零の英題は「フェイタルフレーム」なわけですけど、
公式的に日本語に直すとどうなるんでしょう?
今回もよろしくお願いします。
「……そうだったのかい。本当にそんな事が」
神社に戻って。不来方さんも一緒に昼食を取りながらのお父さんの総評。
ちなみに当然ですが私達も万葉丸を飲みました――想像を絶する味でした。吹き出すかと思った。
何というか、薬草という薬草を煎じに煎じて凝縮したものの万倍の味という感じで。
よく茉子は最初あの程度のリアクションで済みましたね? 小春さんもすごい。
さっき食べた時の顔をお見合い希望相手に見せれば、かなり申し込みの数が減る気がします。
そして、なんで不来方さんはアレを平然と口に含めるんですか?
「それで……不来方さんは「確認」をされていたという事でしたけど、一体何を?」
茉子が質問を投げかけ。
「あの建物――「マヨイガ」についてです」
と返されました。「迷い家」、たしか……。
「歴史の授業で聞いた事があったような?」
「東北地方の説話として、民俗学者の方が纏められたお話にあるものですね。突然そこに迷い込んでしまって、屋敷は豪華で家畜などもいて食事の準備すらあるのに何故か住人の気配はせず。怖くなって引き返して、家に辿りついた所で川からその屋敷の物と思われるお椀が流れ着き、お米の計量に使うとお米が減らないようになって豊かになった。そんなお話だったかと」
「迷い家の品を持ち帰ると豊かになる。だけどそれは無欲の人限定で、欲深い人はそもそも到達できない。そんなお話だったでしょうか?」
『茉子と芳乃は確か去年学び舎の授業で学んでおったな。民間伝承、ご主人風に言うなら「都市伝説」なのだろうが、まさか実際にはあんなものだったとは』
あそこの物を持って帰れば豊かになる? どう考えても呪われますよね?
「実は……昨日鞍馬小春さんの救助をした際、彼女の記憶を見させてもらいました」
!?
そんな事まで!?
「夕莉君が物の記憶や人の残り香を見られる事は、既に芳乃達も知っているよね? それはそういった仕事を生業とされている方なら、出来る方はいらっしゃるらしいんだ」
「ですが私の場合は極端でして……触れるだけで人の記憶も見聞きできてしまいます」
お父さんは知っていたらしい。
信じられないけど、信じるしかない。
現に何らかの理由で不来方さんは「マヨイガ」があると確信して強行してくださっている。
小春さんの記憶は……そうか、昨日万葉丸を手渡しした際に触れているんだ。
「昨日の記憶を辿らせてもらった際、鞍馬さんがあの場所に辿りついた時にはあそこに「マヨイガ」があったようだったんです。ただ私もマヨイガに詳しいわけではなくて……今朝知っていそうな方に確認を取ったら極めて危険な可能性があるという事で。芳乃さんにも電話をしたのですが連絡がつかず、急いでこちらに伺ったのですが間に合わずとなってしまって」
「へっ?」
私に、連絡を?
ふとポケットに入れていたスマホを見てみると。
「……うっ」
『おお、見事に不来方の名前が並んでおるな』
「あの時は圏外でしたけど、実際にはおかしな空間になっていたという事ですか」
「俺たちの現在位置が分からなかったのもそういう事なのかもね」
いや、これ、多分山を歩いている最中の時間じゃないでしょうか。
マナーモードにしてあった事にこんな弊害が……大変申し訳ありません。
今度から出来るだけマナーを解除しておきましょう。
「それで、小春の記憶でマヨイガを見られたって事は……まさか小春もあの中に?」
「いえ、入る前に消えてしまったようで。それはなかったようです」
ふぅ……。
不来方さん以外の5人からため息が漏れました。
小春さんがもしあそこに踏み込んでしまっていたらと思うとゾッとします。
「夕莉君。その芳乃達が入ったマヨイガとはどういうものなのか、聞いてもいいかい? 一般的な伝承とは別物という事でいいんだよね?」
さてお話の本題です。
私たちが入ってしまったあそこはなんだったのか。遭遇した怨霊は何者なのか。
「マヨイガというのは……元々が特別な何かだったとか、必ずしもそういうものではないようなんです。普通の建物だったモノが何らかの理由で「あちら側」に縁を持ってしまい、その境に存在するようになってしまう。招かれた人間の前には姿を現し、そうでない者の前には現れない。私が今朝伺ったお話では――そこの住人が「あちら側」に招かれた結果、建物ごと引き込まれたのではないかとの事でした」
『きっかけは何であれ、やはり半分は既に「あちら側」となっておったのだな。ご主人も口にした
「……もし、あのまま脱出する前に霧に閉ざされてしまっていたら?」
「考えてもしようのない事ですよ、有地さん。今は先の事を考えましょう」
想像自体は簡単に出来ますけど、出来たところで前向きな事にはならなさそうです。
今は無事に戻ってこれた事実を喜びつつ、これからの事を考えないと。
まず不思議なのは。
「そのお話を伺うに元々は現存したものだったんですよね? あんなに大きな建物が武実乃山の中に在っただなんて……お父さんは何か聞いた事ある?」
「いや、僕も聞いた事がないよ。ちなみになんだけど芳乃達はそこで何を見てきたんだい?」
「芳乃様、射影機の中に撮った写真ってありませんか?」
あっ、たしかに。これちゃんと写真が撮れるカメラなんだった。
「中で何枚か撮られているんですか?」
「はい。なんというか……射影機にしか反応しないナニカがいまして。撮影すると霊が現れて、それを追いかけて、というのを繰り返していました」
「で、ムラサメちゃんが「俺たちがヤバい」って事に気付いた時に写真を撮った途端、書庫みたいな所に飛ばされて」
「例のアレに追いかけまわされまして、ですね」
『今まで幽霊にビビっておったのが馬鹿馬鹿しくなるほどの禍々しさだったな。お陰で多少は耐性がついた気がするぞ』
そのお話を聞いて、不来方さんが射影機をカチカチと。
外に排出されていなかった時は中にストックされていたみたいですね。本当にハイテクです。
出てきた写真は……おおう。
「これが正真正銘の心霊写真かい。後で祈祷をさせてもらうよ」
「分かりました。宜しくお願いします」
最初に不来方さんに撮ってもらった時や、私が使った時。そして小春さんを捜索した時。
私のは大体ブレてしまっていますね。はっきりとしているのが不来方さんの写真で。
これなんて一枚に何人写っているんですか? 昨日の武者相手の時のですね。
そして。
「……うわあ」
有地さんが思わず声を漏らした二枚の写真。
真っ黒。完全に真っ黒。何も写していない。
これだけ明らかに異質ですね。出てきた順番的にこれは。
「あの
「「絶対霊」、ですか?」
初めて聞く言葉ですね。
二枚の片方は多分私で、もう片方は多分不来方さんが撮ったもの。
私の時は全然効果が無かったみたいでしたけど、不来方さんの写真すら真っ黒になっています。
「先日「生前霊感の高かった人の霊は極めて危険」という話をしたかと思いますが、そういった霊が周りの怨霊などを巻き込んで強力になったものをそう呼んでいます。
なにやら少々難しいお話ですが……霊能力があった方の怨霊、そういう事ですか。
『フィルムに込められておった除霊の力を逆に侵すほどの呪詛か、信じられんな。祟り神に例えたなら叢雨丸をへし折られておるやもしれん』
「安晴さん、こちらは絶対に祓おうと思わずに焚き上げてください。最悪安晴さんが蝕まれます。マッチはありますか?」
「わかったよ。僕程度で浄化しようと思うのはおこがましそうだね」
「マッチと、こちらを灰皿にお使いください」
以前ムラサメ様を撮影した際「この程度ならただの心霊写真」という言葉がありましたけど、そうじゃないものはこういう事ですか……。
写真から蝕まれるとかどんな呪いなんです? 祟り神の呪詛を軽く感じてしまうんですけど?
ボッ
茉子が持って来たマッチで不来方さんが写真に火を灯し。
私たちの目の前で、真っ黒になった……恐らくあの絶対霊を写していた写真が灰になっていきます。なんとなくですけど一安心です。
「で、しっかり見なきゃいけないのはこっちだよね」
『いきなりこんな所に飛ばされるとはな』
その真っ黒写真の一つ前。私が反射的にシャッターを切ってしまった一枚。
真ん中に一人の霊。多分あの時の、徘徊していた存在。ぼやけても服が平民のものとは思えない。
そして周囲を埋め尽くさんとするような本の山がいくつか。
この部屋も相当広いですね。どうやって部屋を出たのか、もはや覚えていません。
「これは……みづはさんにも見て頂いた方が良いかもしれないね」
「みづはさんに見せて何か分かる?」
「多分その場では分からないと思うよ。だけど僕達より遥かに知識を持っている方だ、後出しにするくらいなら先にお知らせしておくべきじゃないかな。今日の事だって後で連絡したらお叱りを受けそうだからね」
まあ、たしかにそうかもしれない。
今まで色々とお世話になってきているみづはさん。この先も間違いなくお世話になる。
そんな方に「実はこんな目に合っていました」なんて失礼でしかないものね。
「それでは、みづはさんには今からワタシが連絡を差し上げておきます」
『頼むぞ茉子よ。しかし……』
「この辺は……ちょっとだけ文字? っぽいのが見えるけど、何が書いてあるのかサッパリだね。昔の字でいいのかな?」
「加えてきちんと構えて撮ったわけではないので、かなり手振れもしていますね……」
流石に昔のカメラじゃ手振れ補正はありませんでしたか。
それでも表紙と思わしき部分に何かが書かれている事はわかります。
ミミズのような字で全く読めませんが。
「ムラサメちゃん、読めない?」
『馬鹿にするでない、と言いたいところだが……すまぬ。当時の吾輩は字の読み書きは全くできなかった。現代の文字しか読めん』
戦国時代の一般識字率を考えるとそれが当然なのかもですね。しかもムラサメ様は女子ですから、武士階級を目指すような事が基本の教育の機会なんてそうそうなかったでしょう。
「う~ん、僕も分からないね。楷書の文献ならまだ分かるんだけど」
「祖父ちゃんとかなら分かるかなあ?」
「玄十郎さんも昭和生まれの方ですから難しいのではないかと」
これは、そういうのを専門にされている方でないと……。
「では……連絡を取ってみましょうか」
私たちがうんうん悩んでいる中、サラッと解決策を提示される不来方さん。
「夕莉君のお知り合いに……黒澤さんかい?」
「いえ、密花さんのご友人に作家の
作家をご職業とされている方はものすごい数の文献を読まれているらしいですからね。
ご本人が読めずとも伝手はお持ちかもしれません。
そして……「
この「黒澤」さんが、ひょっとすると前の射影機の持ち主である店長さんなのでしょうか。
「先程の事の報告もありますから、一度連絡をしてみます」
「ありがとう、よろしくお願いするよ。あ、黒澤さんが出られたら一度僕に代わってもらってもいいかい? お礼の言葉だけでも伝えたくてね」
「分かりました」
「みづはさんには連絡がつきました。その写真をご覧になりたいとの事で、今からこちらにいらして頂けるそうです」
「ありがとう、茉子」
「読める人は読めるんだろうなあ」
『吾輩たちの時代はこっちの方が一般的だっただろうからな。今のような楷書体は大陸文化か写経など特定の場面でしか使う事がなかったと思うぞ』
なんであんなにぐにゃぐにゃになってしまったんでしょうね?
古事記や日本書紀はしっかりと読める楷書体だったのに。
さて、目の前でお電話を掛けられる不来方さんですが。
「……あ、もしもし不来方ですけど……あれ?
見た事ないくらいに不来方さんの表情が忙しく変わってますね。大半は驚きみたいですけど。
ここでお電話されているくらいですから聞いていて問題ないんだとは思いますが、不来方さんのお知り合いと思われる方のお名前が何人か。
不来方さんはミステリアスな雰囲気ですけど、意外にお知り合いの方は元気系の方なんでしょうか?
そして、不来方さんが電話を切られて。
「はぁ~……」
まさかの深い溜息。なんだか絵になる。
「えっと……夕莉君? 黒澤さんと何かあったのかい?」
「いえ。密花さんは丁度ご不在で、顔馴染みのお客さんがお電話を取ってくださったんですけど……有地さん」
「えっ? 俺ですか? なんですか?」
今のお話から有地さんのお名前が挙がるとは思っていませんでした。
そして。
「玄十郎さんに――志那都荘で明日から10日間、2人部屋で2組、うち1部屋は一番高いお部屋が取れるか連絡して頂いてもいいですか?」
もう話の流れが分からない。
というわけで、情報やら人物名が一気に増えました。
人物に関してはその内一覧で紹介致します。
最後の夕莉の電話は、相手が何を言っているか想像いただければ。
次はそのまま続きます。
次回も楽しんで頂けたら嬉しいです。