北宇治高校吹奏楽部〜ポニテのあの子との恋愛事情〜   作:あきと。

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 同じ気持ちなのか、その言葉を聞いて多くの生徒たちは俯いた。

 俺もそうした。まさか、ここまで音が合わない形になるとは思わなかったのだ。

 

「部長、私言いましたよね? 合奏できるクオリティになったら集まってくださいって」

 

「あ……、はい」

 

「その結果がこれですか」

 

「……すみません」

 

 これは、小笠原先輩一人の責任問題ではない。部全体の意見として滝先生を呼んだのだから。

 だから、これは小笠原先輩のみならず、ここにいる部員全員がお叱りを受けている。

 

「みなさん、合奏って何だと思います?」

 

 先生は、黙る生徒たちを見渡して一人の生徒を指名した。

 

「塚本くん、どう思いますか?」

 

「あ、はい。えーと、それはその……」

 

 当てられたのは、背の高い一年生。

 確か彼は、トロンボーンを担当する塚本くん。男子は人数も少ないから、新入生ともなればすぐに名前を覚えることができた。

 そんな彼は、滝先生の質問に答える。

 

「みんなで音を合わせて演奏する」

 

「そうですね。しかし、各パートあまりに欠陥が多すぎて、これでは合奏になりません。みなさんパート練習やってたんですか?」

 

「やってました!」

 

 それに答えたのは、トロンボーンパートリーダーの野口先輩。

 

「みんなやってました!毎日パート練習やって、最後に合奏もして」

 

「ていうか、どこが悪かったか具体的に言ってくれないと分かりません!」

 

 野口先輩を皮切りに、主にトロンボーンパートの先輩たちから滝先生へ不満をぶつける。

 

「そうですか分かりました。トロンボーンのみなさんはこのメトロノームに合わせて最初から吹いてください。いいですか?」

 

 先生がメトロノームを使い、トロンボーンパートは渋々それに従う。

 そして、タイミングを合わせるように号令をかけた。

 

「…………」

 

 室内にトロンボーンの音が鳴り響く。

 その音は、やはり息のあっていないものだった。

 吹き始めのタイミング、音を切る場所も全てがバラバラだ。中には音がちゃんと出ている人もいるけれど、全体的に見れば練習不足だ。

 

「はい、そこまで」

 

 滝先生は、途中で演奏を止めてもう一度部員全員に問いかける。

 

「みなさん、この演奏を聴いてどう思いました? 良いと思った人」

 

 誰も手をあげない。

 

「良くないと思った人」

 

 演奏した時の音を全員が改めて理解したのか、全員が手を挙げた。

 

「私はトロンボーンだけじゃなく、他のパートも同じだと思いました。パート単体でも、聞くに耐えないものばかりだと」

 

 先生の意見はごもっともだ。先程までの演奏は聴くに耐えないもの。演奏であって、合奏ではない。そう言っているように感じた。

 

「でも、それでは困るのです。あなた達は全国に行くと決めたんです。だったら最低基準の演奏は、パート練習の間にクリアしておいてもらいたい。この演奏では指導以前の問題です。私の時間を無駄にしないで頂きたい」

 

 お、おー……。滝先生だいぶキツい言葉をかけるな。先生が言っている事は正しい。表情は笑っているようにも見えるが、そんな優しいものではないことが見ていて分かる。

 しかし、全国を目指す事を目標にしたとはいえ、今の言葉は少し突き放しすぎた言葉ではないだろうか。

 

「部長」

 

「はい……!」

 

「今日はこれまでにして、来週の水曜に再度合奏の時間を取ります。以上です」

 

 先生の言葉に誰も返事をしない。

 それどころか、自分たちの未熟さを知って俯いたままの生徒は一人や二人ではなかった。

 

「あ、あの!」

 

 しかし、隣に座る中世古先輩が立ち上がった。音楽室を出ようとする滝先生を呼び止めたのだ。

 

「何ですか?」

 

「サンライズフェスティバルの曲は……」

 

「あなた達はそういう事を気にするレベルではありません。来週まともなレベルになっていなかったら参加しなくていいと私は思っています。失礼」

 

 そう言って、滝先生は今度こそ教室を出て行った。

 

「何なの……、あいつ」

 

「ていうか、また一週間この曲練習しろって言うのかよ……」

 

 先生が居なくなった音楽室で、部員達の不満の声があがる。

 すると、一瞬中世古先輩とは反対側の隣の席に座る高坂さんの肩が揺れたような気がした。

 

「高坂さん? どうかしたの」

 

「……すみません。何でもありません」

 

 そんな事を気にしている間に、小笠原先輩に周囲の生徒達によって不満の声が浴びせられていた。

 部員達の代表、部長であるために当たり前のことだが、そんなにいっぺんに言われたら小笠原先輩だって困ってしまう。

 その証拠に、先輩の顔は不安の色を浮かべていた。

 

「はいはいはーい。聖徳太子じゃないんだから、いっぺん言っても分からないよ。今晴香が言いに行ったって、あの先生が言うこと聞くわけないと思わない?」

 

「じゃあ、あいつの言うこと聞けって?」

 

「そう言うわけじゃないよん。とりあえず、いきなりこの人数で話しても収拾つかないから各パートで意見まとめてパートリーダー会議で話したらいいんじゃない?」

 

 小笠原先輩を助けるように、田中先輩が打開案を出す。さすがは副部長だ。こういう時、頼りになってくれるのが田中先輩である。

 

 そうして、新生北宇治高校吹奏楽部の滝先生を含めた初の合奏練習は終わりを迎えた。

 

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