零 ~イヌツキの少女達~   作:もふもふたぬきねこ

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サブタイから誰が出てくるのかバレバレです。
後書きにも記載しているのですが、なんてタイミングに……。

今回もよろしくお願いします。


17. 夕莉の師匠

「これは……驚くほかありませんね」

 

みづはさんが到着されて、例の書庫らしき場所の写真を見てもらっている所。

その前に今朝の出来事をお話して、既に診察は受けています。

万葉丸を飲んだおかげか、精神面以外は取り敢えず異常なしです。良薬は口に苦しといいつつアレは不味過ぎましたけどね……ひょっとして気付け薬なんでしょうか。

 

「これほどの書籍の数となると……武家屋敷というのはあながち間違いないかもしれませんが、どちらかと言えば何かしらの研究室のようなの物だと。大名お抱えの学者が使っていた一室と考えるのが自然かと思います」

 

「大名……という事は、ウチの、ですか?」

 

一応、というか歴史を紐解くと戦国時代の穂織を治めていたのは朝武家(私の先祖)

規模は有名な武将さんに比べればずっと小さなものですが、大名には違いありません。

 

「可能性としては高いかと。ただ、あくまで推測の域を出ません。芳乃様達も気にされているように、この写真に写った書籍の文字が僅かでも読めれば違うかもしれませんが」

 

「みづはさんでも難しいですか?」

 

有地さんからの質問にみづはさんは苦笑。

 

「少しだけなら読めない事もないんだろうけど、専門というわけではないからね。読みやすい字に限定されてしまうよ。それにこれだけ手振れを起こしてしまっているとちょっとね」

 

「こればかりは仕方ありませんね。この写真自体奇跡的な一枚ですから」

 

「それでみんなをここに運んでしまったんだけどね……」

 

あの時私がシャッターを切っていなかったら。

この部屋に飛ばされる事も、あの怨霊に遭遇する事もなかったかもしれない。

 

「なんであんな現象が起きたんでしょう?」

 

「恐らくですが、それも呼び戻しの一種です」

 

回答は不来方さんが下さいました。

 

「芳乃さんがそれまでに撮影されていた霊は、ある種の「影見」――その霊の過去の記憶と言えるものかと。実際にその場に霊がいたわけではなかったんだと思います」

 

『それで吾輩すら気配を感じなかったのか』

 

「芳乃様が射影機で過去を表に出された結果、ワタシたちも見えるようになったという事ですね」

 

もう何というか……幽霊が普通に見えている時点でおかしいはずなのに、とうとう霊の過去すら辿れるようになってしまってますよ? 私、大丈夫なんでしょうか?

 

「この写真を撮られた事で、本来隠されていたこの部屋自体が呼び戻されたのだと思います。写っている部屋こそが本当の霊の居場所であり……今現在の姿があの絶対霊です」

 

「幻覚ってレベルじゃないですね。この部屋に気付かず廊下だと思って歩いてたって事か」

 

「敷地の広さが異常すぎるとは思いましたが惑わされていたんですか……ワタシ、忍者なのに」

 

『いや。茉子が途中までの道を記憶しておらんかったら、吾輩達は間違いなく不来方と合流する前に終わっておった。お手柄だぞ』

 

「夕莉君のお話では、芳乃達は気付かないうちに「あちら側」へ渡ろうとしていたくらいだからね。それだけ人の念で作られたものというのは区別が難しいんだ」

 

以前お父さんも言ってたっけ。お母さんを追いかけて「河」を渡りそうになったって。

あれってこんな感じだったんだ。

有地さんの提案が無かったら、ムラサメ様がいなかったら、全く気付けなかった。

 

今更ながらにゾッとする。

 

()()()というのはさっき聞いた強大な怨霊の事だね? では、この写真の霊が元の姿だと?」

 

「多分としか言えませんが。「ナニカ」に触れた結果、ああなってしまったんだと思います」

 

あの恐ろしい怨霊。この写真の霊も、元は私たちと同じ人間だったんですよね。

一体何をどうしたらあんな姿に。

 

「……ん? あ、祖父ちゃんだ。ちょっとすみません」

 

有地さんの携帯に玄十郎さんから連絡が入ったようです。

 

「もしもし祖父ちゃん? うん、居るよ。そのまま喋ってもらえれば大丈夫」

 

『そうか? 夕莉君、鞍馬です。お部屋の方が手配出来ましたのでご連絡を。宜しければ泊まられる方々のお名前を伺っておいてよろしいですかな?』

 

宿泊施設ですからね。いろいろご対応される以上お名前は知っておかないと。

 

「ありがとうございます、玄十郎さん。一組は放生蓮(ほうじょうれん)さんと鏡宮累(かがみやるい)さんという方々です。もう一組の高級な方は……あー、一旦私の名前にしておいていただいていいですか?」

 

わざわざご自分の名義を? やましい事があるんだとはまず思いませんが……。

 

「少々特殊な立場の方なので、明日直接本人が名乗られた名前を記録頂けると助かります」

 

『分かりました。女将にもそう伝えておきます。直接志那都荘に来られますでしょうか?』

 

「それは……安晴さん、すみません。武実神社を合流場所にさせていただいても? 私の店は合流箇所には向かなくて」

 

「もちろん構わないよ。たしかにあそこは初めて来る方には特に難しそうだからね。僕としても早いうちにご挨拶差し上げたいし。芳乃、茉子君、大丈夫かい?」

 

「ワタシは全く問題ありません。朝食が必要であればその方々の分も準備致します」

 

「私も大丈夫。こういう形のお客さんって珍しいから、どう対応したらいいのかわからないのだけど」

 

「朝武」の人間として、「巫女姫」として、それなりに色んな方々とお会いはしてきました。

ですが、あくまで社交上の付き合いであって仮面を被っていたようなものです。

今回はお世話になっている方のお知り合いの方々――どうすればいいんでしょう?

「歓迎!! 放生様御一行!!」とかの横断幕を準備した方が良いんでしょうか?

 

「では一旦武実神社で合流の後に志那都荘に向かってもらうようにします。車一台で来ると思いますので」

 

『承知致しました。お時間が合うようであればワシも武実神社にお邪魔致します。将臣と廉太郎の鍛錬の後に時間がありますので』

 

そう仰って、玄十郎さんはお電話を切られました。

 

「どうされるか確認をしておくべきでした……」

 

「それは……もう一組の方かい?」

 

「ええ。表向きに顔が知られている方なので、志那都荘に居る事がわかってしまうと後でご迷惑をおかけするかもしれないと思いまして」

 

なるほど。仮に芸能人のような方だったとしたら、追っかけとか大変そうですものね。

私もこの穂織限定ですけど似たようなものはありますから、わからなくはないです。

 

今の所のお名前と当て嵌めると……「みう」さんと「みく」さんがこちらの方でしょうか?

似たお名前ですね、アイドルユニットのような?

 

「明朝こちらに来られるという事であれば、私もお邪魔させてもらっても? 今回の件に関わって頂く以上、早めにご挨拶はさせていただきたいと思います」

 

「勿論大丈夫ですよ」

 

みづはさんにお父さんがそう応えたところで。

携帯電話のバイブ音――ちなみに私の携帯はマナーモードを解除しました。

 

「……密花さんですね。ちょっとすみません」

 

以前の店主さんですね。不来方さんが席を外されました。

 

『取り敢えず話が進みそうで何よりだ。直近祟り神よりこちらの方に付きっ切りになってしまっておるが』

 

「そうでもないんじゃない? 今日だって憑代の欠片はちゃんと回収できてるし、祟り神が出た時には祓えてるんだしさ」

 

「衝撃度と危険度が違い過ぎるだけですね。初めて不来方さんにお会いした時に聞いた、「武実乃山の祟り神はマシ」というご発言の意味がはっきりしました」

 

「アレと比べてしまったら、ねえ……」

 

祟り神を怪物と形容するなら、あの怨霊は地獄の恐怖そのものだったもの。倒せる気がしない。

 

「難しい事だと思うけど、今日あった事はあまり頭に描いてはいけないよ。3人とも念のために後で僕の祈祷を受けてもらうから」

 

「「あちら側」を知ろうとすると余計に引き込まれてしまいます。これは単純に朝武家を呪おうとしている祟り神とは全く別の、いわば「世界の性質」です。勿論祟り神が大した事ないなんて話ではありませんが、助かったという事実を強く心にお持ちください」

 

「「「わかりました」」」

 

『全くだな。吾輩も気をつけねば』

 

あれは朝武家代々に向けた呪詛じゃなくて、そういう世界に足を踏み入れる行為。

気をつけないと。

 

「皆さんすみません」

 

不来方さんが戻ってこられました。まだお電話が繋がっているようですが……?

 

「密花さん……以前の店の店長が皆さんとお話したいと言っていまして。少しお時間いいでしょうか?」

 

「勿論だよ。こちらからお願いしたいくらいさ」

 

射影機の本来の持ち主。一体どういう感じの方なんでしょう? なんだか緊張してきました。

夕莉さんがスピーカーのボタンを押されて。

 

「密花さん。大丈夫です」

 

『ありがとう夕莉』

 

優しそうな大人の女性の声。この方が。

 

黒澤密花(くろさわひそか)です。安晴さんと駒川先生はお久し振りですね』

 

「ご無沙汰しております。黒澤さん」

 

「ご健勝なようでなによりです」

 

誰に対しても大体敬語なり優しめの口調のお父さんだけど、結構畏まってる。

みづはさんは普通みたいだけど……。

 

「黒澤さん……本当に申し訳ない。以前あのようにお約束したというのに」

 

『夕莉が自分で決めた事です。そちらで今、夕莉が皆さんのお力になれているというのであれば、夕莉が望んだ結果であるという事でしょう。その事に関して私に何かを仰っていただく必要はありませんよ。元々夕莉は私以上に一人前なのですから』

 

なにか不来方さんに関して約束をしていた? 大丈夫ではあるみたいだけど。

 

『それで……芳乃さん達はそちらに?』

 

私にもご用が? というか、私の事をご存じなんでしょうか。

 

「はい。朝武芳乃はこちらに。初めまして」

 

『――初めまして。あと……3人いらっしゃいますか?』

 

えっ?

3人。茉子、有地さん……ムラサメ様? 顔を合わせます。

 

「常陸茉子と申します。はじめまして」

 

「はじめまして、有地将臣です」

 

『こっこれ、吾輩も話せばよいのか? お初だ、ムラサメというものだ』

 

「ありがとうございます。改めまして、夕莉の後見人を務めております黒澤密花と申します」

 

やっぱり。電話越しなのにも関わらずムラサメ様の存在まで分かってる。

流石は不来方さんの師匠。

後見人という事は……不来方さんのご両親はもう。

 

『皆さんにお伝えしたい事は2つ。1つは今の状況について、もう1つは……お礼です』

 

「お礼……黒澤さんから我々にですか?」

 

『ええ。ですがまずは1つ目のお話から参りましょう』

 

何となく空気が引き締まりますね。

 

『原因までは分かりませんが、現状武実乃山は極めて危険な状態にあると言えます。幽霊を怨霊とならしめるナニカが出現しているものと考えています』

 

「幽霊を」

 

「怨霊にする何か?」

 

私と茉子が疑問符を。

 

『霊というのは無暗矢鱈(むやみやたら)に人を襲うものではないんです。ですがナニカに当てられて怨霊と化してしまった場合は、目に付いたものを引き込もうとする一種の本能に支配されます。夕莉の射影機では根本から怨霊を封印する事は叶いません。時間が経つと再度現れる可能性は十分にありますので、根治的な解決には元となっている「ナニカ」を絶つ必要があります』

 

あれで成仏していなかったんですか……。

 

「その「ナニカ」ってのは、例えばどんなものなんですか?」

 

有地さんからのご質問。想像もつきませんが。

 

『様々な例がありますので一括りには出来ませんが、黄泉という世界には現世(うつしよ)の存在を狂わせる「瘴気(しょうき)」が含まれていると思って下さい。そしてその対象は生きているものに限りません。現世の存在である以上、幽霊ですら狂うんです。あり方を考えれば霊の方が圧倒的に影響を受けやすいと言えます。私達のような肉体の盾を持ちませんから』

 

ムラサメ様の顔が青ざめます。私たちよりムラサメ様の方が危険かもしれないなんて。

 

『先程夕莉から今朝のお話は伺いました。隠世(かくりよ)に存在するマヨイガに黄泉の性質があったというなら、穂織の何処かに黄泉へと繋がる「扉」のようなものがあるのかもしれません』

 

「扉が、この穂織にもあると?」

 

『安晴さんには以前もお話したかと思いますが、この日本という土地は八百万の神が住まうとされているように国、土地、自然そのものが神であり、ある意味「黄泉」と重なり合っています。必然的にそこへ繋がっている穴も多くなります。大半は小さい物ですけど、大きなものであれば人為的に封印されているものもあるんです。それこそ大昔から』

 

「いわゆる霊場や霊山がこれに該当する、という事ですね」

 

霊山というと、有名なのは富士山や恐山とかでしたか。

不来方さんが山体信仰がないかを確認されたのは、そういう事だったのかもしれません。

 

『人為的にそんな扉を封じる手段があるなぞ、古代の秘術とは凄まじいな』

 

「扉の封印とか、もうゲームか何かの世界だよ……」

 

()()()でしょう? ムラサメさん』

 

そう、黒澤さんが仰られて。

場の空気が固まりました。

 

まさか。

 

『……そういう事、なのか』

 

『そういう事です。まあ、今説明したいのはそちらの話ではありませんが』

 

そうだった。こんなに身近に500年もの間身を挺されている方がいるというのに。

そしてこの穂織に限らず、命を賭してこの世を守ってくださっている方々がいるという事実。

今生きていられる事を感謝しないと。

 

『お話したいのは、元を絶たないといくら除霊しても解決にはならない事です。今日は強力な怨霊も出て特に危険ですから、仮に祟り神の出現の予兆があったとしても今晩は絶対に山に入らないでください。そちらに蓮……売れない作家を送りましたので、明日からこき使って下さい』

 

「お仕事を変えられた方が良いのでは?」

 

『累が居るから生活が維持できてしまっているのよ。本人は自覚がないけど半分ヒモよ……全く』

 

重要な指示を受けたはずなのに、黒澤さんと不来方さんの追伸で抜けそうになりましたよ?

割と不来方さんもズバッと仰いますね?

 

『1つ目のお話はここまで。そしてお礼というのは――夕莉を受け入れて下さってありがとう』

 

黒澤さんの声が一気に優しくなりました。

 

『正直、夕莉の電話から学生くらいに若い人達の話題が出てくるとは思わなかったの。お店の方も細々と静かにやっているかと思ったのだけど、通って下さっている方が何人もいるみたいだし。この子、ちっとも自分から連絡を寄越さないんですよ? こっちに心配をかけまいって』

 

「密花さん! もう私もあの頃とは違うんですよ!? 何年前のお話ですか!」

 

『何時まで経っても貴女は私の子よ、夕莉。いつまでも可愛くて、生きていてほしいの』

 

こんな怒ったような感じの不来方さんは初めてですね。

それに対する黒澤さんの反応は優しいまま。信頼関係がうかがえます。

 

私も、お母さんともっと関わろうとしていれば。

 

『今の状況はともかく、夕莉がこうして元気に生活していられるのは皆さんのお陰。そのお礼を言いたかったんです。この子の親として、ありがとうございます』

 

「……とんでもないですよ、黒澤さん。夕莉君も既に穂織の一員で、我々も笑顔を頂いているんですから」

 

「彼女がいなければコーヒーを飲む機会が半分以下になっていますからね。眠気でサボってしまう時間が増えていそうです」

 

お父さんとみづはさんが笑って返します。

私たちからも、ですね。

 

「こちらこそ、不来方さんには本当にお世話になっています。今日の事など特に、不来方さんがいらっしゃらなければ……私たちは全員今ここに居ないかもしれません。まだお知り合いになれて日は浅いですが、たくさんご助力を頂いているばかりで。本当にありがとうございます」

 

「ワタシの守るべき主を守って頂きました」

 

「俺の妹分も助けてもらいました」

 

『吾輩も……使命を放棄する事なく今こうしてここに居る。こちらこそ感謝しておるぞ』

 

「あの、皆さん? 本人が目の前に居る場でそういったお話は控えて頂きたいんですが……」

 

だって、言いたい事がそういう事なんですから。

 

『ふふ。安心出来ました。これからも夕莉を宜しくお願いします。ああ、それから夕莉』

 

「はい?」

 

『フィルムの件。知っている人曰く新しくはもう作っていないそうなのだけど、残っているものはあるみたいだから集めて頂けるって。数日のうちにそちらに届くと思うわ。水無月(みなづき)さんという方からの荷物を受け取っておいて』

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

流石は不来方さんのお師匠様ですね。除霊フィルムの製造元をご存じだったとは。

 

「黒澤さん、御礼はいつか必ず」

 

『ならば穂織の温泉グルメツアーでも組んで頂きましょうか。明日からは蓮達を宜しくお願いします。それでは』

 

そう言って黒澤さんはお電話を切られました。優しい方でしたね。

 

「……いつまで密花さんは私を子供扱いするんでしょう」

 

「まあまあ夕莉君、親というのは何時になっても子が可愛いものだよ。黒澤さんが後見人という立場であっても同じさ」

 

不来方さんが拗ねられてる。無茶苦茶レアなのでは?

 

 

 

「そうは仰いますけど1()0()()()()()の話ですし、()()()()4()()()()()()()()()んですよ?」

 

『「「「「えっ?」」」」』

 

 

 

疑問の声を上げたのはお父さん以外、私たちの他みづはさんも。いや、だって。

 

不来方さんの見た目は20代前半ですよね? それで10年以上前……小学生か中学生くらい。

では黒澤さんは一体何歳の時に不来方さんの後見人に?

 

「……計算が合わない」

 

「同じく」

 

『世界の不思議だな』

 

同感です。




丁度この話を予約投稿した頃、密花さんの中の方の訃報が。ショックです……。
ご冥福をお祈り申し上げます。

次話でチャプター3は終了です。
ちょっとした知識の補填を行って次のお話に進みます。

次回も楽しんで頂けたら嬉しいです。

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