毎度思いますけど、何故主人公達は日中に訪れないのか。
評価を付けて頂きありがとうございます。
今の時点で下書きは第49話。終盤には入ったのかなあと。
完結できるよう努めていきます。お付き合い頂ければ幸いです。
今回もよろしくお願いします。
「うわー、中はだいぶ朽ちてしまっていますね。とはいえ、雨ざらしだったとしたならこれでも綺麗な部類ですか。さて懐中電灯はっと」
「スマホのライト点ける?」
「いえ、念のために控えておきましょう。他にも使用手段がある貴重品ですから」
謎の屋敷の中は、入り口から繋がる部屋の時点でかなり広い。囲炉裏でしょうか?
茉子の言う通り、確かに廃墟ではありますけど崩壊している感じまではしない。
むしろ生活感が少し残っているかのような雰囲気すらします。
念のために射影機を構えてみましょう。
「……朝武さん、どう? 居たりしそう?」
「今の所は反応がないのですぐ近くには居ないのかと。ですけど、これだけ広いとなると何処から来るか分かりませんから……出来るだけ射影機を覗きながら歩いてみます」
「分かりました。足元には充分にご注意ください。ワタシが照らしながら前に立ちますから、芳乃様は基本的にワタシの真後ろを歩いてください」
『吾輩も気配くらいは近づかれたら分かる……さ、探りたくはないが』
土間を上がって木製の廊下へ。ギシギシという音が鳴り響く。
なぜか大量に架かっている破れた暖簾が、不気味に靡いて仕方がない。
光源もなければ外から入って来る陽の光もないので、茉子の電灯とフィラメントの灯りだけが頼りです。
……って!
「……っ!?」
『ぴぃ!?』
「朝武さん?」
「芳乃様、何か感じられたんですか?」
今、多分。
「一瞬だけ、射影機が反応したと思います。赤色ではないのでこちらへの悪意はない……はず?」
フィラメントは青く発光した。とにかく襲ってくる怨霊ではないはず。
となると、反応したのは何かの霊ですか? それとも呼び戻しの対象? 前者は怖いんですけど。
狙いは……この辺り? とりあえず。
パシャッ
『ひっ!?』
「なっ」
「へっ?」
「なんで、いきなり」
シャッターを切った瞬間、今まで絶対にいなかったはずの。
「幽霊が」
目の前の廊下を横切っていきました。こちらには目もくれない。
これまでの怨霊は、射影機なしでも見えてはいました。
今回は何故? 撮った瞬間に全員が見えるように現れましたけど。怨霊じゃないから?
「ムラサメちゃん、気付かなかった?」
『気づいておったら真っ先に知らせておる! そんな我慢するかい!』
「これ以上ない信頼ですね。つまりは……今のは普通の幽霊ではないと?」
いや、あれはどう見ても幽霊でしょ、茉子。
とはいえ、今までのパターンに当てはまらなかったのは事実。
2秒程度しか得られなかった情報ですけど――見た目は平民ではなさそうな。
何かの装束のような服を着ていたような気がします。和服ではありそうですね。
背は私より高い。有地さんくらい? 何かを持っている感じではなさそうでした。
今の所分かる中で、一番大事なのは。
「赤い光ではなかったので、こっちを害する気はないはずです。進んでみましょう」
『ううう……射影機を作った者の腕を信じるしかないのか』
「わかりました。引き続き構えたままでよろしくお願いします」
「一応抜刀しとく。さっき全然反応できなかったから」
戻ったところで建物の外は霧の中。進むしかありません。
♢♢♢
「……ここ、武家屋敷か何かだったのか? いくら何でも広すぎない?」
「時代は分かりませんけど、平民の家でないのは間違いなさそうですね。地図は頭に入っているのでご安心を」
「武家だったとしても相当だぞ。かなりの要職に就いておった者だと思う」
「一体どこに向かっているんでしょう?」
あれから。
何度か射影機が反応して。その度に撮影をして。その時だけ謎の幽霊が現れて。
さらに屋敷の奥に進んでいき、私たちがそれの後をつける。
そんな事を10分くらいはしているでしょうか?
相変わらずの古い和風廃屋ですけど、たまに障子戸も。
中はボロボロになった畳が大半。たまにある几帳がまた不気味な雰囲気を醸し出していました。
コレがある時点で位が高い人の所有物なのは確定そうです。
確かに広い。現代でこれだけの敷地の家だったら大豪邸間違いなしですよね。
「茉子、今私たちってどんな風に進んでいるの?」
「便宜的に入った方向を「北」としますけど、直線距離で入り口から北東方向に100メートルくらいの場所にいます。歩いた距離は300メートルくらいです。本当に広いですよ、ここ」
「ムラサメちゃん、天井を抜けて上から眺められたりしない?」
有地さんの考えはムラサメ様には酷ですけど、わりとアリなんですよね。
ですが。
「……なに?」
「ムラサメ様?」
動いていただけるか、拒否されるかかと思いましたが。
聞こえた声の表情はまさかの「困惑」。
「今居る高さ以上に身体が浮かん。何故気付かんかった? いつの間にか吾輩は歩いておる」
「そういえば……」
ムラサメ様は歩くような動作も出来ますが、基本的には空中に浮いていらっしゃっていて。
移動も本当は浮いたような感じになっているはず。
それが何故か、しっかりご自分の足で歩いていらっしゃる。しかも。
ギシッギシッ
「……なぜ、ムラサメ様から足音が?」
まるで実体があるかのような。
「あり得ぬ……芳乃、よいか?」
「えっ? あ、はい」
ムラサメ様が私の肩に触れるような動作をされて。
確か人に触れられた感触。そんなまさか。
「……吾輩が、実体化しておるだと?」
「ムラサメ様、失礼致しますね――ワタシからもムラサメ様に触れられます」
こんな事が。ある意味喜ばしい事ではありますけど。
「どうなってるんだ? ムラサメちゃんがなんかの力を得たとか?」
「いや、吾輩の存在は叢雨丸に宿った神力で維持されているはずだ。仮に力が強まったなら吾輩が気付かぬはずがない……まさか」
ムラサメ様は私と茉子を凝視されて……表情が一気に曇った。
「いかんぞ。これは吾輩が実体化したわけではない、ここはもう半分「あちら側」――お主らの肉体が吾輩に近づいておるのだ。肉体と霊魂のつり合いが徐々に傾いておる。このままここに居続けると、お主らが元の存在を保てなくなる!」
「マジか。じゃあここは
有地さんが口にした「よもつひらさか」。たしか。
「
「だとして、ワタシたちは霊に近づいていくものなんでしょうか?」
精々社会の授業で神話として習った程度。
話に出てきたのは確か古事記。イザナギ様とイザナミ様を永遠に別つ話。
「
そうだ。イザナミ様もそのせいで現世に戻れないというお話でしたか。
「そしてお主らにとって本来は非常識……吾輩が宙に浮けるという事象が反転しつつある。霊の世界では吾輩も管理者を務めるただの一存在に過ぎん。常識が書き換えられ始めておるのだ。急ぎ戻るぞ、このままでは現世に帰れなくなる!」
私たちが既に幽霊になりつつある驚愕の事実。これはこんな所に居続けるわけにはいかない。
急いで戻らないと!
そう思って、このタイミングで気付く。
ずーっと耳に「ブーン」と鳴り響いていたらしい――射影機の霊波形の音。
「射影機が何かを……」
「止めておけ、芳乃。射影機は唯でさえ使用者を黄泉に近づける性質があるのと同義。このまま使い続けると芳乃だけ戻れぬ事になりかねん」
「そうですよ。やめておきましょう芳乃様。またあの謎の霊が写るだけでしょう」
「あの霊が何をしたかったのは全然分からなかったけど、今はそれどころじゃないもんな」
そうですよね。撮ったところで命以上に大切なものを得られるわけでもありません。
ここは無視して来た道を戻りましょう。
そう思って、振り返ろうと思ったタイミングで。
キンキンキンキンキンキンキンキンッ!
射影機の何かの機能――呼び戻しの時の音でしたか。これが耳に入って来て。
「っ!?」
反射的に、射影機を持っていた右手の人差し指が曲がって。
パシャッ
シャッターを切ってしまう。
その直後。
「「「「なっ!?」」」」
私たちが居た場所は――廊下だったはずなのに。
いつの間にか、その場は大きな書庫のようになっていて。
私たちが後を付けてきた謎の幽霊が、目線の先にぼんやりと。
こちら向きに俯いて立っているようで。
文字通り、「怨霊」としか形容のしようがない「ナニカ」の姿にブレた。
「ひうっ!? な、な、な、なんなんなん」
「い、いかん! いかんぞ! あんなモノに近づかれたら終わりだ!!」
「有地さん! ムラサメ様をお願いします! 芳乃様、撤退しますよ!」
「くそ! こんなの冗談じゃねえぞ! 抱えんぞムラサメちゃん!」
目が離せない。
一刻も早く目をそらしたいのに、おぞましい姿を目に留め続けてしまう。
巨大な霊媒師のようなナニカ。本体の顔はもはや髑髏と見間違う相貌。
その周辺も何かの怨霊が取り巻いているような、正真正銘の地獄の化身。
これが、元は私たちと同じ「人」だったと?
パンッ!
「あっ?」
「申し訳ありません芳乃様! アレに気を取られている時間はありません! 行きますよ!!」
茉子に顔を叩かれて、ようやく意識がまともになったみたいです。ゴメンね茉子。
一刻も早く逃げないと!
♢
「常陸さん! 道は分かる!?」
「申し訳ありませんがさっきまでとは別の場所に飛ばされた可能性が高いです! しばらく動き回るしかありません!」
「なんとなく感じる何かが武実神社の方向なのだろう……こっちの方向だ!」
茉子を先頭に、全速力で出口に向かっているかもわからない廃屋を進んで。
頭から射影機の音が鳴りやまない。
ふと、後ろを振り返ってみると。
「いいい!?」
走ってきているわけではないけど、間違いなくこっちに向かってきてる!
これは――緊急事態! 効くかどうかわからないけれど、一番強力な九〇式の準備を!
「ここは……見た場所です! ここからなら入口への道順がわかります!」
「よろしく! ムラサメちゃんは自分で走れない!?」
「すっすまん……走り方を忘れている上に、か、完全に腰が抜けて……」
「一回足止めに撮影します!」
今までの怨霊はまだ「怖い」で済みましたけど、これは完全に「おぞましい」。
目に入れただけで正気を削られそう。
射影機を構えて……!?
「……なんで!? 霊魂みたいなのが認識されない!?」
ファインダーに、その姿ははっきり写っているのに。
今までは幽霊の身体に丸い印とか、これが撮影対象と認識されているっていう目印はあったのに。
ええい、とりあえず撮影だ!
バシャッ!
「効いた!?」
いや、これは……。
「全く効いてないです! 逃げるしかありません!」
「あと200メートルくらいです! 何とか走ってください!」
一番強力なフィルムもダメだなんて、手の打ちようがないじゃないですか!
その間も怨霊と思わしき「ナニカ」からは、まるで念仏のような声が響いてきて。
『贄 花 門 姫』
ダメ、耳に入って来る音のせいで集中できない!
「芳乃! とにかく前を見よ!」
何とか前を向いて!
そう思っていた、その時。
「前から……明かり!?」
「出口か!?」
「いや、これは……まさか!?」
自然の灯りじゃない。人工の電灯のような小さな光が前方から徐々に大きく。
そして、どこか駆動音のような「シャーッ」って音が前方から響いてきて。
「間に合った!!」
「「「「不来方(さん)!?」」」」
まさかのお人が。
マウンテンバイクでここまで!? すっごいアクティブ!
「芳乃さん! 射影機を!」
「はっはい!」
一番強力なフィルムでも全く効きませんでしたが、不来方さんならあるいは!
「九〇式……「
バシャァン!!!
私が撮影した時とは全く違う、重く大きなシャッター音が鳴り響き。
『う゛お゛お゛あ゛あ゛……』
「下がった!?」
「一時的なものです! 先導しますから急いで出口に向かって下さい!」
マウンテンバイクの前照灯に照らされた廊下を、後方灯を追いかけるように走り続けて。
いつのまにやら屋敷の内側へぶっ壊されていた入り口を、飛び込むように潜り抜け。
何とか、外に出る事が出来ました。
♢♢♢
「はぁ……はぁ……はぁ……あんなバケモン、本当にいるんだな……」
「ぜぇ……ぜぇ……同感ですね。祟り神が野犬に思えるレベルです」
『お疲れだ、ご主人。不来方、感謝するぞ。全滅寸前だった』
「げほっげほっ……本当に、ありがとうございました……」
謎の建物から何とか脱出出来て、生きた心地を私たちが実感していた中。
「……いえ、ごめんなさい。私がもっと早く行動できていれば」
不来方さんの表情は暗い。
そんな顔をされる必要は全くないんですよ?
そして、私たちの周りに広がっていた霧は目の前から晴れており。
「……マジか」
先ほどの建物を霧の中に隠して――消えてしまいました。
山道を下る帰り道の最中。
「不来方さんはどうしてこちらに?」
まさかあそこまでマウンテンバイクで突撃されるとは。
明らかに何かをご存じだったからこそ、あの行動を取られたと思うのは自然でしょう。
「詳しくは下山してからお話しますが、あの建物が出現する可能性は分かっていたんです。ですが確認が遅れてしまって……ごめんなさい、本来なら防げた事態でした」
「いや、とんでもないですよ。不来方さんが来てくれてなかったら、俺たち全員今頃ムラサメちゃんの仲間入りしてたでしょうし」
「そうですね。なんにしたってあの建物に入ってしまったのは、ワタシたちの警戒不足が招いたものです。気を落とされるのはご勘弁ください」
『お主がいなければ芳乃達は現世の存在では無くなっておった。お主に救われたのだ。それとご主人、アレに襲われた末路が単なる幽霊程度になれると思わん事だぞ』
「本当に。ありがとうございました」
経緯は分かりませんが、結果的に私たちは助けられたんです。
責めるとかそんなのは絶対あり得ませんから。
「……わかりました。では「どういたしまして」という事で」
はい、それで大丈夫です!
「零」ではあり得なさそうな光景ですけど、
せっかくなので夕莉の趣味を採用した結果がコレです。
まあ原作でも夜の山で勝手にケーブルカー動かしてますし。
強化レンズの解説はそのうち。少々仕様が違います。
後半の霊のイメージは、某和風建築迷路ゲーの憎悪の影的な奴です。
次は反省会です。
次回も楽しんで頂けたら嬉しいです。