暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

86 / 150
道なき道を文字通り切り開きながら突破し
匪賊を滅ぼしネームドと戦いそしてドラゴンまで撃ち倒し。

ついにフィリスは公認錬金術師試験の場であるライゼンベルグに辿りつきました。
公認錬金術師試験の開始です。
そして公認錬金術師試験は、今までの既得権益を得ていた古参錬金術師に都合がいいものから、実戦形式の実力を見るものへと今回から変化していたのです。


公認錬金術師試験
序、ライゼンベルグ


アダレット王国の首都と並ぶ世界最大都市。人口十万を超える人口を持つ世界に二つしか無い都市の一つ、ライゼンベルグ。

 

そも人口万を超える都市ですら、十程度しかないというこの世界で。

 

その規模が如何に桁外れなのかは、言うまでも無い。

 

わたしは歩き回りながら、構造を見ていく。

 

エルトナの発展の参考にするためだ。

 

まずライゼンベルグは分厚い外側の城壁が存在していて、その城壁も複層構造になっている。

 

強力な錬金術の防備で固められており。

 

上空には街単位での巨大なシールドを展開することが出来るようだった。

 

ドラゴン単体になら、攻められても防ぎきれるかも知れない。

 

外側の城壁の内部には、水路と畑、それに森が拡がっている。

 

内部で完結するための仕組みだ。

 

水路は非常に澄んだ水が流れているが。

 

見ると、魚も泳いでいる。

 

と言う事は、ナマで飲まない方が良いだろう。

 

この魚も、当然食用として飼われているのだろうから。

 

彼方此方で牧場も作られていて。

 

家畜用の動物も飼われている様子だ。

 

働いている人も多い。

 

幾つかの道はしっかり舗装されていて、時々馬車が行き交っているが。

 

わたしが入ったライゼンベルグ西側の扉に向かう馬車は殆どおらず、いたとしても外行きでは無く、牧場や畑に対して物資を輸送しているようだった。また、流石に錬金術の都だけあって、馬車だけではなく、自動で動く荷車も見かけた。

 

かなり歩いて、内側の城壁が見えてくる。

 

ここからが、都市としてのライゼンベルグだ。

 

城門は開放されていて、中には自由に入る事が出来た。というよりも、匪賊が入り込む余地が無いのかも知れない。

 

見張りはいたが。

 

公認錬金術師の推薦状を見せると、すぐに敬礼して通してくれた。

 

話は伝わっているのかも知れない。

 

そして内部には。

 

完璧に都市計画が立てられ。

 

それに沿って作られた。

 

幾何学的な町並みが拡がっていた。

 

兎に角巨大。

 

円形の街の中心にある巨大な建物。イルメリアちゃんがいうには、あれがラスティンの中心部になる庁舎。

 

一応ラスティンは「街」扱いのため。

 

王宮では無く庁舎だそうである。

 

実態は一国だとわたしも思うのだけれど。

 

ラスティンが連合国としての体制をとるためにも。

 

王宮などとは、流石に呼称できないのだろう。

 

一日休むかと思ったが、それも気が進まない。出来るだけ早く、手続きはした方が良い。

 

庁舎に赴く。

 

かなり若い女性が、受付をしていた。何だか紅茶の香りがする。

 

わたしとイルメリアちゃん、それにパイモンさんだけで庁舎に入る。他の皆には、悪いけれど待っていて貰った。

 

受付の話をして、推薦状を見せると、手慣れた様子で手続きをしてくれる。

 

名前を記帳していくと。

 

待っていてと言われて。

 

代わりに、二十代半ばほどの女性が出てきた。

 

錬金術師だろう事は、すぐに分かった。

 

「話には聞いています。 貴方方がライゼンベルグの西のネームドを一掃し、道を行こうとする隊商を片っ端から攻撃していたドラゴンも退治してくれた錬金術師ですね」

 

「はい。 どうにかぎりぎりでしたけれどドラゴンを退治してきました」

 

「そうですか。 私はこの街の町長、エーデルと言います。 今回はライゼンベルグの民全員に代わって、私から礼を述べさせていただきます。 ありがとう」

 

「えっ……は、はい」

 

ちょっと驚いた。

 

此処の町長と言う事は、事実上ラスティンの最高責任者だ。

 

ただ、どうもそうは見えない。

 

或いは傀儡なのかも知れない。

 

見栄えが良い人間を表に出して。

 

裏では老獪な者達が権力を握る。

 

更に言えば、公認錬金術師はあくまで表の指導者で。

 

裏で長老達が実権を握っている可能性もある。

 

ともかく、手続きは済んだ。試験は三日後。わたし達以外にも、同時に五人ほどが試験を受けるそうである。多分東側の道を経由してきたのか、それともディオンさんのように何度も試験を受けている人達だろう。

 

いずれにしても、公認錬金術師から推薦状を貰っていると言う事は。

 

戦略事業を行ってきた人達、という事である。

 

少なくとも、相応の作業をしなければ推薦状はどれも貰えなかった。

 

或いは、お金で推薦状をばらまいているような公認錬金術師もいるかも知れないが。

 

わたしが見てきた公認錬金術師は、皆相応の実力は持っていたし。

 

安易に推薦状を発行するとも思えなかった。

 

多分ディオンさんだって、その辺りはしっかりやっているだろう。推薦状を忘れていたりはしたが。

 

それでも、何もしていないような相手に、推薦状を発行したりはしないはずだ。

 

試験の後、話を色々聞きたいと言われたので。

 

少し困った後、受ける事にする。

 

いずれにしても、試験については、対策も何も無い。

 

今までの旅で培ってきた知識をぶつける。それだけだ。

 

後は、庁舎を出て。

 

外に出て、ふと気付く。

 

誰かに見られている。

 

振り返ると、すっと横を誰かが通り過ぎていった。

 

顔を隠しているローブの姿。何処かで見た事がある。

 

すぐにその姿は消えた。

 

気付いていたのは、パイモンさんもだった。

 

「今の、凄まじい魔力を感じたな。 普通の魔術師ではあるまい」

 

「……ごめんなさい、気付けなかったわ」

 

「ひょっとして、見聞院本部で会ったかも」

 

「!」

 

そうだ。思い出した。

 

見聞院で空飛ぶ荷車を作る調査をしているとき、何度も見かけた人だ。

 

凄まじい力を感じたが、此処に出入りしていたと言う事は、錬金術師か、関係者だったという事になる。

 

多分後者だろう。

 

錬金術師だったら、堂々としていればいいのだ。

 

そうなると、あの異常な魔力。

 

多分錬金術師の仲間として活動している魔術師、となるのだろう。

 

「それで、どうします? 一旦解散しますか?」

 

「ふむ、そうさな。 試験までまだ少し時間があるし、おのおの好きにするのも良いだろう。 いずれわしは、試験に合格するまでは戻れぬ。 街を軽く見ておこうと思う」

 

「私は……」

 

「イルメリアちゃん、もし何も予定が無かったら、ライゼンベルグのことを教えてくれないかな」

 

しばし俯いていたイルメリアちゃんだったけれど。

 

勝手にすればと呟く。

 

あまり嬉しそうでは無い。

 

と言うよりも。

 

やはりこの娘が、嬉しそうにするところを、わたしは見た事がない気がする。

 

一旦解散とする。

 

パイモンさんにはお世話になったし。

 

三人で試験を突破したいものだ。

 

それに、パイモンさんは故郷が相応に大変な事になっているはず。エルトナとはまた違う方向にある小さな村らしいのだが。公認錬金術師がいないと言うことは、今もどんな危険に晒されているか分からない。

 

一秒でも早く戻りたいだろう。

 

それでも焦っていない所を見ると。

 

やはりパイモンさんも、相応に歴戦を重ねている、と言う事だ。

 

イルメリアちゃんは多分東側経由でライゼンベルグに来たことがあるのだろう。家族全員が公認錬金術師だと言っていたし。

 

歩き慣れている。

 

此処がこう、彼方がこう、と説明してくれる。

 

見聞院もあった。

 

せっかくなので寄っていって、情報提供。

 

ドラゴンの撃破について報告すると、報奨金を少し貰った。パイモンさんに後で分けておかなければならないだろう。

 

宿については聞いているので、後で届ける事にする。

 

幾つか興味深い本があったので。

 

二人で読んでいく。

 

そういえば。

 

イルメリアちゃんはどうするつもりなんだろう。

 

「イルメリアちゃん」

 

「何……」

 

「公認錬金術師試験が終わったら、どうするの?」

 

「そうね。 この間滅ぼされていた村。 あれを復旧しようと考えているわ」

 

驚いた。

 

家族の元に帰らないのか。

 

顔に出ていたのだろう。

 

イルメリアちゃんは、寂しそうに笑った。

 

「一家で利権を独占しているような街よ。 公認錬金術師は何処でも足りないのに、唯一余っているような街。 そんなところに戻っても仕方が無いわ。 フルスハイム東にしても、パイモンさんの故郷にしても、公認錬金術師がいなくて困っているのにね」

 

「やっぱり、いやなの?」

 

「いやよ。 家族に必ず絆があるとか、そんなのはおとぎ話よ。 貴方たちのように仲の良い家族もいるかも知れないけれど、うちは互いに顔色を窺ったり、街の利権をどう分配するか会議を行ったり。 幼い頃から嫌って言うほどみてきたわ。 あれは血がつながった他人よ」

 

多分、此処になって安心したのだろう。

 

それと、わたしを信頼してくれたのだろうか。

 

堰を切ったように。

 

イルメリアちゃんの鬱屈があふれ出した。

 

わたしだって、家族の絆が絶対だなんて信じていない。

 

うちはたまたま良かった。

 

だが、家族が崩壊している所も、エルトナでさえ幾つもあった。

 

閉鎖社会だ。

 

偏屈者には居場所が無かったし。

 

無理矢理結婚させられて泣いている子だって見てきた。

 

エルトナに戻って、今はソフィー先生に任せっきりの発展作業を、わたしが引き継いでからは。

 

そういった不幸は少しでも減らしたい。

 

だが、それも何処まで出来るか。

 

ドラゴンの襲撃にはどう対応する。

 

何より、街の至近に邪神がいる。

 

あれは対応を誤ると、せっかくの発展が全部ひっくり返されるはずだ。

 

ドラゴンとの戦いでさえ、周囲が焦土となったのである。

 

邪神とやり合ったら、それこそ何がどうなっても不思議では無い。エルトナが丸ごと消し飛ぶ可能性だってあるだろう。

 

「イルメリアちゃん、手伝おうか?」

 

「大丈夫。 貴方はエルトナをどうにかしなさい。 試験を終わったら一人前よ。 少なくとも、それぞれ決めたことを一段落させるまでは、あわない方が良いわ」

 

「……そうだね」

 

「三日後は、正々堂々勝負よ。 それで試験を受かって、笑ってそれぞれの新しい場所へ行きましょう」

 

イルメリアちゃんはそう言うが。

 

まったく笑っていない。

 

見聞院で適当に読書をして、メモを取った後。

 

雑貨屋に案内して貰う。

 

かなり商売上手そうなお姉さんが、色々売っていた。錬金術関連の書物もかなりある。お金はまだあるし、そもそもこういった所でお金を使うのが目に見えていたので、貯金しているのだ。

 

本を買っていく。

 

イルメリアちゃんも買っていた。

 

本はどうやってか同じものを増やしているようなので。

 

取り合いになる事もなかった。

 

同じ本を見せてもらうが、ほぼ全く、挿絵などに至るまで見比べても分からない程内容が同じだ。

 

模写にしては出来すぎている。

 

「これ、どうやっているんだろう」

 

「ああ、知らないのね。 活版印刷よ」

 

「活版印刷?」

 

「機械技術の一つね。 大きな都市にしか機械技術者はいないけれど、彼ら自慢の有用技術の一つよ」

 

機械技術と言っても、銃は所詮火力が知れているし、時計は他の手段でも代用できる上に複雑すぎる。

 

しかしながらこの活版印刷は。

 

非常に有用だという。

 

近年「復旧」された技術の一つで。

 

今後機械技術者は、この技術のために、世界各地で必要とされるだろうと、イルメリアちゃんは言っていた。

 

昔は彼方此方にあったらしいのだが。

 

ロストテクノロジー化しており。

 

標の民の苦労の末あって、復活に成功したのだとか。

 

そうか、カルドさんの一族が成し遂げたのか。

 

同じ本をたくさん作れるというのは大きい。しかも労せずして、だ。

 

本の値段もそれほどえぐくは無い。

 

元々、エルトナでも本は貴重品で。わたしのうちではお姉ちゃんがいたから本があったようなものだった。

 

うちに遊びに来る子は、絵本を羨ましそうに見ていたし。

 

本をいつでも読めて羨ましいと、直接言われたこともある。

 

この技術。

 

エルトナに持ち込めないだろうか。

 

少し考え込む。

 

カルドさんに相談してみるとしよう。

 

こういった技術は、一箇所だけにあっても、散逸してしまう可能性があるかも知れない。エルトナは鉱物資源で成り立つ都市だし、機械技術者とは相性が良いはずだ。きっと、好待遇で迎えられる筈である。

 

機械技術者達の様子を見に行く。

 

途中、教会の関係者らしいおっとりした女性とすれ違う。紫色の髪を持つ、背が高い女性だ。

 

長いスカートで足下をしっかり隠していて。

 

服装は隙が無かったが。

 

しかしながら、同時にどこか笑顔が得体が知れなかった。

 

目があった気がしたので、一礼したが。

 

何だろう。

 

もの凄い妖気というか、背筋に寒気を感じた。

 

まるで相手が人ならざる存在のような。

 

ともあれ、イルメリアちゃんが怪訝そうにしているので、ついていく。

 

今日はお姉ちゃんも別行動なので。

 

いちいち過保護にされなくて、少しは羽も伸ばせるのだ。せっかくだから、楽しむとしよう。

 

食事処があったので、寄っていく。

 

流石ライゼンベルグ。

 

あらゆる食材が揃っている。

 

街の中で魚から牛まで何でも食材が調達できるのだ。

 

これほどの巨大都市、世界にもう一つしか無い、というのも納得である。

 

だが、これだけ巨大だと。

 

ドラゴンや邪神に狙われたのではあるまいかと、心配してしまう。

 

フルスハイムでさえあの有様だったのだ。

 

いや、既にドラゴンには、足下を荒らされていたか。

 

ちなみに、食事はあまり美味しくなかった。

 

多分味付けが好みに合わないのだろう。

 

イルメリアちゃんは文句の一つも言わなかったので。

 

多分都会風の味付けか何かなのだ。

 

この辺りは、気にしても仕方が無い。

 

後は、解散して。

 

わたしはアトリエに戻る。

 

イルメリアちゃんも、馬車でゆっくりするようだった。

 

パイモンさんの馬車はない。

 

どうやら老馬の様子が良くないらしく、医者に診せに行っているらしい。大変な道中だったし、疲弊も溜まったのだろう。

 

此処は錬金術の都だ。

 

少しは良い薬があると良いのだが。

 

後は、残りの時間を、勉強しながら過ごす。錬金術もしっかりやっておく。本を読むだけでは駄目だ。わたしは何度か実践しないと上手くやれないことは、今までの旅で散々理解した。

 

ハルモニウムを作り込む。

 

同時に、更に高度な錬金術を行うためのアトリエについても、視野に入れる。

 

この間のドラゴン戦は、イルメリアちゃんとパイモンさんがいて、ようやく掴めた勝利だった。

 

イルメリアちゃんは一人前になったら別行動に入るだろうし。

 

パイモンさんは故郷でやっていく事になる。

 

つまり、激減した戦力で、ドラゴンとやり合うことを想定しなければならない。

 

アングリフさんは、しばらくまだ雇うつもりだ。

 

カルドさんやドロッセルさん、レヴィさんにも側にいて欲しい。エルトナ復旧のためには、手練れの戦士も学者も必要だ。

 

後は、ツヴァイちゃんも。

 

エルトナにもホムはいたけれど。複製の錬金術が使えるホムはいなかった。

 

無理をしない程度に、少しずつ力を伸ばしていけば。きっとツヴァイちゃんはエルトナでしっかり立場を確保できるはず。

 

それと、新しい家族が増えると言ったら。

 

お父さんもお母さんも喜ぶだろう。

 

ツヴァイちゃんはわたしの妹、という立場だろうか。いずれ、さんなんてつけないで、お姉ちゃんと呼んでくれたら嬉しいのだが。

 

そうなると、わたしの家は。

 

二人も血がつながらない家族がいる事になる。

 

それはそれで、面白いのかも知れなかった。

 

ある程度調合をしたら、早めに休む事にする。

 

試験の日にコンディションを崩したら本末転倒だ。

 

ベストコンディションを維持しなければならない。

 

夕刻。パイモンさんが戻ってくる。

 

馬については。かなり様子が良くなった様子で、安心した。パイモンさんに見聞院で貰ったお金を渡す。受け取ってくれたパイモンさんは、ある本を手にしていた。

 

アンチエイジングの錬金術について、と書かれていた。

現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。

  • このままでいい
  • 一日で一章がいい
  • 更に分割して欲しい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。