドラゴンに滅ぼされたから鬱屈しているのもあるが。

 

勝てない事を知ってしまっているから鬱屈しているのだ。

 

仇は目の前にいる。

 

それなのにどうしようもできない。

 

相手は暴力の権化のような化け物。

 

そんなのを相手に、どうすればいいのか。

 

わたしだって、さっきの戦いは怖かった。ドラゴンの実力があれ以上となると。準備はまだ足りなかったという事になる。

 

壁が高すぎる。

 

イルメリアちゃんが目を覚ましたので、側に行く。

 

どうだった、と聞くが。

 

悔しそうだった。

 

「見ての通りよ。 あれでも自信作だったのに……」

 

「もっと凄いのを作ろう」

 

「私の体が保たないわ。 攻撃手段にしても、あの雷撃、ネームドにも通らなかったのよ」

 

駄目だ。

 

イルメリアちゃんまで折れてしまっている。

 

パイモンさんは。

 

パイモンさんは、黙々と雷神の石を調整している。

 

わたしは。

 

どうなのだろう。

 

兎に角、一通り手当は終わったので休む。

 

幸い、オスカーさんは周囲の緑化をどんどん進めてくれていて。キャンプが襲撃される可能性は低い。

 

更に、オスカーさん自身が今夜は見張りをしてくれるという。

 

この人は見た目を遙かに超える使い手だ。

 

多分、それで何とかなるだろう。

 

悔しいが、今日は甘えるしか無い。

 

わたしは折れていないのか。

 

自問自答する。

 

シュタルレヘルンも、オリフラムも通じなかった。しかも、ドラゴンよりも力が落ちるネームド相手に、だ。

 

ノルベルトさんの言葉は正しかった。

 

ライゼンベルグ西のこの山、本物の魔境だ。化け物達が住まう悪夢の土地だ。

 

フロッケ村からの強行突破をするのが、如何に無謀かよく分かった。もし強行突破していたら、今頃全員死んでいただろう。

 

仮にライゼンベルグの至近までたどり着けていたとしても、だ。

 

ツヴァイちゃんが来る。

 

わたしも眠れずにいる事に、気付いたのだろう。

 

「お役に、立ちたいのです」

 

「大丈夫。 数字の管理がわたし苦手だから、ツヴァイちゃんにはいつも助けられているよ」

 

「でも、フィリスさんは、戦力が足りていないと悲しんでいないですか」

 

ツヴァイちゃんは、この間匪賊を殺すのに囮になってから。

 

かなり喋るのも大丈夫になって来た。

 

それまでは喋るのも辛そうだったのだけれど。

 

なお、最初はマスターとか、フィリス様とか呼ぼうとしたので、それは止めさせた。

 

「大丈夫だよ。 むしろ最初に壁の厚さが分かって助かったくらい。 今度は……もっと力をつけるだけ。 さっきの戦力でドラゴンとぶつからなかっただけ、幸運だと思って、準備をする。 それでいいんだよ。 ツヴァイちゃんは、数字を管理して、わたしに教えてくれるだけで大丈夫」

 

「……」

 

半身を起こすと、ツヴァイちゃんをぎゅっと抱きしめる。

 

子供扱いされていると思って嫌がるかと思ったが。そういう事も無いので良かった。

 

話して、ある程度楽になった事もある。

 

そのまま、すっきり眠る事が出来た。

 

そして、翌朝。

 

皆に方針を話す。

 

「この山にはまだまだ危険なネームドがいます。 その全てと戦って、もっと楽に勝てるようになってから、ドラゴンに挑みます」

 

「正気……?」

 

「正気だよ、イルメリアちゃん」

 

イルメリアちゃんは、ぐっと拳を握りこむ。

 

わたしは咳払いすると、続ける。

 

「この山の鉱物は非常に強力な鉱石を含んでいることが分かっています。 ちょっと獣狩りと並行して、素材を集めて、装備品を全体的に強化しましょう。 道具も。 それで、戦力はぐっと上がる筈です」

 

「……まあ良い意味で楽天的だな。 分かった、良いだろう。 ドロッセル、斧は壊れていないか」

 

「平気ですよ、アングリフさん」

 

「なら武器の方は問題ないな。 いずれにしても、ネームドさえ手に負えないなら、この先に待ち構えているドラゴンを倒せる状態じゃあねえ。 一度戦力を引き締め直すのは充分にありだ」

 

問題はと、アングリフさんはイルメリアちゃんを見た。

 

イルメリアちゃんは、静かに俯いた後。

 

やるわと、一言だけ呟いた。

 

 

 

しばし、戦力強化に費やす。

 

この辺りの岩などを崩して、鉱石を入手。中にはプラティーンの原料になるものもあった。ただし、桁外れに調合が難しかったが。

 

ハルモニウムを作れれば良いのだが。

 

それはドラゴンを倒す事が必須になる。

 

少なくとも、現時点では届かないのが悔しい。

 

まずはプラティーンから。

 

これに近い硬度の合金は作れているのだから。

 

プラティーンと比較してみて。

 

どうなるか確認してみたい。

 

そもそもこの鉱石、非常に頑強である上に、熱にも恐ろしい程強い。

 

砕くのも一苦労な上。

 

炉で不純物を取り除くのも今までの鉱石の比では無い。

 

四苦八苦の末に、数日がかりでやっとプラティーンのインゴットは作ったが。品質は決して良くはなく。もう一度作り直す。

 

わたしはどうも、一度でコツを掴めないらしく。

 

何度もやってみないと駄目だ。

 

イルメリアちゃんが来た。

 

プラティーンのインゴットを見て、貰えないかと言われた。ちなみに、最初に作った出来が悪い方だ。

 

「いいけれど、イルメリアちゃん、もっと良いの作れない?」

 

「悔しいけれど鉱物関連の調合はもう貴方の方が上よ。 他のは全部まだ私が上だけど」

 

「あはははは、えーと。 褒めてるの?」

 

「そうよ」

 

そうか。イルメリアちゃんはずっと暗い顔をしていたし、結構毒舌も吐く。悲観的な言葉も口にすることが多い。

 

だから褒められると、少し嬉しかった。

 

とにかく、イルメリアちゃんがずっとわたしより錬金術の経験が多いことは知っているのだし。

 

負けていても全然悔しくない。

 

負けていて当然なのだから。

 

むしろ、一つでも勝てたのなら、それは誇りだ。

 

「それで、どうするの」

 

「今までは例の合金で魔剣を作っていたのだけれど、今度はこれでやってみるわ。 それと貴方の作ったタリスマン、レシピ見せて」

 

「どうするの?」

 

「改良して、魂を直接魔剣に接続するのよ。 それとあのシールドにも」

 

それ、まずいのではないのだろうか。

 

魔術というのは、詠唱で魔力を増幅するのと同時に、制御もすることを同時に行う。

 

魔力そのものは、魔術を使えない人にも備わっている。この辺りは、錬金術ほどでは無いが、一種のギフテッドで。魔術も、例え魔族であっても、苦手なものは使えない。特に、回復魔術を使える魔族は少ないと聞いている。

 

「危険だよ……!?」

 

「正直、今までは覚悟が足りなかったわ。 これくらいしないと、この先は超えられない……!」

 

イルメリアちゃんは。

 

どこか鬼気迫っていた。

 

何か嫌な予感がする。少し不安になったけれど、レシピは見せる。キルシェさんほど一瞬ではないけれど。

 

そう時間は掛けず、イルメリアちゃんはレシピを把握した。

 

この辺りは、試行錯誤しないと出来ないわたしより上だと思う。だが、それを見越していたのか。

 

イルメリアちゃんは言う。

 

「勘違いしているようだけれど、貴方は発想する事自体が凄いのよ。 模倣はある程度力がつけば誰にでも出来るの。 だけれど発想し、創造することはそう簡単にはいかないのよ」

 

「そうなの?」

 

「これだから無自覚は……」

 

不機嫌そうに、イルメリアちゃんはアトリエを出て行く。

 

いずれにしても、数日はしっかり調整をしなければならない。

 

わたしも、今まで入手した、一番良い道具を使って、皆の装備品を作り直す。余ったものや型落ちにしても、今後戦略事業を行う際に傭兵に配ったり。或いは完全に入らなくなったら、アルファ商会にでも売ってしまえばいい。

 

流石にネームドの素材を利用し。

 

更に深核を中和剤として用いると。

 

桁外れに出来が良いものが作れる。

 

蒸留水も、最初に作っていた頃とは、比較にならないほど品質が高いものを作れるようになってきているし。

 

作れる道具は更に強力になる。

 

ある程度性能を底上げしたところで、自分で試す。

 

倍率が上がっているのが露骨に分かるが。

 

これでも、ドラゴンに届くかは分からない。

 

アトリエの外に出ると、鉱石だけでは無く。図鑑を見ながら、色々なものを採取していく。

 

砂が黒い。

 

黒い砂そのものはあるのだが、これはちょっと違う。

 

調べて見ると、かなり特殊な用途に用いる強力な媒体だと言う事がわかった。なお、鉱物なのに、声も聞こえない。

 

掘り返して、持っていく。

 

イルメリアちゃんとパイモンさんに配るが。

 

ノルベルトさんは、いらないと言った。

 

どうやら、錬金術に関しては、手近で手に入れられるものだけを使う、という主義らしい。

 

また装備品も見せてもらったのだが。

 

それについても、高い技術力で品質を保っている様子で。

 

あまり凄い素材を使っている様子は無かった。

 

単純に凄い腕前、ということだ。

 

だが、これほどの腕があるのなら。

 

どうして匪賊に対して脅かされていたのだろう。

 

戦闘でも、あまり積極的に動いている様子は無かったし。

 

そもそも、この人が前線に出てくれば、ちょっとやそっとの匪賊なんて、鎧柚一触に蹴散らせたのではないのだろうか。

 

疑問は膨らむ。

 

ノルベルトさんは、どうして出来れば戦いたくないのだろうか。

 

だが、調合を始めると。

 

いつのまにか徹底的に集中して。

 

疑念を追い払えるように。

 

いつの間にか、体が鍛えられていた。

 

 

 

一週間ほど過ぎただろうか。

 

調合を主体に、皆の装備を鍛え上げて、また獣狩りに戻る。

 

キャンプ周辺の緑化が進んだからか、草食動物がかなり集まっているが。やはり空いた縄張りを埋めているからか。かなり巨大な個体が多い。

 

実は、このキャンプまで来た錬金術師が何人かいたのだが。

 

先の様子を見て閉口し。

 

そのまま無言で帰ってしまった。

 

手伝ってくれと声を掛けたが、転がるように逃げてしまったので。

 

正直、フルスハイム東最初の戦闘で逃げてしまった二人のように。いてもあまり役には立たなかっただろう。

 

順番に、一匹ずつ片付けていく。

 

緑化した地帯にいる間は、近づけば威嚇する、程度の獣たちも。

 

森を出ると、全力で殺しに襲いかかってくる。

 

いきなり態度が豹変するので、この辺りは非常に怖い。

 

オスカーさんは、コツを掴んでいるのか、マイペースに緑化を進めているけれど。

 

どれだけ経験を積んだら、これに対応出来るのか。

 

まるで分からない。

 

或いは植物が危険を警告してくれているのだろうか。

 

ともあれ、狩る。

 

峠までまだ距離がある。

 

雑魚を狩っていると、当然ネームドが出てくる。

 

今度は、半日も獣を狩っていたら、もう出てきた。

 

それだけ、獣の縄張りが混乱していると言う事で。

 

この間の巨大な植物のネームドの縄張りの跡目を争って、複数のネームドが広域を徘徊している、と言う事なのだろう。

 

今度現れたのは、キメラビーストのネームドだ。

 

ただでさえ手強いキメラビーストなのに。

 

全身が真っ黒で。

 

更に尻尾は普通蛇一本なのに対して、十本以上の蛇が生え。

 

背中には翼。

 

口元の牙は鋭く、口から上下ともに乱ぐいにはみ出し。

 

そして何よりも、普通のキメラビーストの、七倍から八倍は体長があった。文字通り、見上げるような巨体である。

 

そいつを見た瞬間、他の獣が皆逃げ出す。

 

よく見ると、目は白く濁っていて。

 

既に正気を失っているのが分かった。

 

「力に飲まれたんだな」

 

アングリフさんがぼやく。

 

何でも、ネームドは自然の摂理に反しているほどの力を持った獣故に。時々完全に意識まで自然の摂理から外れてしまう個体が出ると言う。

 

そういう奴は、森に入ってまで見境無く破壊を繰り返す、世界のルールに反した存在になってしまうと言う。

 

白く濁った目でも。

 

此方を獲物として認識したことは分かった。

 

来る。

 

やるしかない。

 

躍りかかってくるキメラビーストのネームド。ノルベルトさんが、真っ先に前に出る。

 

豪腕が降り下ろされるが、残像を作ってかわしながら、無精髭だらけの怠け者錬金術師は言う。

 

「よう、久しぶりだな黒煙のバムル。 まあお前はもう脳みそも働いていないみたいだがな」

 

あれは黒煙のバムルというのか。

 

詠唱を続けるわたし。

 

幸い、連日の狩りのおかげで、周囲に邪魔な獣はいないし、残っていたのもバムルのおかげで逃げ去った。

 

大技を使うチャンスだ。

 

動きさえ止められれば。

 

詠唱をしながら、シュタルレヘルンを放る。

 

同時にそれとあわせて、パイモンさんが掲げた。

 

更に複雑な構造になった雷神の石だ。

 

ノルベルトさんが逃れると同時に。

 

冷気が爆裂。

 

更に強化された無数のつららが、バムルを襲うが。その全身を包んでいる強烈な魔力が、つららをはじき返してしまう。直撃する雷。全身を舐め尽くすが、それでもあまり効いているようには見えない。

 

バムルの蛇が、一斉に此方を向く。

 

イルメリアちゃんが、剣を放つが。

 

残像を抉るだけ。

 

中空に躍り出たバムルは、詠唱を既に完成させていた。

 

前に出たのは、オスカーさんである。

 

スコップを振るい、バムルが放った特大の火球をはじき返す。目には珍しい怒りが籠もっていた。

 

遠くの空で今の火球が爆発。

 

此処まで衝撃波が来るほどの火力だ。

 

「オイ、最低限のルールくらいはわきまえろ!」

 

珍しく怒気が籠もったオスカーさんの声にも、バムルは怯まない。

 

ジグザグにこっちに来る。

 

お姉ちゃんが、いつの間にか後ろに回り込んでいて、背中から矢を叩き込む。撃つときの音が、今までよりも更に凄まじい。

 

しかも三本同時に矢を放っていた。

 

その矢が全て、バムルの背中に吸い込まれ。

 

カルドさんが連射。

 

全てがバムルの左目に直撃。

 

頭上から、アングリフさんが、渾身の一撃を叩き込むが。

 

今のでも眼球が潰れず。

 

背中に刺さった矢も分厚い皮に阻まれたバムルが、衝撃波を放ち、アングリフさんとお姉ちゃんを吹っ飛ばす。

 

アングリフさんはずり下がって着地しながら、叫ぶ。

 

「今だ、ドロッセル!」

 

轟音と共に、岩が横殴りにバムルを直撃。

 

流石に、巨大な岩の直撃を喰らって、バムルも足を止める。

 

其処に、アリスさんが至近に躍り出、双剣を振るう。

 

両目を一気に抉りに行ったが。

 

左目だけしか切り裂けなかった。今、アリスさんが振るっている剣、プラティーン製の上に錬金術で滅茶苦茶強化されているように見えたのだが、それでもだめか。

 

飛び下がりながら、また火球を放ってくるバムル。

 

イルメリアちゃんが、シールドを展開して、防ぐ。文字通り、目の前が灼熱で真っ赤になる。

 

私の詠唱はまだ少し掛かる。

 

どうやらバムルがまた一発放ったらしく。

 

更にシールドが赤熱。

 

まずい。

 

このまま距離を取りながら、アウトレンジでの戦法を繰り返すつもりか。

 

視界が晴れないとまずい。

 

だが、不意に視界が晴れる。

 

パイモンさんが、別の石を取り出すと、その力を解放したのだ。

 

風が噴き上がり、辺りが一気にクリアになる。

 

バムルが跳躍して、また詠唱を終えている姿が見えた。

 

イルメリアちゃんが、剣に行けと叫ぶ。

 

四本の剣が、回転しながらバムルに襲いかかる。

 

バムルもまずいと考えたのか。

 

空中で当たり前のように機動しながら、地面に着地。ずり下がりつつ、三連続で火球を放ってくる。シールドで防ぐが、今度は風が働いているからか、一撃ごとに視界を奪われる事も無かった。

 

また、至近にお姉ちゃんが接近成功。

 

三本の矢を、同時に叩き込む。

 

さっき横殴りに岩をぶつけられたからか。

 

バムルの反応は遅れ、モロに脇腹に矢が食い込む。しかも、さっきよりも矢が深く入っている。

 

なるほど、見えてきた。

 

バムルは強力な魔術による増幅を、見境無く使っているのだ。

 

だからおぞましいまでに強い。

 

だが、どんどん魔力の容量が減っている。

 

それならば、勝機がある。

 

お姉ちゃんを衝撃波で吹っ飛ばすバムルだが、今度は脳天にアングリフさんの大剣が叩き込まれ。

 

更に背後の蛇数本が、一気にアリスさんに斬り飛ばされた。

 

其処に、パイモンさんの雷撃が直撃。

 

絶叫するバムル。

 

だが、ここからが。バムルの真骨頂だった。

 

全身が爆ぜ割れる。

 

黒い毛皮が吹っ飛び、真っ白な毛皮が姿を見せる。何となく分かる。まずい。これが、此奴の本気の形態だ。

 

一瞬で、吹き飛ばされるアングリフさんと、奇襲を仕掛けようとしていたドロッセルさん。二人とも地面に叩き付けられる。

 

ノルベルトさんが蹴りを叩き込むが、上空からの一撃を受け止めると。

 

はじき返して吹っ飛ばす。

 

動きが遅くなった代わりに。

 

異常に堅くなった。

 

それだけではない。

 

此方を見る白いバムルの目は、両方とも再生していた。

 

仕切り直しが出来るのか。

 

火球を放ってくる。

 

まずい。

 

直感的に悟ったわたしは、詠唱を切り替え、岩の壁を作り出す。だが、火球はそれを貫通し、更にイルメリアちゃんのシールドが、一瞬で罅だらけになる。

 

守勢に入ったら負ける。

 

だが、あの超防御力だ。

 

どうすればいい。

 

さっきイルメリアちゃんが放った剣四本が、同時にバムルを背中から襲うが、それさえはじき返される。

 

だがまて。

 

先と同じ理屈なら。

 

火球をまた放ってくるバムル。

 

だが、その瞬間。

 

パイモンさんが、渾身の雷撃を叩き込む。

 

綺麗に入った。

 

火球がそれ、遠くの空で爆裂する。

 

同時に、わずかによろめいたバムルの後ろの蛇を、全てアリスさんが斬り飛ばす事に成功。

 

動きが鈍っているバムルの反撃もまともに喰らわず。

 

バックステップでやり過ごすことに成功した。ただ、衝撃波を貰って、かなりしんどいようだが。

 

好機。

 

「カルドさん、可能な限り連射を続けてください!」

 

「よし、任せてくれ」

 

カルドさんが高速で装填しつつ連射を繰り返す。もう狙いはどうでもいい。

 

当たり続けさえすればそれでいいのだ。

 

火球をもう一発放つバムル。

 

シールドが、砕ける。

 

だが、その時には、熱風を浴びつつも。

 

わたしは詠唱を終えていた。

 

両手を地面に突き。

 

最大の術式を発動。

 

噴き出した大岩が。

 

下からバムルを突き上げ。

 

上からバムルを押し潰す。

 

文字通り上下左右から岩に押し潰されたバムルは、絶叫しながら大量の血を吐き散らした。

 

やはり白くなっても、暴走状態である事に代わりは無い。

 

蓄えた魔力を見境無く使っているという事だ。

 

至近から、バムルの頭にお姉ちゃんが矢を叩き込む。

 

もはや反撃さえ満足にできないバムルだが。

 

その頭上に、光の球が出現。

 

そして爆裂した。

 

辺りを衝撃が無き払う。

 

バムルごと、である。

 

滅茶苦茶だ。

 

なんと今の衝撃、オスカーさんが農具を振るって相殺したが、前衛はアングリフさん以外地面に伸びている。

 

アングリフさんは、ずたずたの体を引きずって、瀕死のバムルに歩み寄ると。

 

頭に矢が数本刺さっている上、明らかに脳を貫通しているにもかかわらず生きているバムルに悪態をついた。

 

「ちいとばかり、やりすぎたな!」

 

唸った大剣が、バムルの首を叩き落とす。

 

流石にこれには。

 

化け物としか言いようが無い凶獣も、屈せざるを得なかった。

 

動かなくなったバムルは。

 

その美しい白い毛皮から、急速に光沢を失っていった。

 

それで理解させられる。

 

あれはそういう色の毛皮だったのではなく。

 

ただ、魔力でそう輝いていただけだったのだと。

 

魔力を使い切ったわたしは、流石にへたり込む。

 

爆弾の火力が足りない。

 

イルメリアちゃんは、更にシールドの火力を上げないと駄目だと痛感したようだ。

 

パイモンさんは無言で薬を取りに行き。

 

アングリフさんが、傷だらけの前衛組を担いで連れてくる。

 

バムルの死体を引きずり出し、解体し。

 

使えそうな部位を回収するのも、かなりしんどかった。

 

想像を絶する巨体だったからだ。

 

それに、内部から出てきた深核は巨大で。

 

今までに無い大きさだった。

 

あまり強くないネームドだと小石くらいなのだが。

 

此奴のは抱え上げるほどもある。

 

分割して、皆に配る。

 

呼吸を整える。

 

まだだ。

 

まだドラゴンには届かない。

 

だけれど、次の改良で。

 

届く所まで、力をつける。

 

そしてその時には。

 

ライゼンベルグまでの道が、必ず開けるはずだ。

 

暗示のように、自分に言い聞かせる。そうしないと、この強大な獣の群れを前にして、心が折れそうだったから。

 

手当が済むと、皆無言だった。

 

アングリフさんに聞いてみる。

 

「昔、此処までの状況になる前は、ライゼンベルグ周辺はどうだったんですか?」

 

「そうさな。 危険な場所に代わりは無かったが、もうこの辺りくらいになると、匪賊は流石に姿を見せなかったな。 此処と同じくらいの危険地帯は何カ所か知っているが、首都近郊がこんな状態というのは異常すぎる。 一応大回りすれば多少安全な道もあるんだが、そっちを行くと三倍は時間が掛かるんでな」

 

「三倍」

 

「恐らく、どうしてもライゼンベルグに用事がある奴は、アルファ商会にでも頼むか、その道を行くしかないと思うぜ。 それにしても地味に痛えな畜生」

 

ぼやくアングリフさん。

 

ここぞというタイミングで敵の気を引いてくれていたが。

 

この人でさえ、有効打は中々与えられなかった。

 

「もう少し装備品や爆弾の質を上げます。 ドラゴンには……まだ厳しい事が分かりますから」

 

「……そうだな」

 

早めに休め。

 

そう言われたので。素直に休ませて貰う。

 

わたしは改良点を考えながら。体を洗った後、ベッドに潜り込む。

 

疲れ切った体は貪欲に睡眠を求めていて。

 

目を閉じると。

 

後は、すぐに眠ってしまった。

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