北宇治高校吹奏楽部〜ポニテのあの子との恋愛事情〜 作:あきと。
それから、その翌週の合奏までそれぞれの練習は続いた。
今までの自分たちのやり方を殆ど否定された事による滝先生への不満はとても大きかった。だけど、そのエネルギーが部員たちの団結力へと形を変えていった。
そして、合奏当日。
音楽室で準備を整えて、その時を待つ。
よし、メンテナンスもバッチリだ。
マウスピースに息を吹きかけて、呼吸を整える。
「絶対文句言わせない」
「なんか言われたらマッピ投げるし」
近くで三年生の先輩達の声が聞こえる。
マウスピースを投げつけるなんて、本当にそんな事にならなければ良いが。
「ていうか、なんであの先生、指揮棒使わないの?」
どうやら、先生への不満はまだまだ残っているらしい。指揮棒のことは俺も気になっていたけど、メリットとしては演奏者側が見やすいからなのだろうな。指揮棒に慣れている人たちからしたら、慣れるまで時間は掛かるだろうけど、動作が大きくて分かりやすい。……と、調べたら出てきたんだよな。
それでも、今日この日まで練習を頑張ってきたのは事実だ。意識的にも、一週間前までとは明らかに違うはずだ。
「くっそ、落ち着けよ俺!」
「ううぅ、緊張するよ……」
周囲を見渡していると、隣で並んで座る純一と友恵の声が聞こえてくる。
「大丈夫だよ。加部さん、滝野くんも」
晴人の言葉に二人は目を丸くした。
「大丈夫って、何を根拠に」
「だって二人とも、この一週間頑張ってきたんだから」
「そんなの、他のみんなだって」
「うん、そうだね。部活の時間は各々パートごとに分かれて練習してた」
「だろ? だったら俺たちと同じように他のみんなもその分上手くなって」
「でもさ、それじゃないでしょ」
「「えっ」」
二人は驚いた声をあげて、次の晴人の言葉を待つ。
「朝だって早くからきて練習してたでしょ?」
「……知ってたのかよ」
「朝は俺も吹いてるからね」
他にも、何人か練習していたようだけど。
それでも、二人が空き教室で練習していた姿を晴人は教室前を通りがかった時にはっきりと見ていたのだ。
「だから大丈夫だよ。きっと」
「綾瀬……」
「「なんか偉そう」」
「辛辣!」
二人を励ましたつもりだったのだが。
「ふふっ、冗談だよ」
「あー、でもなんか緊張が少しほぐれたわ。ありがとな綾瀬」
「それなら良かったよ」
その表情は、普段通りのものへと変わっていた。
不器用なやり方だったけど、これなら二人もいつも通りの演奏ができる事だろう。
「約束の日になりました。この一週間の成果が楽しみです」
音楽室へと入り、教壇に上がる滝先生に促され楽器を持つ部員達は構える。
いよいよだ!
「鳥塚さん、お願いします」
パート毎に順番に各楽器の音が次々に鳴り響く。
俺もそれに合わせて息を吸い音を鳴らした。
「よろしいですか?」
滝先生が皆を見渡し、それに応えるように部員達は息を呑む。
「では、始めましょう」
うん、今の一音でも俺にも分かる。
明らかに1週間前とは違う音の出し方。音色だった。
そして、滝先生が両手をあげて振り下ろす。