暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

91 / 150
凄まじい現実を叩き付けられ続け
それでもなんとか公認錬金術師になったフィリス
そして故郷に凱旋して錦を飾ったフィリスが見たのは

視野が狭い小娘の時には気付けなかったエルトナの腐敗と、大人達の閉鎖性、何よりも詰んでいる街の生々しい現実だったのです。


本職としての第一歩
序、帰郷


真相を知らされた時。兎に角苦かった。

 

こんなに真実は苦いものなのだと、わたしは知らなかった。わたしにとって外はわくわくする世界だった。少なくともエルトナに閉じこもっていた時はそうだった。

 

だが。外で全てを知った今。

 

同じように考える事は出来なかった。

 

帰路、口数は少なくなっていた。

 

お姉ちゃんは理由を知っていたのか。

 

それに対して、何も言わなかった。

 

或いは、お姉ちゃんも。

 

ソフィー先生に、何かされたのかも知れない。

 

それについて、触れる気にはなれなかった。

 

竜巻をわたしが主導して作った装甲船でまた越えて。

 

フルスハイムでパイモンさんと別れる。

 

パイモンさんの村についても、位置は聞いている。いずれ訪れることになるだろう。それからわたしは、ドナの方に抜け。更に北上してメッヘンに。そして西に進んで。つまるところ、行きとまったく同じルートで、エルトナに帰還した。

 

エルトナでは、既に城壁が作られ始めていて。

 

緑化作業も進展していた。

 

邪神がいる一帯は立ち入り禁止にし。

 

緑化した地点の内側に畑を作り。

 

鉱山の中に閉じこもっていた人達が、順番に外に作った家に移り住む段階になっていた。

 

だが、わたしが帰還した時。

 

あまり、エルトナは褒められた状態ではなくなっていた。

 

順番に家を作っているのに。

 

誰が先に鉱山から出るかで、激しく揉めていたのだ。

 

家は充分に作る余地がある。

 

家を作る資金も提供される。

 

そういう話が出ているのに。

 

一刻も早く鉱山から出たい。そう主張する人が怒号を張り上げていて。エルトナの内部は、昔の静かな状態では無かった。

 

呆れているのか。

 

ソフィー先生の連れて来た人達は、関与せずを決め込んでいるらしく。

 

外で黙々と作業をしている。

 

別に家が足りなくなる、何てことは無いのに。

 

今まで隠れていた問題が全て噴出し。

 

やはりエルトナで権力を持っていた人間の順番に、外の家を獲得し。それに対し、後回しにされた人は大いに恨んでいるようだった。

 

アングリフさんが呆れる。

 

「なるほど、これはまとめ役がいるだろうな」

 

「長老は高齢です。 それに……」

 

「まるでよどんだ風そのものだ」

 

レヴィさんがぼやく。

 

確かにその通り。

 

そもそもソフィー先生に見せられたとおり。

 

このまま行けば、エルトナは自滅以外の道が無かったのである。

 

外に出られるとなれば。

 

今まで溜まっていた鬱屈が、全て噴出する。それは目に見えていた。わたしはあまりにも無邪気だった。

 

現実は、こうも醜い。

 

それを直視できずにいた。

 

外に最初に出た時。

 

兎があまりにも想像と違った時点で、気付くべきだった。とことん、情けない話だが。わたしは子供そのものだったのだ。

 

頬を叩くと、考えを改める。

 

まず、一旦まだ外に家を持てていない人も。

 

家を既に外に持っている人も。

 

全員集まって貰う。

 

エルトナは街としては大した規模では無い。だからこそ、公認錬金術師が来たと言うことには、大きな意味がある。

 

ましてや街の出身者である。その意味は計り知れない。

 

「おい、あれがフィリスか!?」

 

「何があったんだ……」

 

ひそひそ声が聞こえる。

 

壇上に立つと、わたしは咳払い。

 

後ろには、アングリフさんが、威圧的に大剣を地面に突き刺して立っている。その隣には、明らかに常人には扱えないサイズの大斧を担いだドロッセルさん。

 

相談の末に。

 

敢えて威圧が必要だと判断した。

 

わたしの目が濁っていることにも、気付いたかも知れない。

 

エルトナの住民は、明らかに恐れを感じ始めていた。お父さんとお母さんは、動揺していないようだった。

 

或いはこうなることを。

 

何処かで気付いていたのかも知れない。

 

「フィリスです。 この度公認錬金術師になって帰還しました。 以降はこの街に「拠点を置いて」活動するつもりです」

 

敢えて拠点を置く、を強調する。

 

その時点で、鋭い人間は察したはずだ。更に分かり易くなるように、続ける。

 

「エルトナに暮らしていた時点で、知っていたはずです。 この街は自給自足するにはあまりにも足りないものが多すぎる。 この街は他の街との連携をし、新しく人を受け入れていかなければ近く自滅します。 新しい人を受け入れるためには、この街を発展させる必要があります」

 

睥睨する。

 

わたしの目が恐ろしく冷たいことに、流石にもう皆気付いている筈だ。

 

「わたしはライゼンベルグに行く途中で、多くの戦略事業に関わってきました。 この街を発展させることはさほど難しくないかと思います。 ただし、皆さんが新参者を拒んだり、自分勝手なことを言うならば、わたしにもこの街を発展させることは恐らく不可能でしょう」

 

はっきり言い切る。

 

青ざめている長老。

 

わたしが、立派になって戻ってきてくれるとでも思っていたのだろう。その立派は、自分に都合が良い、という意味で。

 

だが、小娘はいつまでも小娘じゃ無い。

 

「その場合はエルトナをわたしは見捨てます。 衰退に向かう街がどれだけ悲惨かは、皆身を以て知っているかと思います」

 

声はあくまで徹底的に冷たく。

 

そうしないと、この人達には。

 

言う事など聞かせられないからだ。

 

一呼吸置くと。

 

わたしは更に付け加えた。

 

「まずこの場の全員に家を提供する事は約束します。 ただし、以降の順番に関しては、わたしが決めます。 資産やら街での地位など関係ありません。 優先するのは、日光が必要な人です。 体が弱っている人、子供がいる人、これから子供が生まれる人」

 

家なんて、アルファ商会から派遣された人達が、資材を組み立てて順番に作ってくれているのだ。

 

そんなもので揉めるのなら。

 

最初からわたしが決める。

 

そしてわたしが見捨てたら、アルファ商会だって手を引く。

 

公認錬金術師が来るから、アルファ商会は此処に資金援助をしてくれているのだ。もしわたしが見捨てたら、この街は滅ぶ。

 

そして今のわたしは。

 

エルトナの住民では対抗不可能な、圧倒的な武力をひっさげて戻ってきた。

 

街の救世主として都合良くイエスマンになってくれると期待していた人達も多かったのだろう。

 

だがわたしは見てきた。

 

フロッケ村では、くだらないプライドで。歴代最年少公認錬金術師試験合格者の神童、キルシェさんが。長老達と対立していた。

 

いなくなれば立ちゆかないのに。

 

フルスハイムでは、先代の公認錬金術師が我欲のままに錬金術を悪用した結果。

 

後任のレンさんが俊英にもかかわらず後始末に追われ、何もかも後手後手に回ることになった。

 

ノルベルトさんだって被害者のようなものだ。

 

それなのに、自責の念から、酒に溺れることになった。

 

わたしは理解したのだ。

 

必要なのは、公平さと暴力だと。

 

考えて見れば、わたしは暴力によって道を切り開いてきた。

 

暴力は全てに平等だ。

 

勿論状況に応じてネゴシエイトは必要になる。

 

だが、武力無き者の交渉など、相手に好き勝手言わせるだけ。或いは交渉のカードがあればどうにか出来るかもしれないが。

 

わたしは暴力によって相手を屈服させることを選択する。

 

ただそれだけだ。

 

もう一回、わたしは睥睨する。

 

「では、次に出来る家の所有者を読み上げます。 以降、誰から外に家を持てるか、順番は全て頭に入っています。 変更の予定もありません」

 

実際には頭に入っていない。

 

ツヴァイちゃんが覚えている。

 

なお、お父さんとお母さんはかなり後の方になる。

 

健康だし。

 

何よりわたしは、家族だって特別扱いするつもりはない。

 

わたし自身も、そもそもしばらくはエルトナ内部にアトリエを置くつもりだ。個人的には、安全がほぼ確保できている外よりも。エルトナ内部の地底湖から出てくる猛獣が気になるのである。

 

そして、告げる。

 

「そして、住民の引っ越しが終わり次第、エルトナは埋めます」

 

「なんだと……」

 

「理由は二つ。 エルトナの湖には、強力な猛獣が多数住んでいます。 水源が確保できた以上、猛獣が住み着いている湖から水を汲みに行く現状を維持する必要はありません」

 

そもそも、水汲みだって、複数の大人が命がけでやっていたのだ。

 

そんな悪習を続ける必要はない。

 

更に、もう一つの理由は切実だ。これは帰ってきてから、急いで状況を確認した。そして結論も出ている。

 

「もう一つの理由は、見境無く坑道を掘り進めた結果、エルトナのある鉱山は資源も枯渇し、何よりそのままだと崩落の危険があります。 みんな生き埋めになりたいですか?」

 

わたしには鉱物の声が聞こえる。

 

それはエルトナの全員が知っている事だ。

 

わたしは、更に冷徹に告げる。

 

「反論は認めません。 現状のエルトナにある設備は全て外に移します。 その後、発破で街の跡地は爆破、エルトナは以降露天掘りをする事になります。 簡単に言うと、山をまるごと上から掘り崩していくことになります」

 

地底湖は壊滅するだろうが、どうせ中にはロクなものがいないだろうし、それでいい。

 

死滅しろ。

 

それがわたしの素直な気持ちだ。

 

ソフィー先生に、見せられた。

 

ソフィー先生が介入しなかった場合のエルトナの未来。

 

あの時、湖から上がって来た獣は、歴戦の錬金術師と仲間でも、対応出来るか分からないような奴らばかりだった。

 

それだったら、エルトナごと生き埋めにしてやる。

 

それだけだ。

 

「ライゼンベルグに向かう途中で、わたしはドラゴンを倒しました。 もしも逆らうつもりなら、そのつもりで掛かって来なさい」

 

以上で演説を終える。

 

長老は死人のような顔色をしていた。

 

解散とアングリフさんが叫ぶと。

 

あからさまに怯えたエルトナの者達は、戻っていった。

 

アングリフさんは、頭を掻きながらぼやく。

 

「帰って早々、故郷の最悪な有様を見る事になるとは、ついてねえなあお前さんもよ」

 

「アングリフさん、ドロッセルさんと一緒に暴動が起きる兆候が無いか見張りをお願いします」

 

「ああ、それはやっておく」

 

「お願いします。 それと、カルドさんには頼みたい事があります」

 

カルドさんも頷く。

 

ただ、静かに、だった。

 

カルドさんは、先ほどの演説に、驚いていたようだった。

 

無邪気だったわたしの変貌ぶり。

 

確かにドナで道作りに協力していた頃は、わたしもまだ無邪気でいれたかも知れない。

 

だが匪賊の実態を知り。

 

ドラゴンの脅威を知り。

 

何より未来の有様を知った今となっては。

 

もはや無邪気な小娘ではいられない。

 

「活版印刷に関して、必要な設備をリストアップしてください。 もしも出来るようなら、人員の誘致についても考えます」

 

「活版印刷か。 これは考えたね」

 

「それと、学校を作るつもりです。 教員をお願い出来ますか」

 

「!」

 

アングリフさんが、驚いて顔を上げる。

 

そして、わたしはアングリフさんに言う。

 

「校長をアングリフさんにお願いしようと思います。 各地で孤児になっている子や、何かしらの理由で暮らしていけない子を養う施設も兼ねようと思っています」

 

「お前、それは……」

 

実は、アングリフさんに、前聞いた事がある。

 

アングリフさんは、実のところ年齢的にも現役としては限界が近い。ましてや近接戦闘系の傭兵ではなおさらだ。

 

アンチエイジングも受けていない。

 

そして資金は充分に持っているのだから、その気になれば引退もできるし、悠々自適に老後も送れる。

 

そうせず、未だにお金を貯めているのには理由があるのか、と。

 

アングリフさんは答えた。

 

学校を作るのが夢だと。

 

傭兵は掃きだめの世界。

 

子供の頃から殺し合いを経験し、獣や匪賊と戦う事しか知らない奴がたくさんいる。子供のうちに、何も楽しみを知らずに死んでしまう奴も多い。

 

そんな奴を少しでも減らしたい。

 

傭兵以外に行き場がないような奴を減らすためにも。

 

知識を身につけるための学校を増やしたい、と。

 

ならば、この街を発展させる過程で。

 

アングリフさんに頼みたい。

 

「現時点ではまだ無理ですが、この街は地下から出る事で、周辺の山から豊富に鉱物資源を取り出すことが出来るようになります。 資金源については心配しなくても大丈夫だと思います。 いずれ、機会が整ったら……お願い出来ますか?」

 

「ああ、ちょっと今は辺鄙だが……」

 

「もしも発展が遅れるようなら、フルスハイムでレンさんに頼んでみます」

 

「まあ其処までは気にしなくていい。 だが、その場合には頼むぜ」

 

さて、次だ。

 

まず、ソフィー先生が派遣してきてくれている人達と話をする。近いうちにティアナちゃんが来るが、あの子は監視役であって、現場指揮官では無い。

 

わたしが戻ってきたと聞いたからか。

 

アルファ商会の者らしいホムと。

 

背の高い魔族が来た。

 

かなりソフィー先生の関係者は忙しいらしいので、何度も人員が交代しているらしく。

 

今此処で現場を見ているのは、この二人だそうである。

 

ホムはイプシロンさん。

 

魔族はキマリスさんというらしい。

 

まずは、二人に今後の計画図を見せてもらう。

 

邪神がいる地帯に対して壁を作るのはわたしも賛成だが。この山岳地帯の出口に城壁を作ると言うと。

 

黄色という珍しい体色をしている魔族のキマリスさんは、顔を上げた。

 

なおこの人は魔族としてはかなり変わっていて、頭から生えている角が放射状になっている。

 

魔族は角が人によってかなり違うのだが。

 

いずれも寝る時には苦労するらしいと聞いている。この人は、特別製の枕を使っているのかも知れない。

 

なお女性の魔族戦士である。

 

背丈は他の魔族と同じで、ヒト族の倍もあるが。

 

「街を其処まで拡大するのか」

 

「いえ、街を此処まで現時点で拡大する予定があると言う、強気の姿勢を見せておくんです。 今後この街を拡大するためには、強気の姿勢が必要です」

 

「ふむ、なるほどな」

 

「悪くは無いと思うのです」

 

イプシロンさんはいう。

 

なお此方は男性のホムだが。左目は眼帯をつけていた。

 

おしゃれでは無いだろう。

 

実際、左を補うような動作を時々している。何かの事故で、左目を失ったと見て良い。

 

「アルファ商会には、此方から薬と爆弾を提供します。 資金援助での支援をお願いいたします」

 

「それについては問題ないのです。 貴方の腕については、早馬で既に聞いているのです」

 

「……分かりました」

 

後は都市計画について。

 

わたしが力尽くで今後の住民の引っ越しの順番について決めたことを、二人は絶賛していた。

 

実際問題、閉鎖集落の最悪な部分を見せつけられて、うんざりしていたのだろう。

 

良くやってくれたとまで、キマリスさんには言われた。

 

ちょっと其処まで褒められると、心苦しい。

 

わたしとしても、話し合いで解決できるならそうしたかったが。それでは解決しない事の方が多い。

 

それはライゼンベルグに行く道程で。

 

散々思い知らされたからだ。

 

打ち合わせを終えると、働いている人達の様子と物資を確認。

 

自動で動く荷車と、飛行キットを提供。

 

飛行キットに関しては、アルファ商会に完成品を売る事にする。これについてはライゼンベルグの庁舎にもレシピを納品しているし。わたしの特許品だ。ただし、戦略物資として扱うべきという話もした。

 

まあ量産はどうせ出来ないし、それでいいだろう。

 

わたしはライゼンベルグで錬金術師の実態を見た。

 

恐らく、公認錬金術師でも、今までわたしがあって来た人は優秀な部類。それも極めて。

 

オレリーさんレベルになるとほぼ存在せず。

 

大半はドラゴンと戦う事なんて想像も出来ない人の筈だ。

 

それならば、今のわたしは。

 

公認錬金術師として通じる。

 

そして、ソフィー先生に通告された半年間。

 

この間に、わたしが此処を留守にしても大丈夫な態勢を作り上げなければならない。

 

やる事は山積している。

 

飛行キットと、極限まで改良した自動荷車については、キマリスさんも喜んだ。そして実際作業効率は何倍にも翌日から上がった。

 

エルトナに帰ってからも。

 

わたしは休む事など出来ず。誰にも文句を言わせないため、働き続けた。

現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。

  • このままでいい
  • 一日で一章がいい
  • 更に分割して欲しい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。