暗黒錬金術師伝説7 暗黒!フィリスのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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2、意外なる脅威

空気が変わった。

 

それを感じたのは、わたしだけではなかった。アングリフさんが真っ先に立ち上がると、周囲を睥睨する。

 

わたしが叫ぶ。

 

「総員戦闘態勢!」

 

メッヘンから少し東に進んだだけでこれだ。

 

続いている荒野と、それにぽつぽつ見かけるだけの獣だったのに。一瞬で場は血塗られた。

 

フルスハイムから、西に向かった先。

 

わたしが岩山を丸ごと崩して、鉱石を回収していたのは、此処からかなり東の地点だけれども。

 

その時は、ネームド数匹がまだ健在で。

 

獣もフルスハイムから出して貰った戦士達で対応出来た。

 

だが、此処はちょっと次元が違う。前に岩山を丸ごと崩していた頃だったら、全滅させられていたかも知れない。

 

それほど、周囲からの圧が強い。

 

北側に、何だか変な森が見える。

 

あれが原因だろうか。

 

普通獣は森に入ると大人しくなるのに。

 

彼処は妖気というか何というか。そんな感じのものを放っている。

 

邪神がいるのかも知れない。

 

それも、森の規模からして、とんでもない強力な奴が。

 

有名どころの邪神は、ラスティンとアダレットが把握しているという話だが。

 

全てを把握し切れているわけでもあるまい。

 

ライゼンベルグに行った時、購入した本の中には、邪神の辞典もあって。それら把握している邪神は載っていた。

 

その中には、エルトナの側に住んでいる奴は名前があったが。

 

この辺りに邪神の名など無かった筈。

 

となると、人跡未踏の地。

 

其処に居城を構えている、という事になる。

 

どん、と凄い音がして。

 

飛び出してきたそれは、もう至近距離にいた。

 

恐怖の声が上がるより先に、レヴィさんが飛び出し。わたしが作ったシールドを発生させる、そうイルちゃんにレシピを教わった道具を起動。加えて自前の防御魔術を展開して、突進を防ぎきる。

 

だが、一撃の衝撃は。

 

文字通り、大地に亀裂を穿っていた。

 

わたしは驚かない。

 

これくらいのパワーの獣は、ライゼンベルグへの道で何度も見た。

 

煙が晴れてくると、頭を振り上げ、吠え猛るそれが見えた。

 

猪だ。

 

ただし、全長はわたしの背丈の七倍はあるし。背丈も三倍はある。

 

これは、イルちゃんとパイモンさん無しで、ライゼンベルグへの道にいた獣を相手にするのと同レベルの戦いだ。

 

だが良い。

 

もっと経験を積みたいと思っていたところだ。

 

味方が反撃に出る。

 

お姉ちゃんとカルドさんが、射掛け撃ちかけ。

 

それぞれの一撃が、猪の顔に吸い込まれるが。猪の顔は装甲が極めて分厚い。突き刺さるが、痛がるだけだ。

 

更に背後に回ったドロッセルさんが、大斧を振り下ろすが、浅い。

 

突き刺さるが、肉に刺さるまでで。

 

骨にまでは達しない。

 

跳び上がった猪が、跳ね回るようにして、群がろうとした戦士達を吹っ飛ばし。更にアングリフさんの大剣による一撃を、残像を作ってかわしつつ、バックステップ。それだけでチャージの距離を稼ぐ。

 

アングリフさんの剣が、ハルモニウム製だと悟ったか。

 

だが、その時には、既に。

 

わたしがブリッツコアを発動していた。

 

猪の足下が、冷気に覆われ。

 

瞬時に凍り付く。

 

膝の辺りまで凍り付いた猪が、絶叫する中。

 

わたしは立て続けに、雷のブリッツコアを取りだし、発動。

 

複数回、無駄に多い魔力から、雷撃が炸裂。猪の全身を直撃。

 

だが、猪は倒れない。

 

全身から灼熱の魔力を放出すると。

 

体が傷つくのを厭わず、凄まじい勢いで氷を吹き飛ばした。

 

流石にあのサイズまで成長すると。

 

魔術だけでは無く、あんな芸当も出来るか。

 

驚きは無いが。

 

周囲の戦士達は、流石に青ざめている者もいる。

 

ソフィー先生が貸してくれた戦士達は皆質が高いとはいえ。こんなのが当たり前に出てくる環境となれば、話も違ってくる。

 

熱の塊のまま、突撃してくる猪。早い。しかもジグザグに、速度を維持したまま突っ込んでくる。

 

真横。

 

瞬時に回り込んだ猪が、数人を吹っ飛ばしながら、わたしを狙って突入してきた。

 

レヴィさんが間に合うが、シールドに思い切り亀裂が走る。

 

これに直撃して首を折らないのか。

 

熱には熱。

 

わたしは。炎のブリッツコアを掲げ、詠唱して発動。

 

猪は、天から降り来た巨大な火球の直撃を受ける。

 

更に全身が灼熱に包まれる猪は、悲鳴を上げた。

 

多分限界まで全身の熱を高めているだろうという予想は当たった。転がり周りながら、必死に放熱しようとする猪が、弱点の腹を晒す。

 

お姉ちゃんの渾身の矢が。

 

腹に突き刺さり、内臓にまで届く。

 

更に首を抉るようにして。

 

アングリフさんの一撃が、降り下ろされた。

 

大量の血がぶちまけられるが、それでも必死に飛び退く猪。

 

「離れてください!」

 

叫びながらわたしは。

 

オリフラムを放り込む。

 

放熱などさせない。

 

一点に火力を集中させるピンポイントフレアという技術を用いた品だ。最近作り方を覚えて、量産を始めた所だ。

 

爆裂。

 

同時に、熱の一撃が。

 

お姉ちゃんの開けた腹の穴を直撃していた。

 

猪の内側から膨大な熱量が噴き上がり、

 

口からも。

 

目を内側から吹き飛ばしながら。

 

炎が噴き出す。

 

もがいていた猪は。

 

やがて動かなくなった。

 

周囲は凄まじい熱だ。

 

現に、地面が溶けてしまっている。

 

呼吸を整える。

 

魔力を相当に消耗した。ブリッツコアは。オーバーヒートしていないが、連続して使うとあまり良くないだろう。

 

アングリフさんが負傷者を集めて、トリアージを開始している。ドロッセルさんは、苦虫を噛み潰しながら、大斧を猪から引き抜いていた。

 

お姉ちゃんが主導して、無事だった戦士を連れて、猪を捌き始め。

 

カルドさんはキャンプの物見櫓に登り、周囲を警戒。

 

レヴィさんは、キャンプの警戒に当たり始めた。

 

わたしはすぐにアトリエに入ると。

 

待機していたツヴァイちゃんに、ブリッツコアを渡して、修復を頼む。

 

頷くと、すぐに処置してくれた。

 

ミルクも勿論用意してある。

 

こういうとき、格納したものが腐らないコンテナはとても便利だ。

 

「ブリッツコアを一度に三回も使うなんて。 それほどの強敵だったのです?」

 

「うん。 この道を緑化するのは骨が折れそうだよ」

 

「お姉ちゃん、怪我をしないようにして欲しいのです」

 

「ううん、そうはいかないよ」

 

わたしだけ、後ろの安全圏にいるわけにもいかない。

 

あんなのがわらわら湧いてくるとしたら。

 

今後は、緑化の速度を、更に下げなければならない可能性が高い。

 

当然わたしは常に前線に立てるようにコンディションを整えておかなければならないし。道具類もどんどん補充しなければならない。

 

エルトナからメッヘンに至る道を整備するのは難しくなかった。

 

その間に薬も爆弾もたくさん作って補充しておいた。

 

だが、それも消耗するときは一瞬だ。

 

そんな事はわたしが一番よく分かっている。

 

アトリエの外に出る。

 

やはり強烈な敵意と気配を感じる。

 

メッヘンからの緑化を急ぎつつ、さっきと同レベルのが来た場合に備えなければならない。ネームドも出てもおかしくないだろう。

 

捌いた獣の皮や肉が、荷車に乗せられ運ばれてくる。

 

あんな大きな猪だ。

 

その量も尋常ではなかった。

 

そしてわたしの予想は当たる。

 

二刻もしない内に。

 

次が現れたのである。

 

今度は兎だが。

 

角が頭から二本生えていて。

 

そして何よりも、非常に巨大だ。

 

目も普通の兎と違って、普通の二つに加えて、四つも顔の横についている。さっきの猪ほどのサイズではないが。

 

それでも背の高さだけでも、わたしの二倍はある。

 

そして、おぞましいまでに速かった。

 

シールドで突撃をはじき返すレヴィさんだが。一瞬でバックステップすると、兎は風のように走り周り、まるで狙いを定めさせない。

 

だが、前に出たドロッセルさん。

 

完全なタイミングでフルスイングし。

 

突撃してきた兎の速度も合わせて、一撃で首を刎ね飛ばしていた。

 

流石だ。

 

同時に派手に脇腹を角に切り裂かれて出血。

 

すぐに手当を始める。

 

「ドロッセルさん、意識は大丈夫ですか」

 

「大丈夫。 さっきはちょっと恥ずかしいところ見せちゃったから、張り切っちゃったよ」

 

「どうしたんですか、いつものドロッセルさんらしくもない」

 

「……この斧、限界ぽくてね。 ちょっとそろそろ新しいのが欲しいんだわ」

 

頷く。

 

薬を塗り込んで傷口は消すが。

 

見た目よりダメージが遙かに大きい。

 

体内までかなりやられている。

 

強めの薬を飲んで貰って。

 

今日はもう安静にして貰う。

 

ドロッセルさんの新しい斧については、既に注文を済ませていることを告げる。しかもハルモニウム製である事も。

 

ドロッセルさんは、少し複雑な顔をした。

 

「まいったな。 十も年下の子に、そんな配慮させちゃったか」

 

「いつも前線に立ってくれているんだから当然です。 ドロッセルさんも、無茶はくれぐれも避けてください」

 

「あー、ごめん。 そうだね。 ただ頑丈なだけがわたしの取り柄だからさ……」

 

これは相当に溜まっているな。

 

わたしは処置をすると。

 

横に寝かせたドロッセルさんの側に座って、話を聞く。

 

ドロッセルさんはお金を貯めているという。

 

理由は、いつか一家で人形劇をしながら暮らすため。

 

各地で戦略級の傭兵として働いていた両親と一緒に過ごしていて分かったのは。

 

傭兵というのは命が幾つあっても足りないと言う事だ。

 

たくさんの命を奪い。

 

同時に命も奪われる。

 

人形劇の脚本作りには昔からとても興味があったけれど。

 

戦場で血を浴びていると、それどころではない。

 

敵も匪賊からネームドまで様々。

 

浴びる血も、敵の血だけではない。殺し殺されの世界に住んでいると、どうしても筆も鈍ってくる。

 

「時間を見て少しずつ書いているんだけれどね。 どうしても……」

 

「ごめんなさい、余裕がある時間は作ります。 ただしばらくは……」

 

「うん、分かってる。 あたしが頑張れば頑張るほど皆が死ななくて済むようになるのも分かってる。 だから、気にしないで。 たまには、愚痴りたくなっただけだから」

 

「……」

 

そうか。

 

飄々としているドロッセルさんも、こんな深刻な悩みがあったのか。

 

たまに頭の悪い人間が、悩みが無さそうで羨ましいとか他人を罵倒することがある。何度かわたしも旅の途中で見てきた。

 

だが、悩みのない人間なんていない。

 

そう見せているだけだ。

 

もし悩みがない人間がいるとしたら。

 

それは聖人だけだろう。

 

スケジュールを組み直す。

 

潜水船を作るためのインフラ整備作業は、この様子だともう少し時間をみないと危ないかも知れない。

 

だが、もたついていると、潜水船を作る時間がなくなる。

 

オスカーさんがいてくれればまだマシなんだろうけれど。

 

前にイルちゃんの所に行ったとき、近くで緑化していると聞いたから。多分ライゼンベルグの側にいるはずで。

 

作業の途中。

 

引き戻すことは出来ないはずだ。

 

ならば、自分でどうにかするしかない。

 

外に出る。

 

強い気配は、まだまだ収まっていない。

 

これは今日中に、まだ数回は、同レベルの強力な獣と、戦わなければならない可能性が高そうだった。

 

 

 

翌日からも戦闘は激化する一方だった。

 

皆の顔に疲労の色が濃い。

 

出てくる獣が、どいつもこいつも強い。

 

更に魔法生物らしき連中まで姿を見せる。

 

岩で出来た巨大な人型が歩いて来たときは、屈強な獣人族の戦士達が、怯えに近い声を上げたほどだ。

 

北の方に森が見える。

 

ひょっとすると、だが。

 

あそこから出てきているのではないのだろうか。

 

事実、荒野産の獣らしいのも仕掛けてくるが。

 

実力は一回り落ちる。

 

充分に強い事は強い。

 

だが、さっきから仕掛けてきてくる獣たちは、下手なネームド並みの実力を持っている。

 

あの森、何かとんでもないのが潜んでいて。

 

それで獣が此処まで凶暴化しているのではあるまいか。

 

ひっきりなしに現れる獣と戦い。

 

土地をその合間に耕し。

 

草を植えて育つのを見計らっては火を掛ける。

 

幸い近場に川は幾つもある。

 

メッヘンの街を苦しめ続けた暴れ川の支流もある。問題は橋も作らなければならない、と言う事だ。

 

峡谷と違って埋めるわけには行かない。

 

ただ。今は浮かばせる技術と、硬化剤を作る技術がある。

 

橋は事前に作って浮かばせ。

 

そして硬化剤で固定。

 

更に土を盛って緑化してしまえば良い。

 

川の左右で作業に時間を掛ければ、水中の強力な獣に襲われる可能性も高くなるけれども。

 

強力な防御魔術も掛かった完成品の橋をいきなり運んできて、更に硬化剤で固定してしまえば。

 

事故が起きる可能性は極限まで減らす事が出来る。

 

数日間、激しい戦闘に晒されつつも、緑化作業を進める。だが、ライゼンベルグの時に比べて戦力が少ない上に。

 

何よりも道が複雑だ。

 

北には魔境としか言えない森。

 

南には岩山がなんぼでもある。

 

地図を見る限り、此処から先は何本かの川と、更には岩山に隔てられた複雑な地形が連なっている。

 

最初の方に耕した辺りは、既に草を刈って燃やし、低木の種を植え込んでいるが。

 

逆に言うと、まだその程度しか進んでいないのに。

 

周囲の疲弊が相当に濃くなっている。

 

良くない傾向だ。

 

まずは順番にこなして行くべきだが。

 

フルスハイム側と約束したからには、仕事も完遂しなければならない。

 

地図をしばし見ていて。決める。

 

想定していたルートでは駄目だ。

 

そう結論せざるを得なかった。

 

翌日は、アングリフさんに現状維持を任せて、空飛ぶ荷車で出る。

 

そして、幾つかの岩山を見て回り。

 

岩山で鉱物の声を聞いて。

 

自分の計画を微調整。

 

キャンプに戻る。

 

一日、荒野の開墾を止めた程度では、スケジュールに影響など出ない。むしろここからが本番である。

 

森から次々と現れているらしい、色々な獣。魔術や錬金術によって作られたらしい生物。古代の霊らしき謎の存在。

 

立て続けに襲われて疲れている戦士達に、わたしは告げる。

 

「開墾のルートを変えます」

 

「? フィリスちゃん、どういうつもり?」

 

「地図を見てください」

 

うんざりするような地図だ。

 

川の流れも複雑。

 

橋を架けて通って行くにしても、橋を造るのにも手間が掛かるし。何より緑化が完成するまで、ずっと獣とやり合わなければならない。

 

森に住んでいる凶悪な獣も無尽蔵ではないだろうけれども。

 

それでも、少しばかり敵の質がおかしすぎる。

 

そこでだ。

 

わたしは、すっと地図上で指を走らせる。

 

アングリフさんが、流石に唖然とした。

 

「おいおい、このルート、まさか」

 

「わたしが鉱物の声を聞けること。 岩を簡単に崩せること。 この二つは知っていると思います。 それに、鉱石はまだまだ幾らでも必要です」

 

「要するに、このルートの岩山を、全て更地にしながら進む、と言う事だな」

 

「はい」

 

トンネルを掘るなんて悠長な真似はしない。

 

北にある森はいずれ足を運んで本格的に調査するとして。

 

今回は時間もない。

 

故に、一番短いルートかつ。

 

森の強力な獣たちの干渉を受けない「盾」をつくりながら進む事を考える事にする。

 

皆しばし沈黙していたが。

 

確かにこの凶悪な獣たちの攻撃をまともに受け続けるよりはマシ、と判断したのだろう。

 

何よりわたしが鉱物の声を聞けるギフテッドだと言う事は、此処にいる全員が把握している。

 

それならば、反対意見を述べる者もいない。

 

まともにあの魔の森に横腹を晒しながら進むよりは。

 

遙かにマシだからだ。

 

作業再開。

 

低木が育ち始めている中、開墾を続ける。

 

岩山に辿りつくまで四日。その間に戦闘は合計二十七回。いずれも弱めのネームド並の実力者ばかり。

 

本当にあの森は、一体何が起きているのか。

 

何が住んでいるのか。

 

そして。岩山に辿りつく。

 

後方の開拓は終わっている。

 

後は、岩山を丸ごと崩しながら、少し広めに道を作り。その道に土を敷き詰めて左右を緑化する事で。

 

同じように、安全に通る事が出来る道を作るだけだ。

 

その前に。

 

少しだけ時間を貰い。

 

フルスハイムに一度だけ行ってくる。

 

そして、ロジーさんから受け取ってきた武器を、皆に渡す。

 

アングリフさんには、既に渡していたが。これで、全員の武器がハルモニウム製になった。

 

レヴィさんは漆黒の長剣を受け取って、心底嬉しそうに目を細めていた。何だかよく分からない言葉で絶賛していたが。周囲は呆れていた。

 

カルドさんには、極限まで破壊力を強化するよう、ハルモニウムの込めた魔力で彼方此方を調整した長身銃。弾丸についても、ハルモニウム製のものを幾つか渡しておく。このハルモニウム弾丸は切り札だ。普段はプラティーンや合金の弾丸を使って貰う。

 

長身銃は、カルドさんの身体能力強化にあわせて、人体よりも長いものとなっている。

 

この銃は発射音も凄まじく。

 

お姉ちゃんの弓にも劣らない。

 

ドロッセルさんには、贅沢にハルモニウムを使い、破壊力に特化した大斧を。

 

ちょっとした刃紋が入っているのが特徴だ。

 

飾りである。

 

人形劇の事を嘆いていたし。武器に少しくらい遊びがあった方が良いだろう。怪力自慢で、相手を叩き潰す戦闘を得意とするドロッセルさんとはいえ。これくらいの遊びはあっても良いはずだ。

 

ドロッセルさんは満足そうに振り回して。何度も頷いていた。

 

お姉ちゃんには、要所をハルモニウムで固めた剛弓を。

 

しなりにしても、最上級の木材を使って何層にも貼り合わせており。

 

その破壊力は文字通り激甚。

 

今のお姉ちゃんの身体能力にも、充分に耐えることが出来る剛弓だ。

 

そして、ツヴァイちゃんにも。

 

数字管理が得意なツヴァイちゃんには、これがいいと思って渡す。渡したのは、一見すると羅針盤のような道具だ。

 

神々の贈り物という。

 

常時周囲から魔力を吸収しており。

 

戦闘時はその魔力で術式を発動する。

 

ハルモニウムの底知れずな魔力蓄積能力を利用し。

 

極限まで高めた魔力を利用し、指定の地点で、一定時間後に。空から舞い降りた破壊の魔術を炸裂させる。その火力においては、利便性の問題を無視したこともあって、ブリッツコアの数倍という凶悪なものだ。しかも収束型なので、周囲が全て消し飛ぶようなこともない。

 

地面に大穴が空くだけだ。

 

炸裂させる時間については、解除キーを唱えた後。爆破のキーを唱え、脈拍にして30の後。

 

ただし最初に決めた特定地点にしか落とせない上に、解除も出来ない。

 

更に一度の戦闘で使えるのは一度だけ。

 

頷くと、ツヴァイちゃんはわたしに抱きつく。

 

「ありがとうございますです。 お姉ちゃん。 大好きなのです」

 

「うん……」

 

「考えたな。 これなら相手にとっては初見殺し、数字を扱うのに適したホムには最適な武器、ついでに最前線に飛び出す必要もない」

 

アングリフさんが納得してくれる。

 

わたしも、ツヴァイちゃんの変化が乏しい表情の中に。わずかな笑顔が見つけられたようで、とても嬉しかった。

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