暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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故郷の真の姿を見て帰郷したフィリスは最早そこを帰るべき場所ではないと悟るのでした。

フィリスに退路はなくなります。
後は先に進むしかありません。


水陸の壁
序、通じる道


ついにメッヘンへの緑化作業が完了。道がつながり、安全に通れるようになった。

 

メッヘンの側でも喚声が上がったし。

 

作業を終えた人夫達や戦士達も喜びの声を上げた。

 

獣にもドラゴンにも破壊されることなき安全な道。勿論獣は「大人しくなる」程度であるし、匪賊は襲ってくるが。それでも他に比べると全然マシ。

 

わたしがエルトナに戻ってから二ヶ月半が経過していたが。

 

色々な作業も並行していたし、それで此処までやれたのなら充分すぎる程だろう。

 

ディオンさんと握手する。

 

そして、エルトナの長老にも来て貰い。

 

メッヘンの長老と、契約の書類にそれぞれサインをして貰う。

 

契約の内容は、わたしとディオンさんが書き下ろし。

 

更にはそれをアルファ商会と話あって確認。

 

カルドさんとお姉ちゃんにも目を通して貰って。

 

それで通した。

 

重役達にも話はしたが。

 

内容の変更はしない。

 

誰もが得をする契約内容にしたのだ。

 

特定の誰かだけが儲かる内容では無い。

 

エルトナもメッヘンも足りない物資が相互に補い合う事が出来て。その利益が皆に行き渡る。

 

その契約内容にするまで、随分苦労した。

 

特定の誰かだけに甘い汁は吸わせない。

 

それについても内容を練り込んだ。

 

特権階級の出現は街の腐敗と瓦解を招く。それはわたしが、実際に見てきて知っている。だからそうはさせない。

 

わたしだって、家を地上に移したのは一番最後。

 

奴隷同然に扱われる人や。

 

異常なお金持ち。

 

そういった存在は出してはいけないのである。

 

長老はどちらも不愉快そうだったが、ハンコを押す。これで契約は成立だ。錬金術で、契約書を保全。途中で書き換えを出来ないようにする。そして、内容については、完全に複写。

 

集まっている住民の前で読み上げる。

 

拍手がわき起こったが。

 

甘い汁を吸えないと分かっている重役達は、苦虫をまとめて噛み潰しているようだった。

 

努力すれば、それだけのお金が儲かる。

 

そういう社会は正しいだろう。

 

だが金を持っていれば何をしても良いという社会は間違っていると断言できる。

 

この間起きた事件。

 

ディーンさんの遭った悲劇を見ても。

 

それは確実だ。

 

わたしはそんな現実があったら。

 

根本から徹底的に。痕跡も残さず破壊し尽くす。泣こうが喚こうが絶対に許しはしない。それだけだ。

 

皆が戻った後、ディオンさんと話をする。

 

「いやはや、助かったよ。 これでメッヘンは鉱物資源をもっと容易に手に入れられるようになる。 水害の危険も著しく減っているし、本当にこれで街は良くなるね」

 

「ただ、それを聞いて匪賊が来る可能性があります。 自警団の強化を自主的にお願いします」

 

「ああ、そうだったね。 儲かっていたり、発展していると彼らは来る。 嘆かわしい話だけれど……」

 

悲しげに眉をひそめるディオンさん。

 

更に、わたしは提案する。

 

「此処から東に行くとフルスハイムです。 わたしがこれから、時間を掛けてフルスハイムへの街道を作ろうと思うのですが、ディオンさんは他の街への街道を整備していただけませんか?」

 

「東って、正気かい!? あっちは人間が入れる場所じゃ……」

 

「フルスハイムには、現状ドナを通らないといけない状況です。 ドナまでは比較的安全に進めますが、恐らくフルスハイムと此処の直通路が出来れば、更に安全性を高めることが出来ると思います」

 

「ドラゴンを倒したという話は聞いているが、それは……心配だね」

 

実のところ、わたしにはもう一つ狙いがある。

 

以前ドナのオレリーさんと話したのだが。フルスハイム周辺のインフラは思いの外貧弱なのだ。

 

湖の水運に頼りきりだった、というのが最大の要因なのだけれど。

 

今後、オレリーさんはドナから周辺へ緑化とインフラの拡大を進めていく事だろう。

 

わたしの方でも、今回のメッヘンとフルスハイムの直通路作成については、オレリーさんとも相談しておくつもりだ。

 

こういう事は、周辺の有力都市と協力した方が良い。

 

そしてまだ時間はある。

 

東に緑化作業を進めれば、恐らく相当な数の獣と戦う事になる。ネームドもたくさん現れるだろう。

 

フルスハイム西、つまり此処から東は殆ど人跡未踏。

 

逆に言うと、徹底的にネームドを駆除し。更に安全な道を作り上げれば。

 

近辺の半分孤立している集落への街道などの計画を立ち上げられるかも知れないのである。そういった可能性も秘めている極めて重要な戦略事業だ。

 

「わかった。 エルトナには多く今人が流れ込んでいるようだし、メッヘンとしても力を蓄える機会だろう。 そうだね、西への街道がちょっとまだまだ安全性に欠けるから、それを此方でどうにかしてみるよ」

 

「強力なネームドなどが出るようなら連絡願います。 片付けますので」

 

「頼もしいね。 その時はお願いするよ」

 

もう一度礼をして、その場を離れる。

 

一度エルトナまで戻る。

 

その日は見張りは立てるものの、好きに宴会をして貰う。何しろ一大事業ががっつり完成したのだ。

 

流石に子供だけでメッヘンにいける、と言うほど安全ではないにしても。

 

森林資源に安全な道が確保出来たのだ。

 

エルトナにとっては非常に大きいことである。

 

更に、既にエルトナの全住民が地表に住居を移している。

 

最後の最後の方まで後回しにされた重役達はわたしを不愉快そうに見ていたが。正直そんなことはどうでも良い。

 

家庭の境遇を嘆いていた幼なじみや。

 

苦しい生活をしていた家族が、嬉しそうにしている。その成果の方がずっとわたしには貴重なことだった。

 

アトリエをメッヘン近くのキャンプに建てる。

 

これから東に、フルスハイムへの直通路を作る事。

 

途中にいるネームドは皆殺しにする事。

 

厄介そうな獣も皆殺しにする事。

 

これらを告げてから。

 

わたしは一度、アトリエに入る。

 

ディオンさんに話を聞いて来たのだ。

 

メモをまとめておきたい。

 

メッヘンでは、水害にずっと悩まされ続けて来た。このため、ディオンさんが独自に水害の研究をしていた。

 

今回、その研究の一部を買い取ってきたのだ。

 

わたしも色々考えて見るつもりだが。

 

他の人の研究を覧るというのは、違う視点でものを見る事でもあるため、非常に勉強になる。

 

実際見聞院で読んだ本が、どれだけ役だったか知れない。

 

更に、この間メアちゃんのお店に入っていた本も確認。

 

これらの調査は。

 

フルスハイム東の湖に入るための準備だ。

 

湖の底にドラゴンがいるとして。

 

泳いで戦うのは自殺行為である。

 

ならばどうするのか。

 

まず湖を知らなければならないし。

 

場合によっては爆弾を沈めて相手を湖面まで引きずり出す必要が生じてくる。

 

また、更に場合によっては、何かしらの手段で湖に入り。

 

湖底で限定条件下でドラゴンとやり合わなければならない。

 

力はソフィー先生が押さえ込んでいるという話だったけれど。

 

それでも相手は上級だ。

 

以前戦ったドラゴネアより弱いとは思えない。

 

準備はしすぎるほどしても、足りないほどなのである。

 

もう一つ、やっておくことがある。

 

エルトナの処理だ。

 

エルトナの地下街は、以前予告したとおり埋めてしまう。

 

既に全員の引っ越しが完了。

 

現在は、残された資材などの回収作業を行っている段階だ。緑化が一段落したこのタイミングで、ソフィー先生が貸してくれた戦士達は全員、その作業に従事して貰っている。住み慣れた街を埋めるのは辛いという声もあるにはあった。

 

だが、地下に戻りたいと言う声は皆無だった。

 

そしていつ崩落してもおかしくない地下都市を、残しておく意味もまた皆無だ。

 

ならば、埋めてしまうことには、何ら問題もないのである。

 

説得はした。

 

感情的なしこりは残っているが。

 

それは我慢してもらうしかない。

 

メモをまとめる。

 

腕組みした。

 

まずドラゴンの居場所を確認しなければならない。渦の中心の底、だったら話が楽なのだが。

 

ドラゴンは普通に強力な魔術を使う。

 

下級でさえ、である。

 

ドラゴネアとやり合ったとき、翼に強力なシールドを展開して、守る様子を見せていた。

 

上級ともなれば、それこそもっと複雑な魔術を使って来ても不思議では無いだろう。知性が無いとか言う話だが。

 

それでも魔術は使えるのだ。

 

そして次に、攻撃手段。

 

もぐって戦うにしても。

 

爆雷を落として引きずり出すにしても。

 

素潜りは論外。

 

戦うためには、幾つも準備がいる。

 

ディオンさんの研究をチェックしていくと。どうやら空気の泡を固定して、川に入る研究をしていたらしい。

 

途中で頓挫してしまっているのだけれど。

 

これはアイデアを出すまでで力尽きてしまっていて。

 

研究をする時間がなかったから、のようだ。

 

何しろ水害に苦しめられていたメッヘンだ。ディオンさんの負担は尋常では無かっただろう。

 

だったら、わたしが研究を引き継ぐ。

 

いずれにしても、水中に入るのに、これは有用かも知れない。

 

幾つか調べていく。

 

まず今息をしている空気だけれども。

 

密閉した部屋にいると苦しくなるし。

 

何より密閉した部屋で火を熾しっぱなしにすると、酷い場合には命を落とすこともある。

 

つまり空気には鮮度があると言う事だ。

 

色々な資料を確認し。

 

そして空気を閉じ込めるための仕組みについて考えて行く。

 

例えば、自動荷車を逆さにするような感じで、空気を閉じ込めるのはどうか。

 

荷車を硝子などで作って、それでもぐるのである。

 

空を飛ぶのとは逆の要領で。

 

キット化して、湖底に行くのだ。

 

だが、この場合。

 

水の中に住んでいる巨大な獣たちとの戦闘が非常に厄介になる。しかも、水の抵抗は相当に厳しい。

 

釜でいつも中和剤を作る時にかき混ぜているから知っているが。

 

錬金釜で液体を混ぜるのでさえ、結構腕が疲れるし、肩が凝るのだ。

 

大きなものを水の中で走らせる場合。

 

相当な苦労が必要になるだろう。

 

それならば、自在に動くのでは無く、いっそのこと道を作ってしまうのはどうか。

 

しかし、資材を投入したとしても、大型の獣を相手にして、攻撃を防ぎ抜く壁を造りながら、湖底に潜り、周囲を確認するというのは現実的ではないように思える。

 

試行錯誤を繰り返し。

 

色々な案を出しては消しているうちに。

 

食事に呼ばれた。

 

皆で食事にしながら、アイデアを話す。

 

前にイルメリアちゃんやパイモンさんと一緒にやっていたときも、こうやってアイデアを出し合うことはあった。

 

そして話をしてみると。

 

相手が素人だとしても、案外役に立つ情報が出てくるものなのである。

 

アングリフさんが、案について一つずつ難点を述べてくれる。

 

流石に歴戦の傭兵。

 

こういう状況ではこう戦いにくい、というのを。

 

すらすら教えてくれた。

 

或いは水中での戦闘も、経験したことがあるのかも知れない。

 

「前に魔術で、大きな空気の泡を固定して、水の中に入った魔術師を知っている。 ただし、すぐに逃げ帰ってきたが」

 

「何となく分かります。 水の中の生き物の戦闘力が尋常では無かった、ですよね」

 

「その通りだ。 わかってきたではないかフィリスよ。 ふはははは」

 

何故かアングリフさんのした話に、嬉しそうな対応をするレヴィさん。

 

呆れながら、ドロッセルさんは言う。

 

「荷車を硝子で作ると脆くて話にならないだろうし、そうなると所々覗きマドみたいな感じで、水中に潜れて周囲も確認できる箱にしてみたら?」

 

「水中に住む獣が大型過ぎるんですよね……」

 

「そっか、確かに荷車だと小さすぎるね」

 

「だったらあの装甲船を沈めてみたら? あれなら、獣程度全然問題にならないでしょう?」

 

お姉ちゃんの一言が。

 

わたしを我に返らせる。

 

そうか、その手があったか。

 

ただ、あの装甲船は、現時点ではフルスハイムのインフラの要。変な改造をして、台無しにしてしまったら、それこそフルスハイムにとっては致命打になる。

 

沈めるか。

 

その場合、浮かぶ仕組みも作らなければならない。

 

まず最初に、あれと同規模の船を作る。

 

フルスハイム東の湖の獣たちも、あの規模の装甲船には仕掛けてこないことが分かっている。仕掛けて来たとしても、撃沈は無理だ。

 

次に船の周囲を空気で覆う。

 

これは出来るだけ大規模な方が良いだろう。

 

船の周囲を確認する術を作る。

 

ドラゴンがいた場合は、出来るだけ早く逃げる必要がある。下級でさえ、ブレスはあの火力だった。

 

水中なら当然威力は落ちるだろうが。

 

それでも直撃したときのことは考えたくない。

 

まて。

 

イルメリアちゃんの使っていたシールドを、炉に接続したらどうだろう。

 

イルメリアちゃんの強い魔力を直接増幅して展開していたシールドでも。吐血するほどのダメージと引き替えではあったが、それでもドラゴンのブレスを一度は防ぎきる事に成功しているのだ。

 

それならば、恐らく。

 

よし。

 

幾つかやる事が決まった。

 

まずフルスハイムに行って、レンさんと相談。

 

続けてイルメリアちゃんの所に行って、シールドのレシピを買う。出来ればイルメリアちゃんに協力して貰いたい所だが、今村の復興で大わらわだろう。

 

問題は攻撃手段だが。

 

これについては考えがある。

 

あれだけの大出力の炉があるのだ。

 

利用しない価値は無い。

 

更に此奴を錬金術で増幅してやれば、それこそ湖の温度が一気に変わるくらいの火力での攻撃だって可能なはずだ。

 

そういう意味では、パイモンさんから雷神の石のレシピを買うか。

 

いや、ブリッツコアでいい。

 

パイモンさんの雷神の石・完成型は、魔力消耗が大きすぎる事が欠点だと試験では言われていた。

 

シールドに相当消耗するだろうし。

 

わたしと連携したとしても、これ以上魔力消耗を激しくしてしまうと、色々と厄介な事になるのが目に見えている。

 

「リア姉、有難う。 何とか良い案が出そうだよ。 ちょっと忙しくなると思うけれど」

 

「順番にこなして行くのよ」

 

「うん、分かってる」

 

まずは足下。

 

エルトナからだ。

 

明後日には、全ての荷物や資材の運び出しが終わると聞いている。それならば、まず明日中にフルスハイムに行って、レンさんと相談。

 

フルスハイムとメッヘンを接続する緑化計画と。

 

もう一隻船を作る計画について、相談する。

 

これは戦略事業だ。

 

公認錬金術師同士が連携するのは当然の話である。できれば、イルメリアちゃんやパイモンさんの力も借りたい。

 

それらについては、作業を進めながら考えて行くことになるだろう。

 

ツヴァイちゃんに話を聞く。

 

鉱石の在庫について、である。

 

すぐに具体的な数字が帰ってくるので好ましい。

 

ライゼンベルグへの途上で、プラティーンの原石は散々入手した。そしてハルモニウムの材料であるドラゴンの鱗については、まだ在庫がそれなりにある。

 

ドラゴンの鱗の在庫を増やせるかどうかについては、一瞬だけツヴァイちゃんを見たが。

 

出来ればその手段は避けたい。

 

というのも、お薬や中和剤を増やしたり、ブリッツコアを修復したときも、相当な消耗をしていたのだ。

 

強烈な魔力を内包しているドラゴンの鱗を複製した場合。

 

或いは、それから生成したハルモニウムを複製した場合。

 

ツヴァイちゃんの負担は尋常ではないだろう。

 

アルファ商会に頼むとすると。

 

相当にお金がいる。

 

そうなると、フルスハイムとメッヘンへの街道を作る工事に対して投資するという形で、ハルモニウムを調達して貰う手もある。

 

わたしでも分かるが。ソフィー先生とアルファ商会はずぶずぶだ。

 

そしてソフィー先生の実力なら、ドラゴン程度簡単にひねり潰せるだろう。

 

それならば、アルファ商会にドラゴンの素材があってもおかしくない。ただ、天文学的な値段がつくことは覚悟しなければならないが。

 

一通り、やるべき作業をまとめ、カルドさんと話す。

 

カルドさんがチャートを組んでくれるというので、頼む。

 

後は、食事を済ませて。

 

眠る。

 

明日から、また忙しくなる。

 

フルスハイムとは、今後も関係を強化していかなければならない。或いはドナとも連携する必要があるかも知れない。

 

わたしは、あくびをすると。

 

眠るべき時に眠るべく。ベッドに潜り込んでいた。

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