営業先のコンビニで聞いた話。   作:砂上八湖

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滑る。

 

 

 知り合いのコンビニ店長の体験談。

 

 

 コンビニにはいろんな客が来る。

 

 すごく丁寧な応対をしてくれる客、

 あからさまにコンビニ店員を見下してくる客、

 声が小さくて何を言ってんだか分からない客、

 延々と独り言を呟きながら店内をうろつく客、

 迷惑行為を繰り返して出禁になる客、

 トイレを大便まみれにしたまま黙って帰る客、

 買おうとしてる商品を店員に見せず金だけ払おうとする客、

 ……とまあ様々な生態の客が来る。

 

 

「お釣りを渡し難い客がいるんだ」

 

 

 一番困った客はどんな客だったか?という私のふと興味を抱いて投げかけた質問に、しばらく思案してから店長はそう答えた。

 

 

「お釣りが渡し難い?」

 

 

 思わず鸚鵡返しになってしまう。

 あまりにも強面すぎて声もかけられない客、という意味だろうか。

 そんな疑問が顔に出ていたのだろう、彼は「違う違う」と苦笑いを浮かべながら首を横に振った。

 

 

「お釣りを渡そうとすると、何故か硬貨や紙幣がつるつる滑って取りづらくなることがあるんだよ」

 

 

 その前後だと問題なく取れるのに、だ。

 取り損ねるだとか、取り落とすとか、取ろうとして空振りする……というニュアンスではなく、本当に「つるりと滑って取れない」らしい。

 

 

「何度か滑ってから漸く取れるんだけどね、だけど」

 

 

 そこまで口にしておいて、彼は言い淀む。

 

 

「滑ってお釣りが渡し難かった客は、どうも近い内に金銭トラブルになるみたいなんだ」

 

 

 それは自発的なものだったり、事故だったり、他人の借金に巻き込まれたり、とにかく金銭的に不幸な目に遭っているのだそうな。

 

 

「たまたま『お釣りが渡し難かった客』の知り合いが買い物に来て、投資で大損こいて自殺したって話を耳にしてねえ」

 

 

 そんな話に呼び寄せられたわけではないのだろうが、今まで覚えている範囲で「渡し難かった客」が金銭トラブルで不幸になってるという話が伝わってきたのだとか。

 

 

「これって、どういうことだと思う?」

 

「金銭的な不幸に遭う人を見分ける、店長さんのスタンド能力とか?」

 

「なんだその役に立たないスタンド使い」

 

 

 二人して乾いた笑いを浮かべたあと、店長はポツリと呟いた。

 

 

「もしかして金銭的な不幸を与える能力なのかもなあ」

 

 

 中には凄く人の良いお客さんもいたんだよ。

 そう呟いて煙草に火をつけた。

 

 

「取り敢えず、店長ところで買い物はしません」

 

「しまった、客を一人逃がしたな」

 

 

 再度の乾いた笑い合い。

 ただ、次の台詞には笑えなかった。

 

 

「けど、うちの店だけに限った現象じゃないかもよ?」

  

  

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