北宇治高校吹奏楽部〜ポニテのあの子との恋愛事情〜   作:あきと。

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 昨日のミーティングで、顧問の滝先生から指示があった。

 

「では、合奏できるクオリティになったら呼んで下さい」

 

 そう言って滝先生は音楽室を後にしようとする。

 

「えっ」

 

 それを見た部員達によって教室にはざわめきが起きた。つい、俺も声が漏れた。てっきり、何らかのアドバイスや指導をこれから行ってくれるのかと思っていたからだ。

 その声を代弁するように小笠原先輩が滝先生に質問をする。

 

「でも、あの、先生。曲とかは?」

 

「なんでもいいですよ。皆さんが得意なもので」

 

 生徒の自主性を尊重する。先生の言葉通り、自分達で考えろということか。

 しかし、何をやれば良いんだ。先生が曲の完成度を求めているのであれば、その選曲くらいは先生から提示した方が良いと思うのだが。

 

「そうですね……。じゃあ、海兵隊でどうでしょう?」

 

 そう考えていると、先生は曲を提案してくれる。

 

「海兵隊……」

 

 定番といえば定番だけど。基礎といえば基礎でもある。

 誰もが知るであろうその曲を選んだ意図は……。

 

「海兵隊?」

 

 部員達は納得のいかない様子を見せている。中には、現在最も近いとされるイベント。サンライズフェスティバルについて不安を示唆する声をあげている部員もいた。

 

「ええ。海兵隊です。それでは、皆さんの合奏を楽しみにしています」

 

 そして、滝先生は音楽室を後にした。

 簡単な吹奏楽の曲の中でも、初級の曲。それを合奏することが先生からの課題だ。俺たち吹奏楽部は、とにかくその日を皮切りに海兵隊を重点的に練習する運となったのである。

 

 数日後。

 

「あのー、中世古先輩」

 

「綾瀬くん。どうしたの?」

 

「サンフェスの曲って、もしかして海兵隊で行くんですか?」

 

 合奏練習の日。音楽室に行く途中で中世古先輩に俺は尋ねる。

 時期的な事を考えると、例年の今頃にはもう曲は決まってその練習に入っているのが普通だ。しかし。

 

「うーん、どうかな。決まりではないと思うんだけど……」

 

 サンフェスとは、サンライズフェスティバルの略称である。

 府内各校が集まってマーチングを行う、コンクール前に行われる音楽の祭典だ。お客さんも入り、大勢の観客達で盛り上がるという。

 行進しながらだったり、フォーメーションを組んで移動しながら演奏をする形式で、この京都では高校マーチングで全国的に有名な立華高校がイベントの顔と言っても良いだろう。他にも、吹奏楽が強い洛秋高校も参加する。

 

「そうだよねー。この曲練習させるって事はそういうつもりなのかな? いつまでこれ続くんだろう」

 

 中世古先輩との会話を横で聞いていた三年生の笠野先輩、それに吉川さんも加わる。

 

「沙菜先輩の言う通りです! 毎日海兵隊練習してもしょうがないですよ」

 

「サンフェスの後は、コンクールだってあるんだから早く来てもらった方が良くない? 香織もそう思うでしょ」

 

「それはそうだけど……。うん、後で晴香に相談してみるね」

 

 そして、中世古先輩から小笠原先輩にその事を伝えられ、他の先輩達全員の同意により滝先生を呼び出す事に。

 どうやら、他にも不満の声が上がっていたようだ。

 

「思ったよりも早かったですね」

 

 瞬く間に先生の前で合奏を吹く事になり、チューナーを持つ小笠原先輩の指示でチューニングを行う。

 

「いい? 先生、よろしくお願いします」

 

 ……いや、明らかに音が合っていない。この状態で始めて、息を合わせることなんて出来るのだろうか。

 おそらく、滝先生もそれは分かっているはずだ。

 

「では皆さん、よろしいですか。今日が初めてになりますね。よろしくお願いします」

 

 壇上に立つ先生は、楽譜を開いて指揮の準備に入る。

 

「最初から一度、通してやってみましょうか」

 

「!」

 

 指揮棒は使わないのか……。

 滝先生の手には指揮棒は握られず、使わぬままに手を上げて構えられる。指揮棒を振らない指揮は、俺も慣れてはいない。

 でも、やるしかないよな。

 俺もマウスピースに口を当てて、準備へと入る。

 

「さん、しっ!」

 

 揃わない出だしで演奏はスタートする。

 しかし、これは……。

 あまりにも指揮に合わないメロディ、ミスやズレ。バラバラな合奏。これでは、合奏とは呼べないな。

 

「はい、そこまで」

 

 聞くに耐えない演奏を滝先生が止める。

 

「何ですか? これ」

 

 この時が、その後滝先生が粘着イケメン悪魔などと部員達から呼ばれる事となる始まりの日だった。

 

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