暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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2、死闘

ブレスは完全にではないにしても一部封じた。

 

そして、超防御力で守られていた翼はぶち抜いた。

 

これでドラゴンは飛べない。

 

魔術で飛ぶにしても、翼を媒介にする事が多い以上、簡単にはできないはずだ。

 

煙が上がっている。

 

ブリッツコアは雷神の石以上の火力が出る分。

 

わたしの魔力を派手に吸い上げ。

 

雷撃発生の余剰になる分、強烈な熱を発するのだ。

 

身につけた強化装備である程度熱は我慢できるが。

 

それも何発もはいけない。何より、放熱以上に魔力の消耗が激しすぎるのだ。

 

「あわせろッ!」

 

「はいっ!」

 

パイモンさんが汗を飛ばしながら叫び、雷神の石をフルパワーに。わたしもブリッツコア二射目の準備を整える。更に、お姉ちゃんとカルドさんが、今度はドラゴンの口の中に狙いを変える。ドラゴンに絶対にブレスを吐かせないため、徹底的に喉を狙うのだ。

 

ドラゴンはブチ切れたのか、まっすぐ突入してくる。

 

だが立ち上がったイルメリアちゃんが、レヴィさんと並んで、シールドを再展開。胸元は痛々しく吐血で染まっている。

 

ドラゴンはかまわず突貫してきた。

 

その突撃の凄まじさは、今まで見たどんなネームドよりも凶悪な圧迫感を生じさせる。大きさからしても、纏っている魔力の凄まじさからしても、まあ当然だろうか。

 

シールドがドラゴンとぶつかり合う。

 

山が吹っ飛ぶような音がして、辺りの地面が派手にブチ割れるのが分かった。

 

こんなものと真っ正面からぶつかり合って、首が折れるどころか組み付いてくるドラゴン。

 

巨大すぎる怪物が至近にいて、がちんがちんと歯をかみあわせている光景は、流石に多くの獣とやり合ってきた今でも身震いする。

 

こんな化け物に勝てるのか。

 

恐怖が浮かぶが、まだまだ。心を奮い立たせる。

 

こんな程度の恐怖。

 

こんな相手。

 

恐るるに足りない。

 

同時にタイミングを合わせて、雷撃を発動。

 

立て続けにドラゴンの背中に降り注いだ雷撃が、翼の傷を焼き、更に背中の鱗を少しはじき飛ばした。

 

よし。そのまま更に一撃。

 

だが、ドラゴンが尻尾を叩き付けに来る。

 

シールドは崩壊寸前。

 

アレを喰らったら、確実にぶち抜かれる。

 

ブリッツコアは間に合わない。だが、イルメリアちゃんが動く。指示を飛ばし、無理矢理魔剣を動かして、六本全部を敵の口の中に突っ込んだ。

 

流石に口の中の痛みが激増したか、ドラゴンが喚き散らす。

 

ブレスを小火力で放って全て吹き飛ばそうとするが、させるか。

 

三発目。

 

わたしの魔力は、無駄に多い。錬金術の道具による強化。更に歴戦を経た結果だ。

 

詠唱を短縮。

 

強制的に魔力を体から引っ張り出して、ブリッツコアを発動。

 

同時にパイモンさんも、かなり無理して、四発目の雷撃を、ドラゴンの背中に叩き込んでいた。

 

ついに。

 

鉄壁を誇ったドラゴンの鱗が爆ぜ割れ、爆裂する。

 

魔力がスパークしているのが見えた。

 

ドラゴンが飛び下がると、口の中にあった剣やら何やらを小威力ブレスで吹き飛ばす。アングリフさんの剣が粉々に消し飛び、イルメリアちゃんの魔剣も全て壊れた。

 

だが、背中のあのスパーク。

 

尋常なダメージではあるまい。

 

だが、わたしも今の無茶で意識が飛びそうだし。

 

パイモンさんも膝を突いている。

 

前衛もドラゴンの大暴れの余波で半壊状態。

 

有利とはとても言えない。

 

故に。

 

此処で攻める。

 

雷のブリッツコアを掲げるのを見て、ドラゴンが吠えた。これ以上発動させるか、というのだろう。

 

きいんと凄い音がした。

 

呪文詠唱だというのは即座に分かる。

 

何より、わたし自身に掛かる強烈な圧迫感。これは、わたしのブリッツコアの発動を、阻害しているのか。

 

駄目だ、発動しない。

 

呼吸を整えるが、むしろこれでいい。

 

わざわざわたし一人に注意をむけたのだ。

 

いや、違う。

 

事態は予想より悪い。

 

パイモンさんも雷神の石を発動できていない。

 

イルメリアちゃんも。シールドを発動しようとして出来ていない。

 

全員分の魔術を同時に封じてきたのか。

 

流石にこれは洒落にならないが。

 

だが、お姉ちゃんが、渾身の一矢を放ち。

 

それがドラゴンの目に当たる。

 

更に、瓦礫を吹っ飛ばしながら現れた、全身傷だらけのドロッセルさんが跳躍。

 

背中に斧の一撃を叩き込み。鱗が剥がれた場所に、その無骨な鉄塊をねじ込んでいた。

 

暴れるドラゴンにドロッセルさんは吹っ飛ばされ、岩壁に叩き付けられ、ずり落ちる。力なく横たわるドロッセルさんだが、斧は突き刺さったままだ。詠唱封じが止まる。

 

ブリッツコアは。

 

まずい。煙を上げている。

 

今のドラゴンの無茶な中和攻撃で、オーバーヒートした。

 

わたし自身も、かなりまずい。魔力が残り少ない。

 

カルドさんが、ドラゴンの口の中を撃ち抜く。

 

アングリフさんが、落ちている岩石を抱えて、相手に殴りかかる。

 

アリスさんも、ノルベルトさんも、必死に時間を稼いでくれている。

 

炎、氷、物理圧力。それらブリッツコアでは、今あの背中に刺さった致命打を有効活用することが出来ない。

 

このブリッツコアを、どうにか再起動させないと。

 

その時。

 

慌てて何がまずいか触って確認しているわたしの服の袖を。

 

小さな手が掴んだ。

 

ツヴァイちゃんだった。

 

「恩を返すときが来たのです」

 

決意を込めた目。

 

わたしは、それを見て、ぐっと唇を引き結ぶ。

 

駄目だ。

 

こんな目をしている相手を拒めない。

 

ツヴァイちゃんは、ブリッツコアをくれという。

 

言われるままに渡すと。

 

目を閉じ、深呼吸するツヴァイちゃんの全身が輝く。優しい光だった。触るだけで焼け付くようだろうに。

 

ドラゴンが、此方を見る。まずいと悟ったのだろう。

 

だが、その顔面を、アングリフさんが大岩で殴りつけた。直後に尻尾の反撃を喰らって派手に吹き飛ばされるが、それでも時間は稼いでくれた。

 

真っ青になり。

 

全身の魔力が根こそぎ無くなったと分かる状態でも。

 

それでもわたしに、笑顔でブリッツコアを渡してくれるツヴァイちゃん。

 

分かる。

 

一部のホムにしか出来ない複製の錬金術で。破損箇所を、強引に修復したのだ。ずっと練習していたのだ。体に負担が掛かるのを承知の上で。そして、この時のために、練習してきていたのだ。

 

失敗は、していなかった。

 

最後の一発。

 

これを外す訳にはいかない。

 

ぐっと、わたしはドラゴンを見る。

 

そして、わたし自身も、残った魔力を全て注ぎ込んで、ブリッツコアをフルパワーで起動した。

 

ドラゴンが、此方に向けて小威力のブレスを放とうとする。

 

だが、イルメリアちゃんが自前の魔術でシールドを展開。更に、レヴィさんも同じく。

 

道具を使ったものには劣るが。

 

それでも、威力が落ちたドラゴンのブレスは、相殺する事には成功。

 

吹っ飛ばされながらも、わたしへの直接被害は避ける。

 

更にパイモンさんが詠唱完了。

 

自前の魔術で、わたしの魔力を増幅。

 

いわゆる強化魔術だ。

 

とどめとばかりに、お姉ちゃんがドラゴンの右目を。カルドさんが左目を撃つ。そして、ドラゴンの右目が、ついに矢に貫かれて、爆ぜた。左目も、一瞬だけつぶったと言う事は、傷つけたと言う事だ。

 

アリスさんもノルベルトさんももう限界。

 

だが、勝った。

 

動きを止めたドラゴンが、左目を開けて此方を見たときには。

 

フルパワーで完全発動したブリッツコアの発動に、成功していた。しかも、歴戦の魔術師でもあるパイモンさんによるブーストつきである。

 

これで、とどめだ。

 

「砕け散れっ!」

 

気迫を込め、最大火力の雷撃を叩き込む。

 

それは地面に足をつけていて。

 

背中に斧が刺さっていて。

 

その刺さっている部分が鱗で覆われていないドラゴンを、数回にわたって直撃していた。

 

竿立ちになったドラゴンが、絶叫する。

 

体の内側から、鱗が何枚も爆ぜて千切れ飛ぶ。

 

全身から大量の血液をぶちまけて、空に向けて吠え猛ったあと。

 

ドラゴンは、黒焦げになったその巨体を。

 

横倒しにした。

 

死んだふりでは無い。

 

それを確認する。念入りに。これ以上動かれたら、もはや手に負えないからだ。

 

幸いにも、ドラゴンは。

 

もはや二度と動く事はなかった。

 

 

 

怪我人をまずキャンプに収容。

 

余力は誰にも残っていなかった。

 

アングリフさんは武器を失ってしまったし。

 

ドロッセルさんは意識が戻っていない。

 

最後まで最前線で頑張ったアリスさんとノルベルトさんもズタズタだ。わたしもイルメリアちゃんもパイモンさんも、魔力は空っぽ。ツヴァイちゃんは命に別状こそなかったが、そのまま意識を失ってしまった。

 

お姉ちゃんとカルドさんが、手分けして手当をしてくれたらしい。それでも、かなり無理をして、だが。

 

傷薬も惜しまず放出して、皆を手当。

 

それから、やっとドラゴンの死骸を分解する作業に入った。

 

幸い、獣が近寄れるような状態ではなかったので、食い荒らされているような事は無かったのだが。

 

動けるようになった人から動き始めても、一日はほぼ何もできず。

 

ドロッセルさんは、三日も眠っていた。

 

それはそうだ。あんな一撃をもらったのだ。薬も早めに入れなければ、死んでいた可能性もあった。

 

勝った。

 

だが、苦い勝利だった。

 

そして思い知らされる。

 

此奴はまだ下級のドラゴンに過ぎないのだと言う事を。

 

中級、上級は此奴とは比較にもならない化け物。

 

更にこの上に邪神がいる。

 

力が足りない。

 

まず、ドラゴンの鱗を剥がす。これはハルモニウムの材料になる。だが、触ってみて分かるが、蓄積魔力が尋常では無い。生半可な技術では加工など無理だろう。

 

角は三分割する。

 

これも貴重な道具の材料になる。ノルベルトさんは、此奴を殺せただけで良かった、というので。いらないそうだ。

 

肉は黒焦げになってしまっていて駄目だった。

 

流石にあの雷を喰らった後だ。

 

図鑑を見ると、ナマのドラゴン肉は色々と利用できるらしく、次は回収したい。

 

解体を数日掛けて行っていく。

 

それだけ巨大な体だったから、である。

 

何よりも、巨大なだけでは無く頑丈だ。故に尋常では無く、解体が大変だった。

 

骨が出た。

 

これも非常に有用らしい。

 

刻んで皆に分ける。軟骨も取り出す。軟骨は黒焦げになっていなかったので、使い路はありそうだ。

 

そして、ドラゴン版の深核。

 

やはりあった。

 

竜核というらしいが。

 

これも三分割して皆で分けた。

 

これは錬金術の秘奥に達する道具に応用できるらしい。

 

今後は、もっと強くなって、ドラゴンを更に容易に狩れるようになったら。積極的に回収したい所だった。

 

ドラゴンの死骸を、黒焦げになった肉以外を回収した後。

 

改めて戦場跡を見る。

 

まるで、災害が荒れ狂った後だ。

 

今後ドラゴンとの総力戦をやるときは、いつもこんな風になるのだろうか。公認錬金術師二人と、歴戦の傭兵部隊が蹴散らされるわけである。

 

お姉ちゃんは、どうしてだろう。

 

じっと村を見つめていた。

 

声を掛けられない。

 

近づきがたい雰囲気があったからだ。

 

しばしの後。

 

ノルベルトさんにイルメリアちゃんとパイモンさんと一緒に呼ばれた。

 

ノルベルトさんは、わたし含む三人に推薦状をくれた。

 

「有難う。 俺だけではとても無理だったが、どうにか……妻の敵を討つことが出来た」

 

「……」

 

「分かっている。 ドラゴンはあくまで何かしらの自然の摂理なんだ。 彼奴らには知能は無いし、悪意もない。 本能で動くだけの殺戮マシンだ。 だが俺は、どうしても此処を……彼奴の巣にはしておけなかった」

 

「戦略的な観点から見ても、この地をドラゴンから奪還できたのは大きい。 思い詰め為されるな」

 

パイモンさんが言い、イルメリアちゃんを連れて引き揚げて行く。

 

そして、ノルベルトさんは言った。

 

「リアーネの妹なんだよな」

 

「はい。 そうです」

 

「そうか、なら教えておこう。 俺はな、情けない事だが……リアーネの父親だ」

 

思わず絶句するわたしに、ノルベルトさんは告げる。

 

真実を。

 

それは十数年前の事。

 

此処で夫婦として、公認錬金術師としてノルベルトさんはやっていた。奥さんは、リアーネさんに生き写し。性格も何もかも。だから一発で分かったそうだ。そして何処かで覚えていたのだろう。リアーネさんも、ノルベルトさんが父親だと分かっていたそうだ。

 

そうか、あの妙な態度。

 

何か感じるものがあったのだろう。

 

それに思い起こしてみれば。

 

最初に出会った時、ノルベルトさんは錬金術師が四人、と誤認した。

 

それはひょっとして。お姉ちゃんが、錬金術師としての素養があったから、なのかも知れない。

 

錬金術師は極めてレアな才能だ。錬金術師同士の子供だったら、引き継いでいてもおかしくは無かっただろう。

 

「それだけじゃない。 あいつを……リアーネの母を死なせたのは、俺だ。 俺がドラゴンの化け物みたいな強さを見て腰が抜けているのに、彼奴は村人を一人でも逃がすために戦い続けたんだ。 俺がやっと根性をひりだした時には、もう遅かった」

 

リアーネさんと村の生き残り達を連れてグラオ・タールに逃れたときには。

 

既に父親としてやっていく自信を、ノルベルトさんは失っていたそうだ。

 

其処で、たまたま遠出していた、わたしのお父さんとお母さん。商人として交流があったらしいのだが。二人に、お姉ちゃんを預けた。

 

そういえば、お姉ちゃんはお父さんとお母さんのどちらにも似ていない。

 

わたしは、目とか口とか、そういうのがどちらかに似ているのに。

 

そうか。

 

そういうことだったのか。

 

お姉ちゃんは引き取られたときに、ノルベルトさんを睨んでいたそうである。それはそうだろう。自業自得だと、ノルベルトさんは呟いた。そして、こうも言った。

 

「リアーネは、あんたが実の妹じゃないと知っている。 だがな、だからこそ俺を反面教師にして、絶対に同じようにはしないと誓ったんだろう。 だだ甘にしている様子からして、すぐに分かったよ。 そして今も俺を恨んでいる事をな」

 

「名乗り……出ないんですか」

 

「俺がこれを話したのはな。 あんただけが、家族の秘密を知らない事を不公平だと判断したからだ。 いつか……二人で話しあってくれ。 俺には少なくとも、リアーネに、父親と名乗り出る資格は無いし、父親である資格も無い。 今のリアーネの親は、あんたの両親だ」

 

そうか。

 

全て納得がいった。

 

どうして錬金術師なのに、ガチガチの前衛スタイルでの戦闘を選び、爆弾さえも使わずに戦っていたのか。

 

それは、これが理由だったのだ。

 

憶病な自分を心の底から憎んでいたから。

 

そして、何よりも。

 

あのお酒は、そうしなければ現実から逃避できなかったのだろう。

 

この人自身は腕の良い錬金術師だ。

 

だけれど、戦闘には向いていない性格だった。

 

実際、今までに一緒に戦って来て、他の前衛より強かったかというと、そんな事は決してなかった。

 

それでも、この人は前衛に立つことを選んだ。

 

ひょっとするとだけれども。

 

この戦いで死ぬことを、望んでいたのかも知れない。

 

わたしは、ノルベルトさんの服の袖を掴む。

 

一つだけ言いたい。

 

「教えてくれたことは嬉しいです。 でも、お姉ちゃん……リア姉とはきちんと向き合ってください」

 

「酷なことを言うなよ」

 

「貴方はドラゴンと戦い、そして皆と協力したとは言え退けました。 ライゼンベルグの錬金術師達が腰が引けて戦えなくなっているドラゴンとです。 貴方は憶病でも弱くもありません。 そして、多分名乗り出る機会は、今回が最後だと思います」

 

「……そうだな」

 

わたしは、此処までしか出来ない。

 

後は、二人の問題だ。

 

そして、分かっている事がある。

 

血がつながっていようがいまいが関係無い。お姉ちゃんは、これまでも、これからも、ずっとわたしのお姉ちゃんだ。

 

過保護で色々と困る事もあるけれど。

 

それでもわたしのために命を賭けてくれる。

 

時々過保護すぎて本当に困るけれど。

 

それでもお姉ちゃんである事に代わりは無い。

 

血統なんて。

 

関係あるものか。

 

ノルベルトさんがどう話したのかは分からない。

 

わたしは詮索しないことにした。

 

アトリエに戻って。しばらくして。

 

お姉ちゃんが戻ってきて、告げた。

 

「ノルベルトさんは戻るそうよ。 もう必要はないだろう、って」

 

「そう。 推薦状も貰えたし、それにドラゴンも退治できたし、良かった」

 

「……たまには、里帰りしてやるかしらね。 ソフィーさんだったかしら。 あの人のように、ぽんと移動出来る道具、いずれ作れるようになれる?」

 

「頑張ってみるね」

 

そうか。

 

分かりきってはいたが。一応話はしたのか。そしてお姉ちゃんも、状況は全て理解していた。それが今の会話だけで分かった。

 

それでいい。わたしには、あまり多くの言葉は必要ないように思えた。

 

勿論、お姉ちゃんもすぐにはノルベルトさんを許すことは出来ないだろう。

 

母を見殺しにし。そして育児放棄したと思っているのかも知れない。実際それは、言い逃れが出来ない事実でもあるのだから。少なくとも半分は。

 

だが、それは仕方がない事でもあった。

 

あの化け物を前にして、誰が勇敢に戦えるだろう。ドラゴンを見て、逃げた所で誰が恥と罵るだろう。

 

あれで下級。

 

それでも文字通りの生きた災害だ。

 

あんなものが存在している事自体が理不尽極まりない事で。その理不尽に殴り倒された人に、強くあれというのは酷に過ぎる。

 

わたしはそれ以上何も言わなかったし。

 

お姉ちゃんも、以降なにも口にしなかった。

 

 

 

推薦状は揃った。正確には既に充分な数があった。最大の壁を突破出来た、というのが正しいだろうか。

 

此処からは、まだ残っている強力な獣やネームドを蹴散らしながら、ライゼンベルグに向かう事になる。

 

勿論敵はまだまだ強いのが揃っているだろう。

 

だがドラゴン以上の実力者がいるとは思えない。

 

周囲の状況から考えても、邪神がいる可能性もあまり高くは無いだろう。

 

それならば、此処からは、それほど無理をせずとも突破出来るはずだ。そして、ライゼンベルグに到達できれば。

 

後は試験。

 

イルメリアちゃんの所に行く。

 

かなり無理をしたからか、ベッドで横になっていて、アリスさんが食事を作っているところだった。

 

わたしが入って良いかと聞くと、良いと言われたので。

 

軽く上がらせて貰う。

 

アトリエには何回か足を運んだことがあったのだが。

 

少し狭く感じるかも知れない。

 

コンテナも、決して広くは無い様子だった。

 

「どうしたの、何か用事?」

 

「試験について何か知っているなら、教えて貰おうかなって思って」

 

「そうか、そうよね。 貴方の様子からして、予備知識があったとは思えなかったし」

 

半身を起こすイルメリアちゃん。

 

軽く咳き込んだ。

 

あれだけの無理をしたのだ。だが、ドラゴンのブレスをまともに受け止めるシールドを展開して見せた。

 

如何に無理が前提条件としてあったとしても。

 

それはとても凄いことなのだと思う。

 

「公認錬金術師試験は、基本的に各地の公認錬金術師の推薦状を三枚集める事で受けられるようになるの。 試験そのものは、前は一定期間ごとにやっていたようなのだけれど、近年は一定数の受験希望者が集まったら行うようになったらしいわ」

 

「そうなると、すぐに試験を受けられるとは限らないんだね」

 

「いえ、すぐに受けられるはずよ。 私達三人は、公認錬金術師にもう遜色ない実力を身につけているはず。 そしてライゼンベルグは人材を欲しているわ」

 

「……」

 

そう、だろうか。

 

だとしたら、どうしてこの辺りは、こうも荒廃したままで。

 

放置され続けていたのか。

 

もしも貪欲に錬金術師を育て。傭兵を雇って国を強くしていたら。この辺りは通れるようになっていたし。

 

峡谷の辺りに、匪賊があれだけ集まることも無かったと思うのだけれど。

 

ともあれ、イルメリアちゃんの話は聞く。

 

「試験は主に実技と筆記に別れると聞いているわ。 実技はまあ問題ないはずよ。 筆記に関しては、今までの道筋で見てきたこと、覚えてきたことをそのまま書く事が出来れば大丈夫でしょうね」

 

「詳しいね」

 

「それはそうよ。 ……私の家族は全員が公認錬金術師ですもの」

 

何だろう。

 

その言葉に、もの凄い鬱屈を感じた。

 

イルメリアちゃんがあまり明るい顔で笑っているのを見たことが無いのだけれど。それに関係しているのだろうか。

 

どうしてだろう。

 

もうすぐ念願の試験を受けられる。

 

それなのに、何か引っ掛かる事ばかりだ。

 

ともかく、軽く話をした後、アトリエから引き上げる。

 

後は、最後の道を。

 

突破する。

 

それだけだ。

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