暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ 作:dwwyakata@2024
早朝。
庁舎に出向く。出来るだけ、早い時間に結果を確認したかったからである。
出向いた結果は、明らかすぎる程だった。
試験結果が張り出されている。
合格者は三人。
トップの合格はパイモンさん。二番がわたし。最後がイルメリアちゃんだった。
配点についても書かれているが、三人とも僅差だったので、あまり結果に違和感は感じない。
三つ目の実戦試験に入る前に殆ど三人とも横並びだったし。
何よりも実戦試験で一番手間取りそうだったのがイルメリアちゃんだった。
配点についてチェックする。
実戦に関しては、パイモンさんはほぼ満点。魔術師として、雷撃という汎用性が高い能力を得意としているだけのことはある。雨雲の石も、雷神の石も、そもそも雷撃の魔術が得意だから、それを応用して作ったらしいので。まあ妥当な結果だろう。
他にも歴戦の魔術師であるパイモンさんは、普通に戦っても強いはず。色々な魔術を習得していたし、納得である。
年老いている事はマイナスではあるが。
パイモンさんはその老いを力に変えた人なのだ。
途中からとはいえ、この人と此処まで来れたのは良かった。尊敬できる老人と一緒に旅を出来たのは良い経験になった。
わたしは、何カ所か減点されていた。
まず鎧の相手との戦闘の時。
相手を無力化する手段で消耗しすぎていることを減点されていた。
これに関しては、確かにもっと色々な手があったと今になって思う。
次に戦闘回避の所で。
回避については、どうせ相手も獣なら、草原を踏み荒らすことは無い。なので、考えるまでもなく、さっさと距離を取るべきだった、と少し減点されていた。
最後は減点無し。
模範的な対応だったと書かれている。これは嬉しかった。
イルメリアちゃんが来て、じっと結果を見ている。
だけれど、不満を口にすることは無かった。
その後、合格者三人に対して、研修が行われた。一週間ほど掛けて、公認錬金術師に出来る事を教わり。更に印鑑も貰った。
推薦状の書き方。更に推薦状を書くときにやってはいけないこと。
色々教わる。
基本的に、推薦状は、後付けでは発行してはいけない。これは前にもディオンさんの所で聞いたが、本当らしい。
更に、金を貰って推薦状を発行した場合は、公認錬金術師の資格は一発停止となる。これらについては、印鑑に監視機能が仕込まれているそうで。遠隔での監視が常に行われているそうだ。
公認錬金術師はアルファ商会の支援を求める事が出来るが。あくまで支援を求められるだけであって。アルファ商会にはどのような戦略事業を行うのか、実際の使途を全て説明し、成果を見せなければならない。
また、公認錬金術師は、常に錬金術を良き方法に使わなければならない。
幾つかの禁じ手について説明される。
その最たるものが、多幸性と依存性の強い薬物の作成と販売。アルコールは作成して良い濃度が決められていて、売るのにも制限があるという。細かい指標や見分け方についても規定が色々あって、ハンドブックまで渡される。
特にアルコール含めて依存性のある多幸性薬物販売の規則は重要で。破った場合、即座に公認錬金術師の資格を剥奪どころか、処刑だという事だった。
なるほど。それはそうだろう。
依存性の強い邪悪な薬物は、それこそ匪賊が売るような代物だ。
あんなものを作るような錬金術師は、その偉大な力をドブに捨てているも同然。
世界を変えるための力を。
世界を悪くするために用いるような錬金術師に、生きる資格は無い、というのも当然だろう。
更に、医薬品を販売する場合の価格設定。
爆弾を作成する場合の注意など。
細かい授業が続く。
ドラゴンに対応する場合、近隣の集落とどう連携するか。
邪神が現れた場合の報告義務など。
様々な細かい取り決めの他。
新しい発明をした場合、レシピをライゼンベルグに納品すると報奨金が支払われる、というのもあった。
更に公認錬金術師になると、見聞院本部にある書物も、全て閲覧できるという。
なるほど。制限が多い分、特権もかなり多いと言うわけだ。
早速、わたしは自分のオリジナルのレシピを納品する。かなりのお金が貰えたので、これは嬉しい。
勿論自分のものに使うつもりはない。今後の戦略事業に生かすのだ。
ブリッツコアは特に良いお金になった。
試験の時に実際の効果がお披露目されているので。その分も含めてのお金だろう。
パイモンさんも、雷神の石・完成型のレシピを同じように納品して。故郷の発展のために生かすようだった。
講習が終わる。
さて、これでライゼンベルグにもう用は無い。
だが、途中まではイルメリアちゃんともパイモンさんとも一緒に行こう。
そう思って、庁舎を出た瞬間だった。
周囲が暗くなる。
体が動かない。
気付くと。
わたしは、一人。
小さな狭い部屋にいた。
見回すが、ランタンの明かり以外何も無い。
煉瓦によって作られた部屋のようだが。十人も入れないほど狭い。
何が起きた。
混乱するわたしの前に。凄まじいまでに、強力な気配が近づいてくる。その気配を、わたしは知っていた。
体が動かない中、生唾を飲み込む。
炸裂するようなその気配が壁の一角にある扉を開く。
そして、姿を見せたのは。
他ならぬわたしの大恩人、ソフィー先生だった。
笑顔を浮かべているのに、どうしてだろう。フルスハイムで別れて以降、会っていないのに。懐かしさとか、嬉しさとかをまったく感じない。なんでだろう。恩人なのに。最大の恩人の筈なのに。
分かった。この気配、あのドラゴンの、何十倍、いや比較に出来ない程強い純粋な「力」そのもの。そして、その気配は、明らかにわたしの首元に手を掛けている。その気になれば、即座に殺せる。首を折るどころかちぎり取ることも出来る。そういう気配だった。
これでも散々実戦はこなしたのだ。これくらいは分かる。
優しい、だけれど怖気しか走らない笑みを浮かべながら、ソフィー先生は言う。
「久しぶり、フィリスちゃん」
「ソフィー、先生……!? 此処は……」
「ちょっと用事があってね。 時間を止めて此処に連れてきたの。 何、用事が終わったらすぐに帰してあげるよ」
時間を、止めた。
嫌な予感がする。いや、恐怖が背筋を這い上がってくる。
あの時。そう、峡谷で、匪賊があらかた殺された時。どうもアングリフさんが言ったことが気になっていた。
そう、もしも時間を止めたのなら。簡単に出来る。殺した匪賊の胴体を、他の匪賊のアジトの前に晒すことも。空間を自在にするソフィー先生だ。それくらい出来てもおかしくない。
あれは、ソフィー先生がやったのか。
相手は匪賊だから、倫理的な問題は別に良い。問題は、もっと別のこと。どうしてそんな事をしたのかが、分からない。ソフィー先生は、笑顔のまま続ける。
「フィリスちゃんにこれからやって貰おうと思う事があるんだけれど、いいかな」
「ど、どうして、普通に会いに来ないんですか? わたし、先生に試験受かったこと、報告したかったのに」
「ああ、それはね。 あたしが何度もその話を聞いてもう飽きたから」
「?」
え。
何、それ。ちょっと待って。意味がよく分からない。何度も、話を聞いた。どういうこと。
混乱する中、必死に考える。
まて。
ひょっとして、時間を止められると言う事は。
巻き戻す事も出来るのか。
ぞっとした。
ソフィー先生は、もしそうだとしたら。
人間の領域を、遙かに超えてしまっているのではあるまいか。
「具体的に何回聞いたかは教えないけれど、もう流石にね」
「ど、どうして、どうしてそんな……っ!」
「世界が滅亡したからだよ」
「え……」
やはり思考が追いつかない。
ソフィー先生は肩をすくめる。
そして、あまりにも恐ろしい事を。さも当然のことのように言い切ったのだった。
「この時点から平均しておよそ4000年ほどで、この世界には限界が来るの。 一番頑張ったときで5700年ほど、駄目だったときは2600年くらいかな。 人類が資源を食い尽くし、互いに協力してやっていけなくなる。 最初にまず間違いなくホムが皆殺しにされ、獣人族とヒト族が全面戦争を始める。 魔族は強いけれど数が少なすぎるから、その中で脱落。 最終的にヒト族が七割くらいの確率で勝つけれど、資源が尽きていることには代わらないから、結局滅びの道を辿る」
「そんな、錬金術師達は何をしていたんですか!」
「錬金術を使ってもどうにもならないんだよ。 事実あたしはこれは駄目だと思った場合でも、最後まで人間達に協力を続けて、世界の滅亡を回避できないかの試行錯誤をして、データを取得してきた。 実際に人間が世界を滅亡させるのを何度も見ながら、特異点まで時間を引き戻して、そしてやり直し続けて来た。 フィリスちゃんはその途中で見つけてね」
駄目だ、何を言われているのか分からない。
分からないけれど分かる。
わたしは、最初から。
利用されていたのだ。この人の目的に。
更には、ソフィー先生の爆発的な力の出所も何となく分かった。この人は、意味が分からない時間分経験を積み上げた結果。もはや人間なんて存在の限界を、遙かに超越し尽くしているのだ。
「後イルメリアちゃん、それにもう二人、未来に有望な子が出てくる。 フィリスちゃん達四人とあたしが協力して、人類という種族を全面的に進化させる。 それしか、この破滅を回避する方法は存在しないの」
「……そのために、わたしを、イルメリアちゃんも、もてあそんでいた、ですか」
「取り繕っても仕方が無いから言うけれど、その通り。 何しろこの先に待つ確実な未来を回避するためには手段は選んでいられないからね」
「ひど……」
瞬間沸騰しそうになるが。
次の瞬間には。
ソフィー先生は残像さえ作らず。
いつの間にか、わたしの後ろにいて。
わたしの首を触っていた。
分かる。
その気になれば、それこそソフィー先生がすっと撫でるだけで。わたしの首は体とさようならだ。そして胴体の方は、多分溶けて消えてしまう。
「うん、触るとよく分かる。 「今までで」一番良く仕上がっていていいね。 そうだ、あたしが介入しなかった場合のフィリスちゃんの未来を見せておこうか」
「ひっ……」
悲鳴が漏れる。
単純に、怖い。
ドラゴンを相手にした時なんて。いや、最初にお外で獣を見た時なんて、比較にもならない。
この場にお姉ちゃんがいたって。
いや、みんないたって。
それどころか、多分公認錬金術師達が総掛かりだって。
勝てる訳が無い。
ソフィー先生が次元違いの存在だと言う事は分かっていた。
だが、これは。
そんな言葉が生やさしくなるほどの差だ。
不意に、頭に叩き込まれる映像。
それはフェイクでは無い。
強引に理解させられる。
救いの無い未来。
エルトナは限界を迎えていた。わたしの鉱物の声を聞く力でも、有用な鉱物が出なくなったからである。
無茶な堀り方をした結果、鉱脈は全て枯渇。
後は外で戦う力も無く。
そして近親交配の結果、病気だらけになった人々だけが残った。
商人はある意味もっとも残忍な種族だ。
金にならないなら来ない。
エルトナを放棄し、無理をして外に出た人々を待っていたのは。
手ぐすね引いた獣の群れだった。
為す術無く襲われ。
殺されていく人々。
力に差がありすぎる。
わずかに戦える人もいたけれど。お姉ちゃんもその中には含まれていたのだけれど。それでも数も違いすぎて。どうにもならなかった。
必死に門の中に戻ったわずかな生き残り。
だが、その生き残りも、知る事になる。
湖から上がって来た獣たちが。今まで、単に処刑を待ってくれていただけだったという事を。
鉱山にもぷにぷにの亜種は出たが。
それとは比較にならない凶悪な獣たちが現れて。
数少ない生き残りは、殆ど時間を掛けずに、皆殺しになった。
後は、宴だ。
殺された中には、お姉ちゃんも、お父さんも、お母さんも入っていた。
勿論わたしも。
がりがり。
ばりばり。
骨ごとかみ砕いて食べていく音。
やがて、血の跡だけを残し。
其処には誰もいなくなった。
吐き気を抑えきれない。
ソフィー先生は、笑顔をまったく崩さなかった。
「これでも、酷いと言える? エルトナはそもそもあたしが介入しなければ、後二十年ほどでこうなっていたんだよ」
「そんなの、わから……」
いや。分かる。
確実にこうなっていたはずだ。
わたしは外に出て、現状を知った。外の獣の凶悪さ。それに何より、エルトナが詰んでいることも客観的に理解していたはずだ。
その詰んでいる状況を打開するには。ソフィー先生のような「力」が絶対に必要だ。
でも、ソフィー先生はリアリストだ。何の意味もなく慈善作業をしているはずがない。
何かの理由があって、助けてくれた。
そういう事は、何処かで分かっていた。
涙がこぼれてくる。
そうか、何となく分かってきた。
また記憶が流れ込んでくる。
嫌と言おうとするが、ソフィー先生は容赦しなかった。
今度見せられるのは、世界滅亡の記憶だ。
とうとう人間達が資源を使い果たし始めると。
世界中が滅茶苦茶になっていく。
貴重な森林資源にも当然手を出し始め。
獣との戦いも激しさを増す中。
戦えない奴は必要ないと、まずはホム達が排斥された。匪賊のように、ホムを食糧と考える者まで出始めた。ホムは戦闘力が低い。数字には強いが、それだけ。だから、片っ端から殺されていった。
ホムが絶滅しても、何ら状況は好転しない。
錬金術も、資源が無ければそもそも何もできないのだ。
新しい道具を作り出せない錬金術など魔術にも劣る。
ヒト族と獣人族が殺し合いをはじめ。
魔族は距離を置こうとするが失敗。ヒト族も獣人族も魔族の子供や老人を人質にし、戦わせることを選んだ。
残り少ない資源を巡って争い始めるヒト族と獣人族。
やがてどちらかが生き残り。
負けた方を食用奴隷化。
そして魔族も。用済みになったら食用にされてしまう。
吐き気がこみ上げてくる。
これでは匪賊と同じだ。
人間は匪賊になってしまうと言うのか。
そして最後に生き残ったヒト族にしても獣人族にしても、今度は同族で争い、残ったわずかな資源を奪い合って殺し合いをはじめる。あげく殺した相手を食い始める。それは、もはや見るにたえない惨状だった。地獄と言うのも生やさしい。具現化した悪夢だった。
程なく、もはや資源さえない荒野には。
獣だけが闊歩するようになった。
最後の人間は言葉や道具さえ失い。
洞窟で身を潜めるように獣を避けて暮らし。
そして餓えの中に死んで行く。
全てを余すこと無く見せられたわたしは。
ついに限界を超えて。
吐き戻していた。
匪賊の記憶を覗いたときより酷い。呪縛から解き放たれて、いつの間にか動くようになった体だけれど。
激しく嘔吐するわたしには、もはや何もする力は残っていなかった。
「どれだけ社会のシステムを調整しても駄目。 技術の発展を促しても駄目。 結論としては、四種族が手を取り合って、この世界の外側に行くことを考えなければならないのだけれど、人間という種族は、結局の所自分の事しか考えられないんだよ。 だから、それを変えなければならないの。 分かった?」
「……一体、何回こんな光景を見たんですか」
「回数は教えない。 ただ、フィリスちゃんも途中からはこれをどうにかするために毎回苦労していてね。 だけれど手が足りないの」
話は、つながった。
そういうことか。
ソフィー先生は、どうやってかは分からないけれど。
人という種族を。
人間に分類される四つの種族を。
全て根本から変えようとしている。
分からない事は多い。
特異点、というのもよく分からない。
そもそも、どうしてこんな事になるのかも、さっぱり分からない。
それでもはっきりしているのは。
今見せられた未来は、嘘でも何でも無い。
ソフィー先生は恐らく、錬金術に関しては人類史上最高の天才だ。バックアップスタッフにも恵まれている。
一人で勝手に考えて行動しているのでは無い。
バックアップスタッフとも連携して、この世界を打開しようと動き続け。
それでもどうにもならない、というのが真相なのだろう。
この人ほどの怪物が、そんな年数経験を積み重ね続けて。
なおもどうにもならない世界。
ならば、支援する人間を増やすしか無いという結論は、確かに納得できるものがあった。
納得は出来るが。
生理的に受け付けないし倫理的にも許せない。
でも、許す許さないの問題じゃない。
ソフィー先生は、一方的に通告する。
「これから、半年ほど時間をあげるから、エルトナをしっかり自活できるまで発展させてね。 その後は、フルスハイムの竜巻の原因……上級ドラゴンを仕留める作戦をフィリスちゃんにやってもらうよ」
「どうしてソフィー先生がやらないんですか?」
「もうやったんだけれど」
「!」
そうか。
なんで竜巻がフルスハイムを襲わなかったのか。
それは恐らく。
ソフィー先生が、ドラゴンを痛めつけて、竜巻を操作するどころではなくした、というのが真相なのだろう。
「戦闘に参加する人員、湖底に住んでいるドラゴンの所までどうやって行くかとかは、フィリスちゃんに一任するよ」
「……」
「エルトナにはティアナちゃんに常駐して貰うから、そのつもりでいてね」
また、記憶を流し込まれる。
ティアナちゃんが、まるで稲妻のような速度で動いて、抵抗も出来ない匪賊を片っ端から殺して行く様子。
この戦闘力。
一人でわたし達全員を遙かに上回っているのではあるまいか。
それはそうだろう。
だってティアナちゃんが身につけているのは、恐らくソフィー先生が作った装備類だ。それも全身に十以上はつけている。
強くないわけが無い。
ドラゴンも、下級のだったら一人で倒せるかも知れない。
そしてこの映像を見せたと言う事は。
逆らったら。
エルトナの人間を、こうすると言う事だ。
ティアナちゃんの目は、ソフィー先生を見るとき、狂信に満ちていた。お姉ちゃんが警戒するわけだ。きっとティアナちゃんの本質を見抜いていたか。或いは、事前に本性を見せられていたのだろう。
「じゃあ、頑張ってね」
気配が消える。
同時に、わたしは。
何事も無かったかのように、庁舎の前に立っていた。
怪訝そうに、パイモンさんが聞いてくる。
「どうした、忘れ物か」
「い、いえ、何でも……無いです」
イルメリアちゃんが小首をかしげている。
喉の奥の焼け付くような感覚。
これが、今見たのが、幻覚でも何でも無い事を告げていた。
何もかも、あらゆる全てが。
恐らくソフィー先生の掌の上だったのだ。
少なくとも、わたしが旅に出てからは、ずっと。
そして鏖殺の謎も分かった。
昔の鏖殺はソフィー先生で。
ある時期から、その仕事はティアナちゃんが引き継いだのだ。あの記憶の中でのティアナちゃんの鮮やかな殺し方。抵抗さえする暇も無い殺戮の嵐。
正に、災害。
鏖殺を匪賊共が怖れるわけだ。
匪賊が死ぬ事は何とも思わないが。
このまま行くと、資源枯渇の末に人間が皆匪賊同然になる。それは絶対に許されない未来だ。
ソフィー先生にもてあそばれているというのも分かる。それも許せないが。人類が全て匪賊に堕していき。挙げ句の果てに滅び去るのは、看過できなかった。悔しいが、どれだけ非人道的でも、ソフィー先生がこれに関しては正しい。この世界に未来は無い。未来をどうにかするには、人間の可能性だとか漠然としたものだけでは駄目なのだ。
「顔が真っ青だぞ。 先ほどの授業、それほど難しくも無かっただろう」
「いえ、大丈夫です」
「そうなら良いが。 明日の朝には出立するのだ。 体調はしっかり管理しておくのだぞ」
「はい」
パイモンさんは、普段此処まで言わない。
多分何かあった事を悟っているのだろう。
そして、いつの間にか。
イルメリアちゃんも、真っ青になっていた。
何か、されたのかも知れない。
だが、それについては。
何も聞けなかった。
何をソフィー先生にされるか分からないからだ。
公認錬金術師になった。
だが、そんな事は、もはやどうでも良くなっていた。わたしは知ってしまった。何もかもが、全て詰んでいることを。
ソフィー先生は言った。
何度も聞いたと。飽きるほどに聞いたとも。
あの人が、其処まで言う程の状況なのだ。時間も空間も自由自在にするほどの力を持つあの人が。
ならば、もう。
選んでいる余裕などありはしない。
翌朝、ライゼンベルグを出る。その時、イルメリアちゃんが声を掛けたらしい傭兵団が、三十人ほど集まっていた。
「私はライゼンベルグまでの道の途中にあった、あの村を復興するわ。 其処で別れることになるわね」
「そうか。 世話になった。 わしはフルスハイムまでは一緒に行こう」
「二人とも、お世話になりました」
「此方こそ」
どこか、寂しい笑顔をイルメリアちゃんは浮かべた。
それで分かった。
多分イルメリアちゃんも。
ソフィー先生に、なにかされたのだろうと。
現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。
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このままでいい
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一日で一章がいい
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更に分割して欲しい