副局長と元野良犬後輩 作:井之頭
ヴァルキューレ警察学校公安局、副局長コノカは暇を持て余していた。
手持ちの案件は後日に持ち越しか他の部署に流れていって、他の皆も自分持ちの案件で出払っていて、処理すべき書類仕事もない。
一人で局に留守番。というわけではなく、隣のデスクで後輩の男子生徒のイサムが書類の山と格闘しているため、その監視をしている。というのが現状だった。
「時に後輩よ」
邪魔するのも悪いかと考えたが、退屈のあまり声を掛ける。
「なんすか? ティーバッグなら自分で買ってきてください」
口だけを動かして、手と目は書類仕事を継続しながらイサムが返事をする。
暇なタイミングならパシりに行かせても文句は言わないのだが、今は書類の多さでそれどころではないようだ。
「パシりじゃなくて、この前の百鬼のお祭り警備あったじゃんか」
「ありましたね」
警察学校という特性上、他自治区から警備の依頼が来ることも少なくない。対テロ特化という公安局の性質上、水面下で自治区が鎮圧している場合も多い。
公安局が動くのは、事件が起きた後か全てが終わった後のことも少なくない。
そのため暇な時は生活安全科の仕事を手伝うこともある。
その一環で百鬼夜行連合学院のお祭り運営委員会主催の祭りの警備をしたことがある。
二人も駆り出されていたが、良くも悪くもキヴォトスらしく、銃撃を伴う騒ぎがあったのだが、屋台等には被害も出ることもなかった。
「そん時に良い雰囲気になってた百鬼夜行のお祭り運営委員会の娘とのその後はどうよ?」
騒動の際に屋台に飛んだ流れ弾を全て対処していたのはイサムで、その事で感謝されていたのをコノカは事後処理をカンナに丸投げしながら横で見ていた。
「げっほ! げほっ! 何もないですってば!」
分かりやすく咳き込むイサムになんだか自分に話していない隠そうとしている事があるのが、なんだか嫌な感じがした。
「その反応でよく隠そうと思ったなぁ。最近非番時の外出多いの私は知ってんだぞー」
「え、ストーキング? もしもしポリス?」
コノカ自身が調べたというより、他の局員が寮を出たイサムを見掛けたというのをわざわざ彼女に報告したというだけである。
何故報告されるのかはコノカ本人ですら分かっていない。
「公安局の副長舐めんな。後輩ごときの行動なんてお見通しだっての……で、実際どうよ? もう手とか繋いだ?」
「ハードルひっく! そもそもそういう関係じゃないっていうか……」
それはそれとして、そういう事にしておいた方が都合が良さそうだったため、そういう事にしておく。
「ああ、そういう関係になりたいけど、踏ん切りがつかないと?」
「お礼がしたいって言われて食事に誘われただけで、そんな関係じゃないですよ」
「ふーーーん……」
何となく、その絵面を想像してみると面白くないと感じたコノカは目を細めて、部屋に備え付けられた時計に目をやる。
「……うし、牛丼食いに行くぞ。奢ってやる」
「牛だけに……?」
「張り倒されてーか?」
イサムがくだらないことを言っているため、彼の座っている椅子をコノカは蹴飛ばした。