寄成ギョウに転生したから、キャラの良さガン無視して善人になるニョロ〜! 作:ライダー☆
「…………」
ジョーから聞かされた。――シンラを見ていない、と。
どうやら二週間も前から姿をくらませてるらしい。誰も目撃していないし、学校にも来ちゃいねぇ。家に行って呼んでみても、返事はゼロ。鍵は内側からガッチリ閉ざされてるらしく、扉を叩こうが揺らそうが沈黙が返ってくるだけだって話だ。
『ボルツ、シンラちゃんのこと……頼めないかな?ごめん、俺は……キラと一緒に、どうしてもやらなきゃならないことがあるんだ。』
ジョーの声音は強がっていたが、その奥に焦りが滲んでいた。たぶん本人も「ただ事じゃない」と思ってんだろう。だが、あっちはあっちで背負うものがある。なら――何の予定もなく、ヒマを持て余してる俺ちゃんが動くしかねぇだろうが。
けどよ……胸の奥がやけにざわつくんだ。いやな勘が拭えねぇ。足が重くなるほどの、BADな予感がひしひしと迫ってきやがる。
……あいつに、いったい何が起きてんだ?
俺ちゃんはスケボーを蹴り出し、昼の街を駆け抜けていた。
アスファルトのざらつきが足裏に伝わり、耳を裂くような風が横を過ぎていく。
シンラが行きそうな場所――校舎裏、公園のベンチ、カードショップ、あの川沿いの土手……考えつく限りを端から当たってみたが、どこにもいねぇ。街灯の下を何度も通り過ぎるたび、空っぽのベンチや賑わっている店のシャッター……それらが、不気味な沈黙を突きつけてくるだけ………。
「チッ……シンラの奴、本当にどこに消えやがったんだ……!」
焦りで舌打ちがこぼれる。胸のざわつきは増すばかりで、ペースを落とすことができなかった。
――気がつけば、俺ちゃんの目の前に、シンラの家が立っていた。
薄暗い玄関先。窓からは一切の灯りが漏れていない。昼間だというのに、どこか夜みてぇな陰鬱さが漂っていた。
ドアノブを力任せに引いたが、やっぱり開かねぇ。カギはしっかりかかってやがる。
「……ったく、どうすりゃいいってんだ。」
そんな俺ちゃんの隣で、ダチッコがひょいと顔を上げた。
「ボッさん、ここは俺ッチに任せてくれっす!」
そう言うなり、ちょこんと尻尾を鍵穴へ差し込む。ぐりぐり、カチカチ、と器用に動かし――「よしっ!」と小さな声をあげると、カチャリ、と乾いた音が鳴った。
扉が、開いた。………こいつ、こんな特技あったの?マジで?
まぁ何はともあれ、シンラの家には入れた。
…………は?
俺ちゃんはシンラの家の中に足を踏み入れた瞬間、息が詰まった。
……真っ暗だ。カーテンが閉め切られてるせいで、昼だってのに視界がほとんど効かない。
しかも、他にもマジにひどい有様だった。床一面に散らばった紙くず、食べかけで放置されたままの皿、倒れたイス。まるで嵐でも通り抜けたみてぇな散乱ぶりで、生活の気配と同時に――不穏さがむせ返るほど漂っていた。
「……おいおい……何だよ、これ……」
胸のざわつきは、もはや胃を締め付けるような圧迫感に変わっていた。
「ボッさん、これはちょっとヤバいんじゃねぇっすかァ!?」
「……あぁ。」
踏み込んだ瞬間から、息苦しさが胸を押し潰していた。
闇に目を凝らしても、浮かび上がるのは歪んだ輪郭ばかり。足先で散乱した紙や衣服を踏み分けるたび、ざらついた音とともに、鼻を突く腐臭が漂う。湿った食べ残し、乾きかけた飲み物、汗と塵の混じり合った淀み――その全てが混じり合って、部屋をひとつの「壊れた空気」に変えていた。
俺ちゃんは思わず肩を竦める。
「……シンラ……どこにいんだよ!」
低く漏れた声は闇に吸い込まれ、返事の代わりに、床板の軋む音が応えた。俺ちゃんの足音じゃない。反射的に振り返れば、背後には小さく震えるダチッコの影だけ。
「ボッさん………!」
「怖ぇなら隠れてたほうがいいぜダチッコ、これ、本当に何が起こるかわかんねぇぞ……!!」
視線を戻すと、闇の奥に階段が口を開けていた。上へと続く暗がりは、不自然なほど重たく、湿った布を頭から被せられたように息苦しい。まるで「近寄るな」と唸っているかのように見えた。
それでも、俺ちゃんの足は止まらねぇ。心臓が叩きつけるように脈打ち、衝動が背を押す。
一段、一段。軋みが神経をかき乱しながら、二階へと進む。廊下は一層酷い有様だった。窓は新聞紙で貼り潰され、昼の光は一切遮断されている。空気は淀みきり、吸うたびに喉がひりついた。皮膚ににじむ汗は暑さのせいじゃねぇ。そこに漂う「異様な気配」のせいだ。
――いる。間違いねぇ。
確信は理屈を超えて背骨を這い上がった。
廊下の突き当たり、ひときわ重苦しく閉ざされた扉。そこから滲む気配は、静かで、それでいて圧倒的だった。喉が鳴る。理解してしまった。あれを開ければ、何かが決定的に変わる――後戻りはできねぇ、と。
それでも、足は勝手に動いた。
衝動に突き動かされるままにドアノブを握り、力任せに押し開ける。
――瞬間、鼻腔を突く。
乾ききった汗の臭い、皿にこびりついたままの腐臭、閉じきった部屋が孕んだ重苦しい空気。
その奥に、シンラはいた。
「――――――っ。」
痩せ衰えてはいない。身体は確かに「生きている人間」の形を保っていた。だが、その眼だ。
空虚、という言葉では足りなかった。絶望に沈み、光を拒み、映すものすべてを切り捨てた瞳。黒い深淵のような虚ろが、彼女の眼の奥に広がっていた。
肩まで伸びた髪は梳かれることなく乱れてて、衣服はそのまま放り出したみたいに整えられていない。だが、そんな表層的な荒れなど瑣末に思えるほどに――その眼が、全部、物語っていた。
見ているのか、見ていないのかさえ分からない。焦点を結ばないその視線は、まるでこの世を拒絶し、関わりを断ち切ったかのように冷たく、深く、底知れぬ淵を湛えていた。
「……シンラ……」
声がかすれる。
確かにそこにいるのはシンラだった。呼吸をし、生きて、俺ちゃんを見返している。だが――その荒んだ眼差しが突きつけていたのは、残酷な現実だった。
シンラは「生きている」。
けれど同時に、「死んだように在る」んだ。
荒んだ眼差しと向き合ったまま、俺ちゃんは喉の奥が乾いていくのを感じていた。声を出すことさえためらわれたが、それでも口を開かずにはいられなかった。
「……シンラ。お前、何してんだよ……こんなとこで」
闇に溶けるような声だった。だがシンラは応えない。唇がかすかに動いたかと思えば――か細く、ひとことだけ。
「……帰って」
その言葉は、吐き捨てるでもなく、泣き叫ぶでもなく。ひたすら冷えて、無機質で、存在を拒む刃のようだった。
俺ちゃんは一瞬、息を呑む。
「なにがあったんだ、シンラ……」
踏み込むように問いかけても、彼女は首を振るだけだった。
「……話したくない」
壁に弾かれるみてぇな拒絶。だが、その沈黙の奥には、ただ隠しているだけじゃねぇ、もっと深い、崩れきったものが滲んでいた。
思い出す。ジョーの顔。あいつの真剣な眼差し。
――頼む。シンラを見つけてくれ。
その声が脳裏で反響する。
俺ちゃんは奥歯を噛みしめ、視線を逸らさずに言った。
「……悪いが、俺ちゃんは出ねぇ。お前の口から聞くまでは、ここから一歩も動かねぇ。…もう一度訊くぜ、何があったんだ!!!」
沈黙が続いた。
そして。
「やめろッ!」
張り裂けるような声が、閉ざされた部屋を震わせた。
次の瞬間、シンラは身をよじり、傍らに転がっていた空き缶を掴むと、俺ちゃんへ向かって全力で投げつけた。金属の衝撃音が壁に跳ね返る。
止まらない。散乱した本、皿、破れた衣服――手に触れるものを次々と掴んでは、半狂乱のように投げつけてくる。
「……出てけ!出てけよ!帰れって言っただろォッ!!!」
その叫びは怒りじゃねぇ。恐怖と、絶望と、自己嫌悪が絡み合って滲み出る、どうしようもねぇ慟哭だった。
涙は流れていない。だが、声の奥には、泣くことさえ許されない心の軋みが渦巻いていた。
崩れ落ちるように荒れていくシンラを前に、俺ちゃんの胸は鋭い杭で貫かれたみてぇに痛んだ。
部屋の中は、シンラの絶叫で満ちた。紙くずや皿、倒れた椅子が飛び交い、ぶつかる音が鈍く響く。窓から差し込む光は散乱する破片に遮られ、部屋全体が歪んだ異形の世界のように見えた。
シンラは震え、嗚咽混じりに声を絞り出す。
怒りでも悲しみでもない。ひたすらに「絶望」そのものが彼女の口から噴き出していた。
「帰れ……帰れ……!出て……行け……!」
言葉は無数に飛び交い、壁や天井にぶつかって跳ね返るたび、まるで部屋の空気そのものが裂けるかのようだった。
俺ちゃんはひたすらその叫びを見つめた。胸の奥が痛くなる。どうしようもない虚無が、シンラの体を通して空気にまで染み出しているのを感じた。手を伸ばしても、言葉をかけても、何も届かない。届かない――そんな無力感が、心を締めつけた。
そして、限界が来た。
胸の奥でくすぶっていた抑えきれぬ感情が、一気に弾ける。
俺ちゃんは一歩踏み込むと、シンラの肩に両手をかけ、胸ぐらを掴んだ。妥協とかしねぇ、全力でつかんだ。全ての怒りと、守りたい思いをぶつけるための力だった。
「シンラ、聞け――今、お前がどれだけ叫ぼうと、泣こうと、俺は離さねぇ!俺が聞くまで、ここを出ることはねぇ!」
シンラの瞳が瞬きをする。荒れ狂う絶望の海の中に、わずかに光が差し込むようだった。しかし、まだ逃げ場のない部屋の中で、彼女は混乱と恐怖に縛られ、反射的に手近な物を掴み投げる。皿、紙束、空き缶。ボルツの肩をかすめてぶつかり、床に叩きつけられる。
それでも、俺ちゃんは目を逸らさない。逸らすもんか。手を緩めず、胸ぐらを掴んだまま、声を震わせず、ひたすらに言い続ける。
「お前は、お前の父親助けるんだろ?」
俺ちゃんがその言葉を吐いた瞬間、空気が裂けた。
シンラの眼の奥で、何かがぷつりと切れたのが見えた気がした。
次の瞬間、俺ちゃんの顔に、拳がめり込んだ。
衝撃で視界が一瞬白く飛ぶ。ぐらついた俺ちゃんの胸に、彼女は獣みてぇに飛びかかってきた。馬乗りになり、両拳を振り上げ、絶叫を叩きつける。
「知ったふうなこと言わないでよ……!」
「アンタに……アンタなんかに、私の何がわかるっていうのよォォッ!」
「見下されて、罵られて、笑われて……努力しようとしても、何もできなくて!全部、全部、無駄で……!」
「顔を思い出すだけで息が詰まる!声が響くだけで心が千切れるの!」
「私の存在なんて、最初から間違いだったんだッ!私なんか、いない方が……!」
シンラの声は、叫びというより呪詛に近かった。
拳は弱々しいはずなのに、振り下ろされるたびに胸の奥まで突き刺さる。涙と唾と、憎しみと絶望が入り交じり、顔を歪め、喉を引き裂くように言葉を連ねる。
「お願いだから……もう、私に近づかないで!」
「………シンラ………。」
「ボルツ…どうせあなたまで裏切るんでしょ!どうせ最後には笑うんでしょ!?」
「私を助けるだなんて……そんなの、信じられるわけないじゃないッ!」
「誰も、誰も、私を必要としてないんだよ!」
部屋中が震えていた。
散乱していた物を掴み、力任せに投げつける。皿が砕け、紙束が宙を舞い、空き缶が俺ちゃんの肩を打ち、床を転がる。その一つ一つが、シンラの心臓の悲鳴の破片みてぇだった。
俺ちゃんは……ただ、必死にこらえてた。
殴られても、罵られても、崩れ落ちそうな自分を押しとどめて、シンラの絶叫を、全部、耳で受け止めた。痛ぇ。苦しい。けど、それでも目を逸らすわけにはいかなかった。
やがて、振り落とす覚悟を決めた。
全身に力を込め、シンラの腕を振り払い、どうにか体を押し離す。荒い息をつきながら、床に膝を突き、それでも立ち上がった。
「……そうかよ。」
喉が焼けるみてぇに痛ぇ。けど、声は濁さねぇ。
「やっぱり、父親が絡んでるんだな。」
シンラは泣き笑いのような顔で、なおも荒く息を吐いていた。怨念と絶望の中で、まだ抗うように俺ちゃんを睨みつけてくる。
俺ちゃんは拳を握りしめた。
逃げねぇ。目も逸らさねぇ。
「……なら、一つ言わせろ。………デュエマしろ、シンラ。俺ちゃんとだ」
声が部屋に落ちた瞬間、空気がぴんと張り詰める。
俺ちゃんは一歩踏み込む。
「俺ちゃんはお前のことを分かった気にはなってねぇ。全然だ。何も理解できちゃいねぇよ。」
「けどな……それでも俺ちゃんは、お前のことを助けたい。協力したいんだ。どんなに堕ちてても、どんなに絶望の中に沈んでても――俺ちゃんはお前を見捨てる気はねぇ!」
さっきの胸ぐらを掴んでるときみてぇな眼差しで、俺ちゃんは彼女を見据えた。
シンラの荒んだ瞳の奥で、微かな揺らぎが震えたのを、俺ちゃんは確かに見た。
「……わかったわよ。やってやるわよ!」
「その精神だけは、変わってねぇらしいな。ありがてぇ、それじゃあマジにいくぜ!!!」
ボルツ キーカード:“罰怒”ブランド
シンラ キーカード:希狩りの悪種羅樹
『デュエマ、スタート!』
ボルツ 手札3 シールド5 マナ3 バトルゾーン チュチュリス
シンラ 手札4 シールド5 マナ4 バトルゾーン なし
ボルツ ターン4
「行くぜ、シンラ。」
「………うん。」
これといった動きはねぇ、……いや、できねぇのか。………デュエマをすること自体に首を横には振ってねぇが、どこかで自分を責めてやがるな……多分。だから思うように動けねぇし、自信を無くしてる。
だったらどうにかして、俺ちゃんがそいつをたたき起こしてやるしかねぇよなぁ!
「ドロー、マナチャージ!そして………マジでBADにいくぜぇ!」
B・A・D!!
「B・A・D・2の効果で、“襲斗”戦車ガランガを2マナで召喚!さらに……それをもう一体!」
「……………」
「黙りこくってるのはいいが、もう一度言う。俺ちゃんはお前を見捨てる気はねぇ!必ずお前を昔みてえにしてやる!」
「っ……昔、みたいに………っ!!!」
「行くぜ!チュチュリスでシールドを攻撃!」
「………チッ。」
「ターンエンド!その時、ガランガ2体は破壊される。だがしかし!ここでガランガの能力を発動!破壊されたとき、相手のシールドを1枚ブレイクだ!」
一気に2枚!合計3枚割ってやった。次のターンにはとどめを刺せる。……が、あいつ、トリガーを引かなかったな。シンラのことだ、今のブレイクでリターンを得てくると思ってたが…。
間違いなく弱くなってやがるな。
それに、いつまでカードを見て止まってやがるんだ?
「………昔みたいに、ですって?」
「…?」
「簡単に言ってくれるじゃない!そんなことしたこともないくせに!!口で言うのは簡単なのよ、けどねぇ!やってみればわかるわよ!無駄よ、無意味よ!無価値なのよ!!結局失敗に終わるのよ!私を戻せる理屈がある?具体的な方法がある!?ないでしょ?」
俺ちゃんの胸が締め付けられる。名前を呼ぶしかなかった。
「……シンラ………」
だがそれすらシンラには毒だ。
「名前だけ呟いたところで何が始まるってのよ……」
視線を逸らし、唇を噛み、嗚咽混じりに吐き出す。
「もう嫌。アンタみたいなやつがここにいるだけで腹が立つのよ……」
肩が震え、机の上のカードを握りつぶす勢いで押しつける。
「もう希望なんてない………希望のないデュエマを見せてあげる……!!アンタみたいなやつ、ぶっ潰してやるわよッ!!!!!」
絶叫。濁った喉から絞り出される、怨嗟と狂気の混ざった声。
それは勝ち負けを超えて、ただ存在を否定するための叫び………。
シンラ ターン4
「私のターン!!ドロー!」
「呪文、ポジトロン・サイン!!効果で山札の上から4枚を見て、その中から「S・トリガー」を持つ呪文を1枚タダで唱えることができる!」
って、てことは、5マナでマジに強ぇ呪文が打てるかもしれねぇってことかよ!?
「4枚………その中から、こいつを唱えるわ……「希狩りの悪種羅樹」」
「見たこともねぇカードっス!?」
「闇文明……だけのカード!?」
「その効果で!山札から6枚を墓地へ。そのあと、墓地からコスト3以下のクリーチャーと呪文を1枚ずつ選び、使うことができる!まずは来い!!!墓地進化、死神人形デスマーチ!!!」
「1コストのブロッカー?……それがどうしたってんだ?」
「まだ終わりじゃないわよ。3コストの呪文!………龍脈術落城の計!これでコスト6以下のカードを1枚選び、手札に戻す!」
「コスト6以下?チュチュリスを戻すってことか?」
「はッ、馬鹿じゃないの?私が戻すのはデスマーチよ。」
「なにっ!?どういうことだ?」
「落城の計の効果は、「コスト6以下のカードを手札に戻す」効果。私が戻すのは「デスマーチ」であって、「デスマーチの進化元」はその場に残る。だって「デスマーチ」じゃないから。」
なんだと!?つまり、まさか……!!
「デスマーチを手札に……そしてお出ましよ。最強のクリーチャー!」
――世紀末ヘヴィ・デス・メタル――
「パワー39000だと!?」
「ととと、とんでもねぇヤツが出てきたっスー!!!!?」
「力の差を知れ!お前なんて足元にも及ばないのよ!!!ヘヴィ・デス・メタル!シールドをワールドブレイクよ!!」
さっきまで5枚あったシールドが……一気に割られやがった!
だが……トリガーはある。
「シールド・トリガー、オリオティス・ジャッジ!!」
「光文明のカード……!?」
「火文明のシールド・トリガーは、ある程度でけぇやつには無力なことが多いからな。保険ってやつだ。こいつの効果で、お前のヘヴィ・デス・メタルを山札の下送りだ!!」
「チッ、ターンエンド。」
……静寂。
だが次の瞬間、シンラは小さく嗤った。
「……くだらないわね。」
「あ?」
「せっかく……“私の力”を見せつけてやろうと思ったのに。あんたが一枚のカードで消した……?……ハハ、笑わせないでよ。」
指先が震え、机を爪で引っ掻く。
「どうせ……全部無意味よ。私が何を出そうと、何を壊そうと……あの人の声が響くのよ。“お前なんて無価値だ”って……聞いたこともないはずなのに、まるでそれが、生まれたころから言われてたのかってぐらい、鮮明に残ってる。」
シンラが、俺ちゃんを血走った目で睨みつける。だけど……違う、さっきみたいな目じゃない。狂ってはいない……。
「そうよ……無価値なのよ、全部。だから……あんたも、ここで無価値になりなさいよ……っ。」
その声は、絶望だけが塗られた、呪詛………だ……。
――相当なトラウマを叩き込まれてきたんだろうな。だが、それがシンラを諦める理由にはならねぇ。ましてや、こいつが自分自身を「無価値」と切り捨てる理由にも……絶対にならねぇ。
が、問題はどうやって伝えるか、だ。ていうかこいつ自身のこの状況を変えなくちゃ意味がねぇ。
俺ちゃんは一瞬だけ考え、ある話を持ち出すことに決めた。思いつきだが、これしかねぇ。
「……なぁ、シンラ。ジョーが今、何やってるか知ってるか?」
「はぁ?……何、いきなり。知ってるわけないでしょ……」
「だろうな。じゃあ教えてやるよ。」
俺ちゃんは一呼吸置いてから、声を強く張った。
「――あいつは今、“大親友と命懸けのデュエマ”をやってる。」
シンラの瞳がわずかに揺れる。
「……何が言いたいの。私に何を押し付けようってのよ!!」
「まぁ聞け。ジョーにとって、キラは大親友だ。かけがえのねぇ存在だ。」
言葉を噛みしめるように、俺ちゃんは続けた。
「だがな……そのキラは、デュエルウォーリアってやつを倒した。当たり前のことに聞こえるかもしれねぇが、その状況をジョーに見られたんだ。しかもそいつは、何の悪意もねぇ、ただ優しいだけの爺さんだったんだとよ。ジョーにもすげぇ親切にしてたらしい。」
シンラが小さく息を呑んだ。
「さらに言えば……キラはジョーに、そんなこと一切話してなかった。裏切りに近ぇ行為だよな。友達に隠し事して、信頼をぶち壊すようなことをしたんだ。」
「……っ」
「だが、それでもキラは“自分の正義”を執行し続けた。友情よりも、世間の理解よりも、自分の信じる正義を優先したんだ。」
「だから何……ッ!『結』を言え!!」
シンラの声は震えていた。
「結論はこうだ。」
俺ちゃんは目を逸らさず、真っ直ぐにシンラを射抜く。
「ジョーは――そんなキラに、“真のデュエル”を申し込んだ。」
「ッ……!」
「理由なんざ、立派なもんじゃねぇかもしれねぇ。ただ『親友を助けたい』、それだけだ。だけどな、その覚悟は本物だった。」
拳を握りしめる。
「親友が裏切りのような行動を取った。親友が正義に酔って、人を裁いていた。……それを知ったら、普通はもう信じられねぇ。心に一生残る傷を背負うかもしれねぇ。誰に支えられようが、消えねぇほどの傷だ。」
シンラは沈黙し、爪で自分の腕を押し込んでいた。
「……それでもジョーは諦めなかった。親友を信じて、自分を信じて……どれだけ差があろうが、どれだけ痛みを味わおうが、弱音を吐かずに真正面からぶつかり続けたんだ。」
「………………」
「ジョーはまだ、俺と同じ十歳だ。そんな歳で持てる勇気じゃねぇよ、普通は。……だが、あいつはやった。親友のために。覚悟を決めて、命を懸けて。」
俺ちゃんは一歩踏み出す。
「お前だって……父親を助けるために戦ってた。“はず”だろう?」
声に熱がこもる。
「なら今のお前は……どうしちまったんだよ、シンラ!!」
「っ……私は…………私は………!!」
ボルツ ターン5
「決断できねぇか、まだ自分が怖いか、自分を信じられねぇか!!!!だったら………俺ちゃんがそれを燃やしてやる!全部、全部燃やし尽くして、お前の助けになってやる!!!!」
ドローッ!!!行くぜ、切り札はもう手札にある!このまま押し切れば……こいつを……!!
「まずは、ダチッコ・チュリスを召喚!」
〈よーっしゃ、行くっスよぉ~!!〉
「さらに!B・A・Dォ!ダチッコとチュチュリスの能力も併せて、1コストで“血煙”マキシマム!」
「ボルツ………。」
「まだだ!このターン2体のクリーチャーを召喚した。コストは1!“罰怒”ブランドォォッ!!!!」
私は…………何がしたかったの?お父さんを助けられなくて、自暴自棄になって、自分で、自分の限界を決めて…………全部諦めて……
「やれっ、“血煙”マキシマム!」
ダブルブレイク。これでシンラのシールドは0。何もなけりゃぁ俺ちゃんの勝ちだ。
「シンラ。どうした………シールドチェックだ。最後の2枚、そこに、全部かかってんだぜ。」
「…………わかってるわ。」
なんで、私は諦めたのかしら………今思えば、もっとみんなに協力してもらえばよかった。誰かにこのことを言えばよかった。もっと、もっと、私を強くしてほしいって……そうすれば、私はもっとお父さんに近づけた、お父さんにもっと真剣に向き合うことができた!!
ずっとわからなかった。お父さんを助ける理由が。具体的な理由が………
そりゃそうよ。わからないんじゃない!ないんだもん!!大切な人を助けることに「具体的な理由」なんてない!ただ助ける!その思いがあれば、それ以外は何も寄せ付けない理由なのよ!!!
だから、だから………
「これ以上自分に負けるわけにはいかない!!」
「ッ!!いいぜ………そうだよ、シンラ!お前はそうじゃなくちゃいけねぇだろ!!!」
S・トリガー、マスター・スパーク!
「これでボルツのクリーチャーをすべてタップ!!」
「やるじゃねぇかシンラ!マジでBADだぜ!…ターンエンド。その時、“罰怒”ブランドの効果でチュチュリスを、“血煙”マキシマムの効果でダチッコを破壊。さぁ、シンラ、お前のターンだぜ!!」
ターンが回ってきた。多分このターンに決め切らなくちゃ負けるわ………けど、その前に……
「ボルツ!」
「ん?」
「…………ありがとう。うまく言葉は出ないけど……すごく、助かった。」
「まぁな。どうなろうが、シンラも俺らと同じデュエリストだ。大切な友達だ。………話が長くなっちまうといけねぇなぁ。さて、お前はこのターンどうするつもりだ?」
「どうする……?」
シンラの眼がキラリと光りを宿す。
「ある程度BADな気は治ったらしいが、まだちょっと抜けてるところがあるかもしれねぇな。言っとくが、俺ちゃんは“血煙”マキシマムの効果で敗北を一回逃れることが可能だ。そうしたら、俺ちゃんは次のターンに“罰怒”ブランドでダイレクトアタックをしてお前に勝てる。つまるところシンラ、お前は………」
「“血煙”マキシマムを破壊したうえで、ダイレクトアタックをしなくちゃいけない。ってところかしら……しかも、バトルで破壊したりするだけじゃ無謀よね、そいつ、破壊されるときほかのクリーチャーを身代わりにできるんでしょ?」
「そういうことだ。俺ちゃんの手札にスピードアタッカーがいるってところも考えもんだぜ?それに、お前のデッキに光文明のカードはあれど、ブロッカーは見えねぇ。それに文明がばらばらだから、ブロッカーが手札に何体もいる可能性だって低い。」
「本当に、このターンで終わらせなくちゃいけないみたいね。」
………方法が思いつかない。けど、それでもやるしかない!
自分でつなぎとめたチャンスなのよ、それを活かさなくちゃ………せっかく復活したってのに、情けないったらありゃしないわ!!
シンラ ターン5
「私の、ターン!!」
今やるべきことは、ひとつだけ。目の前に立ちはだかる敵を倒す。それが、力を得るための第一歩。父さんを助けられるのは、この私しかいないのだから。なら、私がやらなければ誰がやる。
私はもう絶対に負けない。勝って、勝って、勝ち続けて――必ず辿り着く。
「ドローーッ!!」
指先が弾いた一枚を引き抜いた瞬間、胸の奥に火が灯った。
「……これ……まさか……!?」
(なんだ……?知らねぇカード……?だが、シンラなら期待を裏切らねぇはずだ。やれよ、やってみせろシンラ!)
「……ありがとう、あなたの力を借りるわ。そして…私は必ず勝つ!」
シンラは迷いなくマナを揃える。手の動きにもう、かつての半狂乱な影はなかった。
「6マナをタップ……来て!新しい切り札……“招勝妖精サンフラワー”!!!!」
「サンフラワー……!?まさか……!」
見覚えがあった。俺ちゃんがシンラと初めてデュエマをしたとき、場にいたカード――だが、姿形がまるで違う。強化どころじゃねぇ……完全に別物にすら…!?
〈久しぶりです、シンラ様。〉
「サンフラワー……なのね? ごめん、最初引いた時、誰だか全然わからなかった……」
〈ええ、無理もありません。けれどこうして戻れた。シンラ様が立ち直ってくださったから。もしあのまま沈んでいたら……我々も、何もできないままでした。〉
「……そうだったの。私、全然知らなかったわ。」
〈それでいいんです。ずっと消耗しきっていたんですから。ですが、もう違いますね。ご友人方も、そのうち戻ってくるでしょう。皆、シンラ様の力を信じて探しているはずです。〉
「……ありがとう。」
〈礼はいりません。それよりも今は――私の力を存分に使ってください。シンラ様のために磨き続けてきた、この力を。〉
……あぁ、やっぱり。シンラのクリーチャーも大変だったんだな。俺ちゃんなんかよりずっと……支えきれなかった分、余計に重かったろうに。
「さぁ、能力を使うわよ!」
「おっと、そうだったな。見せてもらおうじゃねぇか!」
「……サンフラワーがバトルゾーンに出た時、山札の上から5枚を見る!そしてその中から……1枚を選んで相手に見せた後に手札に加える!」
「キリモミ・スラッシュ?」
「そして、相手に見せたカードの持つ文明のクリーチャーを1体選び、持ち主のマナゾーンに送ることができる!“血煙”マキシマムをマナ送りに!」
「考えたな…“血煙”マキシマムの身代わり効果は、破壊されなくちゃ発動しねぇ……が、そっからどうすんだ?そいつはスピードアタッカーじゃねぇだろう?」
「えぇ、確かにスピードアタッカーじゃないわ。「今は」ね…。」
「……つーことは、まだあるってのかぁ!!」
「えぇ、もちろん……手札に加えたカードがコスト4以下のカードなら、ただで使ってもよい……!キリモミ・スラッシュの効果は、自分のクリーチャーすべてに「スピードアタッカー」を与える効果。“血煙”マキシマムがいない今!もう邪魔するクリーチャーはいないのよっ!!!」
場の空気が一変する。
“血煙”マキシマムはマナ送りにされて、壁は消えちまった。残るは――ダイレクトアタック…。
「……なるほどな。俺ちゃんの負けってわけか。だが……」
俺ちゃんは笑う。
「お前はそうでなくちゃな、シンラ!さぁ、思いっきり来い!!」
「ええ、言われなくても!“サンフラワー”で――ダイレクトアタック!!!」
光が弾け、勝敗は決した。
「………ありがと、ボルツ。」
シンラのその声は、勝利の叫びでもなく、半狂乱の絶叫でもなく……確かな決意を帯びた、静かな感謝の声だった。
「もう聞いたぜ。礼はもういらねぇよ。……まぁ、お前が戻ってきてくれてよかった。」
「うん。一人じゃ絶対、戻ることはできなかったから…………。」
「…そーいやよぉ、お前、マスターカードはどうしたんだ?このデュエマ中、一回も見せなかったじゃねぇか。」
その瞬間だった。
記憶の底から、あの日の光景が蘇る。
自暴自棄になる直前――まだ心が砕け切る前の時間。
シンラバンショーは、他の妖精たちと同じように私を慰めてくれた。
泣きじゃくる私のそばに寄り添い、言葉を重ね、どうにか立ち上がらせようとしてくれた。
けれど、それでも私は自分に自信が持てなかった。
「無理だ」「できない」と、己を縛りつけ、差し伸べられた手を掴むことができなかった。
その結果――
「……シンラバンショー、どこかへ行っちゃったの。」
「……え?」
オリジナルカード紹介
希狩りの悪種羅樹 コスト6 文明:闇
レアリティ R
・S・トリガー
・山札の上から6枚を墓地に置く。その後、墓地からコスト3以下のクリーチャーと呪文を一枚ずつ選び、コストを支払わずに使ってもよい。
フレーバーテキスト
朽ち果てた樹に、何の希望があろうか。
招勝妖精サンフラワー パワー6000 コスト6 文明:自然
種族:グランセクト/ゴッド・ミニ
レアリティ SR
・W・ブレイカー
・このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、山札の上から5枚を見る。そのうちの1枚を相手に見せ、手札に加え、残り4枚を好きな順序で山札の下に置く。このようにして見せたカードと同じ文明を持つクリーチャーを1体選び、持ち主のマナゾーンに置いてもよい。
・クリーチャーの効果によってカードを手札に加えるとき、それがこのターン初めて手札に加えるコスト4以下のカードなら、そのカードをコストを支払わずに使ってもよい。