北宇治高校吹奏楽部〜ポニテのあの子との恋愛事情〜 作:あきと。
「はーい。それでは、楽器の振り分けに入ります」
皆の前で話すのは、部長の小笠原晴香先輩だ。
サックスパートを担当していて、優しい先輩だと後輩たちからも慕われている。
今年の新入生は二十二人。現在、二年生が少ないことを考えると、足りなかったパートの人員が確保できそうなのでありがたい。
予想通り、女子の比率は多いが、男子も何人かいる。吹奏楽部での男子の活躍は、演奏だけに限らず重い楽器を運ぶ力仕事でも発揮される。
そんな仲間が増えるのは、同じ男子部員としては大歓迎なのだ。
「はいはーい! 低音やりたい人ー!」
小笠原先輩が話している途中、大人びた雰囲気の赤縁メガネの先輩が割って入り、さっそく自分のパートの希望者を募ろうとしているようだ。
小笠原先輩を支える副部長であり、低音パートのリーダー。ユーフォニアム担当の田中あすか先輩だ。
「はいはい、それはまだ後だから」と、小笠原先輩に止められ、その様子を見た新入生を含めた部員たちから笑いが起こる。
「じゃあ初心者もいると思うので、まずは楽器の紹介から。その後各自、希望の楽器の所へ集まって下さい。ただし希望の多い楽器は選抜テストを行います」
小笠原先輩の話は進み、さっそく新入部員たちの楽器決めが始まった。
今後付き合っていく楽器を決める大切な時間だ。様々な楽器があるが、自分がこれだ!と思えるような相棒に出会ってもらいたい。去年の俺はというと、速攻でトランペットを志望したけどな。
誰しもが自分が主役だと思い、音を鳴らす。それぐらいじゃないと、人の心には響かないのだから。
それから、楽器を一通り紹介するために各楽器のリーダー格の先輩方が一人ずつ前に出て説明をする事に。
美人な整った顔立ちのトランペットパートリーダーである中世古先輩から始まり、トロンボーン、クラリネット、フルート、パーカスと順に説明が続いていく。
そして残すところ、低音パートの紹介となった。
「はい! じゃあ次私!」
銀色のユーフォニアムを抱えた田中先輩が、前に出る。
「低音パートリーダー兼副部長の田中あすかです。楽器はユーフォです」
その言葉を皮切りに、田中先輩はユーフォニアムの素晴らしさについて延々と語っていく。
「ストーップ。その話、どのくらい続くの?」
まだまだ話はこれからだ、という所で小笠原先輩が止めに入る。
不満げな田中先輩の後に出てきたのは、
「チューバ担当の後藤です」
大きな体で寡黙な性格。低音パートでは唯一の男子部員で、頼り甲斐がある部員だ。
「え、終わり?」
「……はい」
後藤くんとは去年同じクラスで、パートは別だが、それなりに仲が良い。
そんな彼に、田中先輩が「チューバの魅力が伝わっていない」と指摘して自分が語ろうとするも、またもや小笠原先輩に止められてしまう。
後藤くんは同じ楽器担当の長瀬梨子さんとは付き合っているらしく、個人的にはお似合いなカップルだと思って応援もしていた。
「それから低音パートにはコントラバスという楽器があるのですが、残念ながら今は演奏者がいない状況です。この中にコントラバスの経験者はいませんか?」
低音パートも最後に差し掛かり、小笠原先輩が口を開いた。
そうだった。重要な事を忘れていた。
先輩の言う通り、今の吹部にはコントラバスの奏者がいない。
弦楽器の奏でる音があるのと、ないのとでは結構な差が生まれる。合奏曲の選択肢に関わってくる問題だ。
そんな時、一人の一年生が手を挙げた。
見たところ、背は小さくふわふわっとした猫っ毛の髪をした女の子だ。
「もしかして、コンバス経験者?」
「はい。聖女でやってました」
聖女だと!
晴人はその学校名に聞き覚えがあった。
この辺の中学では全国大会に出場する程の強豪校で、しかも経験者ともなれば即戦力となるであろう。
「聖女ってあの?」
小笠原先輩にそう言われると、低音パートリーダーの田中先輩が新入生の手を掴む。
「やってくれる!」
「その言葉を待っていました」
なんだか面白いなこの子。ていうか、ノリが良い。田中先輩との息もピッタリだ。
「気に入った!と、言うことでこの子は私が貰ったからー」
「本当は希望者を集めてからだけど。まあいいわよね」
「やった!」
その後、小笠原先輩の一声で他の新入生たちの楽器選びは始まった。