寄成ギョウに転生したから、キャラの良さガン無視して善人になるニョロ〜!   作:ライダー☆

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久しぶりの投稿です。


真・第二話 闇の存在、ゼーロ

「……ん?」

 

 自然文明の空に、一つの黒き球体が落ちた。

 それを目撃したのは、ただ一人の男――光文明の暴悪者「星明蹴鳴(ほしあきけなる)」である。

 

 十の暴悪(イレブン・ヴァック)

 

 ギョウに仕える十体の異形。だが、その命令系統は緩く、彼らは忠誠よりも退屈を嫌う生き物であった。そして、それをギョウは知っている。知っていながらそれを止めない。

 「ガイアハザードを始末しろ。」と命ぜられている暴悪たちだが、実際に動こうとするものはほとんどいない。彼らにとってそれは義務ではなく、あくまで娯楽の一部に過ぎないからだ。

 

 そして今、その娯楽に飢えたものが一人、動いた。

 蹴鳴は、ギョウの力にほれ込み、その手で人間の姿を与えられたクリーチャーの一人。十の暴悪の中では最もギョウに誠実で、ある程度は奇特の存在。

 

 彼は空を裂く閃光を見て、軽く首を傾げた。

 

「なんだ今の。」

 

 それは、ガイアハザードの反応とは異質なものだった。

 戦いの匂いでも、文明の力でもない。もっと――根源的な何かの匂いがした。

 

 蹴鳴は一歩、地を蹴った。

 重力を無視するように体が浮き、森と谷を一瞬で超える。

 

 落下地点には、黒く輝く球体があった

 直径は人の頭ほど。表面は鏡のような滑らかさを持ち、その内奥では微細な光――まるで星屑のような粒子が流動している。

 球の中には、確かに「小さな宇宙」があった。

 

「見たこともねぇな……上から降ってきた。水文明の仕業か?いや、多分違うな。……となれば、闇か。」

 

 冗談めかした独り言の最中、地が呻いた。

 ズズズ……と低く湿った音。球を中心に、周囲の草木が一瞬で彼、土が黒ずみ、腐り落ちる。

 

「おっと……!!」

 

 蹴鳴は反射的に飛び退った。

 腐食は円を描くように広がり、やがて直径十メートルほどの範囲が真っ黒に染まった。

 しかし球体そのものは、傷一つ負っていない。

 

 蹴鳴はしばらく無言でそれを見つめていた。やがて、決断するように息を吐く。

 

「面白ぇ。」

 

 両手で球をつかみ上げる。

 腐食は――止まった。

 

「触れても大丈夫、か。地面だけが腐る………理屈がわからん。」

 

 指先からはかすかな振動が伝わってくる。それは「力」。文明の力とも、はたまたギョウのような邪悪な力でもない。

 もっと異質で、もっと原始的なもの。

 

「妙なエネルギーだ。今まで感じたことがねぇ。」

 

 彼の口角がゆっくりと吊り上がる。

 

「ハッ。こりゃあガイアハザードより面白ぇかもしれねぇな。となりゃあ……やることは一つ!!」

 

 蹴鳴は黒き球体を肩に担ぎ、光を帯びた翼を広げる。

 風圧が渦巻き、周囲の黒土を吹き飛ばした。

 

 空を見上げる彼の眼に、興奮が宿る。

 ――未知。

 それは、十の暴悪「星明蹴鳴」を動かす原動力の一つだった。

 

 

 

――――

 

―――

 

――

 

 

 

 

「というわけで、こいつを持ってきた。」

「……なにが、ていうわけだよ。俺、テレビゲームの途中だったんだけど?」

 

 ギョウのアジト。正確には会議室。

 部屋は質素を極めており、長机一つ、椅子二十脚。天井の灯りはなく、机だけが藍白く光り、淡く周囲を照らしている。その光は硬質で冷たく、部屋の隅々まで届くことはない。壁の暗闇に潜む影が、まるで暴悪たちの心の奥底を映すかのように揺らめく。

 

 集まったのは十の暴悪のうち、水文明二人、自然文明二人、闇文明一人を除く合計五人。

 そのなかでも火文明の暴悪、慈極魔虞麻(しごくまごま)は明らかに嫌々だ。テレビゲームの手を止めて呼ばれたのだから当然なのだが、それでも、誰かの頼みで来る辺り、暴悪の中ではまだ「いいやつ」なのかもしれない。 

 

「おい。文章がちょっと自我出してきたんだけど。こんなもんだっけ?ルール無視で小説の中に介入してきていいもんだっけ!!?」

「まぁいいじゃないですか糞野郎(まごまさん)。今は蹴鳴さんの話を聞きましょうよ。」

「お前、文字見えてるんだからな。俺のことを糞野郎って思っただろ今。」

「あ、気づきました?」

「気づきました?じゃねぇっつーのーー!!!」

 

 阿弥陀――光文明の暴悪、那須嘉美阿弥陀(なすかみあみだ)――は、薄く笑いを浮かべ、魔虞麻を下に見下ろす。十の暴悪が集められた際、ギョウに最初に意見を述べたのもこの少年だ。笑顔の裏の計算高い悪意は、誰も完全には測れない。しかし彼の空気から、相手はそれを感じ取れる。

 

「蹴鳴さん、それっていったい何なんですか?ただの黒い球体にしか見えませんけど。」

「何言ってんだ、わかんねぇのか?」

「?」

「こいつは、今まで感じたことのねぇ、得体の知れねぇパワーを詰め込んだ存在だ。地面に置けば――ほら見ろ。こいつを中心に地面が腐り、闇へ変わる…。」

 

 阿弥陀は眉を吊り上げる。

 

「なるほど、そういうことですか。」

「こういう行為は水文明の仕業じゃねぇことは確かだ。それに、水文明は今やあの二人の手中だしな。だがしかし、だ。残るのは闇文明だけになるんだが……闇文明にはこんな精密な「腐食装置(デグレーター)」を作れる奴はいないはずだ。多色の暴悪が一人いるが、こんな精密さがあるわけない。」

「………今の闇文明が造るのは、狂気として動く屍ばかり。そこからスッとこんなものが生まれるのは……考えにくいですね。」

 

 その時だった。修羅知由良(しゅらちゆら)――闇文明の暴悪の一人――が、か細く口を開いた。

 

「……………一人、いる。」

「一人?誰だ。教えてくれないか知由良。」

 

 ここで、拿碌(なろく)が口を開いた。まったく、赤の他人には明るいのに、こういう場面となるとコミュニケーション能力に秀でていないものである。

 

「魔虞麻。俺もお前と同じ感情になれたぞ。」

「そうか。どうでもいい。」

 

 知由良が二人を尻目に、呟く。

 

「…………闇文明では生まれていない。正確には……「無」から生まれた存在だ。」

「無?どういうことです?」

「俺も、正確にはわからない。ただ、多分、あいつが作ったよ、それ。……球体の波長と、あいつの力の波長が完全に一致している。」

「波長が同じか。……それ以外は?なんかあるか、そいつの顔とか、姿かたちとかよぉ。」

「わからない。……力の扱い方も未知。………けど、それがおかしい。闇文明の奴らは、どれだけ狂暴でも、力の出どころとか扱い方には一定のパターンがあった。だけど……この球体には、それがない。予測ができない。」

 

 魔虞麻が不満そうながらも、口を開く。

 

「確かにな。火文明の観点からだからあんまり信用はしねぇでほしいが……・あの球体の波長はわかったが、波動がわからねぇ。内部にある……波動がな。普通ならそういう力の波動っていうのはある程度読み解けるはずなんだが、その球体に関しては、外側の力の波長――痕跡しかわからない。作り手の意図、それが一切つかめない…」

「そう。だから………………叩くなら、今しかない。」

 

 そう思った理由は単純だ。みんな理解した。

 力の扱い方がつかめない相手は、球体を動かすタイミングや環境の影響を受けやすい。今、球体は部屋に置かれ、作り手の集中や適応がまだ不十分な状態にある。この瞬間なら、反応を封じ、球体の力を把握したまま接触できる。遅ければ、作り手が力を理解し、球体を自在に操る可能性がある。――その危険性を避けるには、今しかないのだ。

 

「力の扱い方がわかっていないなら――手を出すべきだ。」

 

 魔虞麻は舌打ちを一つ、低き響かせて席を立った。

 

「おっしゃぁ、俺は帰るぜ。あと一勝でランク昇格だ。あんなことを言ったには言ったが、それでも時間の無駄は嫌いなんだよ。」

「わかった。……またねー。」

「おう。」

 

 魔虞麻は軽く手を振ると、肩を落としてそのまま部屋を後にした。青白い光の下、影がゆっくりと伸び、消える。

 

 残されたのは四人――阿弥陀、拿碌、蹴鳴、知由良。

 

「どうする?四人で行きますか?」

 

 阿弥陀が言う。しかし、他の三人はそれに対しては不満げそうに顔をしかめる。

 

「……それはやだなぁ。…………期待外れだった時の時間の無駄が怖い。」

「俺もだ。いやまぁ、結構強そうなところはあるんだが、それでも力の扱い方慣れてねぇんならそれはそれでさ………」

「なんかこれまでの真面目なムードが馬鹿みたいになってきましたね。僕も帰ろうかなこれ………(#^ω^)」

「それじゃあ、誰か一人に任せるって感じでいいのか?お前ら。」

 

 拿碌がそういうと、三人は一泊置かずに頷く。

 そうして、紙一枚ほどの短い間に、じゃんけん勝負は決まった。結果は蹴鳴の負け。

 

「よし、行くか。っとその前に……こいつも持ってかないとな。」

 

 蹴鳴は手にした黒い球体を持ち上げた。その漆黒の表面は冷たく、内部では淡く揺れる光が小さな星のように反射している。触れるとわずかな振動が指先に伝わる。球体はまだ作り手によって制御されていない、未熟者な力を抱えていた。

 

 だが、蹴鳴にはわかる――波長が同じだからだ。

 

 球体の外部から放たれる微細な波長――それは球体を作った者の存在と同調している。蹴鳴の体に伝わる波長は、まるで目に見えぬ糸のように彼を引き寄せる。無意識を撃ちに、作り手の位置と距離を感知し、危険を最小限に抑えながら接近できる。作り手の力が未熟であればあるほど、球体の動きも読みやすい。今が絶好のタイミングだ。

 

「よし!!!!」

 

 蹴鳴は机の下をかすめるようにして部屋を駆け抜ける。床に落ちる影が一瞬伸び、藍白い光の残像が揺れる。廊下に出ると、冷たい空気が頬を打つ。波長を頼りに、球体から放たれる微細な振動の方向――それが作り手の居場所を示している。

 

 三人の視線が彼の背中を見送った。

 

「………これ、会議の必要あったのかな。」

「知由良、そんなものあるわけがないでしょう。結局見つけた当の本人だけが行ってるんですから。」

「まったく、これまでの1000文字ちょっとの会議文はなんだったんだろうな………。」

 

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 辿り着いたのは、自然文明の何の変哲もない平地だった。

 樹々が生い茂る森の端。草は風に撫でられ、虫の声がかすかに混ざる。昼下がりの光が白く、土のにおいが濃い。そこには古代遺跡も、戦跡も、装置もない。ただ、風と草と土だけがあった。だが、波長はこの地を「起点」として脈打っている。

 

 何かが、ここに隠されている。

 蹴鳴は上を向き、球体を真上に投げる。波長が一定のパターンで跳ね返り、まるで「鍵穴」を探すように周囲の空間を探っているのがわかる。蹴鳴は深く息を吸い込み、空気の密度を読み取った。

 

「その位置か。出入りできる境界自体は隠されているということか。しかし、何ぜこんなに自然文明の近くまで……まぁいいか。」

「俺が来たのは、正解だったみたいだな。」

 

 周囲の音が崩れていく。

 自然文明の風が一瞬止まり、草のざわめくが遠のく。その瞬間、空間の繊維が軋むような音を立てた。

 

 ――天門――それは、空間を穿つ小さな力。光文明特有の高貴なる力であり、そしてその「応用」の最高到達点である。波長にあわえて空間の繊維を引き裂き、瞬間の門を縫い合わせる。

 

 掌の感覚が鋭く震え、空間の緑が薄く振動する。紙縁の切断音のような感触と共に、彼の前に楕円の孔が現れた。孔の中は黒く澄んでいて、そこに振れれば、世界が滑り込むように変わる気配があった。蹴鳴は球体をしっかりと抱え直す。

 

「行くか。」

 

 彼が天門を抜けた瞬間、蹴鳴の足裏に降れたのは、鉄に近しい感触だった。

 湿った草の上を踏むはずが、そこには硬質な金属の床が続いていた。空気は冷たく、かすかに油と焦げた回路の匂いがする。耳をすませば、機械の稼働音よりも低い唸りが、遠い地の底から響いていた。

 

 見上げても、天井はなく、ただ、果てのない闇夜が広がっている。その闇を裂くように、青い炎が点々と浮かび、風もないのにゆらゆらと揺れていた。火は証明でも、装飾でもない。まるで意思を持つように、こちらの動きを静かにみている。

 

「気味悪い場所だな。ここが………この球を作った奴の領域ってことか。」

 

 その中心には、三つの影が立っていた。一人は杖を持つ老人。長く垂れた装飾が床を擦り、金属の光をわずかに反射している。

 もう一人は、知っていた。ゲジスキー。すべてにおいて中途半端で、十の暴悪に入ることのできなかった単なる出来損ない。彼は蹴鳴を見るや否や、最後の一人の後ろに隠れた。

 その最後の一人、少年とも青年ともつかない影だった。無機質な輪郭、目に宿る光はうつろ。皮膚は青白く、血の通う気配がない。

 

 老人が静かに口を開く。

 

「ほう。…この場所にやってくるものがいるとは、タダものではありませんね。ここはこの私ギニョールの許可なければ来ることのできない領域……のはず。」

「悪いな。そういうのを無視できちまうんだよ。俺は。」

「見たこともない……これは、面白いかたです……。」

 

 声は穏やかでありながら、どこか異様に済んでいた。

 蹴鳴は目を細め、二人を見据える。掌に残る球体の残響が、後ろの存在と完全に一致していた。

 

「てめぇの後ろにいる、その変な奴がこれを作った張本人か?もしそうなら……てめぇをぶっ潰しに来たんだが。」

 

 ギニョールと呼ばれる老人は、一瞬だけ目を伏せ、静かにほほ笑んだ。

 

「ふむ……この領域にたった一人で踏み込んでくる度胸の持ち主、それ相応の勇ましさはもっているようですね。しかし残念。刃を向ける相手を間違えたようで………。」

「?」

「ふふふ…」

 

 そう言って、彼は一歩退く。

 代わりに前へと出てきたのは、無表情の少年、ゼーロだった。

 

(こいつか。………外見だけみりゃてんで大したことない奴だが………これを作ったんだ。間違いなく、潜在能力はずば抜けている。油断はしない…。)

 

 ゼーロは俯いたまま、地面に落ちていたカードデッキを拾い上げる。

 その手つきはなめらかで、感情のかけらもない。デッキの角が闇の火を受けて、淡い青を返す。

 

 ゼーロは顔を上げ、無機質な声で言った。

 

「しよ。デュエマ。」

 

 青い火が一斉に揺らめいた。

 まるでその言葉が、起動の合図であるかのように。

 

 蹴鳴は口の端をゆがめ、デッキを構える。足元の文様が反応し、足元に青白い円環が生まれた。

 

 蹴鳴とゼーロ。

 この闇夜のデュエルフィールドにて、初めての一撃が、静かに幕を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼーロ 卍 デ・スザーク 卍

 

蹴鳴 星門の精霊アケルナル

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『真のデュエル、スタート!!!』

〈かくして始まった、ゼーロと蹴鳴との真のデュエマ!!序盤、ゼーロは魔道具と呼ばれる奇妙なクリーチャーを出し、墓地を加速していく。そして……〉

 

 

 

 

ゼーロ ターン4

 

 

「……グリペイジ。」

 

〈着実にシールドをブレイクしていく。しかし、蹴鳴はシールド・トリガーで守りを固める展開に。〉

 

「ヘブンズ・ゲート。シャイニーと天命をバトルゾーンへ!!」

「…………ふぅん。」

 

 

 

 

ゼーロ バトルゾーン:グリペイジ、ヴォガイガ、グリギャン シールド:5 マナゾーン:4 手札:2

 

蹴鳴 バトルゾーン:クリスタ、シャイニー、天命 シールド:4 マナゾーン:3 手札:3

 

 

 

 

蹴鳴 ターン4

 

(読めねぇ。あいつのスタイルが……今のところは小型クリーチャーを出して、展開を狙おうって感じだろうが、それでも………いや、気にすることはねぇ。ここで一気に攻めればいい。)

「俺のターン!!!」

 

 

 光――それは儚く気高き存在。

 誰かを守り、誰かを助けるためにある。

 だが………俺にとっちゃあタダの闘争本能よ!だから追い出された、だから最高だった!!

 そして、俺はまだまだ上り続けてやる。俺の光………力の最高到達点になぁ!!!

 ドローーー!!!

 

 

「来たぜ……切り札!!」

 

 それを見て、ギニョールは眼を血走らせた。

 そのカードは、かつて光文明の王族しか持ちえなかったカード。

 「聖門」を宿す、純粋で、そして暴力的な力の結晶。

 

「な、なぜあんなに、荒くれたものが……あのカードを持っているのですか!?」

 

 ギニョールの唇が渇き、声が漏れる。その背後でゲジスキーが、控えめに、されど忠告するように声を出す。

 

「そ、そのカード……クリーチャーの方は9マナ、呪文は5マナ!!お前が今からマナチャージしても、カードは4枚……使えないはずゲジ……。」

「なぁに言ってやがるムカデ野郎。そんなんだから十の暴悪には遠く及ばねぇんだよ。」

 

 ギニョールの第三の眼が血走り、見開かれる。瞳孔が細く、蛇のように光った。

 

「じゅ、十の暴悪ですと!!!?噂には聞いていましたが、まさか本当に存在するとは!!!」

「へぇ、お前知ってるのか。」

「こ、これは素晴らしい逸材が……この闇の城に自分から入り込んでくれていたとは!!!ゼーロ様!ここは全力で、彼を倒すのです!これは、ゼーロ様の成長に大きく貢献します!!」

 

 ギニョールは狂ったように笑いだす。

 その熱に呼応するように、ゼーロの肩がかすかに動いた。

 

「……ほん……と…?」

「えぇ、ゼーロ様!!この男を倒せば、あなたはまた一段、王に近付くのです!!!」

 

 ゼーロは細い腕をわずかに握りしめ、灰色の瞳を蹴鳴へ向けた。

 

「わかった、……がんば……る。」

「ったく、何が何だか知らねぇが、今は俺のターンだ。行くぜ。」

 

 先ほど出した天命。彼の持っている紅き槍が光を帯び、空間が震える。

 そしてその光は、ゼーロと蹴鳴のクリーチャーと手札を一瞬照らした。

 

「天命の能力、相手の光以外のクリーチャーと呪文は、コストが1多くなる。そして……こっちは逆に1コスト少なくなる!!」

「と、ということは、4マナでその呪文が打てるゲジか!?」

「そういうこったムカデ!!呪文、スターゲイズ・ゲート!!!」

 

 咆哮のような閃光が、闇の城を貫く。

 闇が悲鳴を上げ、天井のない空に星のような孔が開く。

 それこそが、スターゲイズ・ゲート。天門に続く「星門」であった。

 そこから降り立つは、白金の巨体

 

「出すのはこいつだ…」

 

 天海の精霊シリウス。パワー12000のブロッカー。そしてT・ブレイカーである。 

 

「そ、それ以外に能力はないゲジかぁ!?」

「あぁそうだ。しかし……アイツのデッキにそれを超えるクリーチャーはいるのか…っていう話だ。」

「た、確かにそうゲジ……で、でもぉ!闇文明は破壊が専売特許!そんな奴すーぐに倒せるゲジ!!」

「……面倒な能力を持って、今も妨害を続けている天命を前にしても、それが言えるか?まず破壊するのは自分の展開を阻害する奴だろう?そして………天命を破壊したらそのターン、もう使えるマナは残っていねぇだろう。シリウスは生き残るさ。」

「なるほど………考えていますね、さすがは十の暴悪……理に狂気を宿していながらも!!!」

「天命でシールドをダブルブレイク。」

 

 紅い槍が軌跡を描き、ゼーロのシールドを二枚貫く。

 その時、不可解なことが起こった。

 砕け散ったはずのシールドが、破片となってゼーロへと飛ぶ。

 それが触れた瞬間、彼の体をすり抜け、闇へ消えた。

 

(……今、確かに当たった。はずなんだが……。)

 

 蹴鳴も初めて見る光景。より奴が何なのかを疑問に思うこととなった。

 シャイニーでもう一枚をブレイクしても、同じことだった。

 

「………2枚。」

 

 ゼーロは表情一つ変えず、シールドの残りを見つめている。

 何を考えているのか、まるで読めない。

 

「ターンエンドだ。」

 

 闇の空気が凍る。

 青い火が一つ、ふっと消えた。

 その静寂の中で、ゼーロの唇だけがわずかに動いた。

 

「……つぎ、僕のばん。」

 

 

 

 

ゼーロ ターン5

 

「ゼーロ様。」

 

 ゼーロの指先がデッキに振れると同時に、ギニョールが静かに前に出る。

 

「あの天命というクリーチャー、確かに厄介です。では、見せてあげようではありませんか。ゼーロ様の持つ「無月の門」を……!!」

「うん。」

 

 ゼーロが小さくつぶやき、ドローをする。

 その瞬間、バトルゾーンに控えるヴォガイガが、甲高く笑い始めた。

 

「キキキキ……!!」

 

 狂った電子ノイズのような笑いが響くと同zに、場を包んでいた光が一瞬で搔き消える。

 「天命」の力が、ゼーロの元から消えた。

 

「なに……?」

「ヴォガイガは、魔道具のコストを1下げることのできる能力を持っているのです。ですので、天命の能力を実質的に打ち消すことができるのです。」

 

 ゼーロは言葉を返さない。ただ、マナチャージをせずにクリーチャーをバトルゾーンに出した。

 

「ドゥシーザ。」

 

 低い振動音が響き、黒い霧の中から、巨大な鋏の形をした魔道具が出現する。

 その刃がゆっくりと開閉するたびに、金属臭い風が吹く。

 

「壊せ。」

 

 ドゥシーザが滑るように進み、クリスタを正面から切断する。

 ゼーロは続けざまにドゥグラスを召喚した。それもまた、気味悪く笑う。

 その背後で、ギニョールが低く笑った。

 

「さぁゼーロ様、今こそ「無月の門」を見せるときです。」

 

 ゼーロは静かにうなずく。

 グリギャンが笑った。

 ドゥグラスも笑った。

 そして墓地に沈んでいた、もう一組のグリギャンとドゥグラスも………同じく狂気の笑いを響かせながら、黒い光の柱と共に浮上する。

 四つの魔道具が縦横に組み合わさり、黒い輪を描く。

 ゼーロが、丸の形を作る。その瞬間――

 

「これは…!?」

「開け、無月の……門!!!」

 

 世界が軋んだ。

 四つの魔道具が同時に炸裂し、闇が一か所に凝縮する。

 魔方陣が展開され、黒炎が地表を舐めた。そこから現れたのは狂犬のような魔の獣。

 種族の名は「ドルスザク」――形なき暴虐の化身。

 闇を喰い、光を嘲笑う存在。

 

「卍 デ・ルパンサー 卍!!!」

「なっ…コストを支払ってねぇのに……!!」

「無月の門は、バトルゾーンと墓地の魔道具、それぞれ2つを生贄とし、クリーチャーを出すことのできる能力。当然、コストは支払いません。あなたのその天命というクリーチャーの能力も、一気に意味はなくなるのですよ。つまり破壊するのは……!!」

「やって。卍 デ・ルパンサー 卍。」

 

 黒炎が奔った。

 シリウスの攻撃を、炎は霧のようにすりぬkる。

 蒼炎。白い装甲が一瞬で焦げ付き、そして爆ぜた。

 

「面白ぇ。無月の門!!そんな能力を持っていたとはな。まるで理不尽の化け物だ。」

 

 蹴鳴の口元がわずかにゆがむ。対照的に、ゼーロは感情のかけらも見せずにカードを指す。

 

「グリペイジ、やって。」

「…トリガーは……なしか。」

「ターンエンド。はい、君のターン。」

 

 その声音は冷ややかだが、勝負の行方が見えているような、確信に満ちていた。

 だが――蹴鳴の表情には、一切の衰えも焦りもなかった。

 

 

 

 

蹴鳴 ターン5

 

「強ぇ能力持っているみたいだが……甘いんだよ、ゼーロ。」

 

 低くつぶやきながら、蹴鳴は指先でカードを弾く。

 

「もういっちょ、スターゲイズ・ゲート!そして今度出すのは……天門の精霊アケルナル!!!」

 

 白光が天を裂く。

 デュエルフィールドに、壮厳なクリーチャーが出現した。翼の羽ばたき一つで、空間のノイズが浄化されていく。

 その姿は神聖にして苛烈、そして――蹴鳴自身の化身のようでもあった。

 

「さぁて、やるか。天命!!最後のダブルブレイク!!」

 

 シールドブレイク。

 そして、漆黒の闇が、光を喰った。

 巨大な骨の腕が闇から伸び、天命をつかみ取る。砕ける音が響く。

 その声が、低く、鈍く、地の底から這いあがるように……

 

「デビル・ハンド。そいつ………壊す。」

 

 天命が光の粒となって霧散した。

 蹴鳴は唇の端を吊り上げる。

 

「天命がやられたか。………まぁ、こっちがやられる分にはいいや。」

 

 ゼーロは相変わらず冷静。ギニョールだけが、背後で眉を潜める。

 

(あの男。なぜあそこまで余裕を崩さない……むしろ――楽しんでいる?)

「あと、ドゥグラス。」

 

 これで、ゼーロのバトルゾーンにはドゥグラス、卍 デ・ルパンサー 卍、グリペイジ、ドゥシーザ、そしてヴォガイガ。この五体。

 

「ターンエンド。」

 

 蹴鳴のバトルゾーンにはアケルナルが一体。そして、もう一体が今、スターゲイズ・ゲートより現れた。

 

「なっ!?なんでもう一体出てるゲジ!!?」

 

 ゲジスキーが驚愕の声を上げる。蹴鳴は淡々と説明した。

「アケルナルのターン終了時に発動する効果。光の進化じゃないブロッカーを出せる。……これで俺のクリーチャーは、いや、ブロッカーは2体だ。」

 

 彼はシールドを軽くたたきながら続けた。

 

「シールドは3枚。ちなみに言っておくが俺のデッキにはトリガーが15枚入ってる。この3枚のどれかに必ずあると思え。」

 

 静かな威圧が、ゼーロの陣を覆う。

 闇と光が拮抗し、デュエルフィールドがきしむ音が聞こえた。

 

「ゼーロ様。ここは……卍 デ・スザーク 卍を引くしかありませんよ。」

「うん。」

 

 卍 デ・スザーク 卍、謎のクリーチャーの名前。そして蹴鳴は今から、そのクリーチャーを目の当たりにすることになる。

 

 

 

 

ゼーロ ターン6

 

 黒い月は出ているか? 

 「グリ」

 「ドゥ」

 「ザン」

 「ゼーロ」…!!!

 

「来たぁ!!卍 デ・スザーク 卍!」

「8コスト……だが「来た」って言うこたぁ…持ってるんだろぉ、無月の門っての。」

「うん……持ってる。……来て、ドゥザイコ。」

 

 歪んだ魔道具が現れ、場の闇が共鳴する。

 条件、成立。

 

「開け、無月の門!!」

 

 四つの魔道具が衝突し、黒炎の円陣が爆ぜる。

 その中心から、朱雀が現れ、咆哮を上げた。翼は刃、爪は炎、そして瞳は虚無。

 

「卍 デ・スザーク 卍……こいつが……!!」

「壊せ。卍 デ・スザーク 卍。」

 

 咆哮一閃。アケルナルが爆炎に包まれ、破壊される。

 残るは一体。

 

「ブロッカーはいなくなったも同然か。(………卍 デ・スザーク 卍、卍 デ・ルパンサー 卍、ヴォガイガ、ドゥグラス、グリペイジの5体。アケルナルは破壊されるとして……あと1体……!!)」

「壊す!すべて壊す!!卍 デ・ルパンサー 卍!!」

 

 卍 デ・ルパンサー 卍の炎がアケルナルを燃やす。そして、同時にシールドも。

 

「…シールド・トリガー、メタルブレード!!」

 

 光が奔り、鋼の騎士が出現。

 しかしその体が出現と同時に、動きを封じられた。

 

「なに!?」

 

 ギニョールが満足げにほほ笑む。

 

「卍 デ・スザーク 卍……能力によって、自分の下にカードが4枚以上あれば、相手のクリーチャーはタップして出なくてはいけないのです。ブロッカーも無意味!」

「へぇ……そうか。」

「何を余裕ぶっているのですか。これでおしまいですよ!!ゼーロ様、早くとどめを!」

「ヴォガイガ!!」

 

 最後のシールドブレイク。攻撃できるクリーチャーはゼーロのバトルゾーンには残っている。ブロッカーは通用しない。

 だが、蹴鳴は笑っていた。そして最後のシールドチェックをし、叫ぶ。

 

「おいゲジスキー!!」

「ひっ!?…な、なんゲジか…?」

「さっき、破壊は闇文明の専売特許とか言ってたよなぁ?」

「そ、それがどうしたゲジ!?」

「確かにそうかもしれねぇなぁ……「個」を破壊するってなったら専売特許かもな。だがよぉ……すべてを破壊したり除去したりするのはなぁ、光文明の専売特許だ!!」

 

 蹴鳴は、最後のシールドから引いたカードを掲げた。

 その瞬間、スターゲイズ・ゲートから、白金の隕石群が降り注ぐ。

 闇も、光も、すべてを飲み込む「神の落下」だった。

 

「ゼーロ様!!」

 

 ギニョールはとっさにゼーロを抱え、飛び退く。

 次の瞬間、デュエルフィールドが真っ白な閃光で包まれた。

 

「これは……「アポカリプス・デイ」!!!」

「ハーッハッハッハ……!!!」

 

 爆音。断絶。

 全てのクリーチャーが、平等に破壊される。消し飛ぶ。

 

 ――数十秒後、

 黒煙を払う中、ギニョールが叫ぶ。

 

「いない!逃げたのか……。」

「シールド・トリガーで出てきたクリーチャーでちょうど6体………あいつ、やっぱり侮れんゲジ…!!!」

「しかし、ゼーロ様の成長には大きくつながりました。彼には感謝しましょう。」

 

 散乱するカードを拾いながら、ゼーロは淡々と言った。顔に、焦りは何一つない。

 

「ねぇ、どうするの。」

「何がです?ゼーロ様。」

「自然文明……あんな強い奴いるなら、攻める場所、変える?」

 

 ギニョールは小さくうなずいた。

 

「………そうですね。そうしましょう。自然文明に攻めを仕掛けるのは、もう少しゼーロ様が強くなったころにしましょう。それまでは、水文明を攻めるとしましょう。」

「わかった。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ。結構楽しめたな。」

 

 蹴鳴は、草原の風を受けながら息を吐いた。

 アポカリプス・デイの閃光が空を裂いた直後、「天門」の力を開き、寸前で転移していたのだ。

 

「しかしあの「魔道具」ってやつ……そして「ドルスザク」か。想像以上に面白ぇのを持ってるじゃねぇか。」

 

 蹴鳴は薄く笑う。

 ゼーロの繰り出した「無月の門」、そして異形の朱雀「卍 デ・スザーク 卍」。

 あの黒き炎の奔流を前に、彼は確かな確信をつかんでいた。

 ――「奴らはまだ完成していない」。

 

「対策は……できる。いや、できるどころか、チャンスだ。」

 

 そう呟きながら、蹴鳴は懐のメモ帳を開いた。鉛筆の芯が紙の表面を走る。

 

「……このデータをまとめて、水文明の連中に流すか。ゼーロって奴、次に会う頃には、もっと面白くなってるだろうよ。」

 

 彼が帰ろうとしたその瞬間、遠くで、

 

 ドォンッ!!!!!

 

 地面をえぐるかのような爆音が響いた。

 続いて子供の甲高い声と、地の底から響くような咆哮。

 

「なんだ……!?」

 

 蹴鳴は反射的に跳躍する。

 森を突き抜けた先、爆風に巻き上げられ、白米と黒豆が宙を舞っていた。彼らがあらぬ方向に吹き飛ばされるのを横目に、蹴鳴はその中心部へと急行した。

 

 そして、見た。

 

 そこにいたのは――ガンマンのような巨大な龍と、カードを掲げる少年。

 

「どうだ!ジョー!!俺かっこいいだろ!!」

「ジョラゴン、いいから早くカードに戻ってってば~~!!早くシンラちゃんを探さなくちゃいけないんだよー!」

 

 蹴鳴はその光景に息をのみ、即座にメモを書き残す。

 

「なるほど。あいつがジョー。そしてジョラゴンってわけか。」

 

 そう呟く声には、旋律よりも歓喜が混じっていた。

 

 ドラゴン。

 この背化を一度滅ぼしかけた、表向きには忌むべき存在。

 だが今、その力を制御する人間がいる。

 

「とんでもない収穫があったもんだ。しかも、あのドラゴンの波動からして、間違いなく、マスター!!」

 

 蹴鳴は指を鳴らす。転移陣が足元に展開し、光が彼を包む。

 その中で、彼の口元がゆがむ。

 

「拿碌が言ってたな。シンラっていうガキをこのクリーチャーワールドに封じ込めたって。それにあいつ、シンラセンショーと一緒にいて、更にあいつの力を成長させシンラバンショーに進化させたと聞く。間違いなくマスターだ。となりゃあシンラセン……いや、シンラバンショーのこともあるだろうし、ガイアハザードにも触れてるはずだ。だが!奴らは俺たちの存在にまだ気づいてねぇ……。」

 

 光が強まる。

 

「そして何より、今の自然文明はどの文明よりも間違いなくドラゴンを忌み嫌ってる。――この世界を崩壊させた元凶として、な。」

 

 蹴鳴はにやりと笑い、最後に低く呟く。

 

「なら!利用しない手はねぇだろう!!ガイアハザードとマスターの衝突――それを巻き起こしてやろうじゃねぇかァ!!!ハーッハッハ!!!」

 

 光が弾け、蹴鳴の姿は消えた。

 残されたのは、焦げた草の匂いと、遠くで響くジョラゴンの笑い声だけだった。

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