暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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目的地ライゼンベルグの手前にて、最大の問題にうち当たるフィリス。
公認錬金術師がいる集落を滅ぼしたドラゴンが、そのまま倒されずに居座っているという最悪の状況です。

排除しなければなりません。


竜狩り
序、傷だらけになりながら


うなりを上げながら、それでも倒れ伏す。

 

地面に叩き付けられた巨大な鹿のネームドは。口から猛毒の泡を吹いていたが。やがて動かなくなった。

 

呼吸を整える。

 

ブリッツコアの実験は成功だ。

 

雷撃。

 

氷撃。

 

炎撃。

 

更に物理衝撃。

 

四種類を造り。それぞれ実験しながら、実戦投入した。

 

相手が地面に体をもぐらせていたり、地面に貼り付いているときは。装備品で増幅した魔術で、一気に押し潰すことが出来るけれど。

 

飛んだり跳ねたりするすばしこい相手だと、広域制圧火力の方が重要になる。一方、一点突破を狙う場合は、広域制圧火力では不足するケースが多い。相手の動きが止まっている、もしくは鈍足の場合。極大の一撃を収束して叩き付けたい。しかも、此方は即座にその切り替えをやりたい。

 

そこで、小回りがきくブリッツコアを作り上げたのだが。

 

今の一撃は、確実にネームドに致命打になった。

 

イルメリアちゃんが作った剣の切れ味も上がっているし。

 

パイモンさんの雷神の石も更に火力が上がっている。

 

今斃した鹿は、山に入ってから四匹目のネームド。

 

近辺のネームドが次々姿を見せているが、少しずつ戦闘そのものは楽になって来ている。ここに来てから、徹底的な装備品の吟味を続けているし。何より恐らく、あの二番目に来たキメラビーストが近辺最強のネームドだったのだろう。

 

だが、それでも。

 

油断はとても出来ないが。

 

鹿を回収した後。

 

装備品の調整に入る。

 

ドロッセルさんとアングリフさんに声を掛ける。

 

武器は改良の必要があるかと。

 

二人ともこれでいい、という。

 

ならば、その意思を尊重するだけだ。

 

お姉ちゃんは自分で弓のメンテナンスをしているし。

 

カルドさんも同じく銃は自力で手入れしている。

 

弾丸をもっと強化すればいいだけなので。

 

カルドさんの方は楽だが。

 

お姉ちゃんの方は、更に上がって来ている身体能力に、弓の方が耐えられなくなってきているかも知れない。

 

フルスハイムで購入したときはばっちりだったのに。

 

まだ数ヶ月も経っていないのに。

 

嘆息する。

 

いずれにしても、公認錬金術師になったら、お金をある程度稼ぐことを視野に入れなければならないだろう。

 

分かった事がある。

 

錬金術をこれ以上本格的に行い始めると。

 

多分お金が幾らあっても足りなくなる。

 

今までは戦略事業を行っていたから、支援があった。その支援によって、作業を行うことが出来ていた。

 

だが今後は違う。

 

まずわたしはエルトナに戻って、其処の調整から行う事になるだろう。その時には、お金はわたしが捻出しなければならない。

 

今までとは違う。

 

ライゼンベルグからの支援金なんて期待出来るはずも無い。

 

ソフィー先生も、一人前になったら、後は支援なんてしてくれる筈もない。

 

自分でやらなければならないのだ。

 

一通り装備のメンテナンスが終わった。

 

皆の様子を見て、特に問題は無い事を確認。

 

そのまま、獣狩りに戻る。

 

今日中に出来れば、もう一匹くらいネームドを狩っておきたい。

 

周囲にいる大型の獣を、順調に狩れているようで。

 

集まってくる獣はかなり小さくなってきている。

 

オスカーさんが緑化している範囲を確実に拡げている、というのもあるのだろう。

 

少なくとも、峠までの距離は、確実に縮まりつつあった。

 

獣を一匹ずつ処理し。

 

だが夕方までに、ネームドは現れなかった。

 

今日はここまでと切り上げる。

 

予定はある程度前倒しに進んでいるのだ。

 

焦ることは無い。

 

キャンプで、皆に薬を配り。

 

食事を済ませて、後はゆっくりする。

 

わたしはブリッツコアの調整を行うが。

 

それは他の人には見せずにやる。

 

わたしの無駄に余った魔力を有効活用する方法。最大限に利用する方法。色々と、今までとは比較にならないほど難しい。

 

今回も、上手く行ったのが不思議なくらいで。

 

どうして上手く行ったのかを、よく調べておかないと後が危ない。

 

かなり遅くまで集中して作業し。

 

そして明日に備える。

 

見張りもしなければならない。

 

ずっと眠れる訳ではないのだ。

 

翌朝になって、起きだして。

 

キャンプの外を見る。

 

獣の数は少ない。

 

地中にも潜んでいない様子だ。

 

鉱物の声が聞こえる。

 

周囲には、大物はいないという。だけれど、何か嫌な予感がする。これだけ積極的に連日姿を見せていた獣が、どうして今朝に限ってこうも少ない。

 

皆も起きて来たので、とりあえずしばらく様子見をする。

 

獣はぽつぽつと姿を見せるが。

 

小物ばかりだ。

 

勿論適宜処理するが。

 

それでも、どうにも妙だなと、結論するしか無かった。

 

「偵察を出すか?」

 

「お願いします」

 

アングリフさんが提案する。

 

これは何かあったのかも知れない。

 

そしてこれを楽天的に取れるほど、流石にわたしも頭がお花畑ではない。今まで散々酷い目にあってきて、懲りている。

 

アングリフさんに、カルドさんと一緒に偵察に出て貰う。

 

一度キャンプにまで戻って、他の人達はお薬を使い、小さな傷でも治しておく。体力も回復しておく。

 

いつ総力戦になるか分からないからだ。

 

ドラゴンもこの先にはいるのである。

 

もしも強行突破をはかった場合、ドラゴンに後方から追撃される可能性もある。はっきりいって、冗談では無い。

 

しばしして、アングリフさんが戻ってきた。

 

「峠のすぐ先が大変な事になっていやがる」

 

「詳しくお願いします」

 

「橋と同じだ」

 

「!」

 

慌てて、イルメリアちゃんとパイモンさんと、お姉ちゃんもあわせて、一緒に見に行く。そして、峠の側の岩陰に隠れながら、向こうを伺った。

 

なるほど、これは確かに。

 

大変な事だ。

 

横一線。

 

地面が煮立っている。

 

戦闘時に、集中していたからか。

 

峠の向こうだからか。

 

音はどうしてか届かなかったのだろう。

 

或いは、無音で薙ぎ払ったのかも知れない。いずれにしても、これには見覚えがある。あの橋の周囲がこうなっていた。

 

ブレスで薙ぎ払ったのだ。

 

間違いなくドラゴンである。

 

道理で獣が来なくなるはずだ。

 

獣を巻き込んだのかとゆっくりブレス跡を見ていく。空も確認。近くに、ドラゴンはいないようだった。

 

鉱物にも聞くが。

 

其方でも、近くにはいないよと教えてくれる。

 

要するにドラゴンは近所にはいない、と結論してしまってかまわないだろう。そうなると、例の村跡を見張りに戻ったのか。

 

「これは恐らく威嚇だな」

 

「妙ね」

 

「あん? どういうことだ」

 

「ドラゴンは何も考えていないか、仮に考えていたとしても人間なんか見境無く殺す相手くらいにしか思っていない筈よ。 殺すつもりでブレスを吐くことはあっても、威嚇なんてするかしら」

 

イルメリアちゃんの疑念に。

 

アングリフさんは頭を掻く。

 

流石にこの人でも、ドラゴンとの交戦経験は少ないのだろう。習性についても、あまり詳しくは知らないと見た。

 

しばし考え込んでから。

 

アングリフさんは答えた。

 

「俺も彼方此方を渡り歩いた傭兵だ。 ドラゴンについての情報は集めているがな、共通している事がある」

 

「共通、ですか」

 

「そうだ。 どうも連中には知能と呼べるものがないらしくてな」

 

「……」

 

知能がない。

 

そういえば、異常行動が目立つような気もする。

 

大人しかったドラゴンがいきなり暴れ出したり、逆に殺戮の限りを尽くしていた個体が急に大人しくなったり。

 

いずれにしても暴れるドラゴンは決死の覚悟で犠牲を問わずに駆除しなければならないのだが。

 

ドラゴンは斃しても斃してもいなくならない。

 

そこで、暴れるドラゴンだけに的を絞って戦うらしいのだが。

 

それでも一度戦うとなると、相当な凄腕の錬金術師を交えた上で、総力戦を覚悟しなければならないそうだ。

 

ノルベルトさんが来る。

 

そして、ブレス跡を見て、鼻を鳴らした。

 

「此奴は多分違うな」

 

「例の仇のではないと」

 

「そういうことだ。 多分橋を落とした奴じゃねえかな」

 

「……」

 

確かに破壊跡が似通っているが。

 

いずれにしても、ドラゴンはどこに行ったのか。

 

それが分からない以上、油断も出来ない。

 

もう少し奥まで偵察してくるとアングリフさんがいう。

 

此処を襲われ、ブレスでも叩き込まれたら著しく不利だ。確かに手練れが偵察した方が良いだろう。

 

一度キャンプに戻り。

 

そして、しばらくは休憩を取る。

 

いつまた激しい戦いをこなさなければならないか、分からないからだ。

 

二刻ほどして。

 

アングリフさんが戻ってくる。

 

どうも妙だ、というのである。

 

「少し周りを見てきたが、橋を見張っていたドラゴンも姿を消している。 もしもだ、人間をとことん邪魔するつもりで動いているなら、グラオ・タールなり俺たちなりを直接襲えば良いし、その必要がなくなったと判断したならさっさと消えれば良い。 それなのに、何がしたいのかよく分からんな」

 

「例のこの先の村跡はどうでしたか」

 

「ああ、ひでえ有様だったな。 文字通り蹂躙、という言葉が相応しい状態だ。 俺もこの辺には来たことがあったんだがな。 商人が避けるわけだぜ」

 

本来であれば、その村跡を通っていたらしい街道の残骸も見つけたという。

 

だが今は、岩で塞がれていて。

 

敢えて通れないようにされているという。

 

多分ドラゴンが見張っていて、大きな被害を何度も出したから、なのだろう。

 

ただ、いずれにしても十数年も前の話らしく。

 

岩も苔むしていたとか。

 

ドラゴンが十数年同じ場所にいる、というのは別に不思議でも何でも無いだろう。何しろ意味不明の超生物だ。邪神には及ばないにしても、それに迫る力を持つ存在であり、獣とは一線を画す相手である。

 

「奴はいたか?」

 

「流石に村に入るのは危険すぎるからな。 だが、遠くから偵察した限りでは、姿は確認できなかった」

 

「いる筈だ。 村がやられた後も、何度も商人が隊列ごとやられていやがるんだ。 この辺りのネームドからも、ガン逃げなら対処できる程度の戦力を整えた隊列が、だぞ」

 

「だとすると確かにドラゴンか邪神以外にはあり得ないな。 しかもこの辺りの様子からして、邪神の線は無い」

 

ノルベルトさんの目には暗い光が宿っている。

 

やはり、そういう事なのだろう。

 

ともかく、だ。

 

一晩おく。

 

最悪なのは、ネームドに横やりを入れられることだ。ドラゴンだけでも勝てるかどうか知れたものではないのに。

 

更にネームドにまで乱入されたら、それこそ命が幾つあっても足りない。

 

ソフィー先生でもいれば話は別なのだろうけれど。

 

翌朝からは、ドラゴンの脅威が去ったからか。

 

また獣が現れるようになった。

 

全体的に小ぶりな獣が目立つようになったのは、やはり駆除の成果だろう。ネームドも、姿を見せるペースが早くなった。

 

近所には十体ほどの、ほぼ同格のネームドがいると聞いている。

 

縄張りを拡げるためにも、出向いてくるはずだ。

 

そうして、四日を費やし。

 

六体のネームドを追加で屠った頃には。

 

峠まで、緑化した道が開通していた。

 

もっとも、その先に行くのは、少し危険すぎる状態だが。

 

キャンプを峠の手前にまで移動させ。

 

其処で皆で話をする。

 

偵察は数度してもらったが。

 

いずれも、ドラゴンの姿は発見できなかった。

 

アングリフさんが、地図を指でぐるっとなぞった。

 

「ドラゴンが村跡を見張っているとして。 潜んでいると思われる場所は、あらかた探してみた。 だが、何処にも姿は見えない。 どうやって隠れているのか……何か心当たりはないか」

 

「俺に聞いているのか」

 

「そうだ。 あの村の関係者だろう」

 

「……」

 

ノルベルトさんは苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

しばしして、重苦しい口を開いた。

 

「あの村には、公認錬金術師が二人いた」

 

「!」

 

「ライゼンベルグも十数年前までは、この辺りのインフラに気を遣っていたからな。 被害を少しでも抑えるためにネームド狩りを、犠牲を払いながらもやっていたし、街道の要だから村を死守もしていた。 二人も公認錬金術師を、小さな村に配置していたのもそれが故だ」

 

公認錬金術師が二人、か。

 

フルスハイムのような中核都市でさえ一人なのに。

 

二人も配置すると言うことは、相当に守りを重視していた、と言う事なのだろう。

 

「当然手練れの傭兵団も常駐していた。 だが、それでもドラゴンにはかなわなかった」

 

この辺りのネームドも、以前は彼処までの化け物揃いではなかったという。

 

だが、守りの要に配置していた村が壊滅したことで。

 

ライゼンベルグは消極策に出た。

 

ドラゴンの実力を思い知らされたから、だろう。

 

ライゼンベルグだけを守る事に注力し始めた。

 

ライゼンベルグの東には、ぐるっと迂回することにはなるが、既に緑化に成功している街道もある。

 

此方西側からフルスハイムに行くのと比較して三倍以上も時間が掛かる上に、非常に人口密度が低いらしいが。

 

それでも此方西側を通るよりはマシと言う事で、インフラも主に其方を経由しているという。

 

「怖じ気づいたんだよライゼンベルグのお偉方はな。 そもそもネームドやらとの戦いで、武闘派の錬金術師は数を減らしていたし、何より陰湿な権力闘争に嫌気が差したか、ライゼンベルグを去る錬金術師も多かった。 ドラゴンにあの村がやられる前は、「十俊」なんて呼ばれる精鋭もいたんだがな、特に武闘派として有名だったオレリーのばあさんが去ってからはそれも名前だけになっちまった」

 

ノルベルトさんが吐き捨てる。

 

そうか。

 

オレリーさんも、そういう立場だったのか。

 

ひょっとすると、ドラゴン狩りを主張したのかも知れない。

 

だが、ライゼンベルグ首脳は腰が引けてしまったのだろう。

 

精鋭と公認錬金術師二人で倒せなかった相手だ。

 

その情けない有様に、武闘派や心ある錬金術師はライゼンベルグを去り。

 

ますますライゼンベルグには戦える錬金術師がいなくなった。

 

そして駆除が行われなくなったライゼンベルグ西側は。

 

魔界も同然の場所になっていった、と言う訳か。

 

いずれにしても、はっきりした。

 

そのドラゴンは。

 

殺さなければならない。

 

全ての悪の根元だ。

 

例えドラゴンに知能があろうがなかろうが関係無い。そいつが最初の悪だとすれば、断たなければならない。

 

これは敵討ちとかそういう話ではすでになくなっている。

 

単純な生存圏を脅かす害悪を排除する、と言う事だ。

 

別にそのドラゴンが悪の大魔王だとか、シンボルだとか、そういう話ではない。

 

そのドラゴンが居座っていることで。ライゼンベルグが兵を出さなくなっているのだとすれば。

 

駆除をしなければならないのだ。

 

「周囲の大物はあらかた駆除が完了しています。 此処で一気に攻めるべきだと思いますが、どうですか」

 

わたしは周囲を見回す。

 

反対意見は、出なかった。

現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。

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