暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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3、最後の関門

滅ぼされた村を抜ける。此処はそのまま、いずれ人員を派遣すれば復旧出来るはずだ。ライゼンベルグまでの道を通せれば、それも可能になる筈。故に、敢えてオスカーさんには避けて緑化作業を進めて貰った。

 

この村は、戦力を過信してしまったのだろうか。

 

此処にいたノルベルトさんに話を詳しく聞くわけにも行かない。いずれにしても、ドラゴンの襲撃や、獣の攻撃に備えるために、周囲を緑で囲い。そして城壁で守るのは必須になるだろう。

 

幸いこの辺りには上質な鉱石が幾らでも埋まっている。

 

それらを掘り出せば、材料は確保できる。

 

後は人員だが。

 

最悪の場合は、わたしが復旧作業をいずれ指揮しなければならない、かも知れない。

 

ライゼンベルグは目と鼻の先なのに。

 

そもそも、あらゆる全てが殺しに掛かってくる状況が色々おかしいのだ。

 

村を少し抜けたところでキャンプを張る。

 

そして、破損してしまった備品などを本格的に補給した。

 

特にアングリフさんの大剣は補給が急務だった。

 

ハルモニウムを作る良い機会だ。

 

早速、鉱物の声を聞きながらハルモニウムを作ろうと思ったが。

 

どうやら竜の鱗は鉱物ではないらしく。

 

声は聞こえなかった。

 

仕方が無い。

 

図鑑を見ながら、手探りで作業をやっていく。

 

少し触っただけでも分かったのは、極めて繊細かつ強靱、と言う事で。

 

ちょっとやそっとの熱ではびくともしない。

 

プラティーンもそうだったが。

 

それ以上の凄まじい頑強さだ。

 

更に、酸の類もほぼ受け付けないし。

 

かろうじて不純物を取り除いたとしても。中和剤と上手く反応してくれない。

 

これは余程強力な中和剤がいるだろう。

 

今まで作ってきた中和剤の中でも、特に強力な中和剤を試す。錬金術師が爆弾や薬を補給しないと、どうせ進めないのだ。

 

手ぶらになってしまったアングリフさんにはキャンプに残って貰い。

 

他の皆には、偵察と監視を頼んだ。

 

二週間ほど滞在し。

 

この辺りの山で取れる黒い砂。玉鋼というらしいが。これを上手に溶かしつつ、この余熱を用い。

 

更に極限まで圧縮した深核を材料に中和剤を使い。

 

じっくり炉で仕上げて、ようやくハルモニウムは作る事が出来た。

 

ただし、これでも恐らくかなりの未完成品だ。

 

幸いソフィー先生の残してくれた釜があったから作る事は出来たけれど。普通の釜だったら無理だっただろう。

 

案の定、パイモンさんも、イルメリアちゃんも、釜の精度の問題で粗悪品さえ作れない様子だった。

 

わたしが釜を二人に貸して。

 

その間、炉で調整を続ける。

 

どうやらハルモニウムは底なしに魔力を吸い込むらしく。

 

中和剤から魔力を際限なく吸い上げる。

 

玉鋼と溶かしあわせて一種の合金とすることで。

 

少しずつ品質を上げていく。

 

とはいっても、それでも限界がある。

 

ソフィー先生に貰った辞典を見るが。

 

ハルモニウムについては載っていた。

 

もしも究極レベルの品質でハルモニウムを作るつもりならば。

 

そもそもアトリエを究極にしなければならない、というのだ。

 

余計な空気を排除し。

 

埃の一つもいれず。

 

そしてまったく不純物が入らないようにしてインゴットにする。

 

思わず呻く。

 

到底今のわたしには無理だ。

 

だけれど、仕方が無い。今は粗悪品で我慢するしか無い。粗悪品でも、プラティーンの何倍、という硬度である。

 

鉱石では無いからか。

 

普段インゴットにするときや、其処から加工するときは、ハンマーが吸い込まれるように形を整えてくれるのに。

 

ハルモニウムだけは例外で。

 

むしろ玉鋼の声を聞きながら。

 

四苦八苦しながら加工しなければならなかった。

 

ともかく、ハルモニウムは出来たが。品質的には最下等だろう。この最下等ハルモニウムを用いて、いずれ合金を作ったり、更には最高品質まで高めたり出来る位でないと、多分錬金術の高みには上れないし。

 

この詰んだ世界をどうにもできない。

 

ハンマーを振るって、金床でハルモニウムのインゴットを伸ばし、成形する。

 

一応アングリフさんに、設計図は貰っているので、それ通りに作る。

 

勿論今作っているのは、アングリフさん用の大剣だ。

 

後ろでは、パイモンさんとイルメリアちゃんが、ああでもないこうでもないと言いながら、ハルモニウムを作っていたが。

 

それは気にせず、集中する。

 

額の汗を拭い。

 

赤熱させたハルモニウムを、玉鋼の声を聞きながら、蜜入の水につけ。

 

焼きの行程を経て。

 

何度も曲げて、重ねて打つ。

 

とにかく強度が尋常では無いので、この作業だけでも本当に四苦八苦だった。鉱物の声が聞こえて、なおかつ身体能力を極限まで引き上げてこれなのだ。もしも鍛冶師がハルモニウムを扱う場合、どれだけの苦労がいるのか、まったく分からない。

 

やがて、不格好な剣が出来てくるので。

 

これを少しずつ、設計図にあわせて仕上げていく。

 

飾りになる紋の類はいらないと言う事なので。

 

とにかく無骨に。

 

相手を叩き殺すための武器として作り上げる。

 

確か、相手を殺すためだけの剣を、人斬り包丁、と称するらしいが。アングリフさんの求めているのはそれだ。

 

血抜きの溝を入れ。

 

そして、刃についても調整。

 

脆めの金属の場合、これがかなり大変なのだが。

 

ハルモニウムの場合は、砥石なんか受け付けないので、余計に大変だった。粗悪品でこれである。

 

最高品質のハルモニウムだとどれだけの剣になるのか。

 

恐らく、国宝などになるハルモニウムの剣は、最高品質のものなのだろう。一度触ってみたい。

 

参考にするためにも。

 

そして、柄の部分も出来たので。

 

以前と形、重さが変わらない大剣が出来た。なおハルモニウムは恐ろしく軽いので、重さについては敢えてプラティーンを剣の背につける事によって調整した。重心についても、レヴィさんの剣を打ったときに色々苦労したので、工夫した。

 

さて、どうか。

 

アングリフさんは、早速外で軽く素振りして、そしてすぐに戻ってきた。

 

「重心が少し低いな。 調整してくれるか」

 

「分かりました」

 

「頼むぜ」

 

丁度良いので、外に出る。

 

かなり緑化が進行している。

 

というか、ドラゴンがいたからだろう。この辺りの獣は殆ど小物ばかりで、脅威にならないらしく。

 

むしろこの少し先まで行き、ドラゴンの縄張りから逃れた地点から。

 

また大型のが出始めるらしい。

 

外で背伸びして、気分転換して。

 

またアングリフさんの剣の調整に戻る。

 

六度、駄目出しをされたが。

 

その度に直した。

 

お姉ちゃんが何か言いたそうにしていたが。しかし、剣はこういう人にとっては命の次に大事だし。アングリフさんとは専属契約をしているのだ。わたしが武器を支給する義務がある。本人に最適な武器を、だ。

 

駄目出しの果てに。

 

ついに満足がいく品が仕上がる。

 

剣にはかなり五月蠅そうなアングリフさんも。

 

振り回してみて、充分に満足したようだった。

 

そして、試し切りをしてみる。

 

大岩がスパスパと切れる。

 

この辺りの岩だから、プラティーンの原石が入っているにもかかわらず、である。

 

これはすごい。

 

ハルモニウムを粗悪品でもいいので量産できるようになったら。

 

皆の鎧の重要部分に入れたり。

 

後は身につける道具の要所をハルモニウムに更新したりすれば、更に戦闘力を引き上げる事が出来るだろう。

 

イルメリアちゃんが、わたしと同じくらいの粗悪品ハルモニウムを持って、アトリエから出てきた。

 

口をへの字に引き結んでいる。満足していないのは明らかだった。

 

「イルメリアちゃん、出来たんだね」

 

「良い釜だけれど、これ以上の品質にするには気密状態のアトリエが必要ね。 悔しいけれどまだ手が届かないわ」

 

「いずれ作ろう」

 

「そうね……」

 

パイモンさんは、少し先に仕上げて、アトリエに戻ったという。

 

とりあえず、わたしはもう外に出られる。

 

皆と連携して、最後の壁を越えるべく。

 

強力な獣が出る辺りの地点までを調査し。

 

有用そうな素材を確保しつつ、小物の獣を処理するのを手伝う。

 

爆弾なんて必要ない。

 

壊れない程度に、ブリッツコアを使って行けば充分だ。

 

ドラゴン戦では雷撃のブリッツコアを用いたが。

 

それ以外にも、中空に発生した瞬間己の熱で炸裂する炎のブリッツコアや。

 

シュタルレヘルン並の冷気を発し、つららをぶちまける氷のブリッツコアも試す。

 

最後に、衝撃波で物理的に敵を叩き潰すブリッツコアも試すが。

 

これらは、爆弾と違って消耗しない。

 

そして、ある程度使った後は。

 

ツヴァイちゃんが願うように。

 

彼女に補充して貰った。

 

少しずつ、能力を使えるようにしていけば、負担も減るはず。そして、能力を使った後は、ミルクをたくさん欲しがるので。

 

一度、グラオ・タールに補給に出向いた程だった。

 

グラオ・タールでは既に峡谷の中州にあった要塞都市の外側。緑化によって守られている場所を開拓し始めていて。

 

其処に畑を拡げ。

 

家畜も飼い始めている様子だった。

 

ミルクも喜んで分けてくれたし。

 

余った毛皮も引き取ってくれた。

 

後は、イルメリアちゃんとパイモンさんの準備完了を待って。

 

ライゼンベルグへの最後の壁を、こじ開けるだけだ。

 

 

 

岩壁に、宝石が固まったような結晶がある。文字通り原石が固まっているものだ。この辺りで、昔邪神が討伐されたらしい。

 

森も少しある。

 

だが、それ以上に、獣が野放しになりすぎていた。

 

少しずつキャンプを進めながら、峠を目指す。

 

滅ぼされた村の先に峠があり。

 

その先に行くと、地図を確認する限りは、ライゼンベルグが視認できるはず。そしてライゼンベルグは流石に獣よけの森で覆われているという話だ。

 

獣は相変わらず手強いし。

 

ネームドも出てくる。

 

だが、ドラゴンを仕留めた今となっては。

 

少なくとも、この辺りのネームドに関しては、其処までの脅威にはならなくなった。勿論油断は絶対に出来ないが。

 

少しだが、ネームドの質も、ドラゴン戦までにこなした相手に比べると、落ちている気がする。

 

これは恐らく気のせいでは無い筈だ。

 

ドラゴンに強い奴が追いやられていた、というのが真相ではあるまいか。

 

流石に強豪揃いのネームド達も、ドラゴンとまともにやり合うことだけはしたくなかったのだろう。

 

お姉ちゃんがハンドサイン。

 

いる、という合図だ。

 

岩陰から覗き込むと、大型の草食獣の死骸を貪っている、凄い牙の獣がいた。四つ足ではなくて、百足である。それももの凄く巨大で、ばりばりという音が辺り中に聞こえてきている。

 

彼奴がこの辺りの主と見て良いだろう。

 

頷くと、イルメリアちゃんと二人で爆弾を仕掛ける。

 

そして距離を取ってから、お姉ちゃんが射掛けた。

 

ハルモニウムは厳しいが、プラティーンには慣れてきたからか。

 

かなり量産できるようになって来たので。

 

今お姉ちゃんが使っている矢の鏃はプラティーンだ。強い魔力も籠もっているし、大概の装甲は一撃貫通である。今までの合金の鏃とは、火力が違うのは。一つずつわたしが魔法陣を掘って、火力を底上げしているからである。強力な魔力をため込むプラティーンだからこそ、火力が上がっているのだ。

 

カルドさんに渡している弾丸も同じ。

 

食事を邪魔され激高した大百足が、凄まじい勢いで躍りかかってくるが。

 

タイミングを合わせて発破。

 

爆裂に思い切り巻き込まれ、絶叫する大百足に。

 

雷神の石から降り注いだ雷撃が、直撃する。

 

硬直した大百足に、上空からアングリフさんが、唐竹の一撃を叩き込む。

 

流石ドラゴンの鱗から作り出したハルモニウムの剣。

 

まだハルモニウムの品質はそれほど高くないとしても。

 

その切れ味は凄まじく。

 

ネームドに攻撃してはじき返されるのを何度も見ていたわたしは。

 

一撃で本当に頭を唐竹にするのを見て、すごいと素直に思った。

 

だが、流石にその程度で倒せる程ネームドは甘い相手では無い。

 

頭を唐竹に割られても、ネームド百足は口から毒液を凄まじい勢いで吐きだしてくる。

 

イルメリアちゃんのシールドがそれを防ぎ抜くが。

 

手当たり次第にばらまくので、近づけない。

 

だが、其処にパイモンさんが雷神の石での一撃を叩き込み。

 

動きが止まった所で、防御に入る必要がないと判断したらしいレヴィさんも突撃。

 

全員で一斉攻撃を叩き込む。

 

百足は凄まじい生命力で知られるが。

 

アリスさんに頭を叩き落とされ。

 

お姉ちゃんの矢で尻尾を。

 

カルドさんの弾丸が立て続けに傷口を抉り。

 

ドロッセルさんが走りながら胴体を横一文字に切り裂き。

 

更にアングリフさんが胴体を上下真っ二つにしても。

 

まだびたんびたんと動いているのを見ると、流石に戦慄させられる。

 

ただ、容赦なくドロッセルさんが、大岩で頭を叩き潰し。

 

動いている体も。

 

体節をアングリフさんが片っ端から潰して行くと。

 

やがて動かなくなった。

 

ただ、頭を潰した岩からは、毒が際限なく流れ続けているし。

 

周囲にぶちまけられた毒も。

 

しばらくは、消え去りそうも無かった。

 

とりあえず、処置はする。

 

毒が掛かった辺りの地面を掘り返し、毒入りの土を避ける。

 

そして硬化剤で固めてしまう。

 

相応の量になったが。

 

こんなものがしみこみでもしたら、その辺りは緑化作業も出来なくなってしまう。

 

順調に進めたこともあって、オスカーさんの緑化作業をしている地点は、かなり後ろになって来ている。

 

今後の事を考えると、オスカーさんの作業の邪魔になるような要素は、排除してしまわないとならないだろう。

 

作業を一通り終えると夕方になったので。

 

深核を回収し。

 

使えそうなもの、百足の外殻やら肉やらを回収すると。

 

キャンプに戻る。

 

見張りの順番を決めて、翌日までしばし無言で過ごす。

 

錬金術師はそれぞれ見張りの際にシフトが被らないようにするが。

 

これはまとめて錬金術師が致命打を受けた場合。

 

立て直しが出来なくなる可能性が高いからだ。

 

イルメリアちゃんとは話したいこともまだ結構あるのだけれど。

 

見張りの時に、それは出来なかった。

 

今日はカルドさんとの見張りになる。

 

カルドさんは長身銃を磨いて手入れをしつつ、周囲にも警戒を欠かさない。

 

わたしもドラゴン戦以降は余裕が出てきたので。

 

夜の見張りも、苦にはならなくなりつつあった。

 

体力がついてきたから、というのもあるのだろうが。

 

「カルドさん、ライゼンベルグには行ったことがあるんですよね」

 

「ああ。 僕達標の民の本部だからね」

 

「どんなところですか」

 

「……広すぎて、把握はしきれないが、綺麗なところだよ」

 

カルドさんは、ライゼンベルグの東。

 

比較的安全だが、時間が掛かる道の方から来たと言う。

 

ライゼンベルグの西が魔境と化していることは知っていたらしいのだが。

 

実際に獣を駆除しながら進んでみて、自分達の無力さを思い知らされ、嘆いていると素直に言われた。

 

「この世界は、500年ほど前から急速にまとまっているんだ。 それまでは各地に小規模な集落が散らばっていて、とにかく今以上に命が安かった。 匪賊が好き勝手をしていて、領主と癒着している事も多く。 錬金術師は好き勝手に振る舞い、皆が勝手に振る舞っているのをドラゴンや邪神が蹂躙する。 そんな世界が、一気に大きな集落によって秩序を持ち始めたんだ」

 

「話には聞いています。 ラスティンとアダレットが出来てから、更にその動きも加速した、ですよね」

 

「そうだ。 各地に残されている遺跡はそれらの時代の前のものと後のもので大きく変わる事が多いんだ。 武王によって統一されたアダレットの関連遺跡では、人間同士が小規模ながら戦争をした跡があったりもする。 小規模に過ぎないがね。 逆にラスティンに残る遺跡では、多くの場合ドラゴンか邪神によって滅ぼされた跡が露骨だ」

 

「戦争なんて、する余裕が無いんですね」

 

頷くカルドさん。

 

武王と呼ばれたアダレットの初代王にしても、強力な騎士団を造りあげはしたが、その矛が向いたのは自分に抵抗する人間では無く、多くはネームドやドラゴンだったという。騎士団には錬金術師もいて、各地の勢力や難民をどんどん麾下に引き入れながら、兵士を進駐させることによって人間にとっての安全地帯を増やしていったのだそうだ。

 

その代わり騎士団の人的消耗も激しく。

 

歴代アダレット王の中には、戦い……ドラゴンや邪神との戦いで命を落とした者も少なくないらしい。

 

また、苛烈な戦いぶり故に、ネームドの反撃も凄まじく。

 

特に激しい戦いが行われた拠点となった遺跡などには、凄まじい戦いの傷跡が残されているという。

 

「僕は姉と一緒に幼い頃見たが、今とは比較にならないほど各地は荒れ果てていて、ネームドも好き勝手に闊歩していたのが跡を見るだけで分かった。 あんな時代は二度と来させてはいけない。 少しでも……この辺りを平和に出来たのは、僕の誇りだ」

 

「平和、なんでしょうか」

 

「平和さ。 少なくとも500年前の動乱期だったら、ツヴァイちゃんは問答無用で命を奪われてしまって、助けようとする人さえいなかっただろう」

 

そうか。

 

それならば。

 

わたしがしている事も、無意味では無い、ということなのか。

 

ならば安心した。

 

交代の時間が来たので、朝まで眠る。

 

そして翌朝からも、獣をひたすらに狩った。その過程で、巨大な宝石の塊らしき原石をくずしたり。

 

或いはまた見つけた、玉鋼を回収したり。

 

それに、湧いている水を確認すると、非常に珍しい成分だったので、汲んでおいたりと。

 

今後の事も考えて。

 

この辺りでしか収穫できないものも、回収していった。

 

オスカーさんが、獣の処理が一段落した所で丁度来た。

 

籠に一杯色々な木の実や、食用に出来そうな草を入れている。

 

「緑化を手伝ってくれた礼だ。 おいらが話をして、役に立ちそうな分を分けて貰ったよ」

 

「ありがとうございます」

 

「くれぐれも大事に使ってくれよな」

 

食用のものだけではない。

 

強力な魔力を秘めている草や実。

 

それに花もある。

 

オスカーさんの話によると、噂に聞く世界樹の根元や、その近辺の森などには、更に珍しい植物などもあるらしい。

 

そういった植物は強い魔力を秘めていて。

 

錬金術の秘奥に近づくには、必要なものだそうだ。

 

そういえば凄腕の錬金術師と組んでいたと言うし。

 

そういう凄い植物も、見た事があるのかも知れない。

 

話を聞くが、ずっとずっと西の話だそうで。

 

此処からはそれこそ歩いて行くと何ヶ月もかかってしまうと言う。

 

それでは、流石に無理だ。

 

ともかく、収穫を皆で分けて、それで更に獣の駆除を進める。

 

もう少し。

 

自分に言い聞かせながら、山を登る。

 

ネームドの数も減ってきた。

 

近辺で確認されているネームドは、あらかた駆除したと見て良さそうだ。挑んでくる相手も、前に比べると、小粒になっていて。

 

回収出来る深核も、小さくなっているケースが多かった。

 

恐らく、あと少し。

 

あと少しでライゼンベルグに到達できる。

 

キャンプを設営し直し。

 

後方で進んでいる緑化を遠目に見ながら。

 

わたしは皆と獣を狩り続けた。

 

 

 

陽が昇る。

 

すぐ近くに錯覚するのは、もう峠の頂上が間近だからだ。此処を突破すれば、ライゼンベルグが見えるはずだ。

 

側に倒れているキメラビーストの死骸も、それほど大きなものではない。

 

もっと大きなのをたくさん狩った。

 

故に、今まで広い縄張りをもてなかった個体が此処まで出てきていて。

 

そしてわたし達と接触した、と言う事なのだろう。

 

いずれにしてもはっきりしたことがある。

 

この程度の個体が、広い縄張りを持つようになったと言う事は。

 

既にこの辺りは、以前のような超危険地帯ではなくなっている、ということだ。

 

お姉ちゃんが頷いている。

 

今お姉ちゃんは見張り櫓に上がって周囲を確認してくれていたのだが、強力な敵影はない、という合図だ。

 

制空権も確保できているから。

 

荷車から爆撃して、一方的に敵をたたく、というのもやりやすくなっていた。

 

まだ大型のアードラが飛んでいる状況では、そんな事は出来なかったのだが。今になれば、それも難しくない。

 

上を自在に抑えられるようになれば。

 

正面と上からの二面攻撃を行う事が出来るようになり。

 

殆どの獣は対応出来ない。

 

それは匪賊も含む。

 

その辺りは、既に何度も戦って確認した。

 

頷くと、皆に声を掛けて。

 

峠を越える。

 

朝日が、辺りを染める中。

 

ついに、見えた。

 

広大な城壁。

 

フルスハイムの十倍、というのも頷ける規模だ。

 

城壁の内側には更に城壁が見える。

 

つまるところ、城壁の内側に畑を作り、自給自足が出来る体勢を作っているのだろう。事実城壁の内側には、人工的に作ったらしい川らしきものさえ見受けられる。また、城壁は淡く輝いていて、錬金術による強力な防備が為されているのも一目で分かった。

 

城壁の外側はある程度緑化されていて。

 

緑が管理はされているが。

 

分厚い城門の外に見張りは出ていない。

 

むしろ、城壁の上に幾つもの大型の櫓や兵器があって。

 

近づく相手を威圧していた。

 

これはネームドや大型の獣が、何度もこの近くまで来ていたから、なのだろう。ドラゴンまでいたのだ。神経質に周囲に備えるのは、まあ当然と言えば当然だろう。

 

道の途中に獣がいて。

 

不意打ちを食らうのも面白くない。

 

キャンプを畳むと。

 

隊列を組んで、周囲を警戒しながら進む。

 

やっと。

 

やっとここまで来た。

 

だからこそ。

 

最後まで油断してはならないのだ。

 

獣に奇襲される恐れは無さそうだが。それでも念には念を入れ、警戒は密に。油断もしない。

 

ライゼンベルグの手前で死んだりしたら。

 

それこそ今までの苦労が何だったのかと、本当に悲しくなってしまう。

 

森の中に入ると、ようやく多少は安心できたが。

 

周囲からは、多少大人しくなっているとは言え、視線を感じる。

 

獣がかなりの数いる。

 

この様子だと、緑化した後は、そのまま放置したのだろう。

 

それも、緑化したのはずっと前に違いない。

 

何しろ、オスカーさんが緑化した跡に比べて、あまりにも植生が粗雑に見えるから、である。

 

この有様では、恐らくだが。

 

百年以上前に緑化して、それっきりなのではないだろうか。

 

城門に辿りつく。

 

一応、念のために、イルメリアちゃんにシールドの展開を頼む。何があるか、まだ分からないからである。

 

声を届かせる道具を取り出す。

 

前に作ったものだが。

 

今回も役に立ってくれそうだ。

 

呼びかける。

 

「扉を開けて貰えませんか? 公認錬金術師試験を受けに来ました!」

 

「……反応が無いわね」

 

お姉ちゃんがぼやく。

 

アングリフさんが吐き捨てた。

 

「こっちから人が来ることを想定さえしていないって雰囲気だな。 東側の扉は常時開放しているのによ」

 

「フィリスちゃん、もういっそ、東側に回り込む?」

 

「もう少し待ってみようよ、リア姉」

 

「いえ、開くみたいよ」

 

扉が動き始める。

 

なんと何重にもなっているようで。それも内側に開くのでも外側に開くのでも無く。横にずれるようにして開いていく。

 

城壁の内側に格納されるようにして、扉が開くようだ。

 

そしてこの構造なら、強力な獣にタックルされても、簡単に扉がぶち抜かれることは無い、と言う事か。

 

破城槌の類で突っ込まれても。

 

そもそも此処は弱点でさえない、というわけなのだろう。

 

中から出てきたのは、完全武装した数名の魔族と、十数人の獣人族、同人数のヒト族の戦士達だった。

 

流石に門の守備隊だけでも規模が違うか。

 

「西側が騒がしいという話は聞いていたが、まさか力尽くで突破して来たのか」

 

「はい。 途中の廃村にいたドラゴンも仕留めました」

 

「おいおい嘘だろ……」

 

魔族の戦士がぼやく。

 

まだ若い。前にメッヘンで見たウコバクさんより更に背が低い。この人は魔族としては、まだ子供ではないのだろうか。

 

「あんたは不死身のアングリフか」

 

「おう、そうだが。 何処かで会ったことがあったか」

 

「何回か一緒に仕事をさせて貰った。 今は此処で若造共の訓練をしている」

 

「そうか。 覚えていていなくてすまないが、顔見知りに会えれば話は早えな。 見てくれよ、この剣。 此奴が作ったんだぜ」

 

ハルモニウムの大剣を地面に突き刺すと、アングリフさんはわたしの背中をばんばんと叩いた。

 

不思議と、前ほど咳き込むようなことは無かった。

 

前はそれこそ、地面に埋まりそうな勢いだったのだが。

 

単純にわたしの体が強くなったのだろう。

 

アングリフさんの愛剣が変わっている。

 

それもどう見ても錬金術の産物である、高度な金属に。

 

それだけで、ある程度は察したのだろう。

 

すぐに、出入り自由の許可をしてくれた。

 

これで多少は行き来がしやすくなるはずだ。

 

後は、オスカーさんに話をしておく。一旦外に出て、オスカーさんに状況を説明。オスカーさんも、峠の近くまで緑化を進めていた。

 

意気地の無い錬金術師達が、何人か。緑化を完成させた場所までを、右往左往していたが。

 

いずれにしても、この人達は、試験には受かりそうに無い。

 

オスカーさんも、彼らには思うところがあるようで。あまり意識は向けていないようだった。時々先に無理に進もうとすると、警告はしていたが。

 

わたしに対しては、ある程度優しくは接してくれる。

 

「そうか、もう少しか」

 

「はい。 硬化剤も渡しておきます。 これだけあればたりると思いますので」

 

「そうだな、充分だ。 後は試験だな。 三人とも、頑張って来な」

 

礼をする。

 

この人がいなければ。

 

とても此処まではこれなかっただろう。

 

さあ、後は。

 

試験を受けるだけだ。

 

試験さえ突破すれば、公認錬金術師になれる。

 

そして公認錬金術師になれば、アルファ商会の支援を得て、エルトナを復興できる。パイモンさんも故郷に戻って、寂れている村を復興できると、嬉しそうにしていた。老馬の様子が少し心配だが。それでも、間に合った事は間違いないだろう。

 

イルメリアちゃんは。

 

少し表情が暗い。

 

何だろう。

 

試験を受けるためにここに来たはずなのに。

 

くだんの、自分以外の一族が全員公認錬金術師、という事が原因だろうか。

 

いずれにしても、これ以上先の事は、イルメリアちゃんの問題だ。もしも助けを求められたら、対応は出来るけれど。

 

それ以上の事は、わたしには出来ない。

 

畑になっている地帯を抜けて、二つ目の城壁まで行く。城門は開いていた。流石に、多くの人が行き交っているから、なのだろう。

 

さあ。

 

ここまで来た。

 

多くの障害を乗り越え。

 

ついに辿りついた。

 

後は、試験を受けるだけだ。

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