北宇治高校吹奏楽部〜ポニテのあの子との恋愛事情〜 作:あきと。
音楽室の一部で、机とトランペットを広げ希望者を待つ中。楽器選びスタート直後に、顔立ちの整った大人びた一年生の女の子がやってきた。
長い黒髪は彼女の清楚な雰囲気を際立たせる。一年生とは思えないほど、堂々とした佇まい。
先輩として、気後れしないようにしなくては。
そんな彼女に、パートリーダーの中世古先輩が声をかけていた。
一年生の名前は、高坂麗奈。聞くところによると、幼少時代からトランペットを始めたのだという。
小学校の途中から始めた俺よりも、歴は長いかもしれない。
他にも希望者はおり、俺はショートヘアの一年生吉沢さんの相手をする。
「先輩は、いつから楽器を始めたんですか?」
「小三の時くらいからかな。楽器屋で見かけて興味持ってさ」
「すごいですね! あの、吹いてもらっても良いですか?」
「えっ、俺? 吉沢さんは吹かなくていいの?」
「はい! トランペットの音、聞いてみたいんです」
「おー、後輩にお願いされるなんて、やるな綾瀬」
「滝野くんも吹く?」
「いや、俺はいいや。ここはエースに任せるわ」
「エースって。先輩達の方が上手いよきっと」
パートリーダーの中世古先輩の奏でる音はとても綺麗だ。おそらく、パートの中で一番上手い。
自分も歴だけで言えば自信があるが、実力は分からない。ある程度は上手いと思うけど。
「お前だって、相当上手いけどな。それなら、トランペット男子のエースな!」
「トランペットの男子って、俺と滝野くんしかいないじゃん……」
そう思って、とりあえず吹こうとした瞬間。
「!」
ほんの少しの音のフレーズが、音楽室に響き渡った。
その音色を発した場所に視線は集まり、ほんのひと時の静寂が訪れる。その後すぐに、室内の賑やかさが戻った。
俺たちトランペットパートのメンバーは、変わらず高坂麗奈に向いていた。
「これでいいですか?」
「あ、うん」
中世古先輩は、一瞬驚いた表情を見せるがすぐにいつもの笑顔に戻る。隣にいる吉川さんは複雑そうな顔だ。
「高坂さん上手ねー」
ちょうど近くにいた小笠原先輩が褒め、それに高坂さんはぺこりとお辞儀を返す。
今のワンフレーズで分かる。この子、相当に上手い。かなりレベルの高い奏者であることがすぐに分かった。
「先輩?」
「綾瀬、お前も吹けって」
「あ、うん。それじゃ……」
呆気に取られてた自分に、二人が声をかけてくれて我へと帰る。
マウスピースを刺して、フィンガーフックに指をかける。それからゆっくりとマウスピースに口を当てた。
今手元には楽譜もないし。吹くと言われても何を吹けば良いのやら。
「……あ、そうだ」
えっと……、こんな感じだったか。
唇を震わせ、トランペットの力強い高い音を鳴らす。
何を吹けば良いかと思い、先程拭いた高坂さんの音を見様見真似で鳴らしてみた。
「先輩すごーい! さっきの音とそっくりですね」
「おいおい綾瀬。違うの吹いてやれよ同じの吹いてどうする」
「あ、ごめん」
言われてようやく気付き、謝罪をするが吉沢さんは満足したようで滝野くんともトランペットを持ちながら色々な話をしていた。
何か吹いてと言われると、アドリブに弱い。もしかして気を悪くさせてしまったのか高坂さんも俺の事を見ていた。
そうだよなぁ。真似されて不快に思われたかもしれない。今のは完全に俺の落ち度だ。
居心地の悪くなってしまった俺は、先輩達に断りを入れてマウスピースを洗いに水道へと向かった。
「あれ、綾瀬もサボり?」
「中川さん」
水道でマウスピースを洗っていると、近くを通り掛かったであろう中川さんに声をかけられた。