暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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3、初めての戦い

何度も発破を調合する。

 

火力を上げたり下げたり、色々とやり方を覚える。

 

一日に作れる数の、可能な限り上限を、材料を用意して貰いながら作る一方。

 

ソフィー先生は、街の中を一緒に歩きながら、錬金術の素材について色々と教えてくれた。

 

例えば家の影に生えているようなキノコでも。

 

錬金術には使える。

 

ただしキノコには猛毒があるものも多く。

 

食べられる方が少ない。

 

キノコの声が聞こえればいいのだけれどと、ソフィー先生は静かに笑ったけれど。つまりソフィー先生には聞こえていると言う事だ。

 

わたしにも。

 

いつか鉱物以外のものの声が、聞こえるようになるのだろうか。

 

それを確認すると。

 

ソフィー先生は、アトリエに戻りながら教えてくれる。

 

手にしている籠には。

 

錬金術に使えるとは知らなかった品が。

 

山のように入っていた。

 

「この才能はない人にはないんだけれど、ある人は後天的に伸ばせるんだよ。 わたしも最初は雑音くらいにしか聞こえなかったけれど、どんどんクリアに聞こえるようになっていってね」

 

「そうなんですか!?」

 

「例え才能がスペシャルでも、磨かないと話にならないのがこの世の現実なの。 天才って言葉は都合が良いけれど、なんの努力もしないでその才覚を発揮できる天才なんていないし、いたとしても世界の一線級には出られないからね。 せいぜいちょっとその辺の街で粋がれるくらいかなあ」

 

ソフィー先生はシビアだ。

 

その言葉には重みがある。

 

この人の出来る事を見ていると、本当にそう感じる。

 

どんな努力をこの人が重ねてきたのかは分からないけれど。

 

この深淵みたいな怖い目も。

 

きっとその結果の筈。

 

それにしても、出発点は何だったんだろう。

 

興味がわき上がってくるが、ぐっと抑える。

 

ただでさえわたしは感情の制御がとても下手なのだ。爆発してしまうと、自分でも何が何だか分からなくなってしまう。

 

それで後悔する。

 

つい先日も、お父さんとお母さんに酷い言葉を浴びせたばかりだ。

 

まさかソフィー先生に、そんな事を言うわけにはいかない。

 

絶対にだ。

 

アトリエに戻ると、また調合三昧。

 

それと一緒に、プラフタさんが、座学で授業もしてくれる。

 

錬金術の基礎については、それである程度覚えた。覚えると、色々と分かってくることもある。

 

基礎的な感覚を身につけてからは。

 

事故も減ってきた。

 

まだ時々油断すると爆発させてしまうけれど。

 

それでも、逃げ遅れて自分も巻き込まれる事はまず無くなっていた。

 

練習は力だ。

 

何も考えずに繰り返すのはあまり意味がないとソフィー先生が、練習のやり方もきっちり仕込んでくれた。

 

一回やったら。

 

次はそれを参考に、もっと良い方法を考える。

 

失敗したらしょげない。

 

何故失敗したのかを考えて。

 

次に上手くやる方法を考える。

 

この順番で作業をやっていく。

 

そして、これを机上論では無く。

 

実践で体に叩き込んでいく。

 

短時間でわたしは、練習のやり方と。

 

試行錯誤のやり方を。

 

その道のプロに、徹底的に叩き込まれていた。

 

ソフィー先生が、本当に地獄のような世界で苦労していたことは何となく分かる。多分この人だって、最初にネームドやドラゴンとやりあった時には、本当に怖かったはずだし、錬金術の調合でも何度も失敗したはずだ。

 

一度手本を見せてくれたのだが。

 

調合に関しては、殆ど神業だった。

 

始めたばかりのわたしでもわかる。

 

異次元の手際だ。

 

アトリエに戻って、今、覚えられるだけの事を覚える。

 

もしもソフィー先生の時間がないというわたしの予想が当たっているのなら。

 

きっとこの時間さえもが。

 

貴重すぎるほどなのだから。

 

小型の爆弾の作り方を徹底的に習い。

 

使い物にならなかった最初のものから、徐々に手投げ弾として実用的なものに切り替えて行く。

 

ソフィー先生の話によると、雷撃や氷をぶちまける爆弾も作れるらしいのだけれども。

 

それは応用。

 

今はまず、基礎を身につける所からだ。

 

発破に使った大型の大火力爆弾ではなく。

 

小型の爆弾を、無理なくまとめるのは、それはそれでとても難しい。

 

最初に爆弾の完成品を造る事を許されてから、更に一ヶ月。

 

ようやく球状で。

 

紐を付けて振り回して、投擲できる爆弾が作れた。

 

同じ大きさで、同じ重さの何かの塊を用意して貰ったので。

 

わたしは早速、それを狙い通りの場所に投げられるか、練習する。

 

ソフィー先生には、あと一つ。

 

錬金術を使った実戦で、一人で勝つことが、街を出る条件であると伝えてある。

 

ソフィー先生は何も言わず、静かにそれで頷いていた。

 

実際問題、それくらい出来なければ。

 

外で生きていくのは不可能だと、この人は知っているのだ。

 

何度も投げる。

 

狙い通りの所にはどうしても上手く飛んでいかない。

 

少し様子を見ていたソフィー先生は、お姉ちゃんを呼んできた。

 

お姉ちゃんはわたしが四苦八苦しているのを見て。

 

教えてくれた。

 

「こう、両手で持って、下手で投げて」

 

「えっ、そんな投げ方でいいの?」

 

「今使う予定の爆弾の火力から考えると、充分な距離さえ飛んで、正確な場所に着弾すればそれでいいの」

 

「そう、やってみる」

 

紐つきの球状爆弾を、正確な位置に投げ入れるのは、後からでも構わない。

 

今は、自分の力で。

 

出来る事をやれば言い。

 

ソフィー先生は、くるくる回して投げる方法を使うらしいのだけれども。

 

それは癖になっているから。

 

昔は腕力がそれほど強くなかったらしく。

 

そうやって投げる方法が身についたらしい。

 

ならば、わたしも。

 

何度か練習してみる。

 

両手で投げると、確かに驚くほど安定した。

 

ただ、問題は。

 

敵も当然黙ってなどいてくれない、と言う事だ。

 

ソフィー先生が何かを出してくる。

 

何と、指示通りに動く箱である。

 

車輪がついていて。

 

ソフィー先生が言う通りの速度で、自由自在にその辺を走り回る。本当に生きているかのような不思議な道具だ。

 

普段はものを輸送するために使っている道具らしく、今後はエルトナでも鉱石の運搬用に導入してくれるという。男衆も興味津々で自由自在に走る箱を見て驚いていた。

 

「これが突進してくるから、正確に投げ入れてみて」

 

「は、はい!」

 

箱が本当に突進してくる。

 

止まった的が相手だったら簡単だったのに。

 

相手が動くだけでこんなに難しくなるのか。

 

私は恐ろしいと思った。

 

何度も箱が至近距離でぴたりと止まる。その度に、深呼吸して、今のは何が悪かったのかを考える。

 

どうすれば上手く行くのかを考える。

 

思った通りの位置には投げられるけれど。

 

相手が動いている場合は上手く行かない。

 

そして、更に二度の起爆ワードを、適切なタイミングで唱えるのが、更に難しい。一回目を事前に唱えておく場合。二回目で事故る場合が結構多い。

 

試行回数が十回を超えた頃から。

 

ソフィー先生は、箱がうねうね動くように調整してきた。

 

勿論相手が獣であり。

 

実戦である事を想定した動きだ。

 

当然相手も、人間が何をしてくるかは想定しているわけで。当然まっすぐ素直に突進してきてくれるはずがない。

 

難易度ががつんと上がるが。

 

お父さんが怪我して戻ってくる程なのだ。

 

今のうちに、実戦を想定した訓練を、徹底的にやるのが当たり前だ。

 

わたしは歯を食いしばって。

 

訳が分からない動きを見せる箱に、何とか爆弾を想定した球体を投げ入れる訓練。更にワードを唱える訓練を続ける。

 

一度やる度に反省点を見直し。二度同じ失敗をしてもめげない。失敗は次の成功につなげる。

 

そう自分に言い聞かせて必死に練習を続けた。

 

途中からは。腰に杖をくくりつける。

 

この杖は打撃用も兼ねている。人間を棒で殴れば充分いたい。場所によっては殺せる。

 

ただ獣になってくると、普通に棒で殴った程度ではダメージを与えられない可能性も高い。

 

これはあくまでとどめ用だ。

 

そして、普段魔術を使う事も想定するのだから。

 

杖を手放すわけにはいかない。

 

ならば選択肢は一つ。杖は戦闘時、両手で爆弾を投げるときには、腰にくくりつけるしかない。この訓練も、何度もやった。

 

また一週間が過ぎ、調合と実戦訓練を散々繰り返して。

 

そして、投げ入れるのも、ある程度上手くなってきてから。

 

ついに実戦の日が来た。

 

 

 

鉱山の奥に向かう。

 

事故に備えて、ソフィーさんがついてきてくれたが。

 

いないと判断して動くようにといわれた。

 

確かにそうだ。

 

今回は、訓練であって。

 

本当の実戦では無い。

 

ただし持ってきているフラムは本物だ。

 

火力も調整し。

 

対岩用の発破から、対獣用の戦闘に使えるものにしてある。

 

幸い、箱に投げ入れる訓練は、何とかなった。両手で投げ入れる形だから、凄くかっこうわるいけれど。

 

何とか相手に当てられれば良いのだ。爆発さえすれば、ほぼ確実に仕留められる。

 

かつん、かつんと。

 

薄暗い中、足音が響く。見知ったはずのエルトナでも、この辺りは殆ど来たことが無い。

 

わたしは、足を止めた。

 

気付いた。

 

強い臭いがする。

 

鉱山の奥から漂って来るそれは。

 

球体状をしていて。

 

ずるずると体を引きずりながら姿を見せる。

 

浅黒く、多数の複眼が二つの目のように見えるそれは。

 

大量の触手がついていて。

 

体はわたしよりきっとおおきい。

 

誰でも知っている猛獣の一種、ぷにぷにだ。

 

外ではあらゆる場所で繁殖している恐ろしい猛獣。大きいものになると、城くらいになるものもいるという。

 

どこにでもいて。どこででも通用する。

 

それはこの猛獣が、如何に汎用性が高い生態を持っていて。完成度が高い生物であるかを、よく示していた。

 

どこから来るのかは分からないと言う話だけれども。

 

或いは湖から幼体が出てきて。

 

陸上で成体になるのかも知れない。

 

いや、今でさえ成体ではないのかもしれない。こんなに大きいのに。だって、一線を退いたお父さん達が相手にしているのだ。つまり外にいる奴はもっと強いのだ。

 

生唾を飲み込む。こんなに本物の猛獣は怖いのか。人を殺す事なんて簡単にできる猛獣でも、この大きさで、弱い方にはいるのだ。それも確実に。どれだけ絶望的な事なのか、よく分かった。

 

殺さなければ殺される。訓練であって訓練でない。

 

今、わたしは。

 

死と隣り合わせに立っている。

 

ぷにぷにが止まる。

 

獲物、つまりわたしを見つけたからだ。

 

足が震える。

 

ぷにぷにが口を開ける。鋭い牙がずらりと並んでいる。あんなのに噛まれたら、一瞬で死ぬ。触手も棘だらけで、擦っただけで怪我をする。実戦経験者のお父さんが毎回怪我をしている訳だ。

 

こんなのと肉弾戦をしているんだから。

 

わたしが知らないだけで、死んだ人もいるのではないのか。

 

咆哮。勿論ぷにぷにがあげたものだ。

 

ぷにぷにが、突貫してくる。

 

わたしは、どうしてだろう。相手が咆哮してから、驚くほど冷静になった。頭の中で、何か切り替わったのだ。

 

雑念を捨てろ。

 

これが最初にして最後の壁だ。

 

わたしはお外に行く。そしてお外を見る。

 

フラムを投擲。

 

完璧にぷにぷにの口に放り込む事に成功。

 

起爆のタイミングも完璧だった。

 

爆裂したフラムが、ぷにぷにを内側から、無茶苦茶に破壊。

 

ぷにぷにの巨大な全身から体液が噴き出す。

 

凄まじい悲鳴を上げてのたうち廻るぷにぷに。

 

飛び下がる。

 

必死に何か反撃してくるかも知れないし。

 

あのまき散らしている体液を浴びたら、どうなるか分かったものではないからだ。

 

慌てて、次のフラムを取り出すが。

 

一回取り落とした。

 

すぐに拾い直して、前を見ると、ぷにぷにが、触手を伸ばし。

 

地面に自分を固定していた。

 

あ、まずい。

 

そう思った時には。

 

全身ズタズタで。

 

内側から爆ぜ割れながらも、まだ生きているぷにぷにが。

 

触手をしならせていた。

 

殆ど反射的に体が動く。

 

わたしがいたその空間を。

 

ぷにぷにが抉り取るように突貫して。貫いていた。

 

岩が砕かれる。

 

なんだあれ。

 

大きさ以上のパワーだ。

 

あれで、まだまだ弱い獣なのか。

 

地面に転がったわたしは、体中痛いのを我慢しながら、歯を食いしばって立ち上がる。

 

そして、掴んだフラムの起爆ワードを唱え。

 

此方に振り返ったぷにぷにが、全身から体液をまき散らしながら。

 

触手を無数の足のように使い。

 

突貫してくるのを見た。

 

二度目だからだろうか。

 

どうしてか、凄く落ち着いていた。むしろ、静かに深呼吸する余裕がある程だ。

 

投擲。

 

触手で払おうとするぷにぷにだが。

 

その瞬間。

 

起爆。

 

炸裂したフラムが、ぷにぷにを今度は外側から焼く。焼き千切れた触手が吹っ飛び、更に外皮が爆ぜ割れる。

 

凄まじい悲鳴を上げながら転がり回るぷにぷにに。

 

わたしはもう一つ持ってきていたフラムを取り出すと。

 

冷静に起爆ワードを唱えた。

 

呼吸を整える。

 

さっき地面に飛び出したとき、凄くいたかったが。

 

多分今は戦いの最中で。

 

体が戦いになれてしまっているからか。

 

全然痛くない。

 

多分後から痛くなるんだろうなと思いながら。

 

フラムを投げた。

 

のたうち廻っているぷにぷにが、残った触手で飛び起きようとして、その結果。モロにそれを複眼の辺りで受け止めることになる。

 

そして、わたしは。

 

容赦なく起爆していた。

 

三度目の正直。

 

今度こそ、破裂したぷにぷには。

 

完全に散らばって。

 

そして動かなくなった。

 

油断するな。

 

自分に言い聞かせる。

 

周囲をまず見る。

 

まだ仲間がいるかも知れない。

 

フラムはそれなりの数持ってきた。すぐに取り出せるように準備をしておく。岩陰に隠れて、ゆっくり様子を窺う。

 

もう動かないぷにぷににも近づかない。

 

死んだフリをしているかも知れないからだ。

 

あんな機敏な動きを見せたのだ。

 

魔術を使う獣も外には珍しくないと聞いている。

 

獣だからといって。

 

バカだと思うと酷い目にあう。

 

それが現実だ。

 

呼吸を整えながら、痛みが戻ってくるのを感じて。思わず悲鳴を零しそうになる。

 

そうか、戦闘のために切り替わっていた頭が。

 

そうでない状態に戻った、と言う事か。

 

傷薬を取り出すと。

 

派手にえぐれて血がしぶいている腕に塗り混む。

 

岩だらけの場所に飛び込んだんだから、当然こうなる。皮が剥がれて、肉がめくれている場所もあった。

 

鮮血が噴き出している傷口も。

 

何度か目の調合で、30点を貰った傷薬を塗り混むと。

 

見る間に溶けるように傷が消えていった。

 

呼吸を整えながら、本当に凄いと感心する。

 

ソフィー先生みたいに、何の躊躇も無く自分の腕を切るような真似はわたしには出来ないけれど。

 

それでも、自分の薬を使う事を、戸惑うような真似はしない。

 

痛みが消えるまで、体を確認しつつ。

 

ぷにぷにの方を調べる。

 

問題なし。

 

完全に沈黙してから。

 

もはや動く気配はなかった。

 

念のため、もう一つフラムを放り込んでおく。

 

爆破して、更に飛び散るのを確認してから。獲物を収穫するべく、相手の所に向かう。

 

側で見ると凄惨だ。

 

水袋みたいな体の構造をしているぷにぷにだけれども。

 

それでも、体の中には内臓みたいなものがある。

 

リュックサックから、事前に渡されていたトングを取り出して。

 

灰褐色の液体を探る。

 

やがて、みつけた。

 

球体である。

 

ぷにぷに玉とはこれの事か。

 

脱水剤として用いるものらしいのだけれど。

 

とにかく強烈な脱水効果があるらしく。

 

調合ではとにかくお世話になるという。

 

頷くと、あるだけ回収する。

 

大型の個体の体内には。

 

強い魔力を秘めているぷにぷに玉が入っている事もあるそうだ。

 

もしそういうものを手に入れられたら。

 

きっと凄い道具を作り出すための道具になってくれるのだろう。

 

体液も集めておく。

 

これも使い路があるそうだ。

 

ある程度固まったものを集めるが。

 

どれもぷるんぷるんしていて。

 

そしてあまり良い匂いはしなかった。

 

回収が終わった後。

 

どっと疲れが来る。

 

歩いて、そのまま安全地帯まで戻る。

 

アトリエの前まで来ると。

 

隠れて見ていてくれたソフィー先生が、やっと顔を出した。

 

「お疲れ様、フィリスちゃん」

 

「酷い戦い、でした」

 

「集団戦になるともっと大変だよ? 味方へのフレンドリファイヤを避けなければならないからね。 その反面、優れた使い手が側についてくれていると、ある程度壁にはなってくれるけれど」

 

「そうなんですね……」

 

外の世界を書いた本には。

 

恐ろしい獣との戦いを書いたものもあったけれど。

 

それは勇壮で心躍るものだった。

 

それに関しては、嘘だと今はっきり分かった。

 

いや、何処かで嘘だと最初から分かっていた。

 

だって、今。

 

ぷにぷにも必死だったのだ。

 

獣として生きるために。

 

糧を得ようとして、襲いかかってきた。

 

狩りの練習として、弱い相手を嬲ろうとしたのは、むしろわたしの方。そんなわたしを返り討ちにしようと、ぷにぷには全力で襲いかかってきた。

 

死にたくなかったから。

 

生きて子孫を残したかったから。

 

其処には勇壮も何も無い。

 

生きるための必死の戦いが、其処にはあった。

 

勇壮で、格好いい勇者が剣を振るう世界なんてない。

 

わたしは確信していたかも知れない。

 

言われるまま、コンテナに戦利品を収める。アトリエの内部のコンテナも、あからさまに広さがおかしくて。

 

内部にはそれこそ、無数の棚があり。

 

しかもひんやりとしている。

 

いわれたまま、ぷにぷに玉を棚に置くが。

 

他にも無数のぷにぷに玉があった。

 

中には黄金に輝くものまであって。

 

魔術を使えるわたしには。

 

それが凄まじい代物なのだと、一目で分かった。

 

「凄い品ですね」

 

「ぷにぷにの最上位種の体の中にあるものだよ。 強い魔力があるし、これくらいのものになってくると、脱水剤としてではない使い方をすることも多いんだよ」

 

「やっぱり、凄く強いんですか?」

 

「さっきのぷにぷにが錬金術なしのフィリスちゃんだとすると、全盛期のグリゴリおじいさんくらいかな」

 

思わずひえっと声が出る。

 

グリゴリさんは、奥さんが悲しい事になった時、原因になった匪賊を単独で皆殺しにした使い手だ。

 

でもその時の経験から、すっかり心を病んでしまって。

 

戦いに自分は向いていないというようになり。

 

街の灯りを担当するようになった。

 

でも全盛期の実力は、それこそ匪賊の群れを全滅させるほどのものだった、ということで。

 

錬金術なしのわたしが、何人いても、全力で魔術を叩き込んでも、勝てる気がひとかけらもしない。

 

そうか、ぷにぷにでさえ。

 

そんなに恐ろしいのがいるのか。

 

「ぷにぷにはねえ。 あらゆる所に住んでいるんだよ。 水中を専門にしているものもいるし、幼体の頃に空に舞い上がって、空に適応した種族もいるの。 世界中のあらゆる場所で、見かけない事は無いくらいなんだ」

 

「すごいですね。 水の中とか、空の中とか、ソフィー先生は行ったことがあるんですか?」

 

「うふふ、どう思う?」

 

「ありそうです」

 

素直に言うと。

 

目を細めるソフィー先生。

 

あるのだろう。

 

どういう手段を使ったのかは分からないが、この人の驚天の実力を考えれば、いけない所の方が、むしろ想像できない。

 

コンテナから出ると。

 

ソフィー先生はコンテナに何か細工をしていた。

 

そしてもう一度開ける。

 

中には、さっきと同じくらいだけれど。

 

からっぽのコンテナがあった。

 

「えっ……」

 

「後で分かるよ。 いずれにしても、コンテナを使うときは、さっきみたいにやるって事を覚えておいてね。 お部屋の掃除はずぼらなあたしだけれど、コンテナの整理だけは本当に気を遣っているの。 何しろ危ないからね」

 

「はい。 気を付けます」

 

「素直でよろしい」

 

不意に。

 

視界が下がる。

 

どうやら、力を使い切ったらしく。

 

腰が抜けたようだった。

 

笑いも漏れない。

 

そのまま、ぐらりと視界が揺れる。

 

多分。横に転がったんだなと思ったけれど。

 

その直後にわたしは、意識を手放していた。

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