暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ 作:dwwyakata@2024
メッヘンまでは危険も無く。ドナまでは森が概ね守ってくれる。途中何度か小物の獣に襲撃は受けたが(主にアードラに)、いずれも今の状態では敵にならない。全て撃墜してから解体。さっさと回収して、先を急いだ。
ドナの先は街道があるので、何も問題はなく。
フルスハイムまで辿りついたのは、半日後だった。
空路だとこんなに早いのかと、わたしは驚かされるけれど。
まずは、レンさんの所に出向く。
もしも情報を知っているなら、この人だろうからだ。
レンさんの所に行くと、カイさんとメアちゃんが来ていた。他にも何名かフルスハイムの重役らしい人がいる。
会議の最中だったらしい。
わたしを見て手を上げて挨拶してくるカイさん。
他にも何人か重役が来ている様子からして、私的な用事ではないだろう。メアちゃんは遊びに来ただけのように見えるが。
「お久しぶりです」
「久しぶりですね。 此処に来ていると言う事は、公認錬金術師になれたようですね」
「はい。 その節は有難うございました」
「それで、何か急ぎの用事ですね」
頷くと、話をする。
フルスハイムの重役達も、そもあの装甲船を作る立役者の一人がわたしで。発案、材料の確保までやった事は全員知っている。
今何の会議かは分からないが。
少なくともわたしの邪魔は出来ないと判断したのか、黙り込んでいた。
「傭兵団が一つ全滅……そういえば装甲船が出来た直後に、そのような事件が起きていましたね」
「オリヴィエが調査に当たっていたな」
「私が呼んでこようか?」
「ああ、頼むぜ」
気を利かせて、メアちゃんが使いぱしりをしてくれる。
わたしはその間に、状況も説明していく。重役達にも、話を聞いて貰う必要があると判断したからだ。
他人事では無い。
そんな事をやった犯人、それも間違いなく集団か、その背後には権力者がいるだろう。
それが野放しになっている可能性があるのだ。
ほどなく、オリヴィエさんが来る。
峡谷の方の守りは、既にグラオ・タールに引き継いでいるという事もあって。フルスハイムに戻ってきていたらしい。
挨拶を済ませると、オリヴィエさんはすぐ本題に入った。
「フィリスどのの所にアズヴァマール一家の生き残りが行ったのですか。 確かにあの男、血眼になっていたし、もう少し抑えておくべきでしたね」
「いえ、それは良いんです。 それよりも、何か調査で分かりましたか?」
「恐らく襲撃したのは匪賊だろうとは思うのですが、それにしては妙なところが目立ちますね。 まず匪賊なら、獲物を放置してどうして逃げたのか。 そもそも彼らが狙うのは弱者です」
「それがわたしも気になっていました」
そう。匪賊が狙うのは、あくまで食用としての人間だ。
傭兵団なんてまとまった武力。
わざわざ狙うとは思えない。
例えばグラオ・タールを狙ってはいたようだが。
それは防衛戦力さえ潰せば、後は街の人間を殺し放題食い放題だからだ。
基本的に弱者に対しては際限なく凶暴に、強者に対しては逃げ惑う。それが匪賊という存在である。
ピカレスクロマンなどというのは幻想に過ぎない。
「調査で何か分かりませんでしたか?」
「ううむ、集団による襲撃であるという他には何も……。 一方的な戦いにはなったようですが、それはそもそもアズヴァマール一家が酒を入れていたというのも理由のようですし」
「! 詳しくお願いします」
「フルスハイム東で得た証言なのですが、何でも賞金が掛かっていた匪賊を討伐したとかで、まとまったお金が入った直後だったらしいんです。 そのお金で酒を振る舞っていた様子で……見張りが潰された後は、後は殆ど普段の武勇も発揮できず、一方的な奇襲を完全に許したようですね」
考え込む。
商売敵の傭兵団による凶行という線も考えたのだが。それはどうも考えにくい。
いくら何でもリスクが高すぎるからだ。
そうなると、強めの酒を敢えて渡し。
そして奇襲を匪賊にさせた奴がいる。
「わたしがフルスハイム東に渡って仕事をしている時期に、まだ活動していた匪賊の集団はありましたか? 勿論峡谷からこちら側で」
「ええ、存在していました。 既に消滅していますが」
「……何という集団ですか?」
「どう名乗っていたかは分かりませんが、フルスハイム東から見て、かなり北の荒野を根城にしている連中で、峡谷の橋を落とされて右往左往していたようです。 結局立ち往生していたようですが、いつの間にか皆殺しにされた様子で、居場所を特定して根拠地に踏み込んだ時には血の跡だけが残っていました」
なるほど。多分そいつらが犯人だ。
犯人である匪賊達を斬ったのはティアナちゃんで間違いないだろう。
規模を聞くと、十五人ほどという。
ならば、酔いつぶれた傭兵団を奇襲したのであれば。勝つこともできただろう。
そうなると気になるのは、どうして「ごちそう」を放置したのか。
それと、恐らく故意に強い酒を渡した奴は何者なのか、だが。
「お酒の話ですが、仕入れたのはフルスハイム東の商人ですか?」
「そうですが、急速にフルスハイム東に人が集まっていたのはフィリスどのも知っているかと思います」
「……一つ、聞きたいのですが。 ソフィー先生は、今この街に?」
「ええ。 宿に滞在していますよ」
なるほど、それならば多分犯人は突き止められる。
礼を言うと、レンさんのアトリエを後にする。
そして、メアちゃんのお店に入っていた本をあらかた購入。
更に、お店で幾らか足りない物資を仕入れていくと。
宿に直行した。
多分、これで。
犯人を突き止めることが出来る筈だ。
わたしの予想なら。
既に実行犯は全員。
ティアナちゃんに殺されている。
その証拠を、ディーンさんに見せてやればそれでいい。
そして恐らくだけれども。
ソフィー先生なら、それが可能だろう。
宿に到着すると。
ソフィー先生がいる部屋に行く。
わたし一人で行ったのは、面倒な事態を避けるためだ。お姉ちゃん達には、下で残って貰った。すぐに話は終わると言って。
先生は一番大きい宿の、一番良い部屋を取っていて。以前会ったプラフタさんという綺麗な女性と一緒にいた。
ただ、部屋の奥は何だかおかしな扉が置かれていたが。
「おや、フィリスちゃん。 まだ指定期日までは時間があるけれど?」
「一つお願いしたいことがあります」
「なあに? 内容次第だったら聞いてあげる」
まず、傭兵団が全滅させられた事件について説明。
そして、確認する。
「恐らくですが、犯人はまだフルスハイム東の北にいた匪賊の集団です。 その首は、ティアナちゃんが保管していると思います」
プラフタさんが眉をひそめ、ソフィー先生を見た。
ソフィー先生は涼しげに笑う。
「うふふ、それで?」
「死体の記憶を引き出す方法について知りませんか。 レシピのヒントだけでも」
「それなら、わざわざあたしに聞かなくても、見聞院で調べられるよ。 ヒントだったら、霊とのアクセスかな」
「……分かりました」
霊、か。
実際には諸説あるらしいけれど。死人の魂なりなんなりが、この世に残って人間に害を為す存在。
わたしも何回か見たけれど。
死者の霊と会話する事が出来る人は、大体違う事をいう。
多分みんな見えているものが違っていると判断して良いだろう。
ならば、記憶を覗く道具と。
魔術を併用するのが早い。
見聞院に出向く。
そして、カルドさんに協力して貰って、霊との対話についての魔術を片っ端から調べた。見聞院はどの時間でも空いているらしく、日付が変わった頃になっても、もう帰れとは言われなかった。
レヴィさんが咳払いする。
「あー、フィリスよ。 そろそろ休まないと、よどんだ風のように体を痛めるぞ」
「殺人犯が野放しになっている可能性があります。 恐らく既に死んでいるとは思いますが、確証が欲しいんです」
「フィリスちゃん、無理をしては……」
「大丈夫、リア姉。 終わったら一休みするから」
二人も見かねたか、手伝ってくれる。
ほどなく、資料は集まったが。
既に更に半日が経過していた。
資料をメモした後、すっとんでエルトナに戻る。
本番は。此処からだ。
エルトナに戻った後、すぐにカルドさんと協力して、魔法陣をくみ上げる。
普段尋問用に使っている術を、死体にも活用するものだ。
記憶を吸い上げるのだから、相手の意思は関係無い。
これを組むまで半日。
更に、既存の道具を改修するのに更に半日掛かった。ここら辺は、組み込む魔法陣を変えるだけなので問題は無い。
「それでどうするつもりなんだい。 襲撃されたアズヴァマール一家の亡骸もないし、襲撃者の死体も残っていないんだろう?」
「それについては、考えがあるので大丈夫です」
「君は今まで根拠無くそういう事を言わなかったから信用するが、それにしても不安だ」
「……大丈夫です」
二度、繰り返す。
カルドさんの不安もよく分かるのだ。
わたしはそもそもこれから。
恐らく禁断の扉に踏み込む事になる。
ティアナちゃんの所に行く。によによしているティアナちゃんに頭を下げる。
「お願いがあるんだけれど」
「んふふ、何?」
「……ティアナちゃん、恐らく殺した匪賊の首を保存しているよね」
「なんでそう思う?」
以前、峡谷で匪賊と戦った時。
アングリフさんが調査した。
その時に、最大規模の匪賊の拠点跡で。
普段より大量の血の跡が残っていたが。
それ以外の拠点では、極端に血の跡が少なかった。
そして、その最大規模の匪賊の死体、正確には胴体は。他の匪賊の集団の拠点前に、串刺しにして晒された事が分かっている。
匪賊を駆除した時に、記憶を覗いたからだ。
ティアナちゃんは、わたしとは別の方向で、完全に深淵に浸かってしまっている。それくらい危険な状態だ。
あの胴体だけの死体。
ソフィー先生が時を操るなら、そんな面倒な事はしなくても良い。
ティアナちゃんが首から上を持っていき。
そしてソフィー先生が首から下を活用した。
そう考えるとつじつまが合う。
それにソフィー先生とティアナちゃんがつながっているとして。道具の提供を受けて死体を始末しているのなら。
そもそも本来なら斬る必要さえなく。
血の跡さえ残らないはずだ。
つまりティアナちゃんは、匪賊を駆除する時に。
首を切りおとしてコレクションにしている。もしくは、何らかの活用をしている。そう判断していい。
問題は、切りおとした首を食べたり何かの儀式に使ってしまっていた場合だが。
ティアナちゃんの殺し方から感じるのは、匪賊に対する強烈な憎悪だ。
多分同じ事はしないと見て良い。
儀式に使う可能性はあり得るが。
その場合は、一旦線が切れてしまう。
ともあれ、首から上を持ち去っている根拠を、順番に列挙してみせると。ティアナちゃんは、本当に無邪気に笑った。
心が凍りかけているわたしでさえ、寒気を感じるほどに。
「うん、それだよ。 フィリスちゃん、いいなあ。 ソフィーさんにやっちゃだめって言われてるけれど、私の部屋に閉じ込めたいなあ」
「襲撃を行った匪賊のグループについては特定出来ているの。 条件を言うから、その中の一人でも首が残っていたら少しだけ見せて」
「うーん、どうしようかなあ」
「何をすれば良い?」
勿論、こんな危険な子と、まともに交渉をすることがどれだけのリスクを伴うかは、わたしもわかっている。
この子は抜き身の剣、それもあからさまに人の血を求め続ける魔剣も同じだ。
前にレヴィさんが言っていたのだが。
普段の言い回しとは違って、真面目に口にしていた。
剣士の中には、あまりにも凄い剣に魅入られて、人斬りになってしまう者がいるのだと。この子は、それの亜種。
それより更にタチが悪いタイプだ。
「匪賊を駆除するの手伝って、と言いたいところだけれど……まあいいや。 次、結構大きな仕事あるんでしょ? それについていく。 敵の首から上は私が貰って良い。 それでどう?」
「……分かった」
「じゃ、待っていてね。 すぐに持ってくるから。 でも、大事な宝物だから、丁寧に扱ってよ」
声が低くなる。
本当にティアナちゃんが大事に扱っていることが分かった。
程なく、箱詰めされたものが持って来られる。
首領の、だという。
何でもティアナちゃんは、既に四桁に達する匪賊を斬ったらしく。そいつらの首には、ソフィー先生に貰った特殊な薬品を使い。腐らないように、更には状態も変わらないように処置をしているという。
匪賊は駆除するしかない。
それでも、嬉々として語るティアナちゃんの目は、ソフィー先生ほどでは無いにしても濁りきっていたし。
わたしもこんな風に濁りはじめている事は理解しているから。
とても悲しかった。
だけれど、世界は変えなければならない。
そのためには力がいる。
濃厚な狂気を眼前にしながらも。
踏みとどまらなければならない。
これくらいの狂気に耐えられなければ。世界を変える事なんて、到底不可能なのだから。
箱を持って、アトリエに戻る。
お姉ちゃんが腰を上げる。
そして、ツヴァイちゃんを連れて、席を外してくれた。
アングリフさんに来て貰い。
箱を開ける。
何が起きたか分からない様子で、そのまま死んだらしく。
半笑いの状態のまま、腐っていない生首が、其処にあった。
「知っていますか、この人」
「いや、知らん。 少なくとも有名な匪賊ではないな。 今殺してきたのか?」
「いいえ。 ちょっと伝手を辿って、既に殺されているのを入手してきました。 アズヴァマール一家を殺した直接の下手人は恐らくこの人が率いる匪賊のグループである事は間違いありません」
「伝手か……」
鼻を鳴らすアングリフさん。
ティアナちゃんである事は、何となく分かっているのかも知れない。
アングリフさんも歴戦の中の歴戦。
ティアナちゃんがどれだけヤバイ血の臭いを放っているかは、一目で理解出来るのだろうから。
立ち会いの下、記憶を確認。
生きている匪賊に使っているように、記憶を吸い出すが。
どうも見える光景が曖昧だ。
確かに守りを固めているアズヴァマール一家とやらを襲撃している光景が見えてくる。他の情報は。
誰かに金を渡されている。
匪賊を利用している商人がたまにいるという話は聞いているが。
まて。
そういえば、フルスハイムの先代公認錬金術師。
確か、匪賊と癒着していたと聞いている。
その息が掛かっている商人なら。
会話は聞こえないか。
解像度を上げるが。
どうも声が聞き取りづらい。
そして、かなり魔力を消費して会話を確認したが、分かってきたのは、金を貰って傭兵団を攻撃した。
それだけだった。
だが、商人の顔は確認できた。
この顔。見覚えがある。
フルスハイムで仕事をしていた時に見た。
確か、ドナ経由で来たアルファ商会の隊列に対して、苦い顔をしていた。
襲撃の後について、どうして傭兵団の人達を食べなかったのかも調べる。
そうすると、妙だ。
最初、奇声を上げてメシだメシだと喜んでいるのに。
不意に静かになると、その場を揃って逃げ出しているのである。何か切っ掛けがあるのか。
一旦道具を止める。
魔力の消耗が激しい。
生きている人間相手にやるのも大変なのだ。
ましてや此奴らの記憶は、それこそ狂気と悪意に満ちている。匪賊になると、徐々に精神の構造も人間と変わっていくため、直接覗くと精神に大きな負担がかかるし、傷も出来るのだ。
呼吸を整え、一休み入れる。
それから、レヴィさんが無言で作ってくれた食事を口に入れる。
甘いお菓子も作ってくれていた。
有り難い。
頬を叩いて気合いを入れ直すと。
もう一度だ。
先の、襲撃後の情報を確認。
逃げ腰になる時に。
伝令らしい若い匪賊が叫んでいる。
何々一家がやられた。鏖殺だ。血の跡だけが残されていて、全滅してる。
それを聞いて、震えあがった匪賊達は。
文字通り獲物を放り出して、転がるように逃げ出した。
そして巣に逃げ戻るが。
其処には、一瞬だけ写っていた。
にこにこの笑顔を浮かべたティアナちゃんの姿が。
手にしている剣は、紅いオーラを纏っているが。あれは多分だが、とんでもない技術で作られた魔剣なのだろう。
文字通り、手に取る者を人斬りへと駆り立ててしまうような。
いずれにしても、記憶はそれで途切れた。
呼吸を整えると。
今の映像を全て移し替える。
この記憶を皆で見られるようにする処置については、今まで少しずつ研究してきた成果だ。
どうしても口で説明しなければならないので、伝言ゲームになりやすい。
それだったら、映像を保存して、いつでも見られるようにすれば良い。
魔術では似たようなものがあるし。
道具と組み合わせることで、映像を何度でも再現出来るようにするのは、それほど難しくなかった。
これで、下手人は分かった。
後は、吐かせるだけだ。
ディーンさんも呼んで、映像を見せる。
後ろ手に縛られていたディーンさんは、映像を見ると、怒りのあまり叫んだ。仲間が殺されていく様子を見て、気分が良い筈もない。更に、金を渡して殺すようにそそのかしている様子を見て、怒らない筈もない。
殺してやる。
叫ぶディーンさん。
止める気は無い。
逃げられる前に、さっさと本人を確保する必要がある。
この場はアングリフさんに任せる。
今のペースだと、前倒しで進めていた緑化作業は、充分順調に進んでいる。わたしが二十人分働いていた穴は、人員を増やすことで賄っているし。今の時点で大きな問題も起きていない。
再度、フルスハイムへと急ぐ。
途中で暴れ出さないように。
ディーンさんは縛ったまま、アトリエに入れて。空飛ぶ荷車を最大速度で、フルスハイムへと飛ぶ。
まず、映像は皆で共有している。
フルスハイムに到着後、お姉ちゃんとレヴィさんは、即座にマーケットに飛んで貰う。前にあの商人を見かけたのはマーケットだ。
わたしはカルドさんと一緒にレンさんの所に行く。
レンさんは今日は一人で。
黙々と何かの調合をしていたので。
調合が一段落してから、映像を見せる。
案の定、レンさんはこの商人を知っていた。
「この人は……」
「わたしも見た事があります。 今もフルスハイムにいますか?」
「ええ。 ただ、ライゼンベルグに商売の拠点を移すつもりだと口にしていると聞いていましたが……」
「フィリス、僕は港の方に回る。 君はレヴィさんとリアーネさんと合流を」
頷く。
レンさんも、その場にある武器にしているらしい杖を手にとると、カルドさんと一緒に港へ。
アトリエを飛び出すと、二手に分かれた。
お姉ちゃん達と合流。
マーケットに商人の姿はないという。
そうなると、何かで嗅ぎつけて逃げ出したか。港へと急ぐ。途中。大きな馬車を見かけた。急いで追いつくと、アルファ商会だった。謝って、すぐに次に。港の手前。相変わらず囂々と凄まじい音を立てて竜巻の余波が猛威を見せているその中。
その商人の馬車と。
カルドさんと、レンさんが、対峙していた。
「これはレンどの。 どうなさいました」
「黙りなさい。 貴方と匪賊とのつながりがある証拠が出てきました。 逃がすわけにはいきません」
「ははは、何を馬鹿な」
余裕を見せているヒト族の良く太った中年男性の商人だが。
レンさんの様子を見て、多分問題事だろうと判断したのか。
近くにいたオリヴィエさんが数名の部下と共に、商人を取り囲んだ。その様子を見て、商人は青ざめ。鯰髭を振るわせて、抗議した。
「む、無抵抗なわしに何をする!」
「レンさん、オリヴィエさん、此方の画像を」
「!」
オリヴィエさんの顔が見る間に怒りに染まる。
レンさんも、顔から表情が消えた。
商人は完全に青ざめると、頭を振るが。オリヴィエさんは、部下に確保、と叫び。商人は縛り上げられる。
勘が働くのが少し遅かった。フルスハイムから逃げられるところだった。
まあ、ライゼンベルグまで逃げていたとしても。その時はその時。わたしは絶対に逃がさなかったが。
馬車はその場で押収。
荷物の確認はオリヴィエさん達フルスハイムの自警団に任せる。
そして、役場に移動し。
重役達の前でも、映像を公開。
この時点で、商人はもはや言い逃れが出来なくなった。
重役達だって、全員が善人でも聖人でもないだろう。だが、それでもこれは、あまりにも目に余る光景だった筈だ。皆、純粋な怒気を発しているのが分かった。
「あの恥知らずの先代めの残党が残っていたと言う事か。 ハラワタが煮えくりかえる」
「許せぬ。 カンヴァー、貴様……!」
「やかましい! 貴様らだって、臑に一つや二つ、傷くらい持っているだろう! 商人だったら金を稼ぐのが……」
商人が黙ったのは。
わたしが、ディーンさんをアトリエから出して、連れてきたから。
そして、言い訳をするカンヴァーという商人を、ディーンさんが全力で殴ったからである。
話が聞こえていたらしいディーンさんは、文字通り炸裂するような怒気を顔に滾らせていた。今の拳も、下手をすると首を折りかねなかった。
「殺す!」
「待って、ディーンさん。 まだ情報を引き出す必要があります」
「拷問か? 俺にやらせろ! 道具なんかいらねえ、指も髪の毛も全部引きちぎってやる!」
「いえ、そんな非効率な事はしないです。 記憶を全部引っ張り出します。 その方が、拷問より残酷だと思いますよ。 勿論その後は処刑です。 尊厳を全て奪った上での死……その方が嬉しくありませんか?」
わたしは一切表情を動かさず、匪賊に使う、記憶を覗く道具を出す。ディーンさんは、それで黙り込んだ。
それを見た商人は青ざめ、そして逃れようと無様な悲鳴を上げたが。
即座にお姉ちゃんが床に組み伏せる。
わたしの道具で武装しているお姉ちゃんだ。弓の威力を見るまでも無く、こんな一般人、それこそその気になれば細い枝でも折るようにどんな骨でもぽきり、である。
記憶を容赦なく覗き。
その場で映像化する。ありとあらゆる全ての悪行をだ。拷問では引き出せないものも引き出せるし。恥部も全て晒されることになる。
時系列をあわせて、確認。そして、真相は分かった。
現在本作は一章分の内容を二日に分けて投稿しています。このペースについて意見をお聞かせください。
-
このままでいい
-
一日で一章がいい
-
更に分割して欲しい