零 ~イヌツキの少女達~   作:もふもふたぬきねこ

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面子が増えたので、しばらく説明話が続きます。
文字数も増えてしまいました。冗長で申し訳ないです。分けた方が良かったのか。

「濡鴉ノ巫女」の単語がいくつか出てきます。
新しく出てきた用語は、後に話の中で解説していきます。


今回もよろしくお願いします。


20. 穂織と繋がる『日上山(ヒカミヤマ)

「この写真、ですか。確かに景色は古いですね。幸い位相はズレてると」

 

朝武家の居間にて。

お風呂は大きい朝武家ですが、居間は特別広いわけではありません。多分普通の和式の居間です。

 

その空間をムラサメ様含め現在10名で共有しています。流石に多い。

玄十郎さんと鞍馬君は先に志那都荘で待機される事に。今頃あちらは大騒ぎなのでは?

 

そして写真を見た雛咲深羽さん……この場では「宗方さん」とお呼びしたらいいでしょうか? の第一声です。特に怖がられるとかないんですね?

 

「蓮さん、どうですか?」

 

「たしかに俺が知っているマヨイガに近い雰囲気はある。だがこっちの方が時代はずっと古そうだ。文字の方は……流石に今のまま読むのは難しいな。パターンは挙げるがほぼ誤訳になるだろう。俺はこっちの専門家じゃない」

 

「我々は戦国時代のものだと予想しているのですが、いかがですか?」

 

「明治以前、武士の文字が主流だった頃には違いないと思いますが、崩し字は書き手によって相当に癖があります。正確に時代を推定するのは難しいでしょう」

 

「後で補正を掛けてみます。手持ちの機器でどうにかなるといいんですけどね」

 

「ああ」

 

今のままでは流石に読めなかったご様子。あと少しだけでも手振れが少なかったら……。

 

「綺麗にするのは気をつけた方が良いですよ。まともな写真になると、多分こっち側にも影響が出ます。特に鏡宮さんは乗っ取られやすいんですから」

 

「あはは……気をつけます」

 

宗方さんのご指摘。手振れしててよかった――乗っ取られやすいってなんです?

 

「こっちは放生さん達に任せるとして……じゃあ巫女さん達がこの写真を撮った時の事を伺ってもいいですか? 夕莉さんからざっくりは聞いていますけど、直接伺いたくて」

 

「はっはい!」

 

大女優と分かっている人から話を振られると、それだけで緊張します。

ただこの辺のお話をする前に、私たちの「本命」をお話しておくべきですよね。

 

「有地さん、憑代の欠片を持ってきていただけますか?」

 

「了解。叢雨丸も持ってこようか」

 

「そうですね、ムラサメ様の事も合わせてお話をさせていただくとしましょう」

 

『吾輩が目の前で宿れば、管理者だと認めてもらえるだろうか?』

 

「神具の管理者には碌な存在がいませんから……」

 

『おぉぅ……』

 

宗方さんのお母様に希望の道を塞がれてしまったムラサメ様。口から何か出そう。

 

「観光協会のHPやネットで一通り拝見はしましたけど、伝承のお話や「イヌツキの土地」の噂がある程度は事実という事でいいんですか? 夕莉さんが関わっている怨霊関係とは全く別口の」

 

「そうなります。伝承については脚色している部分もありますから、残念ながら「イヌツキの土地の噂」の方が正確かもしれません。表向きの歴史である「妖の女」伝説については一昔前の創作であると認識しています」

 

お父さんが宗方さんにそう解説したところで。

 

 

 

「まあ――巫女さんの頭から生えている()()を見たら疑うべくもないですか」

 

 

 

と……えっ!?

やっぱり思わず頭に手をやる。感触は何もない。

じゃあ、また不来方さんだけ見える「薄い状態」?

 

「不来方さん、見えますか?」

 

「いえ、私には見えていないです。深羽さんは今も見えているんですか?」

 

「分かりますよ。お母さんも見えてるよね?」

 

「ええ……元々そこに「耳」の枠があって、性質が表に出てくるとはっきりしてくるんだと」

 

おう……。

雛咲さん親子は不来方さんより霊感が更に上の方でしたか。

つまり4人の射影機の使い手のうち、不来方さんより強かったのはこのお2人なんですね。

 

「宗方さんからご覧になって、芳乃の耳はどういったものに見えますでしょうか?」

 

「「深羽」で結構ですよ。お母さんがいるから「雛咲」でもややこしいですし、芸名の方が表向きには問題なので」

 

そういって、私の頭――正確には見えているんだろう獣耳をご覧になって。

 

「これ……「生えて()()」っていうより最初から「生えて()()」んじゃないですか?」

 

というまさかのご発言。

え? じゃあ。

 

「私は……元々この耳を持って生まれてきたと?」

 

「多分ですけど「後付け」されている感じがしませんから。ケモミミ巫女か……流行るかな」

 

「いやでも、たしか芳乃様は耳が生えてくる時の感触があるんですよね?」

 

「え、ええ。茉子はよく知っているでしょうけど」

 

耳が生えてくる時は全身がムズムズしてきます。

有地さんには喘ぎ声なんて言われてしまいましたが。失礼な。

 

「その「犬神」? とか「祟り神」? の存在が「ありえないもの」とされている間は人の姿として上書きされているんじゃないのかなと。化け物側が力を増して「ありえるもの」になってくると、その耳も「ありえるもの」になってはっきりしてきてる気がしますね」

 

「実際そうなってはいますけど……それと私に獣耳が「元々ある」事とどう関係が?」

 

「今持ってきていただいている物を拝見したらハッキリするかもですね」

 

というと。

 

 

 

「お待たせしました――コレです」

 

 

 

有地さんが戻ってこられました。

持ってこられたのは鞘に納まった叢雨丸と。

 

「あ~、多分これですね……なにコレ? 何だかおかしな事になってる?」

 

憑代の欠片。1/8くらいは形になってきていますね。

ここから祟り神が出現している事はみづはさんが現認しています。

 

それを宗方……深羽さんは「おかしな事になっている」と仰いましたが……?

とにかく説明しましょう。

 

「先程の、犬神を端に発している「祟り神」の本体がコレなんだと私たちは睨んでいます。実際にこの欠片から祟り神が出現している事は、そちらのお医者様が目撃されていまして」

 

「ええ。私が調査のためにこの憑代を少々傷つけた時に祟り神が出現しまして。山中でしか発生しないのが通説でしたので大いに驚きました」

 

『吾輩達はこれこそが犬神の核であり、ぞんざいに扱われ砕かれた事で今もなお犬神が怒り狂っていると推測しておる。だから穢れを祓い、残ったこれを集めておるのだ。怒りを慰撫(いぶ)すべくな』

 

私とムラサメ様、みづはさんの話を聞きつつも、雛咲さん親子は憑代に目を向けたまま。

そして。

 

「戦国時代の朝武家の跡目争いに使った「動物霊の怨み(犬神の呪詛)」が祟り神とやらになっている、でよかったでしたっけ。で、これがその宿り元? なんで宿れてるんだろう」

 

「……多分少し違いますね。この欠片自体は元々神性を帯びていたものなのだと」

 

と、深羽さんと深紅さんからのお返事。

神性? たしかに見た目は綺麗な水晶的の欠片ですし、わからなくもないですが……。

何故憑代に出来ているかなんて考えた事もなかったですね。

 

「どういう事でしょう? これは犬神の核ではないと?」

 

「表現が難しいですね。動物霊や犬神に詳しくないので多分としか言えないんですけど、なんだかダブっているんですよ。この欠片自体はお母さんが言った通り、怨霊だとか呪われている感じがない真っ当で力のある物。その力を使う形で覆いかぶさっているものが……2つかな? どっちかが犬神か祟り神的なナニカなんでしょうね。核的なモノにはなっているんでしょうけれど、こっち自体も一つのナニカですよ」

 

『なんと……では犬神と祟り神が別物の可能性もあると? その説明だとこの欠片は純粋な犬神の核なのではなく、別の力に乗っ取られておるような感じなのか』

 

これは完全な新説ですね。完全に同一視してましたけど別物の可能性があるだなんて。

欠片と犬神の関係は……ちょっとわかりづらいでしょうか。

 

「ムラサメちゃん、解説してもらっていい?」

 

『……吾輩は元々「犬神」という存在をより強力に「現界」させるために力の籠った宝珠……まあ憑代じゃな。これに封じて使役され、砕かれた後にも呪詛が残って怒り狂った「祟り神」の形で現れておるのだと思っておった。単なる霊体より、「憑代」となる何かに宿っておる方が存在を維持しやすいからの』

 

「そうですね。それが私にとっての認識です」

 

多分ですけどムラサメ様もこのケースですよね。

 

『だがさっきの説明を聞く限り……憑代の力を使っておる事には違いないが、憑代自体もただの器ではなく一つの強力な意思ある存在。その力を「犬神」共が奪い合っておるのだ。「犬神」でも「祟り神」でもない「ナニカ」がおるという事になる』

 

「その「ナニカ」は別として……芳乃様の獣耳が現れるタイミングと、祟り神の出現が一致する事はどうなるんでしょうか? どうみても「犬」の耳ですよね?」

 

私の獣耳は武実乃山の「穢れ」が強くなると現れる。

今まで耳が生えた時に山に入って、祟り神に遭遇しなかったのは最初の幽霊出現の時だけ。

犬神と祟り神……穢れが別というお話だと、この関係性が希薄になりそうですけど。

 

「混じってしまっている、と」

 

「そうですね、理由はわかりませんけど。他のケースを知らないしなぁ。宿れているのもそういう事?」

 

答えは不来方さんが言ってくれました――「混じってしまっている」?

 

「夕莉君。それはどういう意味なんだい?」

 

「多分ですけど、各々の意思を持ちながら存在を共有している感じなんだと思います。とすると、普通の犬の怨念とは考えにくいので……「犬神と称されている存在」は単なる「イヌガミ(動物霊の呪詛)」とは違うのかもしれません」

 

今までも疑問がないわけではなかった――普通の犬の怨霊の呪詛が500年も残るものなのか。

その答えが……。

 

「何故朝武家と関わっているかのお話はありますけど、呪詛ではなく「極めて強い犬」の存在の力が表に出て来ていたのだとすれば、芳乃さんから犬の耳をお持ちな事にも説明がつくかもしれません」

 

『犬神が生まれた瞬間を見た者なぞ、生み出した張本人である朝武長男以外居らなんだろうが……どこかで歴史の記録がおかしくなってしまっておると? 芳乃に宿る穢れは単なる「犬神の呪詛」ではないのか』

 

「じゃあ……」

 

この獣耳は呪詛の証なんかじゃなくて、犬の神様的な存在の力の一端だったとでも?

だとしたら、なんでお母さんやおばあちゃんは……。

新情報が多すぎて頭が纏まらない。

 

 

 

「まあ推測混じりですから一旦置いておいて、刀のほうをお願いしていいですか?」

 

 

 

思考の渦に飲まれそうになりましたけど、話を変えて頂けました。ここは後で整理しましょう。

 

「あ、はい。ムラサメちゃん、いい?」

 

『うむ。吾輩が悪い霊ではないところを見せるとしようぞ!』

 

ムラサメ様はなんだかいつもより気合いが入っていますね。

有地さんが抜刀された叢雨丸にボウッっと淡い光が灯ります。

 

『……ど、どうじゃ?』

 

刀に宿られているのに、ちょっと心の機微がわかりますよ? ムラサメ様。

雛咲さん親子は叢雨丸をじっと見られて。

 

「……思っていたより強い、けど」

 

「変わってるね、射影機とは別物。御神鏡(ごしんきょう)ってこんな感じだったの? 使い手が要るせいかな?」

 

「近いかも。でもこれはまた別の……」

 

全く話についていけない。一応私、ここの巫女なんですよ?

 

「何かわかりましたか?」

 

「ああ、すみません。もう仕舞って頂いて大丈夫ですよ」

 

深羽さんからOKが出てムラサメ様が再び分離、有地さんも納刀されます。

そして深羽さんからムラサメ様に一言。

 

 

 

「あなた、神じゃなくて本来は単なる人柱なの? 様付けされているけど」

 

 

 

随分いきなりですね!? 「単なる人柱」ってすごいパワーワードじゃありません?

 

『そうだぞ。戦国の世より叢雨丸の神力を現世で振るえるよう、人柱となって神の力を叢雨丸に宿す橋渡しの役を担っておるのが吾輩だ。今でこそ守り神のように扱ってもらってはおるが、元はただの人間。そこは伝承の通りだ、神など畏れ多い』

 

「……この方も『柩籠(ひつぎかご)』で『永久花(とこしえばな)』に?」

 

「私達の知っている範囲じゃそうなるよねぇ。でも日上山(ひかみやま)じゃあるまいし……」

 

「日上山!?」

 

つい最近聞いたばかりのワードに思わず声が出てしまいました。

みんなの視線が集まってしまいます。

 

そして。

 

「芳乃……何故芳乃が日上山の事を?」

 

まさかのお父さんからの質問。しかもなんだか深刻そう。え、知ってると不味かった!?

取り敢えず説明しないと。

 

「昨日たまたまネットで「黄泉」だとかそういうのを勉強していて。そこのリンクに「日上山」があったから……」

 

「何やってるんですか、芳乃様。あまりあっちの事は考えないようにって、黒澤さんからもお言葉をもらったじゃありませんか」

 

「あとネットの知識を鵜吞みにしないようにね。朝武さんはその辺弱そうだから」

 

ネットの知識くらいなら大丈夫だと思ったんだもん!

有地さんは百科事典の情報に嘘が混じっているとでも仰るんですか!?

 

「……これも何かの縁なのか」

 

「そこはわかりませんが――芳乃さん」

 

今度は不来方さんから。

 

「日上山は……私が以前住んでいた所の傍にある山なんです。密花さんや蓮さん達は今もそこにお住まいで、私が深羽さん達と知り合ったのもそこでの事でして」

 

ああ、なんとなく想像していましたがやっぱりそういう事でしたか。

「水」に関する信仰を気にされていたのも。

 

「あそこはあまり調べようとしない方が良いですよ。前よりマシですけど、()()()()()()()()()みたいにフラフラと山に入っちゃいますから」

 

「うぅっ……」

 

「深羽さん()ですよね?」

 

「夕莉さん()、でしょ? 私はちゃんと理由ありきで、山自体には惹かれてないですから。(はこ)詰めにはされましたけど」

 

「君達全員だ。まったく、寝ていたと思ったらあっちへこっちへフラフラと……お化け屋敷で一人夜通し寝ずの番をする羽目になった身にもなってくれ。二度と御免だ」

 

「「「「すみません……」」」」

 

放生さんたちがこっちに来られました。写真の件は方針がついたんでしょうか。

そして不来方さんと深羽さんは何をされているんですか……鏡宮さんまで?

深紅さんなんてもっと深刻そうな顔されていますし。

 

「それで、こっちはどういう話に?」

 

「ええっと、芳乃さんの日上山発言の前ですから」

 

「そちらのムラサメさんの事です。多分ですけど……ムラサメさん」

 

『は、はい……?』

 

深紅さんから話しかけられて、ムラサメ様がものすごい緊張しておられます。

祓われるんじゃない? みたいな。

 

 

 

「まだ、お身体は生きていると思います」

 

『なあっ!?』

 

 

 

そしてビックリなお話――ムラサメ様が生きていらっしゃる!?

 

「ムラサメ様がご存命なのですか!?」

 

『わ、吾輩が、生きておるだと? 人柱になったのは500年前だし、その時点で既に死に体だったのだぞ?』

 

「あなた、完全な霊体じゃないもの。生きた身体から影に近い形で霊体を引っ張り出してきて、別の物から力の供給を受けて存在を維持しているんじゃない? 曖昧な存在だから、刀に常に宿る事なくある程度自由に動けているんでしょ。ある程度信仰があるせいか、神様っぽくなってるのがややこしいわよ。源はこっちか」

 

「だとして……それほどまでに長い間身体を維持する方法が?」

 

ミイラになっているならばまだ分かりますけど、生きているだなんてもう不老不死の領域です。

 

「穂織に日上山と同じような風習がない事は確認しましたが……?」

 

「そうですね。穂織は日上山()()直接関係がない可能性が高いです。が、夕莉さん達は武実乃山の向こう側に何があるかご存じなかったですか?」

 

鏡宮さんからのご質問。

武実乃山の向こう側? しばらく山地が続いていたかと思いましたが。

 

「向こう側の山――陽炎山(かぎろいやま)ですか」

 

答えはみづはさんが出されました。

 

かぎろいやま。周辺の山の名前なんて気にした事なかったですね。

不来方さんは驚き顔ですけど、深羽さんはなんだかげんなり顔ですね?

 

「ええ。その陽炎山と日上山には幕末まで関係性がありまして、似たような風習が維持されていたんです。俺の先祖が幼年期に陽炎山で過ごしていたという事もありまして、調べた事があります。そしてその風習の中に「不老不死」に関するものも含まれていました。まあ世間一般の欲のように「永遠に生きる」事を目的としていたわけではないのですがね」

 

「つまりはあっちと同じか……それがさっきお母さんが口にした「永久花(とこしえばな)」。で、アンタの場合は多分これが関わってる」

 

放生さんの説明を引き継がれた深羽さんが指さしたのは、祟り神の憑代の欠片。

ムラサメ様の呼ばれ方が「アンタ」になっちゃった……。

 

「アンタの力と、この欠片本来の力は多分結構近いのよ。コレっぽいなにかの力でその霊体と本体が維持されてるんじゃない? 正体までは分からないけど、ついでに犬神的なナニカとか祟り神がそれに巣くってるって所? 動物霊って人と比べてどうなんだろう」

 

『……なんと、そんな事が』

 

なんというか、全く考えていなかった事がどんどん出てきますね。

知識がある方が関わられると、これだけ予想が立てられるものなんですか。

 

「それでは……ワタシたちが行っている「憑代を集める」行為は控えた方が良いと?」

 

茉子からの質問。これを否定されてしまうと全く新しい解決法をまた考えないといけませんが。

 

「放置するべきではないでしょう。幼い頃ほど隠世の力が強く、大人になるに連れて人として(現世に)固定されてしまって呪詛に抵抗できなくなります――晩年の秋穂さんのように」

 

「えっ?」

 

不来方さんからまさかお母さんの名前が。しかもこの話は。

 

「不来方さんは……母の最期をご存じなんですか?」

 

「その時に居合わせたわけではありませんが、お会いした事はあるんです。耳が出たままになってしまうんですよね?」

 

「そうか。夕莉君は黒澤さんと一緒に少し秋穂様とお話をされていたね」

 

 

 

いつかこの獣耳はずっと出ずっぱりになってしまって。巫女姫はどんどん衰弱していく。

これが歴代の巫女姫共通の最期の姿。私も辿る可能性のある結末。

故にこの耳は呪詛の証、巫女姫が「犬憑き」である証明。

だから急いで血を継がせないといけない――巫女姫を失わない為に。

 

実際にこれを見て知っているのは私と茉子、ムラサメ様だけ。

お父さんとみづはさんですら最期の方以外お母さんから聞いた事しか知らない。

後は記録に残っているもののみ。

 

 

 

不来方さんはお母さんから直接耳について聞いている?

そういえば、初めてお会いした時にわざわざ。

 

「あの時、ワタシたちの活動と芳乃様の耳の関係をご確認されたのは……」

 

「秋穂さんから「体調が悪くなると耳が出る」とは聞いていたんです。ですが祟り神に関しては直接伺っていなくて。犬神の影響で犬耳が出るとは聞いていなかったので、確信がなかったんです。それで確認させてもらいました」

 

「完全に思い込んじゃってたな……犬神に呪われるとそうなるんだと思ってたよ」

 

『これは吾輩の落ち度だ。確かに秋穂達は犬神と化していたわけではなかったのだ。何故疑わなかった』

 

全然疑ってなかった。犬神の呪いだから犬の耳が出るんだと思ってた。それからして違う?

じゃあこれは、ますます何のための耳なの?

 

そして不来方さんだけでなくて、師匠の黒澤さんもお母さんに会っている?

お父さんの反応を見る限り、多分何かを黒澤さんに依頼されたんだと思うけど。

 

 

 

なんで。私や茉子、ムラサメ様まで不来方さんたちの事を全く知らなかったの?

 

 

 

「そうですか。だとすると、巫女さんの体質次第ではすぐにその呪詛とやらに飲まれる日が来ないとも限らないと。なら夕莉さんの言うように放置するよりは集めた方がマシっぽいですね。で、そのお仕事を現在邪魔しているのが突然現れ始めた原因不明の怨霊だと」

 

さっきまでの話を聞いていた深羽さんの判断も「集めて正解」。これだけでも良かった。

 

「そのご回答自体は僥倖でしたが……それでは憑代を集めると具体的にどうなるのでしょう?」

 

「今までの話だけなら憑代も、犬神も、祟り神の力も強くなるでしょう。危険性は高くなりますが正体も分かりやすくなる……そういえば夕莉、射影機は効かないのか?」

 

「試した事がないんです。見た限り「ありえないもの」には違いないので効くかもしれませんが……射影機については蓮さんの方が詳しいんじゃ?」

 

「先生は麻生(あそう)博士の子孫ではあっても、伝承関係以外はサッパリですよ? ()()()についても密花さんに鑑定をお願いしたくらいですからね」

 

そう言って、鏡宮さんがカバンから取り出されたのは。ああ、増えちゃった……。

 

「射影機が2台に……」

 

「あるところにはあるんですね……」

 

「これだと本当に穂織が買えちゃいそうだ。形が違うんですね?」

 

有地さんの言う通り、レンズの形が違う。

不来方さんのは一眼ですけど、これは二眼。なんのためにあるんでしょう?

というか、何でそんなに貴重品がポンポン出てくるんですか……。

 

『あそう博士……麻生……麻生、邦彦(くにひこ)? そうか、お主の顔は麻生邦彦(あそうくにひこ)に似ておるのか』

 

ムラサメ様は何か放生さんに似ていらっしゃる方を知っているご様子。麻生さん?

 

「あ~夕莉? 深羽さん? これは俺に話しかけられているのか?」

 

「そうですよ、「麻生博士にそっくり」って。ここでも女たらしを発揮するんですか? しかもまぁた幼女。私達に自覚はないですけど何股なんでしたっけ?」

 

「確か……七股? あの時はそれで私達も助かった節がありますけれど」

 

幽婚(ゆうこん)の機会が失われた方はどうされたんでしょう? 心が痛みます」

 

「先生もその……ムラサメ様? がお見えになるので? 私にはぼんやりした影だけなんですけど」

 

「薄っすらだな。表情とかまでは分からんし、声も靄がかかったようだが。深羽さんと夕莉の文句は麻生博士に言ってくれ、俺は知らん。深紅さんは無理を言わないでください……」

 

放生さんと鏡宮さんはムラサメ様をハッキリとは認識できないんですね。それでもすごいですが。

そして……七股?

 

「ムラサメちゃんのその、「麻生さん」って人は?」

 

『明治時代に射影機を持っておった者を見たと言ったろう? その持ち主だ。確か学者で穂織の伝承やら吾輩についても聞いておったな。なんだか妙な気配がした故、あまり近付かなんだのだが』

 

「麻生邦彦博士。「異界学者」として、当時の研究者の中でもかなりの異端とされていた方だね。麻生博士が射影機をお持ちだったとは知らなかったよ」

 

「当時の神主が対応をしたのかな? それなら台帳にも残っていそうだけど」

 

「持っていただけじゃなくて「作った本人」だそうですよ。で、経緯は知らないですけど最新のだったらしい射影機がウチ(雛咲家)にあったそうです。お母さんがぶっ壊したらしいですけどね」

 

「許して、深羽。いたずらに壊したわけじゃないの」

 

射影機を、しかも最新型を、壊した……なんだか息が荒くなりそう。

その麻生さん――放生さんのご先祖の方が射影機をお作りになったご本人ですか。お世話になっております。

 

「はぁ、話を戻すぞ。仮に射影機が祟り神やらに効果があるのであれば、憑代を集めた時でも対処が可能かもしれません。ここには雛咲さん親子もいますからね」

 

「いつから私達は神職の真似事を? 別にいいですけど」

 

「多分さんじゅ「だから真面目にそういう解説しなくていいから」はい……、それと一応こちらも持ってきました。お役に立つかと」

 

深紅さんは何を言いかけたんでしょう? 三十代の頃の話とか?

そしてカバンから取り出されたのは。

 

「……よくストックがありましたね」

 

「当時、昔の射影機と一緒に保管してあっただけですから。残り物です」

 

除霊フィルム。これは助かりますね、種類も多い。

〇七、一四、六一、九〇。これは不来方さんもお持ちでしたね、九〇式は特にうれしい。

それと三七に、七四に……?

 

(ゼロ)?」

 

フィルムの切り替えの時に一瞬見えたやつだ。そういうフィルムの名前だったんですか。

 

「かなり特殊な加工をしてあるものだと聞いています。ここに入っているのも一枚分だけです」

 

「一番強力なやつだと思いますよ。ちょっと使いにくいんですけど。日上山で何枚分か拾った気がするんだけどなぁ……お母さんが射影機壊した所にはあったりしないの? 久世(くぜ)屋敷? 氷室(ひむろ)邸の方だっけ」

 

「もうあそこには行けないの。ごめんなさい、深羽」

 

「謝らなくてもいいの。無いなら無いでいいから」

 

これは九〇式を超える正真正銘の切り札になりそうですね。私には怖くて使えない。

後は黒澤さんから伺ったフィルムが到着すれば、2台運用でもなんとかなりそうです。

 

「ではこっちの射影機は俺が。そっちの射影機は……夕莉、いいか? この2台で祟り神とやらに通用するか一度確認をしてみましょう。ある程度動きを止める事は?」

 

「お任せください。一体だけの相手であればワタシが止める分には慣れておりますので」

 

「危険な状況をお願いしてしまい申し訳ありませんが……宜しくお願い致します」

 

お父さんが放生さんと不来方さんに頭を下げる。

そうよね。わざわざ私たちの為に遠くから来てくださって、しかも危険な場所にまで。

 

「よろしくお願いします」

 

「祟り神相手なら俺も戦えますから」

 

『うむ、そのための叢雨丸だからな』

 

 

 

「ソレなんだけど……放生さん。そっちの射影機、先に私に貸してもらっていいですか? 直接見た方が早そうなので」

 

 

 

そのまま話が纏まるかと思ったら、深羽さんからまさかのご提案。

他人事の筈なのに、進んで危険に足を踏み入れられる度胸がすごい。

今思ったんですけど――大女優である深羽さんを怪我させようものならどうなるんでしょう?

 

「俺個人は構わないが……」

 

「深羽、危ない真似は」

 

「大丈夫、夕莉さんもいるし。それにお母さんが行くかもしれないのは心配なの」

 

深羽さん、お母さん想いなんですね。危ない真似はさせたくないというのは分かります。

 

「だってお母さんがやると――跡形もなく吹っ飛ばすでしょ? 調整効かないんだもの。結局何もわからなくなりそう」

 

そっち!?




長くなりました。考察の回答は追々。

深紅はちょっとポンコツ化しています。彼女の経緯も後ほど。
深羽はあの一件以来それなりに社交的になりました。但し敵対者には極めて厳しいです。
基本スペックは夕莉の上位互換になります。
蓮、累はほぼ変わっていません。

この辺りから原作との設定背景に差が出てきます。

次回も楽しんで頂けたら嬉しいです。
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