北宇治高校吹奏楽部〜ポニテのあの子との恋愛事情〜   作:あきと。

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 正直、新生北宇治高校吹奏楽部の演奏はお世辞にも良いとはいえなかった。新入生の中にも経験者はいたけれど、そういう問題ではない。

 結局田中先輩の提案に則って、あれからは各パートに分かれて練習と話し合いを行った。特に、うちのパートでは吉川さんがすごかった。今の先生のやり方には大反対だという意見を中世古先輩に熱弁していたな。

 

 気持ちは分からなくもないけど。そう思いながらも、晴人はもう少し滝先生を信じてみようと考えていた。経歴も実力も知らない相手だけど、どこか他の指導者とは違うものを何となく感じていたのである。

 つまり、直感だ。

 

「明日のパーリー会議で話すって先輩は言ってくれてたけど……」

 

 晴人は、話し合いで先生の方針に向けて一致団結できるとは考えられなかった。

 吹奏楽は個人競技じゃない。上の人たちでこの状況だったらきっと……。

 

「本当に俺たち、全国なんていけるのかな」

 

 そう思っている部員が今どれだけいるのだろう。全国大会出場を部として決めたのは事実だけど。それを本気だと思っている人がどれだけいるのか。

 例年の結果からみれば、それが現状では難しく夢物語であることは今日の演奏を聴いて改めて思った。

 

「あれ、綾瀬……?」

 

「中川さん、お疲れ様」

 

 昇降口を出たところで、パタパタと中川さんが追いかけてくる。

 最近帰り際に誰かから声をかけられる事多いな。

 

「お疲れー。いやー、今日すごかったよね」

 

「すごかった……というより、ヤバかったね」

 

「だよね。滝先生超怖かったし」

 

 初めて滝先生が音楽室に来た時も思ったが、あの先生は笑顔の下にとんでもない悪魔が宿っている。そう思ったのは俺だけではないはずだ。

 

「そういえば綾瀬って、私らと同じ帰り道なんでしょ? 一緒に帰ってもいい?」

 

「別に構わないけど。どこ情報?」

 

 中川さんとは同じクラスだが、家のある場所について話した覚えはなかった。

 

「優子から聞いた」

 

「あー、吉川さんか」

 

 そういえば先日、吉川さんに半端強引に一緒に帰らされたんだっけ。

 吉川さんは同じパートだから地元がどことか、この一年間を通して話したことがあった。

 

「!」

 

 隣を歩く中川さんと目が合う。普段中川さんと帰ることがないから、少し緊張するな。

 ま、同じクラスになった事だし、こうして話す機会は大事にしたいよな。

 

「綾瀬は優子と仲良いの?」

 

 そう思った矢先、先に彼女の方から話題を振られた。男としては情けない。

 

「良いっていうか、同じパートだから話す機会は多いかな」

 

「そうなんだ」

 

「うん。でも、中川さんとも今年から同じクラスだから仲良くなれたら嬉しいって思ってる」

 

「……綾瀬、そういう事誰にでも言ってるの?」

 

「えっ、ど、どうだろう。特に意識した事はないけど」

 

「ふーん……」

 

 な、なんだろう。俺、責められてる? 気のせいだろうか。

 

「ま、綾瀬は優しいからねー。綾瀬って吹部だと誰と仲が良いの?」

 

「仲だったら吉川さんより滝野くんの方が良いかも。唯一のトランペット仲間の男子だし」

 

 他のパートだと、主に異性相手だとより友人関係の情報は少ないんだよな。現に俺も中川さんの情報には乏しい。

 それは彼女も同じようだけど。

 

「滝野かー。あいつ、香織先輩のこと絶対好きだよね」

 

「あはは、どうだろう。恋愛感情は分からないけど、憧れはあるみたいだね」

 

「いーや、絶対好きだねあれは。でも、玉砕する未来しか見えないけど」

 

 そういえば吉川さんも似たような事を言っていた。滝野くんの中世古先輩を見る目が厭らしいとかなんとか。

 滝野くん……。勝手に色々言われてて可哀想だな。

 

「あとは、低音パートだと後藤くんとか。ていうより、そもそも吹部は男子が少ないから先輩含めてみんな仲良い感じかな」

 

「あー、そういうの分かるかも。少数だと団結力上がりそう」

 

「でも吉川さんから聞いたってことは、むしろ二人の方が……」

 

「いや、別に仲が良いとかじゃないから」

 

 俺が聞く前に否定されてしまった。

 うーん、本当に二人は仲が悪いのだろうか。犬猿の仲だと言われているけど、側から見てたらそれだけの関係じゃないと思うんだけどな。

 

「そ、そういえばさ。低音パート、一年生は三人入ったんだってね」

 

「うん、コントラバスに、チューバとユーフォが一人ずつ」

 

 コントラバスは聖女から進学してきた川島さんだったか。

 確か、下の名前が緑輝でサファイアって読むんだよな。本人は「緑輝(みどり)」って呼んで欲しいって、言って回ってるみたいだけど。

 

「トランペットは少なめだよね。希望者多いと削るって聞いた」

 

「うちは二人だよ」

 

「そうなんだ。……実はユーフォに入った子さ。経験者みたいなんだよね」

 

「トランペットに来た子も経験者だった言ってたな。しかも、レベルは高いし。今年は豊作だったかな」

 

 そう言うと、中川さんが下を向いた。

 

「私さ、高校からユーフォ始めたからさ。その子にはすでにステータスで負けてると思うんだよね」

 

「そんな事……」

 

「あるよ。しかも私は適当な性格だしさー」

 

 確かに、歴は大事だと思うけど。それだけが全てではないと、俺は思う。

 しかし無責任な事は言えないと、その時は口にできなかった。

 

 二人は夕暮に照らされて、何気ない会話を。友人らしい会話をしながら帰路を進んでいく。

 

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