歴代「零」主人公級で一番活発なのは誰なんでしょう? 海咲あたり?
今回もよろしくお願いします。
「そのまま山道を上って行ったようですね」
不来方さんの影見を頼りに山の中へ。
影見というのがどんな感じなのかと思えば、見た目には写真とヘアバンドに手を翳しただけ。
ですが不来方さんには小春さんの影? が歩いていくのが見えるらしくて。
「すごい精度ですね……」
「ワタシもびっくりです」
「ドラマとかでは見た事あるけど、まさか実際に目の前で見られるなんてね」
「くれぐれも口外は無用だぞ、将臣。要らぬトラブルを招きかねんからな」
『これ程の才能となると、それは人も人ならざるモノも引き寄せそうだのう』
玄十郎さんはこの事もご存知でしたか。
既に山の中を歩き始めて20分。
まだ追いついてはいませんが、確実に後は追えているみたいです。
「ムラサメちゃん、祟り神の方はどう?」
『それなのだが……正直イヤな気がするのだ。まだ芳乃の耳が見えておらんから濃くはないはずなのだが』
「今の所は私にも見えていないですね――こちら側ですか」
不来方さんにも見えていないとなると、本当にまだ耳は出ていない様子。
とはいえ、間隔的には現れてもおかしくない頃。出ない事を祈りたいですが。
「玄十郎さんは過去に退治のご経験が?」
「ええ。先代様と先々代様の祟り神退治に同行をお許し頂いた事があります。どの巫女姫様であっても初めてのお祓いというのは緊張の極みですからな。ワシでは祟り神を祓う事は出来ませんが、山中の道は大体把握しておりますし時間稼ぎくらいは出来たものです――今代の芳乃様には断られてしまいましたが」
「うぐっ」
「あはーそうでしたねーワタシ盾にされかけましたもんねー」
だ、だって……大丈夫だと思ったんだもん!
予めどんな感じなのかは聞いてたし、鉾鈴を振るのも練習したし!
初めて遭遇した時は流石にパニックになってしまって、ブンブン振り回していたらいつの間にか終わっていた感じで。
「で、左手に持ってるソレが当時からの相棒って事? まさか真剣を持ってくるなんて」
「うむ、かつて領主様より賜った鞍馬家代々に伝わる太刀「法眼丸」だ。祟りを祓う事は出来んが、刃引きはしておらんから切れ味は本物だ。間合いに入るなよ」
『実際に岩を切ったからな。そういう意味なら叢雨丸は本当にナマクラだ。刀を抜いた玄十郎の前に立つなよ、ご主人』
「マジかよ……了解」
叢雨丸より一回り大きく見える白木の拵えの刀、玄十郎さんが握ると更に気迫が伝わります。
さて、それなりに上ってきましたが。
「不来方さん、いかがですか?」
「近いです。影がはっきりしてきました」
「確かこの先は……少しだけ空き地になっていた場所だったと思います」
既に日は落ちて。分厚い雲のせいで月明りも見えず。
私ではほとんど何処にいるのか分かりません。
茉子とムラサメ様、玄十郎さんは把握されているようで助かります。
って……。
「あれは……小春さん?」
「いきなり近づかないように。ゆっくり近づいて小声で呼び掛けてください」
「分かりました……小春、小春? 大丈夫か?」
「小春、怪我はなかったか?」
『取り敢えず見つかったのは何よりだが……何故こんな何もない所に?』
「ワタシは周囲の警戒を優先します」
どこかを注視していたり、空を見上げたりという事もなく、ただぼーっと立っているだけの小春さん。見た限り目立った怪我はされていないようで何よりです。
やはり私服のようなので、田心屋に向かう途中から山に入られたという事でしょうか?
あるいは、ご自宅にいた時には既にここへ向かおうと?
「……あ? おにいちゃん?」
「おう、気が付いたか小春。怪我してないか?」
小春さんからも応答が。意識はあるみたいで良かったです。
「きて、くれたんだ」
「もちろんだよ。さ、帰ろうぜ? もう暗くなっちゃったし、雨も降りそうだからさ」
「廉太郎達も待っておる。戻って夕飯にするとしようぞ、小春」
有地さんと玄十郎さんが優しく話しかけられています。
本当にもう雨が降ってきそうですね。空気が湿ってきています。
そんな事を考えていたんですが。
「おにいちゃん……小春と、ずっと一緒にいよう? ――ココで、ズット」
え?
「これは……」
そう不来方さんが呟いた直後。
「こは……っ!?」
小春さんが――有地さんの顔を引き寄せて口づけ……口づけ!? キス!?
なんと大胆な!!
「……っ警戒してください! 現れました!」
『この気配に混じっておるのは、まさか!』
「……!? 芳乃様、耳が!!」
「えっ!?」
「巫女姫様! ワシの後ろへ! 将臣は小春を見ておれ!」
『ご主人! 抜刀だけはしておれ! 何もせんよりマシだ!』
今までで一番大きな不来方さんの声と同時に、一気に嫌な気配が!
しかも私の耳まで!? なんの予兆もなかったのに!
ザザザザッ!!
私たちの居る広間の向こう側から、祟り神が一体! いつもと同じなら!
「――怨霊側は私が対処します。祟り神を何とかできますか?」
「勿論です。命に代えてもこの老骨が皆の盾となりましょう。お願い致します」
スラァっと刀を抜かれた玄十郎さんは祟り神を。
そして、いつの間にか射影機を手に持たれている不来方さんの視線の先には。
『…………オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛』
『ヴェ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛』
『ナ ゼ な ぜ』
『……の゛ が ぬ゛』
いつの間にか6体はいる!? 祟り神とは別の方向から!
しかも1体は今までみたいな感じじゃなくて。
「……武者の霊、なんですかね? あの刀で斬られたらタダじゃ済まなさそうです。触れられただけでアレだったのに考えたくもないですよ」
甲冑を着て、刀を持った大柄な幽霊が。もうここまで来ると恐怖より驚きが勝りますね。
まさかこんな存在が武実乃山に居ただなんて。
「常陸さん、まずワシ達であの祟り神を祓いますぞ。そうせねば夕莉君をより危険に晒しますでな。雨も当たってきました故、足元にご注意を」
「分かりました。芳乃様、よろしいですか? 幽霊から離れる形で2時方向に。有地さんも」
「了解よ!」
「分かった……小春、しっかりしてくれ」
「お、にい、ちゃ……やだぁ」
まだ小春さんは夢の中にいるような。
とにかくまずは目の前の問題に対処しないと! 遂に雨も降り始めちゃった!
「先鋒はワシが務めます。巫女姫様達は普段通りに――イィエエェァァアアアッ!!!」
物凄い掛け声とともに玄十郎さんが突進。ホントに
ビュオッ!
「逃さぬわっ!」
飛び退いたかのような祟り神の動きに合わせて、玄十郎さんの刀が軌道を変える――すごい!
まるで時代劇の
ガキッ! キンッ! ブォン!
「ぬぅん! しゃあっ! 常陸さん!」
「縫い留めます! ハァッ!」
斬る事は叶わないものの、しっかりと祟り神のバランスを崩せたところで茉子のクナイ。
有地さんが来る前までのパターンね!
「芳乃様!」
「任せて! ――こんのぉ!」
祟り神を突き穿つように、特効武器の鉾鈴を振りぬく! ふんっ!
ドスッ!!
雨に混じって、靄のように散っていく祟り神の姿。こちらは無事に祓えたようですね。
じゃあ急いで不来方さんの援護に!
『……凄まじいものだな。幽霊に同情したのは初めてだぞ』
「同情はしないから半分同感」
「なんかすごい」
と思った所で、ムラサメ様と有地さんの呆れたような憐れみを感じるような声が。
幽霊が居た方に顔を向けると。
「ええぇ……」
「何があったんでしょうね? 8体くらいは居たと思ったんですけど」
「それだけワシ達が未熟という事です」
『あ……に……………ま』
一番大きな武者の幽霊を除いて……これはもう成仏寸前状態ですね。白い塊に。
先ほど白くなった霊は声質的に女性だったのでしょうか? 初めてかもしれない。
そして残った武者に対しても。
『の゛ さ゛ ぬ゛』
「…………」
ファインダーを覗いたままなのに、刀を振りかぶって突進してくる幽霊をひらりとかわして。
多分すれ違いにシャッターを切っているんですよね? 数個の霊片が一気に飛び散って。
あれが不来方さんの本気の除霊ですか。武者の幽霊からも先程とは違ったうめき声が。
『……も じ げ』
その言葉を最後に、武者の幽霊も白い影となって。
不来方さんが右手で触れた瞬間に。
『ござ……ま、せん』
何かを呟いたように消えていきました。
他の幽霊の影も消えてしまいましたね。
「夕莉君、無事でしたかな?」
「こちらは大丈夫です。お孫さんの容態はいかがですか?」
「お孫さん? お兄ちゃんの事?」
「いや小春の……って小春!? 意識が戻ったのか!?」
「えっ? 私がどうか……ってここ何処!? 山の中!? 夜だし雨も降ってるし!」
ああ、元に戻ったみたいですね。取り敢えず一安心です。
「小春、なんともないのか?」
「お祖父ちゃんまで!? 巫女姫様たちも! それとそちらのお姉さんははじめまして!」
「ええっと、はじめまして?」
「一旦大丈夫みたいですね、それでは急ぎ下山しましょう。雨の山中なんて危険でしかありません。傘を出しますので使って下さい。ワタシが先導いたします」
『皆は身体も濡れておるからの。戻ったら急いで身体を温めねばならんぞ。芳乃の耳は消えておるし祟り神については大丈夫だろう。周囲は吾輩が警戒するから芳乃達は足元に注意せよ』
あ、本当だ耳が消えてる。確認していなかったですね。
不来方さんはなんだか雨に濡れて色気が……ああ、下着の黒い肩ひもが透けてしまってます。
神社に戻ったら今日は温泉に入って頂かないと。
♢♢♢
「あっ! ヨシノ達が戻ってきました! コハルも一緒です!」
「小春君! 皆も! 無事だったかい!!」
「ただいまお父さん、みんな大丈夫よ」
「遅くなりました、安晴様。この度は大変なご迷惑を」
「小春! 怪我はしてねえのか!? 大丈夫なんだな!?」
「なっなに廉兄!? 気持ち悪いんだけど!? 離れてよ!!」
「ああ、間違いなく小春だ……」
「廉太郎、お前……それが判断基準でいいのか?」
あれから。
暗い夜道に雨という事もあって時間はかかってしまいましたが、神社まで帰ってこられました。
――本当に良かった。
お父さんたちは待っていられなかったのか、境内の鳥居の所で待っていてくれていました。
「小春ちゃん、本当に良かった……ゴメンね、アタシがもっとしっかり見てあげれていたら」
「ええっと……お姉ちゃん、私って今日のバイトサボっちゃったんだよね。ごめんなさい」
「ううん、大丈夫だから。というかさっきまでの事覚えてないの?」
「下山を急ぎましたので説明はまだです。今の所、鞍馬さんは家に帰ってから先程までの事を忘れているようでして」
「ふむ、ではまず身体だけ温めてもらってから診察するとしようか。安晴様、宜しいですね?」
「勿論だよ……夕莉君、本当にありがとう。君も身体が冷えているだろうし入っていっておくれよ」
「服の方はアタシが乾かしておきますから」
「あ、はい。ありがとうございます。ですが先に芳乃さん達を」
「うちのお風呂は大きいので全員入れますよ!」
「旅館でもないのに、こんなに大人数をですか?」
『この場の全員含めても余裕だぞ?』
入れるんですよ。温泉好きだった先祖の巫女姫に感謝ですね。
有地さんと玄十郎さんには申し訳ないですが、先に頂くとしましょう。
♢♢♢
「おじゃまします……うわあ、噂には聞いていましたけどホントに大きいですね!」
「流石に志那都荘には負けてしまいますけどね。3人で使うには広すぎて掃除がもったいなかったんですよ。有地さんを含めても4人ですし、同時に入るわけでもないですし」
「……やっぱり、まだハダカのお付き合いはちょっと恥ずかしいですね」
レナさん、そのお身体でそんな事を言うんですか?
そしてもうおひとり。
「…………色っぽい」
「芳乃様、口に出てます。思春期の男子みたいな事を言うのはやめてください」
えっそんなっ!? 私は鞍馬君の同類なんですか!?
「失礼します……本当に広いんですね。神主さんのご自宅は何処もこんな感じなんでしょうか?」
『いやあ、それは流石にないと思うが?』
なんというか、今まで大人の女性の身体って何気にお母さんしか見た事がないんですよね。
私ももう少ししたら、多少はこういった雰囲気が出せるんでしょうか?
それと……多分一般からズレた常識を不来方さんに植え付けそうで怖い。
「えっと……今日は私が巫女姫様たちにご迷惑をおかけしたんですよね? ごめんなさい」
「大丈夫ですよ。とにかく無事でよかったです」
本当にその一言に尽きますね。無事でよかった。
「その……そちらのお姉さんは本当にはじめましてですよね? 鞍馬小春といいます。鞍馬玄十郎の孫でお兄ちゃん――有地将臣さんの従妹になります」
実兄である鞍馬君がいない事にされていませんか?
「わたしはレナ・リヒテナウアーであります。つい先日から穂織に留学しておりまして、ヨシノたちのクラスメイトです。今は志那都荘に住み込みで働かせてもらっています」
「ご丁寧に。繁華街の外れで喫茶店を営んでいる不来方夕莉です」
「喫茶店……えっ? まさか噂してた、あの?」
「多分そうですよ。ただ鞍馬君には内緒にしておいてください。不来方さんがナンパされそうなので」
「後で駄兄の頭から記憶を消しておきます!」
「噂……というか、私をナンパするんですか? そんな……他に良い人がいくらでも」
相変わらず小春さんの手段が過激ですね? 冗談交じりである事を祈りましょう。
あと不来方さんは謙遜が過ぎる――どれだけハードルが高いんですか? アイドル級?
『でだ。芳乃よ、軽く今日のいきさつを聞いてみようではないか』
「そうですね。小春さん、今日は家に帰ってからの事は?」
「ええっと……全然、いや? あれ? バイトには行こうとして、なんか……惹かれた?」
うん?
「惹かれた? 何に何を、とかは分かりますか?」
「え~っとぉ……っご、ごめんなさい巫女姫様。ちゃんとした言葉が出てこないです。なんとなくフッと惹かれて、気が付いたら山の中で不来方さんが白いのにカメラを構えている所で。あれって幽霊だったんですか?」
「取り敢えずそういう事です。意識が戻られたのはワタシたちが行動を終えた直後ですか……不来方さん、以前幽霊には
「チェンジリングのピクシー的な存在ってお話ですね?」
茉子とレナさんの言葉を聞いて、不来方さんはう~んと。
「そういった霊が存在する事は事実ですが、私が知っている例は一般的ではないのかもしれません。確認なのですが……この穂織に山や水を信仰するような風習はありますか?」
そう質問をされて、今度は私たちが考えます。
穂織の場合、信仰の対象となるのは一番が叢雨丸。そしてその管理者であるムラサメ様。
土地神様から下賜されたという話はあるものの、具体的な信仰はムラサメ様に向いています。
山に関しては……祟り神の発生元である事から畏怖としての思考はあるかもしれませんが、それを特別祀るという事は武実神社では行っていません。水にまつわるお話は全くのはず。
「山に関しては危険な場所、という畏怖的な信仰はあるかもしれませんが、奉っているという事はありませんね。水に関しては私の知る限りお話に上がらないかと」
『そうだな。吾輩の知っておる限りでは水については聞いた事がない。山は純粋に危険であり、近年でも祟り神に近づかぬよう不要に山に入るな、という程度であろう。山体信仰とは言い難そうだな』
「そう、ですか」
ムラサメ様がそう仰る以上、少なくともここ数百年の内には存在しないという事ですね。
不来方さんがご存じという例が気にはなりますが。
「何にせよ鞍馬さんは霊に関わった可能性が十分にありますので、後で薬を飲んでください。復調すれば思い出される事もあるかもしれませんし、惹かれにくくもなるかと思います」
ああ、あの万葉丸ですか。茉子ですら顔をしかめた。
「茉子、後で甘い物を準備してあげて」
「わかりました。しかし……思い出されると、それはそれで大変かもしれませんね」
「? なんだかよく分かりませんけど、ありがとうございます? あの、他にも私何かをやってしまったんですか?」
「ああ、ワタシたちに何かをされたという事ではありませんよ。ご心配なく。鞍馬さんが有地さんにキスされただけです」
「ちょっ茉子ぉ!?」
「………………き、きす? あのキス!? 私が、お兄ちゃんにですか!?」
「おおう……コハルが、コハルが一気に大人の階段を上っていきましゅる……」
なんで人の多いこのタイミングで言っちゃうの、茉子!? 貴女絶対楽しんでるでしょ!
「ワタシたちの目の前で、わりと濃厚なのを情熱的にかまされていましたが……それも全く?」
「あっ……がっがっ、きっきっきすぅ……わ、私が、お゛、おにい、ちゃんに? しか、も、しかも……濃厚? あ゛あ゛あ゛あ゛この後お兄ちゃんの顔が見れない!!! そしてなんで全く覚えてないの!? 初めてが……私の、初めてがぁ…………」
「だっダイジョーブですよコハル! ちゃんとしたシチュエーションじゃなかったらノーカンですノーカン!」
「ノーカンに出来ないですよ! 事実自体は最高なんですよ!?」
「まあまあ。あのお薬を飲んだら思い出すかもしれませんから、ね?」
「万葉丸を使う場面がこんなに和やかだなんて」
「茉子、後でお説教ね?」
『若いとはいいものだのう。吾輩の時は緊急事態だったしな』
こうして小春さんとレナさんが茹でタコになって、茉子をシメる事が決まって。
不来方さんとムラサメ様は大人の目線なのか静観されるような感じで、ちょっと騒がしい入浴を終えたのでした。
今更雑魚怨霊には負けません。芳乃にとっては大変ですが。
原作主人公の仕事が少ない……。
玄十郎が某国盗衆の長みたいなイメージになってます。
本件は次話で終わりですが、チャプター3はまだ続きます。
次回も楽しんで頂けたら嬉しいです。