魔法学院のギャルゲー野郎   作:全自動髭剃り

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異世界転生を描くのに飽きたので、拙作と同じ世界で、別の物語を始めました。
最初は石鹸枠みたいなのを目指したのですが、気づけばよくわからないものになってました。


魔法学院のギャルゲー野郎

 使い古された木製のテーブルの上、高級そうな布の上に、ほわほわと光を放つ水晶が置いてある。様子を見ている試験監督が座っているにも関わらず、水晶の隣にはご丁寧にその使い方が書かれた紙も置かれていた。

 “受験者受付で配布されたカードを差し入れ、水晶に手のひらを置いてください。”

 

 俺の後ろには十数人が待つ列。

 先ほど筆記試験が終わったばかりで、安堵の表情を見せるものや、これから始まる実技試験に向けて緊張感を高めているものもいる。

 

 帝立魔法学院の入学試験。

 大陸有数の名門校である学院は新入生に非常に高い能力を要求する。

 先ほど終えた筆記試験などは、たとえその道の研究者であろうとも苦戦しかねないようなレベルの高さだった。

 

 そしてこれからは受験者の各々のレベルに合わせた形で実技試験が執り行われる。

 そのレベルを測定するために、この水晶型の魔導具を使用するのだ。

 

 だけど……。

 

「…………」

 

 水晶を睨みつけたまま、俺は寸分たりとも動けなかった。

 カチコチに固まってしまったのだ。

 というか俺だけじゃない。全世界が止まってる。

 

 先ほどまで近くにいる知り合いと試験の感触について話していた奴らも口を開けたまま停止している。

 このレベル測定の会場となった体育館に飾られている時計の秒針も進まない。

 先ほどテーブルの端から転げ落ちたペンさえも空中で止まったままだ。

 

 そしてその原因。

 

【拳で叩き割る】

【頭蓋骨で叩き割る】

 

 視界のど真ん中にぷかぷかと浮かぶ二つの選択肢。

 桃色のゼリーのような枠で形どられた、ファンシーな額縁の中に、文字が書き込まれている。

 

 俺はそのどちらかを選ぶしかないのだ。

 選ばないという選択肢は存在しない。……選ばなければ、いくら待っても時間が進まない。それこそ意地になって体感一日近く粘ったこともあったけど、通用しなかった。

 

 腹を括るしかない。

 

 視界にある選択肢の片方に意識を集中させると、止まっていた時間が進み出した。

 受験会場らしい喧騒が戻り、試験監督から伝えられる、説明の紙と同じ内容の言葉が無事鼓膜まで届いた。

 

 けど、残念ながらその説明は無駄に終わりそうだ……。

 

「受付で貰ったカードを持ってますかー? それをここに……って、待って! 何をしてるの!? 両手で水晶を持ち上げたらダメですよ!」

 

 ふむぅ。見た目さながら、いい重さをしているなぁ。

 硬度もなかなかのものだろう。

 

「まずはカードを――」

「――憤ッ!!!」

「って、えぇええええええ!?!?」

 

 試験監督の女性教官が叫び声を上げる中、血まみれに砕け散った水晶がバラバラと散り落ちていった。

 そして、静まり返ってしまった体育館の中、俺は支給品の体操服で額から流れ出る液体を、軽くランニングを終えた後と同じようにして拭う。

 

「すみません教官、水晶の使い方間違ってしまいました。替えのものはありますか?」

 

 可能な限り教官の機嫌を損ねないように、人生で一番と言えるほどに柔らかい笑顔で尋ねた。

 生徒と見違えそうなほどに背丈の小さい教官は、その栗色のボブカットを揺らしながら叫んだ。

 

「え、なんで!? なんで水晶を――、いやそれよりも、頭の怪我! 血が止まってないよ!! 大丈夫なの!?」

 

 慌てふためく彼女に無理やり腕を引かれて、医務室へと向かうこととなった。

 それが記念すべき俺も初めての学院生活だった。

 

 え? なんで頭突きを選んだかって?

 そりゃあ結果が同じなら、どっちを選んでも変わらないからだろ。

 

 †

 

 渡された2つ目の水晶を拳で握りつぶし、3つ目でバスケットボールごっこで地面に叩き壊し、ついには

 

【噛み砕く】

【飲み干す】

 

 という選択肢で、水晶を口の中に放り込もうとしたところ。

 次から次へと新しい水晶を倉庫から取り出しけてきた教官が、流石に俺から水晶を奪うことによって強制的に静止してきた。

 

「何で素直に使わないんですか!? 水晶に恨みでもあるんですか!? というか、サイズ的に口の中に入るわけないでしょ!」

 

 なんてことがあって、特例として俺のレベル測定はスキップになった。

 学院の審査基準で、入学時における基礎レベル及び技量レベルはカウントしないと明記しているので、融通を利かしてくれたのだろう。

 レベル値はあくまで実技試験の参考になる程度のものというのが公式の見解である。

 

 ちなみに基礎レベルは肉体の強さ、技量レベルは技量的な強さを示すものだ。

 選択肢(こいつ)に鍛えに鍛えさせまくられてきた成果をこの目で確認することはつい叶わなかったので、いささか心残りではあるが……。

 

 水晶トラブルのせいですっかり受験生がいなくなった鍛錬場で、数人の試験監督に取り囲まれながら行ったひとりぼっちの実技試験。俺が圧倒的に最後の受験生だ。

 本来ならばレベルの近しい受験生同士が手合わせをして、その内容を採点するものだが、俺の相手に指定されたのは髭に白髪が混じっている長身の教官だった。

 手加減をしてくれるだろうとのことで、とりあえず指定された教官相手に全力で戦ってきた。

 

「わしも衰えたもんじゃのう」

 

 なんて感慨深く呟く初老にしては、キレッキレの剣捌きを見せつけてきやがって嫌味かと思ったものだ。

 ギャラリーもいる中で好き勝手に弾をぶっ放すわけにもいかず、ピストルと短剣を組み合わせた武器二丁――双銃剣をただの双剣として使った割には善戦した方だと思う。

 

「合否については明日までに判明する。それまでに楽しみに待つのじゃ」

 

 ほっほっほと好々爺な試験監督は去り際の俺に105点くらいの微笑みを投げかけてきた。

 

 無事試験が終わってホッとする。

 選択肢のせいとはいえ、男の子なら誰しも一度は夢見る魔法学院生活、それに向けての第一歩を踏み出せたのだから。

 ……踏み出せたよな? 水晶はあんま高くないって聞いたし、踏み出せたはずだ。

 

 そして、俺が受験会場から出ようと一歩を踏み出そうとした瞬間、またもや世界は止まった。

 

【今日一日の一人称を朕に、二人称を貴公にする】

【今日一日の一人称を朕々にする】

 

 ホッとさせてくれよ!

 いいじゃん、もう。選択肢(あんた)の言う通りに水晶には触らなかったじゃん! 今日はもうそういう無茶振りやめようよ……。下とか安易すぎる下ネタじゃねえかよぉ!! 不敬罪で捕まるぞ!

 

 と、嘆いたところで何か変わるわけではないのは、生まれてこのかた十数年の付き合いで分かってる……。

 上の選択肢を選ぶしかないのだ。

 

「はぁ……」

 

 ため息が出てしまう。

 ……いやけど、よくよく考えると、別に困りはしないかもしれない!

 今日はこのまま宿に直帰して明日家に帰る予定なのだ。つまり、他人と関わる予定はない!

 

 ふふっ、ふははは!

 残念だったな、選択肢(貴公)。朕はもう今日、誰にも会わないぞ!

 

 ほくそ笑みながら学院の廊下を通り、校門に向かう。

 

 入学式終わりだというのに、校舎にはまだ数名の人影があった。

 朕の試験が最後だと思ってたけど、……仲良さそうに数人で話になって談笑しているあたり、知り合い同士で試験の感触でも話してるんだろうな。

 独学でやるしかなかった朕とは違って、帝都には試験予備学校なんてのが点在していて、貴族の子供たちはそこに通っているのが普通だ。友人同士で試験に行けるのも珍しくないだろう。

 

「おい、ゴラァ! てめえ、ナメてんのか!?」

「調子乗ってんじゃねえぞ!!」

「なにメンチ切ってんだよ!!」

 

 ほら見てみなさい。

 奴らは舐め合うような親しい間柄で、チョーシという名前の乗り物に乗って、豚肉の揚げ物を切り分けながらシェアするようだ。

 朕が混ざるのは空気を読まない行為だろう。

 

「実技試験で気を悪くしたのであれば謝るが……」

「黙れ! レベルは俺の方が高かった! お前が不正をしたに決まってる!」

「水晶に小細工しやがったんだ!」

「じゃなきゃフィリップが負けるはずがない!!」

 

 騎士然とした立ち振る舞いで、威張り散らかしてくるチンピラみたいな奴ら3人相手にも怯まないイケメンがいた。

 長髪の金髪とエメラルドの瞳の男は、人気投票一位の俳優にも負けない男前さんだった。

 

 対して怒れる表情のチンピラたち。

 外套はイケメン君に負けず劣らず綺麗だったが、その襲いかかる直前の魔獣ですら逃げ出さんばかりの表情筋豊かな憤怒表現で大減点を食らうような様子だ。

 

「素直に自身の実力を受け入れることも大事だ」

 

 なんて言うものだから、チンピラどもはさらに怒りを加速させた。

 空気読めよ! 火に油を注いでどうする!?

 

 ただでさえ一触即発な場面、イケメン君の言葉によってストッパーが外れてしまったチンピラたちがついにその腕を振り上げることになった。

 

「待て! 貴公ら、喧嘩すんのはやめろ!」

 

 仕方ないので、とりあえず声をあげて注意を逸らさせることにした。

 ……こんな時間に学院にいるし、会話の内容からしても貴公ら全員受験生だよね。受験帰りに大喧嘩とか、折角の今までの努力を水の泡にするつもりかよ。

 実際、少し離れた校舎の屋上に人影が見えていた。その人が教官でこの騒ぎに気づけば、貴公らにとって面倒なことになるだろうに。

 

「あァ!? 誰だてめえ!!」

「邪魔してんじゃねえぞ!」

 

 叫びくるチンピラA&B。

 闇金取り立てを5年はしてないとできないレベルの凶悪さだ。

 

 まあまあと、彼らを刺激しないように手のひらを見せながら誠意ある対応をする。

 そんな朕の姿を確認すると、二人の悪人顔よりも酷い人相のフィリップと呼ばれたチンピラがイケメン君につかみかかっていた手を離すと、ゆっくりこちらにやってきた。

 

「お前、……誰だ?」

 

 低くしわがれた声で威嚇するフィリップ。

 血気盛んなお年頃という奴なのか、朕を喧嘩相手に決めようとしているらしい。

 

「はぁ……。あのな、貴公ら受験帰りだろ? こんなところで騒ぎを起こしてバレたらタダじゃ済まねえぞ」

「あァ? 俺の心配をしてるつもりか、てめえ。あァ!?」

「いや、朕は別にそういうわけじゃなくてだな」

 

 とりあえず、言葉穏やかに伝えてあげようとしたのだが……。

 フィリップが朕に絡んでいる間に、じわじわと朕の後ろの方に回っていくBとC。

 必死に抑えようとしているのだろうが、腰に携えた直剣が鞘の内側と擦れるわずかな金属音がする。

 

 こういう奴らの常套手段だ。

 こっちの注意を逸らせているうちに闇討ちして、怯んだ隙に取り囲んで攻撃する。

 ……こんなのに詳しくなってしまったのも、選択肢のせいだが。

 

「あ、おい!」

 

 朕を襲うBとCの影に気付いたイケメン君が分かりやすく声を上げている。

 けど、こうなったら仕方がない。

 

 朕は懐から念の為に装備していた閃光手榴弾のピンを抜き取る。

 道具持ち込みが許されている実技試験に備えて持ってきた自作の花火みたいなものだが、試験官の爺相手じゃついぞ使う機会も隙もなかったものだ。

 

 閃光手榴弾を真上に投げるとともに、体の力を抜きながらチンピラ三人に囲まれたところからするりと抜ける。

 そして、こちらに手を伸ばしかけているイケメンの、これまた抱擁感のある女性ウケしそうなおててを握って、無理やり背面に向かせるために引っ張る。

 

 カ――ンッ!

 

 という比較的小さめの破裂音とともに放たれる凄まじい強度の光。

 朕とイケメン君は背面を向いているのでその被害に遭わずに済んだが、至近距離で食らったであろうフィリップならびに2人のチンピラはただでは済んでいないだろう。

 

 けど、問題は全て解決、というわけには行かなそうだ。

 

「な――!?」

 

 と、驚きの声をあげるイケメン君の鍛えられた男らしい手を離し、次にやってくる問題に体を構える。

 

 チンピラたちを無力化させている間にずらかってしまえばいいという作戦。

 教官が近くにいる様子もなく、破裂音騒ぎを聞きつけた人が偶然いたとしても、現場に来るまでには逃げ切れるだろうという算段。

 

 その計画に唯一ある穴といえば、先ほど確認した校舎屋上の影。

 と言っても、4階建の校舎の屋上から俺たちのところに辿り着くまでに相当な時間がかかるだろう。

 けど、その予測は――、

 

「あーっはっはっはっは!!!」

 

 ギーっと不吉な音を鳴らしながら回転する螺旋状の巨大な槍先。

 工業用のドリルをそのまま直槍の先端にくっつけたような、魔導仕掛けの武器。

 抉られる想像を掻き立てさせられる、本能の恐怖を呼び起こすような形状。

 

「キアラも、ま・ぜ・て!!!」

  

 屋上から、こちらへと真っ直ぐ飛び込む影。

 風にたなびくスカートの奥の色は黒! ……って何ジロジロ見てんだよ、朕!

 邪念を無理やり振り払い、獰猛な笑顔に向けて、双銃剣の照準を合わせた。

 

 ――そして世界は止まり。

 

【空からお姫様が落ちてきたので、お姫様抱っこをしてやるしかない】

【反撃をするならば徹底的に。泣いて全裸で土下座するまで手を緩めない】

 

 朕は叫んだ。

 

「いらっしゃあああああいいいい!!!!! 抱きしめてやるぞおおおおお!!!」

 

 †

 

「はえぅ?」

 

 気の抜けた声をあげる女の子が、朕の腕にいた。

 ……朕のことながら、朕朕朕朕うるせえなぁ。

 

「ふえ? へぅ??」

 

 未だに混乱し切った表情で朕の顔を覗く女の子。

 燻んだ赤色の高めポニーテールと、炎のように燃える瞳が特徴だ。

 魔法学院の軍服に似た制服を着ている。学年で色が分けられているが、彼女が着ているのは藍色を基調とした新入生用のもの。……合格発表はまだ先のはずだけど、もう制服まで拵えているのか。

 

「屋上から跳ぶなんて危ないだろ? 怪我したらどうするんだよ」

「へ? 怪我?」

 

 言いながら、彼女を腕から離して立たせる。

 先ほどこちらに跳び込んできた時の獰猛な笑顔に、狂気の笑い声はどこへやら、なんだかすっかりしおらしくおとなしくなっていた。

 

 あれ? これってもしかして選択肢(お前)のおかげだったりする??

 

「女の子が元気な姿も可愛いけど、着地ミスったら大変だろ?」

「……キアラこの程度でミスなんかしないけど」

「万が一ってあるだろ?」

 

 拗ねたように返答する彼女。

 ドリル槍を扱えるほどの彼女――キアラにとっては、この程度はなんともないのかもしれないが。

 くだんのドリル槍といえば少し離れた場所に突き立てられながらも、ウィーンと機関部が音を立てている。

 

「ないよ……」

 

 先ほどのテンパった反応は何処へやら、キアラは少しだけ息を吐いた。

 

「はぁ……。なんだかテンション狂わされちゃったなぁ。こんなんじゃ、まだまだってことかな」

「? ……えーと、朕が言うのもなんだけど、年相応の女の子っぽくて可愛かったよ?」

「……。お兄さんさ、よく変人って呼ばれない?」

「え、キアラちゃんすごいな! エスパー?」

 

 なんていう朕の一言に対して、キアラはさらにガックリと肩を落とした。

 あれ? 朕またなんかやっちゃいました?

 

「君たちは知り合いなのか?」

 

 そこで、イケメン君が尋ねてきた。

 

「知り合いなわけないでしょ、こんな変人お兄さんと」

「朕だって傷つくんだよ、キアラちゃん?」

「自分のことを朕って呼んでる人がまともなわけないでしょ」

 

 ごもっとも!

 吐き捨てるように言ったキアラは、自分の得物を地面から抜き取ると、作動していたドリルを止めた。

 

「だが変人と言えば、いきなり見ず知らずの人に襲いかかる君も他人のことは言えないぞ」

 

 いつの間にか腰に携えた直剣を抜き取っていたイケメン君は、他人の神経を逆撫でしかねないような言葉を言い放った。

 

「へぇ……、イケメンのお兄さんはキアラに喧嘩を売ってるのかな?」

「喧嘩を売っていたのは、君の方では?」

「……」

 

 無言でドリルを作動させ始めるキアラ。

 よく見れば、眉間に皺が……。

 

「おいおい! 喧嘩すんなよ!」

「変人のお兄さんには関係ないでしょ?」

「確かに朕には関係ないかもしれないけどさ、喧嘩しそうなのを放っておいていいわけじゃないだろ? それに、朕の名前はフィンだよ。変人のお兄さんじゃなくて、フィンって呼んでくれ」

 

 喧嘩の仲裁ついでに呼び名の変更を求めた。

 朕は変人なんかではない。

 

「わかった、変人のフィン」

「いや、わかってないじゃん! せめてフィンお兄さんとかにして! というかむしろフィンお兄ちゃんで!」

「ばっかじゃないの?」

 

 バカだと!? ふざけるな!

 お兄ちゃん呼びは全人類共通の願望だ!!

 

 と、言ってしまうと本当の変人になりかねないので、その言葉は心の中になんとかしてしまい込む。

 そして、一応衝突が起きないように、二人の間に入っておく。

 

「ちなみにだが、俺の名前はカスパーだ。イケメンと呼ぶのはやめてくれ」

「ほ、ほら! カスパー君からも言ってやってくれ。別に喧嘩するつもりじゃないって」

「?」

 

 朕の必死のフォローに対して、なぜか首を傾げるカスパー。

 ここは空気を読んでくれよ!(懇願)

 

「俺は別に戦うことに関しては吝かではないんだが」

 

 空気を読んでくれよぉ!

 

【自分も戦うのは吝かではないので、大乱闘する】

【カスパーとタイマンを張るのも吝かではない】

 

 空気を読んでくれよ!!(怒り)

 いや、どうせ選択肢(こいつ)のことだから、空気を読んで選択肢出してやったぜとか思ってるんだろな! どんだけ吝かじゃねえんだよ! ちょっとは吝かれよ!

 いいか? 朕は戦いを止めたいの! 火に油を注ぎたくなかったの!!

 

「はぁ……」

「? どうしたそんな大きなため息をついて」

「かかってこい」

 

 双銃剣の照準をカスパーに合わせながら、朕は続けた。

 

「そんなに吝からねえってんなら、朕が相手になってやるよ」

「……?」

 

 何故? みたいな顔のカスパー。

 だろうな。なんで貴公と朕でやらないといけないのか、朕が一番知りたいわ。

 けど、大乱闘になるくらいだったら、二人の衝突で済ませたほうがマシだ。

 

「手ぇ出すんじゃねえぞ、キアラ。これは朕とカスパーの勝負だからな」

「……」

 

 などと、因縁の戦い風の無駄に洒落た台詞を吐く朕。

 これでキアラに空気を読んでもらえれば、一応マシになるだろう。

 

「何がなんだかわからんが、別にお前が相手でも構わないぞ」

 

 そう言いつつ、直剣を構えるカスパー。

 ため息が出そうな気分を抑えて、朕も一応双銃剣を構え直す。

 

 そして意味もわからず理由もなく始まった戦いの火蓋が切られ――、

 

「おっと、そこまでです」

 

 この混沌とした場に新たな人がやってきた。

 綺麗なスーツを着ている、柔らかそうな笑顔と触れば斬られてしまいそうな雰囲気が不釣り合いな男。

 ……朕の実技試験で、試験監督の一人を務めていた人だ。

 

「魔法学院では学生同士による私闘は禁じられています。配布された資料で確認しませんでしたか?」

 

 近づいてくるだけでビリビリと痺れるような錯覚に襲われる。

 雷系統の魔法か何かを使える人なのだろうか。おそらく魔法学院の教員なので、そういったこともできるのだろう。

 

「フィン・シュミット君に、カスパー・フォーゲル君。そこに倒れている……、受験生の1名と部外者2名についての説明をお願いできますか? それと、キアラ君もなぜここにいるのか、説明が欲しいですね」

 

 静かに、だが責めるようにして話す男。

 事件当日にして、いきなり教官による事情聴取を食らうは夢にも思わなかったが……。

 

「……興が覚めた。もういい」

 

 キアラはそう言うと、ドリル槍を担いで走り去っていく。

 どこまでも自由な女の子だなぁと感心していると、

 

「キアラ君、どこに……? 詳しいお話は入学後に聞きましょう。ですが、これ以上ここで騒ぎを起こさないでくださいね」

 

 キアラの影を追うようにして男も去っていった。

 入学後って……合格発表もまだだってのに。

 けど、実質無罪放免ってことだろう。そう思って、朕もさっさとずらかろうとしていたところ、

 

「俺たちは戦わなくてもいいのか?」

 

 純粋な顔をしたカスパーがそんなことを言い出した。




Web小説などの流行を全無視して、息抜きに投稿する作品になるので、ゆっくりだけど自分が好きになれる作品に仕上げていきたいと思っています!
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