零 ~イヌツキの少女達~   作:もふもふたぬきねこ

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チャプター3開始です。

一見ジャンルの違うクロスオーバーですが、
出てくる単語は似通ってるなーと思う次第です。

評価を付けていただきありがとうございます。
今後もお付き合い頂ければ幸いです。


それでは、今回もよろしくお願いします。


CHAPTER 3 にじり寄る「あちら側」
10. 『神隠(カミカク)シ』のウワサ


最後に幽霊と遭遇してから、1週間くらい経ったでしょうか?

 

あの時に8体も祓ったお陰か、それ以降幽霊は現れず。

私たちの祟り神退治は一度あって、そこで憑代が一つ。

さらにムラサメ様が昼間に見つけて下さったもので一つ。計二つ。

 

まだまだ部分的ではあるけれど、憑代がやっぱり球体であるのは分かってきたでしょうか。

射影機をお借りして「呼び戻し」で見つける事も考えましたが……危険性も貴重性もお値段の話もありますし。

そんな事情から、今まで通りの方法で憑代探しを継続しています。

 

 

 

そんな日常の中、とある噂が密かに学院で流れ始めていました。

 

 

 

――神隠し。

 

 

 

お話の出所はクラスメイトの小野(おの)さんと柳生(やぎゅう)さんから。

 

「巫女姫様は神隠しって聞いた事ありますか?」

 

「ええっと」

 

一般論のお話なら。

 

「神様にさらわれたみたいに突然消えてしまうという、あの神隠しですか?」

 

「そうそう! 巫女姫様ってこういった事に詳しかったりしますか?」

 

う~ん。

自分でも前置きした通り、あくまで一般的な知識でしか知らないですね。

神社の娘ではあるものの、そういった事には関わった事がありませんし。

 

「申し訳ありません。私も精々一般的な知識しか持ち合わせていませんね」

 

「あっいえいえ! 不躾にすみません!」

 

「芳乃様は怪奇現象に特別詳しいわけではありませんからね。最近のドラマとかでそういったお話でも出たんですか?」

 

茉子からフォローと小野さんへ質問返し。

私はテレビも見なければ雑誌も漫画も読みませんから、世間知らずらしいんですよね。

 

「ううん、ドラマとかの話じゃなくて……この穂織での噂なんだよ、常陸さん」

 

それは、ちょっと気になるお話ですね。

 

「うちの旅館のお客さんのお話なんですけど――いつの間にか全然知らない場所に立っていて、そこまでの経緯を全く覚えてないって人が数人いらっしゃるんです。皆さん日中には気付かれて、今はスマホもありますから暗くなる前に旅館に戻っては来られるんですけど、中には山の中で気付いたって人もいて」

 

「山の中、ですか?」

 

幸い日中には戻られているとの事ですけど。

夜には祟り神、夕暮れには幽霊がいるかもしれない現在の武実乃山です。

観光の方は特に風習をご存じない方たちですし、普通に危ないという話でもありますね。

 

「神カクシ……神様がその人を招かれたというわけではないのですか?」

 

レナさんからご質問。流石にご存じないですよね。

 

「こう言っちゃうとなんだけど、単に俺達人間が神様のせいにしちゃってるだけであって実際には失踪とか行方不明の話なんだ。前触れもなく突然起こるから「神様の仕業に違いない」ってね」

 

「……そういや、志那都荘でもそれっぽい話があったぜ。予定の時間になってもお客さんが来なくて、連絡取ったら全然違う所で迷っててよ。神隠しとは思ってなかったけど」

 

「むぅん、あちらでのチェンジリングに近い事なのでしょうか?」

 

「あーレナさんにはそっちの方が分かりやすいかも」

 

有地さんは流石都会にいらっしゃったというか、私たちより詳しいですね。

また知らない単語が出てきましたが。

 

「その「チェンジリング」ってなんだ?」

 

「あちらではそういった出来事は妖精やトロールに誘拐されたという童話でして、その際に身代わりとしてチェンジリング……日本語でだと……」

 

「取り替え子だね。まあ代わりの存在を置いていくんだよ。で、ある程度時間が経って本人が居ない事に気付く感じなんだ」

 

日本での神隠しよりさらに何者かの仕業感が増していますね。

それにしても志那都荘でまで……より不安を感じますね。

 

「あんときゃ人手が居なくて俺や小春も駆り出されてさ、参ったぜ。なあ小春……小春?」

 

「……んぅ? な、なに!? 廉兄」

 

「いや、だからこの前の。お客さんが迷って俺たちが駆り出された話だよ」

 

「あ? ああ、うん。全然志那都荘と違う場所だったから迎えに行くのが結構大変だったね」

 

そしてこちらも。

先日馬庭さんにご相談を頂いてから妹さんの様子を注視していると。

 

 

 

確かに上の空である事が多い。

 

 

 

記憶自体はしっかりしているし、特別不思議な事を言ったりというのはないんですけど……ぼーっとされている事が多い。

さっきのお話だって、鞍馬君より妹さんから先にお話が出そうな気がしなくもないですね。

妹さんは学年が違いますから、授業中の様子はムラサメ様から伺うしかないんですが。

 

「そもそも廉兄がぐちぐち言わずにさっさと動いてれば、私がバイト中に呼び出される事もなかったんだよ? はぁ、やっぱりお兄ちゃんがお兄ちゃんならなあ」

 

「うるせ、こっちだってやる事があったんだよ」

 

「どうせエッチな雑誌でも読み漁ってたんでしょ? 女の敵。滅んじゃえ」

 

「ちっ、ちげーっての!」

 

「図星かよ……」

 

「まあまあその辺にしておきましょう。にしても、夜間の山が土地勘のない方には特に危険なのは間違いないんですから。しっかり目にご周知頂いた方がいいかもしれないですね」

 

うん、受け答え自体は普通の小春さんですね。相変わらず鞍馬君への当たりは強めですけど。

兄妹ならこんなものだとも思えます。

 

さて茉子が締めてくれましたが――ただの噂としておくのは少し不安ですね。

以前は有地さんが迷い込んでしまった観光の男の子を探した結果、祟り神に遭遇するなんて事もあったんですし。対策の打ちようもないですが。

 

……こういった事も、不来方さんは詳しかったりするのでしょうか。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

『神隠し、か。今も昔も変わらぬな』

 

「ムラサメ様はそういったお話をご存じなんですか?」

 

授業が終わって。

茉子は買い出しに、有地さんはトレーニング、という事でムラサメ様と帰宅中。

この時間ならば対応に疲れる見合いのお誘いも少ないですし、ムラサメ様が警戒してくださっていますから遭う事もないでしょう。

 

『うむ。まあご主人の言っていた通り本人の意思による単なる失踪、周囲の勘違い、或いは口減らしの場合が多いようではあった……が、実際にナニカに招かれた場合もあるのだ、芳乃』

 

「つまり、本当に神様に誘われたと?」

 

てっきり「都市伝説」的なものだと決めつけていましたが……。

 

『以前不来方が言っていた「逢魔ヶ時」を思い出してみよ。昼と夜の境界、それは現世と常世(とこよ)の境界が曖昧な時でもあり、その時こそ幽霊が出やすいと。一方で市街地が俗世なら山は神域……常世の一種とも言える。穂織は武実乃山自体を御神体としておるわけではないから信仰対象としては弱いものの、吾輩達の時代において山というのは例外なく神の住まう場所だったのだ。そして吾輩がこうしてここに居るように神も間違いなく存在し、神の気は山の方が圧倒的に強い。そういったモノに、ごくたまに「当てられる」者がおってな? 自ら山へと姿を消してしまうのだ』

 

「……つまり、武実乃山を有するこの穂織の町は」

 

『現世と常世の境界が広いと言えるだろう。霊的な力のある温泉も有しておるし、山の力は比較的強い部類なのであろうな。祟り神が実体として存在しておるのも、我輩がこうして叢雨丸の管理者として自我を残しておられるのも、そういった理由があるのやもしれんぞ』

 

考えた事もありませんでしたが、そんな一面が。

ですが……。

 

「ムラサメ様は今までにどなたかの神隠しをご存じだったり?」

 

『いや、明らかに神隠しとかそういったものに出くわした事はない。今より穂織の町が整備されておらぬ時代に迷い込む者はまま居たが、あくまで純粋に迷い込んだだけであろう。そういった時は、神隠しより「祟り神」の方が余程警戒すべきであったから考えた事もなかったが』

 

う~ん。たまたまそういったケースが相次いだだけなんでしょうか?

今までにそういう事が無かったとなると切っ掛けが……。

 

 

 

――招いてくる幽霊は居なかった。

 

 

 

「……っ!?」

 

『ん? どうかしたか、芳乃?』

 

「い、いえ」

 

たしか、初めて不来方さんからお話を伺った時にはそう仰っていた。

それはあくまで「今まで」のお話。

正体不明の幽霊が出現し始めた今のタイミングだと、まさか……。

 

一度、相談させてもらった方がいいかもしれません。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「ふぅ」

 

「お疲れ様です、芳乃様」

 

夕刻の神楽舞は滞りなく。

夕飯の支度が終わったのか、茉子がタオルを持ってきてくれていました。

 

「ありがとう、茉子」

 

「いえいえ、お務めお疲れ様でした。お着替えは準備してありますので。そろそろ有地さんも戻ってこられるかと思いますから、そうしたら夕餉と致しましょう」

 

こうしてこちらに意識を割けている間は問題ないんですが、そうでなくなってしまうと。

 

「ねえ茉子」

 

「うん? なんですか、芳乃様?」

 

「小野さんの神隠しのお話、聞いてどう思った?」

 

どうしても訊ねてみたくなってしまいます。

 

「そうですねえ……有地さんやレナさんのお話を伺った感じでは穂織に限ったお話ではないようですし、今までにそういった噂すら流れていませんから――「イヌツキの土地」括りで処理されているかもしれないですけどね。これが続いてしまうようだと問題ですけど、目下芳乃様が目を向けるべきなのはご自身の事ですから。気になるようならワタシの方で調べてみますが?」

 

あんまり茉子の負担を増やしたくはないのだけれど。

 

「ひょっとするとお願いするかもしれない。その時はよろしくね」

 

「はい、かしこまりました」

 

どうにも不安が拭えない。

私の立場もあるのかもしれないですけど、それとは別に気を引かれる部分があって。

ただの思い過ごしならいいのだけれど。

 

 

 

境内から家に向かう途中で、トレーニングから戻ってきた有地さんとムラサメ様が視界に。

挨拶をしようとしたのですが。

 

「……っと、ゴメン。電話だ――芦花姉?」

 

馬庭さんからお電話みたいですね。

盗み聞きのような真似もなんですから家の中で――

 

「……うん。小春? いや、俺は見てないよ。ちょっと待ってて――朝武さん、常陸さん。放課後に小春をどこかで見た?」

 

「小春さんですか? 買い出し中には見ていませんが……芳乃様は?」

 

「いえ、私はずっと神社にいましたから」

 

『吾輩も感じておらぬな』

 

「そっか。こっちは朝武さんたちも見てないって……電話もか? アイツがサボるだなんて考えにくいよなあ」

 

なんだか、イヤな予感が続々と。

 

「有地さん、鞍馬さんに何かが?」

 

「うん。あ、電話をスピーカーにするよ。少し前の時間から田心屋のバイトらしいんだけど、店には来てないし電話は出ないし廉太郎に聞いても家には居ないって事らしくて」

 

『さっきまー坊も言ってましたけど、小春ちゃんは連絡も無しに仕事を休む子じゃないので……さっき廉太郎が小春ちゃんの手荷物を届けに来た所なんです。そうしたらスマホも家に落ちていたって事で……先日相談した事もあって少々心配で』

 

今日の学院でもそう。なんだかぼーっとしてしまっているような。

そして今、穂織で流れている噂話が否が応でも。

 

「将臣!!」

 

境内入口の階段から男性の大きな声。

それは。

 

「廉太郎?」

 

「小春を見てないか!?」

 

ああ、もう聞くまでもない。

 

 

 

「小春が、居なくなっちまった!!」




フラグはとっとと回収。

次回も楽しんで頂ければ嬉しいです。
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