寄成ギョウに転生したから、キャラの良さガン無視して善人になるニョロ〜!   作:ライダー☆

86 / 91
新・二十話 史ジョー最悪のデュエマ

 

 あのカードが盤面に置かれた瞬間、空気が変わった

 いや、置かれた――なんて言葉じゃ、軽すぎる。

 皮膚の裏側を、ひと撫でするような気配が通り抜けた。それだけで、心臓の奥がギシッと音を立てた。感覚の奥底で、何かが「これは違う」と叫んでいた。視線は勝手に吸い寄せられ、逸らそうとした意思は、まるで麻痺していたかのように動かなかった。

 

 そこに立っていた。

 

 G・Y・O・U――という名のクリーチャーが。

 

 人の形をしている。けれど、それだけだった。

 四肢、頭部、姿勢――“形”だけは人だった。でも、それ以上は、何一つ、こちらの常識に当てはまらなかった。目で追おうとしたその瞬間、細部が意識の網からすり抜けていった。

 腕だったものが、ある瞬間には長く鋭い刃のように光り、次には空気の流れにほどける布のように崩れていた。輪郭はそこにあるのに、見ようとすればするほど溶けていく。けれど、確かにそこに立っている。その実在感だけが、やけに濃かった。

 背が高い。痩せすぎていて、黒よりも黒く、光を呑み込んでいる。フィールドの上に立っているはずなのに、その周囲だけが、色を持たない領域になっていた。

 顔らしきものがあった。だが、明確な形は見えない。にもかかわらず、強烈な“見られている”という感覚がこちらを貫いてくる。目はない。なのに、瞳の奥に何かが焼きつくような、そんな錯覚が拭えなかった。

 恐ろしい。言葉にできない。体が冷える。けど、汗が滲む。爪先が小刻みに震えていた。

 

 逃げようとは、思わなかった。

 

 ――いや、思えなかった。思えるはずがない!

 

 逃げるだなんて、そう考えたとき、自分が今どれだけ極限の中にいるかをようやく理解する。

 命を、賭けている。

 ゲーム盤の上にあるのはカードだけ。でも、この場に置いてあるのは、それだけじゃない。

 私の魂も、誇りも、そして――この命も、このカードと一緒に並んでる。

 

 こっちの場は整ってる。バトルゾーンでシンラバンショーが睨みを利かせてる。手札にもまだ選択肢がある。盾の中には、トリガーが複数あると確信してる。冷静に見れば、まだ勝機は握ってる。何一つ、崩れてなんかいない。

 

 けど――私の内側だけが、崩れかけていた。

 

 この対峙に、私自身の“芯”が耐えられるのか。その一点が、どうしようもなく揺らいでいた。

 

「……なんで、なんで……あんな強大な力を持ったクリーチャーが、この世にいていいわけ…?」

 

 口が勝手に動いてた。誰に言ったわけでもない。ただ、言葉として出さないと、頭が持たなかった。

 父さんは何も言わず、G・Y・O・Uのカードに指をかけた。触れる動作すら、儀式のように慎重で――何かを封印から解き放つみたいだった。

 

 その指が、ゆっくりと動く。

 

 G・Y・O・Uの効果が、発動する。

 

「……こいつの効果、発動!!!!」

 

 フィールドが一瞬、沈黙する。空気の密度が変わった。重力さえ変容したかのような圧が場を覆い、カードが場に現れたその瞬間、空間が軋み、揺れ、裂ける。

 

 ──そして、咆哮。

 

 人型でありながら、その姿は異形。骨と金属の継ぎ目が乱雑に組まれたような手足、白くひび割れた仮面の奥からのぞく、底の知れない瞳孔。腕は四本、だが関節の位置があまりにも不自然で、どこを向いているのか、どこに攻撃が来るのか、まるで読めない。

 背中には翼のようなものがある。けれど、あれは羽ではない。捻れた脊椎そのものが裂け、広がり、呻いていた。

 その口から漏れた咆哮は音ではなかった。存在そのものを否定するような振動だった。胸を抉られたような痛み、脳の奥に突き刺さる金属音、皮膚に浮かぶ黒斑。それらを一瞬で浴び、場の生物は、ただ黙って崩れ落ちた。人も獣も、カードのなかの精霊も。

 瘴気が広がる。煙ではない。色も、温度も、触感もある、理不尽な「圧力」だ。魂の奥から削られるような、存在に耐えること自体が罰であるかのような質量。カードの端が焦げ、フィールドの枠が軋む。頭痛、吐き気、呼吸困難――ただ「見る」だけで、命が削られていく。

 

 それでも、目が離せなかった。

 

 あれはただの怪物ではない。おぞましい、禍々しい、けれど、なぜか……なぜか美しい。

 

 震えてる。手のひらに汗がじっとりと浮いて、カードが滑りそうになる。心臓はバクバクして、胸が締めつけられるみたいに苦しい。息を吸おうとしても、空気が薄くなったみたいで、喉の奥で引っかかる。

 あの瘴気が肌を刺す。冷たいのに、どこか火傷しそうな熱を持ってる。胸の奥で、なにかが蠢いている。叫びたいのに、声は出ない。だけど目は離せなかった。どこにも逃げられないって、体がわかってるから。

 頭の中がぐるぐると渦巻いて、吐き気がする。視界はぼやけて、焦点が合わない。だのに、あの異形の姿ははっきり焼きついて離れない。

 震えが止まらない。どうしよう、どうしようって焦燥が押し寄せてくる。体は動きたいのに、硬直してる。時間が引き伸ばされて、全部が恐ろしく重くのしかかる。

 だけど、ここで逃げたら終わる。命を賭けたデュエル。負ければ、すべてが消える。だから、震えながらも拳を握る。胸の奥で小さく灯る、あきらめない気持ちを握りしめて。

 

「………さぁ、来なさい……!!!」

 

 ……アイツの眼、不安に包まれとる。覚悟を決めているように見せかけて、本心じゃあ今にでも逃げ出したいぐらい怖いんやろう。………くだらん、だぁったら、一瞬でその、ハリボテの覚悟をぶっ壊したる!!!

 

「G・Y・O・Uの効果発動。こいつはバトルゾーンに出たとき、マナゾーンにある文明の数だけ、マナゾーンのカードをアンタップできる。よって5マナアンタップ!」

「マナゾーンのカードが……また使えるように…!?」

「まだ終わりやない。本番はこっからや。」

 

 ……駄目よ、シンラ。絶対に負けちゃ駄目!一瞬でも気を緩めたら終わりなのよ。吐き気もする、手も震えてる………けどそれでも絶対に「負ける」って思っちゃ駄目!!

 気を引き締めるのよ、シンラ…!!

 

(なんやアイツ。変に強張って……気合い入れかなんか知らんけど、くだらんことを……うざったい、絶望を味合わせて殺したる……!)

「4マナをタップ。呪文、奇妙と聖魔の王座(アベラティア・スローン)。その効果で、このターン、自分のクリーチャーの1体のパワーを2倍に。よって、G・Y・O・Uのパワーは14000になり、その後、相手のクリーチャーを1体選び、バトルさせる!!ほな行くで、G・Y・O・Uとシンラバンショーでバトル!」

 

 宣言と同時に、大地が鳴った。

 G・Y・O・Uは吠えもせず、叫びもせず、ただ圧倒的な質量と破壊力をもって前方に突進した。地面が裂け、風が二つに割れる。空中には異臭が満ち、残光だけが時間を引き裂くように伸びていく。

 迎え撃つはシンラバンショー。その木質の外殻がざわめき、背中から無数の枝刃が展開される。巨大な斧のような腕を振るい、渦巻く風と共に迎撃の構えをとる。時間が一拍止まった。

 

 ——衝突。

 

 刹那、空気が弾け、世界が割れたような音がフィールドを包む。

 G・Y・O・Uの右腕が、爆発的な回転をもって突き出される。刃でも爪でもない。重量そのものが破壊の道具と化している。まともに受け止めれば、ただの殻では粉砕される。

 シンラバンショーは、咆哮のような風切り音を上げて斬りかかる。旋風の刃が何枚も何重にも重なり、その全てを一度に振るう。視界が緑に埋まる。

 

 ——だが、その一瞬後。

 

 緑の嵐を、G・Y・O・Uの腕がぶち抜いた。

 刃は砕け、胴を守る幹の装甲が軋み、めり込む。G・Y・O・Uの拳は、シンラバンショーの力の根源を、彼の体ごと打ち抜いた。重たい衝撃音が響き渡り、その巨体が、背後の柱へと吹き飛ばされる。

 シンラバンショーはうめき声を上げた。その声は、咆哮ではなかった。か細く、途切れ、機械と自然の混ざったような痛覚の残滓。それが、敗北の証だった。

 大地に倒れ伏したその巨体は、もはや動かない。残されたのは、破壊の余韻だけ。

 G・Y・O・Uは言葉を持たぬ。ただ、戦いの中に在り、命ずるままに破壊を遂行する兵器。

 そして次の標的へと、黙して目を向ける。たった一人の少女へと。

 

「……嘘、シンラバンショーが破壊された……?」

「これでおまえの頼みの綱もプツンと切れてしもうたわけや。」

「そんな……ッ!!!」

「……怖がってるとこ悪いけど、まだ能力の発動は終わっとらん。」

 

 ……まだ終わってない…?そんな……!

 

「このクリーチャーがバトルに勝った時、そのクリーチャーと同じコストを持つクリーチャーを、自分のマナまたは手札から選んでバトルゾーンに出せる。文明関係なしにな!てことでぇ……シンラバンショーと同じ、8マナの……永遠のリュウセイ・カイザーを手札からバトルゾーンへ。かーらーのー………」

「…ドッ、ドラゴン!?何で、どうして!?ドラゴンは絶滅したはずじゃないの……?」

「ん?あ、そうか。お前は知らんかったなぁ、ドラゴン「を」……」

 

 ……………おっと、危ない危ない。

 

「……いや、ドラゴン「が」生き残っていることを。せやけどそれをお前に言ったところで何が変わるわけでもない。無意味無価値!それに貴様は今から死ぬんや。そんな奴に話すことは、なんにもない!……ギョッギョッギョッ……。」

「……お父さん…………!」

「っ……その呼び方、ずっと思っとったが腹が立つ!今すぐに黙らせたる!!!G・Y・O・Uの効果!自分のクリーチャーをバトルゾーンに出したとき、それがターン中に初めて出す「G・Y・O・U」以外の文明のクリーチャーであれば、それよりもコストの小さい進化ではないクリーチャーを、手札またはマナからバトルゾーンに出せる。スペルサイクリカをバトルゾーンに。からの、サイクリカの効果で、墓地から呪文、インフェルノ・サインを唱え、墓地からボルバルザーク・エクスをバトルゾーンに。効果でマナをすべてアンタップ!」

 

 ………………あぁ、どうしよう、どうしよう…!?

 完全に主導権を握られちゃってる……早くあの展開が終わってほしい、けど、終わりそうにない……!

 

「まだや、まだ終わりやない。ボルバルザーク・エクスの効果でマナをすべてアンタップしとる………こいつで終いや!ボルバルザーク・エクスでアンタップしたマナゾーンをすべてタップして……10マナ!伝説の蒼龍のお出ましや…。」

 

 ボルメテウス・サファイア・ドラゴン!

 

「ま、またドラゴンが………!!」

「こいつはトリプルブレイカー、かつ……ブレイクしたシールドをそのまま墓地送りにできる!……やれ。ボルメテウス・サファイア・ドラゴン!トリプルブレイク!!!!」

 

 その声は空間を裂く炎だった。口から吐き出されるのは火ではない、焼却の理。カードを、効果を、抵抗を、意味そのものを、丸ごと押し流す、抗えない暴力。

 

 ボルメテウス・サファイア・ドラゴンが、その異常なまでに巨大な翼を広げて突撃する。フィールドの空気が圧し潰される。吐き気が込み上げるほどの熱と気圧――あたしの体は細かく震えていた。

 

 圧倒的な質量がぶつかってきた。

 

 カードが舞う……でも、それはもう「舞う」なんて優しい動きじゃなかった。焼かれて、削られて、粉砕されて――ただ墓地に叩きつけられていく。

 

 シールド、1枚……2枚……3枚。

 

 読み通り、シールドに、トリガーがあった。それも全部………けど、どれも、もう使えない。

 

 ただ焼かれて、消えていった。

 

 ……ああ、私の「守り」が、何の意味もなく消えていった。

 

 握っていた手のひらが、冷たい。鼓動が聞こえない。視界が狭まっていく気がする。何かが、内側からじわじわと壊れていく。

 

「まだ終わりやないぞぉ。ボルバルザーク・エクスでシールドを攻撃。こんときに……自分のターン中にドラゴンが2回攻撃した…………アタック・チャンスの条件成立!!」

「っ………アタック、チャンス………お父さんもそれを持ってたの!?」

「呪文、邪帝の進撃!このターン、自分のクリーチャーはすべて、アンタップしているクリーチャーを攻撃できるようになり、すべてのバトルに勝つ!!…………永遠リュウの効果で自分のクリーチャーはすべてスピードアタッカーや。」

「うぅぅ……!!」

「……その前に、ボルバルザーク・エクスでシールドを、ダブルブレイク!!!」

 

 怒号のような宣言と共に、再び衝撃が走る。

 

 赤い龍の身体が、まるで猛火そのものになって迫る。さっきのシールド破壊と違って、これは――確実に“殴って”きている。

 

 シールドが、叩きつけられるように砕けた。まるであたしの心臓をそのまま潰されたようだった。1枚……そして、最後の1枚までも………。

 

 ――もう、残っていない。

 

 何も。

 

 ――けど、けど、まだあきらめない。

 

 最後の1枚……シールド・トリガー!!!

 

「シールド・トリガー、呪文、Rev・タイマン!!!そしてこの呪文の革命2、発動!このターン、相手のクリーチャーは私を攻撃できないわ!!!」

「ふぅん、こざかしい。せやけどお前のクリーチャーは攻撃できる。そのためのアタック・チャンスやったからな。永遠リュウでトレジャーを破壊。スペルサイクリカでサンフラワーを破壊。クロックでマイト・アンティリティを破壊!……ターンエンド。これでお前のバトルゾーンにはクリーチャーはおらへん。あきらめろ、勝ち目はないんやで。」

 

 

 

シンラ ターン6

 

 私の手は、まだデッキの上にあった。震えて、冷えて、今にも崩れそうな指先。それでも……力は抜けていなかった。

 

 全てを失った。盤面も、守りも、仲間たちも。だけど――

 

「……まだ、負けてない。」

 

 言葉が、喉の奥から漏れた。誰に向けたわけじゃない。ただ、そう言わなきゃ、心が潰れそうだった。

 

 足が震えてる。視界が霞んでる。でも、視線は、ちゃんとデッキを見ていた。

 

 “まだ一枚、引いていない。”

 

 この一枚に何もなかったら、そこで本当に終わる。でも……あたしは、信じたい。

 

「私は諦めない!必ず父さんを助ける!!必ず!!!」

「………このクソガキ……怖いくせに意地はりおって………フッ、まぁええ。やってみぃや。」

「……えぇ、やってみせるわ。」

 

 このデッキは、あたしの全てだ。今までの勝負も、積み重ねてきた時間も、カード一枚一枚が、全部……あたしの「生きた証」だった。そして今ここで、私のその「生きた証」を発揮させるとき。

 

 父さんを助けることができるのは、今、ここにいる私だけ。だったら、私が私を信じなきゃ、何を信じるの?

 

 震える指で、デッキに手をかける。

 

 

 

 私は、私の今やるべきことを果たすだけ。私は…………目の前にいる敵を倒す!力をつけるのよ!父さんを助けられるのはこの私だけ……だったら、私がやらなきゃ誰がやるっ!!

 そして掴み取るのよ、強さの果てにあるものを……!!ドローーーッ!!

 私はまだまだ成長できる。……「あなた」と一緒よ。

 

 

「……来た……この窮地をひっくり返すことのできる切り札が!!!」

「ほう……。」

「8マナをタップ!呪文、豪波と呪羅の権化!その効果で、相手のクリーチャーを最大2体まで選び、それよりもコストの小さい呪文を2枚まで、マナゾーンからコストを支払わずに唱えることができる!」

「っ。てことは……」

「選ぶのはボルメテウス・サファイア・ドラゴンと永遠のリュウセイ・カイザー!そして唱えるのはこの二枚……古龍遺跡エウル=ブッカ、そして呪術と脈動の刃!!!!」

「…………」

「まずはエウル=ブッカの効果で、スペルサイクリカと永遠のリュウセイ・カイザーをマナゾーンに!!」

「…………」

「次に、呪術と脈動の刃!効果でマナゾーンからもう1枚エウル=ブッカ!効果でボルメテウス・サファイア・ドラゴンとボルバルザーク・エクスをマナゾーンへ!」

「…………」

 

 ……何がしたかった。

 

「…」

「この物量を完全に除去すると、ワイは思っとった。少しぐらいは意地を見せてくれるんちゃうかって、期待した。………やっぱりお前はただのガキや。期待外れもいいところ!」

「………お父さん。」

「あ?」

「その言葉!そっくりそのまま返してあげる!まだ終わりじゃないのよ、私の思いは!!」

「っ…!?」

「G・ゼロ発動!このターン、マナゾーンのカードを5枚以上タップし、かつ呪文を3回以上唱えたことにより!希望萬壽インス・トールをコストを支払わずに召喚!」

 

 ッ!なんやこのでかいクリーチャー!?今までの呪文はこのため……永遠リュウも除去されとるからあいつがタップインで置かれへん!なるほど、考えおったな………。

 

「こいつは出たターン中、相手プレイヤーを攻撃できる!さらにマナゾーンにすべての文明があることにより、呪文の効果でも選ばれずブロックもされない!とどめよお父さん……そして、必ず助ける。それが私のやるべきことなのよ!!いけぇぇぇぇっ、インス・トール、ダイレクトアタァック!!!」

 

 インス・トールの一撃は、暴虐と瘴気をまとった“絶望”を真正面から貫いた。

 ………はず、はずだった。

 だって、だって、呪文の効果を受け付けないのよ?「このとき」がいつ来たっていいように、昔のカードのことも調べた。私の手元にタブレットがあった。だから限界まで調べつくした……そこにあった。革命0トリガーがあるってことを私は調べた!それら全部が呪文だった……だから、だからそのケアのために、私はこのクリーチャーをシンラバンショーに生み出してもらった!!!

 

 ――勝てるはずだった。

 ――止められるはずだった。

 

 それなのに。

 

 なんで一撃が通ってないの。

 

「……くだらん。」

 

 お父さんの低い声が、胸を突き崩す杭のように響いた。

 

「え……」

「必ず助ける?……具体的に、どうやってワイを助けるつもりや?」

 

 その問いに、喉が痙攣したように詰まる。

 どうやって――?

 

「ど、どうやって……そんなの……」

「ほら見ろ。答えられへんやんか。」

 

 冷たく、突き放すような声。

 

「主人公気取りで突っ走って……肝心なところで止まる。阿保らしいにもほどがあるわ。はぁ……ほんま、どうしようもないなぁお前。」

 

 胸の奥が、冷たく凍っていく。

 ――何も言えない。本当に、何も。

 だって、そうだ。どうすればいいかなんて、わからない。

 

 声を張り上げ続ければ届く?そんなわけない。

 もし本当に届くのなら、とっくに“お父さん”は“お父さん”になっていたはずだ。あんな怪物にはならなかったはずだ。

 分かってる。心のどこかで分かっていた。叫ぶだけじゃ、泣くだけじゃ、何も変わらない。

 だけど――。

 

「どうすれば……どうすればいいのよ……」

 

 自分の声が自分の耳にひどく遠く響いた。

 吐き出した言葉は頼りなく、胸の奥で砕けて消えていく。

 わからない。わからない。何をすればいいのか。どこを見ればいいのか。何を信じればいいのか。

 

 指先が震える。呼吸が浅くなる。

 視界の端がにじみ、光と闇がぐちゃぐちゃに混じる。

 胸の奥で誰かが叫んでいるのに、その声すらもう掴めない。

 

 ――どうして。

 ――どうして私は、こんなに無力なんだろう。

 

「革命0トリガー、ボルシャック・ドギラゴン。……山札上は火のクリーチャー。よってバトルゾーンに。そして、インス・トールとバトル!」

「あ……」

 

 声にならない声が、喉から漏れた。

 もう、盤面には一体のクリーチャーもいない。

 盾もない。攻める力も、守る力も、何も。

 

「…………」

 

 視界が揺れる。

 それは盤面のせいじゃない。自分の涙のせいだ。

 気づけば頬を伝い落ちていた。こらえようとしても止まらない。

 

「……ターン、エンド…………」

 

 震えた声で、そう宣言するしかなかった。

 胸の奥に広がるのは、虚無。

 ――結局私は、弱かった。誰かを救えるような人間じゃなかった。お父さんにだって、立ち向かえるほど強くなんてなかった。

 

 私は、ただの子ども。ただの小娘。

 

 

 

 

 

ギョウ ターン6

 

 

「クク……ようやく認めたか。ええザマやなぁ、シンラ。」

 

 お父さん――ギョウの声は、刃より冷たく、炎より苛烈だった。

 

「助ける?立ち向かう?お前ごときが? 笑わせるわ。結局のところ、お前にできるのは泣き喚くだけやったなぁ。無力を晒すだけ……。」

「…………」

「ほれ見てみぃ、自分の盤面。何も残っとらんやろ? これがお前の現実や。これがお前の“限界”や。お前は主人公でもなんでもあらへん。ただの取るに足らん雑魚や。」

 

 心臓を握り潰されるようだった。

 けれど、彼はさらに追い詰める。

 

「――終いや。世界一下らん悲壮感抱えて無様に死ね!!」

 

 ギョウの指先がゆっくりとボルシャック・ドギラゴンを示す。

 異形の巨影が揺らぎ、場の空気をさらに重く染め上げていく。

 瘴気が波打ち、視界が黒く染まり、息ができなくなる。

 

「やれ、ボルシャック・ドギラゴン……ダイレクトアタックや!」

 

 咆哮とともに、異形がシンラへ迫った――。

 

 

 

 この時、ギョウはシンラが死んだと確信した。シンラも、自分はここで死ぬんだと、そう確信していた。

 

 だが、違った。

 

 前例があった。ボルツとニガ・ヴェルムート、彼らの真のデュエルでも、ボルツに何者かの助けが入り、ボルツは一命をとりとめることができた。

 

 しかし、今回は、ボルツを助けた炎ではなかった。

 

 ギョウの背後を、誰かの指先が「トン」と叩く。

 反射的に振り返ったその刹那、

 

「な……何で……っ!!何で貴様が――ここにっ!?」

 

 それはこれまで見せたことのない、狼狽そのものだった。

 ボルシャック・ドギラゴンの拳が振り下ろされる直前、シンラの視界にはギョウから迸る“光”が映っていた。

 あれは……誰かだ。確かに“誰か”が、ギョウの背後に立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

―――――――

 

―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ラ! ――シンラ!!!」

「……っ!」

 

 目を開けたとき、シンラは最初の場所に戻っていた。ギョウと出会った、あの場に。

 そこにギョウの姿はなく、ただ漆黒の空が広がるばかり。星ひとつない、息苦しい夜空。

 

「……気づいたか。奇跡的に生き延びたな。……あの光のおかげだろう。いや……お前だけじゃない。俺たちを救ったのかもしれん。」

 

 助かった。

 でも、助からないものがあった。

 一度、自分が「そう思ってしまった」感情――その傷跡は、どうしようもなく深く残る。

 

「ね、ねぇ……シンラバンショー…………」

「?」

「ごめんね……ごめんねっ……! 私……すっごく、弱くてっ………!!!」

 

 声が裏返る。涙が止まらない。

 「助かった」安堵と、「弱さ」を噛みしめる絶望が、胸の奥でぐちゃぐちゃに混ざり合う。

 

 ――助かったはずなのに。

 ――生き延びたはずなのに。

 

 救いの事実はむしろ残酷だった。

 生き残ったからこそ、自分の惨めさも、情けなさも、はっきりと突きつけられてしまう。

 

「ううぅ……生きてる……でも……死んだ方がよかったんじゃないかって……思っちゃう……!」

 涙で震える唇から、そんな言葉まで漏れそうになる。

 

 シンラは確かに命を拾った。

 だがその心は、抉られ、ひび割れ、どうしようもない傷を抱えたまま、暗闇に取り残されていた。

 




オリジナルカード紹介

G・Y・O・U コスト5 文明:すべて パワー7000
レアリティ マスターレア

・マナゾーンに置くとき、このカードはタップして置く。
・W・ブレイカー
・このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、マナゾーンにある文明の数、マナゾーンのカードを1枚選び、アンタップする。
・このクリーチャーがバトルに勝った時、そのクリーチャーと同じコストを持つクリーチャーを自分のマナゾーンまたは手札から1体選び、バトルゾーンに出してもよい。
・自分のクリーチャーをバトルゾーンに出した時、それがターン中初めて出す「G・Y・O・U」以外の文明のクリーチャーであれば、それよりもコストの小さい進化では無いクリーチャーを、自分のマナゾーンまたは手札から1体選び、バトルゾーンに出してもよい。(この効果は、ターン中に1回のみ発動する。)



奇妙と聖魔の王座 コスト4 文明:火
レアリティ レア

・自分のクリーチャーを1体選ぶ。このターン、そのクリーチャーのパワーを2倍にした後、相手のクリーチャー1体選び、バトルさせる。


フレーバーテキスト ――その玉座に、純粋な勝利など存在しない



邪帝の進撃 コスト6 文明:自然
レアリティ ベリーレア

・アタック・チャンス:ドラゴンの2回目の攻撃(自分のドラゴンが攻撃するとき、それが2回目のドラゴンの攻撃であればこの呪文をコストを支払わずに唱えてもよい。)
・このターン、自分のすべてのクリーチャーはアンタップしているクリーチャーを攻撃でき、すべてのバトルに勝つ。



豪波と呪羅の権化 コスト8 文明:自然/闇
レアリティ スーパーレア

・マナゾーンに置くとき、このカードはタップして置く。
・自分のマナゾーンにカードが7枚以上あれば、このカードは「S・トリガー」を得る。
・相手のクリーチャーを最大2体まで選ぶ。そうしたら、それよりもコストの小さい呪文を2枚まで、自分のマナゾーンからコストを支払わずに唱えてもよい。


希望萬壽インス・トール パワー9000 コスト7 文明:自然/水/火
レアリティ ベリーレア

・G・ゼロ:このターン、マナゾーンのカードを5枚タップし、呪文を3回以上唱えていれば、このクリーチャーをコストを支払わずに召喚してもよい。
・W・ブレイカー
・このクリーチャーはバトルゾーンに出たターン、相手プレイヤーを攻撃できるようになる。
・マナゾーンにすべての文明があるとき、このクリーチャーはブロックされず、相手の呪文の効果で選ばれない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。