寄成ギョウに転生したから、キャラの良さガン無視して善人になるニョロ〜! 作:ライダー☆
ちょっと違和感持つかもですが、何卒(*´ω`*)
「ひとりぼっちの いしぞう モアイランド」
むかしむかし、おおきな いしぞう が そらから おちてきました。
その いしぞうの なまえは モアイランド。
モアイランドの ゆびからは、まぶしい ひかりの ビーム が でます。
ひかりを あびた ばしょには、あたらしい むら が うまれました。
きが はえ、かわが ながれ、みんなが くらせる すてきな ばしょ に なっていきました。
ひとびとは モアイランドを しんせいな いしぞう と たたえて だいじにしました。
でも、モアイランドが なぜ つくられたのか を しっている ひとは だれも いませんでした。
とおい むかし、ひとりの おとこ が いました。
おとこは すごい ちからを もつ きんだん クリーチャー というそんざい を うみだそうと けんきゅうしていました。
けれど、うまれたのは むらを つくる おおきな いしぞう、モアイランド でした。やさしい こころ を もつ モアイランド は かれにとっては やくたたず でした。
「こんなものは しっぱいだ!」
おとこは モアイランドを すて、そらから ちじょうへ おとしてしまいました。
それでも モアイランドは こころを もって いました。
やさしい こころ を もって いました。
「むらを つくる ちからが あるなら、きっと やくにたてる」
モアイランドは そう おもい、むらを つくりつづけました。
あるひ、モアイランドは ひとりの おとこ に であいました。
おとこは このせかい の えらい おうさま でした。
「きみは だれだ? すごく おおきい。 けど、みたことがないな。」
おとこは いいました。
モアイランドは はなすことが できません。
かわりに ゆびから ひかりの ビーム を だし、あたらしい むらを つくりました。
すると おとこはびっくり。 モアイランド に はくしゅ を おくりました。
「これは すごいな……! いまからでも きみの ちからを かりたい! ぜひ、なかま に なってほしい!!」
おとこは このせかい を はってん させたい と おもっていたのです。 モアイランド の そんざい は さいこう な ものでした。
モアイランド は うれしくなって、すぐに うなずきました。
おとこは よろこび、それから ずっと モアイランド を となりにおいて いっしょに なかまとして すごしました。
はじめのうち、おとこは ひとびとの ために いっしょうけんめい はたらいていました。
モアイランドといっしょに たくさんの むら を つくり、ひとびとや クリーチャーたちを しあわせにしました。
でも…… しばらく すると、おとこは かわってしまいました。
なぜか わかりません。
いつのまにか おこりっぽく なり、なんでも こわそうとするように なったのです。
「こんな むら は もう いらない!!」
おとこは むらを こわしはじめました。
ひを つけ、クリーチャーたちを ふみつけ、モアイランドが つくった むらを めちゃくちゃに してしまいました。
むらの ひとたちは モアイランドを しんじて いました。
でも、おとこが あばれはじめた とき、モアイランドも いっしょに いたため、ひとびとは モアイランドも わるいもの だと おもってしまいました。
「モアイランドは おとこの みかただ!」
「もう むらを つくらせては いけない!」
「あいつは わるものだ!!」
ひとびとは モアイランドを おいはらいました。
クリーチャーたちも こわがって にげました。
モアイランドは なにも していないのに、
だれも モアイランドを しんじて くれなく なってしまいました。
こうして モアイランドは ひとりぼっち になりました。
モアイランドは かなしく なりました。
せっかく つくった むら は、ぜんぶ なくなってしまいました。
でも、モアイランドは むらを つくる ために うまれた いしぞう です。
だから モアイランドは また むらを つくりました。
けれど、もう だれも その むらには すみませんでした。
だれも モアイランドを みとめて くれませんでした。
ひとりで むらを つくることに、モアイランドは つかれてしまいました。
さびしくて、しかたが ありませんでした。
このばしょには もう、モアイランドの ちからを よろこぶ もの は いませんでした。
モアイランドは そらを みあげました。
この ひろい せかいの どこか に、モアイランドを うけいれてくれる ばしょが あるのでは ないか……?
モアイランドは すこしの あいだ たちどまりました。
そして、ゆっくりと あるきはじめました。
どこへ いくのか、それは だれも しりません。
どこへ むかうのか、それは だれも しりません。
けれど、モアイランドは もう ひとりぼっちでは いたくない のです。
それきり モアイランドを みた ものは いませんでした。
これは、 とても かわいそう な いしぞう の おはなし。
―クリーチャーワールド 誰が書いたかもわからぬ子供向けの絵本より―
ーーーー
シンラは、ジョーに引き連れられて、あの雑貨屋の前に立っていた。
昨日、シンラはシンラセンショーに「明日ぐらいにジョーと一緒に行ってやろうぜ」と言われていた。彼女は実際暇だったし、拒否する理由もなかった。
店の外には、小さな看板がひらひらと風に揺れている。「アンドー屋」と書かれたそれは、シンプルながらもどこか魅力的に見える。
店内からは、心地よい音楽と香りが漂ってきて、シンラは一瞬足を止めてしまった。
「ここがその店……?」
「うん、すっげぇ渋くていいだろ?店主さんも、すごく優しいしさ!それに、変わったものもたくさんあるんだよ!」
「ジョー様はここのお店の店主のことが好きですからねぇ。実際、私も見ていてほっこりするような人でした。」
ジョーとデッキーが嬉しそうに言うのを見て、シンラは少しだけ興味を持った。
しかし、シンラセンショーはそういう場面はなく、どこか警戒していた。昨日、ジョーがランドセルにつけていたあの目のストラップのことが頭から離れない。普通のストラップとは何かが違う。彼はそれを指摘することはなかったが、心の中で何かが引っかかっていた。
だが、もう昨日の時点で多少の検討はついていた。
「おいで、シンラちゃん!店主さんもきっと歓迎してくれるよ!」
ジョーが先に歩き出し、シンラもそれに続く。店の扉を開けると、店内は思ったより広く、さまざまな雑貨が並んでいた。棚には、どこか懐かしさを感じるような小物が並び、壁には奇妙な絵やアクセサリーが飾られている。シンラは興味津々でその一つ一つを見て回りながら、心の中で初めてのお店でちょっとばかし不安な気持ちを抑えようとしていた。
店の奥から、穏やかな声が聞こえてきた。「いらっしゃい。ジョーくん、そしてお友達も。」
その声にシンラは少し驚いた。出てきたのは、年齢不詳の男性だった。彼は中年に見えるが、目元にはどこか不自然な若さが残っている。身長は平均的で、髪は黒く短く、顔立ちは整っていて、どこか落ち着いた印象を与えていた。その表情には、優しさと温かみがにじみ出ている。
「あ!アンドーおじちゃんこんにちはー!!」
「こ、こんにちは。」
シンラが少し緊張しながら挨拶すると、首から「安東ミラ」という名札をかけているその男性はにっこりと笑った。
「こんにちは。君がシンラちゃんか。ジョーくんから話は聞いてるよ。」
「え?本当に?」
「もちろんさ。ジョーくんは昨日、君のことをよく話してくれたからね。君が来てくれて嬉しいよ。」
その言葉にシンラは少しホッとしたような気がした。彼の優しい笑顔に、心の不安が少しずつ解けていく。ジョーも嬉しそうに二人を見つめていた。
「シンラちゃん、アンドーおじちゃんはデュエマも強いんだぜ!やってみなよ!!」
「そうだね、ジョーくん。」店主は頷きながら、シンラに目を向けた。
「けど、デュエマよりお店のものを拝見したいと思うなら、それをしてくれ。もしよかったら、何か気に入ったものがあれば持って来ておいで。」
シンラは少し考えた後、店のものを拝見することにした。そして少しすると、棚に並べられた小さなブローチに目が止まった。
そこに描かれているのは、奇妙な目を持つ模様で、なぜかその目がシンラの目を引きつけた。それは、ジョーがつけていたストラップとほとんど一緒のものだった。
「これ、素敵……昨日ジョーがつけてたやつとおんなじ見た目してるやつ。」
「あ、それ?」
「確かに、ジョー様のランドセルにつけていたストラップと似ていますねぇ。」
「うん。でも、なんでかはわからないんだよなぁ〜……なんか、すっごい魅力に惹かれるというか……」
「実際、そういう不思議な魅力があるように思えてしまいますもんねぇ。あのブローチだけ、個数が少ないってことは、売れてるってことでしょうし……」
「ねぇ、店主さん。これお願いできる?」
「ん?あぁ、これがが気に入ったかい?それなら、プレゼントだよ。」
店主はそう言って、お金は取らず、ブローチを手に取ってシンラに差し出した。その時の笑顔はとても暖かかった。
「えっ、でも……。」
「気にしないで。お金はいらないさ。僕は君たちが笑顔になってくれればそれでいい。……そのブローチ、きっと君に似合うよ。」
その優しい言葉に、シンラは何も言えず、思わず手を差し伸べた。店主の手からブローチを受け取ると、目に映るそれがどこか不気味でありながらも、どこか惹かれるものがあった。
「ありがとう……。」
「どういたしまして。君には、これがきっと必要なんだろうね。」
その言葉を聞いた瞬間、シンラは一瞬、ゾクッとした。店主の目が、まるでシンラの心の中を見透かすように見えたのだ。だが、それも一瞬のことだった。店主はすぐに穏やかな笑顔を浮かべて、ジョーとシンラを見守っていた。
「……シンラちゃん、おじちゃんとデュエマしてみなよ!おじちゃん、すっげぇ強いんだぜ!!」
ジョーがシンラへと歩み寄り、そう言ってくる。店主は笑い、「やるかい?」と促してくる。
シンラも自分のやるべきことへと近づくため、店主とデュエマをすることは確実なる一歩になると思っていた。それにジョーが強いというのだから、かなりの成長さえ見込めるとその時思い、やることにした。
デッキケースからデッキを取り出し、私とデュエマをしてほしい。と口を開こうとしたその瞬間だった。
「おい。」
突如、そのデッキケースから声がする。シンラセンショーだった。彼はカードから半分体を出し、店主を睨みつける。
「あの方は……シンラ様の切り札の……!?」
「急にどうしたんだろう……?」
シンラセンショーの目は鋭く光り、じっと店主を見据えていた。その冷徹さ、強烈な威圧感は、まるで空気を切り裂くような感覚をシンラに与えていた。店内の雑多な物品が、まるで時間が止まったかのように静まり返る。ジョーの無邪気な笑顔も、今や彼の背後に立つシンラセンショーの存在感に霞んでしまった。
一瞬にして、店内の空気が変わった。静寂の中で、シンラの心臓が一瞬だけ早鐘を打つ。
「なぜここにいる?…………モアイランドだよなぁ、お前。」
その言葉が、シンラの耳に深く刻まれる。シンラは息を呑んだ。店主の顔に、ほんのわずかな変化が浮かんだ。その瞬間、シンラは感じた。彼が隠していた何か、ただならぬ力――それが全身から滲み出てきたことを。
彼は動かず、しかしその目に一瞬の鋭さが宿った。それでも、その表情はすぐに消え、代わりに軽やかな微笑みが浮かんだ。
「お前、よく気づいたな。シンラセンショー。やはり、あの方の隣にいた同士の仲……と言ったところか?」
「…………まぁな。それと、お前の名前、安東ミラ、ちょっと考えてみればわかる。「ANDOMIRA」……「MOAIRAND」のアナグラムだ。」
「もっと難しくしたほうが良かったかなぁ……全く、バレてしまうとはねぇ。」
その声は、低く、響き渡るような不気味さを帯びていた。シンラはその響きに引き込まれそうになる自分を必死に抑え込んだ。モアイランドはただの雑貨屋の店主だと思っていた
――だが、今、目の前で繰り広げられるその奇妙なやりとりの中に、確かに異質なものが存在していた。
「それがどうした?」
シンラセンショーが冷たく言い放つ。続けてこうも言う。
「お前が隠してきたもの――それが、俺には見える。」
シンラセンショーは、モアイランドの周囲を無駄な動き一つせずにぐるりと見回すと、再び目を店主に向けた。その眼差しに込められた鋭さは、まるで獲物をじっと見つめるようなもので、シンラはその圧力に飲み込まれるのを感じた。
「…………目のストラップだ。」
シンラセンショーが続ける。
「あれは、ただの飾りじゃない。お前がその力を使うための道具だ。」
シンラはその言葉に息を呑んだ。あの目のストラップが、どこか魅力的なアクセサリー、それ以外は何ら普通のものなんだと思っていたが――それが、ただならぬ力を秘めていることに気づいた瞬間、体の芯から冷徹な感覚が駆け巡った。
モアイランドの微笑みが一瞬で消え、代わりに冷たい眼差しがシンラセンショーを捉えた。
「よく気づいたものだ。」
その声は、今や無慈悲で冷徹な響きを帯びていた。
「あの目のストラップは確かに、私が持つ力を隠すためのものだ。いつか……何者かに気づかれるのも時間の問題だったが、それでもここまで早く……とは思わなかった。」
その瞬間、シンラの胸の奥で何かが大きく動いた。モアイランド――いや、彼はただの雑貨屋の店主ではない。彼が持つ力の正体、そしてその本当の目的が、シンラに少しずつ、しかし確実に迫っていた。
「あぁ、そうだ。私は、ただの店主ではない。」
モアイランドは冷徹に言い放つ。
「私の存在そのものが、この世界に深く根を張っている。あの目のストラップも、私の力を隠すための一つに過ぎない。……あの力など、私にはもはや必要はない……」
その言葉にシンラの心が揺れる。今、目の前で言葉にされる真実が、あまりにも恐ろしいものに感じられた。モアイランドの正体は、ただの異世界の怪物ではなく、もっと深い、恐ろしい存在――影で自らが何を受け、こうなるまでに至ったのかが、彼の言葉から浮かび上がってくるようであった。
「お前は、全てを知っているのか?」
シンラセンショーは冷ややかに続ける。
「お前の力は、すでにこの世界の枠を超えている。地球はクリーチャーワールドなんかよりもよっぽど小さいんでな。……あの目のストラップ――それは単なる隠蔽の道具ではないな。お前は、一体何を企んでいるというのだ……!?」
モアイランドの顔に、微かな笑みが浮かぶ。
「……教えよう。」
モアイランドはゆっくりと答える。
「私が今までこの世界に注いできた力は、私が「自由」を勝ち取るために注いできた力さ。私から力が完全に失われれば、私は新たにこの世界に存在する「ニンゲン」として生きることができるということに気がついたのだ。それに気がついたのは最初も最初、私が地球へとやってきたときだ。私の平和の力を込めたストラップを販売するときに、それに気がついた。しかし私は、そのときは「ニンゲン」の姿に変化しているだけであって、「なりたい」だなんてそんなこと微塵も思っていなかった。」
「………………」
「だけども、人の暖かさに触れるにつれ、その思いは激しくなっていった。クリーチャーワールドで長い時間感じることのできなかったその暖かさを、私は手放したくなかった。だから私は「ニンゲン」として、新たなる人生を始めようと思ったのだ。そうすることができれば、誰の手にも私がクリーチャーワールドからやってきた存在だということはバレないから……!」
「モアイランド……お前……」
「……だが、君たちがそれを知った以上、後戻りはできない。」
その瞬間、シンラの背筋が冷たくなった。モアイランドの言葉には、恐ろしい決意と、確信に満ちた力が感じられた。その力に触れることで、シンラは自分が今まで知らなかった世界に足を踏み入れようとしていることを、強く感じた。
彼女は、まだ理解が追いついていなかった。シンラセンショーと店主の会話を聞いているだけであって、本質は浮かんでこなかったのである。
「ねぇ、何が、どういうことなの?シンラセンショー、教えて。一体これは……」
「…………俺がお前を、ここに連れてきた理由だ。昨日「演技をしてお前を騙した」理由だ!」
「何よ、それ……」
「深く説明することは今はできんから結論だけ言うぞ。こいつはクリーチャーだ!ニンゲンじゃない!!」
その間、ジョーとデッキーは、彼らの会話から考察をしていた。そして今聞こえた言葉から、その考察が完全なものであると理解し、ひそひそ話していた彼らの声は少しばかり大きくなった。
「……ねぇ、デッキー、まさかと思うけど……あのおじちゃんって……!!」
「は、はい。間違いありません!デュエルウォーリアです……!!!!」
「……っ。君たちは眠っていてくれた前。」
その時、目の前で、ジョーが手にしていた目のストラップが突如として輝き始めた。光は激しく、強く、そして圧倒的な勢いで広がり、周囲の空気を歪ませる。シンラはその光を直視できず、目を閉じることしかできなかった。だが、光の中で確かに感じたものがあった――それは、まるで全てを消し去るような、恐ろしい力だった。
「ジョー!」
シンラは声を上げるが、ジョーの身体はすでに反応を示さず、無力に倒れ込んでいた。その目のストラップが、まるで力を解き放つように光り続け、ジョーの身体を包み込む。ジョーが意識を失ったその瞬間、シンラはその異常さを深く理解した。
「その子は、優しい子だ。……だからこれ以上被害に巻き込みたくない。だからこうして一時的に意識を消した。そして、この、数分の記憶も失うようにしておいた。ストラップにある私の力でね。けど、君はそうすることはできない。ストラップだけに力は込められているからね。ブローチにはそれはない……」
「…………これ以上話す理由はないはずだぜ。」
「そうだな。……では、始めようか。頼むとするよ、シンラセンショー。」
「あぁ。」
シンラセンショーは、無言のまま周囲に強い意志を放つ。その冷徹な目がシンラを捉えたまま、静かに立ち上がる。その足元から微かな光が立ち上り、次第に強く、光の波紋が広がっていった。
「ねぇ……まだ私よくわかってないわよ……これから何が始まるのよ!?何が……」
「…………命を賭けた、デュエマだ。」
シンラセンショーの声が、冷徹に響く。
「……残酷だが、虚言に見えるが、真実だ。お前には……重荷を背負ってもらうことになる。」
その言葉とともに、シンラセンショーが静かに立ち上がる。彼の体から次第に強く光が放たれ、その光がまるで周囲の空間そのものを切り裂くように広がり始める。シンラはその光に目を細めると、次第に目の前の現実が揺らいでいくのを感じた。
「ちょ、ちょっと待って…………!重荷を背負ってもらうって……命を賭けるって、そんなことがあるっていうの!」
シンラの声が、焦りと不安で震える。だが、シンラセンショーは一切その言葉に答えず、ただ光を強く放つ。その光は、目の前の空間を歪め、シンラの視界を一瞬にして消し去った。
彼女が感じるのは、ただひたすらに強く、熱い光。体が軽くなるような感覚と共に、異次元へと引き寄せられるような力が働く。すべてが曖昧になり、彼女の意識は一瞬、浮遊しているかのように感じられた。
「きゃあっ……!」
シンラの叫び声がかすかに響いたその時、光が一層強くなり、彼女の周りの空間が完全に消失してしまった。
目を開けると、そこは完全に異次元の空間が広がっていた。シンラの足元には、透き通るような光を放つ床が広がり、その先に無限に続く塔のような構造物がそびえている。巨大で神秘的なデュエルフィールドが、目の前に広がっていた。
「ここが……真のデュエルフィールドだ。」シンラセンショーの冷徹な声が、シンラの耳に届く。
その声には一切の疑いもなく、この場所がただの遊びの場ではないことを伝えていた。シンラの胸は高鳴り、深い不安が彼女を覆う。だが、同時にその恐怖を超える何かが湧き上がってくるのを感じた。
「これが……何もかもをかけたデュエルの場所……い、命すらも……?」
「あぁそうだ。その通り。……そして……これからお前にすべてを説明する。……お前が店主と言っていた存在はデュエルウォーリア、いわばクリーチャー世界からやってきた存在だ。」
「もうそれはわかった。けど、それがどうしたっていうのよ……?」
「…………許可されたクリーチャー以外が地球にやってくることは、重罪なんだよ。」
「重罪、ですって……?」
「あぁ。……なぁ、お前は罪を背負った存在は、どうなるべきだと思う?」
その問いは、シンラの心を深く揺さぶった。シンラは必死に言葉を絞り出すが、その答えは見つからない。いや、厳密に言えばすぐに見つかった。だがあの優しい店主へとそれを言うのがどうにも憚られたのだ。
目の前のシンラセンショーの無慈悲な冷徹な眼差しが、彼女を追い詰めていく。
「…………許してくれシンラ。俺も、お前をこうして、巻き込むことは極力したくはなかった。だがこうなってしまった以上は仕方のないことなんだ。」
「仕方のないことって……ふざけないでよ!あの人が何をしたっていうの!?ただ平和に暮らしていたいだけじゃないの!?」
「……あぁ、そうだろうよ。」
「はぁ……?じゃあなんで……なんで……」
「お前の父親は、クリーチャーワールドを壊滅までに追いやった。それ故か、それに便乗するかのように、地球へと向かって暴動を起こしたクリーチャーがいたんだ。名を「阿修羅ムカデ」。そいつはその後処刑されたが、それ以来どんなクリーチャーでも地球に向かうことを重罪としたんだ。……善いやつだろうが邪いやつだろうが。」
「………………嫌よ、私は……私は……!!」
「覚悟を決めろ、シンラ。……デュエルマスター候補として、この道は結局、逃れることはできんの道なんだ!!!早く済んだだけ有り難いと思えっ!!!」
「…………っ。」
モアイランドは自らの力を開放し、本当の姿をオーラとしてあらわにする。
古代兵器。彼の昔の姿であった。
「シンラ。デュエマを始める準備をしてくれ。…………これは試練なんだ。試練なくして、お前は強くなれん。……まだ子どものお前にこんなことを言うのは違うかもしれないが……覚悟を決めろ。」
「っ……!!!わかったわよ!!」
シンラは横暴気味に、デッキからシールドを5枚、手札を5枚引いた。シールドは赤色のオーブを中心に模様入りの盾のような形で展開された。
「……シンラセンショー、そっちは、準備できたのか?」
「あぁ。……シンラ、始めるぞ。」
「……うん。」
「……(許してくれ人の子よ。私はまだ、自由を手に入れたいと思ってしまっているのだ……)」
そうして、二人の命を賭けた、無ジョーなるデュエルが始まった。
安東ミア(モアイランド) キーカード:古代兵器モアイランド
奇成シンラ キーカード:進化の始まりシンラセンショー
『真のデュエル、スタート。』
【ついに始まった、命を賭けた真のデュエマ!序盤、互いに動かず相手の様子をうかがう展開に……。】
モアイランド マナ6 シールド5 クリーチャー1
シンラ マナ5 シールド5 クリーチャー0
……駄目だわ。やらなきゃいけないっていうのはわかる。けど……それでもやっぱり嫌よ、こんな状況に急に立たされて、彼を始末しろなんて言われて……私は、どうすればいいっていうのよ……!?
私のこんな精神状態からか、カードも応えてはくれないし…………どうしよう……
「……ねぇ、本当に、これはしなくっちゃだめなの?」
「…………逃れることはできない。決して、だ。……デュエルウォーリアは地球から、ひとり残さず消さなくてはいけないんだ。」
「うぅ……!!」
モアイランド ターン6
あの子……やはりまだ精神状態が良くないみたいだな。となれば……私は彼女に少しぐらい自分の力を与えた。誰にもバレぬようにこっそりと、だ。彼女の顔の血色は、先程よりは良くなった。……これでいい。これで、私も彼女を気にかける必要はなくなった……思う存分、デュエマに専念ができる!!
「私のターン、ドロー。そして2体目のルグンドドを召喚!!そしてシールドを、ブレイクだ!」
シールドが割られ……っ!?何、これ……?私の前に来て、護ってくれた……?
「……シンラ。これは真のデュエル。遊びじゃない、負ければ命を失う……盾はお前が装備している防護服的存在を担っているんだ。割られれば当然、お前にも傷がつく。」
「………………(じゃあ、私……このままだと、死ぬ……。)」
「……少しくらいは気づいただろう。このゲームの恐ろしさに。」
「これで私はターンエンドだ。さぁ、君のターンだよ。」
状況を把握できているようだ。顔は震えているが、それでも多少の余裕がある。それを保つんだ。そうでなければ、君は私に、本当に負けることになるんだから……!!
シンラ ターン6
「私のターン。ドロー。」
「覚悟を決めたはずだ、シンラ。……ヤケクソでもいい、成すべきことを今は成せ。」
「そんなこと、言われなくたってわかってるわよ!!こっちも、ルグンドドを召喚!そしてその上に、マエダメダ・タンクをNEO進化!!」
NEO進化。進化でもそうでなくても扱うことのできるクリーチャー……あの子、まさかそれを持っていたとは……しかもあのクリーチャーは、昔に私が作った……
「マエダメダ・タンクでルグンドドを攻撃!そして、バトルに勝ったときにこいつの効果は発動する!あなたのシールドを、2つブレイクよ!!」
!!……あの人にも、傷がついてる……けど、けど……!これ以上私は自分を落とすわけにはいかないわ。自分を、どうにかして上げていかなくっちゃ……体たらくなんてもう見せることはしない、シンラセンショーの言うとおりよ、私は覚悟を決めた!!
「……(あの感じ、あの目、どうやらちょっとばっかり理解ができたみたいだな。しかし……)シールド・トリガー、フェアリー・ライフ。これで1マナを加速だ。」
「ターンエンドよ。」
「いいぞ、シンラ。その調子を保っていってくれ。」
「えぇ……わかってるわ。」
モアイランド ターン7
「どうやら君も、覚悟を決めたらしいね。よかったよ…………だけど、私は負けるわけにはいかないんだ!やり遂げたいことがあるんだ!また、あのときのように、あの暖かさを私はほしいんだ!そのためにも私は負けられない、絶対に勝つ!!!」
(!?あ、あの人の目……完全に、別人だわ。本気で、私を殺そうとしてくるような……!!)
「行くぞ、ニンゲン!!!」
私は……自由になる。
それが私が求める道、それが私のたった一つの目標……!
いつか朽ち果てた温もりを取り戻すためにも、私は、ここで終わるわけにはいかないんだァーーーッ!!!!ドローー!!!!!
……さぁ、古代兵器としての意地を見せてやる!!
「9マナで、古代兵器モアイランドを召喚!!」
なっ、で、でかい!?地球にあるタワーなんかよりも圧倒的に……!!!あれが、あの人の切り札……いや、あの人自身……!!
「ルグンドドで、シールドをブレイクだ!!」
「シールド・トリガー、
「モアイランドの効果、相手は呪文を唱えたり、フィールドを展開することはできない。……それを踏まえて、だ。君はどうするか……ターンエンドだ。」
……あ、あの人の感じが確実に変わってる……同情したら、確実に負ける……!!もう、私は悩まないわよ、自分の中で吹っ切れてんだから!!!!
シンラ ターン7
「私のターン!マナチャージ、マファリッヒ・タンクを召喚!そしてマエダメダでルグンドドを攻撃!これでまた2枚、ブレイク!!……ターンエンドよ。」
呪文を唱えられないから、シールド・トリガーは信用ができないし……けど、相手もモアイランドだけでこっちにとどめを刺すことはできないはず……だったらシールドなんてブレイクさせてやるわ。傷だっていくらでも受けてやる……!そうすれば手札は増える!そこで確実に勝ちまで持っていってやる!!
モアイランド ターン8
「何かただならぬ覚悟を感じる。先ほどとはちょっと違う……けど、それも無駄だ。」
「なんですって……!?」
「龍装者カカンロクを召喚。そしてモアイランドで……マエダメダ・タンクを攻撃。」
なんですって、嘘でしょ!?シールドじゃなくってクリーチャーを!?マファリッヒ・タンクを警戒したから?それとも打点が完全に揃っていないから?いや、そうだとしても呪文を封じているんなら、シールドブレイクをするべきなんじゃないの!?
……破壊された。いや、ちょっと予想外の行動だったけど、動くための余裕が増え……
「その時に、」
「え?」
なんで……なんで……?なんでまだモアイランドが攻撃してきてるの!!?
キャァッ!!!……シールドが三枚……割られた、いや、傷がついてない。割られたんじゃないわ。……マナゾーンに、置かれた?
「モアイランドはバトルに勝ったとき、相手のシールドを3枚まで選び、マナゾーンに置くことができる。さぁ、これで君のシールドは0枚だ。次のターンでトドメをさせる。……対する君は、攻撃できないクリーチャーが一体だけ。さぁ、どうする?ターンエンド!」
確かに……このままだと私は負ける、いや……死んじゃう。……なんか、すっごい冷静になってるわね、私。とんでもない境地に立った人ほど冷静さを欠かなくなる、みたいなこと聞いたことあるけど、こういう感じなのかしら。死んでしまうっていう実感もわかないわね。
けど、今本当にやばい状況だってのは理解できる。あの二体を確実に除去しないとマズイ、だからこそ……今私に必要なのは、「魂」。燃え上がるようなデュエ魂よっ!!!!
シンラ ターン7
「もう恐れないわ、もう弱音を吐いたりしないわ…………私は今ここで!あなたに全力で立ち向かってやる!!!」
「……来いッ!!!」
私は、私の今やるべきことを果たすだけ。私は…………目の前にいる敵を倒す!力をつけるのよ!父さんを助けられるのはこの私だけ……だったら、私がやらなきゃ誰がやるっ!!
そして掴み取るのよ、強さの果てにあるものを……!!ドローーーッ!!
私はまだまだ成長できる。……「あなた」と一緒よ。
「
「来たか……!」
「シンラセンショーの登場時効果で……あなたのクリーチャー2体をマナ送りよ!!!」
「馬鹿な、クリーチャーが……一気に!!?」
「そして、シンラセンショーがバトルゾーンに出たとき、相手のクリーチャーが1体もいないなら、相手プレイヤーを攻撃できる!!行け!最後のシールドをブレイクよ!!」
〈ハァッ!!!〉
……最後のシールド1枚……シールド・トリガーではない、か。
これで彼女はターンエンド。となればここで私が即座攻撃できるクリーチャーを引けなければ負け。
モアイランド ターン8
「ドロー。…………ターンエンドだ。」
「ッ…………。」
「どうした?君のターンだ。見てわかるだろう、私は君にとどめを刺すことができない。今引いたカードは呪文だ。どうあがいたって君を攻撃することはできなかった。」
……わかってるわよ。けど、それ以上に……私のターンが回ってきたってことは「そういうこと」なのよね?受け入れなくっちゃだめ。覚悟は決めた。……けど、けどそれでも!やっぱりあの人を殺すことなんてしたくない!
気づけば、頬を伝うものがあった。こらえようともせず、ただ静かに涙は零れ落ちていく。
私はシンラセンショーの方を見た。声にならない想いを、ただ目だけで訴えかける。
頼む、もうやめようよ。こんな戦いになんの意味があるの。きっと、あの人を助ける方法があるはずよ――。
けれど、彼はそれを静かに受け止めると、ゆっくりと首を振った。そしてそこでわかった。これまで私に冷酷だった彼のその瞳には、確かな迷いがあった。怒りでも憎しみでもなく、ただ苦悩だけが滲んでいる。
「俺だってあいつを殺したくない。」
彼の微かな仕草が、そう語っていた。
シンラ ターン8
「私の…………ターン。」
攻撃のために手を伸ばし、カードへとかかった指先に力を込める。
だが――動かない。
いや、違う。本当は、動かしたくなかった。
まるで重圧に縛られたように、指がかすかに震える。それでも、心の奥底ではわかっていた。これは迷いではない。揺るぎない意思が、私を止めているんだって。
すると、シンラセンショーが自らの足で彼の方へと歩み始めた。迷いながらも、その足は一歩ずつ前へと進んでいく。
私は息を詰めた。彼が何を考えているのかは、痛いほどわかる。それでも、止めなければならない。
私は震える手を伸ばした。彼の袖を掴もうとしたが、ほんの少し届かない。足が竦んでしまう。
シンラセンショーは立ち止まり、ゆっくりと目を伏せる。
静寂が満ちる。
誰もが、この結末を知っているかのように、ただ見守ることしかできない。どうすることもできない……。
やがて、彼は深く息を吐き、ほんのわずかに口を開いた。
それは、祈るような、あるいは言い聞かせるような声だった。
〈……とどめを刺すんだ。シンラ。〉
「……えぇ、わかってるわ。」
〈じゃあなぜ指を動かさねぇ。〉
「……動かしたくない。」
〈今更甘ったれるか!もうここまで来たんだ!言っておくが、どちらかが命を落とす以外、このデュエルを終わらせる方法はないんだぞ!〉
「じゃああなたが自分の意志で行けばいいじゃない!!!」
〈なっ……〉
「やろうと思えば、私の意志関係なくそれができるはずよ。なんでしないのよ……あんたみたいな……あんたみたいな!!薄情者だったら、そんなこと花を摘むように、できるんじゃないの……!」
〈なんだと……?何と言った!!もう一回言ってみろ!!!シンラ!!!〉
私の涙声混じりの罵声が響き渡ろうとした、その時だった。
「やめなさい!」彼の怒声が、空気を切り裂くように響いた。優しくも鋭いその一言は、周囲を一瞬で凍りつかせ、私達が息を呑むほどの威圧感を放った。
「身内同士の争いなんて、くだらないことをするんじゃない。……今は、この私を殺すことを第一に置かなくちゃいけないでしょう。」
〈…………モアイランド……お前……わかってるのか?自分がこの世界から、存在ごと消え去るんだぞ?〉
「この期に及んで、君が弱音を吐くのかい?……さっきの彼女と同じじゃないか。それよか、よっぽど彼女のほうが、今は勇気があると思うけどね。君にあんなことを言うものなんだから。」
〈………………〉
「怒っているわけじゃない。ただ、今すべきことを間違っていたから、それを正しただけだ。……さぁ、動いてくれ。私を殺してくれ……。」
彼の言葉は刃のように鋭く、私達の心を突き刺す。何の感情もなく、ただ静かな冷徹さが全てを支配する空間の中で、無情な現実が静かに広がっていく。
「嫌だ、嫌だ。」私はその言葉を繰り返すしかなかった。唇が震え、心は破裂しそうに痛んでいた。
すると、彼が私の名前を呼んだ。私は真っ赤になった顔を彼に向けた。彼は最期が迫っているはずなのに、優しい笑顔を見せていた。
「……私は、孤独に耐えれず、また再び、あのときの自由を、暖かさを手に入れようとした。だが、それは私自身が、自分の弱さから逃げているだけなんだってことを、ずっと心の中で知っていた。その言葉が、今更ながら胸の奥で響き渡るよ……。私は、何度もその感情に押しつぶされそうになりながらも、気づかなかったふりをしてきた。でも、もう、無理なんだ。逃げてばかりじゃ、何も変わらないことに、ようやく気づいたんだ。あの日、あの瞬間、私は確かに何かを手に入れたと思った。でも、実はそれはただの幻想だった。あの暖かさ、あの自由――それらは一時の安堵に過ぎなかった。私が望んだのは、単に心の隙間を埋めるための偽物だったんだと、今になってようやく分かる。」
「私が欲しかったものは、優しさを盾にした、ただの逃げ道だった。」
「ひっぐ……うぅ……!」
〈モアイランド……。〉
「同情はしなくていい。もう終わる命だ。……だけど、最期にこれだけは君たちに言っておきたい。君たちには、進みべき道があるだろう。前に広がっているはずだ。けど、そのためには障害物を壊していかなくっちゃいけない。どれだけ大切なものがそこに入っていようと、どれだけそこが険しくとも、絶対に逃げてはいけない。……私と同じ、逃げ道を欲するようになってしまうからね。君たちが今するべきことは、「何もかもを乗り越えること」だよ。私たちはいつだって、目の前の困難から目を背けたくなる。痛みや不安、恐怖から逃げることで、瞬間的な安堵を得ることはできるかもしれない。でも、それは本当の解決にはならない。逃げることはただ、深い穴を掘るだけだ。その穴に埋まって、さらに深く沈んでいくだけなんだ。次第に自分を見失う……。」
「だからこそ、君たちに言いたい。今、目の前にある試練を乗り越えることで、初めて本当の自由が得られると。苦しみも、恐れも、全てを受け入れ、それを越えた先にしか、真の力は待っていないんだ。逃げずに立ち向かうことで、心は強くなる。」
「店主さん……!!!」
「はは、長く話してしまったね。けど、結論から言えば、「君たちは私を倒し、どんどん強くなっていかなければならない」ってことさ。安心して。……私は、君たちを見守っているから。」
私は、そこで決断した。彼の思いを無駄には、絶対にしない。カードに触れていた指を、動かした。
「シンラセンショーで……ダイレクトアタック!!!!」
〈……じゃあな、モアイランド。〉
「あぁ、さよならだ。……君たちのような強いデュエルマスターと、デュエマができてよかった。」
それが、彼の最後の笑顔と言葉だった。彼はシンラセンショーが放った光とともに、消えていった。
私がその光景を目の当たりにした瞬間、私の意識は外へと放り出された。真のデュエルが、終わったんだ……。
*
そして目を覚ましたら、そこにはお店なんて最初から存在していなかったのように忽然と消えていた。私がいたのは、ただのなんの変哲もない平原だった。隣には私とほぼ同じタイミングで目を覚ましたであろうジョーとデッキーも驚いていた。
「あれぇ!?なんで俺らこんなところで寝てたの!?」
「ぜーんぜん記憶がありませんねぇ〜……」
「う〜〜〜ん……あっ、ねぇシンラちゃん。何があったか知って……え?」
なんで、泣いてるの……?
「……え。」
私は素早く袖で涙を拭い去った。その一瞬、まるで時が止まったかのように感じた。涙が滴ることに意味なんてなかった。ただ、心の奥底から湧き上がる感情に抗えなかっただけ。けれど、もう私は振り返らない。今、目の前に立つべき現実がある。それを乗り越えるために、涙はただの過去の証に過ぎない。
私は苦し紛れに、「知らない。」と力強くそう言った。
それ以来、お店の噂は瞬く間に消えた。誰もがもう、あの場所について語ることはなかった。だが、数日後、私はふと思い立ってその場所に足を運んだ。散歩がてらのつもりだったけれど、そこに足を踏み入れた瞬間、心が少しだけ温かくなるのを感じた。
辺りを見渡すと、ひときわ目を引くものがあった。そこには、真っ白なコバイケイソウの花が咲き誇っていた。繊細でありながらも力強く、まるで何かを語りかけてくるようだった。
その花言葉は「遠くから見守る。」
その言葉が、心の中で静かに響く。私は青空を見上げ、自然に微笑んだ。何も言わなくても、誰かが見守ってくれているような、そんな感覚に包まれた。あの場所に咲いた花は、私にとって、ただの花以上のものに思えた。
「…………ありがとう。」