暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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2、破壊の炎

メッヘンまで何度か行き来して、街道をどう作るか決定。元々街道の残骸のようなものはあったが、それから少しずれることになる。また、緑が多少はある地点は、全て避けながら緑化する。元からある植物を傷つける事は論外だからだ。

 

つるはしが軽い。

 

装備品で強化しているとは言え力が強くなっているし。何より使い慣れているからだ。

 

エルトナの方は、新しく追加された人員に任せる。後、カルドさんにツヴァイちゃんをつけて、進捗を確認して貰った。

 

足りない物資はすぐにわたしが調合するか調達する。

 

家の建設はピッチが上がっていて。

 

現時点では、もう後二ヶ月もすれば、エルトナの全住民が日の下で暮らせるようになる目処もついていた。

 

ただ、数日前から雨が続いている。

 

今も雨が降っていて、メッヘンでの水害を思い出して、少しばかり気が重いが。それでも街道の緑化作業は粛々と進めていく。

 

事前に杭を立てておいたので、それに沿ってまず硬化剤を撒く。

 

これに関しては何度も何度も作った事もあって、品質はもはや折り紙付き。わたしがつるはしを振るっても、簡単には壊れない。

 

その後、その両端を耕す。

 

人海戦術で行きたい所だが、そうも行かない。戦士が護衛できる人数には限度があるし、何よりこれはかなりの重労働だ。

 

農具を体の一部のように使いこなしていたオスカーさんが特例なのであって。

 

わたしは彼処まではやれない。

 

ただ、わたしは鉱物の声が聞こえるから。

 

耕すのは苦にはならなかった。

 

お姉ちゃんとレヴィさん、アングリフさんとドロッセルさんには周囲の護衛をお願いし。借りている戦士十名と共に、予定地点の土を耕していく。

 

栄養剤を入れた後、以前オスカーさんに貰っておいた、最初に撒く草の種を植え込んでいく。

 

雨も降っているし、二日もあれば芽を出すはずだ。

 

かなり深くまで耕すのを、戦士達は不審がっていたが。

 

これは、この街道を完全に安全な場所にするため。

 

周囲を森にするのだと説明すると、納得してくれた。

 

いずれにしても、ソフィー先生が貸してくれた戦士達だ。皆逞しいし、力仕事には充分な実力を発揮してくれる。

 

以前、地獄のようなライゼンベルグ近辺での緑化作業をやったのだ。

 

あの時に比べれば、簡単も簡単。

 

だから、身体能力が落ちないように。

 

わたしは敢えて作業量を増やし。

 

徹底的につるはしを振るった。

 

その結果分かる。

 

上がっている身体能力と。

 

更に冴えて聞こえるようになった鉱物の声もあって。

 

とにかく作業がやりやすい。

 

つるはしも、エルトナに戻ってから、実はハルモニウムに作り替えた。ドラゴンの鱗から作り上げたつるはしも同じで。恐らく杖で殴るよりも数段殺傷力が高いはずだ。生半可な獣なんて、脳天を殴れば顎の下まで容易く貫通するだろう。

 

溶かしたバターのように土が軟らかい。

 

だから、その分どんどん掘り進む。他の人が遅れている分も、わたしがどんどん作業をしていく。

 

体力は旅の間に嫌でもついた。

 

そして、鉱物の声を聞く事も、前よりも更に真摯に出来るようになった。

 

予想より前倒しを重ねて、土を耕していき。

 

やがて後方は、青々と草が茂り始めていた。

 

栄養剤はしっかり効いている。

 

一旦掘り進むのは止めて、草を刈り。火をつけて燃やす。そして灰になった草を土に混ぜ込んで、今度は木の種を植える。木だけでは無く、比較的育つ易い草も一緒に植えていく。

 

この辺りの案配は、オスカーさんが身近で見せてくれたのを覚えた。

 

区画を決めて、順番に作業を進めていく。

 

戦士達は疲れが見えてきているが。

 

人員を変えて作業を急ピッチで進める。

 

ドロッセルさんが、あくびをしているのが見えた。ちょっと皆も戦力を落とさない工夫が必要か。

 

その日の夜。

 

わたしはアトリエで、皆とミーティングをする。

 

エルトナの方は大丈夫だ。カルドさんがしっかり確認をしてくれている。それに、アルファ商会と交渉して、活版印刷に必要な機械類も集めて来てくれているそうである。ツヴァイちゃんも、それにあわせて、数字の管理をしっかりしてくれていた。

 

それを聞き終えた後。

 

わたしは皆に告げた。

 

「ペースを上げます」

 

「ちょっと、今でも充分すぎる程のハイペースでしょ。 予定よりかなり前倒ししていない?」

 

「実は少し体力に余裕を感じています。 皆もそうではないですか?」

 

口をつぐむドロッセルさん。

 

図星を指されたと顔に書いている。

 

分かり易いけれど、今大事なのはそこでは無い。

 

「ペースを上げることで、監視する面積がより広くなります。 当然、それなりに気を張らなければならなくなります」

 

「確かに、強めの獣はあらかた片付けたからな。 ただ、いざという時に備えてはくれよ」

 

「それは勿論」

 

わたしの方でも、幾つか考えている。

 

義手義足を開発する過程で、拡張肉体の研究を更に進めていたのだけれど。

 

どうやらその結果、ある程度上手く行きそうなものが出てきているのだ。

 

体力に余裕があるので、掘り進めるのを進めながら、色々アイデアを出し。

 

夜の余った時間を使って、研究を進めていた。

 

その結果、近づいた獣をオートで狙撃してくれる道具が出来そうなのである。

 

キルシェさんが使っていたものが近い。

 

いわゆる自律思考型の拡張肉体だ。

 

ただ暴走を避ける為にも調整が絶対に必要で。

 

まだ完成は先になる。

 

「わたしがコネを確保したメッヘンまでの街道を確保できれば、更にエルトナは安全度を増すことが出来ます」

 

「匪賊の流入はどうする。 奴ら、この辺りからは一掃されていると聞いているが、発展している街があると聞くと何処にでも現れるぞ」

 

レヴィさんが真面目な口調で言うので。

 

わたしは頷く。

 

それについても考えがあると。

 

実は昨日、ティアナちゃんが来た。

 

相変わらず愛くるしい笑みを浮かべていたが。

 

この子が匪賊を鏖殺している事は知っている。

 

そして今は、何食わぬ顔をして、エルトナで戦士達に混じって周囲の警戒をしてくれている。

 

あの子がいる限り。

 

匪賊は来るだけ死ぬだけだ。

 

お姉ちゃんが髪を掻き上げた。

 

滅多に見せない行動だが。

 

少しストレスが溜まっているのかも知れない。

 

「そろそろ櫓を建てるので、お姉ちゃんは其処から見張りをお願い」

 

「分かったわ。 それにしても、少し急ぎすぎではないかしら」

 

「……実は、フルスハイムで用事があって、作業を急いでいるの」

 

皆の視線が集まる中。

 

わたしは咳払いした。

 

「フルスハイムの竜巻の原因がはっきりしました。 湖底に潜んでいるドラゴンで、今はある理由から弱体化しています。 次の仕事は、このドラゴンを撃破する事。 猶予はまだありますが、相手は弱体化しているとは言え上級。 戦いに備えるために、エルトナで出来る事は、今のうちに全て片付けます」

 

「……そうか。 どこからそんな情報を?」

 

「わたしに旅の切っ掛けをくれた人からです」

 

「そうか」

 

アングリフさんが嘆息する。

 

多分アングリフさんは気付いている。

 

わたしの様子がおかしくなっている事に。

 

その原因が、深淵を覗いたことにも。

 

「分かった。 フルスハイムの竜巻はどの道放置出来ねえし、そういう事情があるなら仕方がねえ。 それに話してくれたって事は、お前が俺たちを信用してくれていると言う事だ。 どうやって湖底まで行くかはわからねえが、それはお前が考えるんだろう、フィリス」

 

「はい。 何とかします」

 

「分かった、それなら体が鈍らないように、多少無理な哨戒任務を気合い入れてやるとするか」

 

アングリフさんの鶴の一声で。

 

皆も意見が一致したようだった。

 

後は解散とする。

 

その後、少しツヴァイちゃんに残って貰った。

 

「ツヴァイちゃん、まだ前線で戦いたい?」

 

「はい。 フィ……お姉ちゃんの役に立ちたいのです」

 

「分かった。 近々、ツヴァイちゃんが戦えるように道具を用意するね」

 

「嬉しいのです」

 

表情に乏しいホムだから、ツヴァイちゃんの顔にあまり変化は無いけれど。

 

それでも、嬉しいと言うのだから嬉しいのだろう。

 

後は、アトリエで休むとする。

 

どうしてだかは分からないけれど。

 

ソフィー先生に現実を見せられてから。

 

どんどん力がついてきている気がする。

 

勿論ライゼンベルグまでの旅で、下地が培われたのは事実だろう。これについては疑う余地もない。

 

だけれども、その後が異常だ。

 

勿論努力を重ねているから、というのもある。

 

だけれど心の何処かが凍り。

 

破壊への渇望も強くなった。

 

これから放置していれば来る、いやソフィー先生ほどの人が介入してもどうにもならなかった滅び。

 

それに対処するために。

 

多分わたしは、体が自発的に進化したのだ。

 

深淵を覗くのはそのトリガーに過ぎない。

 

勿論まだ進化の過程なのだろうけれど。

 

いずれはソフィー先生を、最低でも得意分野だけでも超えなければならない。無理かもしれないが、最低でもそのくらいの目標を掲げなければならない。

 

わたしは破壊という手段だけで行くつもりだ。

 

だがソフィー先生は、最悪の場合どんな手段でも採る。それが、この間話して頭に叩き込まれた結論。

 

それならば、ストッパーが存在しなければ。

 

下手をすると、あの人に世界そのものが蹂躙されてしまうかも知れない。

 

多分邪神でさえ、今のソフィー先生にはかなわないはずだ。それも単独でソフィー先生は対応出来るレベルだろう。

 

そんな規格外中の規格外が、本気で何かとんでも無い事を始めた時。

 

命を賭ければ止められる。

 

それくらいの力は必要になってくる。

 

眠る。

 

睡眠時間も、必要な時間がどんどん減っているのをわたしは感じている。

 

分かる。

 

いずれわたしは。

 

人間とは呼べない存在に。

 

そう、ソフィー先生のような存在に。

 

なっていくのだろうと。

 

 

 

翌朝から、街道構築作業の更なる加速を宣言。

 

労働する人も増やすが。彼らも本職の戦士だ。流石に哨戒任務の人間が少なすぎるのでは無いのかと、疑問を呈してきた。

 

わたしは朝礼で答える。

 

「現時点で近辺にネームドは確認されていません。 此処にいる戦士なら対応出来る獣しかいません。 よって、作業は更にハイピッチで進めても大丈夫、と判断します」

 

「哨戒任務に当たる人間が少なすぎやしませんか」

 

「近々見張り櫓を建てますので、大丈夫です」

 

「そういう問題かよ……」

 

誰かがぼやくのが聞こえたが。

 

別にかまわない。

 

わたしが十人分土を掘り返していくのは、此処で働いている人達皆が知っている。なお今後は、わたしが二十人分土を掘り返すつもりだ。

 

その日は特に問題は起きなかったが。

 

翌日、前方で獣を発見。

 

小型のグリフォンだが、お姉ちゃんが矢を番える。そしてぶっ放す。

 

今のお姉ちゃんは、わたしが帰路も改良した装備で身を包んでいる。その矢は文字通り破壊的だ。

 

小型のグリフォン程度、ライゼンベルグ近辺で散々倒した。

 

今のも、一撃で喉から後頭部に矢が貫通。

 

何が起きたか理解出来ていない様子で。

 

グリフォンは倒れ伏し、二度と起き上がらなかった。

 

お姉ちゃんは、むしろ不満そうにした。

 

「流石にこの弓でもそろそろ力不足ね」

 

「オイオイ、マジかよ……」

 

「三人、解体作業に参加してください。 コンテナに解体後は運び込んでください」

 

「おう、分かった」

 

ここに来ている戦士達は、みんな荒野での戦闘経験がある人ばかりだ。

 

すぐにお姉ちゃんの行う解体作業に加わる。

 

わたしはその間。

 

抜けた三人の分も土を掘り返し。

 

今日分の予定地点まで掘り進んだところで、後方に戻り。成長した草を刈り、燃やす。後方では低木が順調に育っており。少しずつ、森が確実に此方に向けて出来上がっているのが分かる。

 

これでもオスカーさんに比べるとかなり手際が悪いが。

 

あの人は植物特化で声が聞こえるようだし。

 

多分錬金術師としても素養がある人だ。

 

延焼しないように火を管理し。

 

そして、灰を土と混ぜ合わせる。

 

少し焼く場所とそうで無い場所の境目の草が焦げてしまったので、ごめんねと声を掛けた。

 

此処に植える草も、いずれは錬金術の材料としても使えるし。周囲の緑だけでは無く、土地の保水力を高める役目も果たすのだ。

 

獣の凶暴性も抑えるし。

 

ドラゴンによる攻撃も緩和できる。

 

栄養剤は、散々今までネームドを殺してきたこともあって、充分足りている。このまま行けば、特に問題は無い。

 

だが、こういうときが一番危ない。

 

解体が終わり、コンテナに獲物を回収し終えたのを確認してから、作業に戻る。後一日くらいで、メッヘンが遠くに見え始める筈だ。

 

そうなれば。メッヘンへの安全な鉱物輸送と、取引が出来るようになる。

 

アルファ商会とも取引は既にしているが。

 

メッヘンの方でも直接買い付けに応じてくれれば、それだけ取引先が増える。価格などは、わたしが交渉する。鉱物の相場は知り尽くしているので、何ら問題は無い。

 

問題は無い、筈だ。

 

夕刻まで作業を進め。

 

アトリエに戻ろうとした、その時だった。

 

殆ど本能的に危険を感じて飛び退く。

 

戦士達が働き、安全地帯になっている場所を通って。

 

知らない男が、一人。

 

足音も無く、近寄ってきていたのだ。

 

すぐにそいつはアングリフさんが組み伏せたが、ナイフを手にしており、わたしを狙っていたのは明らかだった。

 

わめき散らす男。

 

かなり恰幅が良く、少なくとも実戦経験はありそうだ。

 

アングリフさんが抑えているが、興奮しており、会話は成立しそうにない。そのまま頭を叩き潰すか。

 

そう思ったが。

 

男が気になる事を言った。

 

「フィリス=ミストルートだな! お前が殺した一家の仇、取らせて貰う!」

 

「その一家というのは何ですか」

 

「アズヴァマール一家だ!」

 

「聞いた事がありません」

 

男が喚く。

 

嘆息すると、抑えるようにアングリフさんに言ってから。頭を直接覗き込む。匪賊のアジトを特定する時に散々やったことだ。

 

今更何も思わない。

 

そうすると、おかしな光景が流れ込んでくる。

 

男が一家と呼んでいたのは、どうやら何処かの傭兵団らしい。匪賊では少なくともないようで、普通に護衛任務を行っている。

 

それを、誰かが殺した。

 

この男は、皆殺しにされた「一家」の一員で、各地を傭兵として渡り歩いていたようだが。

 

殺しの場に残っていた幾つかの証拠から。

 

わたしに違いないと判断し、ここまで来たようだ。

 

男がわたしが犯人だと断定した根拠は主に三つ。

 

その一家惨殺事件が起きたのが、わたしがフルスハイム東に辿りつき、オスカーさんと協力して緑化作業を始めた直後。

 

その近くで起きたらしい。

 

そんな事件が起きたのなら耳に入っても良さそうなものなのだが。その時期、周囲で匪賊が大騒ぎしていて、かなりの小競り合いが起きていたそうだ。故に耳に入らなかったそうである。アングリフさんは知っていた。

 

もう一つの根拠が、匪賊にしては手口が鮮やかすぎる事。

 

確かに歴戦の傭兵団が、匪賊程度に遅れを取って一方的にやられるとは考えにくい。

 

そして最後だが。

 

わたしが飛行キットを使って、匪賊を殲滅する様子を見ていたらしい。

 

それ以降、隙をうかがっていて。

 

エルトナにまで辿りつき。暗殺をしようと考えたらしかった。

 

それら全てを覗いたことを口にすると、男は口から泡を飛ばして叫んだ。

 

「裁きを受けろ、邪悪なる錬金術師フィリス!」

 

「いえ、犯人はわたしではありません。 わたしはその時、近くで緑化作業に従事していました」

 

「証拠はあるのか!?」

 

「そうですね。 今わたしがやった事を、貴方にもします」

 

興奮している男に。

 

丁度その一家惨殺事件が起きた時のわたしの記憶を見せる。

 

道具を使えば誰にでも出来る。

 

そして今なら、ある程度絞り込んだ記憶も見せられる。

 

前後二日ほどの記憶を。

 

男に流し込む。

 

わたしはフルスハイム東で、イルメリアちゃんとパイモンさんと共同し、強力な獣と戦いながら、四苦八苦しつつ緑化作業を行っていた。オスカーさんもそれに協力していた。

 

男は幻覚だ、と叫んだが。

 

今のは男にしか見せていない。

 

それを告げた後。皆に証言して貰う。

 

多少の記憶の食い違いは出るが、それでもほぼ全員の証言が一致するのを見て。

 

流石に男も黙り込んだ。

 

やがて落ち着いてきた男は。

 

どうやら、勘違いであったらしい事を認めた。

 

項垂れている男を、押さえ込んだままアングリフさんがぼやく。

 

「殺人未遂だがどうする」

 

「不問で」

 

「……そうか、良いんだな」

 

「わたしは匪賊とは違います」

 

そう、わたしは違う。

 

匪賊とも。

 

これから匪賊と同類にまで墜ちる連中とも。だから、この男を殺す事は絶対にしない。

 

一つ気になるのは。

 

その惨殺事件についてだ。

 

犯人の心当たりがない。

 

ソフィー先生は、残酷だけれども、基本的に利害を中心に動いている。無意味な殺しはしないだろう。匪賊が相手だったら文字通り情けも掛けず容赦もしないだろうが、傭兵団を殺すとは考えにくい。

 

ではティアナちゃんは。

 

見せられた記憶の中で、ティアナちゃんは文字通り草でも刈るかのように匪賊を殲滅していた。

 

傭兵団に対して同じ事をすることは極めて容易だろう。

 

更に、ティアナちゃんは明らかに殺戮を楽しんでいる様子もあった。

 

だが、みていて良く分かったが。

 

ティアナちゃんは、恐らくソフィー先生の命令で、敵をなぎ倒している。自主的に殺して回るような事はしていないはずだ。

 

そうなると、誰が傭兵団を皆殺しにした。

 

これは、ちょっと早めに解決しなければならない案件だろう。

 

解放された男は、疑って済まなかった、と頭を下げる。

 

わたしも殺され掛けたとは言え、気持ちは分かるので許すことにした。

 

代わりに、詳しく話を聞く。

 

わたしは破壊の力を使って生きていくと決めたとは言え。

 

必要のないものまで破壊するつもりはない。

 

皆には作業に戻って貰うが、ちょっと聴取がいる。側にはお姉ちゃんだけ残って貰い、話を聞いていく。

 

まず男の名前から。

 

ディーンというそうだ。

 

頷くと、疑問点を一つずつ確認する。

 

「まず、そもそもわたしはそれほど派手に活動していなかった筈です。 誰からわたしの名前を聞きました?」

 

「いや、あんたの活躍はかなり有名だったぜ。 フルスハイムに逃げ帰った錬金術師が、ガキなのにすげえのが働いてるって酒場で騒いでたからな。 フルスハイムでも、ばかでかい装甲船を作った奴がいるって話題になっていやがった。 多分フルスハイムで、もうあんたを知らない奴はいないと思う」

 

「……」

 

そうか、自覚は無かったのだけれど。

 

頷くと、次だ。

 

傭兵団が全滅していた状況について確認する。

 

「一方的にやられたようだった」

 

「死体はどんな感じでした。 殺され方について確認させてください」

 

「はあ?」

 

「もしもわたしが知っている超一流の使い手による犯行だと、首を一太刀。 死体も残さないと思います。 一流の使い手だったら、死体は急所を一突き、或いは両断されたりしていると思います」

 

冷静にわたしが言うのを聞いて。

 

男が徐々に青ざめてくる。

 

わたしが年齢通りの経験を積んでいない、つまり青臭い小娘ではないと感じ始めたのだろう。

 

わたしがやった事は聞いていても。

 

修羅場をくぐりにくぐってきたことを、どうにも実感できていない様子だ。

 

「い、いや、襲われたのが一目で分かったし、死体も残っていた。 キャンプの一部が壊されていて、櫓で見張っていた奴は射殺されていた。 死体は戦おうとした奴が七割くらい、残りは背後から斬られていた。 苦しんで死んでいたようだった」

 

「そうなると、複数に襲われたと見て良さそうですね。 リア姉、何人くらいに襲われたと思う?」

 

「傭兵団の規模が二十人ほどという話だし、それを下回ることはないでしょうね。 或いは、もし傭兵団が薬でも盛られていたのなら、同人数以下でも出来るかも知れないわ」

 

「……ありがとう。 ちょっと考えて見る」

 

となると。

 

犯人は、少なくとも実行犯は十中八九匪賊だろう。

 

傭兵崩れや自警団としてやっていたが、犯罪に手を染めて街を抜けた人間が匪賊化する例はあるという。

 

こういう匪賊は戦闘知識を持っていたりするので厄介だ。

 

しかし、近くに匪賊の聖地とまで呼ばれた峡谷があったとは言え。

 

そもそも事件が起きた時には、橋が落とされていたし。

 

どうも気になる事が多い。

 

ディーン氏を残して、ティアナちゃんの所に行く。

 

ティアナちゃんは手をぱたぱた振って満面の笑顔で出迎えてくれたが。

 

話をすると。

 

すっと真顔になった。

 

「ひょっとして私を疑ってる?」

 

背筋が凍るかと思った。

 

やはりこの子、今のわたしから見ても化け物クラスの実力者だ。ソフィー先生が監視につけるわけである。

 

「ううん。 ティアナちゃんだったら、もっと綺麗にやるだろうし」

 

「分かってるね! 嬉しいな!」

 

「……それで、心当たりは?」

 

「あの辺りの匪賊でそんな腕利きいたかなあ。 そもそも追い込んだ連中以外は、みんなソフィー先生に言われて殺したけれど……私に反撃できたくらいの奴は殆どいなかったよ」

 

そうか。この子は、匪賊を殺すか、ソフィー先生の麾下で戦う事しか考えていないんだな。

 

それがよく分かった。

 

ならば、仕方が無い。

 

ちょっと遠出になるし、スケジュールも遅れるが。

 

これは早めに解決した方が良いだろう。

 

空飛ぶ荷車をくみ上げる。

 

そして、アングリフさんに、後の作業指示を頼んだ。

 

「数日留守にします」

 

「あん? あの男の言っていた事を調べるのか?」

 

「はい。 匪賊なら兎も角、傭兵団が全滅したという事件を放置は出来ません」

 

「まだフリッツが残っていたら何か分かったかも知れないんだが、彼奴はもうアダレットに行っただろうしな。 ペースは落ちるが、後の作業については俺も分かってるし、進めておく」

 

ありがとうございますと頭を下げると。

 

お姉ちゃんと、レヴィさん。それにカルドさんについてきて貰う。これは空飛ぶ荷車運用の基本人員であると同時に調査が得意だろうから、だ。

 

ツヴァイちゃんはお父さんとお母さん、それにドロッセルさんに任せる。

 

アトリエは持っていく。

 

何が必要になるか分からないからだ。

 

その代わり、キャンプの天幕に必要と思われる道具類を残していく。緑化作業の再編成については、アングリフさんに一任した。

 

ディーンさんについては、不問に付すとは言え、一応殺人未遂だ。

 

アングリフさんに預かって貰う。

 

「数日、留守にします。 後はお願いします」

 

「出来るだけ急いで戻って来いよ」

 

アングリフさんがヒラヒラと手を振るので、わたしも頷くと。

 

更に改良を進めた空飛ぶ荷車で、一気にフルスハイムを目指した。

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