零 ~イヌツキの少女達~   作:もふもふたぬきねこ

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小春を無事に連れ帰って。
やっと芳乃が正式にアレを装備します。

今回もよろしくお願いします。


13. 増える芳乃の胃痛

「ふむ、足に草で切った裂傷がある程度で他に大きな負傷はなし。脈拍や呼吸、体温も正常、食欲も大丈夫、となると表向きは健康体だね。記憶の方は全く?」

 

「はい、全く……ちょっと思い出すのもアレなんですけれど」

 

「?」

 

あれから。

馬庭さんにご準備頂いた夕飯を私たちは頂いて、その間に有地さんたちがお風呂に入って。

先程小春さんが不来方さんから手渡された万葉丸を飲んで、みづはさんの診察を受けたところ。

万葉丸を口に含んだ瞬間は凄かったですね、小春さんの顔面が梅干しのようになりました。

 

結局お風呂で伺った以上の事は分からず。ただ小春さん自身は健康体という事で一安心です。

茉子のお話のせいで有地さんの顔を見ると沸騰状態になってしまいましたが。

 

「まあ今は色々と混乱している部分もあるだろうし身体も緊張しているだろうから、少し先になるけど次の登校の時に保健室に来てもらっていいかい? 私も嘱託医で詰めておくから」

 

「分かりました」

 

「ウチのバイトも少し休憩にしましょうか。ちゃんと元気になった事が分かったら、またバリバリ働いてもらうから」

 

「はーい。連休中どうしようかな」

 

馬庭さんから伺っていたように、最近ぼーっとされていたのも今日の事の前触れだったのかもしれません。少し休憩のお時間ですね。

 

「芳乃様と常陸さんは、特には?」

 

「はい、問題ありません」

 

「ワタシも問題ありません。今回は玄十郎さんに代わって頂いたようなものですし」

 

「そうですか……夕莉君は?」

 

「私自身は大丈夫です。ですが……」

 

何かあったんでしょうか。

 

「今日の一連の対応で六一式を二枚使っています。次に同じ規模で出現されると心許無い状況でしょうか」

 

『そっちの話だったか。成程、今宵の退治には強力なフィルムを使っておったのだな。吾輩が写らなくてよかったぞ』

 

身体がご無事なのは何よりですけど、気にされていたのはそちらでしたか。

射影機は言わずもがななんですけど――フィルムの方も、私のお小遣いじゃ一枚でも難しいかな?

 

「その、不来方さんは今日は一体? お仕事は喫茶店の店長さんなんですよね?」

 

「そうだよ。アタシのコーヒーの先生でもあるの」

 

「夕莉君は物探しに関して便利な珍しい品物をお持ちでね。加えて鞍馬さんが山に入った事を唯一目撃していた人だったんだ。それで協力をお願いしたんだよ」

 

「珍しいというのは……あのレトロカメラ、ですか? わたしのご先祖様も持っていたってやつですね! もの探しというとダウジングとかでありますか」

 

不来方さんに関してはみづはさんの方がお詳しいですし、私がしゃべると余計な事を言いそうですから黙っていましょう。

ダウジングというと、振り子とか棒を使った探知でしたか? ある意味近いかもですね。正解はサイコメトリーでしたが。

 

「なんか……カメラで幽霊を吹っ飛ばしていたような?」

 

「……ええっと」

 

「侍みたいなのが喋ってましたよね!? 幽霊だったってお話はお風呂で聞きましたけど、あんな少年マンガみたいなバトルだったなんて……わりとファンタジーって現実なんですね」

 

「ユーリさんはカメラでかめ〇め波でも放ったですか!?」

 

「……まあ、そんなところです」

 

『あんな現実がポンポン在っては堪らんがな。祟り神だけで十分だ』

 

一体不来方さんはどんな戦いをしていたんでしょうね?

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「皆さま、今日は本当にありがとうございました。お礼は後ほど必ず」

 

「「ありがとうございました!」」

 

有地さんたちも戻ってこられて、小春さんは玄十郎さんたちとお戻りになる事に。

みづはさんと馬庭さんは先にお帰りになっています。本当は仕事中でしたものね。

 

「いや、本当に小春君が無事で何よりでしたよ。今の武実乃山に夜でも入れる状況になってしまっているのは僕の怠慢です。今後の対策についてご協力いただけると」

 

「必ず。全力を尽くさせていただきます」

 

「俺にも出来る事があれば言って下さい!」

 

「私たちは特別な事をしたわけではありませんから。茉子も有地さんもいいですか?」

 

「勿論です」

 

「俺は寧ろお礼を言う側だよ」

 

「夕莉君は……お礼と言っても中々受け取ってもらえんなあ。何らかの形で取らせてもらう事にするよ」

 

「いえ、特別気にしていませんからお手柔らかにお願いします……」

 

「それでは志那都荘へ向かいましょう。ヨシノ、マコ、マサオミ、また学院でです!」

 

「はい、また。小春さんもお大事に」

 

「はい! ありがとうございました!」

 

レナさんと小春さんの元気な声で帰って行かれました。

次に小春さんが有地君に会った時に、オーバーアクションが無ければいいんですが。

 

「夕莉君も、本当にありがとう。また君に助けられた」

 

「いえ、私に出来る事だったから手伝えただけです。ただ……」

 

不来方さんはそう言葉を切ると。

 

「偶然でなく、今の山は何らかの理由で怨霊が出現しやすくなっているのは間違いなさそうです。今後も芳乃さん達が山に入られるという事であれば、必然的に遭遇する機会も増えますから――」

 

と言って。まさか。

 

「こちらをお渡ししておきます」

 

射影機を……ああ、管理で胃が痛くなりそう。

 

「大変ありがたいお話ではあるけれど……いいのかい? とても貴重なもののはずだし、夕莉君も全く使わないという事ではないんだよね?」

 

「普段使う事はありません。機会があるのは今日のような場合ですが、その場合は此処に立ち寄らせてもらえればいいだけですから。水には強いですけど、多分衝撃には弱いのでそれだけ気を付けてください」

 

ダメだ。もう胃が痛くなってきた。

 

「……? あの、大丈夫ですか?」

 

顔色まで悪くなってきていたらしい。

 

「アッハイ。その、貴重なものを、お預かりする、プレッシャーが……」

 

「貴重……ああ、射影機がですか。確かに貴重ではありますけどそこまで緊張されるものでは」

 

いや! だって!! お値段!!!

 

「安晴さんから伺ったんですけど……メチャクチャ高いものじゃないんですか? 射影機って」

 

『うむ。聞いた話ではこれ一つで穂織が丸ごと買える価値だと聞いたぞ?』

 

ムラサメ様の言葉を聞いて夕莉さんは。

 

「射影機の値段を聞いた事はありませんけど……その価値は希少性や機能が理由なのではなく「いわく」の問題だと思います」

 

「「いわく」、ですか?」

 

機能とかではなく、ですか? 茉子の質問の返事を待つと。

 

「最初にお話しした通り、射影機を使うという事は少なからず「あちら側」に近づくという事です。そのせいなのか……脅すつもりはありませんが不幸になるとか射影機を残して行方不明になるとかの噂は付いて回っているものなんです。ですので、その噂によって「買ってはならない」価値観が業界の根底にあるせいでおかしな相場になっているのかと」

 

「ああ、そういう事だったんだね。誰も手を出さないせいで噂が独り歩きして吊り上がってしまったと」

 

充分じゃないですか! お父さんは何納得してるの!?

しかも「いわく」がサラッと追加されましたよ!?

私、呪いで死ぬより先に行方不明になりませんよね?

 

「それでも……不来方さんは普通に持ってたんですよね? 他に使った人も、確か」

 

「そうですね。私を含めて4人、全員生存しています。ですがまあ、全員私のような体質持ちだとお考え下さい。使わないに越した事はないと改めてお伝えしておきます」

 

『なにやら意味深だのう……』

 

ホントそれですよ。「生存」はしているけど「なにかあった」んですよね?

結局胃痛は収まりそうにないです。

 

「承知しました。出来る限り芳乃様たちを幽霊に近づかせないように努めます。お預かりしますね。それでは不来方さんもお送りします」

 

「あ、いえ。今日は自転車で来ていますから。お気持ちだけ頂きます」

 

自転車と言われていたのでてっきりママチャリをイメージしていましたが、まさかお店の中に置かれていたマウンテンバイクだったとは。あれオブジェじゃなかったんですね。

プライベートでは私たちより身体を動かされているのかもしれません。

 

 

 

そうして、不来方さんも帰って行かれました。

 

 

 

「将臣君、茉子君、芳乃。今日は本当にありがとう。ムラサメ様、皆を見守って頂きありがとうございました」

 

リビングに戻って、お父さんが私たちに一礼。

 

「俺からもありがとうございました。小春を助けてくれて」

 

「有地さん。小春さんは私と茉子にとってもお友達で、大事な人なんですよ? 助けに動くのは当たり前じゃないですか」

 

「そうですね。まあ芳乃様から「友達の為」という言葉が聞けたのはなかなか感慨深いものがありますが。そこに損得勘定は掛けないでおきましょう」

 

『うむ、皆大事な穂織の民だからな。やって当たり前というやつだ』

 

形式的にはともかく、深く礼なんて求めません。当たり前の事をしただけです。

あえてきっちりお礼をするというならば。

 

「不来方さんには……本当に何かの形でお礼を差し上げないと」

 

今回最も動いていただいて、唯一の力になってもらえて、危険な目にも。

しかも射影機まで貸して頂けました。これは言葉だけではダメでしょう。

 

「勿論だよ、夕莉君へのお礼は僕の方でちゃんとしておく。任せておくれ。さあ皆も今日は休むとしよう。疲れていないわけがないんだからね」

 

う~ん、まあ大人の方へのお礼を考えるならお父さんの方が適任かなあ。

私よりもお付き合いはずっと長いはずだし、好みとかもご存知かも。

 

お父さんは席を外して――今から祈祷かな。

 

「さて明日ですけど……今日の現場に戻りましょうか。憑代の欠片を回収できていませんから」

 

『そうだな。吾輩かご主人がおれば大体の場所は分かるが、射影機があるなら芳乃はより正確な場所が分かるだろう。いわくの話は確かにあるが、そこまで危険なら不来方も芳乃に貸すような真似はするまい。数のあるフィルムで済むのであろう?』

 

「今日の俺、何の役にも立たなかったなあ……」

 

「何を言ってるんですか? 鞍馬さんのファーストキスという思い出を刻まれたじゃないですか」

 

「まあぁーこおぉーー?」

 

「あは☆」

 

「いや、俺小春の従兄なんだけど? しかもあの時は正気じゃなかったっぽいし。小春には悪い事しちゃったなあ」

 

真面目な雰囲気の話だったのに、どうしてこう茶化したがるんですかね、茉子は。

有地さんは意外と冷静ですね? まあ身内ならそんな感じになってしまうでしょうか。

でも多分アレって……小春さんは頑張ってください。

 

さて。

 

「コレを、私だけで使うんですか……」

 

「芳乃様しか使えなかったじゃないですか」

 

祟り神や幽霊とは全く別の方向で、ある意味恐怖の対象である目の前のレトロカメラ。

衝撃に弱い……持ち運びする時はプチプチクッションで包まないと。

 

『今後射影機の世話になる可能性は極めて高いし、芳乃が使えんとなるとまた不来方の手を借りねばならん。こちらを信用して預けてくれた不来方の厚意を無下にする真似は出来まい』

 

うっ。

 

「いい加減腹を括ってください、芳乃様。祟り神の件さえ解決できれば山に入る必要性はぐっと減ります。ワタシたちが使命を全うすればお返しできる話です」

 

「まあ気持ちはよく分かるけどね。叢雨丸を折った時がそんな気分だったなぁ」

 

オマケにいきなり私なんかの婚約者扱いですもんね。更には私の塩対応。

今更ながら有地さんの心労が感じられるなぁ。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「あれは……マヨイガ(迷い家)?」

 

鞍馬小春さんに万葉丸を渡した際、見えた彼女の記憶。

彼女があの場に到着した時は、あそこにマヨイガの様なものがあったらしい。

 

彼女があそこに至るまでの心情は、私では分からない。

私にわかるのは彼女が実際に見聞きしたものまで。

少なくとも、私が見聞きしたものに特徴も声も感じられなかった。

 

彼女はマヨイガに招かれたの?

確か(れん)さんのお話では、ご友人がマヨイガに招かれて……選ばれずに亡くなった。

でもそれはあっちでの話。確認した限り、穂織には水に関する信仰はない。

なら「永久花(とこしえばな)」の事も、「水帰り」なんて考えもない。似たようななにかがあるとでも?

 

鞍馬さんが有地さんに恋慕されているのは分かった。ならば今日のは多分()調()だ。

あの場の発言や行動はこれに沿っていると考えても、辻褄自体はおかしくない。

 

でも、何故マヨイガに招かれたの? そもそもあそこは何のマヨイガなの?

あちらのマヨイガは民俗学者の家だという事だったけど。

 

「……分からない」

 

山というのは十分に信仰の対象となりえる。寧ろ山体信仰の方が一般的だ。

山が持っている自然の気に当てられて、自然に還ろうとする例は知っている。

 

 

 

私も、あの夕陽に当てられたように。あちらに近づいていったように。

 

 

 

マヨイガがあったのは偶然なの? 詳しくないけれど祟り神と関係が?

祟り神については当時も触りしか聞いていない。今の知識で考えるのは難しい。

 

でも、過去。()()4()()にあった事を考えると、何もないとは思えない。

 

更には今日現れた武者の怨霊。

あまりに古すぎる存在のせいか殆ど看取れなかったけど、正しく戦乱の世の存在。

どちらかに付いていた人だったのか。そして目的は?

マヨイガと関係がある?

 

怨霊として現れたという事は――どこかで夜泉(よみ)に近いものが溢れてきているとでも?

 

「どうするべきだろう」

 

私は部外者。

祟りには関係がない。出来る限り関わらないようにすると安晴さんからお言葉をもらっている。

私自身も関わるべきでないと理解している。自分から踏み込むのはいかがなものか。

 

でも、今怨霊に対応できるのは最も祟りに関係がある芳乃さんだけ。

彼女自身に何かが起きてしまえば、それこそ取り返しがつかなくなる気がする。

 

もう――その例を見てきたのだから。

 

結局密花さんへの相談は控えてしまっている。心配させてしまいそうで。

だけど、これに関しては密花さんか蓮さんの知識がどうしても必要になりそう。

次にいつマヨイガが現れるかもわからない。もし招かれてしまったらどうなるかも。

手遅れになってからでは意味がない。

 

とはいえ、流石に今日はもう遅いし。

 

「明日……連絡を取ろうか」




という事で小春の神隠しでした。災難です。
今後も芳乃以外、夕莉を含めた何人かの視点が登場します。


ここまでいかがでしたでしょうか。
よろしければ評価や感想を頂けると嬉しいです。

次は憑代の欠片回収に山の中へ。
次回も楽しんで頂けたら嬉しいです。
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