寄成ギョウに転生したから、キャラの良さガン無視して善人になるニョロ〜!   作:ライダー☆

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新・十四話 ショー体判明!最凶最悪デュエリスト、奇成ギョウ!

「これがワイの切り札……邪帝類五龍目ドミティウスや。」

 

 ドラゴン……だと…!?馬鹿な、あり得ない!!サッヴァークDG以外に、この世界にドラゴンなんてものは……!

 

「お?どうした?ビビっとるんかお前。」

「っ……!!」

「無理もないか。お前の偽造しとるドラゴンとは違って、こっちは正真正銘、本物のドラゴンやからな。」

 

 アイツのふざけた声が空気を裂いた瞬間——

 それに呼応するかのように、ドラゴンが首を持ち上げ、喉奥から低く唸る。

 やがて大気を震わせる咆哮がフィールドを支配し、空間そのものが軋んだ。

 観客はいないはずなのに、誰かが悲鳴を上げたような錯覚すら聞こえる。

 その咆哮は言葉だった。「ここからは俺らの番だ。」と、無言のまま宣言する咆哮だった。

 

「ドミティウスの登場時能力はつどーう。山札上から5枚を見て、その中から火・水・光・自然・闇のコスト7以下のクリーチャーをそれぞれ1体ずつ、バトルゾーンに出すことができる。」

「なんだと…!?」

「んじゃ、5枚見るでぇ!!…………おぉっとぉ!大当たりぃ。」

「破壊者シュトルムとぉ、スペルサイクリカ。セブンスにツミトバツ!そしてぇ……ドミティウスを、裏革命目ギョギョラスに、進化じゃあ!!」

 

 い、一気にクリーチャーが……5体も出てきただと!?そんな!

 ハァ……ハァ……まずい、息が荒くなってきた。この現実を直視できていない!自然と足も下がっていく……このままだと…俺は…!!!

 

「まずはぁ…スペルサイクリカの能力で、墓地から呪文、煉獄と魔弾の印!ボルメテウス・ホワイト・ドラゴンを墓地からバトルゾーンに!!さらにさらに!ツミトバツのマナ武装7の効果で、あんたらのクリーチャーのパワーを、マイナス7000やぁ!!」

(オブ・シディアDGのラビリンスのお陰で、俺のクリーチャーは耐えることはできている……だ、だが!最後に残ったあのクリーチャーの、能力もある……!!!)

「まだ終わりやない。お前にはもーっと絶望してもらわなあかんからなぁ。」

 

 そうそう、そういう顔や。ご自慢の正義も、何もかもが信じれなくなるような、恐怖で引きつったその顔!!!ワイが求めとったのはそれなんやぁ…!!

 えぇなぁえぇなぁ、調子出るでぇ!!

 

「…次に、シュトルムの効果でシーディアスを破壊。」

「くっ……!」

「んじゃあ最後に、お待ちかね、ギョギョラスの能力発動じゃあ!!オブ・シディアDGを、マナゾーンに送らせてもらおかぁ!!」

 

ーーー

 

 ――オブ・シディアDG。

 感情を持たぬ一つ目の神秘。喉奥から漏れた唸り声が、空間を重たく染める。

 咆哮ひとつで精神を削る音波を放ち、対峙するものすべてに警鐘を鳴らす異端の存在。

 だが――

 

「黙れや、目ん玉野郎がぁ!!」

 

 次の瞬間、地を割って突進してきたのは、血の臭いすらまとった暴風だった。

 

 裏革命目ギョギョラス。

 

 戦においても異常な速度で肉薄し、大きくそびえ立つ鋭利な爪を、問答無用でオブ・シディアDGの水晶装甲に叩き込む。

 音を立てて軋む装甲。だがギョギョラスは止まらない。

 

「ケッ、十分に硬ェのは認めるが、いつかは潰れるはず。そうだろう?」

 

 笑いながら、何度も何度も殴る。

 水晶の表面にヒビが入り、粉塵が水中に舞う。

 オブ・シディアDGは一度、咆哮で応じようとするが――

 

「吠えんじゃねぇって言ったろォがッ!!」

 

 羽での振り下ろしを叩き込んだ。

 今度は音が違う。砕ける音だ。

 装甲の一部が弾け、奥の組織が露出する。

 

 ギョギョラスは口元を歪めて笑い、

 それを「そんなもんがあるんだなぁお前みたいなやつにも……心臓か?」と呟きながら、何のためらいもなく拳を深く突き立てた。

 

 咆哮が消える。

 オブ・シディアDGの存在が、そこから消えた。

 

「あっけねぇ。」

 

ーーー

 

「オ……オブ・シディアDGが…そんな!」

「お前さんの切り札ってのもその程度やったみたいやなぁ。うわー、かわいそー。…あぁーあ。パワーをプラスされてたのにあの目玉いなくなったせいで、お前のクリーチャーぜぇんぶ死んでもうたなぁ!」

 

 俺のクリーチャーが…みんな…!!!

 クソっ、完全に……アイツのペースだ!………だけど、ど、どうにかしてこのターンを凌がなくっちゃいけない!ここからは完全に運頼みだ、次のターンが回ってくるように……!!!

 

「お前、次のターンが回ってくれば、どうにかなると思っとるやろ?」

「!?なっ…!」

「あのなぁ、お前のようなアホが考えてることなんてお見通しやねん。そして……その対策っちゅうもんは、適当なアドリブ一つでどうにかなるってこと、教えたるわ………。」

「うぅっ……。(だ、駄目だ……気圧されるな……気圧されるな、キラ…!!!)」

「ギョギョラスの能力はまだ終わっとらん!!マナゾーンに送ったクリーチャーよりもコストの低いクリーチャーをマナから場に出せる!つーことでぇ?出てこぉい!!!伝説のドラゴンよぉ!!!」

 

 その瞬間、キラの中で何かが崩れ落ちた。

信じていた“正義”が、ひどくちっぽけに思えた。

積み上げてきた“実力”が、ただの思い上がりに過ぎなかったと、身体が、心が、理解してしまったのだ。

 

 目の前に現れたのは、存在そのものが災厄の具現。

 天地の律すら捻じ曲げるほどの威圧。空気が震え、視界が歪み、心拍が自然と早まる。

 ——キング・ボルバルザーク

 伝説。

 怪物。

 この世の均衡を打ち砕く者。

 戦慄とは、こういうものを指すのだと、キラはただ、立ち尽くしていた。

 

「行くでぇ……煉獄と魔弾の印の効果でボルメテウス・ホワイト・ドラゴンはスピードアタッカーになっとることを覚えとるかぁ?」

「ひっ…!!」

「ボルメテウス・ホワイト・ドラゴンでシールドをダブルブレイク!こいつは、相手のシールドを直接焼き払う、焼却持ちクリーチャーや!」

「シールド・トリガーが!!」

「さぁて…お楽しみはこれからやで?せいぜいあがいてくれよなぁ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

「…よいしょっと。」

「どうにかして真のデュエルフィールドに着きましたけど……ここ、多分端っこあたりですね。」

「転送位地、ミスってない?」

「はい……どうやらそうみたいです。えへ!デッキ―お茶目!!」

 

 …俺はデッキ―の口から無理やりメラビート・ザ・ジョニーを出して、ジョニーのスケボーに乗り、デュエルフィールドまで行くことにした。

 

「けどデッキ―。一体この先に何があるっていうの…?」

「わかりません。しかしジョー様…この先に、わたしたちの想像をゆうに超えるクリーチャーがいるということは、確かなんです…!!!」

 

ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キング・ボルバルザークで、ダブルブレイク。」

「ぐわああっ!!」

「さぁて、シールド、0枚になってしもうたなぁ。傷もいっぱいついとるし…どうや?もう降参したら。そうしたほうが楽やろ。」

 

 ……そうだとしても、屈するわけにはいかない。

 怖気づいた心が叫ぶ。けれど、それ以上に魂が吠えた。

 

「いいや……! そんなことで折れてたまるか!!」

 

 膝が震えてもいい。心臓が逃げ出しそうでも構わない。

 でも俺は、ここで目を逸らすわけにはいかないんだ。

 

「俺は……正義を名乗ったんだ。だったら――」

 

 血管が脈打ち、声が喉を突き破る。

 

「お前を裁かなくちゃならないんだよッ!!!」

 

 自分でも驚くほどの咆哮だった。

 立ち上がる脚は、確かに重かった。

 だが俺は、這うように、踏みしめるように、

 あの災厄を睨み返した。

 

「っ。何やお前……さっきと様子が…」

 

 拳が震えていたのは、恐怖のせいじゃない。

 ――覚悟が、ようやく追いついたからだ。

 

「何かわからんが、ここから逆転なんてできるわけあらへん!とっととシールドチェックして、負けを認めろや!!」

「まだわからない!!俺はキラ!正義の執行者だ!!」

 

 

 キンキラキンに、引いてやるぜ……!!

 スリー、トゥー、ワンッ!!

 キラめけ、俺の正義!!俺はキラめく、正義の星!

 ………お前を、サッヴァーク!!

 キンキンキンキラ、キンキラキン!!マッキンキンキラ……スターダスト、ドロ―――ッ!!!

 来たぜ、キンキラキンに、大正義だぜ!!

 

 

「来たぞ、スーパー・S・トリガー、ノヴァルティ・アメイズ!!」

「なんやてぇ!?」

「能力で、相手のクリーチャーをすべてタップ!更にカードを1枚ドロー!……そして!光のコスト8以下の、進化ではないクリーチャーを1体、バトルゾーンに出せる!!ワンダータートルをバトルゾーンへ!!」

 

 やったぞ!!これで相手のクリーチャーは俺を攻撃できない!そして俺は、クリーチャーを1体展開できた!!て、ことは……

 

「ば……馬鹿な……こんな、ことが……っ!!」

 

 崩れ落ちる相手の表情。震える手。

 勝利を確信したキラは、拳を握りしめた。

 

「やっぱりそうだ……俺の勝ちだ!諦めなくて、よかった……!」

 

 胸に熱が満ちる。喉の奥から言葉が飛び出す。

 

「どうだ! 俺の正義、思い知ったか!!」

「ちくしょう……こんなことがぁ……こんなことがぁぁぁ!!!!!」

「後悔したってもう遅いぞ! 俺の勝ちだ!!!」

「……くっそぉ………!!」

 

 そして、その時――

 

「……とか、言ってみたりしてぇ♪」

 

 空気が凍りついた。

 その声は、敗者のものじゃなかった。

 一瞬前まで膝をついていたはずの相手が、顔を上げる。

 ニタリと口元が歪む――まるで、最初からすべてが計算だったかのように。

 

「……な、なに……?」

 

 キラの鼓動が跳ねた。

 目の前の“勝利”が、音を立てて崩れていくのを感じた。

 

「お前さんのそういう反応、最期に見たかってん!勝ちを確信して、調子に乗るその姿をなぁ!!……えぇもん見れた、満足や……。」

「何を言っている?お前はもう、クリーチャーで攻撃することはできないはず!」

「そう思うか?……ほんじゃあ、キング・ボルバルザーク!やれ。」

 

 その瞬間だった。

 伝説の竜が、天を裂くような咆哮を放った。

 大気が震え、空間が歪む。まるで世界そのものが、その声に怯えていた。

 巨大な剣が、ゆっくりと振り上げられる。

 誰もが、それが正義の味方――あの「敵」へ向けられるものと信じて疑わなかった。

 

 だが違った。

 

 竜の剣先が向かったのは、己が呼び出したはずの、栄光に輝く伝説の龍たち。

 その身を焼き尽くすような一閃が、かつての味方たちを次々に切り裂く。

 キラの目が見開かれる。理解が追いつかない。なぜ……?

 そして、最後の一撃は、迷いなく。

 その巨大な剣は――ゆっくりと、自らの腹へと突き立てられた。

 赤黒い輝きが弾け、沈黙が辺りを支配する。

 キラは立ち尽くすしかなかった。

 この竜は、いったい何を背負い、何を終わらせようとしたのか――。

 

 それが、いま明らかになった。

 風が吹いた。悪に向かって、吹いている。自分の体が動かない、自分のターンが、回ってこない。

 希望は、絶望に早変わりした。

 

「……キング・ボルバルザークは攻撃の終わりに、自分の他のドラゴンがあれば……自分のクリーチャーをすべて山札下送りにすることで、もう一度!ワイのターンや。」

「そ、そんな……。」

「残念!!お前の正義っちゅうもんは、結局その程度なんだよぉ!!!!」

 

 バチン、と音がして、キラの指から滑り落ちたカードが宙を舞う。

 一枚、また一枚。

 まるでそれは、彼の信じたものが剥がれ落ちる音のようだった。

 キラは何も言えなかった。ただ、目の前に立つ“現実”を見つめることしかできなかった。

 

「お、俺の……負け……?」

「そういうわけやな。んじゃ、ワイのターン。」

 

 

ファイブカラー? EXターン

 

「ドロー。そして……キリモミ・ヤマアラシからの、龍覇イメン=ブーゴを召喚。……ダイレクトアタックや。」

 

 全く面白いものが見れた。満足や。……これで1つ目の目標達成。

 さぁてこいつを殺したあとは誰を殺そかなぁ。……うーん、パッとしたのが思いつかへんけど、まぁ……

 

「キラーーー!!!」

 

 ……あ?なんや?誰か来た?おかしい、ここにはあのガキとワイしかおらんはずなのに……。あのガキの名前を知っとるってことは、お友だちってところか。全く面倒な客人が来たもんだ……

 

「……しっかしあいつ……誰や?」

「この声は……ジョー…?」

 

 キラ……傷だらけだ……早く助けないと!!

 

「ジョニー、デッキ―、行くよ!!」

 

 ジョーの叫びと共に、空気が張りつめる。三人の気配が重なるように戦場へと踏み込む。殺気の渦巻くその場に、一歩も臆することなく。

 ギョウは唇の端を吊り上げた。

 

「……三匹まとめて、客人やて。おもろいやんけ」

 

 背後に倒れ伏すキラを一瞥し、ギョウは黒い影のようなイメン=ブーゴを滑らせながら、彼らの動きを値踏みするように観察していた。

 だが、動いたのはジョニーの方が早かった。

 

「……てめぇがギョウか。こいつに何をした?」

「お?怒っとるんか?……クリーチャーの分際で小生意気な…。」

「……答えろって言ってんだよ!!!」

 

 ジョニーの熱き拳が閃光のようにギョウへ伸びる。轟音と共に、地面を抉るような一撃が振るわれる――が、ギョウはそれを易々と見切り、わずかに身を引いてかわす。

 

「アッハッハ!ええパンチや!ええわ!……お前が最初の玩具やなァ!」

 

 即座に反撃に転じるギョウのイメン=ブーゴ。その刃が襲いかかるも、ジョニーは踵を返してスウェー、反転した肘で返し、腕ごと叩き返す。

 

 一方、ジョーとデッキ―はキラのもとへ駆け寄っていた。

 

「デッキー、状態は!?」

「……気絶しています、しかし、死んではいません!かすかに息があります!!!」

「よかった!……デッキ―、キラを連れて帰ろう!」

「し、しかしジョニーは……?」

「俺のことはいい!!早く地球に帰れ!」

 

 その言葉には、迷いのない決意があった。  静かに頷いたデッキーは、慎重にキラを抱き上げると、薄く光るゲートを開く。ジョーは名残惜しげに振り返るが、すぐにその視線をギョウと向き合うジョニーに向ける。

 

「……絶対に、帰ってきてね、ジョニー!」

「任せとけ」

 

 ジョニーの背中が、頼もしげに立っていた。

 ゲートが消え、静寂が戻る。

 ギョウが笑った。

 

「ふん、残ったか。まあ、その方がええ。お前、見込みあるわ。もっと壊したくなってきた」

「……こっちのセリフだ。てめぇをここで止める。地球に行かせるわけにはいかねぇ!」

「なら……お前がワイを止める、最初の犠牲ってわけやな!」

 

 イメン=ブーゴが、喉の奥から獣のような咆哮を響かせた。

 黒き龍覇――その巨体が地を割る勢いで降り立ち、周囲の空気が揺れる。重く、圧倒的な殺気が地面を這うように広がった。

 だがジョニーは怯まなかった。

 右腰のホルスターから、銀のリボルバーを引き抜く。その銃身は、まるでこれから起こる運命を悟っているかのように、静かに光を返した。

 

「来いよ……地獄のど真ん中で、テメェの幕引きをしてやる。」

 

 その瞬間、激突。

 

 イメン=ブーゴの影から解き放たれた黒閃が、鋭利な刃となって空間を裂き、ジョニーに迫る。彼は咄嗟に身を沈め、リボルバーを構えた。

 

 ――バン!

 

 雷鳴のような銃声が響く。弾丸は闇を裂き、ブーゴの前脚をかすめた。だが直後、影の斬撃がジョニーの腕を掠める。袖が裂け、血が舞う。

 

「ぐ……っ!」

 

 痛みに顔を歪めながらも、ジョニーは一歩、いや二歩――否、それ以上に踏み込んだ。足元に魔力の残滓が散る。

 そして叫ぶ。

 

「てめぇのそのふざけた仮面……ブチ抜いてやるッ!!!」

 

 右手に力を込め、再び引き金を絞る。

 

 ――バン!

 

 直撃。弾丸がギョウの肩をかすめる。狂気の笑みを見せながら歩く。

 

「この一発で、すべてを決めるッ!!!」

 

 ジョニーはリボルバーを逆手に構え、渾身の一撃をそのまま――銃身ごと、ギョウの仮面めがけて叩きつけた。

 

 ――グシャリ。

 

 仮面が粉砕される、確かな音が響いた。

 飛び散る破片。地に転がる欠片。その奥から現れた素顔。

 

「…………っ!」

 

 ジョニーの動きが止まる。

 銃口は、震えていた。

 時が止まったかのような静寂。仮面の下の顔を見たその瞬間――

 彼の心に、何かが突き刺さった。

 

「お……お前は!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜の帳が下りる中、ジョーはキラの体を慎重に抱えながら、その家の扉を静かに開けた。

 

「……よし。ここなら、もう大丈夫だ」

 

 キラの家には、彼の家族の姿があった。驚きと安堵の入り混じった表情でジョーを迎え入れると、すぐに医療用の設備が整えられ、キラは安静に寝かされた。

 その場を一通り任せると、ジョーは短く礼を言い、また夜の街へと消えていった。

 

 

 ──シンラの家。

 

 玄関の戸を開けると、やや重たい空気が漂っていた。リビングの灯りがぼんやりと揺れている。

 

「……ただいま」

 

 返事はない。しかし、聞こえてくる小さな咳払いが、居間から漏れていた。

 そこにいたのは、ももだった。ソファにうずくまるようにして横になっており、顔は赤く、うっすらと汗を浮かべていた。

 

「……ももちゃん?」

 

 駆け寄って額に手を当てると、熱い。明らかに体調を崩している。

 

「ももちゃん、ももちゃん!!………シンラちゃん、ももちゃんは一体……?」

 

 ジョーが視線を巡らせた先、奥の部屋からシンラが姿を現した。心配そうな顔で近づいてくる。

 

「彼女、さっきから調子が悪くて……急に、寒気がすると言い出して……」

「そ、そうなんだ……すぐに、ももちゃんの家に連絡を入れて、迎えに来てもらおう!まだ、自分で歩ける状態じゃなさそうだし。」

「いいえ、もう入れたわ。今この場所に来てるはず。」

 

 数分後、迎えが来るまでのあいだ、ジョーはももをシンラの部屋へと運び、布団を敷いて寝かせた。寝汗で湿った彼女の額にタオルを置き、水の入ったコップを枕元に置く。冷えた静寂だけが、部屋に横たわっていた。

 リビングに戻ったジョーは、ソファに腰を下ろすと、深く長い息を吐いた。

 

 「……色々あったよ、今日」

 

 肩を落としたその声に、シンラは小さく首を傾げた。

 

 「ラーメンを食いに行ってたんじゃなかったの?」

 

 ジョーは鼻で笑うように息を漏らした。

 

 「うーん、まあ、最初はね。でも、そのあとがさ……。えーっと、まず、キラが――襲われてたんだよ」

 

 キラの名が出た瞬間、シンラの表情がわずかに強張った。

 

 (キラが……?)

 

 彼はファイブカラーと出会い、そして、真のデュエマを始めたことも知っている。つまり、今日の戦いはキラにとっての敗北であり――そして、ジョーが彼を助けたということを意味していた。

 それ以上、ジョーは多くを語らなかった。というよりかは、そもそも語れなかったと言ったほうが正しいだろうか。

 言葉数は少ない。だが、一つ一つの言葉が、確かな重さを持っていた。曖昧な語尾の奥から滲み出る緊張感と、まだうまく整理できていない感情の残滓。

 

 そして――その話の途中に出てきた一言が、シンラの胸を鋭く貫いた。

 

 「キラの相手……すっげぇ怖かったんだ。仮面をかぶってて、顔は見えなかったんだけど……一目見た瞬間、背筋が凍った。……なのに、なぜか、どこかで会ったことがあるような気がしたんだよ。遠い昔に……どっかで、確かに」

 

 その言葉を聞いた瞬間、何かが脳の奥底で弾けた。

 速く、強く、記憶が暴れだした。

 電流のような感覚が脳髄を駆け巡り、景色が、歪んでいく。

 思い出した。

 

 金属の焦げた匂い。瓦礫の中で、自分を庇うように立ちはだかった、あの背中。振り向くことはなかったけれど、確かに聞こえた、低く優しい声。

 

 「―――シンラ―――」

 

 それは、たった一言で全てを包み込む、無償の愛だった。

 あれは夢ではない。幻でもない。十何年、胸の奥深くに封じ込めていた記憶だ。蓋をして、忘れたふりをして、目を逸らしていた――

 でも、ずっと見てきたのだ。

 心のどこかで、毎日のように、あの背中を探していた。

 喉がかすれ、言葉にならない震えが彼女を襲う。

 そして、声にならない衝動が、唇から零れ落ちた。

 

 「………………父さん……」

 

 呟きは、ガラスが割れるように、静かに響いた。

 ジョーは一瞬、目を見開いたが、それ以上は何も言わなかった。彼には、わからなかった。ただ、その言葉が持つ重みだけが、部屋を満たしていた。

 記憶が、確信に変わる。

 ジョーの話の中にあったその“仮面の男”。仮面の奥にいたその存在――それこそが、自分の父だということを、シンラは直感で知ってしまった。

 

 (……父さん……な、何があったの……?)

 

 混乱。怒り。悲しみ。愛しさ。

 感情が奔流となって、シンラの内側を破壊していく。

 それでも、彼女はただ座っていた。すべてを静かに受け止めるように。何もかもを、理解しようとするように。

 

 「父さんを……私が助けなくちゃ……」

 

 その事実は、痛みよりも先に、温かさを連れてきた。

 ついに、彼女は、目的を目の前にいれることができたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 灰すらも沈黙する、焼け落ちた戦場の果て。

 崩れた建物の残骸に、燻る熱と破壊の記憶だけが残る。だが、その中を一人、無言で歩く者がいた。

 

 ギョウ――その背に纏う闘気は、もはやかつてのものではない。

 狂気と邪悪が交わり、粘ついた闇を纏わせる。

 

 彼の足は、地上から遠く離れた領域へと向かっていた。

 それは、文明の死骸――《闇文明》。

 神々すら視界から閉ざす、理を外れた場所。

 天も地もない、ただ「終わり」の匂いだけが漂う深層。

 

 だが、ギョウの足取りは迷いがなかった。

 むしろ、待ち望んでいたかのように、微かに口角を吊り上げていた。

 この底の底、常識の最果てこそ、今の自分に相応しいとでも言うように。

 

 やがて、空間がねじれるようにして姿を現す――

 漆黒の霧が渦巻き、あらゆる感覚を摩耗させる広間。

 

 その中心に、“男”はいた。

 

 黒衣をまとった痩躯。

 髪は煤のように乱れ、目元には凍てついた笑みと、病んだ涙が同居する。

 その視線は、見ていながら見ていない。

 理性の皮をかぶった狂気そのものであり、世界にとっての「異端の中の異端」。

 

 彼は椅子に腰をかけ、指先で虚空をつまむようにしていた。

 ギョウが現れても、顔を向けることなく呟く。

 

「やぁっと来たか。てめぇの“破壊”は長いんだよ。もうちょっとさッとやれ、さッと。」

 

 言葉は囁きに近い。だが、脳髄を直接叩くような圧がそこにはあった。

 ギョウは返さない。

 代わりに一歩踏み出し、沈んだ声で呟いた。

 

「今回からは、お前にも協力してもらうぞ。お前も、そっちのほうがいいだろう?」

「当たり前だろうが。凶器を作るのはもう飽きた。壊すのもな。……壊すならもうちょい生気のあるものがいい。」

 

 男は顔を上げ、そう言った。

 片目だけが大きく見開かれ、異様な輝きを放つ。

 

 ぱちん。

 

 指が鳴る。瞬間、周囲の霧が一変し、無数の情報が空間に浮かび上がる。

 記録。映像。記憶。全てが歪みながら構成されるのは、ひとりの男の存在だった。

 

 その男は、火文明の意志を背負い、拳で道を切り拓く者。

 仲間の前では兄のように頼もしく、敵の前では獣のように獰猛。

 …最強のデュエリストの一人であった。

 

「……このガキからにしよう。こいつが倒れれば、あの女の“盾”はひとつ減る。」

 

 男は無言で頷いた。その頷きに、一切の含みはない。今の彼にあるのはただ一つ。破壊だ。感情も、記憶も、道理も捨て去ってまでなお、突き進む意志がある。

 男は言う。

 

「まずは地上に“混乱”を撒こう。バラバラにして、焦らせて、疑心に落とす。……そうすれば、心の支えなんて、いともたやすく砕ける。……それに、水文明の奴らの情報によれば、あの裏切り者のムカデ野郎も動いているらしいしな。」

 

 ギョウの影が広がる。黒い笑みを見せ、静かにその場を後にする。

 

「んじゃ、展開はあのカスの裏切りムカデに任せて……仕上げはお前がやればええ。ワイはあの…邪魔をしてきたクソッタレのガキをぶっ潰す。」

「んじゃ、そうさせてもらうよ。全くありがてぇ!!お前の邪魔なく誰かをぶっ壊すことができるなんてよぉッ!!!「旧友」!!」

 

 ――ターゲットの名は、ボルツ。

 

 二人の邪悪な声が、廃棄処分となった凶器の山の上で響き渡った。その中で男は1枚のカードを手に取る。

 

「さてと………こいつを使う時が来たぜ。さぁてと、全く、幸せを掴み取れたと思ったかよ…。憎き英雄め!!!コキ使ってやるからなぁ〜………!!!!!」

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