営業先のコンビニで聞いた話。   作:砂上八湖

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視る。

 

 とあるコンビニの女性店長から聞いた話。

 

 

 10年くらい前の事だ。

 

 少し離れた場所に24時間経営のスーパーが進出してきて、タイムセールやポイントカードといったシステムの差が、徐々にだけれど確実に客を奪われていったらしい。

 

「こりゃいかん!」と早期に危機感を持った彼女は、楽観的なオーナーさんを本部から派遣されてる地域マネージャーさんと一緒に説得して企画を立てたり、店員さんと共に声掛けやチラシ配りとか色々と対策したけれど、回復の動きは鈍い。

(その後、電子マネーの普及で客足は無事に回復していくが、それはまた別の話)

 

 

 そんな時、店員や常連さんから「変な客が外にいる」と相談を受ける回数が増えた。

 

 店の出入口や駐車場に、昼夜を問わず何をするでもなく立ち尽くしている男性がいるのだという。

 

 誰かをストーカーしてる訳でもなく、絡んでくることもない。

 

 毎日来るわけでもなく、店内には入ってこないし、気が付いたらいなくなっている。

 

 

 ただただ、じっとりと湿った視線を感じるだけ。

 

 

 明らかに不審者なのだけれど、怖くて話しかけようにも話しかけることができず困っている。

 

 

「警察に通報は?」

 

「もちろんしたのよ。

 でも駆けつける頃には消えててね」

 

 

 痴呆症の老人かもしれないと、地区の自治会に連絡もしたが、該当する人間はいないとの返答。

 

 監視カメラの範囲から絶妙にフレームアウトしていて、全身像どころか顔すら確認できない。

 

 

「それが何週間か続いて、オーナーや男性店員で取り押さえようかって話が出たときに、彼が来たのよ」

 

「え、その変な客が自ら?」

 

「違う違う」

 

 

 彼女は苦笑を浮かべながら手をヒラヒラと振る。

 

 

「近くにできたスーパーの店長が怒鳴り込んできたのよ」

 

 

 それはもう凄い剣幕だったらしい。

 いや、剣幕以上に驚いたのが店長の風貌だった。

 敵情視察でスーパーへ行ったときに見かけた姿とは様変わりしていたのだ。

 

 人が良さそうだけど少しハゲかけた中年男性だったのに、頬は痩せこけて目は窪みハゲが急速に進行していた。

 

「八墓村の冒頭で、刀を持って夜中の村を走り回る男のシーンを思い出した」とは、この話を聞いている傍で商品の補充作業をしていた若い店員さんの談。

 

 

「嫌がらせを続けるのも大概にしろ!」が第一声だった。

 

 何の事かさっぱり分からない店長と店員さんは、なおも喚き怒鳴り散らすスーパーの店長を宥め透かしつつ警察に連絡。

(スーパーの店長はカウンターをドンドンと叩きながら段々と奇声を上げ始めて、気が狂ったのだと恐ろしくなったそうだ)

 

 強盗と勘違いした交番から2台のパトカーが飛んできて、ちょっとした騒動に発展してしまった。

 

 駆けつけた警官達の姿を見て我に返ったのか、スーパーの店長は大人しく交番へと連行されていったものの、厳重注意で法的にどうこうとはならなかったようである。

 

 

「しかしなんだってまた怒鳴り込んできたんですか?」

 

「それがねえ」

 

 

彼女は心の底から困惑した表情を浮かべる。

 

 

「向こうにも来てたらしいのよ、例の不審者」

 

 コンビニとは異なり連日の昼夜を問わず。

 

 中に入ってくることはなかったが、店のガラス窓に貼り付くようにして中の客を睨み付けるケースもあったらしい。

 

 カエルを潰して肌に擦り付けてくるような、ねちゃりとした厭な視線。

 

 スーパーの店長や店員が外へ飛び出しても、いつの間にか逃げている。

 店内へ戻ると、またいつの間にか戻ってきて立っている。

 

 追いかける。

 

    逃げられる。

 

  戻ってくる。

 

 追いかける。

 

    逃げられる。

 

 

 その繰り返し。

 

 客も気味悪がって売り上げは落ちるし、変な噂は立つし、警察は役に立たないし、スーパーの店長は本部から責任を追求されるしで、精神的にかなり追い詰められてしまったようだった。

 

 

「それでウチ(コンビニ)が嫌がらせをして店を潰そうとしている、って思い込んだらしいのね」

 

 

 そう思ってしまうのも時期的に仕方ないのかもしれないが……

 

 ともあれ、コンビニも同様の被害で悩んでいることを警察から知らされて、スーパーの店長は酷く驚いていたらしい。

 

 後日「申し訳ない、御迷惑をお掛けした」と謝罪に来た際に不審者の特徴を聞いてみたところ、やはり同一人物のようであった。

 

 

「不思議なことに、その事があってからピタリと目撃されなくなったのよね」

 

「良かったじゃないですか」

 

「今のところはね」

 

「?」

 

 

 先日、スーパーから少し離れた場所にラーメン屋が開店したそうなのだが、今度はそこに出没しているのだ。

 

 ただ、客はその姿を目撃していないので、客足自体に影響は出ていないそうなのだが。

 

 

「店の裏口の小窓越しに、立ってる影が映るそうなの」

 

 

 裏口を開けて外を確認しても誰もいない。

 

 閉めてしばらくすると、また小窓越しに立っている。

 

 小窓越しに睨まれているのが肌で感じ取れる。

 

 殺気でも怨念でもなく、ただただ厭な感じだけが刺さる視線。

 

 すぐ背後から覗き込まれているような感覚が付きまとい、仕事に集中できない。

 

 失敗が多くなる。

 体調を崩す。

 辞めたいと申し出てくる。

 

 客足に影響はないが、開店早々に店員不足で悩まされているのだとか。

 

 

 視てるだけなのに店を潰せそうなのがねえ、と店長は深く嘆息する。

 

 そこで彼女の「今のところは」という言葉が思い起こされた。

 それが表情に出ていたのか、更に深い溜め息をこぼして床へと落とす。

 

 

「次はまたウチかもしれないでしょう?」

  

  

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